霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一章 高春山(たかはるやま)〔六七五〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第21巻 如意宝珠 申の巻 篇:第1篇 千辛万苦 よみ:せんしんばんく
章:第1章 高春山 よみ:たかはるやま 通し章番号:675
口述日:1922(大正11)年05月16日(旧04月20日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年4月5日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
蜈蚣姫の手下・鷹依姫は、南に瀬戸の海、東南に浪速の里を見下ろす高山・高春山の頂上に岩屋を造り、バラモン教の一派・アルプス教を立てて自転倒島を八岐大蛇の勢力化に置こうと画策していた。
山麓の津田の湖には多数の大蛇が潜伏して、日夜邪気を吐き出していた。高姫と黒姫は、三五教に改心した証として、鷹依姫を言向け和そうと、高春山に飛行船にてやってきた。
高春山の五合目辺りに天の森という巨岩が立ち並ぶ、うっそうたる森がある。森には竜神の祠があり、雨風を自由にするといって鷹依姫が崇拝していた。アルプス教のテーリスタンとカーリンスが、この祠の警護にあたっていた。
そこへ高姫と黒姫が登って来た。二人は、噂に聞く竜神の祠の扉を開けた。高姫は、すぐにでも、鷹依姫が拠り所としているこの竜神を言向け和して手柄を現そうとする。
黒姫は、焦らずにじっくり探りを入れてからとりかかろうと諌めると、高姫は黒姫の過去をあげつらって非難を始めた。
売り言葉に買い言葉で、高姫が師弟の縁を切ると言い出し、黒姫も三五教に来てから粗略に扱われた不満を表して、高姫に暇を告げる。
テーリスタンとカーリンスは、竜神の聖地を汚したと言って現れ、二人を引っ立てようとする。黒姫は、竜神が自分を呼んだのだ、と言い、逆に二人に取り入ってアルプス教に寝返ってしまう。
テーリスタンは、黒姫を鷹依姫に面会させるために、手を引いて頂上の岩屋へと連れて行った。
後に残された高姫は、カーリンスを言向け和そうと説教にかかるが、カーリンスは鷹依姫から、三五教の高姫はアルプス教には間に合わない、と聞かされていた。高姫はカーリンスによって捕縛されてしまう。
鷹依姫は、聖地に密偵を入り込ませていたので、高姫と黒姫が山を登ってやってくることを知っていた。テーリスタンが黒姫を連れて来ると、丁重に出迎えた。そうして、部屋に案内する振りをして、岩屋に閉じ込めてしまう。
鷹依姫は、黒姫を仲間にしようと黒姫の腹の底を油断なく伺っている。また、高姫は如意宝珠を飲み込んでいるので、腹を割いて玉を奪おうと考えていた。
カーリンスが高姫を捕縛してくると、鷹依姫は庭先に下させて、黒姫を呼びにやらせた。黒姫は岩屋の中に座って、自らの心の内を宣伝歌に託して、小声で歌っていた。
黒姫が高姫と喧嘩をして縁を切ったのは、本心ではなく、アルプス教を油断させようと心にもなく高姫を罵ったのであった。
黒姫は鷹依姫の前に呼び出されると、鷹依姫に忠誠を近い、倒れている高姫を拳で打ちすえてみせたそれを見た鷹依姫は、高姫の如意宝珠の玉取りを、黒姫に任せ、秘密の部屋に高姫を運ばせた。
やがて高姫は気がついた。黒姫はここは高春山の岩窟であることを告げ、何事かを高姫にささやく。高姫は、秘密の部屋に紫色の玉があることに気がついた。
黒姫は、これがアルプス教の性念玉であることを告げると、高姫は紫色の玉を餅のように伸ばして飲んでしまった。
秘密室の外には、慌しい足音が駆け出すのが聞こえた。これはテーリスタンとカーリンスであった。
主な登場人物: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:
愛善世界社版:9頁 八幡書店版:第4輯 267頁 修補版: 校定版:9頁 普及版:3頁 初版: ページ備考:
001(くも)(あつ)して(そそ)()
002高春山(たかはるやま)山頂(さんちやう)
003バラモン(けう)(ひら)きたる
004大国別(おほくにわけ)憑依(ひようい)せる
005八岐大蛇(やまたをろち)分霊(わけみたま)
006(しこ)曲霊(まがひ)割拠(かつきよ)して
007山野河海(さんやかかい)睥睨(へいげい)
008大江(おほえ)(やま)三国岳(みくにだけ)
009六甲山(ろくかふざん)相俟(あいま)つて
010(つめ)たき魔風(まかぜ)()(おく)
011蜈蚣(むかで)(ひめ)手下(てした)なる
012鷹依姫(たかよりひめ)朝夕(あさゆふ)
013(こころ)(くだ)鳩胸(はとむね)
014仕組(しぐみ)(おく)()(いは)
015(きも)()るこそ(おそ)ろしき。
016 (みなみ)瀬戸(せと)(うみ)(ひか)へ、017東南(たつみ)浪速(なには)(さと)見下(みお)ろし、018西北東(せいほくとう)重畳(ちようでふ)たる連山(れんざん)瞰下(かんか)する高春山(たかはるやま)絶頂(ぜつちやう)岩窟(いはや)(つく)り、019バラモン(けう)一派(いつぱ)()て、020アルプス(けう)(しよう)し、021自転倒島(おのころじま)()(まで)も、022八岐大蛇(やまたをろち)勢力圏内(せいりよくけんない)(にぎ)らむと、023昼夜(ちうや)(こころ)(なや)まして()た。024山麓(さんろく)には細長(ほそなが)津田(つだ)(うみ)(よこ)たはつてゐる。025(この)湖水(こすゐ)には大蛇(をろち)分身(ぶんしん)たる数多(あまた)蛇神(じやしん)潜伏(せんぷく)して、026日夜(にちや)邪気(じやき)()()し、027地上(ちじやう)空気(くうき)腐爛(ふらん)せしめつつあつた。028高姫(たかひめ)029黒姫(くろひめ)波斯(フサ)(くに)北山村(きたやまむら)本山(ほんざん)()蠑螈別(いもりわけ)030魔我彦(まがひこ)をして(あと)(まも)らしめおき、031三五教(あななひけう)帰順(きじゆん)したる改心(かいしん)証拠(しようこ)として、032アルプス(けう)鷹依姫(たかよりひめ)言向(ことむ)(やは)さむと、033波斯(フサ)(くに)より()(きた)れる飛行船(ひかうせん)(じやう)じ、034高春山(たかはるやま)山麓(さんろく)()いた。035これより二人(ふたり)巡礼姿(じゆんれいすがた)()(へん)じ、036高春山(たかはるやま)鷹依姫(たかよりひめ)岩窟(がんくつ)(すす)まむと、037(かべ)()てたる(ごと)高山(かうざん)(のぼ)()く。
