霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一章 高姫館(たかひめやかた)〔七八三〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第27巻 海洋万里 寅の巻 篇:第1篇 聖地の秋 よみ:せいちのあき
章:第1章 高姫館 よみ:たかひめやかた 通し章番号:783
口述日:1922(大正11)年07月22日(旧閏05月28日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年6月20日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
桶伏山の東麓に建つ高姫館に、高山彦・黒姫夫婦がやってきた。門番の勝公・安公は丁寧に出迎えて、奥へと迎え入れた。
高姫は奥の間へ現れ、火鉢の前に座ると四角張って、二人が夫婦連れでやってきたことに嫌味を言った。黒姫は高山彦のたもとを引っ張って、早く帰れと促した。高山彦は、高姫の嫌味に賛同を表し、黒姫と口げんかをしている。
黒姫は、このようなことをしに来たのではない、と言って来意を告げた。国依別が高姫に進上するようにと、魚だと称して川石をどっさり持って来たので、高姫に処置を伺いに来たのであった。
高姫、黒姫は、これはてっきり国依別が意趣返しだと合点した。高姫は、国依別本人に問いただすのだと言い出し、安公に国依別を呼んで来るように言いつけた。
安公が国依別を呼びに行くと、秋彦も着いて来た。二人は滑稽を演じながらやってきて、安公を巻き込んで高姫館の門口で三文芝居をしている。
高姫は声を聞きつけて門口に出てきた。国依別は芝居の姿のまま、高姫の問いかけに俳句で答えている。そのまま国依別、秋彦は奥の間に入った。
高姫が、石の魚を寄越した意図を問いただしたが、国依別は相変わらずずっと俳句で答えて、高姫、黒姫を罵倒してなぶっている。黒姫は、高山彦に悔しくないのかとけしかけて、反撃するように促した。
高山彦は自分を滑稽に歌った歌を返してしまう。黒姫は怒って国依別の過去をあげつらった歌を歌って返した。それを聞いた国依別は大笑いして、黒姫の歌を褒め称える滑稽歌を返した。
さすがの高姫もあきれてしまう。再度の高姫の問いかけに、国依別は、石より固い高姫の心に敬意を表したのであり、食ってくれとは一言も言っていないと洒落の意を明かした。高姫も、あきれが過ぎて感心してしまう。
そこへ夏彦と常彦が、高姫のご機嫌伺いにやってきた。二人は案に相違して国依別、秋彦がその場に居たのでどぎまぎしている。国依別と秋彦は、密談の邪魔になるだろうから、と言って高姫館を去って行った。
帰り道、国依別は高姫もずいぶん辛抱強くなったと感心している。二人は滑稽口をたたきながら、国依別の庵まで戻ってきた。
主な登場人物: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:
愛善世界社版:9頁 八幡書店版:第5輯 245頁 修補版: 校定版:9頁 普及版:3頁 初版: ページ備考:
001五六七(みろく)神世(かみよ)経綸地(けいりんち)
002青垣山(あをがきやま)(めぐ)らせる
003霊山会場(れいざんゑぢやう)蓮華台(れんげだい)
004桶伏山(をけぶせやま)東麓(とうろく)
005(あさひ)()けて小雲川(こくもがは)
006(きよ)(なが)れを瞰下(かんか)する
007風景絶佳(ふうけいぜつか)(いは)()
008丸木柱(まるきばしら)(ささ)屋根(やね)
009(あつ)()いたる神館(かむやかた)
010(しづ)かに()てる冠木門(かぶきもん)
011天然石(てんねんいし)()(なら)
012(うめ)(まつ)との庭園(ていゑん)
013()なりに(ひろ)(めぐ)らして
014()てる(やかた)四間造(よまづく)
015(おく)(はな)れの一棟(ひとむね)
016高姫(たかひめ)さまが書斎(しよさい)()
017(はぎ)小柴(こしば)()()てて
018(つく)()げたる文机(ふみづくゑ)
019天然石(てんねんいし)(すずり)をば
020(なべ)味噌(みそ)()(やう)
021焼木杭(やけぼくくひ)をクリクリと
022連木(れんぎ)(やう)()()らし
023(たけ)(へら)にて(つく)りたる
024(ふで)(すみ)をば()ませつつ
025(あを)(かわ)きし芭蕉葉(ばせうば)
026(なに)()らねどスラスラと
027()(しる)()(とき)もあれ
028(もん)(ひら)いて()(きた)
029高山彦(たかやまひこ)黒姫(くろひめ)
030姿(すがた)(なが)めて下男(しもをとこ)
031勝公(かつこう)安公(やすこう)両人(りやうにん)
032竜宮様(りうぐうさま)御入来(ごじゆらい)
033いと丁寧(ていねい)(こし)(かが)
034敬意(けいい)(へう)せば黒姫(くろひめ)
035高姫(たかひめ)(さま)在宅(ざいたく)
036高山彦(たかやまひこ)夫婦(ふうふ)()
037(まゐ)りましたと(おく)()
038(つた)へてお()れと(うなが)せば
039ハイハイと(こた)へて勝公(かつこう)
040コレコレ安公(やすこう)(もん)(ばん)
041しつかり(たの)むと()()てて
042いそいそ(おく)()けて()
043(しばら)くありて勝公(かつこう)
044二人(ふたり)(まへ)(こし)(かが)
045高姫(たかひめ)さまの(あふ)せには
046待兼山(まちかねやま)時鳥(ほととぎす)
047二人(ふたり)(とも)(おく)()
048(はや)くお(すす)(くだ)さんせ
049(もつ)ての(ほか)御機嫌(ごきげん)
050(はな)せば黒姫(くろひめ)羽撃(はばた)きし
051高山彦(たかやまひこ)教服(けうふく)
052(ちり)打払(うちはら)悠々(いういう)
053(ほそ)廊下(らうか)(つた)ひつつ
054(おく)()さして(しの)()
055 高姫(たかひめ)別棟(べつむね)書斎(しよさい)から廊下(らうか)(づた)ひに(はかま)()けず、056板縁(いたえん)をめきめき()はせ(なが)ら、057(やや)空向(そらむ)気味(ぎみ)になつて(おく)()(あら)はれ、058()(かぶ)切抜(きりぬ)いた火鉢(ひばち)(まへ)()ゑ、059煎餅(せんべい)(やう)(うす)座蒲団(ざぶとん)(うへ)四角張(しかくば)つて、
060高姫(たかひめ)『コレハコレハ高山彦(たかやまひこ)さまに黒姫(くろひめ)さま、061(なか)()いこと。062独身者(どくしんもの)高姫(たかひめ)(まへ)にそんなお目出度(めでた)いとこを展開(てんかい)して(もら)ひますと、063(たま)りませぬワ。064オホヽヽヽ、065まあまあ御遠慮(ごゑんりよ)()りませぬ。066ズツと(おく)御通(おとほ)(くだ)さい。067………さう遠慮(ゑんりよ)をして(もら)うと、068肝心要(かんじんかなめ)(はなし)()えず、069(かほ)(きこ)えず、070大変(たいへん)都合(つがふ)がよくありませぬワ』
071(わざ)とに(かほ)(きこ)えぬの、072(はなし)()えぬのと、073脱線振(だつせんぶり)発揮(はつき)して、074高山彦(たかやまひこ)夫婦(ふうふ)(たい)大日(おほひ)()るのに、075昼日中(ひるひなか)気楽(きらく)(さう)夫婦(ふうふ)()れでやつて()たのは、076チツト脱線(だつせん)ぢやないかとの意味(いみ)(ほのめ)かして()る。
077 黒姫(くろひめ)(かほ)はサツと(かは)り、078高山彦(たかやまひこ)(たもと)をチヨイチヨイと引張(ひつぱ)り、079(はや)()()かして貴方(あなた)はお(かへ)りと()意味(いみ)(ひそ)かに(しめ)した。
080高山彦(たかやまひこ)『コレ黒姫(くろひめ)081(まへ)何時(いつ)(ひと)(たもと)をチヨイチヨイ引張(ひつぱ)るが、082(おし)でもあるまいに、083何故(なぜ)明瞭(はつきり)()はないのだ。084わしはそんな、085狐鼠々々(こそこそ)手真似(てまね)仕方(しかた)以心伝心(いしんでんしん)使分(つかひわ)けは(きら)ひだからなア』
086黒姫(くろひめ)『エー()()かぬ……瓢六爺(へうろくおやぢ)だなア。087高姫(たかひめ)さまが最前(さいぜん)御言葉(おことば)088貴方(あなた)(なん)()きましたか。089竹生島(ちくぶしま)でも仰有(おつしや)つた(とほ)り、090夫婦(ふうふ)ありては御用(ごよう)出来(でき)御道(おみち)だのに、091高山(たかやま)さまを(もら)うてから、092(わたし)()()けたとキツパリ仰有(おつしや)りましたでせう』
