霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一章 武志(たけし)(みや)〔六六三〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第20巻 如意宝珠 未の巻 篇:第1篇 宇都山郷 よみ:うづやまごう
章:第1章 武志の宮 よみ:たけしのみや 通し章番号:663
口述日:1922(大正11)年05月12日(旧04月16日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年3月15日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
言依別命は、神素盞嗚大神の命を奉じて、照山と桶伏山の間に貴の御舎を仕え祀って国治立大神、豊国姫大神の霊を鎮祭した。
これを錦の宮という。玉照彦、玉照姫は幼時より神人に秀で、神格勝れ、救世主として尊敬を集めた。
言依別命は錦の宮を根拠として自転倒島の総統権を握った。コーカス山、斎苑の館と相俟って、天下修斎の神業を世界に拡げることになった。
高姫、黒姫、松姫も身命を三五教に奉じて、世界を渡り歩き、神徳を拡充することになった。
元照彦の御魂の再来である天の真浦は、錦の宮のことを聞くと、きこりをやめて聖地に訪ねて来て、言依別命より宣伝使に任命された。
真浦は神徳宣布の旅に出て、人の尾峠の西麓に着いた。真浦は雪に悩まされながら、熊のつけた獣道をたどっていくと、道の傍らに一軒のあばら家に灯りがともっているのが見えた。
真浦が外で屋内の様子をうらやんでいると、あばら家から真浦を中に招き入れる声がする。厚意に甘えて中に入ると、あばら家に居た二人は、真浦の身ぐるみを剥ごうとしていた。二人はバラモン教徒だと名乗った。
しかし真浦は、二人が三五教の駒彦、秋彦に似ていることに気付く。二人はバラモン教徒の振りをして、真浦を試したのだということがわかった。
真浦は駒彦、秋彦とともに武志の宮を祀っている浮木の里に着いた。三人は社務所で休んでいると、この宮に仕える松鷹彦と出合った。三人は、バラモン教を言向け和すために、バラモン教の司・友彦の館に案内するように松鷹彦に頼み込んだ。
道中、駒彦と秋彦は、突然真浦を抱えると崖の下に投げ落とした。松鷹彦は驚くが、駒彦と秋彦はこれも宣伝使の試練だと言う。松鷹彦は驚いて逃げてしまった。
駒彦と秋彦は、真浦が平気な様子でいるのを確認すると、試験に合格したと祝福して、またどこかへ行ってしまった。
真浦は一人雪を踏みしめて河原の茅屋にたどり着いた。そこは松鷹彦の家であった。松鷹彦は真浦の身を心配するが、真浦は逆に、駒彦、秋彦のお陰で腹に宝をいただいた、と述べた。
松鷹彦は翻然として悟り笑うと、三五教に興味を抱いた。真浦と松鷹彦は信仰についての問答で互いに親交を深めた。真浦は四五日逗留して、法話を聞かせた。
ある日、松鷹彦は漁をして真浦に魚を捕ろうと川に入った。しかし松鷹彦は川に落ちてしまった。真浦は婆に諭されて不言実行の教えに思い出し、松鷹彦を助け出した。
松鷹彦夫婦は、実地をもって不言実行の教えを真浦に教え、真浦は自ら裏の川で禊をなすと、松鷹彦の足の痛みを祈願によって治した。
主な登場人物: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:
愛善世界社版:7頁 八幡書店版:第4輯 151頁 修補版: 校定版:7頁 普及版:2頁 初版: ページ備考:
001常世(とこよ)(やみ)()らさむと
002(かみ)御稜威(みいづ)高熊(たかくま)
003(しづ)岩窟(いはや)奥深(おくふか)
004(めぐみ)(つゆ)(あめ)となり
005(ゆき)ともなりて空蝉(うつせみ)
006醜世(しこよ)(あら)(てら)さむと
007(そら)(かがや)旭子(あさひこ)
008(ひかり)(つよ)玉照彦(たまてるひこ)
009伊豆(いづ)(みこと)奉按(ほうあん)
010言照姫(ことてるひめ)神霊(しんれい)
011数多(あまた)(かみ)(おく)られて
012五六七(みろく)神代(みよ)松姫(まつひめ)
013(こころ)イソイソ山坂(やまさか)
014(わた)りて(きた)玉鉾(たまぼこ)
015(みち)(ひろ)らに世継王山(よつわうざん)
016東表面(ひがしおもて)(みね)(つづ)
017紅葉(もみぢ)(いろ)照山(てらやま)
018(ふもと)()てる(かり)殿(との)
019(かみ)御言(みこと)(かしこ)みて
020悦子(よしこ)(ひめ)(まも)りたる
021(うづ)宮居(みやゐ)()(はな)
022(ひめ)(みこと)御水火(みいき)より
023()でし玉照彦(たまてるひこ)(かみ)
024(いさ)(すす)んで(おく)()
025(てん)(くわ)(すゐ)()(むす)びたる
026紫姫(むらさきひめ)若彦(わかひこ)
027(よろこ)(いさ)彦神(ひこがみ)
028(むか)(まつ)りて玉照(たまてる)
029(ひめ)(みこと)夫神(つまがみ)
030(たた)へまつらむ真心(まごころ)
031(かぎ)りを(つく)(つか)()
032神素盞嗚(かむすさのを)大神(おほかみ)
033英子(ひでこ)(ひめ)(つか)はして
034五六七(みろく)神代(みよ)(いしずゑ)
035(もも)仕組(しぐみ)(つか)へしめ
036国治立(くにはるたち)大神(おほかみ)
037国武彦(くにたけひこ)(あら)はれて
038(くも)()てたる(すゑ)()
039(てら)(きよ)むる先駆(さきがけ)
040姿(すがた)(かく)して桶伏山(をけふせやま)
041黄金(こがね)(たま)諸共(もろとも)
042御稜威(みいづ)四方(よも)(かがや)きぬ
043言依別(ことよりわけ)宣伝使(せんでんし)
044斎苑(いそ)(やかた)立出(たちい)でて
045雲路(くもぢ)押分(おしわ)遥々(はるばる)
046(あや)聖地(せいち)()(たま)
047(こころ)(そら)玉照彦(たまてるひこ)
048(かみ)(みこと)姫命(ひめみこと)
049(たて)(よこ)との皇神(すめかみ)
050(わけ)御霊(みたま)(うれ)しみて
051三五教(あななひけう)(いや)(かた)
052いや遠永(とほなが)()(つた)ふ。
053 言依別命(ことよりわけのみこと)は、054神素盞嗚大神(かむすさのをのおほかみ)(めい)(ほう)じ、055照山(てらやま)桶伏山(をけふせやま)山間(やまあひ)に、056国治立(くにはるたち)大神(おほかみ)057豊国姫(とよくにひめ)大神(おほかみ)の、058(うづ)御舎(みあらか)(つか)へまつりて、059(その)威霊(ゐれい)鎮祭(ちんさい)し、060玉照彦(たまてるひこ)061玉照姫(たまてるひめ)をして宮仕(みやづか)へとなし、062世界経綸(せかいけいりん)神業(しんげふ)基礎(きそ)樹立(じゆりつ)せむとしたまひ、063遠近(をちこち)山野(さんや)()()り、064(みづ)御舎(みあらか)(つか)へまつつた。065神人(しんじん)()(みち)(おも)ひ、066()(おも)真心(まごころ)凝結(ぎようけつ)して、067荘厳(さうごん)無比(むひ)(みづ)御舎(みあらか)(またた)(うち)建造(けんざう)された。068(しよう)して(にしき)(みや)()ふ。069玉照彦(たまてるひこ)070玉照姫(たまてるひめ)幼時(えうじ)より数多(あまた)神人(しんじん)(ひい)で、071神徳(しんとく)(たか)く、072神格(しんかく)(すぐ)れ、073神代(かみよ)()ける救世主(きうせいしゆ)として、074天下万民(てんかばんみん)尊敬(そんけい)(あつ)めたまふに(いた)りけり。
