霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一四章 タールス(けう)〔七四四〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第24巻 如意宝珠 亥の巻 篇:第4篇 蛮地宣伝 よみ(新仮名遣い):ばんちせんでん
章:第14章 タールス教 よみ(新仮名遣い):たーるすきょう 通し章番号:744
口述日:1922(大正11)年07月05日(旧閏05月11日) 口述場所: 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年5月10日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
玉治別は次の間に押し出され、そこで天然の岩鏡に写った自分の黒ずんだ鼻を見て、照姫が自分に肘鉄を食わした理由を覚った。そして、木花咲耶姫命に鼻を直してもらうように願った。
玉治別が赤い鼻になるように願うと、鼻は鮮紅色になった。玉治別は友彦をからかったことを反省し、次の部落に宣伝に行くことを決めて部屋を出てきた。ジャンナイ教徒たちは、玉治別の赤い鼻を見て畏れ驚き、次の部落への境界まで胴上げして送って行った。
玉治別が山道に佇んでいると、大きな白狐が現れた。玉治別が白狐について行くと、谷川から玉能姫、初稚姫の祝詞の声が聞こえてきた。玉治別が急いで谷川に降っていくと、そこに二人の姿はなく、大蛇がいるのみだった。
玉治別は自分が友彦を面白半分にからかっていたために、二人の危急の場に間に合わなかったと激しく反省し、また大蛇にたいしては大神に人間界に生まれ変われるように祈りを捧げた。
大蛇は感謝の意を表して去っていった。次に猩猩の群れが現れた。玉治別が天津祝詞を唱えると、猩猩たちは感謝した。大きな猩猩に促されて、玉治別は背に負われて運ばれていった。
するとその谷川を巨大な大蛇が通り過ぎていった。玉治別は猩猩に助けられたのだった。玉治別は感謝の意を表して宣伝歌を歌い、祝詞を唱えて指頭から霊光を発射した。すると猩猩の精霊が現れて玉治別に感謝の意を表すと、玉能姫と初稚姫は無事であることを告げ、煙のように消えてしまった。
玉治別は森林の中に端座して祝詞を上げていると、後ろから刺青をした男たちが現れて、玉治別を見て尊崇の意を表した。男たちは玉治別を担いで自分たちの村に連れて行った。
ここアンナヒエールの里の大将はタールスと言い、やはり一人だけ刺青をしないタールス教の教主で、三十格好の大男であった。玉治別は片言ながらこの地の言葉を話してタールスと意を通じた。タールスは玉治別を尊敬して丁重に扱った。
そのころ、アンナヒエールの里に玉能姫と初稚姫がやってきた。里の酋長チルテルは、二人の美人の前に進み出て、玉能姫の手を取ろうとした。玉能姫は驚いて思わず手を払いのけた。
チルテルは親切心から迎え入れようと思ったのだが、手を払われて非常な侮辱を受けたとみなし、里人に命じて二人を取り囲んだ。チルテルは二人に、タールス教主の女房となるようにと迫った。しかし二人は白狐に守られていることが見えていたので、何の恐れもなく男たちをかわしていた。
チルテルの知らせを聞いた玉治別は、直ちにここに連れてくるようにと命じた。タールス教主の女房にしたらどうか、とチルテルとタールスに問われた玉治別は、この二人は天から降された天女であり、人間の女房にすると神の怒りを受けると告げて、思いとどまらせた。
玉治別はここに滞在して言葉をすっかり覚えると、玉能姫、初稚姫とともに里人たちを強化し、タールスやチルテルを立派な神司になした。
二三ケ月後、三人は里を立ち出でて西北指して山伝いに宣伝に出立した。タールスやチルテルは涙ながらに三人を見送った。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2021-08-11 19:58:52 OBC :rm2414
愛善世界社版:232頁 八幡書店版:第4輯 698頁 修補版: 校定版:239頁 普及版:109頁 初版: ページ備考:
001 玉治別(たまはるわけ)合点(がてん)ゆかず、002(つぎ)()押出(おしだ)され天然(てんねん)(いは)(かがみ)(むか)つて(わが)(はな)調(しら)べて()たるに、003(はな)不細工(ぶさいく)(ふく)(あが)り、004(じゆく)した紫葡萄(むらさきぶだう)(やう)(いろ)になり()たりける。
