霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一三章 神女(しんぢよ)出現(しゆつげん)〔五八〇〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第15巻 如意宝珠 寅の巻 篇:第3篇 神山霊水 よみ:しんざんれいすい
章:第13章 第15巻 よみ:しんじょしゅつげん 通し章番号:580
口述日:1922(大正11)年04月03日(旧03月07日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1922(大正11)年12月5日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
神素盞嗚大神は、天の岩戸の変の責任を一身に負って、世界漂泊の旅に出た。神素盞嗚大神は、神代における武勇絶倫の英雄である。山に囲まれた西蔵の国にお出でになった。
鬼掴はその昔、ペテロの都に現れた道貴彦の弟で、高国別の後身である。何度か生まれ変わった後、神命により地教山で神素盞嗚大神の登山を邪魔したが、実は大神を助けようと待ち望んでいたのである。
二人は雪深いラサフの都で一夜の宿を取ろうと一軒の藁屋を叩いた。この家の者によると、神素盞嗚大神がお隠れになって以来、邪神がはびこり、そのため国人のうちで心あるものは、茶断ち・塩断ちをして大神の再臨を待ち望んでいるのだ、という。
二人は夜中に人声で目を覚ました。神素盞嗚大神は、高国別に様子を探ってくるように命じた。高国別が忍び足で声のする方に行くと、大勢の男女が野原で祈願をしている。そして一人の幣を持った男について、丘に向かって走っていく。
高国別は一同の後を追っていくと、不思議にも皆、姿を消してしまった。高国別が丘の上に行くと、一人の娘がもろ手を組んでうつむいている。
高国別は娘に声をかけるが、返事がない。やにわに娘は高国別に紐をかけると、背負って走り出した。しかししばらくして倒れてしまった。高国別は凄んで、娘に訳を聞こうとするが、娘は高国別の素性や神素盞嗚大神のことを知っている風である。
高国別はてっきり邪神の化身と思って娘を問いただすが、娘ははぐらかした答えしかしない。高国別は娘の頭がおかしいと思って去ろうとするが、娘はまたしても紐で高国別を引っ掛け戻し、おかしな問答を続ける。
高国別は消えた村人たちの後を追ってその場を去ろうとすると、たちまち地が凹み、地の底に落ち込んでしまった。
主な登場人物: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日: OBC :rm1513
愛善世界社版:154頁 八幡書店版:第3輯 337頁 修補版: 校定版:154頁 普及版:69頁 初版: ページ備考:
001神素盞嗚(かむすさのを)大神(おほかみ)
002(あま)岩戸(いはと)(へん)()
003百千万(ももちよろづ)(つみ)(とが)
004(その)()(ひと)つに引受(ひきう)けて
005千座(ちくら)置戸(おきど)艱難(かんなん)辛苦(しんく)
006(かみ)御運(みうん)葦原(あしはら)
007瑞穂(みづほ)(くに)此処彼処(ここかしこ)
008(さすら)ひの(たび)出立(いでた)(たま)ひしより
009(いま)まで(かげ)(ひそ)めたる
010八岐大蛇(やまたをろち)金毛九尾(きんまうきうび)
011(しこ)曲鬼(まがおに)遠近(をちこち)
012(また)もや(かしら)(もた)げつつ
013(この)()(みだ)すウラル(けう)
014バラモン(けう)やウラナイの
015(をしへ)(みち)人々(ひとびと)
016(にく)宮居(みやゐ)宿(やど)となし
017以前(いぜん)(まさ)悪逆無道(あくぎやくぶだう)
018世人(よびと)(こころ)(ことごと)
019ねぢけ(まが)りて一柱(ひとはしら)
020(まこと)(まも)(もの)()
021()()(つき)(くも)()
022遠近(をちこち)(やま)伊保理(いほり)(かは)()
023伊猛(いたけ)(くる)曲神(まがかみ)
024(こゑ)(あらし)(いかづち)
025(たと)ふる(よし)地震(なゐふる)
026一時(いちじ)(とどろ)(さわ)がしさ
027山川(やまかは)どよみ草木(くさき)()
028非時(ときじく)(あめ)()(しき)
029(かぜ)(あら)らぎて(いへ)(たふ)
030木々(きぎ)(こづゑ)()()られ
031()()(やぶ)れて(のこぎり)
032()()(ごと)くなりにけり。
033 神素盞嗚(かむすさのを)大神(おほかみ)は、034神代(かみよ)()ける武勇絶倫(ぶゆうぜつりん)英勇(えいゆう)にして、035仁慈(じんじ)権化(ごんげ)とも(たた)ふべき、036瑞霊(みづのみたま)雄々(をを)しき姿(すがた)037(うるし)(ごと)黒髪(くろかみ)(なが)背後(はいご)()(たま)ひ、038秩序(ちつじよ)整然(せいぜん)たる鼻下(びか)八字鬚(はちじひげ)039下頤(したあご)御鬚(おんひげ)は、040瑠璃光(るりくわう)(ごと)(うるは)しく、041(なが)胸先(むなさき)()(たま)ひ、042(あめ)(よく)(かぜ)(くしけづ)り、043(やま)(やま)とに(かこ)まれし、044西蔵国(チベツトこく)()(たま)ふ。