075 言依別命(ことよりわけのみこと)は、076素盞嗚大神(すさのをのおほかみ)(めい)(ほう)じ、077(にしき)(みや)背景(はいけい)として、078自転倒島(おのころじま)()ける三五教(あななひけう)総統権(そうとうけん)(にぎ)り、079コーカス(ざん)080斎苑(いそ)(やかた)相俟(あひま)つて、081天下(てんか)修斎(しうさい)神業(しんげふ)宇内(うだい)拡張(くわくちやう)(たま)(こと)となつた。082三五教(あななひけう)宣伝使(せんでんし)()ふも(さら)なり、083ウラナイ(けう)()て、084瑞之御霊(みづのみたま)極力(きよくりよく)反抗(はんかう)したる高姫(たかひめ)085黒姫(くろひめ)086松姫(まつひめ)は、087(ゆめ)()めたる(ごと)(こころ)(ひるがへ)し、088身命(しんめい)三五教(あななひけう)(ほう)じ、089自転倒島(おのころじま)(はじ)め、090海外(かいぐわい)諸国(しよこく)跋渉(ばつせう)して、091神徳(しんとく)拡充(くわくじゆう)することとなつた。092(ここ)元照彦(もとてるひこ)御霊(みたま)再来(さいらい)093(あめ)真浦(まうら)は、094大台ケ原(おほだいがはら)山麓(さんろく)(うま)れ、095木樵(きこり)(わざ)となし(その)()(おく)()たるが、096(あや)高天(たかま)(にしき)(みや)建造(けんざう)され、097神徳(しんとく)四方(よも)(ひか)(かがや)くと()きて、098樵夫(きこり)(わざ)(はい)し、099遥々(はるばる)聖地(ここ)(たづ)(きた)り、100言依別命(ことよりわけのみこと)(えつ)し、101(あらた)宣伝使(せんでんし)となることを()た。102(あめ)真浦(まうら)(おほい)(よろこ)び、103昼夜(ちうや)区引(くべつ)なく宣伝歌(せんでんか)(うた)(なが)ら、104()自転倒島(おのころじま)(むか)つて、105神徳(しんとく)宣布(せんぷ)神業(しんげふ)(こころ)みむとし、106聖地(せいち)(あと)(ただ)一人(ひとり)107(きり)海原(うなばら)押分(おしわ)けて(かぜ)のまにまに、108(ひと)()(たうげ)西麓(せいろく)()いた。109(みち)()(ひと)()えぬ(ばか)りの粉雪(こなゆき)110(たき)(ごと)くに()(きた)り、111()()一尺(いつしやく)(ばか)りも地上(ちじやう)()もり、112()黄昏(たそが)れて、113(みち)いよいよ(とほ)く、114真浦(まうら)行手(ゆくて)(まよ)ひ、115(すす)みもならず、116退(しりぞ)きもならず、117蓑笠(みのかさ)()けたる(まま)118路上(ろじやう)佇立(ちよりつ)して、119声低(こゑびく)天津祝詞(あまつのりと)幾度(いくど)となく繰返(くりかへ)しつつあつた。120(あや)しき(けだもの)(かげ)幾十(いくじふ)となく(たい)をなして、121山上(さんじやう)より(くだ)()る。122されど真浦(まうら)(たき)()()(ゆき)()(さへぎ)られ、123足許(あしもと)(すす)()るまで()らざりき。124(ただ)(なん)となく(ゆき)()(くだ)何者(なにもの)かの足音(あしおと)125追々(おひおひ)(ちか)づく(こゑ)のみ(みみ)()る。126真浦(まうら)独言(ひとりごと)
127今迄(いままで)(あたた)かい(くに)(そだ)ち、128(この)(やう)深雪(ふかゆき)()(こと)がなかつた。129(はじ)めて神様(かみさま)のお(みち)()り、130百日(ひやくにち)百夜(ひやくや)修行(しうぎやう)()み、131(やうや)(ゆる)されて(いま)(ここ)宣伝使補(せんでんしほ)となり、132(あし)(まか)せて(すす)みて()たが……アヽゆき(つま)つたものだ。133言依別命(ことよりわけのみこと)(さま)より「(なんぢ)()れより(ひと)()(たうげ)()え、134河水(かはみづ)(きよ)宇都(うづ)(さと)初宣伝(はつせんでん)(こころ)みよ」と(あふ)せられた。135(しか)(なが)ら、136()()(つも)大雪(おほゆき)137()して樹木(じゆもく)(しげ)れる(この)谷間(たにあひ)138()(くれ)かかる……アーア宣伝使(せんでんし)(つら)いものだ。139追々(おひおひ)(つも)(ゆき)(かさ)140(まか)(ちが)へば(わが)()(ゆき)(うづ)まつて、141(つめ)たくなつて(しま)うであらう。142進退(しんたい)惟谷(これきは)まるとは(この)(こと)だなア』
143心細(こころぼそ)げに(つぶや)(をり)しも、144最前(さいぜん)足音(あしおと)追々(おひおひ)(ちか)づき(きた)る。145()れば数十頭(すうじつとう)(くま)(むれ)146真浦(まうら)足許(あしもと)勢込(いきほひこ)んで(はし)()く。147真浦(まうら)(おどろ)いて(ゆき)(なか)(みち)()けた。148(くま)(むれ)(なん)遠慮(ゑんりよ)もなくスタスタと(れつ)()んで、149西方(せいはう)さして(はし)()く。
150 真浦(まうら)はホツと(いき)をつき、
151『アヽ、152有難(ありがた)い、153沢山(たくさん)(くま)(あら)はれて雪路(ゆきみち)()()けて、154立派(りつぱ)通路(つうろ)(ひら)いて()れた。155()れも(まつた)神様(かみさま)御神徳(ごしんとく)であらう…………有難(ありがた)有難(ありがた)し』
156感謝(かんしや)しながら、157(くま)足跡(あしあと)()()(のぼ)()く。158(みち)(かたはら)一軒(いつけん)茅屋(あばらや)()ることが()()いた。159屋内(をくない)には(かす)かな火影(ほかげ)(またた)いて()る。160(かぜ)()()(ゆき)しばき益々(ますます)(はげ)しく、161(くま)折角(せつかく)(ひら)いて()れた(ゆき)新道(しんだう)も、162(またた)(うち)閉塞(へいそく)して(しま)つた。163屋内(をくない)には気楽(きらく)さうに(わら)ひさざめく(こゑ)164真浦(まうら)(この)愉快気(ゆくわいげ)(わら)(こゑ)()き、
165『ホンに(うらや)ましい(こと)だなア。166()れは神命(しんめい)とは()(なが)ら、167(この)雪路(ゆきみち)(なや)み、168(たま)()さへも()れなむとする極寒(ごくかん)(くる)しみ、169血管(けつくわん)(なが)るる血潮(ちしほ)凝結(ぎようけつ)せむとする(つら)さに引替(ひきか)へ、170(この)()(うち)面白(おもしろ)さうな(わら)(ごゑ)171…………(じつ)(ひと)境遇(きやうぐう)(くらゐ)運否(うんぷ)のあるものはない。172(しか)(なが)()れも(かみ)(みち)(つた)ふる宣伝使(せんでんし)初陣(うひぢん)173(かく)(ごと)(ゆき)(おそ)れ、174(ひと)(いへ)這入(はい)つて、175一夜(いちや)宿(やど)()はんとするも、176(なん)となくウラ(はづ)かしい、177アヽ如何(いか)にせむか』
178躊躇(ためら)(をり)しも、179屋内(をくない)より(をとこ)(こゑ)
180(をとこ)『オイ、181どこの乞食(こじき)だか()らぬが、182(この)(ゆき)()るのに、183(なに)愚図々々(ぐづぐづ)して()るのだ。184チツと(おれ)(うち)へでも這入(はい)つて(やす)んだらどうだ。185あつたかい()()いてある。186沢山(たくさん)()()いてあるぞ』