093高山彦(たかやまひこ)『オホヽヽヽ、094いやもう(おそ)()りました。095(この)高山彦(たかやまひこ)高姫(たかひめ)(さま)御精神(ごせいしん)に、096大賛成(だいさんせい)です』
097 黒姫(くろひめ)()(かど)()て、098(すこ)しく口角(こうかく)より(あわ)(にじ)ませ(なが)ら、
099黒姫(くろひめ)『それ(ほど)何々(なになに)さまがお()()りますれば、100どうぞ御好(おす)きな(やう)になさいませ。101(なん)()つても何時(いつ)貴方(あなた)仰有(おつしや)(とほ)り、102(いろ)(くろ)(からす)(よめ)に、103(くび)手足(てあし)(なが)(つる)婿(むこ)さまは釣合(つりあ)ひませぬ。104ヘン……(この)(ごろ)(そら)(をとこ)(こころ)105折角(せつかく)御邪魔(おじやま)(いた)しましたが、106(わたし)(これ)御免(ごめん)(かうむ)ります。107高山彦(たかやまひこ)鷹鳥姫(たかとりひめ)(さま)108(たか)(たか)との情意(じやうい)投合(とうがふ)109(わたし)(これ)にて断念(だんねん)(いた)します。110こんな厄介(やくかい)(おやぢ)(たれ)()(この)んでハズバンドにしたい(もの)御座(ござ)いませうか。111高姫(たかひめ)さまの御紹介(ごせうかい)だと(おも)つてお(みち)(ため)112国家(こくか)(ため)今迄(いままで)辛抱(しんばう)して(まゐ)りました。113男鰥(をとこやもめ)(うじ)()く、114女鰥夫(をんなやもを)(はな)()く、115ヘン…()まないが(わたし)だつて……ヘーン』
116高山彦(たかやまひこ)大変(たいへん)(とこ)鋒鋩(ほうばう)()けるのだなア。117ここを(なん)心得(こころえ)てる』
118黒姫(くろひめ)『ヘン、119仰有(おつしや)いますな、120そんな(こと)(わか)らぬ(やう)黒姫(くろひめ)ですかいな。121(まが)(かた)なき高姫(たかひめ)さまの御館(おやかた)122桶伏山(をけふせやま)朝日(あさひ)直刺(たださ)景勝(けいしよう)()123小雲川(こくもがは)(ほとり)御座(ござ)んすぞえ』
124高姫(たかひめ)『オホヽヽヽ、125随分(ずゐぶん)御気楽(おきらく)なことですな。126私等(わたしら)(はる)(はな)仲秋(ちうしう)(つき)も、127(たの)しむ(いとま)()く、128(なん)だか神様(かみさま)(ため)にかうヂツとして()ても、129()焦々(いらいら)し、130(せは)しくつてなりませぬワ。131小心者(せうしんもの)高姫(たかひめ)(くら)べては、132余裕(よゆう)綽々(しやくしやく)たる御夫婦仲(ごふうふなか)133(じつ)にお(うらや)ましう御座(ござ)います。134ホツホヽヽ』
135黒姫(くろひめ)今日(けふ)左様(さやう)貴女(あなた)嘲罵的(てうばてき)御話(おはなし)()きに(まゐ)つたのぢや御座(ござ)いませぬ。136国依別(くによりわけ)高姫(たかひめ)さまに進上(しんじやう)して()れと()つて、137(めう)(もの)()つて()ました。138()けて()れば大変(たいへん)立派(りつぱ)(ぢう)(うち)139(うへ)(ひと)つの短冊(たんざく)()つてゐる。140(その)文面(ぶんめん)には………(ふな)もろこ141(なまづ)からかぎ(こひ)(ます)142(さけ)(さかな)(どぢやう)ニヨロニヨロ、143ふんぞくらい(すな)くぐり144石食(いしく)(うを)釜掴(かまつか)み、145(すぐ)におあがり(くだ)さらねば、146(ただち)(いし)変化(へんくわ)する(おそれ)あり………と()いてありました。147こら(めう)だと()けて()れば、148不思議(ふしぎ)不思議(ふしぎ)149(うへ)(ぢう)(なか)(ぢう)(した)(ぢう)(のこ)らず(いし)ばつかり、150何程(なにほど)国依別(くによりわけ)悪戯(いたづら)()きだと()つても、151まさか(いし)(はじめ)から()つては()ますまい。152貴女(あなた)(おこ)られると大変(たいへん)だと(おも)ひ、153一寸(ちよつと)(わたし)(たく)(その)(まま)(あづか)つておきました。154どう(いた)しませうかな』
155 高姫(たかひめ)(にはか)(つら)(ふく)らし、
156高姫(たかひめ)黒姫(くろひめ)サン』
157言葉尻(ことばじり)をピンと()ね、
158高姫(たかひめ)『お(まへ)さまは余程(よつぽど)()馬鹿(ばか)ですね』
159黒姫(くろひめ)『ヘー……』
160高山彦(たかやまひこ)何分(なにぶん)にも竜宮(りうぐう)乙姫(おとひめ)(さま)(ひと)(じま)とやらへ、161御旅行(ごりよかう)(あそ)ばした不在宅(るすたく)のガラン(どう)ですからなア、162アハヽヽヽ』
163黒姫(くろひめ)情意(じやうい)投合(とうがふ)のお二人様(ふたりさま)164どうなつと仰有(おつしや)りませ。165あなたは何時(いつ)サカナ理屈(りくつ)()うておイシ(わる)いから、166意趣(いしゆ)(がへ)しに団子(だんご)理屈(りくつ)………オツトドツコイ団子石(だんごいし)国依別(くによりわけ)(わざ)()つて()たのでせう。167そんな(こと)()()かぬ(やう)黒姫(くろひめ)ぢや御座(ござ)りませぬ。168金剛不壊(こんがうふえ)宝珠(ほつしゆ)でさへも御呑(おの)(あそ)ばす高姫(たかひめ)さまだから、169今度(こんど)はお生憎様(あひにくさま)170(かた)(たま)がないから、171これなつと()あがり(あそ)ばして、172(はら)(むし)御癒(おい)やしなされと()ふ、173国依別(くによりわけ)皮肉(ひにく)(なぞ)ですよ』
174高姫(たかひめ)()(かく)国依別(くによりわけ)()んで()ませうか。175本人(ほんにん)直接(ちよくせつ)(うけたま)はれば一番(いちばん)近道(ちかみち)だから………コレコレ安公(やすこう)さま、176(まへ)ちよつと御苦労(ごくらう)だが、177杢助館(もくすけやかた)(となり)豚小屋(ぶたごや)(やう)(ちひ)さい(うち)に、178国依別(くによりわけ)今頃(いまごろ)昼寝(ひるね)(ゆめ)でも()()るに(ちが)ひないから、179高姫(たかひめ)さまが(この)(あひだ)御礼(おれい)御馳走(ごちそう)をあげたい。180()いては折入(をりい)つて御頼(おたの)みしたい(こと)があるから、181最大急行(さいだいきふかう)御出(おい)(くだ)さいと、182()んで()るのだよ』
183安公(やすこう)『ハイ、184さう御註文(ごちうもん)(どほ)り、185国依別(くによりわけ)さまが()()れませうかな』
186高姫(たかひめ)()いでかい。187もし()なかつたら……系統(ひつぽう)生宮(いきみや)命令(めいれい)何故(なぜ)()かないか、188()出神(でのかみ)(なん)心得(こころえ)御座(ござ)る……と一本(いつぽん)189(やり)()()んでおくのだ。190さうすると国依別(くによりわけ)()るものも()(あへ)ず、191スタスタとやつて()るよ。192サア(はや)()つてお()れ』
193安公(やすこう)『アイ』
194一声(ひとこゑ)(あと)(のこ)し、195国依別(くによりわけ)矮屋(わいをく)(まへ)(はし)()いた。
196安公(やすこう)『もしもし、197(くに)大将(たいしやう)さま、198大変(たいへん)だ。199高姫(たかひめ)さまの御居間(おゐま)高山彦(たかやまひこ)黒姫(くろひめ)夫婦(ふうふ)喧嘩(げんくわ)をおつ(ぱじ)め、200()んず()まれつ、201乱痴気(らんちき)(さわ)ぎ、202イヤもう大変(たいへん)(こと)ですよ。203それに(つい)て、204国依別(くによりわけ)愚図々々(ぐづぐづ)(ぬか)すと、205()出神(でのかみ)生宮(いきみや)だ、206系統(ひつぽう)身魂(みたま)(なん)心得(こころえ)てる……と()うて剣突(けんつく)を……ドツコイ(ちが)うた。207(やり)一本(いつぽん)()()んで(かへ)れと仰有(おつしや)つた。208もう邪魔臭(じやまくさ)いから(なに)()一緒(いつしよ)(まを)()げますワ』
209国依別(くによりわけ)『アハヽヽヽ、210夫婦(ふうふ)喧嘩(げんくわ)ぢやあるまい、211(いし)問題(もんだい)だらう、212(この)(ごろ)陽気(やうき)(わる)いで、213(はや)料理(れうり)するか、214()しめん(こと)にや、215(いし)変化(へんくわ)して(しま)ふさうだ。216(やま)(いも)(うなぎ)になつたり、217(ふな)化石(くわせき)したり、218青雲山(せいうんざん)ぢやないが、219()(えだ)(さかな)()つたり、220(かは)()(うさぎ)(およ)いだりする(ため)しもあるからなア』
