霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一章 春野(はるの)(たび)〔六二九〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第18巻 如意宝珠 巳の巻 篇:第1篇 弥仙の神山 よみ:みせんのみやま
章:第1章 春野の旅 よみ:はるののたび 通し章番号:629
口述日:1922(大正11)年04月24日(旧03月28日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年2月10日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
紅包む弥生の空に朧に月がかかる。和知の里の小路をとぼとぼと、悦子姫、音彦、加米彦、夏彦らの宣伝使一行が歩いてくる。
向こうから二人連れがやってきて、宣伝使たちの方を見ながらひそひそとささやきつつ眺めていた。これは英子姫と亀彦であった。
一行は邂逅し、芝生の上に座って、これまで宣伝の旅の経緯を語り合った。
英子姫は、弥仙山に父神・神素盞嗚大神の神務を帯びて登ったというが、その内容については明かさなかった。悦子姫一行は、英子姫に勧められて弥仙山に登ることとし、英子姫と亀彦に別れを告げた。
険しい弥仙山を登っていく折りしも、加米彦と夏彦は軽口をたたいている。
途中で、一人の爺に声をかけられ、家によって神様の話をするように懇願される。聞けば、以前にここを通った英子姫一行が、後から来る宣伝使に神の道を聞け、と諭したのだという。
主な登場人物: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:
愛善世界社版:7頁 八幡書店版:第3輯 639頁 修補版: 校定版:7頁 普及版:3頁 初版: ページ備考:
001(かぜ)(あたた)かく八重霞(やへがすみ)
002春日(はるひ)伯母(をば)はクレさうで
003クレナイに(つつ)弥生空(やよひぞら)
004(おぼろ)(つき)中天(ちうてん)
005()らず(くも)らずボンヤリと
006かかる山家(やまが)(ゆふ)まぐれ
007(かは)(なが)れは淙々(そうそう)
008(とどろ)(わた)和知(わち)(さと)
009(そら)(ふう)じて立並(たちなら)
010老樹(らうじゆ)(した)小径(せうけい)
011トボトボ(きた)宣伝使(せんでんし)
012(かみ)(をしへ)をどこまでも
013(つた)へにや山家(やまが)肥後(ひご)(はし)
014(つき)(ひかり)(ちから)とし
015(かみ)(めぐみ)(つゑ)となし
016(からす)(ねむ)鷹栖(たかのす)
017川辺(かはべ)(さと)(すす)()
018(かほ)(かたち)悦子姫(よしこひめ)
019(みづ)(なが)れの音彦(おとひこ)
020やがては(きた)夏彦(なつひこ)
021九十九曲(つくもまが)りの山路(やまみち)
022(まが)つた(こし)のトボトボと
023()はぬばかりに加米彦(かめひこ)
024草鞋(わらぢ)(あし)()(なが)
025神子坂橋(みこさかばし)(たもと)まで
026(きた)(をり)しも(むか)ふより
027スタスタ(きた)二人(ふたり)()
028(なに)かヒソヒソ(ささや)きつ
029夜目(よめ)()かして一行(いつかう)
030(こころ)()りげに(なが)めゐる。
031『モシモシ、032一寸(ちよつと)(たづ)(いた)します。033最前(さいぜん)から(うけたま)はれば、034路々(みちみち)宣伝歌(せんでんか)(うた)ひつつお(いで)になつた(やう)御座(ござ)いますが、035()しやあなたは、036三五教(あななひけう)宣伝使(せんでんし)(さま)では御座(ござ)いますまいか』
037 加米彦(かめひこ)は、
038『ヤアさう仰有(おつしや)るあなたは、039(なん)だか聞覚(ききおぼ)えのあるやうな(かん)じが(いた)します。040朧夜(おぼろよ)(こと)とてハツキリお(かほ)(わか)りませぬが、041どなたで御座(ござ)いましたかなア』
042(わたくし)三五教(あななひけう)宣伝使(せんでんし)亀彦(かめひこ)(まを)(もの)043(いま)一人(ひとり)(かた)素盞嗚尊(すさのをのみこと)(さま)のお娘子(むすめご)英子姫(ひでこひめ)()(かた)御座(ござ)います』
044『アヽお(なつか)しや、045英子姫(ひでこひめ)(さま)御座(ござ)いましたか、046(わたし)悦子(よしこ)(ござ)ります。047()(ところ)でお()にかかりました。048(わたし)剣尖山(けんさきやま)(ふもと)(おい)てお(わか)(まを)しましてより、049真奈井ケ原(まなゐがはら)(うづ)宝座(ほうざ)拝礼(はいれい)(いた)し、050それより三岳(みたけ)岩窟(がんくつ)言向和(ことむけやは)し、051鬼熊別(おにくまわけ)割拠(かつきよ)する鬼ケ城山(おにがじやうざん)岩窟(がんくつ)を、052四五(しご)同志(どうし)(とも)言霊(ことたま)(もつ)包囲(はうゐ)攻撃(こうげき)(いた)し、053それから生野(いくの)054長田野(をさだの)()え、055神知地山(じんちぢやま)魔神(まがみ)征服(せいふく)し、056高城山(たかしろやま)立向(たちむか)ひ、057(ふたた)(みち)(てん)じ、058和知(わち)(なが)れに沿()うて聖地(せいち)引返(ひきかへ)し、059あなた(さま)御目(おんめ)にかかり、060今後(こんご)妾等(わたしら)()るべき方法(はうはふ)を、061御相談(ごさうだん)申上(まをしあ)げたいと(おも)ひまして、062遥々(はるばる)()(をか)し、063此処(ここ)まで(まゐ)りました』
064英子姫(ひでこひめ)(よろこ)(なが)ら、