187真浦(まうら)『ハイ有難(ありがた)御座(ござ)います。188(しか)(なが)(わたくし)はどうしても(この)(たうげ)()さねばなりませぬ。189御志(おこころざし)有難(ありがた)御座(ござ)いますが……』
190(をとこ)『ナニ、191(おれ)(うち)(やす)むのは(いや)だと()ふのか、192馬鹿(ばか)(やつ)だなア。193(おれ)(この)(へん)杣人(そまびと)だ。194(すこ)しの(ゆき)はチツとも()にならない(をとこ)だが、195流石(さすが)山猿(やまざる)(おれ)でさへも、196一歩(いつぽ)今日(けふ)(ゆき)には(あゆ)(こと)出来(でき)ない。197どうして(この)(さか)(のぼ)れると(おも)ふのか。198マアそんな馬鹿(ばか)(こと)()はずに(たび)道連(みちづ)()(なさけ)だ。199一樹(いちじゆ)(かげ)雨宿(あまやど)り、200一河(いちが)(なが)れを()(ひと)も、201(ふか)(えにし)()るものだ。202サア遠慮(ゑんりよ)()らぬ、203這入(はい)つて休息(きうそく)したがいい』
204 真浦(まうら)(その)言葉(ことば)(やや)(こころ)(うご)き、
205『どなたか()りませぬが、206御親切(ごしんせつ)有難(ありがた)御座(ござ)います。207左様(さやう)ならば(しばら)休息(きうそく)をさせて(いただ)きませう』
208(をとこ)『アヽそれが()い。209サアサアお這入(はい)りなさい』
210真浦(まうら)()()()()れ、211(はすかひ)(ゆが)んだ雨戸(あまど)をピシヤツと()めた。
212(をとこ)大変(たいへん)大雪(おほゆき)で、213()けかかつた(いへ)益々(ますます)(あや)しくなつて()た。214愚図々々(ぐづぐづ)して()ると(ゆき)(おも)みで、215(この)(いへ)平太(へた)つて(しま)ふかも()れないぞ。216………オイ駒公(こまこう)217(きやく)さまだ。218どつさりと薪木(たきぎ)()べて御馳走(ごちそう)するのだぞ。219(さむ)(とき)には()一番(いちばん)御馳走(ごちそう)だ』
220駒公(こまこう)馬鹿(ばか)()ふな。221どこの(うま)(ほね)か、222鹿(しか)(ほね)(わか)りもせぬ代物(しろもの)を、223物好(ものず)きにも(こま)さんの承諾(しようだく)()ず、224()()()みやがつて、225()()けも()つたものかい。226貴様(きさま)(なん)でも取込(とりこ)(こと)ばつかり(かんが)へて()やがる。227チツと執着心(しふちやくしん)脱却(だつきやく)せぬかい。228()()むことなら(いぬ)葬式(さうしき)でも(よろこ)んで引張(ひつぱ)()むと()代物(しろもの)だから(こま)つて(しま)ふ。229そんな(こと)()立派(りつぱ)(いへ)が、230どうして()つて()くと(おも)ふのか、231秋公(あきこう)不経済家(ふけいざいか)には(おれ)本当(ほんたう)アキ()た。232(さむ)(とき)(にはか)(からだ)()(ちか)づけると、233(かへつ)凍傷(とうしやう)(おこ)すものだ。234どこの(やつ)()らぬが、235赤裸(まつぱだか)にして(あたま)から冷水(れいすゐ)でも、236ドツサリ御馳走(ごちそう)してやるのだなア。237貴様(きさま)二人(ふたり)()うして(ゆき)(とざ)されて()つても、238チツとも面白味(おもしろみ)がない。239此奴(こいつ)衣服(いふく)万端(ばんたん)(うば)()り、240(その)(うへ)赤裸(まつぱだか)にして(みづ)をかけ、241それを(さかな)一杯(いつぱい)やつたら面白(おもしろ)からう』
242真浦(まうら)『なんだ、243(その)(はう)らは甘言(かんげん)(もつ)(この)(はう)をひつぱり()み、244泥棒(どろばう)(いた)すのか』
245秋彦(あきひこ)『アハヽヽヽ、246()頓馬(とんま)だなア。247そんな(こと)(たづ)ねるのが馬鹿(ばか)だ。248(おれ)今日(けふ)泥棒(どろばう)初陣(うひぢん)だ。249(この)(いへ)(じつ)吾々(われわれ)(もの)ではない。250老爺(ぢい)(ばば)アとが()つたのだが、251(すご)文句(もんく)(なら)べてやつた(ところ)252昨日(きのふ)()(くれ)(ごろ)253どつかへ()げて()きよつた。254彼奴(あいつ)雪爺(ゆきぢい)雪婆(ゆきばば)だつたと()えて(にはか)にこんな大雪(おほゆき)()つて()た。255サア(かは)()いてやらう』
256真浦(まうら)()()けたる衣服(いふく)剥奪(はくだつ)せむとする。
257真浦(まうら)『それは、258あまりぢや。259一寸(ちよつと)()つて()れ』
260秋彦(あきひこ)(まつ)(ひのき)()つたものか。261(ふくろ)(ねずみ)262どうしたつて()かねば()かぬ』
263真浦(まうら)(この)()立去(たちさ)(とき)()ぎませう。264それまで(この)衣服(いふく)(わたくし)()して(くだ)さいませぬか』
265駒彦(こまひこ)『オイ秋公(あきこう)266仕方(しかた)がない、267()してやれ。268……オイ何程(なんぼ)借賃(かりちん)()す? それから約束(やくそく)して()かねば喰逃(くひに)げされては、269泥棒(どろばう)商売(しやうばい)(ぼう)()れるからなア。270ワハヽヽヽ』
271真浦(まうら)自分(じぶん)着物(きもの)利息(りそく)をつけて()して(もら)ふとは、272(また)(めう)規則(きそく)出来(でき)たものですなア』
273駒彦(こまひこ)愚図々々(ぐづぐづ)()ふない。274(がう)()つては(がう)(したが)へだ。275()れが泥棒(どろばう)社会(しやくわい)規則(きそく)だ』
276真浦(まうら)貴様(きさま)(たち)(まる)でバラモン(けう)みたやうな(やつ)だなア』
277駒彦(こまひこ)『きまつた(こと)だ。278鬼雲彦(おにくもひこ)(さま)乾児(こぶん)だよ。279(あき)280(こま)()つたら、281それは本当(ほんたう)()(とり)(おと)すやうなバラモン(けう)有名(いうめい)宣伝使(せんでんし)だぞ。282貴様(きさま)三五教(あななひけう)宣伝使(せんでんし)283無抵抗主義(むていかうしゆぎ)標榜(へうぼう)して()腰抜教(こしぬけけう)(やつ)だから、284指一本(ゆびいつぽん)(おれ)()へても、285抗言(くちごたへ)(ひと)(いた)しても、286抵抗(ていかう)した(こと)になる。287(あたま)をカチ()られようが、288(だま)つて辛抱(しんばう)するのだぞ』
289真浦(まうら)『アーア(こま)つた(こと)になつたもんだワイ。290三五教(あななひけう)には(うはさ)()けば、291もとは(うま)292鹿(しか)()紫姫(むらさきひめ)(さま)家来(けらい)があつて、293それが高城山(たかしろやま)松姫(まつひめ)さまを帰順(きじゆん)させ、294駒彦(こまひこ)295秋彦(あきひこ)()()(もら)つたさうだが、296(まへ)()(あき)()ひ、297(こま)()ひ、298()()()る。299(なに)因縁(いんねん)(いと)(むす)ばれて()(やう)だ。300もしや三五教(あななひけう)駒彦(こまひこ)301秋彦(あきひこ)ではなからうかなア』