038 高春山(たかはるやま)五合目(ごがふめ)(ばか)りの(ところ)に、039(あめ)(もり)()巨岩(きよがん)立並(たちなら)び、040中央(ちうあう)樹木(じゆもく)鬱蒼(うつさう)たる(あひだ)に、041(ちひ)さき(ほこら)がある。042(これ)竜神(りうじん)(みや)()ふ。043(この)竜神(りうじん)雨風(あめかぜ)自由(じいう)になす(かみ)(とな)へられ、044鷹依姫(たかよりひめ)唯一(ゆいつ)守護神(しゆごじん)として尊敬(そんけい)して()た。045それが(ため)何人(なにびと)も、046(この)境域(きやうゐき)(ちか)づく(こと)厳禁(げんきん)して()た。047テーリスタン、048カーリンスと()二人(ふたり)荒男(あらをとこ)は、049(この)竜神(りうじん)(みや)(かた)警護(けいご)して()た。050二人(ふたり)(いは)(うへ)高鼾(たかいびき)をかいて(やす)んで()る。051高姫(たかひめ)052黒姫(くろひめ)(やうや)此処(ここ)(のぼ)(きた)り、
053高姫(たかひめ)『なんと立派(りつぱ)(いは)(なら)んで()るぢやありませぬか。054(ひと)(この)景色(けしき)()(ところ)休息(きうそく)して()きませう。055まだ頂上(ちやうじやう)までは余程(よほど)道程(みちのり)がありますから……』
056黒姫(くろひめ)(よろ)しう御座(ござ)いませう』
057碁盤形(ごばんなり)(もん)()()()(おく)(すす)()る。
058『アヽ此処(ここ)には(めう)(ほこら)がある。059()れが(うはさ)名高(なだか)鷹依姫(たかよりひめ)の、060(あめ)()らせ(かぜ)(おこ)唯一(ゆいつ)武器(ぶき)でせう。061(ひと)改心(かいしん)さしてやりませうか。062(しやう)()むとする(もの)()(その)(うま)()よと()(こと)だから、063(この)雨風(あめかぜ)(おこ)悪神(あくがみ)眷属(けんぞく)改心(かいしん)させる(はう)が、064近路(ちかみち)かも()れませぬなア』
065『マア一寸(ちよつと)()ちなさいませ。066拙劣(へた)間誤(まご)()くと、067大風(おほかぜ)大雨(おほあめ)()められては(こま)りますから、068充分(じうぶん)様子(やうす)(さぐ)つた(うへ)069ゆつくりとやらうぢやありませぬか』
070『そりや黒姫(くろひめ)さま、071(なに)仰有(おつしや)る。072冠島(かむりじま)金剛不壊(こんがうふえ)(たま)(はら)()()んだ(この)高姫(たかひめ)073()はば(わたし)(からだ)如意宝珠(によいほつしゆ)同然(どうぜん)074多寡(たくわ)()れた(あめ)(かぜ)(おこ)竜神(りうじん)(くらゐ)に、075(なに)躊躇(ちうちよ)する(こと)がありますかい。076(まへ)さまは三五教(あななひけう)帰順(きじゆん)してから、077チツと(へん)になつたぢやありませぬか……イヤ三五教(あななひけう)帰順(きじゆん)する以前(いぜん)から高山彦(たかやまひこ)さまに(たい)し、078余程(よほど)御親切(ごしんせつ)()ぎたやうですよ。079(かみ)第一(だいいち)主義(しゆぎ)をどつかへ遺失(ゐしつ)し、080高山(たかやま)第一(だいいち)081(かみ)第二(だいに)()(やう)なあなたの態度(たいど)だから、082そんな弱音(よわね)()(やう)になるのだ。083モウ此処(ここ)()たら生命(いのち)(まと)に、084悪神(あくがみ)改心(かいしん)させて大神様(おほかみさま)にお()にかけ、085我々(われわれ)今迄(いままで)御無礼(ごぶれい)086気障(きざは)りの謝罪(おわび)をせなくてはならぬ。087()はば千騎一騎(せんきいつき)性念場(しやうねんば)だ。088チツとしつかりしなさらぬかい』
089『ハイハイ、090そんな(こと)(はう)けて()(やう)黒姫(くろひめ)()えますかな。091チト残酷(ざんこく)ぢやありませぬか。092それ(ほど)(わたし)信用(しんよう)がないのなれば、093(かへつ)貴女(あなた)御邪魔(おじやま)になつては()けませぬから、094あなたユツクリ如意宝珠(によいほつしゆ)(ちから)発揮(はつき)して手柄(てがら)をなさいませ。095(わたし)飛行船(ひかうせん)借用(しやくよう)して、096自分(じぶん)(しやう)()うた(とこ)活動(くわつどう)(まゐ)ります』
097益々(ますます)(へん)(こと)仰有(おつしや)るぢやないか。098すべて(たたか)ひは結束(けつそく)(かた)くせねば勝利(しようり)()らるるものでない。099味方(みかた)(はう)から裏切(うらぎ)りをする(やう)弱音(よわね)()いて()うなりますか。100飛行船(ひかうせん)(すで)(すで)鷹依姫(たかよりひめ)部下(ぶか)占領(せんりやう)して(しま)つて()ますよ。101飛行船(ひかうせん)なんかモウ必要(ひつえう)はない。102()れから頂上(ちやうじやう)()(いは)(しこ)岩窟(いはや)言向(ことむ)(やは)し、103(すす)んで六甲山(ろくかふざん)()かねばならぬ。104チト(しつか)りしなさい。105あまり高山(たかやま)さまに精神(せいしん)()られて()れるものだから、106曲津(まがつ)憑依(ひようい)したのだらう。107サア(わたし)鎮魂(ちんこん)をして(しら)べてあげよう。108(ばば)アの(くせ)(かみ)()めたり、109薄化粧(うすげしやう)をしたり、110まるで化物(ばけもの)()たやうなそんな柔弱(にうじやく)(こと)でどうして神界(しんかい)御用(ごよう)出来(でき)ますか。111(まへ)さまは(ふた)()に、112言依別命(ことよりわけのみこと)(さま)柔弱(にうじやく)だとか、113ハイカラだとか非難(ひなん)をしなさるが、114それはお(まへ)さまの(こころ)(うつ)つて()えるのだよ』
115(なん)仰有(おつしや)つても、116鎮魂(ちんこん)御無用(ごむよう)です。117さうしてお(ひま)(いただ)きませう』
118御勝手(ごかつて)になさいませ。119モウ今日(けふ)(かぎ)師弟(してい)(えん)()りますから』
120(その)言葉(ことば)()つて()ました。121サアサアどうぞ()つて(もら)ひませう』
122『アヽ()つてあげよう。123黒姫(くろひめ)肉体(にくたい)此処(ここ)()いて、124サツサと(かへ)りなさい。125黒姫(くろひめ)はソンナ馬鹿(ばか)(こと)()身霊(みたま)ぢやなからう』