065『アヽ左様(さやう)ですか、066(わたし)其方(そなた)(わか)れてより、067神様(かみさま)(めい)()り、068弥仙(みせん)深山(しんざん)に、069(ある)使命(しめい)()びて登山(とざん)し、070(いま)(また)父大神(ちちおほかみ)神霊(しんれい)のお(つげ)()りて、071亀彦(かめひこ)(ともな)ひ、072伊吹山(いぶきやま)(まゐ)途中(とちう)御座(ござ)います。073アヽ()(ところ)でお()にかかりました。074()れの(かた)何方(どなた)(ぞん)じませぬが、075(いづ)三五教(あななひけう)(かた)でせう。076(この)川音(かはおと)()(なが)ら、077出会(であ)うたを(さいは)(ゆつ)くりと休息(きうそく)(いた)しませう』
078『それは(ねが)うてもないこと。079(わたし)もどこか()(ところ)があれば一休(ひとやす)(いた)したいと(おも)うて()ました。080……(この)(かた)音彦(おとひこ)加米彦(かめひこ)宣伝使(せんでんし)081一人(ひとり)はウラナイ(けう)(しばら)入信(にふしん)して()夏彦(なつひこ)()(をとこ)御座(ござ)います』
082(わたくし)亀彦(かめひこ)です。083貴下(あなた)由良(ゆら)(みなと)人子(ひとご)(つかさ)084秋山彦(あきやまひこ)門前(もんぜん)(おい)てお()にかかつた加米彦(かめひこ)さまですか、085コレハコレハ(めう)(ところ)でお()にかかりました。086(また)音彦(おとひこ)さまとは、087フサの(くに)でお(わか)(いた)しました(わたくし)旧友(きういう)ぢやありませぬか』
088左様(さやう)その音彦(おとひこ)御座(ござ)いますよ』
089遥々(はるばる)(この)自転倒島(おのころじま)へお()しになつたのは、090(なに)(ふか)仔細(しさい)御座(ござ)いませう』
091『これに()いては、092種々(いろいろ)珍談(ちんだん)御座(ござ)いまするが、093ユルリと(あと)から申上(まをしあ)げませう。094サアサア(みな)さま、095打揃(うちそろ)うて(この)芝生(しばふ)(うへ)骨休(ほねやす)めを(いた)しませうかい』
096(よろ)しからう』
097一同(いちどう)老樹(らうじゆ)(かげ)打解(うちと)け、098手足(てあし)()ばして休息(きうそく)したり。
099(ここ)六人(むたり)宣伝使(せんでんし)
100()つの(はな)()(ふゆ)()
101(かぜ)()()山桜(やまざくら)
102(かほ)りを()びて()(かた)
103(もも)(はなし)(はな)()かせ
104(おも)はず(とき)(うつ)しける。
105『モシ英子姫(ひでこひめ)(さま)106最前(さいぜん)あなたの御言葉(おことば)()れば、107弥仙山(みせんざん)神務(しんむ)()びて御登山(ごとざん)になつたと(あふ)せられましたなア。108音彦(おとひこ)一度(いちど)(その)霊山(れいざん)へ、109是非(ぜひ)登山(とざん)(いた)したいと(ぞん)じて()ます。110随分(ずゐぶん)嶮岨(けんそ)(ところ)でせうなア』
111『お(さつ)しの(とほ)り、112(じつ)嶮峻(けんしゆん)深山(しんざん)御座(ござ)います。113(ひる)(なほ)(くら)く、114鬱蒼(うつさう)たる老樹(らうじゆ)(てん)(ふう)じ、115到底(たうてい)日月(じつげつ)(ひかり)(をが)(こと)出来(でき)ませぬ。116(しか)(なが)ら、117貴方方(あなたがた)登山(とざん)なされますならば、118大変(たいへん)都合(つがふ)()(こと)御座(ござ)います。119(わたし)(ちち)神勅(しんちよく)()りて、120(ひと)つの経綸(けいりん)(おこな)うて()きました。121どうぞあなた(がた)一度(いちど)()つて(くだ)さいませ』
122(その)御経綸(ごけいりん)とは、123如何(いか)なる御用(ごよう)御座(ござ)いました。124(あらかじ)仰有(おつしや)つて(くだ)さいませぬか。125音彦(おとひこ)(その)覚悟(かくご)(いた)さねばなりませぬ』
126只今(ただいま)申上(まをしあ)げずとも、127(いで)になれば、128……ハハア(これ)であつたかなア……と自然(しぜん)にお(わか)りになりませう。129先楽(さきたの)しみに、130(この)(はなし)(しばら)保留(ほりう)して()きませう』
131加米彦(かめひこ)『エー英子姫(ひでこひめ)(さま)さう()(をし)みをなさるものぢやない、132アツサリと()つて(くだ)さいナ』
133英子姫(ひでこひめ)『イエイエ宣伝使(せんでんし)言葉(ことば)二言(にごん)御座(ござ)いませぬ。134一旦(いつたん)申上(まをしあ)げぬと()つた(こと)は、135金輪際(こんりんざい)口外(こうぐわい)する(こと)出来(でき)ませぬ』
136『あなた(さま)綺麗(きれい)女神(めがみ)にも()ず、137随分(ずゐぶん)愛嬌(あいけう)のない(こと)仰有(おつしや)いますなア。138(はじ)めて加米(かめ)御願(おねが)ひしたことを、139直様(すぐさま)()()(くだ)されず、140クルツプ(しき)砲弾(はうだん)発射(はつしや)し、141加米(かめ)()欲求(よくきう)撃退(げきたい)なされますか。142シテ、143あなたは愛嬌(あいけう)定義(ていぎ)()つて()ますか』
144『イヤもう おむつかしい議論(ぎろん)()つかけられますこと。145マアマアぼつぼつと御登山(ごとざん)なされませ。146それはそれはアツと()(やう)仕組(しぐみ)がして御座(ござ)いますワ』
147(なん)だか諄々(じゆんじゆん)として詭弁(きべん)(ろう)するお(ひめ)さまだナア。148キベン万丈(ばんぢやう)加米(かめ)(あた)()からずだ、149アハヽヽヽ』
150『コレコレ加米彦(かめひこ)さま、151さうヅケヅケと無遠慮(ぶゑんりよ)(もの)仰有(おつしや)るものでない。152チトたしなみなさらぬか』
