霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
目 次設 定
設定
印刷用画面を開く [?]プリント専用のシンプルな画面が開きます。文章の途中から印刷したい場合は、文頭にしたい位置のアンカーをクリックしてから開いて下さい。[×閉じる]
テキストのタイプ [?]ルビを表示させたまま文字列を選択してコピー&ペーストすると、ブラウザによってはルビも一緒にコピーされてしまい、ブログ等に引用するのに手間がかかります。そんな時には「コピー用のテキスト」に変更して下さい。ルビも脚注もない、ベタなテキストが表示され、きれいにコピーできます。[×閉じる]

文字サイズ
フォント

ルビの表示



アンカーの表示 [?]本文中に挿入している3~4桁の数字がアンカーです。原則として句読点ごとに付けており、標準設定では本文の左端に表示させています。クリックするとその位置から表示されます(URLの#の後ろに付ける場合は数字の頭に「a」を付けて下さい)。長いテキストをスクロールさせながら読んでいると、どこまで読んだのか分からなくなってしまう時がありますが、読んでいる位置を知るための目安にして下さい。目障りな場合は「表示しない」設定にして下さい。[×閉じる]


宣伝歌 [?]宣伝歌など七五調の歌は、底本ではたいてい二段組でレイアウトされています。しかしブラウザで読む場合には、二段組だと読みづらいので、標準設定では一段組に変更して(ただし二段目は分かるように一文字下げて)表示しています。お好みよって二段組に変更して下さい。[×閉じる]
脚注 [?][※]や[#]で括られている文字は当サイトで独自に付けた脚注です。まだ少ししか付いていませんが、目障りな場合は「表示しない」設定に変えて下さい。ただし[#]は重要な注記なので表示を消すことは出来ません。[×閉じる]


文字の色
背景の色
ルビの色
傍点の色 [?]底本で傍点(圏点)が付いている文字は、『霊界物語ネット』では太字で表示されますが、その色を変えます。[×閉じる]
外字1の色 [?]この設定は現在使われておりません。[×閉じる]
外字2の色 [?]文字がフォントに存在せず、画像を使っている場合がありますが、その画像の周囲の色を変えます。[×閉じる]

  

表示がおかしくなったらリロードしたり、クッキーを削除してみて下さい。


マーキングパネル
設定パネルで「全てのアンカーを表示」させてアンカーをクリックして下さい。

【引数の設定例】 &mky=a010-a021a034  アンカー010から021と、034を、イエローでマーキング。

          

第一〇章 山中(さんちう)(くわい)〔六七二〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第20巻 如意宝珠 未の巻 篇:第3篇 三国ケ嶽 よみ:みくにがだけ
章:第10章 第20巻 よみ:さんちゅうのかい 通し章番号:672
口述日:1922(大正11)年05月14日(旧04月18日) 口述場所: 筆録者:外山豊二 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年3月15日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
田吾作は、おかしな宣伝歌を出任せに歌いながら山道を登っていく。すると上から赤子に乳を含ませながら下ってくる妙齢の女があった。田吾作は山女に話しかけるが、女はただ笑っている。
三人は女についていろいろと議論していると、女は毛むくじゃらの獣の下半身を表して、山の上の方に歩み出した。少し行っては後ろを振り向き、三人を見ている。三人は、悪魔が正体を表したことを知り、敵地に警戒を強めた。
やがて日が没し、闇が辺りを包むと、猛獣の声や怪しい物音が間断なく聞こえてきた。原彦は肝をつぶしてしまう。田吾作は原彦の気弱をなじり、昔、原彦が自分の玉を盗もうとしたときの話をして気を保たせようとする。
耳の痛い話を持ち出されて、原彦は宗彦に話しかけるが、宗彦は眠ってしまっている。田吾作はさらに、当時の話を面白い節回しで歌いだした。すると、自分は鬼婆だという声が聞こえてきた。田吾作は、留公の作り声だとすぐにわかって、声に対して怒鳴り返す。
原彦はおびえているが、鬼婆の振りをした留公はどこかへ行ってしまった。宗彦も起きて、留公に似た声だったと言うと、宗彦・田吾作は寝込んでしまった。原彦は二人の間で一睡もできずに震えていた。
主な登場人物: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日: OBC :rm2010
愛善世界社版:218頁 八幡書店版:第4輯 230頁 修補版: 校定版:226頁 普及版:99頁 初版: ページ備考:
001田吾作(たごさく)朝日(あさひ)(ひか)(つき)()
002武志(たけし)(もり)小夜砧(さよきぬた)
003宇都山郷(うづやまがう)立出(たちい)でて
004三五教(あななひけう)宣伝使(せんでんし)
005(かみ)のまにまに宗彦(むねひこ)
006(あと)(したが)()()れば
007誠明石(まことあかし)山道(やまみち)
008(たちま)(きり)(ふさ)がりて
009不動(ふどう)(たき)雲隠(くもがく)
010一歩(ひとあし)二歩(ふたあし)(さぐ)()
011水音(みなおと)合図(あひづ)留公(とめこう)
012(とめ)るも()かず真裸体(まつぱだか)
013(かはづ)(つら)水行(みづぎやう)
014ザワザワザワと()(なが)
015手早(てばや)衣類(いるゐ)(かた)にかけ
016(きり)(おし)わけて山頂(さんちやう)
017(のぼ)つて四方(よも)(なが)むれば