005玉治別『ヤア、006(これ)()めた。007真黒(まつくろ)ケの(この)(はな)では、008テールス(ひめ)さまも……エツパエツパ……と仰有(おつしや)つた(はず)だ。009イーエス イーエス……と仰有(おつしや)るのも(もつと)もだ。010エヽ残念(ざんねん)な……どうぞして(この)(はな)(もと)(とほ)りになれば、011(ひと)揶揄(からか)つて友彦(ともひこ)慢心(まんしん)せぬ(やう)(いまし)めてやるのだが、012(かみ)(さま)(きこ)えませぬワイ。013到頭(たうとう)残念(ざんねん)(なが)大失敗(だいしつぱい)かな。014それは如何(どう)でも()いが、015数多(あまた)土人(どじん)折角(せつかく)尊敬(そんけい)して()れて()たのに如何(どう)して(この)(つら)()けられよう……アヽ天教山(てんけうざん)()します木花(このはな)咲耶姫(さくやひめの)(みこと)(さま)016何卒(どうぞ)(この)(はな)(くろ)いのをお(なほ)(くだ)さいませ。017惟神(かむながら)(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)惟神(かむながら)(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)018はな桜木(さくらぎ)019(ひと)武士(ぶし)020()(のち)()(けが)さぬ(やう)に、021木花(このはな)咲耶姫(さくやひめ)さま何卒(なにとぞ)々々(なにとぞ)神直日(かむなほひ)大直日(おほなほひ)見直(みなほ)聞直(ききなほ)し、022何卒(どうぞ)(この)玉治別(たまはるわけ)暫時(しばらく)(あひだ)023(あか)はな()たせて(くだ)さいませ』
024一心(いつしん)(ねん)じた。025不思議(ふしぎ)葡萄(ぶだう)(やう)(はな)(いろ)はサツと()れ、026一層(いつそう)(うるは)しき鮮紅色(せんこうしよく)(はな)となつて仕舞(しま)つた。
027玉治別(かみ)(さま)028早速(さつそく)()(とど)(くだ)さいまして有難(ありがた)御座(ござ)います。029(しか)(なが)ら、030もう友彦(ともひこ)(あぶら)()りませぬ。031(これ)から(わたくし)此処(ここ)立去(たちさ)つて西(にし)西(にし)へと(すす)み、032(つぎ)部落(ぶらく)宣伝(せんでん)します』
033()(なが)ら、034(つぎ)()悠々(いういう)(くだ)つて()た。035チーチヤーボールは(また)もや(この)姿(すがた)()打驚(うちおどろ)き、
036チーチヤーボール『ボース ボース、037チユーチ チユーチ、038チーリスタン、039ポーリンス、040テーク テーク、041オツポツポ オツポツポ』
042()(なが)(こわ)(さう)後退(あとしざ)りする。043(この)意味(いみ)は、
044(この)(ひと)(かみ)悪魔(あくま)か、045(わけ)(わか)らぬ大化物(おほばけもの)だ。046迂濶(うつかり)して()ると如何(どん)神罰(しんばつ)(あた)るか()れぬ……(みな)(もの)047用心(ようじん)せい。048さうして皆々(みなみな)049(わび)をせい』
050()(こと)である。051一同(いちどう)はチーチヤーボールの言葉(ことば)(かしら)大地(だいち)につけ、
052一同『プースー プースー』
053(こゑ)(そろ)へて(あやま)つて()る。054「プースー」と()(こと)は「お(ゆる)し」と()(こと)である。055玉治別(たまはるわけ)(くち)から出放題(ではうだい)に、
056玉治別『トーリンボース トーリンボース』
057()つた。058(たれ)(かれ)(この)(こゑ)(あたま)(した)(あし)(うへ)にノタノタと(ある)()した。059中心(ちうしん)(うしな)つて()れも(これ)もバタバタと前後(ぜんご)左右(さいう)(たふ)れて仕舞(しま)つた。
060玉治別『クース、061リヤー、062ポール、063ストン』
064出放題(ではうだい)()つて()た。065(この)言葉(ことば)は、
066(みな)さま(ゆる)して()げますから()安心(あんしん)なさい』
067()意味(いみ)惟神(かむながら)(てき)になつて()たのである。068一同(いちどう)(こゑ)(そろ)へて「ウワーウワー」と()(なが)玉治別(たまはるわけ)胴上(どうあ)げし「エツサーエツサー」と(こゑ)(そろ)へて(いち)()ばかり山道(やまみち)(おく)り、069(たに)(ひと)(むか)ふへ(かぜ)(かみ)でも(おく)(やう)にして(おく)りつけ、070一生(いつしやう)懸命(けんめい)(とき)(つく)つて()(かへ)()く。071玉治別(たまはるわけ)後見送(あとみおく)つて、
072玉治別(なん)だ、073薩張(さつぱ)(わけ)(わか)らぬ。074まるで疱瘡神(はうそうがみ)でも(おく)(やう)にしやがつた。075余程(よほど)(おれ)(こわ)かつたと()えるワイ、076アハヽヽヽ。077……(とき)玉能姫(たまのひめ)(さま)078初稚姫(はつわかひめ)(さま)何方(どちら)へお()きなされたらう。079洒落(しやれ)どころの(はなし)ぢやない。080(いち)()(はや)(おん)所在(ありか)(さが)さねば申訳(まをしわけ)()い』
081思案(しあん)()れて両手(りやうて)()俯向(うつむ)いて()る。082其処(そこ)へガサガサと足音(あしおと)をさせ(なが)近寄(ちかよ)(きた)るものがある。083()れば(だい)なる白狐(びやくこ)であつた。084玉治別(たまはるわけ)白狐(びやくこ)(むか)ひ、