302秋彦(あきひこ)『そんな腰抜(こしぬけ)秋彦(あきひこ)や、303駒彦(こまひこ)とはチト相場(さうば)(ちが)ふのだぞ。304(おれ)三五教(あななひけう)宣伝使(せんでんし)真浦(まうら)()新米者(しんまいもの)宇都山(うづやま)(さと)初陣(うひぢん)()くので、305言依別(ことよりわけ)神様(かみさま)から……』
306駒彦(こまひこ)『オイ秋公(あきこう)307(なに)()ふのだ。308ウツカリした(こと)()ふものでないぞ』
309真浦(まうら)『アハヽヽヽ、310大方(おほかた)そんな(こと)だと(おも)つた。311言依別(ことよりわけ)神様(かみさま)(おれ)信仰力(しんかうりよく)(ため)(ため)に、312貴様(きさま)此処(ここ)(まは)しおき、313そうして(この)(みち)(とほ)れと仰有(おつしや)つたのだなア……オイ秋彦(あきひこ)314駒彦(こまひこ)315モウ駄目(だめ)だぞ。316泥棒(どろばう)でも、317バラモンでも、318ベラボウでもない、319貴様(きさま)(えり)(しるし)(なん)だ』
320(こま)321(あき)『アハヽヽヽ、322到頭(たうとう)陰謀(いんぼう)発覚(はつかく)したか。323エヽ仕方(しかた)がない。324そんなら事実(じじつ)をスツカリ白状(はくじやう)(いた)して(つか)はす』
325真浦(まうら)『イヤもう沢山(たくさん)だ。326(なに)(うけたま)はる必要(ひつえう)()りませぬワイ』
327駒公(こまこう)()宣伝使(せんでんし)点数(てんすう)六十五点(ろくじふごてん)だ。328(すみやか)言依別(ことよりわけ)神様(かみさま)成績表(せいせきへう)書留(かきとめ)郵便(ゆうびん)(おく)つて()かう。329()()ける(まで)三人(さんにん)鼎坐(ていざ)してお神酒(みき)(いただ)いて御日待(おひまち)をしようではないか』
330真浦(まうら)『またそんな(こと)()つて、331点数(てんすう)()らすのではないか』
332秋彦(あきひこ)心配(しんぱい)するな。333一旦(いつたん)(みと)めた以上(いじやう)減点(げんてん)(けつ)してしない。334(その)(かは)(おれ)(こと)もよく報告(はうこく)するのだぞ』
335真浦(まうら)()報告(はうこく)してやらう。336コンミツシヨンとしてモウ四十五点(しじふごてん)あげて()れ』
337秋彦(あきひこ)六十五点(ろくじふごてん)四十五点(しじふごてん)(くは)へると満点(まんてん)以上(いじやう)になつて(しま)ふ。338それでは試験官(しけんくわん)として報告(はうこく)仕方(しかた)がないワ』
339真浦(まうら)(おれ)改心(かいしん)百点(ひやくてん)以上(いじやう)だ。340(その)(かは)貴様(きさま)百八十点(ひやくはちじつてん)(おれ)から報告(はうこく)してやらう。341(しか)二人(ふたり)合計(がふけい)してだから……』
342他愛(たあい)なき雑談(ざつだん)一夜(いちや)()かしたりける。
343(あめ)真浦(まうら)宣伝使(せんでんし)
344秋彦(あきひこ)駒彦(こまひこ)諸共(もろとも)
345(かみ)(をしへ)(つた)へむと
346(ひと)()(たうげ)急坂(きふはん)
347(ゆき)かき()けて(のぼ)()
348()一面(いちめん)銀世界(ぎんせかい)
349金烏(きんう)(ひか)りキラキラと
350またたき()めて大空(おほぞら)
351(ぬぐ)ふが(ごと)()(わた)
352(ここ)三人(みたり)(いさ)ましく
353(たに)(なが)れに沿()(なが)
354(あし)()みなづみ(すす)()
355(あさひ)(かがや)(ゆき)()
356(かみ)(めぐみ)白妙(しらたへ)
357(ゆき)(つつ)まる宇都(うづ)(さと)
358武志(たけし)(みや)(まつ)りたる
359浮木(うきき)(さと)辿(たど)()
360(また)もや()()(ゆき)しばき
361(ここ)三人(みたり)大宮(おほみや)
362(わき)()ちたる社務所(ながとこ)
363(ゆき)(しの)いで車座(くるまざ)
364なつて(だん)をば()(なが)
365(たづさ)()てる(にぎ)(めし)
366ムシヤリムシヤリと(たひら)げて
367四方(よも)(はなし)(ふけ)(をり)
368(ゆき)かき()けて(のぼ)()
369(あや)しの(おきな)(ただ)一人(ひとり)
370覚束(おぼつか)()げに(つゑ)()
371(みや)階段(かいだん)(のぼ)()
372真浦(まうら)秋彦(あきひこ)駒彦(こまひこ)
373(まなこ)()ゑて(なが)むれば
374(あや)しの(おきな)神前(しんぜん)
375やうやう(ちか)づき拍手(かしはで)
376(おと)(すず)しく太祝詞(ふとのりと)
377(とな)ふる(こゑ)(うるは)しく
378三人(みたり)(みみ)()きとほる
379(かみ)使(つかひ)真人(しんじん)
380(ただし)悪魔(あくま)化身(けしん)かと
381(あや)しみ(なが)秋彦(あきひこ)
382(この)()()ちてザクザクと
383(ゆき)()()らし神前(しんぜん)
384(ぬか)づく(おきな)打向(うちむか)
385(なれ)何処(いづく)何人(なにびと)
386人里(ひとざと)(はな)れし(この)(もり)
387(ゆき)(をか)して参来(まゐき)たり
388祈願(ねぎごと)するは何故(なにゆゑ)
389()かまほしやと(たづ)ぬれば
390(おきな)(やうや)(かほ)()
391(むね)()れたる白鬚(しらひげ)
392(ふた)つの()にて()(なが)
393四辺(あたり)キヨロキヨロ見廻(みまは)して
394武志(たけし)(みや)神司(かんづかさ)
395(あさ)(ゆふ)なに真心(まごころ)
396(つく)して(つか)(たてまつ)
397()れは松鷹彦(まつたかひこ)(かみ)
398(いまし)何処(いづく)何人(なにびと)
399(いぶ)かしさよと()(かへ)
400(その)容貌(ようばう)のどことなく
401()()はれざる気高(けだか)さに
402秋彦(あきひこ)(おも)はず()()いて
403三五教(あななひけう)宣伝使(せんでんし)
404(こころ)(いろ)紅葉(もみぢば)
405(にしき)(みや)(つか)へたる
406秋彦(あきひこ)駒彦(こまひこ)二人(ふたり)()
407(あめ)真浦(まうら)諸共(もろとも)
408宇都山郷(うづやまがう)(あら)はれし
409バラモン(けう)曲神(まがかみ)
410言向(ことむ)(やは)鹿島立(かしまだ)
411(ゆき)(をか)してやうやうに
412此処(ここ)まで(すす)(きた)りしぞ
413(ゆき)(うづ)まる山里(やまざと)
414家並(やなみ)()えぬ(さび)しさに
415武志(たけし)(みや)社務所(ながとこ)
416()りて(やす)らひ()たりけり
417(あや)高天(たかま)(あら)はれし
418玉照彦(たまてるひこ)玉照姫(たまてるひめ)
419宇豆(うづ)(みこと)(つか)へます
420三五教(あななひけう)司神(つかさがみ)
421言依別(ことよりわけ)御言(みこと)もて
422あもり(きた)りし三人連(みたりづ)
423(なんぢ)松鷹彦(まつたかひこ)(かみ)
424吾等(われら)三人(みたり)宇都山(うづやま)
425バラモン(やかた)(とも)なひて
426(ふと)しき功績(いさを)()てませよ
427応答(いらへ)如何(いかん)()()れば
428松鷹彦(まつたかひこ)(かしこ)みて
429(おい)(あゆ)みもトボトボと
430(ゆき)階段(かいだん)(くだ)りつつ
431(あめ)真浦(まうら)駒彦(こまひこ)