018丹波(たんば)名物(めいぶつ)(きり)(うみ)
019彼方(あちら)此方(こちら)にポコポコと
020(やま)(いただ)()()でて
021宛然(さながら)()()(ごと)くなる
022景色(けしき)名残(なご)りを(をし)みつつ
023(あゆ)みの下手(へた)留公(とめこう)
024(かか)へるやうに可愛(いたは)りつ
025明石(あかし)(さと)()()えて
026(みち)(かたへ)(ひと)()
027(やまひ)(なや)原彦(はらひこ)
028()(わざはひ)をとり()けて
029此処(ここ)にいよいよ四人連(よにんづ)
030宗彦司(むねひこつかさ)(あと)()
031山国川(やまくにがは)(ひと)(ばし)
032(わた)(をり)しも川下(かはしも)
033ザンブと()ちし水煙(みづけぶり)
034唯事(ただごと)ならじと田吾作(たごさく)
035(あし)(はや)めて(かは)()
036()せつけ()ればこは如何(いか)
037(ゆき)(あざむ)(しろ)(かほ)
038(やさ)しき(ほそ)()()げて
039(なが)れの(なか)立岩(たちいは)
040(かげ)(ひそ)みて(こゑ)(かぎ)
041(たす)けを(さけ)真最中(まつさいちう)
042()るに()かねて田吾作(たごさく)
043仁慈(みろく)(こころ)発揮(はつき)して
044わが()(わす)()()めば
045(かは)()ちたる妙齢(めうれい)
046美人(びじん)()えしは大江山(おほえやま)
047(おに)身魂(みたま)再来(さいらい)
048(あを)(つの)をば額上(がくじやう)
049ニユツと(はや)して()()いて
050鰐口(わにぐち)(ひら)きカラカラと
051(わら)うてけつかる(いや)らしさ
052(なみ)()まれた田吾作(たごさく)
053進退(しんたい)(ここ)(きは)まりて
054溺死(できし)をするかと(おも)ふほど
055(いき)(くる)しくなつた(とき)
056(なん)だか()らぬが(めう)(こゑ)
057(きこ)(きた)るとみるうちに
058裸体(はだか)になつた(おれ)()
059(いはほ)(うへ)()()ちぬ
060人三化七(にんさんばけしち)鬼娘(おにむすめ)
061悪魔(あくま)(やつ)(にら)()
062コリヤ(たま)らぬと()(いら)
063宗彦(むねひこ)さまや留公(とめこう)
064(こゑ)(かぎ)りに(まね)けども
065臆病風(おくびやうかぜ)(おそ)はれた
066いの一番(いちばん)宣伝使(せんでんし)
067宗彦(むねひこ)さまを(はじ)めとし
068留公(とめこう)原彦(はらひこ)両人(りやうにん)
069(あを)(かほ)して(ふる)へゐる
070エーもう駄目(だめ)だもう駄目(だめ)
071()んな卑怯(ひけふ)腰抜(こしぬ)けを
072(ちから)にするのが間違(まちが)ひよ
073モー(この)(うへ)是非(ぜひ)もない
074地獄(ぢごく)(かま)のド天井(てんじやう)
075一足飛(いつそくと)びに()心地(ここち)
076(かは)へザンブと(をど)()
077(おに)(むすめ)(かた)をとり
078心中(しんぢう)しようか()(しば)
079たつた(ひと)つの(この)生命(いのち)
080()ぬのはチツト(はや)かろと
081日頃(ひごろ)手練(しゆれん)游泳術(いうえいじゆつ)
082悠々(いういう)(さわ)がず急流(きふりう)
083(わた)つて(きし)()(あが)
084(あと)()(かへ)(なが)むれば
085(おに)(むすめ)にあらずして
086()るも(おそ)ろし大蛇(をろち)姿(すがた)
087アヽ(だま)された(だま)された
088(おれ)(ゆめ)でも()()たか
089(ほほ)(つめ)つて調(しら)ぶれば
090やつぱり(ほほ)はピリピリと
091(かすか)苦痛(くつう)(うつた)へる
092(みづ)()うだと()(すく)
093()めて()たれば矢張(やつぱ)(みづ)
094(みづ)身魂(みたま)御守護(おんしゆご)
095(きよ)(すず)しく(この)(とほ)
096(おれ)結構(けつこう)修業(しうげふ)した
097筑紫(つくし)日向(ひむか)立花(たちはな)
098小戸(をど)青木ケ原(あをきがはら)()
099(かみ)(なが)れは()(はや)
100(しも)(なが)れは()(よわ)
101(みづ)身魂(みたま)三栗(みつぐり)
102中瀬(なかせ)()りて心地(ここち)()
103(みそ)(はら)ひの神業(かむわざ)
104首尾(しゆび)()()へて三人(さんにん)
105茫然自失(ばうぜんじしつ)為体(ていたらく)
106アフンとして()(その)(まへ)
107ニユツと(あら)はれオイ留公(とめこう)
108原彦(はらひこ)(なに)をして()るか
109ちつとは(しつか)りしてくれと
110(しやく)(さは)つて横面(よこづら)
111ポカリとやつて()(ところ)
112神力(しんりき)こもる鉄腕(てつわん)
113一堪(ひとたま)りもなく顛倒(てんたう)
114(かぜ)()()()るやうに
115さしもに(ひろ)大川(おほかは)
116(まり)中空(ちうくう)()げし(ごと)
117二人(ふたり)(やつ)()()つた
118それより宗彦(むねひこ)宣伝使(せんでんし)
119田吾作(たごさく)さまの神力(しんりき)
120(きも)(つぶ)して今迄(いままで)
121態度(たいど)(たちま)一変(いつぺん)
122(こころ)(そこ)から()()つて
123田吾作(たごさく)さまを様付(さまづ)けに
124言霊(ことたま)()へた可笑(をか)しさよ
125丸木(まるき)(はし)(あと)にして
126旗鼓(きこ)堂々(だうだう)()()れば
127(にしき)(ころも)(まと)ひたる
128山姫(やまひめ)さまが左右(さいう)より
129化粧(けしやう)()らして田吾作(たごさく)