085玉治別『やア貴方(あなた)鬼武彦(おにたけひこ)(さま)()眷属(けんぞく)月日(つきひ)明神(みやうじん)(さま)086ようこそ()いで(くだ)さいました。087初稚姫(はつわかひめ)(さま)088玉能姫(たまのひめ)(さま)所在(ありか)をお()らせ(くだ)さいませ』
089 白狐(びやくこ)無言(むごん)のまま、090打頷(うちうなづ)()二三遍(にさんぺん)左右(さいう)()り、091ノソノソと(あゆ)()した。092玉治別(たまはるわけ)白狐(びやくこ)(あと)(したが)ひ、093樹木(じゆもく)(しげ)れる山林(さんりん)(なか)(みぎ)(ひだり)小柴(こしば)()(なが)ら、094大蛇(をろち)(せな)()()(あるひ)(また)げ、095二三(にさん)()ばかり西北(せいほく)()して()いて()く。096(たに)(そこ)(かすか)(きこ)ゆる天津(あまつ)祝詞(のりと)(こゑ)097(みみ)()まして()いて()れば(たしか)初稚姫(はつわかひめ)098玉能姫(たまのひめ)(こゑ)(やう)であつた。099(ねん)()めと(ふたた)()(ふさ)いで(こゑ)所在(ありか)(たしか)めた(うへ)100()(ひら)けば白狐(びやくこ)姿(すがた)(かげ)(かたち)もなくなり()たりけり。
101 玉治別(たまはるわけ)谷底(たにそこ)(こゑ)をしるべに(くさ)()()(くだ)つて()く。102不思議(ふしぎ)今迄(いままで)(きこ)えた(こゑ)はピタリと()まり、103谷川(たにがは)(いは)(ぶつ)かかる水音(みづおと)のみ囂々(がうがう)(きこ)え、104(ゆき)(ごと)飛沫(ひまつ)()ばして()るのみで、105(ひと)(かげ)らしきもの(すこ)しも見当(みあ)たらない。106谷川(たにがは)上流(じやうりう)下流(かりう)(こゑ)(かぎ)りに、
107玉治別玉能姫(たまのひめ)(さま)108初稚姫(はつわかひめ)(さま)
109()ばはりつつ捜索(そうさく)すれども(なん)応答(いらへ)もなく、110谷川(たにがは)水音(みづおと)(くは)へて猛獣(まうじう)(うな)(ごゑ)111刻々(こくこく)(はげ)しく(きこ)えて()る。112谷川(たにがは)彼方(あなた)()れば蜿蜒(えんえん)たる大蛇(だいじや)113鎌首(かまくび)()三四(さんし)(しやく)もあらむと(おも)はるる(した)をペロペロと()し、114玉治別(たまはるわけ)(にら)みつけて()る。
115玉治別『ヤア、116大変(たいへん)(ふと)(やつ)だ。117(たしか)此処(ここ)にお二人(ふたり)(こゑ)がして()(はず)だが、118大方(おほかた)大蛇(をろち)(やつ)119()んで仕舞(しま)ひやがつたのだらう。120アヽ残念(ざんねん)(こと)をした。121友彦(ともひこ)()面白(おもしろ)半分(はんぶん)揶揄(からか)つて()天罰(てんばつ)(おそ)くなつたか。122一歩(ひとあし)(はや)かりせば、123二人(ふたり)をヤミヤミと蛇腹(じやふく)(はうむ)るのではなかつたのに、124三五教(あななひけう)御教(みをしへ)には……油断(ゆだん)大敵(たいてき)125一寸(ちよつと)()油断(ゆだん)(いた)すな、126改心(かいしん)(うへ)にも改心(かいしん)(いた)して、127一呼吸(ひといき)()(かみ)(わす)れな、128慢心(まんしん)大怪我(おほけが)(もと)だ……と(いまし)められてある。129我々(われわれ)日々(にちにち)口癖(くちぐせ)(やう)世人(せじん)(むか)つて……慢心(まんしん)をすな、130改心(かいしん)をせよ……と()つて宣伝(せんでん)(まは)つたが、131(つい)には無意識(むいしき)(てき)蓄音機(ちくおんき)(やう)()(やう)になつて、132言葉(ことば)ばかり立派(りつぱ)(たましひ)()けて()つた。133それだからコンナ失敗(しつぱい)(えん)じたのだ。134エヽ(につく)大蛇(だいじや)(やつ)135……否々(いやいや)(けつ)して大蛇(だいじや)(わる)いのではない。136彼奴(あいつ)所在(あらゆる)生物(せいぶつ)()むのが商売(しやうばい)だ、137生物(いきもの)()んで天寿(てんじゆ)(たも)代物(しろもの)だから大蛇(だいじや)(うら)めるのは我々(われわれ)見当(けんたう)(ちが)ひ、138玉能姫(たまのひめ)(さま)139初稚姫(はつわかひめ)(さま)矢張(やつぱ)注意(ちゆうい)()らなかつたのだ。140みすみす二人(ふたり)()んだ大蛇(だいじや)(まへ)()ながら(かたき)()たずに(かへ)らねばならぬのか。141最早(もはや)大蛇(だいじや)(ころ)して、142無念(むねん)()らして()(ところ)が、143二人(ふたり)生命(いのち)(たす)かると()(わけ)でもなし、144()らざる殺生(せつしやう)をするよりも(この)実地(じつち)教訓(けうくん)玉治別(たまはるわけ)(むね)(たた)()み、145(これ)から粉骨(ふんこつ)砕身(さいしん)146生命(いのち)(まと)三人分(さんにんぶん)活動(くわつどう)をして()よう。147さうすればお二人(ふたり)(こころ)(なぐさ)むる(こと)出来(でき)るであらう』