045 地教山(ちけうざん)(あら)はれて、046一度(いちど)(みこと)登山(とざん)(ふさ)(まつ)りし鬼掴(おにつかみ)は、047(むかし)ペテロの(みやこ)()りて、048道貴彦(みちたかひこ)(おとうと)(うま)れたる高国別(たかくにわけ)後身(こうしん)049幾度(いくたび)顕幽(けんいう)二界(にかい)出没(しゆつぼつ)し、050(また)身魂(みたま)神界(しんかい)の、051高天原(たかあまはら)(あら)はれて、052(あま)岩戸(いはと)大変(たいへん)差加(さしくは)はりし(がう)(もの)053神素盞嗚(かむすさのを)大神(おほかみ)の、054(きよ)御心(みこころ)()しはかり、055義侠(ぎけふ)()める逸男(はやりを)の、056いかで(この)(まま)()ごすべき、057天教山(てんけうざん)()しませる、058皇大神(すめおほかみ)御言(みこと)もて、059地教(ちけう)(やま)()(むか)ひ、060一度(いちど)神命(しんめい)もだし(がた)く、061(みづ)(みたま)大神(おほかみ)に、062刃向(はむか)ひまつり、063(みこと)登山(とざん)(なや)まさむとしたりしが、064(こころ)(おく)裏表(うらおもて)065神素盞嗚(かむすさのを)大神(おほかみ)を、066(こころ)(かぎ)()(かぎ)り、067(たす)(まつ)らむものをとて、068地教(ちけう)(やま)()れとなく、069(みこと)(のぼ)()ませるを、070(いま)(いま)かと()()たる、071(その)御心(みこころ)(たふと)けれ。
072 神素盞嗚(かむすさのを)大神(おほかみ)は、073高国別(たかくにわけ)(とも)なひて、074地教(ちけう)(やま)(あと)にして、075青垣山(あをがきやま)(めぐ)らせる、076豊葦原(とよあしはら)秘密国(ひみつくに)077(こがらし)(すさ)(ゆき)(ふか)き、078ラサフの(みやこ)差掛(さしかか)る、079()かる(ためし)(むかし)より、080まだ荒風(あらかぜ)のすさぶ()を、081(かみ)(ちから)(まこと)(つゑ)に、082(こころ)(こま)(いなな)きに、083(いさ)(すす)んで()でて()く。084一天(いつてん)(にはか)()(くも)り、085灰色(はいいろ)(そら)ドンヨリと、086(つつ)(をり)しも()(きた)る、087(はげ)しき(ゆき)二柱(ふたはしら)088とある藁屋(わらや)()()みて、089一夜(いちや)宿(やど)()(たま)ふ。
090 素盞嗚尊(すさのをのみこと)門口(かどぐち)()ち、091(こゑ)(しづか)に、
092吾々(われわれ)(さすら)ひの(たび)(いた)二人連(ふたりづれ)093(ゆき)(とざ)され()暮果(くれは)て、094行手(ゆくて)(こま)り、095困難(こんなん)(いた)(もの)何卒(なにとぞ)慈悲(じひ)一夜(いちや)宿(やど)(ゆる)せかし』
096(おとな)(たま)へば、
097『アイ』
098(こた)へて一人(ひとり)浦若(うらわか)(むすめ)099門口(かどぐち)()(あら)はれ、
100『これはこれは(たび)のお(かた)(さま)101さぞ(ゆき)にお(こま)りで御座(ござ)いましたでせう。102みすぼらしい茅屋(あばらや)なれど、103(おく)には相当(さうたう)(ひろ)居室(ゐま)御座(ござ)いますれば、104どうぞ御寛(ごゆる)りと御休息(ごきうそく)(ねが)ひます』
105 (みこと)は、
106『アヽ世界(せかい)(おに)はないもの……()れは千万(せんばん)(かたじけ)ない、107御言葉(おことば)にあまえ、108今晩(こんばん)はお世話(せわ)になりませう』
109『どうぞ、110そうなさつて(くだ)さいませ、111(おく)御案内(ごあんない)(いた)しませう』
112(むすめ)(しと)やかに、113足許(あしもと)(やさ)しく(おく)一室(ひとま)二人(ふたり)(みちび)()く。114二人(ふたり)(むすめ)案内(あんない)()れ、115(おく)一室(ひとま)囲炉裡(ゐろり)(まへ)安坐(あんざ)して、116()をあぶりつつ、117ヒソヒソと(はなし)(ふけ)(たま)ふ。118(この)(とき)主人(しゆじん)らしき(をとこ)揉手(もみて)をし(なが)(この)()(あら)はれ、119二人(ふたり)(むか)つて叮嚀(ていねい)会釈(ゑしやく)し、
120『これはこれは(たび)御方様(おかたさま)121()くも(この)茅屋(あばらや)御逗留(ごとうりう)(くだ)さいました。122何分(なにぶん)焚物(たきもの)不自由(ふじゆう)(ところ)にて、123(さぞ)(こま)りで御座(ござ)いませう』