130ちよつと()つてと()()める
131三国ケ嶽(みくにがだけ)曲神(まがかみ)
132征伐道中(せいばつだうちう)(この)身体(からだ)
133(かど)(ひろ)いサア(はな)
134花瀬(はなせ)(さと)(あと)にして
135(たに)()()岩伝(いはづた)
136やうやう三国(みくに)山麓(さんろく)
137辿(たど)りついたる(をり)もあれ
138留公(とめこう)態度(たいど)一変(いつぺん)
139徐々(そろそろ)弱音(よわね)()きかける
140コリヤ面白(おもしろ)面白(おもしろ)
141屹度(きつと)彼奴(あいつ)のことならば
142奇抜(きばつ)芝居(しばゐ)()つであろ
143勝手(かつて)にせよと()きやれば
144留公(とめこう)(やつ)(よろこ)んで
145(しり)ひつからげスタスタと
146(いま)()(みち)(くだ)()
147(あと)(のこ)つた三人(さんにん)
148激湍(げきたん)飛沫(ひまつ)轟々(ぐわうぐわう)
149(おと)(かしま)しき谷川(たにがは)
150(ほと)りを(つた)ひわけ(のぼ)
151(かは)(へだ)てて四五人(しごにん)
152得体(えたい)()れぬ老若(らうにやく)
153(くま)(かは)やら(しし)(かは)
154(たすき)十字(じふじ)にあやどつて
155木々(きぎ)(こずゑ)()(なが)
156(のこ)つた(くま)生皮(なまかは)
157(たに)(なが)れに(ひた)しつつ
158(もの)をも()はず(あら)()
159一行(いつかう)(なか)周章者(あわてもの)
160(はら)(くさ)つた原彦(はらひこ)
161(よく)(とぼ)けてザブザブと
162生命(いのち)(まと)谷渡(たにわた)
163()るより五人(ごにん)老若(らうにやく)
164この(いきほ)ひに辟易(へきえき)
165(もの)をも()はず手真似(てまね)して
166(くも)(かすみ)()げて()
167(つづ)いて宗彦(むねひこ)宣伝使(せんでんし)
168(また)もや(たに)打渡(うちわた)
169(よく)(かぎ)()熊鷹(くまたか)
170(つら)皮剥(かはは)ぎヌースー(しき)
171(のこ)るくまなく発揮(はつき)して
172(ほこ)(まじ)へぬ戦利品(せんりひん)
173(はな)高々(たかだか)とうごめかし
174不言実行(ふげんじつかう)洒落(しやれ)(なが)
175田吾作(たごさく)さんが捕獲(ほくわく)した
176()れた(かは)をば(あせ)かいて
177(しぼ)つてくれた殊勝(しゆしよう)さよ
178(まよ)うた(みち)()(なほ)
179小柴(こしば)をわけてテクテクと
180(むな)つき(ざか)()(あが)
181(たちま)(ここ)三人(さんにん)
182童子(どうじ)姿(すがた)(あら)はれて
183()()(わら)(また)(おこ)
184七尺(しちしやく)有余(いうよ)荒男(あらをとこ)
185三尺(さんじやく)()らずの幼児(をさなご)
186(しか)()ばされ散々(さんざん)
187(あぶら)(あせ)(しぼ)られて
188(あやま)()つた不甲斐(ふがひ)なさ
189童子(どうじ)姿(すがた)(たちま)ちに
190(けぶり)()えた(その)(あと)
191(みみ)鼓膜(こまく)(やぶ)りつつ
192(つた)はり(きた)怪声(くわいせい)
193三国ケ嶽(みくにがだけ)大秘密(だいひみつ)
194(さぐ)手段(てだて)とならうかと
195怖気(おぢけ)づいたる両人(りやうにん)
196(あと)(のこ)して田吾作(たごさく)
197小柴(こしば)(おし)わけ怪声(くわいせい)
198辿(たど)辿(たど)りて千仭(せんじん)
199(たに)(かたへ)()()れば
200木伝(こづた)(ましら)(さけ)(ごゑ)
201(あん)相違(さうゐ)自棄腹(やけつぱら)
202スゴスゴ(かへ)つて両人(りやうにん)
203わが言霊(ことたま)(おびや)かし
204面白(おもしろ)可笑(をか)しく(のぼ)()
205(やが)ては名高(なだか)鬼婆(おにばば)
206岩窟(いはや)棲処(すみか)()えるだろ
207(かみ)(たま)ひし言霊(ことたま)
208伊吹(いぶき)狭霧(さぎり)極端(きよくたん)
209神力(しんりき)(つよ)田吾作(たごさく)
210イの一番(いちばん)発射(はつしや)して
211高天原(たかあまはら)蓮華台(れんげだい)
212(にしき)(みや)御前(おんまへ)
213(いさを)()つるは()(あた)
214アヽ(いさ)ましや(いさ)ましや
215これから乃公(わし)司令官(しれいくわん)
216宗彦(むねひこ)さまよ原彦(はらひこ)
217(たがひ)(むね)()()けて
218(はら)(あは)して田吾作(たごさく)
219指揮(しき)命令(めいれい)遵奉(じゆんぽう)
220蜈蚣(むかで)(ひめ)()れの()
221(ひと)()()鬼婆(おにばば)
222それに(したが)曲神(まがかみ)
223一泡(ひとあわ)()かせ三五(あななひ)
224(をしへ)(みち)(すく)はむは
225(いま)()(あた)()(やう)
226アヽ面白(おもしろ)面白(おもしろ)
227(かみ)(おもて)(あら)はれて
228(ぜん)(あく)とを立別(たてわ)ける
229田吾作(たごさく)ここに(あら)はれて
230(かみ)(おに)とを立別(たてわ)けて
231(この)()(つく)りし皇神(すめかみ)
232(うづ)御前(みまへ)復命(かへりごと)
233(まを)すも(あま)(とほ)からず
234(きた)れよ(きた)れいざ(きた)
235(てき)幾万(いくまん)ありとても
236(おそ)るる(なか)(おそ)るるな
237(かみ)(なんぢ)(とも)()
238(かみ)(わが)()宿(やど)ります
239アヽ惟神(かむながら)々々(かむながら)