153『ハイハイたしなみませうよ、154悦子(よしこ)さま。155無礼(ぶれい)ぢやとか、156謙遜(けんそん)ぢやとか、157遠慮(ゑんりよ)ぢやとか、158たしなみぢやとか、159種々(いろいろ)雅号(ががう)沢山(たくさん)()つて、160取捨選択(しゆしやせんたく)(ほとん)閉口(へいこう)頓死(とんし)(いた)します』
161 音彦(おとひこ)(かほ)をシカメ、
162『エー縁起(えんぎ)(わる)い。163閉口(へいこう)頓死(とんし)なぞと、164せうもない(こと)()ふものでない。165前達(まへたち)哲学(てつがく)とか道学(だうがく)とか()親不孝(おやふかう)166不作法(ぶさはふ)学問(がくもん)をかぢつて()るから、167仕末(しまつ)にをへない、168マアマア英子姫(ひでこひめ)(さま)仰有(おつしや)(とほ)りハイハイと温順(おとな)しくして()れば()いのだ。169吾々(われわれ)六人(ろくにん)(なか)では、170(もつと)もお(えら)(かた)だ、171()はば吾々(われわれ)のお師匠様(ししやうさま)だ。172()(かげ)六尺(ろくしやく)(さが)つても()むなと()(くらゐ)だ』
173『あなたも縁起(えんぎ)(わる)(こと)()ひますネ。174加米(かめ)閉口頓首(へいこうとんしゆ)()つた(こと)(とが)(なが)ら、175あなたは()(かげ)がどうの()うのつて、176()れこそ自縄自縛(じじようじばく)ぢやありませぬか』
177 音彦(おとひこ)()()し、
178『ハヽヽヽ、179(わけ)(わか)らぬ団子理屈(だんごりくつ)()()ねる(をとこ)だなア』
180『お(まへ)こそ団子理屈(だんごりくつ)だ。181吾々(われわれ)のは餅理屈(もちりくつ)だ。182(ぶと)(もち)()きや加米彦(かめひこ)()ねる、183ポンポンと音彦(おとひこ)がすると()ふぢやないか、184アハヽヽヽ』
185 亀彦(かめひこ)()()がり、
186『サア(みな)さま、187何時(いつ)まで御話(おはなし)(いた)して()つても際限(さいげん)()りませぬ。188冗談(ぜうだん)から(ひま)()る、189瓢箪(へうたん)から(こま)()る。190(こま)(むち)()ち、191一日(ひとひ)(はや)目的地(もくてきち)(むか)つて発足(はつそく)(いた)しませう。192ナア英子姫(ひでこひめ)(さま)……』
193折角(せつかく)()にかかつて(うれ)しいと(おも)へば、194神界(しんかい)御命令(ごめいれい)195()むにやまれませぬ。196英子(ひでこ)直様(すぐさま)(わか)(いた)しませう。197皆様(みなさま)左様(さやう)なら、198(いづ)(また)()にかかる機会(きくわい)御座(ござ)いませう』
199会釈(ゑしやく)し、200(はや)くも(あゆ)()したり。
201 悦子姫(よしこひめ)会釈(ゑしやく)しながら、
202左様(さやう)ならば、203(ひめ)(さま)204機嫌(きげん)よくお()(くだ)さいませ。205亀彦(かめひこ)(さま)206御如才(ごじよさい)御座(ござ)いますまいが、207どうぞ(ひめ)(さま)御身辺(ごしんぺん)注意(ちうい)(はら)つて(くだ)さいませやア』
208亀彦(かめひこ)209委細(ゐさい)承知(しようち)(つかまつ)りました。210(かなら)(かなら)御煩慮(ごはんりよ)(くだ)さいますな。211サアこれからコンパスに(あぶら)()して(すす)みませう。212悦子姫(よしこひめ)さま、213音彦(おとひこ)214加米(かめ)宣伝使(せんでんし)殿(どの)215夏彦(なつひこ)さま、216左様(さやう)ならば御機嫌(ごきげん)よう……』
217『お二人様(ふたりさま)218仕合(しあは)せよう抜群(ばつぐん)功名(こうみやう)手柄(てがら)(あら)はし(たま)はむ(こと)念願(ねんぐわん)(いた)します、219アリヨース』
220双方(さうはう)(たもと)(わか)つ。221二本(にほん)(しろ)(つゑ)のみ朧月夜(おぼろづきよ)山路(やまみち)を、222川上(かはかみ)()して(のぼ)()く。
223 (はる)()(またた)(うち)()(はな)れ、224(かすみ)(そら)()()けて、225天津(あまつ)()大神(おほかみ)は、226まん(まる)温顔(をんがん)()()して、227四人(よにん)(かうべ)(てら)(たま)ふ。228心持(こころもち)よき春風(はるかぜ)に、229(みち)()きまで()()山桜(やまざくら)230(はな)(あざむ)悦子姫(よしこひめ)231山路(やまみち)(とほ)(ゆか)しさは、232画中(ぐわちう)(ひと)(ごと)くなり。
233 音彦(おとひこ)急坂(きふはん)()(あふ)ぎ、
234『アヽ随分(ずゐぶん)(けは)しい(さか)ですなア。235英子姫(ひでこひめ)さまが一切(いつさい)沈黙(ちんもく)(まも)つて()られたのも、236()()胸突坂(むなつきざか)沢山(たくさん)あるので、237吾々(われわれ)恐怖心(きようふしん)(おこ)し、238折角(せつかく)張詰(はりつ)めた精神(せいしん)を、239薄志弱行(はくしじやくかう)逆転(ぎやくてん)旅行(りよかう)()かけるかと(おも)つての御心(おこころ)(くば)り、240イヤもう(おそ)()りました。241(ひと)(みちび)き、242向上(かうじやう)させてやらうと(おも)宣伝使(せんでんし)御心(おこころ)は、243(また)格別(かくべつ)なものですなア』
244 悦子姫(よしこひめ)は、
245『イヤ(けつ)して(けつ)して英子姫(ひでこひめ)(さま)御心中(ごしんちゆう)は、246さうではありますまい、247(すこ)意味(いみ)(ふか)(こと)があるのでせう。248(わたし)英子姫(ひでこひめ)(さま)御言葉(おことば)(はし)に、249(ふか)(ふか)意味(いみ)があると、250(すぐ)(むね)琴線(きんせん)()れました。251マアマア()(ところ)まで()つて()なくては(わか)りますまい』
