霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一六章 禁猟区(きんりようく)〔一〇五三〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第38巻 舎身活躍 丑の巻 篇:第3篇 冒険神験 よみ:ぼうけんしんけん
章:第16章 第38巻 よみ:きんりょうく 通し章番号:1053
口述日:1922(大正11)年10月17日(旧08月27日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年4月3日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
農作業の忙しい盛りの明治四十二年六月二十一日、喜楽、梅田柳月、大槻伝吉の三人は冠島・沓島参拝に出立した。しかし海は荒れており、頼んだ水夫も今は冠島の明神が御渡海される日だからと舟を出そうとしない。
喜楽の説得に、水夫はしぶしぶ、明朝一時まで天気を待つことになった。時間になると水夫たちがやってきたが、案の定天気は治まっている。二時に出港して、いつもは十二時間はかかる航海が、四時間足らずの六時前に着いた。
喜楽は冠装束いかめしく神前に進み、供物を献じて祝詞を奏上し、拝礼した。綾部から持ってきた石と、神前の丸石を一個交換して頂戴した。
祭礼で泊まり込んでいた氏子たちの誘いを厚く感謝しつつ断って、すぐに船着き場に戻っていった。昨年来、名木の冠島桑が何者かに盗伐されたり、鯖鳥が密猟されて激減したりといった事件を、水夫が悲しそうに物語る。
続いて舟は沓島の釣鐘岩の下に漕ぎつけた。明治三十四年、出口教祖は三十五名教え子を引き連れて参拝し、天岩戸の産水と竜宮館の真清水を海原に散布し給い、祈願をされた。
教祖は世界平和のため、日東帝国の国威宣揚のために祈願をさせ給うたのである。水夫に頼んで舟をつけてもらい、岩をかき登った。
到着早々癪に障ったのは、かかる神聖なる神島にまで密猟者が入り込み、平地にわら小屋を結んで鳥網を張回している。しきりにアホウドリを捕獲していたが、教服姿の自分たちを見てあわてて逃げだした。
残っていた一人を招いて、このような神域での危険な殺生商売をやめるようにと懇切に説いたが、耳に入りそうな気配はない。裁判官でなくて安心した、と口走るのが関の山であった。
昨年来、出口教祖は冠島・沓島の密猟を嘆き、鳥族がいたづらに生命を奪われることを憐み、祈願を御執行されていた。本日は満願の日のため、自分たちを特に御派遣になったのである。
不思議にも、明治四十二年六月二十二日、京都府の告示にてこの両島を含む地域が禁猟区域となったのである。
十年以前に出口教祖が建設せられた神祠は半ば朽廃し、来春までに造営せんことを神前に祈願宣誓した。それから自分たちはお籠りの岩に歩を進めた。
見れば上は絶壁に隔てられ、眼下は深き谷底に海水が青くただよっていてものすごい。ここに教祖の真筆をもって歴然と神の御名を記されている。改めて教祖の豪胆と熱誠に感じて拍手九拝、感嘆の声が口をついて出てきた。
大槻伝吉は、教祖と五野市太郎氏と三人で、十三日間静座して日露戦争全勝祈願をこらしたときの思い出を語った。舟人たちも、教祖がこんな無人島で荒行をされた思い出を話している。
正午に帰路につき、二十二日の午後四時、舞鶴の大丹生屋に安着した。
主な登場人物: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日: OBC :rm3816
愛善世界社版:165頁 八幡書店版:第7輯 220頁 修補版: 校定版:169頁 普及版:87頁 初版: ページ備考:
001 梅雨(ばいう)朦朧(もうろう)として(ひる)(なほ)(くら)く、002湿潤(しつじゆん)(いへ)()ちて万物(ばんぶつ)黴花(かび)(しやう)じ、003山色空朦(さんしよくくうもう)烟光霏々(えんくわうひひ)たる六月(ろくぐわつ)二十一日(にじふいちにち)004狭田(さだ)長田(ながた)手肱(たなひぢ)水泡(みなわ)かき()り、005向股(むかもも)(ひじ)かきよせて早乙女(さおとめ)三々伍々(さんさんごご)(たい)()し、006蓑笠(みのかさ)甲冑(かつちう)(とり)よろひ、007手覆脚絆(ておひきやはん)小手脛当(こてすねあて)008(こゑ)(いさ)ましく田歌(たうた)(うた)ひつつ、009(くに)富貴(ふうき)()ゑて()く、010(いぬ)()(ひと)()てふ農家(のうか)激戦場裡(げきせんぢやうり)011安閑坊(あんかんばう)喜楽(きらく)012梅田(うめだ)柳月(りうげつ)013大槻(おほつき)伝吉(でんきち)三人(さんにん)土倒(どたふ)(もの)は、014(いま)しも本院(ほんゐん)立出(たちい)でて、015本町(ほんまち)西町(にしまち)とふみ()(みち)(せま)くも広小路(ひろこうぢ)016()()馬場(ばば)()つの(あし)017綾部(あやべ)停車場(ていしやば)にと()()けた。018()くは何処(いづこ)和知(わち)(かは)019音無瀬鉄橋(おとなせてつけう)(おと)(たか)く、020梅雨(ばいう)(おか)して梅迫駅(うめざこえき)021停車(ていしや)()もなく、022真倉(まくら)洞穴(トンネル)023小暗(こぐら)(なか)吾物顔(わがものがほ)轟々(ぐわうぐわう)()()づれば、024山媛(やまひめ)(あを)御袖(みそで)(ふり)はえて、025炭団(たどん)(ごと)三人(さんにん)(かほ)(しば)(おほ)はせ(たま)ふも、026(とき)()つての風情(ふぜい)である。027車中(しやちう)(なが)(こころ)(いさ)(きも)(をど)り、028欣喜(きんき)(あま)()(あし)舞鶴駅(まひづるえき)舞下(まひくだ)り、029新橋詰(しんばしづめ)船問屋(ふなどんや)西川(にしかは)(かた)へと(なが)()んだ。