240御霊(みたま)(さち)はひましませよ』
241呂律(ろれつ)(まは)らぬ(くち)から出任(でまか)せの(うた)(うた)ひ、242田吾作(たごさく)(いきほひ)(するど)く、243山上(さんじやう)目蒐(めが)けて(すす)()く。244(いとけ)なき赤児(あかご)(ちち)をふくませ(なが)(くだ)()妙齢(めうれい)美人(びじん)(ただ)一人(ひとり)245(やや)面部(めんぶ)憂愁(いうしう)(いろ)(うか)(なが)ら、246灌木(くわんぼく)(しげ)みより()いたやうに(あら)はれた。
247田吾作(たごさく)『ヤア山姫(やまひめ)(やつ)248(おれ)円満清朗(ゑんまんせいろう)なる言霊(ことたま)感動(かんどう)()つて、249感謝(かんしや)()(へう)するために(あら)はれたのだな。250コレハコレハ山上(さんじやう)御婦人(ごふじん)251(やま)神様(かみさま)252出迎(でむか)大儀(たいぎ)でござる』
253(をんな)『オホヽヽヽ』
254田吾作(たごさく)『コリヤ山女(やまをんな)255(おれ)(たれ)だと心得(こころえ)()る。256七尺(しちしやく)男子(だんし)物申(ものまを)して()るのに、257無礼千万(ぶれいせんばん)にも吾々(われわれ)冷笑(れいせう)いたすとは()しからぬ代物(しろもの)だ。258(なんぢ)(なん)といふ魔神(まがみ)であるか。259あり(てい)申上(まをしあ)げろ。260愚図々々(ぐづぐづ)(いた)せば()鉄腕(てつわん)承知(しようち)(いた)さぬぞ』
261(をんな)『オホヽヽヽ』
262赤児(あかご)『フギア フギア フギア』
263田吾作(たごさく)宗彦(むねひこ)さま、264原彦(はらひこ)さま、265チツト加勢(かせい)して(くだ)さらぬか。266随分(ずゐぶん)(あや)しい代物(しろもの)ですがなア』
267宗彦(むねひこ)最前(さいぜん)からお(まへ)(うた)()いて()れば、268随分(ずゐぶん)豪勢(がうせい)なものだつた。269何事(なにごと)自分(じぶん)でなければ出来(でき)ないやうな業託(ごふたく)(なら)べたぢやないか』
270田吾作(たごさく)業託(ごふたく)業託(ごふたく)として(この)(さい)一臂(いつぴ)補助(ほじよ)(ねが)はねば、271言霊(ことたま)会社(くわいしや)経営難(けいえいなん)(おちい)り、272破産(はさん)運命(うんめい)(ひん)するかも(わか)りませぬ。273どうぞ嘘八百株(うそはつぴやくかぶ)ほど()つて(くだ)さらぬか。274さうして原彦(はらひこ)さまには代言(だいげん)三百株(さんびやくかぶ)ほど御願(おねが)ひします』
275宗彦(むねひこ)『アハヽヽヽ』
276原彦(はらひこ)『ウフヽヽヽ』
277(をんな)『オホヽヽヽ』
278赤児(あかご)『フギア フギア フギア』
279田吾作(たごさく)『エー貴様等(きさまら)()いたり、280(わら)うたり(ひと)馬鹿(ばか)にするのか。281貴様(きさま)泣笑(なきわら)ひで()めるなら(おれ)(おこ)りの言霊(ことたま)だ。282おこりといふものは間歇性(かんけつせい)病気(びやうき)で、283隔日(かくじつ)()るものだが、284(おれ)毎日(まいにち)毎晩(まいばん)確実(かくじつ)()めてやるから、285左様(さう)(おも)へ』
286(をんな)『オホヽヽヽ』
287赤児(あかご)『フギア フギア フギア』
288田吾作(たごさく)『エー(また)()いたり(わら)つたり、289()結構(けつこう)神国(しんこく)(うま)れて、290()いたり(わら)つたりする(やつ)があるか。291(つつし)(かしこ)真面目(まじめ)になつて御神恩(ごしんおん)感謝(かんしや)せぬかい』
292宗彦(むねひこ)『モシモシ御女中(おぢよちう)293斯様(かやう)(ところ)(あか)(ばう)()いて(あら)はれ(たま)うたのは、294(いづ)れの神様(かみさま)でございますか。295どうぞ御名(みな)名告(なの)(くだ)さいませ』
296田吾作(たごさく)『エー宗彦(むねひこ)宣伝使(せんでんし)297(なに)(とぼ)けてござるのだ。298此奴(こいつ)三国ケ嶽(みくにがだけ)古狐(ふるぎつね)だ。299古狐(ふるぎつね)御丁寧(ごていねい)(うやま)言葉(ことば)使(つか)ふといふ(こと)がありますか。300大方(おほかた)眉毛(まゆげ)()まれて(しま)つたのでせう。301アア御用心(ごようじん)御用心(ごようじん)
302()ひつつ(しき)りに(まゆ)(つばき)指尖(ゆびさき)発送(はつそう)してゐる。
303田吾作(たごさく)『アー留公(とめこう)(かね)ての計画(けいくわく)(わす)()つたか。304なんぼ()つて()つても(あら)はれてはくれず、305(ちから)(おも)宣伝使(せんでんし)(きつね)につままれる。306何程(なにほど)智謀(ちぼう)絶倫(ぜつりん)(おれ)でも、307マア二人(ふたり)気違(きちが)ひを看病(かんびやう)(なが)敵地(てきち)(すす)むことは出来(でき)ない。308(たれ)()()(この)足手纏(あしてまと)ひの気違(きちが)ひを引留(ひきと)めてくれるものがあるまいかなア。309(ちか)くに癲狂院(てんきやうゐん)があれば入院(にふゐん)させたいものだが、310深山(しんざん)(こと)とて、311仰天院(ぎやうてんゐん)ばかりで精神病院(せいしんびやうゐん)らしいものも()し、312()うしたらよからう。313無線(むせん)電話(でんわ)をかけて言依別(ことよりわけ)(さま)応援(おうゑん)(ねが)(わけ)にも()かず、314アヽ(こま)つた破目(はめ)になつたものだ。315イヤア()()て、316これから無言霊話(むげんれいわ)をかけて留公(とめこう)()んでやらう』