126(けつ)して(けつ)して守護神(しゆごじん)精霊(せいれい))が()ふのぢやありませぬよ。127黒姫(くろひめ)本人(ほんにん)(まを)すのです。128何程(なんぼ)神直日(かむなほひ)大直日(おほなほひ)見直(みなほ)聞直(ききなほ)して、129(わたし)肉体(にくたい)瑕瑾(きず)をつけぬ(やう)()(なほ)して(くだ)さつても、130それは気休(きやす)めです。131どうしてもお(ひま)頂戴(ちやうだい)(いた)します。132本当(ほんたう)()かんたらしい、133驕慢(けうまん)高姫(たかひめ)さま。134どうぞ()()り、135(なん)()つても御暇(おひま)(いただ)き、136(しこ)岩窟(いはや)鷹依姫(たかよりひめ)(さま)御家来(ごけらい)となつて活動(くわつどう)(いた)します。137ウラナイ(けう)(とき)には大変(たいへん)(おも)(もち)ひて(くだ)さつたが、138三五教(あななひけう)になつてからは、139あなたを(はじ)め、140(たれ)(かれ)(わたし)馬鹿(ばか)にして……(ざま)()たか、141偉相(えらさう)威張(ゐば)つて()つたが、142(いま)(ざま)(なん)ぢや。143白米(しらが)(もみ)(まじ)つた(やう)(かほ)して、144(すま)くたに(ちひ)さくなつて()らねばならぬぞよ……と神様(かみさま)仰有(おつしや)つたぢやないか、145その実地(じつち)()たのだ……なんて言依別命(ことよりわけのみこと)左右(さいう)(はべ)幹部連(かんぶれん)が、146(めう)(かほ)をして(わたし)冷笑(れいせう)して()る。147それが第一(だいいち)()()はないのだ。148モウ(わたし)三五教(あななひけう)駄目(だめ)だと(おも)ふ。149しかし神様(かみさま)結構(けつこう)だ。150取次(とりつぎ)間違(まちが)つて()るのだから、151三五教(あななひけう)(はな)れても、152あなたに(ひま)(もら)つても、153一寸(ちよつと)痛痒(つうよう)(かん)じない。154神様(かみさま)だけは(わたし)真心(まごころ)()つて()(くだ)さる。155(まへ)さまも将来(さき)になつたら……ア黒姫(くろひめ)はそんな(こころ)であつたか、156流石(さすが)玄人(くろうと)だけあつて(えら)(もん)だつたと、157アフンとしなさる(こと)出来(でき)()ませうぞい』
158随分(ずゐぶん)猛烈(まうれつ)気焔(きえん)ですなア。159どうなつと勝手(かつて)になされ。160(ひと)(つゑ)()くなと()(こと)がある。161(わたし)もこれから独舞台(ひとりぶたい)活動(くわつどう)するのだ』
162師匠(ししやう)依頼(たより)にするなと神様(かみさま)仰有(おつしや)つた。163こんな(ねこ)()(やう)(こころ)のクレクレ(かは)高姫(たかひめ)のお師匠(ししやう)さまは、164真平(まつぴら)御免(ごめん)だ。165()(くさ)(えん)()(どき)だ。166(まへ)さまは今日(こんにち)(かぎ)(わたし)宗旨敵(しうしがたき)だからさう(おも)ひなさい。167天晴(あつぱれ)戦場(せんぢやう)で、168堂々(だうだう)とお()にかかりませうかい』
169 (いは)(うへ)()()つた、170最前(さいぜん)二人(ふたり)(をとこ)171ムツクリ()ちあがり、
172『コリヤ(をんな)173此処(ここ)(なん)心得(こころえ)()る、174(あめ)(もり)竜神様(りうじんさま)御守護(ごしゆご)(あそ)ばす聖地(せいち)だ。175(けが)らはしい(をんな)分際(ぶんざい)として、176(ことわ)りもなく、177(この)聖地(せいち)蹂躙(じうりん)しやがつた。178サアもう量見(りやうけん)がならぬ。179当山(たうざん)規則(きそく)()らして制敗(せいばい)してやらう。180……オイ、181カーリンス、182(つな)()つて()い。183フン(じば)つて鷹依姫(たかよりひめ)(さま)御前(ごぜん)(ひき)ずり()ゑてやるのだから……』
184『モシモシお二人(ふたり)のお(かた)185此処(ここ)(まゐ)りましたのは、186(けつ)して蹂躙(じうりん)したのではありませぬ、187竜宮(りうぐう)乙姫(おとひめ)(さま)(にく)(みや)188黒姫(くろひめ)(よう)があるから、189一寸(ちよつと)()()れいと、190(あめ)(もり)竜神様(りうじんさま)仰有(おつしや)つたので、191飛行船(ひかうせん)()つて遥々(はるばる)(まゐ)つたのですよ』
192『ナニ、193(まへ)さんが、194竜宮(りうぐう)乙姫(おとひめ)さまの御命令(ごめいれい)()たと()ふのか』
195『ハイハイ、196(わたし)乙姫(おとひめ)(さま)(にく)(みや)ですもの』
197(めう)(こと)()ひますな。198我々(われわれ)御大将(おんたいしやう)鷹依姫(たかよりひめ)さまも、199(この)(ごろ)大変(たいへん)に、200竜宮(りうぐう)乙姫(おとひめ)さまがお()でになると()つて、201一生懸命(いつしやうけんめい)祈念(きねん)()らして()られますよ』
202『それ()なさい、203高姫(たかひめ)さま』
204竜宮(りうぐう)乙姫(おとひめ)さまは、205(とほ)(むかし)にお(まへ)さまの肉体(にくたい)()て、206(あと)には曲津神(まがつかみ)()()んで()るのですよ』
207最前(さいぜん)から我々(われわれ)寝真似(ねまね)をして、208二人(ふたり)(はなし)()いて()れば、209三五教(あななひけう)宣伝使(せんでんし)()えるが、210なんだか愚図々々(ぐづぐづ)喧嘩(けんくわ)をしてゐたぢやないか』
211没分暁漢(わからずや)高姫(たかひめ)が、212如意宝珠(によいほつしゆ)(たま)(はら)()()んで()ると()つて、213あんまり威張(ゐば)るものですから、214(いま)(わたし)(はう)から絶縁(ぜつえん)申込(まをしこ)んだ(ところ)です』
215『そりや結構(けつこう)だ。216(まへ)さまは(まつた)我々(われわれ)同志(どうし)だ。217よしよし鷹依姫(たかよりひめ)(さま)申上(まをしあ)げて、218都合(つがふ)()とりなし(いた)しませう』
219『どうぞ(よろ)しうお(たの)(まを)します。220………コラ高姫(たかひめ)221(ざま)()い、222何程(なにほど)如意宝珠(によいほつしゆ)でも、223大勢(おほぜい)一人(ひとり)では(かな)ふまいぞや』
224捨台詞(すてぜりふ)(のこ)し、225テーリスタンと()(だい)(をとこ)()()かれ(なが)急坂(きふはん)(のぼ)()く。
226『アヽ仕方(しかた)がない。227到頭(たうとう)悪魔(あくま)容器(いれもの)になつて(しま)つた。228黒姫(くろひめ)今迄(いままで)(なが)らくの苦労(くらう)を、229一朝(いつてう)にして(みづ)(あわ)にして(しま)つたか。230アヽ可哀相(かはいさう)なものだなア。231コレコレそこのカーリンスと()ふお(かた)232(まへ)さまは何処(どこ)から()たのだ、233(うま)れは何処(どこ)だえ』
234自分(じぶん)(くに)(うま)れが(わか)(やう)(もの)が、235()んな(ところ)()て、236宮番(みやばん)をするものかい。237馬鹿(ばか)(こと)()ふない』