221安公(やすこう)(くに)さま、222最大急行(さいだいきふかう)だよ。223(はや)()(もら)はないと、224高姫館(たかひめやかた)地震(ぢしん)(かみなり)()(くるま)225地異(ちい)天変(てんぺん)のガラガラ、226ドタンバタンの(まく)()りる。227急行(きふかう)々々(きふかう)
228国依別(くによりわけ)()()りて無理(むり)(おもて)引摺(ひきず)()す。
229国依別(くによりわけ)『オイ安公(やすこう)230()(はな)せ。231コレから()つてやらう』
232(さき)()高姫(たかひめ)(やかた)()かんとする(とき)233秋彦(あきひこ)(あと)より(はし)()つて、
234秋彦(あきひこ)国依別(くによりわけ)さま、235どこへ御出(おい)(あそ)ばす、236高姫館(たかひめやかた)ぢやありませぬか』
237国依別(くによりわけ)『オウさうだ。238これから一談判(ひとだんぱん)(はじ)まる(ところ)だ。239(まへ)()ぬか、240随分(ずゐぶん)面白(おもしろ)いぞ』
241秋彦(あきひこ)有難(ありがた)う、242サア(まゐ)りませう。243……オイ安公(やすこう)244しつかり案内(あんない)せいよ。245何分(なにぶん)天地(てんち)暗澹(あんたん)246黒姫(くろひめ)()(なか)ですから、247道路(だうろ)(いし)高姫(たかひめ)(つまづ)いて、248(はな)高山彦(たかやまひこ)台無(だいな)しにしちや(たま)らないからなア、249アツハヽヽヽ』
250嘲笑(あざわら)(なが)ら、251スタスタと高姫(たかひめ)門前(もんぜん)(まで)立向(たちむか)うた。252秋彦(あきひこ)(かたち)(ばか)りの(もん)(ひら)いて(さき)()()み、253(すこ)しく(こし)()げ、254(みぎ)手指(てゆび)(かた)めて(ほそ)くし(なが)ら、
255秋彦(あきひこ)『コレハコレハ国依別(くによりわけ)宣伝使(せんでんし)(さま)256(わらは)(ごと)見窄(みすぼ)らしき茅屋(あばらや)へよくこそ御入来(ごじゆらい)(くだ)さいました。257()出神(でのかみ)生宮(いきみや)258(こころ)(そこ)より光栄(くわうえい)(ぞん)じます。259(また)先達(せんだつ)ては黒姫(くろひめ)(さま)御手(おて)(とほ)し、260結構(けつこう)結構(けつこう)(かた)いお(さかな)沢山(たくさん)頂戴(ちやうだい)(いた)しまして有難(ありがた)(ござ)います。261(なに)御返礼(ごへんれい)をしたいと(おも)ひましても、262御存(ごぞん)じの(とほ)貧家(ひんか)(くら)高姫(たかひめ)263御礼(おれい)仕様(しやう)(ござ)いませぬ。264(しか)(なが)折釘(をれくぎ)かます()に、265最後屁(さいごべ)かます266手製(てせい)左巻(ひだりま)き、267かいちう(むし)饂飩(うどん)268雪隠虫(せつちんむし)(しる)()269青菜(あをな)(しほ)(ひる)素麺(そうめん)270(へび)蒲焼(かばやき)271(かはづ)吸物(すひもの)272なめくじ胡瓜(きうり)()み、273どうぞ御遠慮(ごゑんりよ)なく、274サア(おく)へチヤツと()つて腹一杯(はらいつぱい)おあがり(くだ)さいませ。275ホツホヽヽヽ、276あのマア国依別(くによりわけ)さまの御迷惑(ごめいわく)(さう)御顔付(おかほつき)…』
277国依別(くによりわけ)『コレコレ鹿(しか)さま……ではない……お鹿(しか)さま。278いい加減(かげん)戯談(ぜうだん)仰有(おつしや)いませ』
279秋彦(あきひこ)『お鹿(しか)さまが(まを)すのでは(ござ)いませぬ。280高姫(たかひめ)さまの副守護神(ふくしゆごじん)(この)(もん)(はい)るや(いな)神憑(かむがか)りされまして、281斯様(かやう)(こと)仰有(おつしや)ります。282(けつ)して秋彦(あきひこ)のお鹿(しか)()うたとは(おも)つて(くだ)さいますな、283オホヽヽヽ』
284出歯(でば)(くち)無理(むり)にオチヨボ(ぐち)にしようと(つと)むる可笑(をか)しさ。
285国依別(くによりわけ)左様(さやう)ならば、286遠慮(ゑんりよ)なしに(まか)(とほ)るツ。287出歯鹿殿(でばしかどの)288案内(あんない)()され』
289安公(やすこう)『アハヽヽヽ、290門芝居(かどしばゐ)がお上手(じやうづ)(こと)291高姫(たかひめ)さまが御覧(ごらん)になつたら(さぞ)御笑(おわら)ひでせう…イヤ(あご)(はづ)してひつくり(かへ)り、292(また)もや外科医者(げくわいしや)(たの)みに()かねばならない(やう)なことが突発(とつぱつ)したら、293又候(またぞろ)……安公(やすこう)さま、294御苦労(ごくらう)(なが)ら、295(まへ)一寸(ちよつと)外科医(げくわい)山井養仙(やまゐやうせん)さま(とこ)へ、296最大急行(さいだいきふかう)(たの)みに()つて()れ……なんて仰有(おつしや)るのは()のあたりだ、297(あご)阿呆(あほ)らしい。298ワツハヽヽヽ』
299国依別(くによりわけ)(なんぢ)安公(やすこう)とやら、300今日(こんにち)只今(ただいま)より国依別(くによりわけ)直接(ちよくせつ)家来(けらい)となし、301()安彦(やすひこ)(さづ)くる。302(その)(つも)りで国依別(くによりわけ)()いて()るがよからう』
303安公(やすこう)『コレハコレハ(おも)ひもよらぬ御恩命(ごおんめい)304安彦(やすひこ)宣伝使(せんでんし)305(たし)かに御恩命(ごおんめい)(はい)しませぬ、306アタ阿呆(あほ)らしい、307言依別神(ことよりわけのかみ)(さま)から(いただ)くのなら、308結構(けつこう)だが、309巡礼(じゆんれい)(あが)りの(むね)(わる)宗彦(むねひこ)宣伝使(せんでんし)任命(にんめい)されて(たま)らうかい』
310秋彦(あきひこ)『どうでも()いぢやないか。311()(かく)頂戴(ちやうだい)しておけ。312(まへ)松鷹彦(まつたかひこ)になるのだよ。313さうしておれはお(かつ)になつて、314(この)宗彦(むねひこ)さまと巡礼(じゆんれい)(ある)くのだ。315(すこ)(かは)(とど)かぬけれど、316あの小雲川(こくもがは)宇都山川(うづやまがは)見做(みな)し、317高姫館(たかひめやかた)松鷹彦(まつたかひこ)茅屋(あばらや)()し、318(ここ)(ひと)面白(おもしろ)芝居(しばゐ)をやるのだな』
319安公(やすこう)『そんな(こと)()つたつて、320松鷹彦(まつたかひこ)がどうするのか、321ちつとも(わか)らぬだないか』
322国依別(くによりわけ)『そこは臨機応変(りんきおうへん)だ。323そこは……此方(こち)から()ふのに(おう)じて(こた)へればよいのだ。324(まへ)霊界物語(れいかいものがたり)如意宝珠(によいほつしゆ)(ひつじ)(まき)()んで()ないから、325(その)(かん)消息(せうそく)(わか)るまいが、326(その)(とき)(また)(その)(とき)()()くのだ』
327安公(やすこう)『よし、328(さを)()いが、329(ここ)にチツと(ふと)いけれど物干(ものほ)竿(ざを)がある、330これでマア(たか)(からす)()ることにしようかい。331サア(はや)巡礼(じゆんれい)御夫婦(ごふうふ)332やつて()なさいや』
333国依別(くによりわけ)『よし、334ここを川辺(かはべ)見做(みな)し、335(むか)ふから宣伝歌(せんでんか)(うた)ひつつやつて()るから、336(まへ)太公望(たいこうばう)気取(きど)りで竿(さを)()れて()るのだ』
337()(なが)国依別(くによりわけ)338秋彦(あきひこ)(もん)()一二丁(いちにちやう)後返(あとがへ)りをなし、339出鱈目(でたらめ)(うた)(うた)(なが)(すす)んで()る。
340 安公(やすこう)庭先(にはさき)飛石(とびいし)(かは)()見做(みな)し、341物干(ものほ)竿(ざを)(さき)藤蔓(ふぢづる)(いと)(かは)りに()け、342太公望(たいこうばう)気取(きど)りで魚釣(うをつ)りの真似(まね)をして()る。343そこへ勝公(かつこう)()んで()て、
344勝公(かつこう)『オイ(やす)345貴様(きさま)(なに)して()るのだ。346最前(さいぜん)から高姫(たかひめ)さまが大変(たいへん)御待兼(おまちかね)だ、347まだ使(つかひ)()かぬのか』
348安公(やすこう)(やかま)しく()ふない、349無声霊話(むせいれいわ)をかけて()んであるのだ。350(おれ)武志(たけし)(みや)松鷹彦(まつたかひこ)だぞ。351まあグヅグヅして()るより()てをれ、352かうして()れば国依別(くによりわけ)秋彦(あきひこ)()つかかつて()るのだよ。353(おれ)(この)竿(さを)()るや(いな)や、354(めう)宣伝歌(せんでんか)(うた)つてツルツルツルと引摺(ひきず)られて()るのだ』