148独語(ひとりご)ちつつ(たに)(かたはら)()つて両手(りやうて)(あは)天津(あまつ)祝詞(のりと)奏上(そうじやう)し、149大蛇(をろち)(むか)つて鎮魂(ちんこん)(ほどこ)し、
150玉治別(いち)()(はや)く………大本皇(おほもとすめ)大神(おほかみ)(さま)151大蛇(をろち)(つみ)()(ゆる)(くだ)さいまして、152(はや)人間界(にんげんかい)(うま)れさしてやつて(くだ)さいませ』
153(なみだ)(とも)祈願(きぐわん)()らす。154大蛇(をろち)両眼(りやうがん)より(なみだ)をポロポロと(なが)し、155玉治別(たまはるわけ)(むか)つて(かうべ)()感謝(かんしや)()(へう)(なが)ら、156悠々(いういう)として(けは)しき岩山(いはやま)(のぼ)り、157(つい)(その)長大(ちやうだい)なる姿(すがた)(かく)しけり。
158 (にはか)(うしろ)(はう)(あた)つて数多(あまた)足音(あしおと)(きこ)えて()た。159玉治別(たまはるわけ)不図(ふと)()(かへ)()れば、160猩々(しやうじやう)(むれ)数十匹(すうじつひき)161(なか)には赤児(あかご)(いだ)(ちち)(ふく)ませ(なが)ら、162玉治別(たまはるわけ)(まへ)(むか)つて(すす)()る。163玉治別(たまはるわけ)一生(いつしやう)懸命(けんめい)天津(あまつ)祝詞(のりと)奏上(そうじやう)した。164猩々(しやうじやう)(むれ)各々(おのおの)(ひざまづ)き、165両手(りやうて)(あは)せ「キヤア キヤア」と()(なが)ら、166感謝(かんしや)するものの(ごと)くであつた。167猩々(しやうじやう)(なか)より(もつと)(すぐ)れて(だい)なるもの(あら)はれ(きた)玉治別(たまはるわけ)(まへ)()をつき(なが)(かしら)()げ、168(せな)無理(むり)()(なが)ら、169(けは)しき(みち)()()(ごと)くに(のぼ)()く。170数多(あまた)猩々(しやうじやう)玉治別(たまはるわけ)()はれたる(うしろ)より(したが)(きた)る。171(この)(とき)172山岳(さんがく)(くづ)るるばかりの大音響(だいおんきやう)(きこ)え、173周囲(しうゐ)三四丈(さんしじやう)ばかり、174(なが)五六十(ごろくじつ)(けん)もあらむと(おも)太刀肌(たちはだ)大蛇(だいじや)175尻尾(しつぽ)鋭利(えいり)なる(つるぎ)(ひか)らせ(なが)ら、176玉治別(たまはるわけ)端坐(たんざ)()たりし谷川(たにがは)一瀉(いつしや)千里(せんり)(いきほひ)にて囂々(がうがう)(おと)させ(なが)ら、177ネルソン(ざん)(はう)(むか)つて(すす)()く。178()猩々(しやうじやう)(たす)けなかりせば、179玉治別(たまはるわけ)生命(いのち)如何(いかが)なりしか(ほとん)(はか)()れざる破目(はめ)(おちい)つたであらう。
180 猩々(しやうじやう)玉治別(たまはるわけ)(せな)()ひ、181(たに)(いく)つとなく()()え、182(ある)高山(かうざん)山腹(さんぷく)(やや)平坦(へいたん)なる地点(ちてん)(みちび)きドツカと(おろ)した。183玉治別(たまはるわけ)猩々(しやうじやう)(むか)ひ、
184玉治別『アヽ(いづ)れの(かみ)(さま)化身(けしん)(ぞん)じませぬが、185(あやふ)(ところ)をよくもお(たす)(くだ)さいました。186(れい)には天津(あまつ)祝詞(のりと)奏上(そうじやう)(いた)しませう』
187猩々(しやうじやう)(むれ)(むか)つて、188宣伝歌(せんでんか)(うた)祝詞(のりと)奏上(そうじやう)し、189指頭(しとう)より霊光(れいくわう)発射(はつしや)した。190さしも多数(たすう)猩々(しやうじやう)(たちま)霊光(れいくわう)(てら)され、191(けむり)(ごと)()えて仕舞(しま)つた。192一塊(いつくわい)白煙(はくえん)其処(そこ)より立昇(たちのぼ)るよと()()に、193(うるは)しき一人(ひとり)女神(めがみ)194ニコニコし(なが)玉治別(たまはるわけ)(まへ)(ちか)より(きた)り、195両手(りやうて)をつかへ、