317 (をんな)(おほ)きな(しり)をクレツと(まく)つて()せた。318(くま)のやうな真黒(まつくろ)()一面(いちめん)(はや)し、319()()(うち)上半身(じやうはんしん)純白(じゆんぱく)となり、320後半身(こうはんしん)純黒(じゆんこく)(けもの)となつてガサリガサリと(あゆ)()し、321三間(さんげん)(ほど)()つてはギヨロツと(うしろ)()き、322(また)三間(さんげん)(ほど)()つてはギロリツと振向(ふりむ)き、323幾十回(いくじつくわい)とも()繰返(くりかへ)(なが)山上(さんじやう)目蒐(めが)けて(のぼ)()く。
324田吾作(たごさく)『どうですか、325宗彦(むねひこ)さま、326原彦(はらひこ)さま、327天眼通(てんがんつう)此処(ここ)まで応用(おうよう)出来(でき)れば結構(けつこう)なものでせう。328無言霊話(むげんれいわ)高天原(たかあまはら)へかけたところ、329(たちま)数万(すうまん)神軍(しんぐん)此処(ここ)(あら)はれ(たま)ひしその御威勢(ごゐせい)(おそ)れ、330さしもに兇暴(きようばう)なる曲神(まがかみ)も、331()身体(からだ)白黒(しろくろ)させて正体(しやうたい)(あら)はし()げて()つたでせう。332これでも田吾作(たごさく)命令(めいれい)()きませぬか』
333宗彦(むねひこ)『それは、334まぐれ(あた)りだよ。335(まへ)()宣伝使(せんでんし)肩書(かたがき)がないのだから、336(なん)()つても表面(おもて)(とほ)らない。337(くさ)つても(たひ)だ、338()(じつ)(しゆ)だから矢張(やつぱ)宣伝使(せんでんし)()()(おそ)れて、339悪魔(あくま)正体(しやうたい)(あら)はしたのだ。340如何(いか)悪魔(あくま)だつて()()奴等(やつら)降伏(かうふく)するものか、341無名(むめい)人物(じんぶつ)降伏(かうふく)するやうなことでは、342悪魔(あくま)体面(たいめん)(くわん)するからなア』
343田吾作(たごさく)『アハヽヽヽ、344よう仰有(おつしや)いますワイ、345宣伝使(せんでんし)のレツテル一枚(いちまい)(くらゐ)金城鉄壁(きんじやうてつぺき)(たの)んで、346何事(なにごと)もそれでやつて()かうと()ふのは(じつ)無謀(むぼう)だ、347無恥(むち)だ、348依頼心(いらいしん)極端(きよくたん)発揮(はつき)したものだなア。349宣伝使(せんでんし)なんかは()高天原(たかあまはら)から(かみ)一枚(いちまい)(くだ)つて()たが最後(さいご)350(すぐ)首落(くびお)ちになるのだからなア。
351宗彦(むねひこ)
352一、353(この)(たび)三国ケ嶽(みくにがだけ)言向戦(ことむけせん)不都合(ふつがふ)(かど)有之(これある)(もつ)て、354評議(へうぎ)(うへ)(その)(しよく)(めん)ずべきもの(なり)
355言依別命(ことよりわけのみこと)
356とこれだけだ。357あんまり肩書(かたがき)(ちから)にして(もら)ふまいかい。358それよりも(はら)(なか)第一鬼(だいいちおに)征服(せいふく)し、359本守護神(ほんしゆごじん)(すなは)天人(てんにん)御発動(ごはつどう)御祈願(ごきぐわん)するのが一等(いつとう)だ』
360宗彦(むねひこ)『よう小理屈(こりくつ)(さへづ)(をとこ)だなア。361(わし)(いもうと)婿(むこ)百舌鳥(もず)(つばめ)()つたかと(おも)へば残念(ざんねん)だワイ、362アハヽヽヽ』
363原彦(はらひこ)『モシモシ貴方等(あなたがた)義理(ぎり)兄弟(きやうだい)ぢやありませぬか、364()つともない、365喧嘩(けんくわ)はお()しなさいませ。366兄弟(けいてい)(かき)(せめ)ぐとも(ほか)(その)(あなど)りを(ふせ)ぐと()ふことぢやありませぬか。367喧嘩(けんくわ)したければ(いへ)(かへ)つて、368いくらでも()やりなさい。369此処(ここ)敵前(てきぜん)(いな)(てき)領地(りやうち)這入(はい)つて()()るのですからなア』
370田吾作(たごさく)敵地(てきち)敵地(てきち)371喧嘩(けんくわ)喧嘩(けんくわ)372兄弟(きやうだい)兄弟(きやうだい)区別(くべつ)()てねば、373国政(こくせい)整理上(せいりじやう)都合(つがふ)(わる)い。374(なに)()もゴモク(めし)のやうに混同(こんどう)されては、375社会(しやくわい)秩序(ちつじよ)(みだ)れて(しま)ふ。376(すべ)分業的(ぶんげふてき)になつて()文明(ぶんめい)()(なか)だ。377兄弟(きやうだい)他人(たにん)(はじ)まりと()(こと)があるが、378(わし)兄弟(きやうだい)一種(いつしゆ)特別(とくべつ)だ、379他人(たにん)兄弟(きやうだい)(はじ)まりとなつたのだからなア、380アハヽヽヽ』
381宗彦(むねひこ)『もう()加減(かげん)(ねこ)じやれ(やう)喧嘩(けんくわ)()めようかい。382(はな)ばつかり()かして()山吹(やまぶき)では仕方(しかた)がない。383サアこれからが戦場(せんぢやう)だ』
384 原彦(はらひこ)心配相(しんぱいさう)(かほ)をして、
385原彦(はらひこ)田吾作(たごさく)さま、386あの(とほ)宣伝使(せんでんし)仰有(おつしや)るのだから、387(まへ)(いま)(しばら)沈黙(ちんもく)して(くだ)さい。388最前(さいぜん)から矢釜敷(やかまし)仰有(おつしや)つた()不言実行(ふげんじつかう)とやらを、389何処(どこ)(おと)しなさつたのか』