252『さうですかなア。253音彦(おとひこ)(やう)木訥(ぼくとつ)人間(にんげん)は、254ソンナ微細(びさい)(てん)まで()()きませぬ、255何分(なにぶん)仁王(にわう)荒削(あらけづ)(ぜん)たる(をとこ)ですからなア、256ハヽヽヽヽ』
257 加米彦(かめひこ)大声(おほごゑ)で、
258『コレコレ音彦(おとひこ)さま、259巧妙(うま)(こと)()つてるぢやないか。260悦子姫(よしこひめ)さまと、261(この)(ほそ)(みち)()()(やう)にして(ある)(なが)ら、262似合(にあ)うの似合(にあ)はぬのつて、263ソラ(なに)()ふのだ、264(おに)(わら)ふぞよ、265アツハヽヽヽ。266オイ夏彦(なつひこ)267貴様(きさま)(くる)しさうに、268(あせ)をたらたらと(なが)して()るぢやないか』
269『きまつた(こと)ですよ。270(なつ)ヒコに(あた)れば、271(あせ)(たき)(ごと)(なが)()るのが、272(むかし)からきまりきつた、273天地(てんち)御規則(ごきそく)274(あせ)をかかねば、275天則違反(てんそくゐはん)(つみ)()はれるよ加米(かめ)さま』
276(なに)()ふのだ。277(すつぽん)(たで)()ました(やう)に、278(おほ)きな鼻息(はないき)をしよつて……』
279加米彦(かめひこ)280(すつぽん)だつて、281カメ(ひこ)だつて(おな)(こと)ぢやないか。282(すつぽん)(あら)(いき)をする(やう)に、283(かめ)一匹(いつぴき)284どこやらで、285ヤツパリ、286フースーフースーと呼吸(いき)をし(なが)ら、287法界悋気(はふかいりんき)をやつて()るやうだワイ、288ハツハヽヽヽ』
289『アヽ(なつ)チヤン、290ホーカイなア』
291『オイオイ加米彦(かめひこ)292夏彦(なつひこ)両人(りやうにん)293(はや)()ぬか、294ナンダ、295()ンなチツポケな(さか)屁古垂(へこた)れよつて………随分(ずゐぶん)(あし)(おそ)(やつ)だなア』
296(やかま)しい()うて()れない音彦(おとひこ)さま、297(あが)(ざか)(まへ)(たか)いワイ。298(その)(かは)りに(くだ)(ざか)になつたら、299ドンナものだ、300一瀉千里(いつしやせんり)(いきほひ)で、301アフンとさしてやるぞ。302(しか)(なが)(この)()(なが)いのに、303さう(いそ)ぐにも(およ)ばぬぢやないか、304そこらの木蔭(こかげ)(ひと)切腹(せつぷく)したらどうだい』
305 音彦(おとひこ)は、
306『エー(また)縁起(えんぎ)(わる)(こと)()加米(かめ)だナア。307エヽ仕方(しかた)がない。308悦子姫(よしこひめ)(さま)309()平地(ひらち)一服(いつぷく)(いた)しませうか、310両人(ふたり)(やつ)311大変(たいへん)屁古垂(へこた)れて()(やう)ですから』
312 悦子姫(よしこひめ)気軽(きが)るげに、
313『マア此処(ここ)(ゆつ)くりと()つてあげませう』
314 加米彦(かめひこ)小柴(こしば)(しげ)小径(こみち)を、315ガサガサ(あへ)(あへ)ぎ、316手負猪(ておひじし)(やう)鼻息(はないき)()て、317(たま)(あせ)(しぼ)りつつ、318(やうや)二人(ふたり)(そば)(のぼ)()きける。
319 (あし)()るる(ばか)りの細路(ほそみち)を、320粗朶(そだ)()()うて(くだ)()二人(ふたり)(をんな)あり、321四人(よにん)姿(すがた)()て、
322『コレハコレハ皆様(みなさま)323(せま)(みち)(かさ)たか(もの)()うて(とほ)りまして、324(まこと)()みませぬ、325どうぞ御勘弁(ごかんべん)(くだ)さいませ』
326 加米彦(かめひこ)は、
327『サアそれは仕方(しかた)がありませぬ、328天下(てんか)御免(ごめん)大道(だいだう)329(いな)330羊腸(やうちやう)山路(やまみち)331………サアサア(みな)さま、332(はやし)(なか)(しばら)沈没(ちんぼつ)(いた)しませう。333そして敵艦(てきかん)二隻(にせき)334暗礁(あんせう)()けた安全(あんぜん)海路(かいろ)通過(つうくわ)させてやりませうかい』
335 四人(よにん)はガサガサと、336()(しげ)みへ()けると、337二人(ふたり)(をんな)(あせ)片手(かたて)に、338手拭(てぬぐひ)にて(ぬぐ)(なが)ら、
339『コレハコレハ(みな)さま、340()みませぬ』
341(いた)()てし(ごと)(ほそ)坂路(さかみち)をエチエチ(くだ)()く。
342 加米彦(かめひこ)二人(ふたり)後姿(うしろすがた)見送(みおく)りて、
343『アヽ無事(ぶじ)御神輿(ごしんよ)通過(つうくわ)()ンだ。344サアサア(みな)さま、345一服(いつぷく)のやり(なほ)しを(いた)しませう……』
346音彦(おとひこ)『あの(をんな)沢山(たくさん)粗朶(そだ)をムクムクと()うて(かへ)りよつたが、347一体(いつたい)(なん)()雅名(がめい)だらう』
348加米彦(かめひこ)『あれかい、349きまつて()るワイ。350オハラ()(しば)()うて(とほ)つたのだ』
351『ナニ、352()ンな(ところ)大原女(おほはらめ)(とほ)つてたまるものか。353叡山(えいざん)(ふもと)ぢやあるまいし』
354『それでも(おほ)きな(はら)をして()つたぢやないか』
355『あれはヤセの(をんな)だよ。356八瀬大原(やせおほはら)()つて、357(はた)小母(をば)産地(さんち)だよ。358此処(ここ)もヤツパリ山地(さんち)には間違(まちが)ひない。359(さき)(をんな)大変(たいへん)痩女(やせをんな)360(あと)のは(はら)(をんな)だ。361それで一人(ひとり)はヤセ()362一人(ひとり)はオハラ()だ、363()()(なほ)せば、364双方(さうはう)意見(いけん)成立(せいりつ)して、365複雑(ふくざつ)議論(ぎろん)(おこ)らぬだらう』