196女神(わらは)猩々(しやうじやう)(せい)御座(ござ)います。197折角(せつかく)人間(にんげん)姿(すがた)(うま)(なが)斯様(かやう)浅間(あさま)しき言葉(ことば)(つう)ぜぬ(けもの)(うま)れ、198()不幸(ふかう)(なげ)いて()りました。199(しか)るに有難(ありがた)(たふと)天津(あまつ)祝詞(のりと)(こゑ)()かして(いただ)き、200我々(われわれ)(これ)にて人間(にんげん)(うま)(かは)り、201天下(てんか)国家(こくか)()めに大活動(だいくわつどう)(いた)します。202さうして貴方(あなた)()(たづ)(あそ)ばす初稚姫(はつわかひめ)(さま)203玉能姫(たまのひめ)(さま)()無事(ぶじ)でいらつしやいます、204()心配(しんぱい)なさいますな。205(やが)てお()ひになる(とき)があるでせう。206(この)(さき)如何(いか)なる(こと)(ござ)いませうとも、207(かなら)()心配(しんぱい)(くだ)さいますな』
208()ふかと()れば、209姿(すがた)()えて白煙(はくえん)次第(しだい)々々(しだい)(うす)れゆき、210(つい)には(かげ)(かたち)()えなくなつた。
211 玉治別(たまはるわけ)一生(いつしやう)懸命(けんめい)祝詞(のりと)奏上(そうじやう)して()た。212(うしろ)(はう)森林(しんりん)より(たちま)(あら)はれ()でたる十四五(じふしご)(にん)文身(いれずみ)した(だい)(をとこ)213玉治別(たまはるわけ)姿(すがた)()るなり、
214『ウツポツポ ウツポツポ、215ホーレンス、216サーチライス』
217()(なが)両手(りやうて)(あは)せて(をが)(たふ)す。218玉治別(たまはるわけ)(こころ)(うち)にて、
219玉治別『……ハヽア(また)……サーチライス………だな。220(おれ)(はな)(あか)くなつたので、221友彦(ともひこ)二代目(にだいめ)にして()れるのかな。222(しか)如何(どん)別嬪(べつぴん)()つても、223(おれ)には国依別(くによりわけ)(いもうと)のお(かつ)()立派(りつぱ)女房(にようばう)国許(くにもと)()つて()るのだから、224そんな巫山戯(ふざけ)真似(まね)出来(でき)ないし、225有難(ありがた)迷惑(めいわく)だ。226(しか)大将(たいしやう)(をんな)ばかりに(かぎ)らない。227ひよつとしたら(この)棟梁(とうりやう)(をとこ)かも()れない、228さうすれば大変(たいへん)都合(つがふ)()いがな………』
229(つぶや)(なが)ら、
230玉治別(われ)こそは天教山(てんけうざん)()します、231(かむ)伊弉諾(いざなぎの)大神(おほかみ)(うづ)御子(みこ)木花姫(このはなひめの)(みこと)であるぞ』
232(あか)(はな)(ゆび)(おさ)へて()せた。233一同(いちどう)は「ウワーウワー」と()(なが)ら、234玉治別(たまはるわけ)()()せる(やう)大切(たいせつ)にし(なが)ら、235(つち)()まさず丁寧(ていねい)身体(からだ)()()げ、236(かたはら)(いは)()をパツと(ひら)いて(あり)蚯蚓(みみず)引込(ひきこ)(やう)調子(てうし)(おく)(ふか)()れて()く。237二三丁(にさんちやう)ばかり隧道(すゐどう)(かつ)がれ、238パツと(にはか)(あか)るくなつたと(おも)へば、239(おほ)きなあかり()りが出来(でき)()る。240それより(おく)(かつ)がれ、241(また)もや四五丁(しごちやう)ばかり(すす)んだと(おも)うた(ところ)一同(いちどう)(こゑ)(そろ)へて、
242一同『ウツポツポ、243ジヤンジヤヒエール、244ウツパツパ』
245()(なが)(うやうや)しく(やや)(ひろ)場所(ばしよ)玉治別(たまはるわけ)(おろ)し、246チルテルと()(その)(なか)での大将(たいしやう)らしき(をとこ)247玉治別(たまはるわけ)()(にぎ)り、248(かたはら)(いは)()()(おく)()()んだ。249(おも)ひの(ほか)(ひろ)岩窟(がんくつ)であり、250芭蕉(ばせう)()七八倍(しちはちばい)もある(やう)(おほ)きな()が、251鱗形(うろこなり)(あつ)()()めてあつた。252()()(あを)()れた(かを)りは(なん)とも()へぬ気分(きぶん)(ただよ)うて()る。
253 ()かる(ところ)へ、254(かみ)()(うるし)(ごと)(くろ)()つた三十(さんじふ)恰好(かつかう)(だい)(をとこ)255文身(いれずみ)もせず(をとこ)()りの()比較(ひかく)(てき)(いろ)(しろ)い、256(なん)とはなしに高尚(かうしやう)風姿(ふうし)にて、257ニコニコし(なが)玉治別(たまはるわけ)(まへ)()(きた)り、258丁寧(ていねい)両手(りやうて)をつき、
259『ホーレンス、260サーチライス、261ウツタツタ ウツタツタ、262カーリス カーリス』
263()(なが)ら、264(たちま)玉治別(たまはるわけ)()(にぎ)(しき)りに(ゆす)つた。265玉治別(たまはるわけ)はニコニコしながら、266(みぎ)(こぶし)(にぎ)り、267人差指(ひとさしゆび)をツンと()て、268天井(てんじやう)(はう)をチユウチユウと二三回(にさんくわい)(ゆび)さして()せた。269さうして、
270玉治別『アーマ アーマ、271タラリー タラリー、272トータラリ トータラリ、273リート リート、274ジヤンジヤヒエール、275オノコロジマ、276玉治別(たまはるわけ)277神司(かむつかさ)