124()(なが)ら、125黎牛(やく)(ふん)(かわ)きたるを(かご)()りて、126囲炉裡(ゐろり)()べ、127(しつ)(あたた)めるのであつた。128(この)地方(ちはう)四面(しめん)高山(かうざん)(つつ)まれたる、129世界(せかい)秘密国(ひみつこく)にして、130交通(かうつう)不便(ふべん)土地(とち)なれば、131他国人(たこくじん)入国(にふこく)(ゆる)さざる(ところ)である。132されど高天原(たかあまはら)大事変(だいじへん)より、133人心(じんしん)(おほい)軟化(なんくわ)し、134(やや)世界(せかい)同胞(どうはう)主義(しゆぎ)(かたむ)きたる折柄(をりから)なれば、135他国人(たこくじん)()(きた)るを、136(いま)反対(はんたい)歓迎(くわんげい)し、137物珍(ものめづ)らしがりて、138部落(ぶらく)老若男女(らうにやくなんによ)(さき)(あらそ)(たづ)(きた)り、139面白(おもしろ)(はなし)聴聞(ちやうもん)せむとするのである。140平素(へいそ)燃料(ねんれう)麦藁(むぎわら)(また)黎牛(やく)(ふん)(かわ)かせて(もち)ゐ、141(むぎ)()りて粉末(こな)とし、142食料(しよくれう)として()る。143一時(ひととき)()るれば、144一時(ひととき)(ゆき)(あられ)()(きた)り、145天候(てんこう)(つね)(さだ)まらざる土地(とち)である。146世界(せかい)()ける大高地(だいかうち)なれば、147穀物(こくもつ)(あま)豊熟(ほうじゆく)ならず、148豊作(ほうさく)(とし)(いへど)も、149(たと)へば五升(ごしよう)麦種(むぎだね)()いて、150一斗(いつと)収穫(しうくわく)()れば、151(これ)(もつ)豊作(ほうさく)となす(くらゐ)(ところ)である。152この()主人(あるじ)()はカナンと()ふ。153カナンは炒麦(いりむぎ)()()(わん)()り、154(ちや)()かせ()(きた)両手(りやうて)をつき、
155『お二人(ふたり)のお(かた)156御存(ごぞん)じの(とほ)不便(ふべん)土地(とち)157他国(たこく)(かた)差上(さしあ)ぐる(やう)(もの)御座(ござ)いませぬが、158()れが吾々(われわれ)(くに)にては、159最良(さいりやう)馳走(ちそう)御座(ござ)いますれば、160ゆるゆる()しあがり(くだ)さいませ』
161()()てて一室(ひとま)姿(すがた)(かく)したり。162二人(ふたり)(むぎ)炒粉(いりこ)(ちや)(そそ)ぎ、163(さじ)もて()(なが)食事(しよくじ)せる最中(さいちう)に、164五人(ごにん)(うつく)しき(むすめ)この()立現(たちあら)はれ、165叮嚀(ていねい)両手(りやうて)をついて辞儀(じぎ)をなし、166一度(いちど)()つて(うた)(うた)(かつ)()ひ、167二人(ふたり)(たび)(つか)れを(なぐさ)めむと(つと)むる様子(やうす)なり。
168『ヤア各方(おのおのがた)169(おそ)がけに(まゐ)り、170御邪魔(おじやま)(いた)した(うへ)171結構(けつこう)馳走(ちそう)(あづか)り、172(じつ)満足(まんぞく)(いた)りである。173汝等(なんぢら)(この)()(むすめ)なりや』
174言葉(ことば)(をは)らざるに、175年長(としかさ)(むすめ)
176『ハイ(わたし)(この)()主人(あるじ)カナンの(つま)御座(ござ)います。177此処(ここ)()りまする(をんな)は、178(みな)(わたし)姉妹(きやうだい)(いづ)れもカナンの(つま)となつて(たの)しき月日(つきひ)(おく)(もの)179(しか)(なが)高天原(たかあまはら)より神素盞嗚(かむすさのを)大神様(おほかみさま)180千座(ちくら)置戸(おきど)()はせ(たま)ひ、181何処(いづく)ともなく()()(たま)ひしより、182今迄(いままで)平穏(へいおん)無事(ぶじ)なりし(この)秘密郷(ひみつきやう)に、183ウラナイ(けう)魔神(まがみ)侵入(しんにふ)(きた)り、184古来(こらい)風俗(ふうぞく)攪乱(かくらん)し、185人心(じんしん)恟々(きようきよう)として(やす)(こころ)()折柄(をりから)186(また)もやバラモン(けう)邪神(じやしん)187(うしほ)(ごと)押寄(おしよ)(きた)り、188(いま)国内(こくない)(あたか)修羅(しゆら)(ちまた)惨状(さんじやう)御座(ござ)います。189神素盞嗚(かむすさのを)大神(おほかみ)(この)大地(だいち)御主宰(おんつかさ)(あら)はれましたる()は、190(この)秘密郷(ひみつきやう)(じつ)天国(てんごく)楽土(らくど)(やう)なもので御座(ござ)いましたが、191大神様(おほかみさま)がお(かく)以来(いらい)()ふものは、192(にはか)国外(こくぐわい)より諸々(もろもろ)悪神(あくがみ)()(きた)つて、193種々(しゆじゆ)変異(へんい)をなし、194(この)(まま)放任(はうにん)せば、195(たちま)地獄道(ぢごくだう)現出(げんしゆつ)するやも(はか)(がた)しと、196国人(くにびと)(こころ)ある(もの)は、197(ふたた)大神(おほかみ)出現(しゆつげん)(こひねが)ひ、198(ちや)()(しほ)()()(もの)()ちを(いた)し、199(てん)祈願(きぐわん)()めて()ります。