390田吾作(たごさく)目下(もくか)熟考中(じゆくかうちう)だ。391さう八釜敷(やかまし)()つてくれない。392何程(なんぼ)393普賢菩薩(ふげんぼさつ)(おれ)でも、394(にはか)にさう奇智(きち)名案(めいあん)()くものではない。395(いま)(こころ)(はたけ)智慧(ちゑ)種子(たね)()いたところだから、396せめて十日(とをか)二十日(はつか)()つてくれないと、397(かぶら)とも菜種(なたね)とも見当(けんたう)がつかぬ(わい)398アハヽヽヽ』
399他愛(たあい)()(わら)(なが)ら、400大木(たいぼく)()(こし)をかけて横臥(わうぐわ)する。401四辺(しへん)暗澹(あんたん)として天日(てんじつ)(ぼつ)し、402(やみ)(とばり)(かた)(とざ)された。403深山(しんざん)(つね)として猛獣(まうじう)(たけ)(くる)(こゑ)404天狗(てんぐ)()捻折(ねぢを)るが(ごと)(あや)しの物音(ものおと)405間断(かんだん)()(きこ)えて()る。406原彦(はらひこ)()物凄(ものすご)(こゑ)(きも)(うば)はれ、407(こゑ)をも()()ずビリビリと(ふる)(あが)り、408田吾作(たごさく)(そで)(しつか)(にぎ)小声(こごゑ)にて、
409原彦(はらひこ)『オイ田吾作(たごさく)410コリヤ()うなるのだらう。411随分(ずゐぶん)気分(きぶん)(わる)(こと)はエーないぢやないか』
412田吾作(たごさく)『そうだ、413あまり気分(きぶん)がよくない(こと)はない(わい)414(しか)吾々(われわれ)小宇宙(せううちう)変動(へんどう)(きた)し、415震災(しんさい)(やく)見舞(みま)はれて()(ところ)だなア』
416原彦(はらひこ)『さう(たか)(こゑ)()つてくれな。417宣伝使(せんでんし)()()けて()かれたら(ざま)(わる)いワ』
418田吾作(たごさく)(ざま)(わる)いなんて、419よう(ぬか)すなア。420貴様(きさま)旧悪(きうあく)みんな宣伝使(せんでんし)(まへ)で、421うつつになつて(しやべ)つたのだから、422(いま)になつてそんなテレ(かく)しをしたつて駄目(だめ)だよ。423随分(ずゐぶん)(むかし)悪人(あくにん)だつたなア。424(おれ)愛宕山(あたごやま)()えて結構(けつこう)黄色(わうしよく)宝玉(ほうぎよく)(ふところ)()ち、425保津(ほづ)(さと)(まで)やつて()ると、426森蔭(もりかげ)から頬被(ほうかむ)りをしてヌーと(あら)はれた(やつ)(たれ)だつたいのー。427随分(ずゐぶん)彼処(あこ)此処(ここ)(おと)らぬ(すご)(ところ)だつたねー。428さうして何々(なになに)とか()(はら)(わる)(をとこ)(おれ)(たま)(かぎ)つけ、429(はら)をペコペコ、430(はな)をピコピコ、431ハラハラヒコヒコさせ(なが)(あら)はれて()やがつて「モーシモーシ(たび)御方(おかた)432(わたくし)(この)(へん)猟人(かりうど)でございます。433最前(さいぜん)からの(あめ)火縄(ひなは)湿(しめ)り、434困難(こんなん)(いた)して()りますれば、435どうぞ提灯(ちやうちん)()御貸(おか)(くだ)さいませ」と()来居(きを)つたのだ。436さうすると田吾作(たごさく)()旅人(たびびと)が「ハテ心得(こころえ)ぬ、437()(さび)しき山道(やまみち)の、438しかも森林(しんりん)(なか)より狩人(かりうど)(あら)はれるとは合点(がてん)()かぬ。439(ひる)ならば()(かく)440夜分(やぶん)(しし)()につく(はず)はない。441こんな不合理(ふがふり)なことを()(やつ)は、442(たし)かに(しし)猟夫(れふし)ではなからう。443(ふところ)()(たま)(れふ)する曲者(くせもの)か、444(ただし)追剥(おひはぎ)か」と流石(さすが)奇智(きち)神謀(しんぼう)()んだ旅人(たびびと)(やや)躊躇(ちうちよ)(てい)であつた』
445原彦(はらひこ)『オイオイそんなことを()ふものぢやない。446もう()加減(かげん)()めてくれ』
447田吾作(たごさく)『マア()いぢやないか。448()()(なが)いのに、449ちつと()はしてくれ、450(くち)(むし)()(わい)451エー一寸(ちよつと)五分間(ごふんかん)休息(きうそく)(いた)しました。452客様方(きやくさまがた)御待(おま)たせをして()みませぬ。453これから前段(ぜんだん)引続(ひきつづ)きを一席(いつせき)講演(かうえん)(いた)しまして御高聞(ごかうぶん)(たつ)します』
454原彦(はらひこ)『さう(むかし)(こと)(おも)()し、455心気(しんき)昂奮(かうふん)させた(ところ)仕方(しかた)がないぢやないか。456もう()加減(かげん)()めて()しいものだなア』
457田吾作(たごさく)(おれ)のは天下(てんか)公憤(こうふん)だよ。458(けつ)してお(まへ)(たい)して私憤(しふん)()らすのぢやない。459(また)(まへ)(おれ)との(はなし)でも(なん)でも()い。460()ぎし(むかし)夢物語(ゆめものがたり)で、461(けつ)して(おれ)(はら)原彦(はらひこ)(わる)いのぢやない。462(まへ)はこんな(こと)()くと、463むかついて宗彦(むねひこ)(わる)くなるだらうが、464これも(とき)(まは)(あは)せだ。465忍耐(にんたい)幸福(かうふく)(もと)だから、466忍耐(にんたい)をして面白(おもしろ)(はなし)()くのだよ。467……(とき)しもあれや(あや)しき何者(なにもの)かの足音(あしおと)がする。468よくよく()れば一頭(いつとう)手負(てお)(じし)だ。469猟夫(れふし)名乗(なの)つた(をとこ)(たちま)(きも)(つぶ)し、470キヤツと(こゑ)()旅人(たびびと)身体(からだ)しがみついた。471旅人(たびびと)(こころ)(なか)(おも)ふやう。472四足(よつあし)一匹(いつぴき)(くらゐ)(きも)(つぶ)すやうな(やつ)だから、473まさか悪人(あくにん)ではあるまいと哀憐(あいれん)(じやう)勃然(ぼつぜん)として、474心中(しんちう)萠芽(はうが)し……』