278()つた、279(その)(をとこ)はタールス(けう)教主(けうしゆ)であつて、280()をタールスと()ふ。281タールスは、
282タールス『ホーレンス、283タールス、284チツク チツク、285アツパツパ、286テーリス テーリス』
287挨拶(あいさつ)する。288(この)意味(いみ)は、
289(われ)()救世主(きうせいしゆ)290よくまア、291()(くだ)さいました。292只今(ただいま)より貴方(あなた)救世主(きうせいしゆ)(あふ)ぎ、293(まこと)(ささ)げてお(つか)(いた)します。294何卒(どうぞ)(なが)らく此処(ここ)にお(しづ)まり(くだ)さいませ』
295といふ(こと)であつた。296玉治別(たまはるわけ)は、
297玉治別『テーリス テーリス』
298(なか)(ゆが)みなりの此処(ここ)()使(つか)つた。299その意味(いみ)は、
300何事(なにごと)惟神(かむながら)(まか)してお世話(せわ)になります』
301といふ(こと)なり。302タールスは尊敬(そんけい)(いた)らざるなく、303玉治別(たまはるわけ)(もつと)(おく)(ふか)最上等(さいじやうとう)()(みちび)き、304(めづ)らしき果物(くだもの)()して饗応(きやうおう)し、305生神(いきがみ)降臨(かうりん)(こころ)(そこ)より感謝(かんしや)して()た。306ネルソン(ざん)以西(いせい)住民(ぢうみん)(むかし)より、307救世主(きうせいしゆ)308(てん)より()(たま)ひ、309万民(ばんみん)霊肉(れいにく)ともに(すく)(たま)ふと()(こと)(かた)(しん)じて()た。310こはジヤンナの(さと)でも同様(どうやう)である。311此処(ここ)はアンナヒエールと()(さと)であつた。
312 (この)(とき)玉能姫(たまのひめ)313初稚姫(はつわかひめ)宣伝歌(せんでんか)(うた)(なが)ら、314アンナヒエールの(さと)(すす)んで()た。315チルテル以下(いか)数十(すうじふ)(めい)里人(さとびと)は、316果樹(くわじゆ)()()らんとてアンナの大樹(たいじゆ)(もと)(あつ)まつて()た。317其処(そこ)二人(ふたり)美人(びじん)(あら)はれ(きた)れるを()てチルテルは真先(まつさき)(すす)()で、318二人(ふたり)(まへ)目礼(もくれい)(なが)ら、
319チルテル『アツタツタ、320ネース ネース』
321()(なが)玉能姫(たまのひめ)()()らむとした。322玉能姫(たまのひめ)(おどろ)いて(つよ)()(はな)した。323チルテルは、
324チルテル『エーパツパ、325エーネース エーネース』
326()(なが)ら、327顔面(がんめん)怒気(どき)(ふく)んで大勢(おほぜい)目配(めくば)せするや、328()つて(たか)つて二人(ふたり)手籠(てご)めになしタールスの岩窟内(がんくつない)(はこ)()みぬ。
329(これ)から(わか)りやすき(やう)日本語(にほんご)にて物語(ものがた)る)
330チルテル(なんぢ)何処(いづく)(をんな)だ。331此処(ここ)(なん)心得(こころえ)()る。332竜宮(りうぐう)(ひと)(じま)でも(もつと)獰猛(だうまう)人種(じんしゆ)にして、333他郷(たきやう)(もの)一人(ひとり)として、334(おそ)(おのの)(この)()()んだものはない。335(しか)るに図々(づうづう)しくも(をんな)分際(ぶんざい)として、336(この)(さと)(ことわ)りもなく(すす)()るこそ不届(ふとど)至極(しごく)(をんな)ども、337(この)チルテルは()()えても()(なみだ)もある(をとこ)だ。338(なん)とかして(たす)けてやり()いと(おも)親切(しんせつ)()()れば素気(すげ)なくも()(はな)敵意(てきい)(へう)する横道者(わうだうもの)339さアもう()うなる(うへ)此方(こちら)自由(じいう)自在(じざい)だ。340()いて()はうと()いて()はうと此方(こつち)(まま)だ』
341と、342(おに)(やう)(かほ)真黒気(まつくろけ)文身(いれずみ)した(やつ)343前後(ぜんご)左右(さいう)より取囲(とりかこ)む。
344玉能姫『ホヽヽヽヽ、345(わづ)かに二人(ふたり)繊弱(かよわ)(をんな)を、346(おほ)きな(をとこ)数十(すうじふ)(にん)347()つて(たか)つて(あり)(せみ)死骸(しがい)でも(あな)引込(ひつこ)(やう)に「エツサエツサ」と(かつ)()み、348()親切(しんせつ)によう()つて(くだ)さいました。349吾々(われわれ)天教山(てんけうざん)(あら)はれ(たま)花赤神(はなあかがみ)(いち)眷属(けんぞく)350玉能姫(たまのひめ)351初稚姫(はつわかひめ)()生神(いきがみ)御座(ござ)るぞや。352取違(とりちが)(いた)すと量見(りやうけん)ならぬぞ』