238『お(まへ)さまは如意宝珠(によいほつしゆ)(たま)肉体(にくたい)()つて()るか。239()出神(でのかみ)生宮(いきみや)(たれ)だと()(こと)(わか)つて()るかい』
240()つて()らいでか。241(まへ)(こと)ぢやないか。242真偽(しんぎ)(ほど)(たしか)でないが、243最前(さいぜん)から二人(ふたり)(はなし)()いて()た。244(まへ)所謂(いはゆる)()出神(でのかみ)生宮(いきみや)だらう』
245(てき)(なか)にも味方(みかた)あり、246味方(みかた)(なか)にも(てき)があるとは、247よう()つたものだ。248(まへ)(わし)知己(ちき)だ。249中々(なかなか)身魂(みたま)がよく(みが)けて()る。250三五教(あななひけう)へでも入信(はい)つたら、251こんな()つぽけな宮番(みやばん)をせなくとも、252立派(りつぱ)宣伝使(せんでんし)になれるがなア』
253(わし)宣伝使(せんでんし)(きら)ひだ。254(あさ)から(ばん)まで(さけ)()んでグウグウと()るのが(すき)だ。255彼方(あちら)此方(こちら)乞食(こじき)(やう)真似(まね)をして、256戸別(こべつ)訪問(はうもん)をして、257(いぬ)(やう)(しやく)(みづ)をかけられたり、258(はうき)掃出(はきだ)されたり、259引合(ひきあ)はぬからなア。260(おやぢ)(たん)()まされ、261薯汁(とろろ)(たん)混汁(こんじふ)(すべ)()けて、262揚句(あげく)()てには真裸(まつぱだか)(いばら)(いけ)()()み、263着物(きもの)(てき)から(もら)(やう)(こと)出来(しゆつたい)するから()めとかうかい』
264『お(まへ)(めう)なことを()ふ。265薯汁(とろろ)(たん)(すべ)()けたのは何時(いつ)(こと)だ。266そして(また)(たれ)(こと)だいなア』
267『そりやあお(まへ)さまよく御存(ごぞん)じの(はず)だ』
268『ハテなア。269海洋万里(かいやうばんり)波斯(フサ)(くに)出来事(できごと)(そし)(ばし)りを()いて()るとは、270世間(せけん)(ひろ)いやうなものの(せま)いものだ。271これだから人間(にんげん)(つつし)まねばならぬ。272悪事(あくじ)千里(せんり)()つて何処迄(どこまで)もよく()きわたるものだなア』
273『お(まへ)さまビツクリしただらう』
274『そりやまた、275(たれ)()いたのだい』
276今頃(いまごろ)そんな(こと)()らぬ(もの)一人(ひとり)でもあるものか。277随分(ずゐぶん)名高(なだか)(はなし)だぜ。278鷹依姫(たかよりひめ)さまは……おつつけ、279(こころ)()(めくら)280高姫(たかひめ)()(もの)(この)(やま)()()るから、281(ひと)(あわ)()かして改心(かいしん)させてやらねばならぬ。282彼奴(あいつ)改心(かいしん)させたならば、283アルプス(けう)(ため)には大変(たいへん)()()ふ……と()つて()られました。284(まへ)高姫(たかひめ)さまだらうがな』
285『ヘン、286見違(みちが)ひをして(くだ)さるな。287黒姫(くろひめ)(やう)(ねこ)()とは、288チツと(ちが)ひますよ。289サアこれから高姫(たかひめ)獅子(しし)奮迅(ふんじん)(いきほひ)(もつ)て、290鷹依姫(たかよりひめ)(その)()部下(ぶか)(ことごと)言向(ことむ)(やは)すのだ。291万々一(まんまんいち)292高姫(たかひめ)失敗(しつぱい)になる(やう)(こと)であれば、293(ふたた)三五教(あななひけう)へは(かへ)らぬ(つも)りだ。294(のど)でも()いて()んで(しま)うのだから、295(なん)()つても、296バラモン(けう)焼直(やきなほ)しのアルプス(けう)(たい)し、297徹頭徹尾(てつとうてつび)298(あたま)()げぬから、299(その)(つも)りで()なさい』
300大変(たいへん)(かた)決心(けつしん)だなア』
301(きま)つた(こと)だよ』
302 高姫(たかひめ)谷間(たにま)から(にじ)()清水(しみづ)()(むす)んで、303(かわ)いた(のど)(うるほ)して()る。304(その)(すき)(うかが)ひ、305カーリンスは高姫(たかひめ)(くび)細紐(ほそひも)手早(てばや)くひつ()け、306グツと(くび)()め、
307『サアもう大丈夫(だいぢやうぶ)だ。308これで(ひと)つ、309(わし)出世(しゆつせ)出来(でき)る』
310高姫(たかひめ)(せな)()(なが)ら、311急坂(きふはん)をエチエチ(のぼ)つて()く。
312 岩窟(いはや)(なか)には、313アルプス(けう)開山(かいざん)鷹依姫(たかよりひめ)()中婆(ちうばば)ア、314()(かぶ)(つく)つた天然(てんねん)火鉢(ひばち)(まへ)に、315長煙管(ながぎせる)(くは)へ、316二三(にさん)部下(ぶか)(まへ)()ゑて、
317今日(けふ)高姫(たかひめ)318黒姫(くろひめ)()二人(ふたり)(ばば)アが、319此処(ここ)()()(はず)だ。320キツと(かみ)魔力(まりよく)()りて、321(あめ)(もり)竜神(りうじん)(みや)()()(はず)だから、322テーリスタン、323カーリンスの二人(ふたり)に、324待伏(まちぶ)せをさせて()いたのだが、325やがてやつて()時刻(じこく)だらう』
326(かふ)『そんな(こと)は、327どうして(わか)るのですか』
328『そんな(こと)抜目(ぬけめ)のある(わし)かいな。329チヤンと三五教(あななひけう)聖地(せいち)()して密偵(みつてい)這入(はい)()ましてあるから、330それが()らして()たのだよ。331モウつい二人(ふたり)(とも)332此処(ここ)へやつて()(はず)だから、333前達(まへたち)充分(じうぶん)()()けて、334(わし)(この)煙管(きせる)で「クワン」と(この)磬盤(けいばん)(たた)いたが最後(さいご)()んで()るのだ。335それまでは(つぎ)()で、336(よこ)になり(かんが)へて()るのだよ。337(しか)()(しま)つては()かぬから、338()()けて()るのだぜ』
339 三人(さんにん)は『ハイ』と(こた)へて、340(つぎ)()()(かく)した。341そこへテーリスタンに(とも)なはれて黒姫(くろひめ)這入(はい)つて()た。
342只今(ただいま)(かへ)りました。343あなたの眼識(がんしき)には、344(じつ)敬服(けいふく)(いた)しました。345(この)(とほ)黒姫(くろひめ)(うま)引張(ひつぱ)()みましたから、346御安心(ごあんしん)(くだ)さいませ』