432(まへ)(あら)はれ会釈(ゑしやく)なし
433先頭(せんとう)()たむと(いざな)へば
434三人(みたり)(いさ)(よろこ)びつ
435(おきな)(あと)(したが)ひて
436武志(たけし)(みや)一礼(いちれい)
437(ひがし)()して(すす)()く。
438 松鷹彦(まつたかひこ)雪路(ゆきみち)(つゑ)()(なが)先頭(せんとう)()ちて、439バラモン(けう)宣伝使(せんでんし)(きこ)えたる友彦館(ともひこやかた)案内(あんない)すべく(すす)()く。440真浦(まうら)(おきな)(あと)七八尺(しちはつしやく)(おく)れて、441一歩(ひとあし)々々(ひとあし)深雪(ふかゆき)(なか)足跡(あしがた)目標(めあて)(すす)(をり)しも、442秋彦(あきひこ)443駒彦(こまひこ)(もの)をも()はず、444真浦(まうら)引抱(ひつかか)へ、445数丈(すうぢやう)崖下(がけした)突落(つきおと)した。446突落(つきおと)された真浦(まうら)(なん)負傷(ふしやう)もせず、447(たか)()もれる(ゆき)(うへ)にニコニコと安坐(あんざ)して三人(さんにん)姿(すがた)(あふ)()()る。
448秋彦(あきひこ)『モシ真浦(まうら)さま、449どうだ、450御気分(ごきぶん)(よろ)しいかな。451どこもお怪我(けが)御座(ござ)いませぬか』
452真浦(まうら)『ハイ有難(ありがた)う、453無事(ぶじ)着陸(ちやくりく)(いた)しました』
454駒彦(こまひこ)『サア六十五点(ろくじふごてん)三十五点(さんじふごてん)(くは)へて百点(ひやくてん)だ。455肉体(にくたい)高所(かうしよ)から落第(らくだい)したが、456御霊(みたま)はいよいよ立派(りつぱ)宣伝使(せんでんし)及第(きふだい)したのだから(よろこ)(たま)へ』
457 松鷹彦(まつたかひこ)458()(まる)くし、
459松鷹彦(まつたかひこ)『コレコレお前達(まへたち)(なん)()乱暴(らんばう)(こと)をするのだい。460世界(せかい)人民(じんみん)(たす)けて天国(てんごく)(すく)(やく)であり(なが)ら、461地獄(ぢごく)のやうな断崖(だんがい)から突落(つきおと)すと()(こと)()るものか、462グヅグヅして()ると(この)老人(としより)まで、463どんな(こと)をするか(わか)つたものぢやない』
464秋彦(あきひこ)『お(ぢい)さま御心配(ごしんぱい)(くだ)さいますな。465身魂(みたま)調(しら)べの(ため)に、466吾々(われわれ)両人(りやうにん)言依別(ことよりわけ)(さま)御命令(ごめいれい)()りて、467あの(をとこ)修業(しうげふ)をさせに()たのです。468ここで(はら)()てる(やう)(こと)では、469宣伝使(せんでんし)資格(しかく)がないのだから、470()はば我々(われわれ)宣伝使(せんでんし)試験委員(しけんゐゐん)だ。471()れであの(をとこ)立派(りつぱ)宣伝使(せんでんし)になりました』
472松鷹彦(まつたかひこ)『こんな絶壁(ぜつぺき)から(おと)されては、473どうする(こと)出来(でき)ない。474(なん)とか工夫(くふう)をして此処(ここ)まで(すく)()げて()なさらねばなりますまい』
475秋彦(あきひこ)(なに)御心配(ごしんぱい)()りませぬよ。476獅子(しし)()()んで三日目(みつかめ)谷底(たにそこ)()て、477(あが)つて()(やつ)(また)突落(つきおと)し、478三遍目(さんべんめ)()がつた(やつ)を、479(はじ)めて自分(じぶん)()にすると()(こと)だ。480こんな(とこ)から一遍(いつぺん)二遍(にへん)突落(つきおと)されて屁古垂(へこた)れる(やう)(もの)なら、481到底(たうてい)駄目(だめ)だ。482悪魔(あくま)(さか)ゆる()(なか)宣伝使(せんでんし)にはなれませぬ。483(あが)つて()よつたら、484(また)()(おと)(つも)りです』
485松鷹彦(まつたかひこ)『それだと()つて、486それはあまり残酷(ざんこく)ぢやないか。487(はや)(たす)けてお()げなさい』
488秋彦(あきひこ)『そんな宋襄(そうじやう)(じん)(かへ)つてあの(をとこ)(にく)(やう)なものだ。489可愛(かはい)いから(この)断崕(だんがい)から()(おと)してやつたのです』
490松鷹彦(まつたかひこ)『なんと(めう)可愛(かはい)がり(やう)()つたものだなア。491(わし)(この)(とし)をして()るが、492そんな(あい)()いた(こと)()い』
493不思議(ふしぎ)さうに(のぞ)()んで()る。
494駒彦(こまひこ)『お(ぢい)さま、495(まへ)(ひと)可愛(かはい)がつてあげようか』
496松鷹彦(まつたかひこ)『イヤもう結構(けつこう)々々(けつこう)497前等(まへら)可愛(かはい)がられようものなら、498生命(いのち)(なに)()くなつて(しま)ふ。499(わか)(もの)()(かく)も、500(この)老人(としより)がどうなるものか。501(おそ)ろしい(ひと)(たち)だなア』
502蒼惶(さうくわう)として(はし)()る。
503駒彦(こまひこ)『アハヽヽヽ、504到頭(たうとう)老爺(ぢい)さま(きも)(つぶ)して()げて(しま)ひよつた。505サア秋彦(あきひこ)506モウ(よう)()んだ。507()れから各自(めいめい)手分(てわ)けをして、508(めい)ぜられた方面(はうめん)()(こと)にしよう。509…コレコレ真浦(まうら)さま、510マアゆつくりと(ゆき)(うへ)でお鎮魂(ちんこん)でもなさいませ。511これでお(いとま)(いた)します。512(その)(かは)りに百点(ひやくてん)だよ』
513両手(りやうて)(ひろ)げて()せ、514雪路(ゆきみち)一生懸命(いつしやうけんめい)何処(いづく)ともなく左右(さいう)(わか)れて(はし)()く。515真浦(まうら)苦心(くしん)惨憺(さんたん)結果(けつくわ)516(やうや)(まは)(みち)見出(みいだ)して、517(もと)(ところ)駆上(かけあが)り、518四辺(あたり)をキヨロキヨロ見廻(みまは)(なが)ら、
519真浦(まうら)『アヽ(たれ)(かれ)(みな)どつかへ埋没(まいぼつ)して(しま)つた。520エヽ仕方(しかた)がない、521足型(あしがた)便(たよ)りに(あと)()つかけよう』
522独語(どくご)しつつ(ゆき)(いん)した草鞋(わらぢ)(あと)を、523(いぬ)鋭利(えいり)嗅覚(きゆうかく)(しし)(あと)()(やう)調子(てうし)(すす)んで()く。524(ゆき)鵞毛(がまう)()(しき)り、525足跡(あしあと)(くぼ)みは(ほとん)埋没(まいぼつ)して(しま)つた。526見渡(みわた)(かぎ)りの白雪(しらゆき)()を、527一歩(ひとあし)々々(ひとあし)(さぐ)(やう)にして、528(つひ)には大川(おほかは)(ほとり)辿(たど)()いた。529(かは)(つつみ)(ほそ)(けぶり)破風口(はふぐち)より立昇(たちのぼ)(ちひ)さき茅屋(ばうをく)(さび)しげに()つて()る。530真浦(まうら)は『御免(ごめん)』と押戸(おしど)()けて()()れば以前(いぜん)老爺(ぢい)が、531(ばば)アと二人(ふたり)(ちや)(すす)つて()る。