200夫故(それゆゑ)ここ一月(ひとつき)(ばか)りは、201吾々(われわれ)(すべ)ての飲食(いんしよく)()ち、202日夜(にちや)祈願(きぐわん)()らし、203善根(ぜんこん)(はげ)()りまする(やう)次第(しだい)204御相手(おあひて)(つかまつ)らず、205御無礼(ごぶれい)(だん)は、206右様(みぎやう)次第(しだい)なれば、207(なに)とぞ(あし)からず御見直(おんみなほ)して(くだ)さいませ、208一同(いちどう)姉妹(きやうだい)(かは)りて御願(おねが)(いた)します』
209 素盞嗚尊(すさのをのみこと)双手(もろて)()み、210両眼(りやうがん)より(なみだ)をホロホロと(おと)し、211黙然(もくねん)として吐息(といき)をつき(たま)ふ。
212高国別(たかくにわけ)『アヽ(じつ)感心(かんしん)だ、213有難(ありがた)有難(ありがた)い。214汝等(なんぢら)国人(くにびと)憧憬(どうけい)する、215神素盞嗚(かむすさのを)大神様(おほかみさま)は、216(すなは)此処(ここ)に……(いな)……やがて(この)(くに)御降臨(ごかうりん)(あそ)ばして、217汝等(なんぢら)(のぞ)みを(かな)へさして(くだ)さるであらう、218(かなら)心配(しんぱい)されなよ』
219(わたし)はカナンの(つま)カエンと(まを)(もの)220どうぞ(よろ)しくお(ねが)(いた)します。221十日(とをか)二十日(はつか)も、222百日(ひやくにち)も、223(なが)御逗留(ごとうりう)(ねが)ひます。224何分(なにぶん)(この)(くに)食物(しよくもつ)()れない(くに)御座(ござ)いまするから、225(いへ)増加(ふや)(こと)出来(でき)ませぬので、226(この)(とほ)一戸(いつこ)(うち)家内(かない)沢山(たくさん)()るので御座(ござ)います。227(わが)(をつと)(わたし)(あに)御座(ござ)います』
228高国別(たかくにわけ)『さうすると、229(この)(くに)一夫多妻(いつぷたさい)主義(しゆぎ)だな』
230『ハイハイ、231()むを()ず、232(わたし)家庭(かてい)一夫多妻(いつぷたさい)233(いへ)()りては多夫一妻(たふいつさい)(ところ)御座(ござ)います』
234高国別(たかくにわけ)『ハテナア、235モルモン(しう)(やう)だワイ』
236『ホヽヽヽヽ……()(はや)深更(しんかう)(およ)びました、237どうぞ御寛(ごゆる)りと御就寝(おやす)(くだ)さいませ』
238五人(ごにん)一度(いちど)挨拶(あいさつ)をし(なが)ら、239(つぎ)()姿(すがた)(かく)したり。
240(みこと)高国別(たかくにわけ)殿(どの)241今晩(こんばん)はゆるりと(やす)まして(もら)はうかい』
242高国別(たかくにわけ)有難(ありがた)御座(ござ)います』
243(かたはら)物入(ものいれ)より(けだもの)(かは)()()し、244()れを()き、245幾枚(いくまい)幾枚(いくまい)(かさ)ねて、246二人(ふたり)安々(やすやす)(しん)()(たま)ひける。
247 (この)(くに)風俗(ふうぞく)は、248戸数(こすう)増加(ふや)(こと)(たがひ)(いまし)めて()る。249(たと)へば六人(ろくにん)兄弟(きやうだい)があつて、250(その)(うち)一人(ひとり)(をとこ)であれば、251(この)(をとこ)(をつと)とし、252(けつ)して他家(たけ)縁付(えんづき)はせないのである。253(また)一戸(いつこ)(うち)五人(ごにん)(をとこ)があり、254一人(ひとり)(むすめ)出来(でき)(とき)は、255五人(ごにん)(をつと)一人(ひとり)(つま)といふ不文律(ふぶんりつ)(おこな)はれて()る。256()(ゆゑ)男子(だんし)(ばか)(うま)れたる(とき)257(あるひ)女子(ぢよし)(ばか)(うま)れたる(とき)は、258(この)(いへ)血統(けつとう)()えて(しま)ふといふ不便(ふべん)があるのである。259(ここ)素盞嗚尊(すさのをのみこと)は、260(この)惨状(さんじやう)()るに(しの)びず、261他家(たけ)縁組(えんぐみ)をすることを(ゆる)された。262()れより素盞嗚神(すさのをのかみ)縁結(えんむす)びの(かみ)賞讃(たた)へ、263(この)(くに)にてはイドムの(かみ)として、264国人(くにびと)尊敬(そんけい)する(やう)になつた。
265 素盞嗚尊(すさのをのみこと)は、266男女(だんぢよ)(ささや)(ごゑ)にフト()()まし、267(みみ)(すま)して()(たま)へば、268何事(なにごと)(いの)りの(こゑ)である。269(みこと)高国別(たかくにわけ)(かた)をゆすり(なが)ら、