347鷹依姫(たかよりひめ)『これこれテーリスタン、348(なん)()失礼(しつれい)(こと)()ふのだい。349(おに)岩窟(いはや)(なん)ぞの(やう)に、350()つぱり()みましたなんて、351チツト言霊(ことたま)(つつし)みなさい。352結構(けつこう)なお(かた)御迎(おむか)へして(かへ)りましたと、353何故(なぜ)()はないのだい。354……これはこれは黒姫(くろひめ)(さま)355遥々(はるばる)とよう()(くだ)さいました。356空中(くうちう)余程(よほど)(かぜ)(はげ)しうてお(こま)りでしたらう。357(のち)(ほど)ユルユルとお(はなし)(うけたま)はりますから、358少時(しばらく)(おく)御休息(ごきうそく)(ねが)ひます』
359(はじ)めてお()にかかります。360御神徳(ごしんとく)(たか)御山(おやま)()えまして、361(くも)までが(みな)謙遜(へりくだ)り、362谷底(たにそこ)遠慮(ゑんりよ)(いた)してゐますなア』
363(くも)()()高春山(たかはるやま)364(まこと)御神徳(ごしんとく)俗塵(ぞくぢん)(はな)れて中空(ちうくう)(そび)えた聖地(せいち)でなければ本当(ほんたう)神力(しんりき)(あら)はれませぬ。365炮烙(はうらく)()せた(やう)(ひく)(やま)背景(バツク)にして神業(しんげふ)開始(かいし)するなぞと、366てんで(もの)()りませぬワ。367四尾山(よつをやま)高春山(たかはるやま)とは気分(きぶん)(ちが)ひませうがなア』
368(おほ)きに(ちが)ひます。369(わたし)此処(ここ)(のぼ)つてから(なん)だか気分(きぶん)面白(おもしろ)くなつて()ました。370三五教(あななひけう)のアの()()いても(いや)になりましたよ。371それに言依別命(ことよりわけのみこと)()ふハイカラな教主(けうしゆ)になつて()るのだから、372内幕(うちまく)腐爛(ふらん)状態(じやうたい)()つたら御話(おはなし)になりませぬ。373(また)高姫(たかひめ)()ふ……もとは(わたし)のお師匠(ししやう)御座(ござ)いますが、374カンカラカンのカン太郎(たらう)が、375頑固(ぐわんこ)一途(いちづ)()(とほ)すものですから、376(わたし)此処(ここ)までやつて()て、377(あめ)(もり)竜神(りうじん)さまの(まへ)で、378(ひま)()れてやりました』
379『それは(なに)より結構(けつこう)です。380(この)()でさへも()()へがあるのだから、381()加減(かげん)(おも)()つて、382(あたら)しい世界(せかい)()(はう)貴女(あなた)()(ため)ですよ』
383『ハイ有難(ありがた)御座(ござ)います。384黒姫(くろひめ)(おも)うて()ることをスツカリ仰有(おつしや)つて(くだ)さいまして、385唯一(ゆいつ)共鳴者(きようめいしや)()(やう)心持(こころもち)(いた)します。386(うま)れてからこれ(くらゐ)愉快(ゆくわい)(こと)はありませぬワ』
387『サアどうぞ(おく)()つて御休息(ごきうそく)(くだ)さいませ』
388とテーリスタンに目配(めくば)せした。
389『サア黒姫(くろひめ)さま、390(おく)御案内(ごあんない)(いた)しませう』
391()()つて岩室(いはむろ)(なか)案内(あんない)した。392そして(そと)よりガタリと蝦錠(えびぢやう)をおろし、
393『モウ()うなつては、394何程(なにほど)藻掻(もが)いても駄目(だめ)ですから、395充分(じうぶん)御考(おかんが)()きを(ねが)ひます。396左様(さやう)ならば』
397()()て、398鷹依姫(たかよりひめ)(そば)立帰(たちかへ)り、
399首尾(しゆび)よう岩室(いはむろ)(なか)籠城(ろうじやう)(めい)じて()きました。400(しか)(なが)ら、401あの黒姫(くろひめ)(かぎ)つて、402(けつ)して御心配(ごしんぱい)()りませぬ。403平岩(ひらいは)(うへ)(おい)てスツカリ、404高姫(たかひめ)黒姫(くろひめ)心中(しんちう)(さぐ)りました。405モウ大丈夫(だいぢやうぶ)ですよ』
406『さう軽々(かるがる)しく楽観(らくくわん)出来(でき)ない。407油断(ゆだん)大敵(たいてき)だ。408(まか)(ちが)へば爆裂弾(ばくれつだん)()いて()るやうなものだからなア』
409竜神(りうじん)(ほこら)(まへ)()るまでは、410両人(りやうにん)はどうしても、411貴女(あなた)三五教(あななひけう)帰順(きじゆん)させると()目算(もくさん)らしう御座(ござ)いましたが、412竜神(りうじん)(ほこら)(なか)から神様(かみさま)御神霊(ごしんれい)(あら)はれ、413黒姫(くろひめ)にのり(うつ)られたと()えて、414(にはか)に……(わし)竜宮(りうぐう)乙姫(おとひめ)生宮(いきみや)だと威張(ゐば)()し、415二人(ふたり)喧嘩(けんくわ)をおつ(ぱじ)め、416到頭(たうとう)黒姫(くろひめ)貴女(あなた)部下(ぶか)になると()つて、417ここを目蒐(めが)けて(はし)()しました。418それで(わたくし)もコレコソ(わた)りに(ふね)だと(こころ)(いさ)み、419()()いて此処(ここ)まで()れて(かへ)つたのです。420モウ大丈夫(だいぢやうぶ)ですから御安心(ごあんしん)(くだ)さいませ』
421『それは結構(けつこう)だが、422モウ一人(ひとり)高姫(たかひめ)はどうなつたのだえ』
423高姫(たかひめ)ですか。424あれは何事(なにごと)にも抜目(ぬけめ)のないカーリンスに一任(いちにん)して()ました。425屹度(きつと)フン(じば)つて、426やがて(のぼ)つて()るでせう』
427『あの高姫(たかひめ)(はら)如意宝珠(によいほつしゆ)(たま)()んで()るのだから、428どうしても(はら)()()つて(えぐ)()さねばならないのだ。429(しか)しうまくカーリンスが()れて(かへ)つて()るだらうかなア。430黒姫(くろひめ)(たま)()しだから、431どうでも()(やう)なものの、432肝腎要(かんじんかなめ)なは高姫(たかひめ)だ。433カーリンスが大変(たいへん)(こま)つて()るだらう。434(まへ)御苦労(ごくらう)だが、435モウ一度(いちど)加勢(かせい)()つて()れまいか』
436()けと仰有(おつしや)れば、437()かぬ(こと)はありませぬが、438大変(たいへん)に、439彼奴(あいつ)(かほ)()ると()がマクマクするのですよ』
440(なに)441()がマクマクするか、442(まさ)しく如意宝珠(によいほつしゆ)(たま)()んで()証拠(しようこ)だ。443()(ふさ)いで、444(はや)くどうでもいいからフン(じば)つてなつと、445二人(ふたり)して()れてお()で』
446承知(しようち)(いた)しました』