366『モシ悦子姫(よしこひめ)さま、367あなた最前(さいぜん)音彦(おとひこ)と、368大変(たいへん)(なか)ようして(ある)いて()ましたなア。369()をつけなされませや。370(この)音彦(おとひこ)は、371女房(にようばう)五十子姫(いそこひめ)竜宮(りうぐう)(ひと)(じま)()つて()るものですから、372やもめ(どり)同様(どうやう)373ウツカリして()ると、374(いま)()つた(をんな)ぢやないが、375(いま)はヤセ()のあなたでも、376何時(いつ)()にか大腹女(おほはらめ)になりますよ』
377悦子姫(よしこひめ)『オツホヽヽヽ、378気遣(きづか)(くだ)さいますな、379(けつ)して(けつ)して御心配(ごしんぱい)はかけませぬから』
380加米彦(かめひこ)『アヽそれならマア(わたくし)御安心(ごあんしん)だ』
381音彦(おとひこ)『オイ加米彦(かめひこ)382冗談(ぜうだん)()加減(かげん)にせぬか、383(なが)春日(はるひ)(また)()れて(しま)ふぞ』
384悦子姫(よしこひめ)『サア(みな)さま、385(まゐ)りませう』
386九十九折(つくもをり)(けは)しき小径(こみち)(のぼ)()く。
387音彦(おとひこ)今度(こんど)加米彦(かめひこ)388夏彦(なつひこ)389(さき)()け、390(また)煩雑(うるさ)問題(もんだい)提起(ていき)されては処置(しよち)(こま)るから』
391加米彦(かめひこ)『さうだらう。392ヤツパリ(もの)がある(やつ)は、393何処(どこ)までも注意深(ちういぶか)いものだ、394イヒヽ』
395 加米彦(かめひこ)悦子姫(よしこひめ)(あと)に、396三尺(さんじやく)(ばか)(はな)れて()いて()く。397七八丁(しちはつちやう)(のぼ)つたと(おも)うと、398胸突坂(むねつきさか)(のぼ)()二人(ふたり)姿(すがた)399半丁(はんちやう)(ばか)谷底(たにそこ)に、400(かさ)ばつかり(ゆら)ついて()る。
401加米彦(かめひこ)『ヤア、402(おほ)きな(しろ)松茸(まつたけ)(のぼ)つて()るワイ。403オイ音彦(おとひこ)404夏彦(なつひこ)405悦子姫(よしこひめ)さまが(それ)(ほど)(はづ)かしいのか。406(なん)だ、407(かさ)(かほ)(からだ)もみな(かく)しよつて……』
408悦子姫(よしこひめ)加米彦(かめひこ)さま、409(また)貴方(あなた)嘲弄(からか)ふのかい、410()加減(かげん)411冗談(ぜうだん)はよしにしなさいよ』
412加米彦(かめひこ)(この)さみしい山路(やまみち)413(わたくし)(やう)()(もの)(ひと)つあるのも(また)重宝(ちようほう)でせう。414(しか)(なが)ら、415()()らぬとあれば仕方(しかた)がない。416冗談(ぜうだん)はこれ(かぎ)りヨシコ(ひめ)(いた)しませう、417アツハヽヽヽ』
418悦子姫(よしこひめ)『それまた、419冗談(ぜうだん)仰有(おつしや)るワ』
420加米彦(かめひこ)仰有(おつしや)いますな。421加米彦(かめひこ)憑依(ひようい)して()雲雀彦(ひばりひこ)守護神(しゆごじん)()422(やま)()ると親類(しんるゐ)(かへ)つた(やう)(おも)つて、423はしやいでなりませぬワイ、424ウフヽ』
425悦子姫(よしこひめ)大分(だいぶん)音彦(おとひこ)さまが(おく)れなさつたよな塩梅(あんばい)ぢや。426(すこ)()()はせませうか』
427加米彦(かめひこ)『ヤツパリ()(かか)りますかな、428(おく)れとるのは音彦(おとひこ)ばつかりぢやありませぬ。429(こし)(まが)つた夏彦(なつひこ)にもチツとは()()れてやつて(くだ)さいナ。430あなたは博愛心(はくあいしん)がどうかしてますネー』
431悦子姫(よしこひめ)(なん)だかケンケン()つてるぢやありませぬか』
432加米彦(かめひこ)『エーあれや雉子(きじ)ですよ。433音彦(おとひこ)兄弟分(きやうだいぶん)ですがなア。434(ふた)()にはケンケンコンコンと()つては(あたま)()たれ、435(こし)()たれ、436攻撃(こうげき)()ばつかり()つて()ます。437雉子(きじ)()かねば()たれまい………と()ひましてなア……』
438悦子姫(よしこひめ)雉子(きじ)()(とり)はコンナ(ふか)(やま)()みて、439(なに)()つてるのでせう』
440加米彦(かめひこ)『アルタイ(ざん)蛇掴(へびつかみ)(やう)に、441(へび)ばつかり()つて()よるのです』
442悦子姫(よしこひめ)(まる)加米彦(かめひこ)さまの(やう)(とり)ですネー』
443加米彦(かめひこ)『ソラ(なに)仰有(おつしや)います。444(わたくし)何時(いつ)(へび)()ひましたか』
445悦子姫(よしこひめ)(へび)ぢやありませぬ。446あなたは何時(いつ)も、447ヘマばつかり()つてるぢやありませぬか、448ホヽヽヽ』
449加米彦(かめひこ)『ナアンダ、450(へー)でもない屁理屈(へりくつ)()(なら)べなさる。451あなたも随分(ずゐぶん)言霊(ことたま)練習(れんしふ)出来(でき)て、452(くち)(だけ)悦子姫(よしこひめ)ぢやなくて、453悪子姫(わるこひめ)になりましたなア』
454悦子姫(よしこひめ)『ホツホヽヽヽ』
455加米彦(かめひこ)『アヽ(なん)だか交通機関(かうつうきくわん)倦怠(けんたい)して()ました。456音彦(おとひこ)()るまで()つてやりませうかい』
457悦子姫(よしこひめ)重宝(ちようほう)なお(くち)だこと、458進退(しんたい)()(きは)まりて、459()つておあげなさるのでせう』
460加米彦(かめひこ)『ハハア、461あなた用心(ようじん)しなさいよ。462悪神(あくがみ)()いて()ますで………随分(ずゐぶん)言霊(ことたま)(にご)つて()ました。463(ひと)神霊(しんれい)注射(ちうしや)をやつてあげませうか』