270(みこと)『ヤア高国別(たかくにわけ)271()(さま)されよ。272(なん)だか(あや)しき(ひと)(いの)(ごゑ)
273言葉(ことば)(をは)らぬに、274高国別(たかくにわけ)はパツと跳起(はねお)き、
275如何(いか)にも大勢(おほぜい)(こゑ)御座(ござ)います。276最前(さいぜん)(この)()女房(にようばう)カエンとやらの(はなし)に、277(ちや)()ち、278(しほ)()ちを(いた)し、279素盞嗚尊(すさのをのみこと)再出現(さいしゆつげん)(いの)つて()るとか()きましたが、280大方(おほかた)ソンナ(こと)ではありますまいか』
281(みこと)(われ)(この)()(おい)休息(きうそく)(いた)()れば、282(なんぢ)はこれより(こと)実否(じつぴ)調(しら)(きた)れよ』
283高国別(たかくにわけ)承知(しようち)(いた)しました』
284(この)()()つて、285(しの)(あし)(こゑ)する(かた)(すす)()く。286()れば数十(すうじふ)男女(だんぢよ)287真裸(まつぱだか)(まま)288庭前(ていぜん)野原(のはら)両手(りやうて)(あは)蹲踞(しやが)(なが)ら、289(ちから)なき(こゑ)振絞(ふりしぼ)り、290何事(なにごと)一心不乱(いつしんふらん)祈願(きぐわん)をこめ、291やがて一人(ひとり)(をとこ)292大麻(おほぬさ)打振(うちふ)(なが)神懸(かむがかり)状態(じやうたい)となつて、293驀地(まつしぐら)西北(せいほく)()して()()したり。294数多(あまた)男女(だんぢよ)はわれ(おく)れじと一生懸命(いつしやうけんめい)追跡(つゐせき)する。295されど(なが)らくの断食(だんじき)身体(しんたい)(よわ)り、296()けつ(まろ)びつ(その)(あと)()()く。297高国別(たかくにわけ)はその状況(じやうきやう)(またた)きもせず打眺(うちなが)めて()たが、298()らず()らず自分(じぶん)(あゆ)()し、299()きずらるる(ごと)心地(ここち)して、300大勢(おほぜい)(あと)(しの)(しの)(したが)()く。301(はるか)前方(ぜんぱう)(あた)りて枯芝(かれしば)()りたる(ごと)(ちい)さき饅頭形(まんじうがた)(をか)()えて()る。302(ぬさ)()りつつ(さき)(すす)んだ(をとこ)小丘(こをか)(うへ)()()ち、303何事(なにごと)(さけ)(なが)ら、304(ぬさ)前後左右(ぜんごさいう)打振(うちふ)打振(うちふ)狂気(きやうき)(ごと)(をど)(まは)り、305()びあがり(はね)まはり、306キヤツ キヤツと(あや)しき(こゑ)()てて()る。307数十人(すうじふにん)老若男女(らうにやくなんによ)(おな)じく小丘(こをか)(うへ)()けあがり、308これ(また)(さき)(をとこ)同様(どうやう)(をど)りまはり跳廻(はねまは)る。309高国別(たかくにわけ)原野(げんや)(くさ)()(かく)し、310(その)(あや)しき祈祷(きたう)(いき)(ころ)して()つめて()た。311(しばら)くあつて(ぬさ)()つた(をとこ)は、312小丘(こをか)彼方(あなた)(たちま)姿(すがた)(かく)した。313(つづ)いて数多(あまた)男女(だんぢよ)一人(ひとり)()二人(ふたり)()り、314三人(さんにん)315五人(ごにん)(かず)(げん)じ、316(つひ)には唯一人(ただひとり)(うるは)しき(をんな)(のこ)して、317(のこ)らず姿(すがた)(ぼつ)して(しま)つた。
318高国別(たかくにわけ)『ハテ、319不思議(ふしぎ)(こと)があればあるものだ。320あれ(だけ)大勢(おほぜい)老若男女(らうにやくなんによ)が、321何処(どこ)()つたか、322見渡(みわた)(かぎ)()(さへぎ)(もの)なき(この)広原(くわうげん)に、323(けぶり)(ごと)()()せるとは合点(がてん)()かぬことだ。324まさか大地(だいち)吸収(きふしう)されて粉末(こな)になつたのでもあるまい』
325(ひとり)ごち(なが)ら、326前後左右(ぜんごさいう)(こころ)(くば)り、327一足々々(ひとあしひとあし)(すす)()く。328一人(ひとり)(むすめ)小丘(こをか)(うへ)双手(もろて)()み、329(やや)伏目勝(ふしめがち)無言(むごん)(まま)(うつ)むいて()る。330高国別(たかくにわけ)はつかつかと(すす)み、
331(いづ)れの女中(ぢよちう)()りませぬが、332先程(さきほど)物蔭(ものかげ)にて(うかが)へば、333幣束(へいそく)()てる(をとこ)(あと)より数十人(すうじふにん)男女(だんぢよ)334(この)小丘(こをか)()がけて()(のぼ)り、335前後左右(ぜんごさいう)(をど)(くる)ふよと()()に、336(たちま)姿(すがた)()()せて(しま)つた。337あなたは(その)(うち)一人(ひとり)らしく(おも)はるるが如何(いか)なる次第(しだい)なるか、338詳細(しやうさい)に………お(かま)ひなくば物語(ものがた)られたし。339(われ)天下(てんか)(すく)(かみ)使(つかい)………』