447とテーリスタンは、448(やま)一散走(いつさんばし)りに駆下(かけくだ)る。449(あと)鷹依姫(たかよりひめ)独言(ひとりごと)
450『アヽ時節(じせつ)()たねばならぬものだなア。451鬼雲彦(おにくもひこ)鬼熊別(おにくまわけ)大将株(たいしやうかぶ)は、452三五教(あななひけう)言霊(ことたま)とやらに()たれて、453()つともない、454(をとこ)(くせ)(くも)(かすみ)本国(ほんごく)逃帰(にげかへ)り、455いい(はぢ)(さら)しをなされたが、456(をんな)一心(いつしん)(いは)でも(とほ)すと()つて、457(をつと)()健気(けなげ)女房(にようばう)蜈蚣姫(むかでひめ)三国ケ岳(みくにがだけ)立籠(たてこも)り、458到頭(たうとう)黄金(こがね)(たま)()()れた。459ヤレ(うれ)しやと(おも)()もなく、460(また)しても(その)(たま)三五教(あななひけう)にウマウマと取返(とりかへ)され、461(よろこ)んだのは(つか)()462サツパリ糠喜(ぬかよろこ)びとなつて(しま)つた。463(しか)何程(なにほど)蜈蚣姫(むかでひめ)智慧(ちゑ)があつても、464神徳(しんとく)(そな)はつて()ると()つても、465(この)鷹依姫(たかよりひめ)には足元(あしもと)へも()れない。466チツと(つめ)(あか)でも(せん)じて()まして()げたいものだ。467如意宝珠(によいほつしゆ)(たま)容器(いれもの)は、468(こゑ)なくして()びつける。469黒姫(くろひめ)(たま)()しだが彼奴(あいつ)黄金(こがね)(たま)在処(ありか)一番(いちばん)よく()つて()ると()(こと)だ。470此間(こないだ)(かへ)つて()虎公(とらこう)報告(はうこく)では黒姫(くろひめ)さへ()()れてうまく白状(はくじやう)させたならば、471黄金(こがね)(たま)()()ると()(こと)だから、472()はば(たま)()()れたも同然(どうぜん)だ。473アヽなんとした結構(けつこう)(こと)出来(でき)()たものだらう』
474とカンカン磬盤(けいばん)長煙管(ながぎせる)()つた。475ウツウツと(ねむ)つて()三人(さんにん)(みみ)には、476早鐘(はやがね)(やう)(きつ)(ひび)いた。477三人(さんにん)はビツクリ仰天(ぎやうてん)(おき)あがり、478周章狼狽(あわてふため)き、479鷹依姫(たかよりひめ)居間(ゐま)(はし)()き、
480火事(くわじ)だ 火事(くわじ)だ』
481擂鉢(すりばち)(かか)へて(はし)(やつ)482火鉢(ひばち)(かか)へて()()さうとする(もの)483座敷(ざしき)真中(まんなか)でキリキリ(まひ)をする(やつ)484右往左往(うわうさわう)狼狽(うろた)(まは)る。485鷹依姫(たかよりひめ)長煙管(ながぎせる)(さき)三人(さんにん)(あたま)をピシヤピシヤと(たた)き、486(もと)()悠然(いうぜん)として(こし)をおろし、
487『コラコラ貴様(きさま)(たち)は、488(なに)狼狽(うろた)へて()るのだい』
489(おほ)きな(とが)つた(こゑ)(わめ)()てる。
490『ハイハイ(なん)御座(ござ)いますか』
491鷹依姫(たかよりひめ)(なん)でもない。492()()()けなさい。493(いま)タカが一羽(いちは)此家(ここ)()るのだから、494料理(れうり)をせにやならぬ。495(その)用意(ようい)出刃(でば)でも()いで()きなされ』
496(たれ)(たか)(やう)なものを()つたのですか。497彼奴(あいつ)肉食鳥(にくしよくどり)だから(あぢ)(わる)うて、498(くさ)くつて()べられませぬ。499(おほ)きな図体(づうたい)()りとは羽根(はね)ばつかりで、500()(ところ)はチヨビンとよりないものですよ』
501『エーそんな講釈(かうしやく)(あと)にしなさい。502羽根(はね)()いタカが()たのだ』
503 ()(はな)(をり)しも、504カーリンス、505テーリスタンの両人(りやうにん)は、506高姫(たかひめ)(くび)()めた(まま)507(かつ)いで這入(はい)つて()た。
508『アヽ御苦労(ごくらう)々々々(ごくらう)509マア(には)(すみ)へでも片付(かたづ)けておいて、510ユツクリ(やす)んでお()れ。511随分(ずゐぶん)(ほね)()れただらうなア』
512『イエ(ほね)()りませぬが、513(くび)だけ()めて()きました』
514(はや)(ほど)いてやらないと(いき)()れるぢやないか。515(いき)()れて(しま)へば、516折角(せつかく)(たま)()んで(しま)ふ。517()きた(うち)()らねば()()はぬのだ。518(はや)(はや)う…』
519()()てる。520カーリンス、521テーリスタンの両人(りやうにん)は『ハイ』と(こた)へて、522徳利結(とつくりむす)びにした(くび)(ひも)(ほど)いた。523最早(もはや)高姫(たかひめ)縡切(ことぎ)れたか、524ビクとも(うご)かぬ。
525『ヤア此奴(こいつ)ア、526到頭(たうとう)寂滅(じやくめつ)しやがつたなア。527どうしたら()からうか』
528人工呼吸法(じんこうこきふはふ)だ』
529両人(りやうにん)一生懸命(いつしやうけんめい)高姫(たかひめ)(からだ)(とら)へ、530()(あし)無暗(むやみ)矢鱈(やたら)(うご)かして()る。531(しばら)くあつて、532高姫(たかひめ)は「ウーン」と(いき)()(かへ)す。
533『アヽもう此方(こつち)のものだ。534鷹依姫(たかよりひめ)さま、535(この)(さき)はどうするのですか』
536『マア(ちや)でも()んでユツクリするのだ。537(その)(うち)(わし)から命令(めいれい)(くだ)すから……』
538 (しばら)くあつて鷹依姫(たかよりひめ)は、
539黒姫(くろひめ)さまを()んで()なさい』
540『ハイ』
541(こた)へてテーリスタンは、542黒姫(くろひめ)押込(おしこ)めた岩窟(いはや)(まへ)(はし)()く。543黒姫(くろひめ)(しの)(しの)びに(なに)(うた)つて()る。
544高天原(たかあまはら)立出(たちい)でて
545三五教(あななひけう)宣伝使(せんでんし)
546高姫(たかひめ)さまと諸共(もろとも)
547御空(みそら)()ける磐船(いはふね)
548()りてやうやう高春(たかはる)
549(やま)(ふもと)着陸(ちやくりく)
550黄金(こがね)(くさ)をより()けて
551(きり)海原(うなばら)(さぐ)りつつ
552一歩(ひとあし)々々(ひとあし)急坂(きふはん)
553(のぼ)つて()たのが(あめ)(もり)
554巨岩(きよがん)怪石(くわいせき)立並(たちなら)
555風光絶佳(ふうくわうぜつか)霊地(れいち)ぞと