355勝公(かつこう)『そんな馬鹿(ばか)(こと)があるものか。356(これ)から高姫(たかひめ)(さま)注進(ちうしん)するぞ』
357()ひすてて、358屋内(をくない)(かく)れた。359国依別(くによりわけ)はどこで()せて()たか、360蓑笠(みのかさ)(かぶ)り、361俄作(にはかづく)りの金剛杖(こんがうづゑ)()き、
362国依別(くによりわけ)(かか)(おもて)(あら)はれて
363(ぜん)ぢや(あく)ぢやと立騒(たちさわ)
364(この)()(こま)つた娑婆塞(しやばふさ)
365乞食心(こじきごころ)高姫(たかひめ)
366(ただ)玉々(たまたま)朝夕(あさゆふ)
367(こころ)(いら)()(どく)
368われは宗彦(むねひこ)バラモンの
369(かみ)(をしへ)修験者(しうげんじや)
370殺生(せつしやう)するのは()くないと
371高姫(たかひめ)さまが()うた(ゆゑ)
372小雲(こくも)(かは)におり()つて
373生物(せいぶつ)擁護(ようご)実行(じつかう)
374無心(むしん)無霊(むれい)団子石(だんごいし)
375(さかな)見做(みな)して()()げる
376手間暇(てまひま)()らぬ(すなど)りは
377経済上(けいざいじやう)大便利(だいべんり)
378刃物(はもの)()らねば()世話(せわ)
379一寸(ちよつと)()らぬ(いし)(うを)
380さざれ(いし)さへ(とし)()れば
381(いはほ)となりて(こけ)()
382瓢箪(へうたん)からも(こま)()
383団子石(だんごいし)とて馬鹿(ばか)にはならぬ
384如意(によい)宝珠(ほつしゆ)(むらさき)
385(たま)(かは)るか(わか)らない
386サア(これ)からは(これ)からは
387宇都(うづ)河原(かはら)川辺(かはべり)
388松鷹彦(まつたかひこ)(いほ)()
389(ひと)談判(だんぱん)してやらう
390秋公(あきこう)(きた)(はや)(きた)
391オツと(ちが)うた(つま)(かつ)
392(をしへ)(みち)兄弟(きやうだい)
393夫婦気取(ふうふきどり)面白(おもしろ)
394高姫川(たかひめがは)川堤(かはづつみ)
395やつて()たのは安公(やすこう)
396芝居気取(しばゐきどり)太公望(たいこうばう)
397もうし もうしお(ぢい)さま
398(まへ)(ふる)(とし)をして
399(みづ)なき(かは)竿(さを)()
400(なに)()るのか()()れぬ
401諸行無常(しよぎやうむじやう)是生滅法(ぜしやうめつぽふ)
402高姫(たかひめ)さまの目的(もくてき)
403寂滅為楽(じやくめつゐらく)となるであろ
404黒姫(くろひめ)さまや高山(たかやま)
405女大黒(をんなだいこく)福禄寿面(げほうづら)
406(よく)川原(かはら)竿(さを)たれて
407金剛不壊(こんがうふえ)(たま)(うを)
408()らむとするも(つら)からう
409(よく)につられて高姫(たかひめ)
410南洋(なんやう)三界(さんかい)()(めぐ)
411(くろ)くなつたる(つら)(かは)
412つらつら(おも)(めぐ)らせば
413(くすぼ)(かへ)つた()られ(だい)
414(にら)()うたる二人仲(ふたりなか)
415恵比須(ゑびす)でさへも()()いて
416跣足(はだし)でサツサと()げて()
417あゝ()(どく)()(どく)
418安公(やすこう)までが(くに)さまの
419言葉(ことば)()られて(よく)(かは)
420物干竿(ものほしざを)(つな)をつけ
421宗彦(むねひこ)(かつ)巡礼(じゆんれい)
422(ここ)(きた)るを待暮(まちくら)
423あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
424(かな)はん(こと)出来(でき)()
425高姫(たかひめ)さまが(はら)()
426コレコレ(くに)国公(くにこう)
427()出神(でのかみ)生宮(いきみや)
428馬鹿(ばか)にするのも(ほど)がある
429何程(なにほど)()()みよい(わし)
430歯節(はぶし)()たぬ団子石(だんごいし)
431団子理屈(だんごりくつ)()ねやうと
432二重(にぢう)三重(さんぢう)(ふう)をして
433()つて()たのが(にく)らしい
434(この)因縁(いんねん)()かうかと
435(つら)ふくらして()びかかり
436胸倉(むなぐら)とつて一騒(ひとさわ)
437おつ(ぱじ)まるに(ちがひ)ない
438スワ一大事(いちだいじ)()(とき)
439()げる用意(ようい)をしておかう
440秋公(あきこう)横門(よこもん)()けておけ
441まさか(かはや)(また)(あな)
442()()(わけ)にも()かうまい
443太公望(たいこうばう)安公(やすこう)
444もう釣竿(つりざを)(なが)すのだ
445(これ)から()るのは高姫(たかひめ)ぢや
446もうし もうし高山(たかやま)
447福禄寿爺(げほうおやぢ)(くろ)さまは
448当家(たうけ)におゐで(あそ)ばすか
449一寸(ちよつと)(たづ)(いた)します』
450(この)(こゑ)()いて勝公(かつこう)
451戸口(とぐち)をガラリ(ひき)あけて
452(いや)しき巡礼(じゆんれい)二人連(ふたりづれ)
453国依別(くによりわけ)秋彦(あきひこ)
454よう()(こゑ)()しやがつて
455(だま)しに()てもそりやあかぬ
456スツカリ駄目(だめ)だと(あきら)めて
457(はや)(かへ)つて(くだ)さんせ
458巡礼(じゆんれい)なぞのノソノソと
459()()場所(ばしよ)ではない(ほど)
460高姫(たかひめ)さまが見付(みつ)けたら
461(なが)柄杓(ひしやく)(みづ)()んで
462(あたま)(うへ)からザブザブと
463(ねつ)()きかけるに(ちがひ)ない
464(いぬ)ぢやなけれど()()つて
465一時(いちじ)(はや)イヌがよい
466ワンワンワンといが()
467喧嘩(けんくわ)をされては(たま)らない
468巡礼(じゆんれい)()けた(くに)さまや
469(あき)さま二人(ふたり)宣伝使(せんでんし)
470危険区域(きけんくゐき)逸早(いちはや)
471(のが)れてお(かへ)(くだ)さんせ
472(おく)高姫(たかひめ)黒姫(くろひめ)
473(ひたひ)静脈(じやうみやく)()()たし
474青筋(あをすぢ)()てて(ひか)()る』
475(はや)(はや)くと()(ひろ)
476つき()(やう)真似(まね)をする。
477 高姫(たかひめ)門口(かどぐち)(あや)しき(こゑ)に、478黒姫(くろひめ)479高山彦(たかやまひこ)(おく)()(のこ)し、480(みづか)(ここ)(あら)はれ、
481高姫(たかひめ)勝公(かつこう)さま、482(まへ)(いま)(なに)()つて()たの、483どこに(わし)青筋(あをすぢ)()てて()ますか』
484勝公(かつこう)『イイエ滅相(めつさう)もない、485そんな(こと)(まを)した(おぼ)えはテンで(ござ)いませぬ。486(いま)そんな(をとこ)一寸(ちよつと)やつて()ましたので、487高姫(たかひめ)さまのお()にかけたら、488(さぞ)(わら)(あそ)ばすだらうと()つて()たので(ござ)います……それ、489そこに乞食(こじき)巡礼(じゆんれい)二人(ふたり)()つて()ませうがなア。490一人(ひとり)宗彦(むねひこ)491一人(ひとり)はお(かつ)492もう一人(ひとり)松鷹彦(まつたかひこ)493(よく)(かは)竿(さを)をたれ、494(たか)とか(からす)とかつるとか()つて()ました。495……ヘーまあ、496(なん)(ござ)います、497ザツと(この)(とほ)りで』
498とモヂモヂして(あたま)()く。
499高姫(たかひめ)『お(まへ)国依別(くによりわけ)さま、500秋彦(あきひこ)両人(りやうにん)でせう。501(だい)それた悪戯(いたづら)をなさつて、502(この)高姫(たかひめ)(あは)(かほ)がなくなり、503蓑笠(みのかさ)(かぶ)つて(もと)宗彦(むねひこ)時代(じだい)立返(たちかへ)り、504(こころ)(そこ)から改心(かいしん)(いた)しました、505()証拠(しようこ)でやつて()たのだらう。506そんな芸当(げいたう)世界(せかい)()()()出神(でのかみ)(まへ)では通用(つうよう)(いた)しませぬぞえ。507サアサア(はや)正体(しやうたい)(あら)はして這入(はい)つて(くだ)さい』
 