464悦子姫(よしこひめ)有難(ありがた)う。465またユルユル(みな)さまの御協議(ごけふぎ)(うへ)で、466御願(おねがひ)(いた)します』
467悦子姫(よしこひめ)(みの)()いて、468一年越(いちねんごし)霜枯(しもが)れの(かや)(うへ)にドツカとすわる。
469千歳(ちとせ)老松(らうしよう)(すぎ)(ひのき)
470(けやき)(かへで)雑木(ざふき)(こけ)()して
471(かむ)さび(たて)左右(さいう)密林(みつりん)
472躑躅(つつじ)(はな)此処(ここ)彼処(かしこ)
473(しろ)(くれなゐ)(あを)黄色(きいろ)
474(えん)(あらそ)(その)(なか)
475藪鶯(やぶうぐひす)山雀(やますずめ)
476四十雀(しじふがら)ガラ()()つる
477山路(やまぢ)()えて何時(いつ)しかに
478小広(こびろ)田圃(たんぼ)(なが)()
479(ふる)神代(かみよ)物語(ものがたり)
480(ただ)一言(ひとこと)()らさずに
481()(つた)へむと土筆(つくづくし)
482鉛筆(えんぴつ)(とが)らし(みち)()
483待構(まちかま)()るしほらしさ
484(むぎ)青葉(あをば)()()うち
485(ふで)(かく)して青々(あをあを)
486手具脛(てぐすね)ひいて()つて()
487(はな)一面(いちめん)()(おも)
488(えん)(きそ)ふて()きぬれど
489(とこ)には()くな、矢張(やはり)()()紫雲英(げんげばな)
490虎杖草(いたんどうり)のここかしこ
491万年筆(まんねんひつ)()()いて
492()()清書(せいしよ)準備顔(じゆんびがほ)
493(この)物語(ものがたり)主人公(しゆじんこう)
494四辺(あたり)景色(けしき)悦子姫(よしこひめ)
495音彦(おとひこ)加米彦(かめひこ)夏彦(なつひこ)
496吾子(わがこ)(ごと)(いた)はりつ
497(おや)になつたる気取(きど)りにて
498(やま)見当(めあ)てに(すす)()く。
499加米彦(かめひこ)『アーアナント()()景色(けしき)だらう。500……音彦(おとひこ)さま、501(むか)ふに(くも)被衣(かづき)()()るズンと(たか)高山(かうざん)がそれぢやないか』
502音彦(おとひこ)『さうだ、503あれが目的(もくてき)()花姫(はなひめ)御分霊(ごぶんれい)(まつ)られてある弥仙(みせん)のお(やま)だ』
504加米彦(かめひこ)道理(だうり)で、505(くび)から(うへ)は、506(くも)(やつ)507スツカリ(つつ)みて、508(みね)姿(すがた)を……ミセン(やま)だな、509(しか)(なが)泰然自若(たいぜんじじやく)として(うご)かないあの姿(すがた)()ると、510(じつ)(しやく)(さは)るぢやないか。511俺達(おれたち)ばつかりにテクらせよつて、512一歩(ひとあし)(うご)かず、513ヂツとして、514(おれ)()たけら此処(ここ)まで御座(ござ)れ、515()塩梅式(あんばいしき)だ。516(まる)吾々(われわれ)眼下(がんか)()くだし、517奴隷視(どれいし)して()るぢやないか。518(なん)だか軽蔑(けいべつ)せられる(やう)心持(こころもち)がしてきたワイ』
519音彦(おとひこ)『アハヽヽヽ、520()(こと)()いと、521(なん)なと()はねば()()まぬ(をとこ)だなア。522さう心配(しんぱい)するな、523(いま)に、524何程(なにほど)威張(ゐば)つて()弥仙山(みせんざん)でも、525(あたま)頂辺(てつぺん)を、526吾々(われわれ)(あし)()みにじる(やう)になるのだよ。527さうだから、528時節(じせつ)()て……と()ふのだよ』
529夏彦(なつひこ)(みな)さま、530(この)(うつく)しい紫雲英野(げんげの)で、531弁当(べんたう)でも(ひら)いて、532(やま)(をが)(なが)休息(きうそく)(いた)しませうか』
533加米彦(かめひこ)()()て、534女王様(ぢよわうさま)御機嫌(ごきげん)(うかが)つた(うへ)535認可(にんか)してやらう。536(しばら)(ひか)へて()つて()らう』
537夏彦(なつひこ)随分(ずゐぶん)薬鑵(やくわん)()沸騰(たぎ)りますなア、538(いな)かめは()沸騰(ふつとう)しますナア、539アハヽヽヽ』
540悦子姫(よしこひめ)(みな)さま、541どうでせう、542(この)(うるは)しい野原(のはら)で、543(やま)遥拝(えうはい)(なが)ら、544くつろぎませうか』
545夏彦(なつひこ)『ソラ、546どうだい、547以心伝心(いしんでんしん)548吾輩(わがはい)身魂(みたま)暗々裡(あんあんり)に、549女王様(ぢよわうさま)感応(かんのう)して()たのだ。550()うして()ると、551肉体(にくたい)主従(しゆじゆう)だが、552(みたま)は……』
553加米彦(かめひこ)『その(つぎ)()はぬかい、554霊魂(みたま)(なん)だい、555狸身魂(たぬきみたま)(いたち)みたまをして、556(なん)だか(もの)(くさ)(こと)()(やつ)だ、557()ンな怪体(けつたい)なスタイルをして、558()うソンナ(こと)()はれたものだワイ』
559夏彦(なつひこ)『ナーニ、560スタイルで(をんな)が……ウンニヤ、561ムニヤムニヤ』
562加米彦(かめひこ)(また)行詰(ゆきつま)りよつたナ、563閻魔(えんま)さまの浄玻璃(じやうはり)(かがみ)(まへ)では、564(こころ)(おく)まで(てら)されて、565(はづ)かしさに(たちま)(おし)とならねばなるまい。566グヅグヅして()ると、567(した)()かれて(しま)ふぞ』
568夏彦(なつひこ)(した)一枚(いちまい)二枚(にまい)()かれたとて、569沢山(たくさん)仕入(しい)れてあるから大丈夫(だいぢやうぶ)だよ。570(いま)人間(にんげん)一枚(いちまい)二枚(にまい)(した)(あま)ンじて()(やう)(もの)は、571それこそ不便(ふべん)(きは)まる片輪(かたわ)人足(にんそく)だ』