556二人(ふたり)此処(ここ)(いき)(やす)
557竜神(りうじん)さまの(ほこら)をば
558(なが)めて(やす)らふ折柄(をりから)
559()んとは()しにビリビリと
560(ふる)()したる(わが)身体(からだ)
561高姫(たかひめ)さまは()らねども
562(たし)かに(たふと)神懸(かむがか)
563さはさり(なが)黒姫(くろひめ)
564(ゆめ)にも(おも)はぬ囈語(たはごと)
565ベラベラ(しやべ)つて高姫(たかひめ)
566(ちから)(かぎ)(どく)ついた
567(わが)()(きみ)高姫(たかひめ)
568(ねこ)目玉(めだま)のくれくれと
569(こころ)(かは)黒姫(くろひめ)
570(かなら)(おも)うて(くだ)さるな
571()れには(なに)神界(しんかい)
572(ふか)仕組(しぐみ)のあるならむ
573曲津(まがつ)(いくさ)いと(おほ)
574アルプス(けう)(ひら)きたる
575鷹依姫(たかよりひめ)右左(みぎひだり)
576(つかさ)(つか)へしカーリンス
577テーリスタンの両人(りやうにん)
578(いはほ)(うへ)横臥(わうぐわ)して
579(きつね)(たぬき)空寝入(そらねい)
580様子(やうす)(うかが)()ることに
581黒姫(くろひめ)(はや)くも()()いて
582ワザと師匠(ししやう)高姫(たかひめ)
583(こころ)()らぬ(こと)ばかり
584申上(まをしあ)げたは()まないが
585これも(なに)かの御経綸(ごけいりん)
586(わたし)(こころ)はさうぢやない
587どうぞ(ゆる)して(くだ)さんせ
588生命(いのち)(ささ)げた宣伝使(せんでんし)
589悪魔(あくま)のはびこる(この)岩窟(いはや)
590如何(いか)なる(うき)()るとても
591言向和(ことむけやは)さで()くべきか
592(しばら)()てよ高姫(たかひめ)
593(わが)()(きみ)宣伝使(せんでんし)
594朝日(あさひ)()るとも(くも)るとも
595(つき)()つとも()くるとも
596仮令(たとへ)大地(だいち)(しづ)むとも
597黒姫(くろひめ)如何(いか)になるとても
598三五教(あななひけう)神教(みをしへ)
599天下(てんか)(ひろ)げにや()くものか
600(いは)をも射貫(いぬ)黒姫(くろひめ)
601(かた)(こころ)梓弓(あづさゆみ)
602矢竹心(やたけごころ)高姫(たかひめ)
603(こころ)(まと)命中(めいちう)
604やがては疑雲(ぎうん)(くま)()
605天津(あまつ)()(ごと)()れるだろ
606アヽ惟神(かむながら)々々(かむながら)
607御霊(みたま)(さち)(たま)へかし』
608(うた)つて()る。609カーリンスは(そと)より(いは)()を、610(かぎ)(もつ)押開(おしあ)け、
611黒姫(くろひめ)さま、612教主様(けうしゆさま)がお()びになりました。613大変(たいへん)(とこ)へお(はい)(まを)して、614さぞ御腹(おはら)()つたでせうが、615ここはどんな立派(りつぱ)なお(かた)でも、616(はじ)めて這入(はい)つて()(かた)は、617(はや)くて三日(みつか)618(おそ)いのは十日(とをか)二十日(はつか)と、619(この)岩窟(いはや)修行(しうぎやう)をさすのが規則(きそく)ですから、620(けつ)して押籠(おしこ)めたなどと(おも)つては()けませぬぞや。621三五教(あななひけう)でさへも、622岩窟(いはと)修行場(しうぎやうば)(こしら)へてあるでせう』
623『イエイエ(けつ)して(わる)くは(おも)うて()ませぬ。624斯様(かやう)結構(けつこう)(とこ)修行(しうぎやう)をさして(いただ)くなら仮令(たとへ)一月(ひとつき)二月(ふたつき)625三年(さんねん)五年(ごねん)(かか)つた(ところ)で、626(べつ)苦痛(くつう)とは(おも)ひませぬよ』
627『それはまた大変(たいへん)馬力(ばりき)ですな』
628 黒姫(くろひめ)微笑(ほほゑ)(なが)ら、629イソイソとして鷹依姫(たかよりひめ)(まへ)(あら)はれ、
630『これはこれは教主様(けうしゆさま)631結構(けつこう)修行(しうぎやう)をさして(いただ)きまして有難(ありがた)御座(ござ)います。632成程(なるほど)あの岩窟(がんくつ)(こころ)(しづ)まつて、633結構(けつこう)御座(ござ)いますな』
634結構(けつこう)でせうがな。635あなたは身魂(みたま)洗錬(せんれん)出来(でき)()りますから、636(わづか)一時(ひととき)(くらゐ)卒業(そつげふ)出来(でき)たのですよ。637開教(かいけう)以来(いらい)あなたの(やう)(はや)()(かた)御座(ござ)いませぬ。638芽出度(めでた)御座(ござ)います』
639 黒姫(くろひめ)は、
640『イヤ有難(ありがた)御座(ござ)いました』
641()()途端(とたん)に、642高姫(たかひめ)(よこ)たはる姿(すがた)()打驚(うちおどろ)き、
643『ヤア高姫(たかひめ)さまが縡切(ことぎ)れて()らつしやる』
644(かほ)(いろ)をサツと()へた。645鷹依姫(たかよりひめ)は、
646『オツホツホツホヽ、647あんまりカーリンスと格闘(かくとう)をなさつたものだから、648御疲労(ごひらう)なさつたものと()えます。649(まへ)さまは(いま)()()れば蒼白(まつさを)(かほ)をしてビツクリなさつたが、650矢張(やつぱ)未練(みれん)がありますかい。651(くたば)つた(ひと)座敷(ざしき)へも()げず、652土間(どま)()かして()いたのは無残(むざん)(やう)貴女(あなた)(おも)つたでせうが、653これは(ひと)つの医療法(いれうはふ)ですよ。654(つち)のお(かげ)血液(けつえき)循環(じゆんかん)(もと)(かへ)り、655(いき)()(かへ)(やう)にしてあるのだ。656やがて蘇生(そせい)されるでせう』
657『ナニ(わたし)高姫(たかひめ)なんかに未練(みれん)がありますものか。658こんな傲慢(がうまん)不遜(ふそん)頑固者(ぐわんこもの)659(いま)(あめ)(もり)弟子(でし)(はう)から(ひま)()れてやつた(とこ)です。660それを証拠(しようこ)に、661(わたし)貴女(あなた)弟子(でし)になりたいのですが、662使(つか)つて(くだ)さいますか』
663『お(まへ)さまの()(こと)間違(まちが)ひなくば、664(よろこ)んで()引合(ひきあ)うて()きませう』
665有難(ありがた)御座(ござ)います』
666()ひつつ黒姫(くろひめ)(には)()り、667高姫(たかひめ)(しり)力限(ちからかぎ)りに(にぎ)(こぶし)(かた)めて、668(なな)()()ち、