508国依別(くによりわけ)幽霊(いうれい)正体(しやうたい)()たり枯尾花(かれをばな)
509 たそがれて(やま)(ひく)()(すすき)かな』
 
510高姫(たかひめ)(にはか)風流人(ふうりうじん)めいた(こと)()つて、511誤魔化(ごまくわ)さうと(おも)つてもあきませぬぞや。512サアサアとつとと這入(はい)つて(くだ)さい。513(まへ)さまに(たづ)ねたい因縁(いんねん)があるのだから……』
 
514国依別(くによりわけ)因縁(いんねん)(たま)(あつ)むる(この)(やかた)……因縁(いんねん)つける高姫(たかひめ)大根(だいこん)……
515 旅役者(たびやくしや)大根(だいこん)()いて(かほ)しかめ。
516 大根役者(だいこんやくしや)どこやらとなく(たま)()け。
517 (たま)おちのラムネぶつぶつ(あわ)()き。
518 (いま)()いたラムネの(あわ)高姫(たかひめ)……オツト(たか)()び。
519 黒姫(くろひめ)(やう)葡萄酒(ぶだうしゆ)(はぎ)茶屋(ちやや)
520 高山(たかやま)(ひく)()ゆるや(はぎ)(はな)
521 如意宝珠(によいほつしゆ)(そら)(かがや)(あき)(つき)
522 秋彦(あきひこ)(そら)(たか)くして(うま)()え』
 
523高姫(たかひめ)『コレコレ、524(くに)さま、525(なに)愚図々々(ぐづぐづ)()つて()るのだ。526這入(はい)れと()つたら、527這入(はい)りなさい』
 
528国依別(くによりわけ)這入(はい)れよと()はれて躊躇(ためら)(あつ)風呂(ふろ)
529 風呂吹(ふろぶき)()はぬ役者(やくしや)子供(こども)(かな)
530 大根(だいこん)役者(やくしや)芝居(しばゐ)チヨボ(ねぶか)
 
531高姫(たかひめ)『エー、532辛気(しんき)(くさ)い。533()(とが)めて(しきひ)(たか)いのだな』
 
534国依別(くによりわけ)高姫(たかひめ)敷居(しきゐ)(よく)(また)()け。
535 (また)()けた(いつ)つの(たま)不在(るす)()に。
536 黒姫(くろひめ)(さけ)より(をとこ)()きと()ひ。
537 高山(たかやま)黒雲(くろくも)(おこ)()(かく)れ。
538 東天(とうてん)()()(ひかり)(やみ)()れ。
539 堂々(だうだう)国依別(くによりわけ)(すす)()り』
 
540()(なが)秋彦(あきひこ)(ともな)ひ、541高姫(たかひめ)先立(さきだ)つて(おく)()(すす)()る。
542 高姫(たかひめ)543黒姫(くろひめ)544高山彦(たかやまひこ)545国依別(くによりわけ)546秋彦(あきひこ)(いつ)つの(あたま)火鉢(ひばち)(なか)()いて、547五弁(ごべん)(うめ)(はな)(ひら)いた(やう)行儀(ぎやうぎ)よく(なら)んだ。
 
548国依別(くによりわけ)明月(めいげつ)高山頭(たかやまがしら)()(わた)り。
549 高山(たかやま)()かして()れば(ほし)(ひく)し』
 
550高姫(たかひめ)国依別(くによりわけ)さま、551(この)(あひだ)御心(おこころ)()められた沢山(たくさん)(さかな)頂戴(ちやうだい)(いた)しまして、552有難(ありがた)御座(ござ)います。553これには(なに)御意趣(ごいしゆ)のあることで御座(ござ)いませう。554サア(その)因縁(いんねん)から(つつ)まず(かく)さず()かして(くだ)され』
 
555国依別(くによりわけ)和知川(わちがは)(あら)(さら)した(いし)(たま)556(われ)(たふと)(ひと)(ささ)げつ。
557 身魂相応(みたまさうおう)(かた)くなつたる(いし)(たま)
558 (いし)よりも(かた)決心(けつしん)(かん)()り。
559 激流(げきりう)()まれて(いし)(まる)くなり。
560 ()(はや)(いは)()かれて(いし)(うを)
 
561高姫(たかひめ)『エーもどかしい。562そんなむつかしい(こと)()つて(わか)りますかいな。563救世軍(きうせいぐん)のブース大将(たいしやう)()つた(こと)()つて()ますか。564(たと)へば一軒(いつけん)(うち)でも一番(いちばん)(ちい)さい()()か、565無学(むがく)下女(げぢよ)(わか)言葉(ことば)でなければ名語(めいご)ぢやありませぬぞ。566俳人気取(はいじんきど)りで(なに)駄句(だく)るのだ。567(まへ)さまチツト(この)(ごろ)はどうかしとりますねえ。568小雲川(こくもがは)(ひと)(かほ)(ひや)()()まして()なさい』
 