475原彦(はらひこ)『そんなむづかしい(こと)()つて、476(わか)るものかい』
477田吾作(たごさく)(わか)らぬのは有難(ありがた)いのだぞ。478坊主(ばうず)のお(きやう)だつて、479ダダブダ ダダブダと拍子(へうし)()けた(こゑ)でずるずるべつたりに棒読(ぼうよ)みにするから、480人間(にんげん)(わか)らぬから有難(ありがた)いやうなものだ。481(きやう)といふものは不可解(ふかかい)なのが調法(てうはふ)なのだ。482(おれ)のも(すこ)和讃(わさん)じみ()るが、483これでも新奇(しんき)流行(りうかう)のアホダラ(きやう)()くと(おも)うて()いて()よ。484随分(ずゐぶん)利益(りえき)があるぞ。485第一(だいいち)(おそ)ろしいと()観念(かんねん)(わす)れ、486()(なが)いと()(くる)しみを(その)(あひだ)だけなつと(すく)はれるのだ。487(この)(くらゐ)現当利益(げんたうりやく)御蔭(おかげ)はありませぬ。488(しか)(この)(うち)一人(ひとり)(くらゐ)(みみ)(こた)へる優婆塞(うばそく)があるかも()れぬ。489それも修行(しうぎやう)だと(おも)つて()いて()れば(つひ)習慣性(しふくわんせい)となり、490(はじ)めには(みみ)についた汽車(きしや)(おと)が、491(しま)ひには(なん)ともないやうになるのと(おな)じことだ。492マア辛抱(しんばう)してお()()ちの説教(せつけう)()くと(おも)つて()くがよいワ』
493宗彦(むねひこ)『アーア(やかま)しいなア。494(なに)をヒソビソとお前達(まへたち)()つて()るのだ。495(だま)つて()ないか。496最前(さいぜん)から()いて()れば猟夫(れふし)がどうしたの、497()うしたのと仕様(しやう)()昔話(むかしばな)しを()()して、498乞食(こじき)坊主(ばうず)のホイト(ぶし)のやうなことを()つてゐたぢやないか。499()加減(かげん)()()え。500(また)明日(あす)大活動(だいくわつどう)をやらねばならぬから肉体(にくたい)休養(きうやう)肝腎(かんじん)だ』
501原彦(はらひこ)宣伝使(せんでんし)さま、502(なん)()つても田吾(たご)さまが、503(みみ)(いた)いことを(しやべ)るのですもの、504チツト(しか)つて(くだ)さいな』
505 宗彦(むねひこ)(はや)くも(ねむ)りに(つい)たと()えて(なん)応答(いらへ)()い。
506田吾作(たごさく)『そーれから、507そーれから、
508(ゑゝ)(はも)(かれひ)矢柄(やがら)(エーはばかり(なが)ら)
509無精山(ぶしやうざん)道楽寺(だうらくじ)ナマ(ぐさ)厄介(やくかい)坊主(ばうず)
510自堕落上人(じだらくしやうにん)御招待(ごせうたい)(あづか)りました
511(そもそ)愚僧(ぐそう)万国(ばんこく)修行(しうぎやう)根元(こんげん)
512戒行(かいぎやう)難行(なんぎやう)苦行(くぎやう)故郷(こきやう)
513()めば(みやこ)(あと)愛宕(あたご)(やま)()()えて
514(やみ)(をか)してスタスタと
515保津(ほづ)(さと)までやつて()ました
516(とき)しもあれや森蔭(もりかげ)
517七尺(しちしやく)有余(いうよ)荒男(あらをとこ)
518(あら)はれ()でて皺嗄(しわが)れた
519(こゑ)()()げコレコレモーシ(たび)(ひと)
520提灯(ちやうちん)()かり()して(くだ)さんせ
521()いて旅人(たびびと)立止(たちと)まり
522()闇黒(くらがり)提灯(ちやうちん)
523()()しい(やつ)何者(なにもの)
524(なつ)(ゆふ)べの火取虫(ひとりむし)
525()んで()()()()いて
526()んで(しま)ふのを()らないか
527そんな馬鹿(ばか)(こと)()()せと
528(あと)をも()ずに(すす)()
529性凝(しやうこ)りも()(あや)しの(をとこ)
530オツトどつこい一寸(ちよつと)(ちが)うた
531(をり)から(しし)()()んで()
532(あや)しの(をとこ)(おどろ)いて
533(ましら)のやうな(こゑ)()
534キヤツキヤと()うてしがみつく
535此奴(こいつ)はよつぽど弱虫(よわむし)
536(こころ)(ゆる)して道伴(みちづ)れに
537なつてやつたがわが不覚(ふかく)
538大井(おほゐ)(かは)(たもと)まで
539(きた)(をり)しも其奴(そやつ)めが
540コレコレモーシ(たび)(ひと)
541(まへ)懐中(くわいちう)(ひか)るもの
542一寸(ちよつと)(わたし)()してくれ
543()さな()うぢやと高飛車(たかびしや)
544拳固(げんこ)をかためて()()せる
545此方(こなた)痴者(しれもの)ひつぱづし
546腕首(うでくび)(つか)んで中天(ちうてん)
547(ちから)()めて()げやれば
548空中(くうちう)(まひ)()(をさ)
549(はるか)向方(むかう)川中(かはなか)
550はまつて()んだと(おも)ひきや
551(かはづ)のやうな(ざま)をして
552(くさ)(なか)からガサガサと
553やつて来居(きを)つて旅人(たびびと)
554胸倉(むなぐら)グツト引掴(ひつつか)
555(かは)へザンブと()()んだ
556(あや)しの(をとこ)肝腎(かんじん)
557(たま)()いので(ちから)()
558(あを)(かほ)してノソノソと
559(きず)()(あし)何処(どこ)となく
560(かへ)つて()たが()(あと)
561何処(どこ)かの(まつ)並木原(なみきはら)
562根元(ねもと)()められ肥料(こえ)となり