532松鷹彦(まつたかひこ)『ヤアお(まへ)最前(さいぜん)宣伝使(せんでんし)だつたなア。533()()(くだ)さつた。534随分(ずゐぶん)乱暴(らんばう)(をとこ)()つたものだ。535あれは大方(おほかた)バラモンの残党(ざんたう)であらう。536(まへ)()()けないと、537どんな()()はされるか()れませぬぞや』
538真浦(まうら)『ハイ有難(ありがた)御座(ござ)います。539(じつ)(ひと)()(たうげ)西麓(せいろく)(おい)て、540盗賊(たうぞく)出会(であ)ひました。541それから(その)盗賊(たうぞく)さまに武志(たけし)(みや)まで(おく)つて(いただ)いたのです』
542松鷹彦(まつたかひこ)(なに)()られましたかなア』
543真浦(まうら)『イエ(べつ)に……()られる(どころ)結構(けつこう)(もの)沢山(たくさん)頂戴(ちやうだい)(いた)しました。544盗難品(たうなんひん)(ただ)一点(いつてん)()く、545(もら)つたものは前後(ぜんご)二回(にくわい)百点(ひやくてん)ばかりです。546(じつ)結構(けつこう)御神徳(おかげ)(いただ)きました。547最前(さいぜん)もアノ絶壁(ぜつぺき)から()(おと)され、548(その)(とき)にも三十五点(さんじふごてん)()れましたよ』
549松鷹彦(まつたかひこ)『ハテ合点(がてん)のゆかぬ(こと)仰有(おつしや)る。550その代物(しろもの)はどこに御所持(ごしよぢ)なさるかなア』
551真浦(まうら)『ハイ(のこ)らず(わたし)(はら)(なか)しまつてあります。552(えう)するに無形(むけい)(たから)ですよ』
553 松鷹彦(まつたかひこ)554両手(りやうて)()ち、555打諾(うちうな)づき(なが)ら、
556松鷹彦(まつたかひこ)『ハヽヽヽ、557(とし)()つて、558わしも余程(よほど)耄碌(まうろく)したと()えるワイ、559ホンにそうだ。560わしもお(まへ)さまから(たから)四五十点(しごじつてん)頂戴(ちやうだい)した。561(じつ)忍耐(にんたい)()(たから)結構(けつこう)なものだ。562さうでなくては(まこと)(みち)(ひろ)まりますまい。563バラモン(けう)随分(ずゐぶん)荒行(あらぎやう)(いた)しますが……(わし)(もと)三五教(あななひけう)(ほう)じて()りました。564それから三五教(あななひけう)宣伝使(せんでんし)行方(やりかた)があまり脱線(だつせん)だらけで、565愛想(あいさう)()き、566(おな)(こと)なら大勢(おほぜい)(もの)(しん)ずるバラモン(けう)(はう)処世上(しよせいじやう)便利(べんり)だと(おも)ひ、567一旦(いつたん)入信(にふしん)しましたが、568これ(また)どうしても(わし)()()ちない(てん)沢山(たくさん)ある。569そうかうして()(うち)にバラモン(けう)一部(いちぶ)()り、570ウラル(けう)(ある)(てん)加味(かみ)し、571三五教(あななひけう)(くは)へて、572(あらた)(おこ)つたウラナイ(けう)()(あたら)しき(をしへ)()()たので、573(また)もやウラナイ(けう)間男(まをとこ)をしました。574そうして神様(かみさま)武志(たけし)(みや)にお(まつ)りした(ところ)が、575その(ゆふべ)から夫婦(ふうふ)(もの)(にはか)病気(びやうき)()大変(たいへん)発熱(はつねつ)で、576幾度(いくたび)()(やう)()()ひ……コリヤやつぱり(もと)神様(かみさま)にすがらねばなるまい……と夫婦(ふうふ)(もの)三五教(あななひけう)大神(おほかみ)謝罪(おわび)をした(ところ)577不思議(ふしぎ)にも(その)(とき)より(ねつ)段々(だんだん)(さが)り、578(ばば)アは二三日(にさんにち)(のち)ケロリと(うそ)()いた(やう)全快(ぜんくわい)して(しま)つた。579(わし)()れから一里(いちり)(ばか)りある(した)(むら)(もの)から(えら)まれて、580武志(たけし)(みや)神主(かんぬし)をして()(もの)だが、581村人(むらびと)にさう幾度(いくど)幾度(いくど)神様(かみさま)()したり()れたりすると(おも)はれては、582信用(しんよう)がないから、583ソツとウラナイ(けう)高姫(たかひめ)さまが(まつ)つて()れた御神号(ごしんがう)(かは)(なが)し、584(いま)では三五教(あななひけう)神様(かみさま)をお(まつ)りしたいのだが、585一旦(いつたん)御神号(ごしんがう)(なが)して(しま)つたので、586(いただ)(わけ)にもゆかず、587(から)(みや)を……今日(けふ)今日(けふ)とて謝罪(おわび)(かたがた)(をが)みに()きました。588今日(けふ)(この)雪路(ゆきみち)三七廿一日(さんしちにじふいちにち)589毎日(まいにち)(かよ)ひましたが、590不思議(ふしぎ)(こと)には、591あなた(がた)宮様(みやさま)(まへ)でお()にかかつたのは、592(まつた)神様(かみさま)御引(おひ)(あは)せで御座(ござ)いませう。593(しか)(くは)しい教理(けうり)(ぞん)じませぬが、594三五教(あななひけう)宣伝使(せんでんし)はみな貴方(あなた)(やう)忍耐(にんたい)(つよ)(かた)ばかりですか』
595真浦(まうら)(むかし)三五教(あななひけう)随分(ずゐぶん)乱暴(らんばう)宣伝使(せんでんし)もあり脱線者(だつせんしや)沢山(たくさん)()たさうです。596(しか)(この)(ごろ)玉照彦(たまてるひこ)597玉照姫(たまてるひめ)()立派(りつぱ)神様(かみさま)(うま)()はりが、598聖地(せいち)(あら)はれ(たま)うてより、599(たれ)(かれ)も、600緊張(きんちやう)気分(きぶん)になり、601忍耐(にんたい)第一(だいいち)として天下(てんか)宣伝(せんでん)(はじ)めて()ります。602(はづ)かし(なが)(わたし)大台ケ原(おほだいがはら)山麓(さんろく)(あたた)かい(ところ)(うま)れ、603(らく)(そだ)つて()(むく)いで、604(この)雪国(ゆきぐに)(はじ)めて宣伝(せんでん)(まゐ)り、605余程(よほど)(くるし)みました。606さうして今日(けふ)宣伝(せんでん)初陣(うひぢん)です。607(わづ)かの時日(じじつ)608神様(かみさま)(をしへ)()かして(いただ)き、609言依別(ことよりわけ)教主様(けうしゆさま)から(ゆる)されて、610宣伝(せんでん)(まゐ)つた(もの)ですから、611詳細(くは)しい(こと)はまだ(ぞん)じませぬ』
612松鷹彦(まつたかひこ)『さうすると、613あなたは今日(けふ)(はじ)めてですか。614それはそれは本当(ほんたう)結構(けつこう)です。615宣伝使(せんでんし)(わか)らぬ(うち)こそ(かへつ)神徳(しんとく)もあり、616人徳(じんとく)(そな)はるものだ。617(すこ)(もの)(わか)ると()らず()らずに慢心(まんしん)()て、618(つひ)には信仰(しんかう)(こけ)()え、619(また)(もと)邪道(じやだう)逆転(ぎやくてん)するものだ。620(わし)もさう()初心(うぶ)宣伝使(せんでんし)一度(いちど)()ひたいと(おも)うて()つた。621どうぞ貴方(あなた)はこれから(わし)茅屋(あばらや)逗留(とうりう)し、622武志(たけし)(みや)御神体(ごしんたい)(まつ)つて(くだ)さい。623さうして(むら)(もの)にも(をしへ)(つた)へ、624バラモン(けう)(あらた)めさせたいものです』