569国依別(くによりわけ)(そこ)までも()みきりにけり(あき)(みづ)
570 (あき)(みず)(くさ)つて()れどいと(きよ)し。
571 (きよ)らかな(みづ)には()まぬ(ふな)もろこ。
572 濁江(にごりえ)(ふか)きに(うを)(ひそ)むとも など川蝉(かはせみ)()らでおくべき』
 
573高姫(たかひめ)『おきなさんせ、574大石内蔵之助(おほいしくらのすけ)真似(まね)をしたり、575(なに)()らぬと()へば調子(てうし)()つて、576(ひと)(うた)まで自分(じぶん)(つく)つた(やう)(かほ)をしようと(おも)つて……本当(ほんたう)にお(まへ)歌泥坊(うたどろばう)だ』
577国依別(くによりわけ)(ゆか)(した)(ふか)きに(たま)(かく)すとも
578 など高姫(たかひめ)()らでおくべき。579アツハヽヽヽ』
580高姫(たかひめ)『コレ(くに)さま、581どこまでも(ひと)馬鹿(ばか)にするのかい』
 
582国依別(くによりわけ)馬鹿野郎(ばかやろう)夜這(よばひ)(あした)狼狽(らうばい)し ゆき(つま)りては(むね)高姫(たかひめ)583………動悸(どうき)(たま)置所(おきどころ)
584 竜宮(りうぐう)へおと(ひめ)したかと()(いら)ち 世界(せかい)(くま)なく(さが)馬鹿者(ばかもの)
 
585高姫(たかひめ)『コレ黒姫(くろひめ)さま、586(くに)さまに(これ)(だけ)馬鹿(ばか)にされてお(まへ)さま(なん)ともありませぬか。587チツト日頃(ひごろ)弁舌(べんぜつ)をお使(つかひ)なさつたらどうですかい』
588黒姫(くろひめ)(なん)だか人間(にんげん)らしうないので、589(はなし)仕様(しやう)がありませぬもの』
 
590国依別(くによりわけ)人間(にんげん)超越(てうゑつ)したり神司(かむづかさ)
591 黒雲(くろくも)(つつ)まれ(ほし)(かげ)(ひそ)め。
592 高山(たかやま)黒雲(くろくも)(かか)(あめ)()り。
593 涙川(なみだがは)(たちま)(にご)(たま)(あめ)
 
594黒姫(くろひめ)『コレ高山(たかやま)さま、595(いま)(くに)さまがどうやらお(まへ)さまや(わたし)(こと)を、596俳句(はいく)とやらで罵倒(ばたふ)して()るやうだ。597(まへ)さまも立派(りつぱ)(をとこ)だないか、598(なん)とか(ひと)言霊(ことたま)()(かへ)し、599(くに)()()めて(しま)(だけ)甲斐性(かひしやう)()いのかい』
 
600高山彦(たかやまひこ)()にするな国依別(くによりわ)けて大切(たいせつ)
601 げほう(あたま)如意宝珠(によいほつしゆ)……(ひかり)(たま)(ごと)くなりけり』
 
602黒姫(くろひめ)高山(たかやま)さま、603自分(じぶん)(こと)()つてるのだないか。604(くに)さまに(たい)して()ふのだよ。605エーエ、606(どん)(をとこ)緞子(どんす)羽織(はおり)607女房(にようばう)随分(ずゐぶん)()()める(こと)だなア。608そんなら(わたし)(かは)つて()ひませう。609()いて()なされ、610()()ふのだよ。611……
612黒姫(くろひめ)(くろ)(まなこ)(にら)んだら
613 (かみ)国依別(くによりわけ)もなく()
614(さくら)(はな)神風(かみかぜ)
615 ()かれてバラバラバラモン信者(しんじや)
616()いてもムネ(ひこ)(わる)くなる
617(まけ)てもお(かつ)(しり)()
618肥桶担(こえたごかつ)ぎの玉治別(たまはるわけ)
619(たま)()られし()(どく)
620泣面(なきつら)(はち)
621()まつて()んだ(ごと)くなりけり』
622国依別(くによりわけ)『アハヽヽヽ、623ウフヽヽヽ、624此奴(こいつ)面白(おもしろ)い。625(はじ)めて()いた名歌(めいか)だ。626柿本人麿(かきのもとのひとまろ)丸跣足(まるはだし)だ。627与謝野晶子(よさのあきこ)(とこ)()つて()つたら、628屹度(きつと)秀逸点(しういつてん)()れるだらう。629イヒヽヽヽ、630エヘヽヽヽ、631オホヽヽヽ……
 
632 黒姫(くろひめ)(うた)にお(へそ)宿替(やどが)へし。
633 (わき)(した)キユウキユウキユウと(ねずみ)()き。
634 名歌(めいか)(とく)床板(ゆかいた)(まで)(うご)()し。
635 睾玉(きんたま)(しわ)まで()ばす(この)名歌(めいか)
 
636高姫(たかひめ)黒姫(くろひめ)さま、637こんな(をとこ)にかかつちや、638口八丁(くちはつちやう)手八丁(てはつちやう)高姫(たかひめ)だつて、639三舎(さんしや)()けねばなりませぬワ。640もうそんな(うた)などで(はな)しちや駄目(だめ)ですよ。641……コレ(くに)さま、642(まへ)さまは(なん)(ため)にあの(やう)(もの)を、643(わし)(おく)つたのだ。644失礼(しつれい)ぢやありませぬか。645何程(なにほど)物喰(ものぐひ)のよい(ぶた)だつて(いし)()ひませぬよ』
 
646国依別(くによりわけ)(ぶた)よりも物喰(ものぐ)ひのよき(ひと)もあり。
647 如意宝珠(によいほつしゆ)(たま)さへ(かぢ)狂女(きやうぢよ)(かな)
648 (いま)()砂利(じやり)さへ(くら)(ひと)もあり。
649 嫁入(よめい)(いは)ひに()ゑる石肴(いしざかな) 二世(にせ)(かた)めの(しるし)なるらむ。
 
650マアざつと()()精神(せいしん)で、651貴方(あなた)堅固(けんご)精神(せいしん)をお(いは)(まを)し、652()(まを)した国依別(くによりわけ)真心(まごころ)
 
653 (いは)さへも射貫(いぬ)(をんな)(こころ)(かな)
 
654()(やう)なものですワイ。655悪気(わるぎ)(まは)して(もら)つちや、656折角(せつかく)国依別(くによりわけ)(こころざし)水泡(すゐほう)()しまする。657(うを)だつて……(うを)(みづ)()めば、658(この)(いし)だつて綺麗(きれい)流水(りうすゐ)にすみきつて、659神世(かみよ)(むかし)から永久(とこしへ)川底(かはぞこ)(をさ)まりきつて()つた石肴(いしざかな)ですよ。660(べつ)()つて(くだ)されと()つて(おく)つたのぢやありませぬ。661()にかけると()つたのだから、662()へる()へぬはお(まへ)さまの御勝手(ごかつて)663そんな問題(もんだい)()いと的外(まとはづ)れでせう』
664高姫(たかひめ)流石(さすが)はドハイカラの仕込(しこ)(だけ)あつて、665(うま)いものだワイ。666オホヽヽヽ。667コレコレ黒姫(くろひめ)さま、668高山彦(たかやまひこ)さま、669(まへ)随分(ずゐぶん)鉈理屈(なたりくつ)上手(じやうづ)だが、670(くに)さまにかけちや(そば)へも()れますまい。671言霊(ことたま)(さち)はふ()(なか)だ。672チツト(これ)から言霊(ことたま)練習(れんしふ)をなされませ』
673 ()かる(ところ)夏彦(なつひこ)674常彦(つねひこ)両人(りやうにん)は、675言依別(ことよりわけ)()(しの)系統(ひつぽう)高姫(たかひめ)御機嫌(ごきげん)(うかが)ひの(ため)676太平柿(たいへいがき)風呂敷(ふろしき)(つつ)み、677やつて()た。678勝公(かつこう)(ただち)(おく)()(すす)()り、
679勝公(かつこう)『もしもし高姫(たかひめ)さま、680夏彦(なつひこ)681常彦(つねひこ)両人(りやうにん)御機嫌(ごきげん)(うかが)ひだと()つて(いま)()えました。682如何(いかが)(いた)しませう』
683 高姫(たかひめ)したり(がほ)に、684(いや)らしく(わら)(なが)ら、685国依別(くによりわけ)686秋彦(あきひこ)()(そそ)ぎ、
687高姫(たかひめ)勝公(かつこう)さま、688どうぞ御両人様(ごりやうにんさま)689ズツと(おく)御通(おとほ)(くだ)さい、690丁寧(ていねい)御迎(おむか)(まを)してお()で………アーアやつぱり身魂(みたま)()(もの)(わか)るワイ。
 