353()をキリリツと()()げたり。
354チルテル花赤神(はなあかがみ)眷属(けんぞく)とは真赤(まつか)(いつは)りだらう。355よし、356そんな(いつは)りを(まを)すと(いま)(ばけ)(かは)()いてやるぞ。357花赤(はなあか)(かみ)(さま)はタールス(けう)教主(けうしゆ)(さま)(いま)(おく)にてお(はなし)最中(さいちう)だ。358一度(いちど)()()(やう)ものなら、359(たちま)(なんぢ)(ばけ)露顕(あらは)れるだらう。360左様(さやう)(いつは)りを(まを)すよりも、361今日(けふ)目出度(めでた)(かみ)(さま)()降臨日(かうりんび)だから(ゆる)して(つか)はす。362よつて(この)(はう)(まを)(こと)素直(すなほ)()くが()い。363(つね)()ならば(なんぢ)生命(いのち)()(ところ)である。364さア(わが)教主(けうしゆ)(いま)女房(にようばう)はお()(あそ)ばさず、365(なん)とかして文身(いれずみ)のない(をんな)女房(にようばう)(いた)したいと常々(つねづね)仰有(おつしや)つて御座(ござ)るのだ。366恰度(ちやうど)よい(ところ)だ。367ウンと()はつしやい。368さすれば我々(われわれ)今日(こんにち)只今(ただいま)より………()主人(しゆじん)(さま)369奥様(おくさま)(あが)(たてまつ)つて、370如何(どん)御用(ごよう)でも()無理(むり)でも()きます(ほど)に、371万々一(まんまんいち)不承諾(ふしようだく)とあれば本日(ほんじつ)成敗(せいばい)(ゆる)し、372明日(あす)はお(まへ)()生命(いのち)()つて仕舞(しま)ふから、373覚悟(かくご)をきめて返答(へんたふ)をなさい』
374初稚姫『モシ玉能姫(たまのひめ)さま、375(なん)()つても、376仮令(たとへ)(ころ)されても(おう)ずる(こと)はなりませぬぞや。377貴女(あなた)には立派(りつぱ)若彦(わかひこ)(さま)()(をつと)がおありなさるのだから』
378玉能姫『お言葉(ことば)までもなく、379(わたし)(けつ)して生命(いのち)()られても左様(さやう)難題(なんだい)には(おう)じませぬから、380安心(あんしん)して(くだ)さい』
381チルテル『こりや、382小女(こめ)ツチヨ、383(なに)悪智慧(わるぢゑ)をかうのだ。384不届(ふとど)千万(せんばん)な……(おれ)何方(どなた)心得(こころえ)()る、385ジヤンジヤヒエールのチルテルさんとは、386アンナヒエールの(さと)(おい)(たれ)()らぬ(もの)もない、387(おに)をも取挫(とりひし)ぐチヤーチヤーだぞ。388チヤーチヤー(ぬか)すと最早(もはや)堪忍(かんにん)ならぬ。389膺懲(こらしめ)()めに(この)鉄拳(てつけん)(くら)へ』
390()(なが)ら、391初稚姫(はつわかひめ)目蒐(めが)けて(おに)(わらび)頭上(づじやう)より(くら)はさむとする。
392 初稚姫(はつわかひめ)は、393飛鳥(ひてう)(ごと)(たい)(かわ)し「オホヽヽヽ」と平気(へいき)(わら)つて()る。394白狐(びやくこ)姿(すがた)両人(りやうにん)()(あきら)かに(えい)じて()る。395チルテル(はじ)一同(いちどう)は「タールス教主(けうしゆ)女房(にようばう)になれ」と種々(いろいろ)(おど)しつ(すか)しつ、396(つい)には声高(こわだか)となつて()た。397チルテルは()くては()てじと(おく)()(はし)()り、398タールスの(まへ)両手(りやうて)をつき、
399チルテル只今(ただいま)(うるは)しき(をんな)二人(ふたり)400(この)(さと)(まよ)(きた)り、401玉能姫(たまのひめ)とか、402初稚姫(はつわかひめ)とか(まを)して()りましたが、403(じつ)綺麗(きれい)(をんな)御座(ござ)います。404貴方(あなた)女房(にようばう)には()つて()いの適役(はまりやく)405(わか)(はう)(さき)でお(めかけ)(あそ)ばしたら(よろ)しからうと(ぞん)じ、406岩窟(いはや)(なか)()()みましたが、407なかなかの剛情者(がうじやうもの)で、408(すこ)しも、409我々(われわれ)(まを)(こと)(しり)()かして、410(あご)返事(へんじ)(いた)横道者(わうだうもの)411如何(いかが)取計(とりはか)らひませうや』
412 (これ)()いた玉治別(たまはるわけ)はハツト(むね)(をど)らせたが、413さあらぬ(てい)にて(ひか)()る。
414タールス(なに)415(うつく)しき(をんな)二人(ふたり)(まで)()たか、416(この)()引連(ひきつ)(きた)れ。417因縁(いんねん)有無(うむ)調(しら)()む、418(いち)()(はや)く』
419()()てる。420「ハイ」と(こた)へてチルテルは(この)()立退(たちの)き、