563くたばりしかと(おも)ふうち
564明石峠(あかしたうげ)(ふもと)なる
565(ちひ)さい(むら)(はな)()
566(くび)をおつるが婿(むこ)となり
567ハラハラし(なが)十五年(じふごねん)
568(むね)ヒコヒコ十五年(じふごねん)
569(つひ)には(やまひ)()(おこ)
570明日(あす)をも()れぬ難儀(なんぎ)()
571三五教(あななひけう)宗彦(むねひこ)
572留公(とめこう)田吾作(たごさく)両人(りやうにん)
573立派(りつぱ)家来(けらい)引伴(ひきつ)れて
574()でましたるその()かげ
575ケロリと(なほ)つた人足(にんそく)
576(いま)三国(みくに)(やま)(のぼ)
577猛獣(まうじう)毒蛇(どくじや)(うな)(ごゑ)
578()いてブルブル(ふる)()
579アヽ面白(おもしろ)面白(おもしろ)
580エー無精山(ぶしやうざん)道楽寺(だうらくじ)
581なまぐさ厄介(やくかい)坊主(ばうず)自堕落上人(じだらくしやうにん)
582()(ところ)(あら)はれまして
583諸行無常(しよぎやうむじやう)是生滅法(ぜしやうめつぽふ)
584やがて寂滅為楽(じやくめつゐらく)愁歎場(しうたんば)
585ブツブツ(とな)(たてまつ)
586チヤカポコ チヤカポコ ポコポコポコ』
587 (この)(とき)一寸先(いつすんさき)()えぬ闇黒(くらがり)(なか)より()()れぬ(めう)鼻声(はなごゑ)(まじ)りの(ばば)(こゑ)(きこ)えて()た。
588(ばば)『ハテ(いぶ)かしやな、589(わし)三国ケ嶽(みくにがだけ)鬼婆(おにばば)である。590今日(けふ)三五教(あななひけう)身魂(みたま)(みが)けた立派(りつぱ)宣伝使(せんでんし)が、591当山(たうざん)へわれを退治(たいぢ)せむと(くはだ)て、592(のぼ)(きた)ると()き、593これこそ(てん)時節(じせつ)到来(たうらい)(のど)()らして()つてゐた。594(かはづ)くちなははモウ()()いた。595赤児(あかご)最早(もはや)()いて()た。596宗彦(むねひこ)()(やつ)597(みたま)綺麗(きれい)(やつ)()いた(ゆゑ)598()ぶつて()うたら(うま)からうと、599(この)(あひだ)から(たの)しんで()つてゐた。600どうやらこれが宗彦(むねひこ)らしい。601さうして二人(ふたり)(やつ)は、602どれもこれも(くち)ばつかり(おほ)きい(やつ)で、603ちよつとも()のない(やつ)だ。604三匹(さんびき)三匹(さんびき)とも、605よう()んなガラクタが(そろ)うたものだ。606アーあて(ちが)うた。607この年寄(としより)足許(あしもと)()えぬやうな闇黒(くらがり)をうまい餌食(ゑじき)があると(おも)つて()()たのに、608薩張(さつぱ)梟鳥(ふくろどり)宵企(よひだく)み、609夜食(やしよく)(はづ)れたやうなものだ。610それでも(しり)(はた)には、611(すこ)(うま)さうな()()いて()るだらうから、612これなつと()てやらうかな』
613田吾作(たごさく)『コリヤ(ばば)のやうな(こゑ)()しやがつて、614(なに)(ぬか)すのだ。615(しり)なつと(くら)へ、616貴様(きさま)がそんな(つく)(ごゑ)をしたつて、617田吾作(たごさく)さんはよく()つて()るのだ。618まだ貴様(きさま)()(まく)ぢやないぞ。619()()いた化物(ばけもの)はモウ(あし)(あら)つて()時分(じぶん)だ。620言依別命(ことよりわけのみこと)さまに(ねが)つた(こと)(はや)()つて計画(けいくわく)せぬかい。621馬鹿(ばか)だなア、622陰謀(いんぼう)発覚(はつかく)(おそれ)があるぞ。623(ばけ)るならモツと仮声(こわいろ)上手(じやうず)使(つか)へ。624(とめ)……イヤウーン留度(とめど)()馬鹿(ばか)ばつかり()れやがつて、625何処(どこ)(はう)曲津(まがつ)だ。626愚図々々(ぐづぐづ)(いた)すと承知(しようち)せぬぞ』
627 原彦(はらひこ)(また)小声(こごゑ)で、
628原彦(はらひこ)『オイ田吾作(たごさく)さま、629相手(あひて)になるな。630あんな化物(ばけもの)()闇黒(くらがり)相手(あひて)になつたとこで、631どうすることも出来(でき)ぬぢやないか』
632田吾作(たごさく)八釜敷(やかまし)()ふない。633(おれ)言霊(ことたま)留公(とめこう)……オツトどつこい()めようとしたつて、634()馬力(ばりき)がかかつてからは、635容易(ようい)()まるものぢやないワ』
636留公(とめこう)田吾作(たごさく)637原彦(はらひこさま)638宗彦様(むねひこ)(さま)639(また)明日(あす)御目(おめ)にかからう。640(あたま)から岩窟(いはや)(ばば)(しほ)つけて()ぶつてやらう。641それを(たの)しんで()つたがよからう』
642宗彦(むねひこ)『あの(こゑ)(ばば)(こゑ)のやうでもあり、643鼻声(はなごゑ)だが何処(どこ)ともなしに留公(とめこう)()たとこがあるぢやないか、644ナア田吾作(たごさく)さま』
645田吾作(たごさく)『マア(なん)でもよろしい(わい)646(いづ)明日(あす)になつたら(わか)りませう。647サアサアモー一寝入(ひとねい)り』
648(よこ)になり、649(しやべ)草臥(くたび)れて他愛(たあい)もなく寝込(ねこ)んで(しま)つた。
650 宗彦(むねひこ)(また)(しん)()く。651原彦(はらひこ)時々(ときどき)(あや)しき(こゑ)(ひび)(きた)るに(おびや)かされ、652二人(ふたり)(なか)(はさ)まつて一睡(いつすゐ)()せず、653一夜(いちや)()かしける。
654大正一一・五・一四 旧四・一八 外山豊二録)