691 落魄(おちぶ)れて(そで)(なみだ)のかかる(とき) (ひと)(こころ)(おく)()らるる
 
692だ。693(わし)聖地(せいち)(かへ)つてから今日(けふ)三日目(みつかめ)だ。694それに言依別(ことよりわけ)(はじ)め、695杢助(もくすけ)(まで)不心得(ふこころえ)千万(せんばん)な、696系統(ひつぽう)のお(かへ)りを邪魔者扱(じやまものあつかひ)(いた)して、697馬鹿(ばか)にして()る………エー、698(いま)()ておぢやれよ、699アフンと(いた)さして()せるぞよと、700()()さまが仰有(おつしや)るので、701()神様(かみさま)にお(まか)せして辛抱(しんばう)して()るのだ。702人間(にんげん)()(もの)薄情(はくじやう)なものだ。703冷酷(れいこく)無惨(むざん)浮世(うきよ)とは()(なが)ら、704人情(にんじやう)(うす)きこと(かみ)(ごと)しだ』
705国依別(くによりわけ)(この)(くに)さまは人情(にんじやう)(あつ)きこと(かみ)(ごと)しでせう』
706高姫(たかひめ)『さうでせうとも、707(たまたま)挨拶(あいさつ)団子石(だんごいし)(おく)つて()(やう)な、708無情(むじやう)……オツトドツコイ親切(しんせつ)なお(かた)ですからな』
709国依別(くによりわけ)『イヤその御礼(おれい)には(およ)びませぬ。710沢山(たくさん)なもので(ござ)いますから……』
711 (かか)(ところ)勝公(かつこう)(みちび)かれ、712夏彦(なつひこ)713常彦(つねひこ)()をギヨロつかせ(なが)ら、714(この)()(おそ)(おそ)(あら)はれ(きた)り、715国依別(くによりわけ)秋彦(あきひこ)(その)()端坐(たんざ)せるを()て、716(いささ)手持無沙汰(てもちぶさた)顔付(かほつき)にて、717ドギマギして()可笑(をか)しさ。718(なつ)719(つね)両人(りやうにん)720丁寧(ていねい)高姫(たかひめ)(まへ)()をつかへ、
721両人(りやうにん)(これ)(これ)高姫(たかひめ)(さま)722御遠方(ごゑんぱう)(ところ)(なが)らく御苦労様(ごくらうさま)(ござ)いました』
723高姫(たかひめ)『イヤもう御挨拶(ごあいさつ)(いた)()ります。724何分(なにぶん)身魂(みたま)(みが)けぬもので(ござ)いますから、725不調法(ぶてうはふ)(ばか)(いた)して()ります』
726両人(りやうにん)滅相(めつさう)もない、727貴方(あなた)(けつ)して無駄(むだ)では(ござ)いませぬ。728神様(かみさま)御筆(おふで)にも、729人民(じんみん)から()れば(なん)でもないやうだが、730(かみ)(はう)からは(おほ)きな御用(ごよう)出来(でき)()るぞよ……と(あら)はれて()りますから、731屹度(きつと)結構(けつこう)御用(ごよう)出来(でき)てをるに(ちが)ひありませぬ。732兎角(とかく)神界(しんかい)のことは人民(じんみん)では(わか)りませぬから、733(かたち)(うへ)彼此(かれこれ)(まを)すのは、734(まを)(ひと)(わか)らぬので御座(ござ)いませう』
735高姫(たかひめ)『ハイ、736有難(ありがた)う』
737涙含(なみだぐ)む。
738両人(りやうにん)(これ)(これ)高山彦(たかやまひこ)(さま)739黒姫(くろひめ)(さま)740つい(まを)(おく)れました。741あなたも(なが)らく神界(しんかい)(ため)御苦労様(ごくらうさま)(ござ)いました。742直様(すぐさま)御伺(おうかが)(いた)すのが本意(ほんい)(ござ)いますけれど、743二三日前(にさんにちまへ)から杢助(もくすけ)さまに………エー、744一寸(ちよつと)(なん)(ござ)いますので………つい(おく)れまして(ござ)います。745マア御無事(ごぶじ)御両所(ごりやうしよ)(とも)御帰(おかへ)(くだ)さいまして、746聖地(せいち)益々(ますます)御神徳(ごしんとく)()がるであらうと、747一同(いちどう)(かげ)から御喜(およろこ)(まを)してをる(やう)次第(しだい)(ござ)います』
748高山彦(たかやまひこ)『ヤア常彦(つねひこ)さま、749夏彦(なつひこ)さま、750あなたも御無事(ごぶじ)御目出度(おめでた)う』
751黒姫(くろひめ)『ヨウ親切(しんせつ)(この)(ばば)アを(たづ)ねて(くだ)さいました。752(とし)がよると(こし)(かが)む、753目汁(めじる)鼻汁(はなじる)……イヤもう(むさ)くるしいもので、754(たれ)もふりかへつて()れるものは御座(ござ)いませぬワイ。755(ちから)(たの)むは大神様(おほかみさま)と、756()出神(でのかみ)(さま)757竜宮(りうぐう)乙姫(おとひめ)(さま)(ばか)りで(ござ)います。758人情(にんじやう)(かみ)(ごと)軽薄(けいはく)()(なか)に、759ようマア御訪(おたづ)(くだ)さいました。760あなたも御無事(ごぶじ)結構(けつこう)(ござ)いますなア』
761両人(りやうにん)『ハイ、762有難(ありがた)う。763……ヤア国依別(くによりわけ)さま、764秋彦(あきひこ)さま、765あなたは何時(いつ)御越(おこ)しになりましたか』
766国依別(くによりわけ)『………』
767秋彦(あきひこ)『つい、768最前(さいぜん)(まゐ)りました。769三方(さんかた)(ひさ)(ぶり)御帰(おかへ)りになつたので、770我々(われわれ)(なん)となく(こころ)(いさ)み、771御祝(おいは)(かたがた)(たづ)ねしたのですよ』
 
772国依別(くによりわけ)来客(らいきやく)(その)()(はづ)悧巧(りかう)かな。
773 (こころ)から()けて()たきは(ふすま)かな。
774 (いし)よりも(かた)(こころ)(つど)ひかな。
775 (かね)(ひと)(とし)(ふた)つに()かれけり』
 