421チルテル『サア玉能姫(たまのひめ)422初稚姫(はつわかひめ)423今日(けふ)花赤神(はなあかがみ)(さま)()降臨(かうりん)で、424教主(けうしゆ)(さま)大変(たいへん)()機嫌(きげん)425其処(そこ)(その)(はう)(まゐ)つたのも(なに)かの因縁(いんねん)であらう。426()(かく)()面会(めんくわい)(ため)427チルテルの(うしろ)()いて御座(ござ)れ』
428玉能姫『ハイ、429有難(ありがた)う。430(しか)らば(まゐ)りませう。431……初稚姫(はつわかひめ)(さま)432貴女(あなた)一緒(いつしよ)に』
433初稚姫(はつわかひめ)()をとり、434チルテルの(あと)(したが)教主(けうしゆ)居間(ゐま)(みちび)いた。435玉治別(たまはるわけ)二人(ふたり)(かほ)()るなり、436「アツ」と()はむとせしが(みづか)(せい)(とど)めた。437玉能姫(たまのひめ)438初稚姫(はつわかひめ)玉治別(たまはるわけ)姿(すがた)()て、439救世主(きうせいしゆ)()ひし(ごと)(こころ)(うち)(よろこ)んだ。440(しか)し、441様子(やうす)ある(こと)(わざ)素知(そし)らぬ(かほ)して俯向(うつむ)いて()る。442タールスは玉治別(たまはるわけ)(むか)ひ、
443タールス『オーレンス、444サーチライス、445アツタツタ、446今日(こんにち)遥々(はるばる)天上(てんじやう)より()降臨(かうりん)(くだ)さいまして、447アンナヒエールの郷人(さとびと)欣喜(きんき)雀躍(じやくやく)448天下(てんか)泰平(たいへい)祝福(しゆくふく)(いた)()ります(ところ)へ、449(また)もや当国(たうごく)(おい)ては類稀(たぐひまれ)なる(これ)なる美人(びじん)450(しか)二人(ふたり)までこれへ(まゐ)りましたのは、451(まつた)(かみ)(さま)()引合(ひきあは)せで御座(ござ)いませう。452(わたし)女房(にようばう)(いた)しましたら如何(いかが)御座(ござ)いませう』
453玉治別『イーエス イーエス、454エータルス エータルス、455エツパツパ、456パーツク パーツク、457エツパツパ』
458()つた。459タールスは(あたま)をガシガシ()(なが)(ふたた)び、
460タールス左様(さやう)御座(ござ)いませうが、461(なん)とかしてお(ゆる)(いただ)(わけ)には(まゐ)りますまいか。462ならう(こと)なら、463(わたし)宿(やど)(つま)(いた)したう御座(ござ)います。464(また)(わか)(はう)(わが)(むすめ)として大切(たいせつ)(そだ)()げ、465天晴(あつぱれ)タールス(けう)神司(かむつかさ)仕上(しあ)げる覚悟(かくご)御座(ござ)いますから、466何卒(どうぞ)(ゆる)しを(ねが)ひます』
467(たの)()んだ。
468玉治別(これ)なる(をんな)高天原(たかあまはら)より(くだ)(たま)へる天女(てんによ)にして、469人民(じんみん)左右(さいう)すべきものに(あら)ず。470万々一(まんまんいち)(あやま)つて神慮(しんりよ)()るる(やう)(こと)あらば、471(なんぢ)生命(いのち)(ただち)召取(めしと)らるるであらうぞ』
472(こゑ)(ちから)()れて、473きめつけた。474タールスは(その)(きび)しき言霊(ことたま)()()たれ、475(おも)はず(かしら)()げ、
476タールス今後(こんご)(けつ)して左様(さやう)(こと)(まを)しませぬから、477何卒(どうぞ)(ゆる)(くだ)さい』
478嘆願(たんぐわん)した。479玉治別(たまはるわけ)心中(しんちう)可笑(をか)しさを(こら)へ、480ソツと()(やう)(ふう)して両女(りやうぢよ)(かほ)(のぞ)()んだ。481両女(りやうぢよ)()同時(どうじ)玉治別(たまはるわけ)両眼(りやうがん)(そそ)がれた。
482 (これ)より玉治別(たまはるわけ)(この)(さと)言葉(ことば)をスツカリ(おぼ)えた(うへ)483三五教(あななひけう)教理(けうり)()(さと)し、484タールスを立派(りつぱ)なる神司(かむつかさ)仕上(しあ)げ、485チルテルも(おな)じく神司(かむつかさ)となり、486アンナヒエールの里人(さとびと)一人(ひとり)(のこ)らず大神(おほかみ)(みち)帰順(きじゆん)せしめ、487二三(にさん)(げつ)滞在(たいざい)(うへ)488(さん)(にん)(この)(さと)()()で、489西北(せいほく)さして山伝(やまづた)ひに宣伝歌(せんでんか)(うた)(なが)(すす)()くのであつた。490七八(しちはち)()(あひだ)はチルテルを(はじ)一同(いちどう)見送(みおく)りをなし、491(ここ)(なみだ)(とも)(をし)(わか)れを()げたりける。
492大正一一・七・五 旧閏五・一一 北村隆光録)
493   窓外和知川の氾濫を眺めつつ
494(昭和一〇・三・八 於吉野丸船室 王仁校正)

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