669『コリヤ高姫(たかひめ)670(おも)()つたか』
671 高姫(たかひめ)は『ウーン』と(いき)()く。
672『オホヽヽヽ、673()(くたば)つたものだ。674この(まま)()てておけば()んで(しま)ふのだが、675(しか)此奴(こいつ)貴方(あなた)御存(ごぞん)じの(とほ)如意宝珠(によいほつしゆ)(たま)()んで()りますから、676吐出(はきだ)さしてアルプス(けう)神宝(しんぽう)にせなくてはなりますまい。677(なん)とかして大事(だいじ)に……イヤイヤ大事(だいじ)にせなくてもよい。678()(かへ)らして生玉(いくだま)()らねばなりませぬから、679(しばら)(たす)けてやつたらどうです』
680黒姫(くろひめ)さまの仰有(おつしや)(とほ)り、681一先(ひとま)()かして、682(たま)()()させねば、683折角(せつかく)苦労(くらう)した効能(かうのう)()い。684(たま)さへ()れば(あと)()()はうと、685()いて()はうと、686(わか)(やつ)()れてやる。687(しか)()(かへ)らうかな』
688『これは容易(ようい)恢復(くわいふく)しますまい。689何卒(どうぞ)黒姫(くろひめ)(まか)して(くだ)さるまいか。690さうすればキツト(からだ)(もと)(とほ)りにして、691さうして(をり)(かんが)へ、692生玉(いくだま)引抜(ひきぬ)いて()せませう』
693『アヽそんならお前様(まへさま)にお(まか)せするから、694(よろ)しく(たの)みます』
695(なん)()つても(たま)()んで()るのだから、696(たま)(をさ)めてある(しつ)高姫(たかひめ)死骸(しがい)()さし(わたし)介抱(かいほう)をしてやりますから、697極秘密(ごくひみつ)に、698(たれ)にも(わか)らぬ(やう)にして(くだ)さい。699黒姫(くろひめ)がキツト()つてお()()けます』
700『アヽそんなら御頼(おたの)(まを)します。701(たれ)這入(はい)つた(こと)のない(たま)居間(ゐま)702彼処(あこ)には(むらさき)夜光(やくわう)(たま)(をさ)まつて()る。703()れはアルプス(けう)生玉(いくだま)だから、704(たれ)にも()せないのだが、705(まへ)さまの精神(せいしん)見届(みとど)けたから、706(その)居間(ゐま)一任(いちにん)しませう』
707『それはそれは(じつ)望外(ばうぐわい)仕合(しあは)せ、708(この)(うへ)粉骨砕身(ふんこつさいしん)709アルプス(けう)(ため)に、710犬馬(けんば)(らう)(をし)みませぬ』
711(わし)(じつ)相談(そうだん)しようにも相手(あひて)がなくて(こま)つて()つたのだ。712御前(おまへ)さまが此処(ここ)()()れたは(てん)(あた)へ、713肉身(にくしん)(いもうと)()たも同然(どうぜん)だから、714(たがひ)にこれから諒解(りやうかい)()うて秘密(ひみつ)相談(そうだん)(いた)しませう。715サア(わし)案内(あんない)をしますから……』
716(さき)()つ。
717高姫(たかひめ)死骸(しがい)()つて()かねばなりますまい』
718『アヽさうでしたな。719(しか)(なが)秘密室(ひみつしつ)(たれ)()れる(こと)出来(でき)ないのだから……』
720(わたし)(かつ)いで(まゐ)りませう。721………ヤイ高姫(たかひめ)722(まへ)幸福者(しあはせもの)だ。723一旦(いつたん)(えん)()つた(わし)(また)世話(せわ)になるのかいやい』
724口汚(くちぎたな)(ののし)(なが)ら、725(わき)にエチエチ引抱(ひつかか)へ、726(あし)引摺(ひきず)りもつて、727鷹依姫(たかよりひめ)(あと)(したが)つて秘密室(ひみつしつ)這入(はい)つて()く。
728『ここが大切(たいせつ)(ところ)だから、729(まへ)さま、730高姫(たかひめ)(いき)()(かへ)(やう)に、731鎮魂(ちんこん)をしてやつて(くだ)さい。732さうして時節(じせつ)()つて生玉(いくだま)()いて(くだ)さいや』
733何事(なにごと)()()んで()ます。734(その)(かは)りに十日(とをか)(ばか)り、735二人前(ににんまへ)食料(しよくれう)()れて(くだ)さい』
736 鷹依姫(たかよりひめ)はニコニコし(なが)ら、737(わが)居間(ゐま)(かへ)り、738珍味佳肴(ちんみかかう)を、739ソツト秘密室(ひみつしつ)持運(もちはこ)び、740素知(そし)らぬ(かほ)をして()る。
741 高姫(たかひめ)はムクムクと起上(おきあが)り、742四辺(あたり)をキヨロキヨロ見廻(みまは)して、
743『アヽ(わし)(ゆめ)()()たのかいな。744アヽ黒姫(くろひめ)さま、745(まへ)さまと(あめ)(もり)竜神(りうじん)(ほこら)従来(つい)()大喧嘩(おほげんくわ)をして、746それより(わる)(やつ)(のど)()められたと(おも)つて()たが……ヤツパリ(ゆめ)だつたかなア』
747 黒姫(くろひめ)748あたりを(はばか)小声(こごゑ)にて、
749高姫(たかひめ)さま、750(けつ)して(ゆめ)ぢやありませぬ。751ここは高春山(たかはるやま)()(いは)岩窟(がんくつ)……』
752(みみ)(くち)()て、753何事(なにごと)かヒソヒソと(ささや)いて()る。754高姫(たかひめ)(むらさき)(たま)(なが)め、
755『マア立派(りつぱ)(たま)がありますな』
756『これがアルプス(けう)性念玉(しやうねんだま)です。757()れさへ()()れば、758アルプス(けう)最早(もはや)寂滅(じやくめつ)759(なん)とかして帰順(きじゆん)させる方法(はうはふ)はありますまいかなア』
760『ナニ、761ありますとも、762この高姫(たかひめ)()んで()つて(かへ)れば()いのだ』
763(なん)でもあなたは()()みが()いから便利(べんり)ですなア』
764()つて()つて()つて()(たふ)し、765仕組(しぐみ)(おく)生玉(いくだま)()()んだ(この)(わたし)766(この)(たま)(ひと)つや(ふた)()むのに(なん)手間暇(てまひま)()りますものか』
767()ふより(はや)く、768(たま)()()り、769クネクネクネと()(まは)し、770(もち)(やう)(やはら)かくして、771グツと()()んで(しま)つた。772(この)(とき)秘密室(ひみつしつ)(そと)に、773(あわ)ただしく駆出(かけだ)足音(あしおと)(きこ)えた。774()れはテーリスタン、775カーリンスの二人(ふたり)であつた。776嗚呼(ああ)777高姫(たかひめ)778黒姫(くろひめ)運命(うんめい)如何(どう)なるであらうか。
779大正一一・五・一六 旧四・二〇 松村真澄録)