776口吟(くちずさ)み、777一同(いちどう)に、
778国依別(くによりわけ)御密談(ごみつだん)御邪魔(おじやま)になりませうから、779我々(われわれ)両人(りやうにん)御遠慮(ごゑんりよ)(いた)します』
780との()(しめ)し、781目礼(もくれい)(なが)らスタスタと(かへ)つて()く。782(もん)をくぐり()両人(りやうにん)783(たがひ)(かほ)見合(みあは)(なが)ら、784ニタリと(わら)ひ、
785国依別(くによりわけ)高姫(たかひめ)大分(だいぶん)()()れたねえ。786あれなればもう気遣(きづか)ひあるまいね』
787秋彦(あきひこ)『さうでせう。788黒姫(くろひめ)も、789高山彦(たかやまひこ)余程(よほど)(かは)つて()ましたよ。790何時(いつ)もなら、791あんな(いし)でも(おく)らうものなら、792(たちま)低気圧(ていきあつ)襲来(しふらい)して雷鳴(らいめい)(とどろ)きわたり、793地異(ちい)天変(てんぺん)勃発(ぼつぱつ)するところですが、794矢張(やつぱり)苦労(くらう)はせんならぬものですなア』
795国依別(くによりわけ)『アヽ(これ)杢助(もくすけ)さまに(たい)し、796相当(さうたう)報告(はうこく)出来(でき)るワイ。797神様(かみさま)御経綸(ごけいりん)到底(たうてい)我々(われわれ)には(わか)るものでない。798それにつけても貧乏籤(びんばふくじ)()いたのは(この)国依別(くによりわけ)だ。799いつとても揶揄役(からかひやく)(あふ)()けられて()るのだから、800(たま)つたものぢやない』
801秋彦(あきひこ)身魂(みたま)因縁(いんねん)(ぜん)御用(ごよう)をするものと、802(あく)御用(ごよう)をするものとあるのだから、803御苦労(ごくらう)な…あなたも御役(おやく)ですな』
804国依別(くによりわけ)三千世界(さんぜんせかい)改造(かいざう)大神劇(だいしんげき)登場(とうぢやう)役者(やくしや)だから、805仕方(しかた)がない。806(しか)(なが)悪役(あくやく)ばつかりは御免(ごめん)(かうむ)りたいワ』
807秋彦(あきひこ)(すゑ)になりたら、808(みな)一所(ひととこ)(あつ)まつて(たがひ)打解(うちと)()ひ、809あゝ()うであつたか、810さうだつたかと()つて、811(ちから)一杯(いつぱい)神様(かみさま)使(つか)はれて、812こんなことを(おも)つて()つたのかと、813(わら)ひの()まらぬ仕組(しぐみ)ださうですから、814さう気投(きな)げをしたものぢやありますまいで、815常彦(つねひこ)夏彦(なつひこ)忠義顔(ちうぎがほ)して、816高姫(たかひめ)(まへ)味噌(みそ)()つて()るのも、817あれも(なに)かの御仕組(おしぐみ)一端(いつたん)でせう。818一寸(ちよつと)()くとムカツキますがなア。819よく(かんが)へて()ると、820どんな仕組(しぐみ)がしてあるか(わか)りませぬからなア』
821国依別(くによりわけ)『そらさうだ。822マア細工(さいく)流々(りうりう)仕上(しあ)げを御覧(ごら)うじと仰有(おつしや)るのだから、823改造(かいざう)鉄道(てつだう)終点(しうてん)(まで)()かねば(わか)らぬなア。824ヤアもう何時(いつ)()にか、825国依別館(くによりわけやかた)門前(もんぜん)まで()(しま)つた』
826秋彦(あきひこ)『ハヽヽヽヽ、827何処(どこ)(もん)があるのですかい』
828国依別(くによりわけ)()つても()うても、829()ると(おも)へばある、830()いと(おも)へば()いのだ。831(わし)居宅(きよたく)九尺二間(くしやくにけん)豚小屋(ぶたごや)(やう)に、832(まへ)()では()えるだらうが、833国依別(くによりわけ)天空海濶(てんくうかいくわつ)なる霊眼(れいがん)(もつ)()(とき)は、834(にしき)(みや)八尋殿(やひろどの)同様(どうやう)(ひろ)()えるのだからな。835これ(だけ)(ひろ)世界(せかい)(こころ)持様(もちやう)(ひと)つで、836(わが)七尺(しちしやく)(からだ)()(ところ)もない(やう)()えたり、837(また)こんな(ちい)さい居宅(きよたく)宇宙大(うちうだい)()えたりするのだから、838色即是空(しきそくぜくう)839空即是色(くうそくぜしき)だ。840娑婆即寂光浄土(しやばそくじやくくわうじやうど)真諦(しんたい)はこんな(ちい)さい(いへ)(なか)()つて、841(みたま)(みが)くとよく了解(れうかい)出来(でき)るよ。842アハヽヽヽ』
843秋彦(あきひこ)『そんなものですかいな。844(わたし)()には如何(どう)しても八尋殿(やひろどの)(おな)(やう)には()えませぬワイ。845裏口(うらぐち)()(ところ)(かはや)附着(ひつつ)いたり、846小便壺(せうべんつぼ)()つたり、847その(よこ)井戸(ゐど)()つたり、848(はし)りに(かまど)849(なん)だか(むさ)くるしい(やう)気分(きぶん)がするぢやありませぬか。850一寸(ちよつと)()くと、851あんたの御言葉(おことば)痩我慢(やせがまん)()つてるやうに(きこ)えますで。852何程(なにほど)無形的(むけいてき)(ひろ)いと()つても、853現実(げんじつ)()矮小醜陋(わいせうしうろふ)では、854(あんま)(おほ)きなことも()へますまい。855これから国依別(くによりわけ)さま、856(わたくし)になら(なに)()つてもよろしいが、857(ひと)(まへ)でそんなことを仰有(おつしや)ると、858(みんな)取違(とりちがひ)して、859国依別(くによりわけ)負惜(まけをし)みの(つよ)(やつ)だ、860()らず(ぐち)(たた)(やつ)だと(かへつ)軽蔑(けいべつ)しますよ』
861国依別(くによりわけ)(かたち)ある(たから)()び、862(くさ)り、863()け、864(ほろ)び、865(なが)(こは)るる(おそれ)がある。866()きて半畳(はんでふ)()一畳(いちでう)だ。867(ひろ)(やかた)()んで()れば、868あつたら光陰(くわういん)掃除(さうぢ)三昧(ざんまい)空費(くうひ)し、869肝腎(かんじん)神業(しんげふ)妨害(ばうがい)になるだないか。870(ちい)さいのは結構(けつこう)だ、871(なに)かに都合(つがふ)()い。872第一(だいいち)経済上(けいざいじやう)から()つても得策(とく)だからなア』
873秋彦(あきひこ)『あなた掃除(さうぢ)をなさつた(こと)があるんですか。874雪隠(せんち)(むし)(かまど)(まへ)()うて()るぢやありませんか』
875国依別(くによりわけ)『……ここ(しば)(いへ)美醜(びしう)(わす)れけり (かみ)大切(たいせつ)(おも)(ばか)りに……
876()(やう)なものだな』
877秋彦(あきひこ)『ヘーエあなたも余程(よつぽど)高姫化(たかひめくわ)しましたねえ。878弁舌(べんぜつ)滔々(たうたう)風塵(ふうぢん)()く。879(じつ)揶揄役(からかひやく)のあなたは、880高姫(たかひめ)さまに(せつ)するの()(おほ)いから余程(よほど)経験(けいけん)()んだと()えますワイ。881都合(つがふ)(わる)(とき)には、882発句(ほつく)川柳(せんりう)か、883鵺式(ぬへしき)言葉(ことば)使(つか)つて駄句(だく)(つづ)け、884腰折歌(こしをれうた)(なら)随分(ずゐぶん)(そば)から()いてると(くるし)さうでしたよ』
885国依別(くによりわけ)苦中楽(くちうらく)あり、886楽中苦(らくちうく)ありだ。887それも()やうによるのだよ。888一葉目(いちえふめ)(おほ)へば、889大空(たいくう)一度(いちど)(かく)れ、890一葉(いちえふ)(はら)へば、891大空(たいくう)(わが)()(えい)ずと()つて、892(すべ)(もの)見方(みかた)()るのだ、893見方(みかた)大切(たいせつ)だ』
894秋彦(あきひこ)味方(みかた)(ばか)大切(たいせつ)だと()つて(あい)する(わけ)には()きますまい。895神様(かみさま)(てき)する(もの)(あい)せよと仰有(おつしや)るぢやありませぬか』
896国依別(くによりわけ)『それだから高姫(たかひめ)さまに(たい)し、897(わたし)何時(いつ)適対(てきた)ふのではない、898適当(てきたう)処置(しよち)()つて()るのだ。899ヤツパリ見方(みかた)によつては味方(みかた)()えるだらう』
900秋彦(あきひこ)何程(なにほど)贔屓目(ひいきめ)()ても、901あなたが高姫(たかひめ)さまに(たい)して()さることは、902(あま)同情(どうじやう)のある()(かた)とは()えませぬぜ。903何時(いつ)高姫(たかひめ)さまの(はな)めしやげたり、904手古摺(てこず)らしては痛快(つうくわい)がつてるぢやありませぬか』
905国依別(くによりわけ)『……(こころ)なき(ひと)(なん)とも()はば()へ ()をも(うら)みじ(ひと)(うら)みじ……
906燕雀(えんじやく)(なん)鴻鵠(こうこう)(こころざし)()らんやだ。907紫蘭満路(しらんまんろ)()く、908芳香(はうかう)(なん)没暁漢(ぼつげうかん)()(ところ)ならんやだ。909アハヽヽヽ』
910大正一一・七・二二 旧閏五・二八 松村真澄録)