625真浦(まうら)神様(かみさま)(まつ)ると()つても、626(わたし)(やう)なものでは、627到底(たうてい)それだけの資格(しかく)()りませぬ。628(とき)()聖地(せいち)にあなたも参拝(さんぱい)し、629言依別命(ことよりわけのみこと)(さま)面会(めんくわい)して、630御神体(ごしんたい)奉迎(ほうげい)してお(かへ)りなさいませ。631それが(なに)より結構(けつこう)でせう。632我々(われわれ)宣伝(せんでん)をするばかりの(やく)633神様(かみさま)御神体(ごしんたい)(あつか)(こと)出来(でき)ませぬ』
634松鷹彦(まつたかひこ)如何(いか)にも、635さう()けばさうです。636物品(ぶつぴん)(なに)かの(やう)軽々(かるがる)しう(あつか)(こと)出来(でき)ますまい。637時機(じき)をみて御願(おねが)ひする(こと)(いた)しませう。638さうして三五教(あななひけう)(をしへ)()(かた)は、639大体(だいたい)どう()(こと)眼目(がんもく)になつて()りますか』
640真浦(まうら)『あなたは最前(さいぜん)も、641三五教(あななひけう)入信(はいつ)()たと仰有(おつしや)つた。642(わたし)よりは、643()はば古参者(こさんしや)644()くお(わか)りでせう』
645松鷹彦(まつたかひこ)唯々(ただただ)世界(せかい)統一(とういつ)神様(かみさま)だと(しん)じ、646(この)(くも)つた()(なか)(はや)安楽(あんらく)な、647潔白(けつぱく)()にしたい(ばか)りに信仰(しんかう)(つづ)けて()たのみで、648()はば徹底(てつてい)せない信仰(しんかう)()りました。649それ(ゆゑ)あちら此方(こちら)迂路付(うろつ)いて()たのだが、650どうしても三五教(あななひけう)(まつ)神様(かみさま)御神力(ごしんりき)がある(やう)だ。651(なん)とはなしに(こひ)しくなつて()ました』
652真浦(まうら)(わたし)()つて()(こと)大体(だいたい)だけを簡単(かんたん)(まを)しますれば、653……世界(せかい)(かみ)慈愛(じあい)(をしへ)()りて、654道義的(だうぎてき)統一(とういつ)し、655()立替(たてかへ)立直(たてなほ)しを断行(だんかう)する(こと)656(あた)(かぎ)神様(かみさま)(みち)宣揚(せんやう)し、657体主霊従(たいしゆれいじう)物質的(ぶつしつてき)(をしへ)心酔(しんすゐ)せざる(やう)(をし)ふる(こと)658如何(いか)なる(こと)神様(かみさま)にお(まか)(まを)し、659自分(じぶん)()()さずに(あた)(かぎ)(みち)()りて(ちから)(つく)(こと)660天地神明(てんちしんめい)鴻恩(こうおん)(さと)り、661造次(ざうじ)にも顛沛(てんぱい)にも、662感謝(かんしや)祈願(きぐわん)(みち)(わす)れざる(こと)663(つね)謙譲(けんじやう)(とく)(やしな)(こと)664如何(いか)なる難儀(なんぎ)()うとも、665(まこと)(みち)(ため)ならば(すこ)しも(おそ)れず、666(まこと)(もつ)()()ける(こと)667社会(しやくわい)(ため)全力(ぜんりよく)(つく)し、668天下(てんか)救済(きうさい)神業(しんげふ)奉仕(ほうし)する(こと)なぞを(もつ)て、669吾々(われわれ)宣伝使(せんでんし)(つく)すべき職務(しよくむ)確信(かくしん)して()ります。670(しか)(なが)ら、671中々(なかなか)(おも)つた(やう)(おこな)ひが出来(でき)ないので、672神様(かみさま)(たい)して何時(いつ)恥入(はぢい)つて()次第(しだい)御座(ござ)います』
673松鷹彦(まつたかひこ)『オウ、674それで大体(だいたい)御主意(ごしゆい)(わか)りました。675(いま)までの三五教(あななひけう)宣伝使(せんでんし)は、676三五教(あななひけう)には退却(たいきやく)二字(にじ)()いと()つて、677随分(ずゐぶん)乱暴(らんばう)喧嘩(けんくわ)もしたものです。678(しか)るに今日(こんにち)あなたの御説(おせつ)(とほ)り、679三五教(あななひけう)自身(じしん)立替(たてかへ)出来(でき)以上(いじやう)は、680最早(もはや)天下(てんか)何者(なにもの)をか(おそ)れむやである。681(その)実行(じつかう)さへ出来(でき)れば、682(この)宇都山(うづやま)里人(さとびと)(のこ)らず帰順(きじゆん)するでせう。683どうぞ武志(たけし)(みや)社務所(ながとこ)にお(とど)まり(くだ)さつて、684不言実行(ふげんじつかう)手本(てほん)()せて(くだ)さい。685それが第一(だいいち)宣伝(せんでん)です』
686真浦(まうら)有難(ありがた)御座(ござ)います。687何分(なにぶん)(よろ)しく御願(おねが)(いた)します。688(わたし)初陣(うひぢん)として、689あなたの御病気(ごびやうき)全快(ぜんくわい)神様(かみさま)(いの)らして(くだ)さいませぬか』
690松鷹彦(まつたかひこ)『それは是非(ぜひ)(とも)(たの)まねばならぬ。691(しか)(なが)不言実行(ふげんじつかう)だ。692(まへ)さまが(わし)(うち)()()もなく、693(わし)病気(びやうき)()らぬ()(なほ)(やう)になさらぬか。694(ねが)はして()れ……なぞと仰有(おつしや)るのが間違(まちが)つて()る。695まだお(まへ)さまはチツと(ばか)名誉欲(めいよよく)()()いて()ますな』
696真浦(まうら)『ハイ(おそ)()りました。697それならモウ(けつ)して(いの)りませぬ。698あなたの病気(びやうき)には無関係(むくわんけい)ですから、699さう(おも)つて(くだ)さい』
700松鷹彦(まつたかひこ)『ハイハイ(わか)つた(わか)つた。701御互(おたがひ)神様(かみさま)御子(みこ)ぢや。702(みぎ)()より(ほどこ)(もの)(ひだり)()が、703()らぬ(やう)にするのが、704(まこと)不言実行(ふげんじつかう)705三五(あななひ)(をしへ)だ』
706真浦(まうら)『あなたは(なに)()()()つて()て、707(わたし)実地(じつち)教育(けういく)して(くだ)さるのだなア。708有難(ありがた)御座(ござ)います。709アヽ神様(かみさま)(ひと)(くち)()つて、710イロイロと修業(しうげふ)をさして(くだ)さるか、711(おも)へば(おも)へば有難(ありがた)い、712勿体(もつたい)ない』
713(なみだ)(そで)(ぬぐ)ふ。
714松鷹彦(まつたかひこ)『わしは(なん)にも()らない。715(ただ)(まへ)さまと(はなし)をして()(さい)716(にはか)(からだ)(へん)になつて、717あんな失礼(しつれい)(こと)()ひました。718どうぞ()()めて(くだ)さるな……アヽ有難(ありがた)い、719今迄(いままで)ヅキヅキとウヅいて()つた(わし)(あし)が、720何時(いつ)()にかスツカリ(なほ)つて(しま)つた』
721拍手(はくしゆ)再拝(さいはい)722真浦(まうら)(かみ)(ごと)くに()(あは)して(をが)()てる。
723 (ゆき)(とざ)され四五日(しごにち)真浦(まうら)は、724老夫婦(らうふうふ)親切(しんせつ)にほだされて、725教話(けうわ)()(なが)(ふゆ)()()した。