340()ひかけたるに、341(をんな)(その)(こゑ)(おどろ)いて高国別(たかくにわけ)(かほ)打見守(うちみまも)り、342(くび)左右(さいう)()つて(なん)応答(いらへ)もせざりける。343高国別(たかくにわけ)()むを()ず、344(みづか)小丘(こをか)()(のぼ)り、345附近(あたり)一々(いちいち)点検(てんけん)すれ(ども)346(べつ)(あな)らしきものもなければ、347(ひと)(たふ)れたる姿(すがた)()えぬ。348(むし)(こゑ)さへ(きこ)えない。349高国別(たかくにわけ)は、
350『ハテ(いぶ)かしや』
351丘上(きうじやう)どつか()し、352双手(もろて)()んで思案(しあん)()()たり。353(この)(とき)354以前(いぜん)(をんな)は、355突然(とつぜん)高国別(たかくにわけ)(くび)細紐(ほそひも)をひつかけ、356背中(せなか)(あは)せに()(なが)ら、357トントントンと(もと)()(みち)(はし)()す。358高国別(たかくにわけ)(のど)()められ、359(いき)()()えに、360手足(てあし)藻掻(もが)きつつ()はれて()く。361(だい)(をとこ)命懸(いのちがけ)大藻掻(おほもが)きに屁古垂(へこた)れたと()え、362(をんな)一二丁(いちにちやう)()たと(おも)(とき)363(いし)(つまづ)き、364(もろ)くも(その)()(たふ)れた。365途端(とたん)(をんな)細紐(ほそひも)(はな)す、366高国別(たかくにわけ)はヒラリと身返(みかへ)りし起上(おきあが)り、367(をんな)素首(そつくび)をグツと(にぎ)つて、
368『コラ(なんぢ)大胆不敵(だいたんふてき)曲者(くせもの)369容赦(ようしや)はならぬぞ』
370蠑螺(さざえ)(ごと)拳骨(げんこつ)(かた)めて、371(ほね)(くだ)けよと(ばか)り、372打下(うちおろ)ろさむとする形勢(けいせい)(しめ)す。373(しか)高国別(たかくにわけ)(こころ)(なか)は、374(けつ)して(この)孱弱(かよわ)(をんな)打擲(ちやうちやく)する(こころ)は、375毫末(がうまつ)もなかつた。376(ただ)(いきほひ)(しめ)して事実(じじつ)白状(はくじやう)せしめむ策略(さくりやく)であつた。
377 (をんな)は、
378『ホヽヽヽヽ、379あのマア(おそ)ろしいお(かほ)わいなア。380ソンナ(こわ)(かほ)をなされますと、381(この)西蔵(チベツト)(くに)女房(にようばう)になる(もの)御座(ござ)いませぬよ。382あのマアおむつかしい(かほ)……ホヽヽヽ』
383『アハヽヽヽ、384ナント大胆(だいたん)至極(しごく)(をんな)もあればあるものだなア』
385『オホヽヽヽヽ、386何程(なにほど)(こわ)(かほ)をなさつて、387(こぶし)(かた)め、388(わたし)()(やう)形勢(けいせい)をお(しめ)しになつても、389あなたの(はら)(なか)はさうではありますまい。390(なに)()うても、391一方(いつぱう)孱弱(かよわ)(をんな)一方(いつぱう)(おに)をも(ひし)荒男(あらをとこ)英雄(えいゆう)豪傑(がうけつ)392どうして繊弱(かよわ)(をんな)が、393………馬鹿(ばか)らしくも打擲(ちやうちやく)出来(でき)ませう』
394とニタリと、395高国別(たかくにわけ)(かほ)(うち)まもる。
396『ナント(めう)(をんな)だ。397………コラ(をんな)398(この)(はう)はソンナ(やさ)しい(をんな)(くさ)つた(やう)(をとこ)でないぞ、399鬼雲彦(おにくもひこ)(いち)家来(けらい)鬼掴(おにつかみ)とは(おれ)(こと)だ。400(あたま)からかぶつて()てやらうか……』
401『ホヽヽヽヽ、402()(ほど)(えら)鬼掴(おにつかみ)なら、403何故(なぜ)(わらは)油断(ゆだん)をして、404細紐(ほそひも)(のど)()められたのか。405それや(まつた)(いつは)り、406(まへ)高天原(たかあまはら)から(くだ)()たれる高国別(たかくにわけ)であらうがなア』
407『イヤ拙者(せつしや)(けつ)して左様(さやう)(もの)では御座(ござ)らぬ。408悪逆無道(あくぎやくぶだう)のバラモン(けう)悪神(あくがみ)だ。409この(はう)(この)(くに)(あら)はれた以上(いじやう)は、410何奴(どいつ)此奴(こいつ)も、411(かた)(ぱし)から雁首(がんくび)引抜(ひきぬ)いて、412御大将(おんたいしやう)鬼雲彦(おにくもひこ)や、413八岐大蛇(やまたをろち)(かみ)御馳走(ごちそう)献上(けんじやう)するのだ』
414『ホヽヽヽヽ、415()かんせいなア、416これ(たか)サン』