572加米彦(かめひこ)本当(ほんたう)()(まは)(した)だなア。573(おれ)此奴(こいつ)には一寸(ちよつと)ビツクリ(した)574イヤ感服(かんぷく)(した)575アツハヽヽヽ』
576 ()かる(ところ)へ、577小夜具染(さやぐぞめ)半纒(はんてん)をまとひ、578あかざ(つゑ)()(なが)ら、579ヒヨコリヒヨコリと一人(ひとり)老翁(らうをう)580四人(よにん)(まへ)立現(たちあら)はれ、
581(みな)さま(たち)は、582弥仙(みせん)のお(やま)御参拝(ごさんぱい)のお(かた)見受(みう)けますが、583どうぞ(わたし)(うち)へお()(くだ)さいませぬか。584(ひと)つお(たづ)ねをしたり、585(ねが)ひしたい(こと)御座(ござ)います』
586加米彦(かめひこ)はシヤシヤり()で、
587『ヤアお(まへ)さまは、588北光(きたてる)(かみ)さまの(やう)な、589崇高(すうかう)容貌(ようばう)をしたお(ぢい)さまだな、590コンナ(わか)宣伝使(せんでんし)や、591(わか)(をとこ)に、592老人(らうじん)(もの)(たづ)ねるとは、593チツと間違(まちが)つては()やせぬか。594一年(いちねん)でも(さき)(この)()()()した(もの)は、595経験(けいけん)()み、596社会学(しやくわいがく)(たつ)して()(はず)だ、597怪体(けたい)(こと)()ふお(ぢい)さまだなア。598わしは(また)599(まへ)さまの姿(すがた)木蔭(こかげ)にチラと()えた(とき)から……ヤア(しめ)た、600(ひと)(くつ)でも穿()かして()げて、601張子房(ちやうしばう)ぢやないが、602太公望(たいこうばう)兵法(へいはふ)でも伝授(でんじゆ)して(もら)はうと(おも)うて(たの)しみて()たのだ』
603(ぢい)世界(せかい)(こと)なら、604一日(いちにち)でも(さき)(うま)れた(だけ)わしは兄貴(あにき)だ、605(をし)へても()げるが、606これ(だけ)長生(ながいき)をして、607()(なか)()いも(あま)いも(さと)りきつた(この)(おやぢ)に、608どう(かんが)へても合点(がてん)のいかぬ(こと)(ひと)つあるのだ。609これはどうしても神様(かみさま)のお(みち)(ひと)()かなくては、610(わか)らぬ(こと)だと(おも)うて、611(やま)(まゐ)るお(かた)を、612(ばば)アと二人(ふたり)が、613茅屋(あばらや)()つて(もら)ひ、614種々(いろいろ)(たづ)ねて()るけれども、615どのお(かた)完全(くわんぜん)解決(かいけつ)(あた)へて(くだ)さらぬのだ。616(この)(あひだ)英子姫(ひでこひめ)さまとやら……(この)女中(ぢよちう)よりもズツと綺麗(きれい)な、617神様(かみさま)のお使(つか)ひのお(かた)凛々(りり)(さう)なお従者(とも)()れて(とほ)らしやつたので、618(ひと)(たづ)ねてみた(ところ)619二人(ふたり)のお(かた)はニヤツと(わら)うて、620(なん)にも仰有(おつしや)つて(くだ)さらず、621やがて(をんな)一人(ひとり)(をとこ)三人(さんにん)一行(いつかう)が、622(やま)(まゐ)りをするから、623(その)(もの)()うて(たづ)ねて()れいと仰有(おつしや)つたので、624毎日(まいにち)日日(ひにち)(くび)(なが)うして()つて()つたのだ、625もしや、626(まへ)さま()(こと)ではあるまいかと(おも)うて、627(おも)(あし)()きずつて()()たのだ』
628加米彦(かめひこ)『アヽさうだつたか、629社会学(しやくわいがく)はまだ未完成(みくわんせい)だが、630神様(かみさま)(こと)ならば、631ドンナ(こと)でも解決(かいけつ)をつけてあげよう。632英子姫(ひでこひめ)さまも流石(さすが)(えら)いワイ。633手柄(てがら)俺達(おれたち)(ゆづ)つてやらうと思召(おぼしめ)して、634昨夜(ゆうべ)()うた(とき)にも仰有(おつしや)らなかつたのだ。635流石(さすが)先見(せんけん)(めい)ありだ。636古今(ここん)(らい)(むな)しうして東西(とうざい)()(つく)したる、637世界(せかい)(そと)世界(せかい)(まで)()()んで、638宇宙(うちう)真相(しんさう)悉皆(しつかい)看破(かんぱ)したる、639(この)加米彦(かめひこ)がお()でになると()(こと)を、640流石(さすが)明智(めいち)英子姫(ひでこひめ)(さま)641予期(よき)して御座(ござ)つたと()える。642サアサア(なん)なりとお(たづ)ねなされ。643神界(しんかい)(くわん)する(こと)ならば(けつ)して退却(たいきやく)(いた)さぬ、644三五教(あななひけう)には退却(たいきやく)二字(にじ)()りませぬから………オツホン』
645(ぢい)『さうかな、646(わか)いにも似合(にあ)はず、647()うそこまで勉強(べんきやう)をなさつた、648感心(かんしん)々々(かんしん)649今時(いまどき)(わか)(もの)は、650(みな)心得(こころえ)(わる)くて、651(かみ)さまなンテ、652(この)()(なか)()るものか、653人間(にんげん)(かみ)さまだ、654(かみ)があるのなら、655一遍(いつぺん)()はして()れ、656そしたら(かみ)存在(そんざい)(みと)めてやるなンテ、657(だい)ソレた(こと)()時節(じせつ)だ。658それにお(まへ)さまは、659(なん)()御存(ごぞん)じとは、660(じつ)(えら)いお(かた)だ、661(この)(ぢい)今迄(いままで)コンナ(かた)()ひたいと(おも)うて、662()つて()ました……アヽ神様(かみさま)663有難(ありがた)御座(ござ)います、664これと()ふのも(まつた)弥仙(みせん)のお(やま)()花姫(はなひめ)(さま)(あつ)御守護(ごしゆご)……』