726松鷹彦(まつたかひこ)此処(ここ)御存(ごぞん)じの(とほ)り、727(やま)(やま)とに(かこ)まれて不便(ふべん)土地(とち)728御馳走(ごちそう)一度(いちど)()げたいと(おも)へども、729()(ゆき)(とざ)されては、730どうする(こと)出来(でき)ぬ。731(さいは)(この)(かは)(ふち)には、732沢山(たくさん)小魚(こざかな)()つて、733つい其処(そこ)(ふち)には、734(ふゆ)(さむ)さで一所(ひととこ)(こも)つて()る。735これを(すく)うて()て、736(まへ)さまの御馳走(ごちそう)にして()げませう』
737真浦(まうら)『ア、738それは有難(ありがた)う』
739()ひつつ、740(あと)小声(こごゑ)で、
741真浦(まうら)不言実行(ふげんじつかう)肝腎(かんじん)だなかつたかなア』
742(かす)かに(つぶや)いた。743老爺(ぢい)さまは玉網(たまあみ)(かた)げ、744(ゆき)()()けて川縁(かはぶち)()つた。745そうして玉網(たまあみ)(ふち)()()み、746(しき)りに(ほね)()つて()る。747(この)()座敷(ざしき)から()()える距離(きより)である。748()アさまと真浦(まうら)は、749(ぢい)さんの川漁(かはれう)面白(おもしろ)げに(なが)めて()た。750松鷹彦(まつたかひこ)はどうした動機(はずみ)か、751(あやま)つてドブンと(かは)落込(おちこ)み、752チツとも()いて()ない。753()アさまは素知(そし)らぬ(かほ)して(なが)めて()る。754真浦(まうら)(おどろ)いて、
755真浦(まうら)『ヤアお(ぢい)さまが(かは)()()んだ。756(たす)けてあげねばなるまい』
757()ちあがる。758()アさまは(はじ)めて(くち)(ひら)き、
759(ばば)不言実行(ふげんじつかう)だ』
760真浦(まうら)(おそ)()りました。761これから(わたし)もお(まへ)さまに(かは)つてあの青淵(あをふち)目蒐(めが)けて、762バサンと()()み、763ヂイさまを(すく)はう』
764(ばば)『お手並(てなみ)拝見(はいけん)(のち)御礼(おれい)(まを)しませう。765(なに)()()不言実行(ふげんじつかう)ですからなあ』
766 真浦(まうら)(しり)ひつからげ(ゆき)(なか)()けつ(まろ)びつ()んで()く。767()イは(この)(とき)(やなぎ)()()()き、768ムクムクと(あが)つて()た。
769真浦(まうら)『お(ぢい)さま、770結構(けつこう)でした。771()(たす)かつて(くだ)さつた。772(じつ)(わたし)もビツクリして(たす)けに()たのだ』
773松鷹彦(まつたかひこ)『あなたは有言不実行(いうげんふじつかう)だ、774アハヽヽヽ』
775 真浦(まうら)(だま)つて老爺(ぢい)さまの着物(きもの)(しぼ)りかけた。
776松鷹彦(まつたかひこ)自分(じぶん)着物(きもの)自分(じぶん)(しぼ)る。777モツと(わす)れたものがあるだらう』
778 真浦(まうら)(だま)つて引返(ひきかへ)し、779矢庭(やには)座敷(ざしき)(なか)をキヨロキヨロ()(なが)ら、780おやぢさまの着替(きがへ)見付(みつ)け、781小脇(こわき)(かか)へて飛出(とびだ)した。782()アは、
783(ばば)『コレコレお(まへ)さま、784それはおやぢの着物(きもの)だ。785老爺(おやじ)(はま)つたのを(さいは)ひ、786大切(たいせつ)着替(きがへ)不言実行(ふげんじつかう)して、787どこへ(さら)へて()くのだ。788……ホンにホンに油断(ゆだん)のならぬ(ひと)だなア、789オホヽヽヽ』
790真浦(まうら)『エー(をつと)危難(きなん)(まへ)()(なが)ら、791一言(ひとこと)(たの)みもせず、792不言実行(ふげんじつかう)だなんテ、793(なぞ)をかけやがつて、794おまけに(おれ)盗人(ぬすびと)(あつか)ひにして洒落(しやれ)()やがる。795此奴(こいつ)普通(ひととほり)(きつね)……オツトドツコイ(をんな)ぢやあるまい。796……(はや)()かぬと、797(ぢい)()てて(しま)ふ』
798裏口(うらぐち)(また)げかける。799()アは、
800(ばば)真浦(まうら)さま、801(はや)(はや)く、802不言実行(ふげんじつかう)だ』
803 真浦(まうら)(もの)をも()はず、804(ぢい)(ところ)(はし)()いた。805老爺(ぢい)赤裸(まつぱだか)となりて真浦(まうら)()つて()着物(きもの)を、806手早(てばや)()()け『(おほ)きに』とも、807御苦労(ごくらう)』とも()はず、808(だま)つてスゴスゴと(わが)()(かへ)る。809真浦(まうら)()れた着物(きもの)(あみ)引抱(ひつかか)へ、
810真浦(まうら)『アヽ本当(ほんたう)不言実行歩(ふげんじつかうほう)()よつたな。811油断(ゆだん)のならぬ化物爺(ばけものぢい)だ。812モウこれからは暫時(しばらく)(おし)修業(しうげふ)だ』
813(ひとり)ごちつつ、814(ぢい)(いへ)(かへ)つて()た。
815(ばば)流石(さすが)三五教(あななひけう)宣伝使(せんでんし)ぢや。816()()()いた。817これでお(まへ)(また)一点(いつてん)(ほど)点数(てんすう)()えましたデ、818ホヽヽヽヽ』
819松鷹彦(まつたかひこ)『アイタヽヽ、820(また)しても(いた)くなつた。821此奴(こいつ)病気(びやうき)()(かへ)るのではあるまいか。822非常(ひじやう)激痛(げきつう)だ』
823(かほ)(しか)め、
824松鷹彦(まつたかひこ)不言実行(ふげんじつかう)不言実行(ふげんじつかう)
825呶鳴(どな)つて()る。826()アは、
827折角(せつかく)御神徳(ごしんとく)(いただ)(なが)ら……(おやぢ)さま、828(まへ)二口目(ふたくちめ)には不言実行(ふげんじつかう)仰有(おつしや)るが、829()らぬ(たぬき)皮算用(かはざんよう)をする(やう)に、830(たな)牡丹餅(ぼたもち)をおろして()(やう)に、831慢心(まんしん)して、832真浦(まうら)さんに御馳走(ごちそう)をしてあげようかなんテ、833仰有(おつしや)るものだから、834(たちま)神様(かみさま)御戒(おいまし)めを()つて、835有言不実行(いうげんふじつかう)になり、836そんな土産(みやげ)頂戴(ちやうだい)して(くるし)むのだよ。837チツと神様(かみさま)謝罪(おわび)をなさらぬか』
838松鷹彦(まつたかひこ)(おれ)神様(かみさま)(たい)して不言実行(ふげんじつかう)839暗祈黙祷(あんきもくたう)()つて()るのだ。840どつか其辺(そこ)らに不言実行者(ふげんじつかうしや)が、841モウ()さうなものだ。842アイタヽヽ』
843 真浦(まうら)赤裸(まつぱだか)となり、844(うら)(かは)にザンブと()()み、845御禊(みそぎ)をなし、846一生懸命(いつしやうけんめい)何事(なにごと)祈願(きぐわん)(はじ)めた。847()イの(あし)(いた)みは不思議(ふしぎ)にもピタリと()まつた。
848松鷹彦(まつたかひこ)真浦(まうら)(さま)849有難(ありがた)う。850御神徳(おかげ)(いただ)きました。851サアどうぞ此方(こちら)()(くだ)さい。852()()いてあたらしてあげませう』
853 真浦(まうら)(かは)より()(あが)り、854身体(からだ)(つゆ)(ぬぐ)(なが)ら、
855真浦(まうら)『お老爺(ぢい)さま、856()()くのもヤツパリ不言実行(ふげんじつかう)だ、857アハヽヽヽ』
858大正一一・五・一二 旧四・一六 松村真澄録)