417(かた)をポンと(たた)く。
418『オイ馬鹿(ばか)にするな。419金毛九尾(きんまうきうび)のお(ばけ)()(いろ)(まよ)はす浅漬(あさづけ)茄子(なすび)420何程(なにほど)巧言令色(かうげんれいしよく)(かぎ)りを(つく)し、421(われ)誑惑(けうわく)せむとするも、422(をんな)にかけては無関係(むくわんけい)423没交渉(ぼつかうせう)拙者(それがし)だ。424女色(ぢよしよく)(まよ)うて、425どうして(この)(あく)(みち)(ひろ)まらうかい。426グズグズ(ぬか)すと(また)から引裂(ひきさ)いてやらうか』
427『サアサア(また)からなつと、428(くび)からなりと、429あなたに(まか)せた(この)(からだ)430一寸刻(いつすんきざみ)五分試(ごぶだめ)し、431()いて()はうと、432()いて()はうと、433あなたの御勝手(ごかつて)434(わらは)()れが満足(まんぞく)御座(ござ)んす。435ホヽヽヽヽ』
436益々(ますます)(わか)らぬ(やつ)だ。437エー、438()(たい)(わる)い、439(この)広野ケ原(ひろのがはら)(さひは)(ひと)()ないから()いものの、440(てん)()()()(われ)()るだ。441七尺(しちしやく)八寸(はつすん)荒男(あらをとこ)が、442六尺(ろくしやく)()らずの繊弱(かよわ)(をんな)口説(くど)かれて、443グズグズ(いた)して()るのは、444(じつ)(なん)とも慚愧汗顔(ざんきかんがん)(いた)りだ………オイ(をんな)其方(そなた)一体(いつたい)全体(ぜんたい)何者(なにもの)だ。445(はや)(ばけ)(かは)(あら)はさぬか』
446『ホヽヽヽヽ、447(わらは)はあの天教(てんけう)………否々(いやいや)やつぱり化物(ばけもの)(をんな)御座(ござ)います』
448『アハア、449さうか、450貴様(きさま)はやつぱり、451癲狂院(てんきやうゐん)代物(しろもの)だな。452コンナキ(じるし)(ひま)(つぶ)して()つては尊様(みことさま)(たい)して申訳(まをしわけ)がない………オイ(をんな)453貴様(きさま)ゆつくりと、454(ゆめ)でも()て、455独言(ひとりごと)()つて()るが()からう』
456(きびす)(かへ)し、457小丘(こをか)()して(すす)()かむとす。458以前(いぜん)(をんな)(また)もや細紐(ほそひも)をパツとふりかけた途端(とたん)に、459(あし)をさらへられて、460(だい)(をとこ)はドスンと大地(だいち)(たふ)れた。
461『アイタヽ、462エーエーまた()つかけよつた。463馬鹿(ばか)にするない、464モウ了見(れうけん)ならぬぞ』
465『ホヽヽヽヽ、466高国別(たかくにわけ)(よわ)(こと)わいのう、467アイタタとは、468そら(なん)とした(また)弱音(よわね)()きやしやんす。469ひつかけ(もど)しの仕組(しぐみ)ぢやぞい。470(かみ)(つな)()けたら、471()げやうと()つても(にが)しはせぬ、472アイタタとは(たれ)()ひたいのだエ、473神素盞嗚(かむすさのを)大神(おほかみ)にか………』
474『エーやつぱり此奴(こいつ)金毛九尾(きんまうきうび)化狐(ばけきつね)だ。475(なに)もかも(みな)()つてゐよる、476サアもう勘忍袋(かんにんぶくろ)()()れた、477………ヤア(をんな)478(この)(たか)サンが首途(かどで)血祭(ちまつり)だ、479覚悟(かくご)(いた)せ……』
480『ホヽヽヽヽ、481あの言霊(ことたま)でなア』
482『エー言霊(ことたま)もあつたものかい、483(たか)サンの腕力(わんりよく)荒料理(あられうり)だ、484覚悟(かくご)(いた)せ』
485『ホヽヽヽヽ、486(わらは)数万年(すうまんねん)(むかし)より、487磐石(ばんじやく)(ごと)覚悟(かくご)()めて()りますよ。488あのソワソワしい(たか)サンの振舞(ふるまひ)489わしや可笑(おか)しい、490ホヽヽヽヽ』
491『エー邪魔(じやま)(くさ)い、492コンナ(やつ)相手(あひて)になつて()つたら、493()()れるワイ。494()(かく)(あや)しき()小丘(こをか)495一伍一什(いちぶしじふ)取調(とりしら)べて尊様(みことさま)報告(はうこく)(いた)さねばなるまい、496(みこと)におかせられても、497さぞやお待兼(まちかね)であらう。498エー(この)(つな)此奴(こいつ)()たして()けば、499(また)もやひつかけ(もど)しに()はしよるかも()れない』
500()(なが)ら、501細紐(ほそひも)をクルクルと手繰(たぐ)つて、502(ふところ)()()まうとする。
503『ホヽヽヽヽ、504広野ケ原(ひろのがはら)七尺(しちしやく)八寸(はつすん)泥棒(どろばう)(あら)はれた、505ナントまあ甲斐性(かひしやう)のない泥棒(どろばう)だこと、506(をんな)腰紐(こしひも)(うば)つて(かへ)(やう)泥棒(どろばう)にロクな(やつ)はない』