665(そで)(なみだ)(ぬぐ)ふ。
666夏彦(なつひこ)『モシモシお(ぢい)さま、667此奴(こいつ)ア、668由良(ゆら)(みなと)秋山彦(あきやまひこ)門番(もんばん)をして()つた(をとこ)です。669(えら)さうに(くち)ばつかり(ひら)くのですよ。670(あさ)から(ばん)まで(もん)(ひら)くのが商売(しやうばい)だから、671(その)惰力(だりよく)(いま)だに(のこ)つて()つて、672大門(おほもん)(やう)(おほ)けな(くち)(ひら)きよるのだ。673相手(あひて)になりなさるな。674(この)(をとこ)()(くらゐ)(こと)は、675(わたし)だつて、676(とし)(こう)(まめ)()だ、677(まめ)()()()だ、678()()はヤツパリ(まめ)(こな)だ。679(しし)()(いぬ)は、680(いぬ)のどこやらに(すぐ)れた(ところ)()りますワイ。681(わたし)(をし)へてあげませう』
682加米彦(かめひこ)『コレコレお(ぢい)さま、683此奴(こいつ)はなア、684ウラナイ(けう)黒姫(くろひめ)()ふ、685(くち)ばつかり達者(たつしや)(やつ)十年間(じふねんかん)(あさ)から(ばん)まで、686法螺(ほら)仕込(しこ)まれて()(やつ)だから、687(なに)()ふやら、688蜜柑(みかん)やら、689金柑桝(きんかんます)(はか)るやら、690なにも(わか)つた代物(しろもの)ぢやありませぬワイ』
691(ぢい)最前(さいぜん)から(この)老爺(ぢぢい)一生懸命(いつしやうけんめい)(たの)みて()るのに、692(まへ)さま(たち)は、693(この)老人(としより)飜弄(ほんろう)するのかい、694エーエやつぱり英子姫(ひでこひめ)さまの仰有(おつしや)つた(えら)いお(かた)は、695(この)御連中(ごれんちう)ぢや()るまい。696アーア阿呆(あほ)らしい、697コンナ(こと)なら(この)(おも)(あし)を、698老人(らうじん)引摺(ひきず)つて()るのぢやなかつたのに……』
699音彦(おとひこ)『モシモシお(ぢい)さま、700さう(はら)()てて(くだ)さるな。701此等(これら)二人(ふたり)雲雀(ひばり)(つばめ)親類(しんるゐ)ですから、702どうぞお(のぞ)みの(こと)を、703(わたくし)仰有(おつしや)つて(くだ)さいませ。704(わたくし)(ちから)(かぎ)神様(かみさま)(うかが)つて御答(おこたへ)(いた)しませう』
705(ぢい)『アヽさうかなア、706(まへ)さまはどこやらが、707(しま)りのある(をとこ)だと(おも)うて()つた。708此処(ここ)では(はなし)出来(でき)ませぬから、709(まへ)さま一人(ひとり)710(わたくし)(うち)()(くだ)され、711(ばば)アや(むすめ)()つて()ります』
712音彦(おとひこ)『お(ぢい)さま、713それは有難(ありがた)御座(ござ)いますが、714(わたくし)の……此処(ここ)御主人(ごしゆじん)とも先生(せんせい)とも(あふ)悦子姫(よしこひめ)さまがいらつしやいます。715(この)(かた)吾々(われわれ)大先生(だいせんせい)御座(ござ)いますから、716(この)(かた)()てて(わたくし)ばつかり(まゐ)(わけ)にはゆきませぬ』
717(ぢい)『アーさうだらうさうだらう、718ソンナラ、719悦子姫(よしこひめ)さまの先生(せんせい)とお(まへ)さまと()(くだ)され、720()ンな(わか)(をとこ)此処(ここ)()たして()いたら(よろ)しからう』
721音彦(おとひこ)(しか)(なが)ら、722四人(よにん)はどうしても(はな)れないと()不文律(ふぶんりつ)(さだ)められてあるので、723(この)(をとこ)二人(ふたり)此処(ここ)放棄(はうき)して()(わけ)にはゆきませぬ、724四人(よにん)(とも)(まゐ)りませう。725それがお()()らねば仕方(しかた)がありませぬから御断(おことわ)(まを)すより(みち)御座(ござ)いませぬ』
726(ぢい)『アヽソンナラ()(くだ)さいませ。727コレコレ二人(ふたり)のお(わか)いの、728(わたくし)(うち)()(くだ)さるのは(かま)ひませぬが、729あまり(やかま)しう()つて(くだ)さるな、730(むすめ)身体(からだ)(さは)ると(こま)りますから……』
731加米彦(かめひこ)『オイ(なつ)732貴様(きさま)一杯(いつぱい)(おご)らぬと冥加(みやうが)(わる)いぞ、733(この)(うち)一番(いちばん)年長(としがさ)だ、734それに「お(わか)いの」と()はれよつたぢやないか、735()れと()ふのも、736(おれ)好男子(かうだんし)余徳(よとく)()りて(わか)()られたのだよ。737それだから老爺(おぢい)さまが、738(むすめ)(からだ)(さは)ると(こま)ります……ナンテ予防線(よばうせん)()るのだよ。739険呑(けんのん)代物(しろもの)見込(みこ)まれたものだなア、740アツハヽヽヽ』
741音彦(おとひこ)『サア悦子姫(よしこひめ)さま、742御苦労(ごくらう)(なが)ら、743一寸(ちよつと)老爺(おぢい)さまの(うち)まで()つてあげて(くだ)さいませ』
744悦子姫(よしこひめ)不束(ふつつか)(わたし)でもお()()ひますれば、745(ぢい)さま(まゐ)ります』
746(ぢい)『ハア有難(ありがた)有難(ありがた)い、747御礼(おれい)(あと)(いた)します。748老爺(ぢい)(うち)(この)(むか)ふの(もり)(ひと)(まは)つた(とこ)御座(ござ)います。749(わたくし)座敷(ざしき)から、750あなた(がた)此処(ここ)御休息(ごきうそく)になつて御座(ござ)るのが、751()()(やう)()えました(くらゐ)ですから、752ホンの一寸(ちよつと)(まは)りで御座(ござ)います』
753(さき)()ち、754ヨボヨボと(おの)家路(いへぢ)(ともな)()く。
755大正一一・四・二四 旧三・二八 松村真澄録)