507『エー面倒(めんだう)(くさ)い、508今度(こんど)真剣(しんけん)だ、509(また)から引裂(ひきさ)いてやらう………ヤイ(をんな)510(おれ)(おこ)つたら、511本真剣(ほんしんけん)だ』
512『オホヽヽヽヽ、513(その)本真剣(ほんしんけん)(あや)しいものだ、514細紐(ほそひも)一本(いつぽん)貴重(きちよう)(をんな)生命(いのち)()らうとする腰抜(こしぬけ)泥棒(どろばう)………美事(みごと)()るなら()つて()よ。515(わらは)もサル(もの)516(この)細腕(ほそうで)(つづ)(かぎ)り、517(ちから)(かぎ)り、518相手(あひて)になりませう』
519『アハヽヽヽ、520一寸(ちよつと)やりよるな、521…………アーア、522女子(ぢよし)小人(せうじん)(やしな)(がた)しだ。523ヤア何処(どこ)のお女中(ぢよちう)()らぬが、524観客(くわんきやく)()芝居(しばゐ)()つからはづまない。525モウ此処(ここ)らで幕切(まくぎ)れと(いた)して二人(ふたり)()()()つて、526二世(にせ)三世(さんせ)はまだ(おろか)527五六七(みろく)()までも、528生死(せいし)(とも)に、529死出(しで)三途(さんづ)も、530駱駝(らくだ)道伴(みちづ)れ、531鴛鴦(おし)(ふすま)(むつ)()ひと()段取(だんどり)だ。532サアサア最早(もはや)平和(へいわ)克復(こくふく)だ。533あなにやしエー乙女(おとめ)534チヤツとおじや』
535()(ほそ)くし、536(した)をペロリと()して、537腰付(こしつき)(あや)しく()()()ばせば、538(をんな)三十(さんじつ)(サンチ)榴弾(りうだん)()つたる(ごと)く、
539『マア()かんたらしいお(かた)
540()(なが)ら、541肱鉄砲(ひぢでつぱう)二三発(にさんぱつ)乱射(らんしや)したり。
542『アイタヽ、543益々(ますます)合点(がてん)()かぬ(がう)(をんな)544古今無双(ここんむさう)のヒーロー豪傑(がうけつ)545高国別(たかくにわけ)半分(はんぶん)(ばか)感服(かんぷく)(つかまつ)つた』
546『ホヽヽ、547自我心(じがしん)(つよ)高国別(たかくにわけ)548半分(はんぶん)感服(かんぷく)とはそりや(なん)囈語(たわごと)
549『イヤもう全部(ぜんぶ)感服(かんぷく)(つかまつ)つた。550金毛九尾(きんまうきうび)白面(はくめん)悪狐(あくこ)()(やつ)(じつ)(たくみ)なものだ。551それ(くらゐ)力量(りきりやう)がなくては、552到底(たうてい)(この)秘密郷(ひみつきやう)蹂躙(じうりん)する(こと)出来(でき)ないワイ。553(なに)()()(これ)から貴様(きさま)()()らぬ()土饅頭(どまんじう)探険(たんけん)だ』
554大股(おほまた)にノソリノソリと駆出(かけだ)したり。
555 (をんな)は(義太夫調(ぎだいふてう)
556『マアマア、557()つて(くだ)さいませ。558折角(せつかく)(かほ)()甲斐(かひ)()う、559モウ(わか)るるとは(きよく)がない。560(まへ)()ひたさ、561(かほ)()たさ、562()なば諸共(もろとも)死出(しで)三途(さんづ)563神々様(かみがみさま)(ぐわん)をかけ、564(さき)(まは)つてお(まへ)行衛(ゆくゑ)565(まへ)()るのを()つて()(わらは)(おも)ひ、566(もの)(あは)れを()らぬ(をとこ)は、567人間(にんげん)ではあるまい、568(わらは)(せつ)なき(おも)ひを推量(すいりやう)して(くだ)さんせ』
569『アーア馬鹿(ばか)にしよる、570()うして何時(いつ)までも(ひま)()らせ、571(その)()数十人(すうじふにん)老若男女(らうにやくなんによ)計略(けいりやく)(もつ)虐殺(ぎやくさつ)するの計画(たくみ)であらう。572………エー邪魔(じやま)ひろぐな』
573(をんな)蹴飛(けと)ばし、574()()らし、575韋駄天走(ゐだてんばし)りに(すす)()く。
576『オーイオーイ、577(たか)サン()つた』
578『エー()つも、579()つたもあるものか、580貴様(きさま)581勝手(かつて)(なん)なとほざけ』
582一足々々(ひとあしひとあし)小丘(こをか)周囲(まはり)四股(しこ)()(なが)(あゆ)()した。583(たちま)ちバサリと大地(だいち)(くぼ)んで四五間(しごけん)()(そこ)ヘズルズルズルと()()んだ。584以前(いぜん)(をんな)落込(おちこ)んだ(あな)(くち)より、585(した)(のぞ)いて、
586『ヤア(たか)サンか感心々々(かんしんかんしん) ホヽヽヽヽ』
587(わら)つて()る、588高国別(たかくにわけ)()(うへ)(はた)して如何(いか)なるであらうか。
589大正一一・四・三 旧三・七 松村真澄録)