030 折柄(をりから)(しき)りに()(そそ)大粒(おほつぶ)(あめ)(きも)()たれたか、031予約(よやく)水夫(すいふ)刻限(こくげん)(きた)るも(おもかげ)だに()せぬ。032天道殿(てんだうどの)(つみ)(おも)三人(さんにん)参島(さんたう)(くはだ)てをおぢやんにせむず御心(みこころ)にや、033意地(いぢ)(わる)間断(かんだん)なく、034無遠慮(ぶゑんりよ)天水分神(あめのみくまりのかみ)(つか)はせ(たま)ふ。035何時迄(いつまで)()つても(そら)()れさうにも()いが、036(あめ)(もと)より覚悟(かくご)(まへ)だ。037(しか)肝腎(かんじん)(ふね)(かみ)御出(おいで)にならぬのには大閉口(だいへいこう)038さりとて中途(ちうと)(かへ)るのは()んでも(いや)三人(さんにん)039(たたみ)(うへ)()ても()(とき)には()ぬる、040生死(せいし)(てん)なり、041惟神(かむながら)なり、042是非(ぜひ)水夫(すいふ)()びにやつて(くだ)さいと(うなが)す。043西川(にしかは)後家(ごけ)サンも()むを()ず、044田中(たなか)045橋本(はしもと)二人(ふたり)を、046(ひと)(もつ)呼寄(よびよ)せた。047出口(でぐち)教祖(けうそ)(はじ)めて沓島開(めしまびら)きをなされた(とき)御供(おとも)をした水夫(すいふ)である。048数千(すうせん)漁夫(ぎよふ)(なか)にて(もつと)剛胆(がうたん)な、049熟練(じゆくれん)(きこ)えある選抜(よりぬ)きの漁夫(ぎよふ)050これなら大丈夫(だいぢやうぶ)051何時(いつ)でも(ふた)返辞(へんじ)()つて()れるだらうと(よろこ)(いさ)んだ甲斐(かひ)もなく、052(あん)相違(さうゐ)した弱音(よわね)()くのである。
053(なん)信神(しんじん)参拝(まゐ)るにしても、054神様(かみさま)御守護(ごしゆご)があるにしても、055(この)気色(けしき)では(おに)()くて()けんでの、056マア二三日(にさんにち)ゆるりと(あそ)んで()つてお()れ。057天候(けしき)()まつたら、058(とも)をさして(もら)はうかいの、059明日(あす)(また)冠島様(をしまさま)一年(いちねん)一度(いちど)御祭典(ごさいてん)で、060今晩(こんばん)冠島(をしま)明神(みやうじん)神船(かみふね)()つて、061対岸(たいがん)新井崎神社(にゐさきさん)御渡海(ごとかい)になるので(おそ)ろしい()さだ。062中々(なかなか)(ふね)()せぬでの、063()(かみ)御心(みこころ)にでも(さわ)つたら大変(たいへん)だ。064桑名(くはな)亀造(かめざう)()けら、065今晩(こんばん)(ふね)()(もの)()いわいの』
066臆病風(おくびやうかぜ)(みい)せられたか、067一向(いつかう)(いろ)よい返事(へんじ)をしてくれぬ。068三人(さんにん)()して今夜(こんや)(やう)()けぬと()()()つて()たいのが希望(きばう)だ。069是非々々(ぜひぜひ)賃金(ちんぎん)(いと)はぬ、070やつてくれい……と()(やう)(たの)む。071水夫(すいふ)益々(ますます)恐怖心(きようふしん)()られ、072ソロソロ卑怯(ひけふ)にも()(かへ)らむとする。073()げられては(たま)らぬので、074口々(くちぐち)(なだ)めつ(すか)しつ、075直往勇進(ちよくわうゆうしん)断々乎(だんだんこ)として(おこな)へば鬼神(きじん)(これ)()くとの教祖(けうそ)神諭(をしへ)(たて)()りて(うご)かぬ。076(たがひ)押問答(おしもんだう)(はて)しもなく、077(つひ)には水夫(すいふ)(くち)をとぢて呆然(ばうぜん)として、078只々(ただただ)謝絶(しやぜつ)一点(いつてん)()り、079(なみ)()られた(おき)(ふね)で、080取付(とりつ)(しま)がない、081吾等(われら)平時(へいじ)(おい)てこそ温柔(おんじう)なること綿羊(めんやう)(ごと)くなれ、082目的(もくてき)遂行(すゐかう)(たい)しては猛虎(まうこ)(ごと)く、083一向(いつかう)直進(ちよくしん)眼中(がんちう)風雨(ふうう)なく海洋(かいやう)なし、084満腔(まんこう)勇気(ゆうき)烈火(れつくわ)(ごと)挺身(ていしん)突撃(とつげき)()()()するが(ごと)覚悟(かくご)ありと(いへど)も、085如何(いかん)せむ(ふね)(あやつ)ることを()らない三人(さんにん)は、086肝腎(かんじん)機関士(きくわんし)見放(みはな)されたが最後(さいご)087(かみ)ならぬ石仏(いしぼとけ)同様(どうやう)()088海上(かいじやう)一寸(ちよつと)進航(しんかう)することが出来(でき)ぬのである。089(ほか)水夫(すいふ)雇入(やとひい)れむにも、090生憎(あひにく)一人(いちにん)(おう)ずる(もの)がない。091とうとう根負(こんまけ)して、
092『そんなら明朝(みやうてう)一時(いちじ)まで自分等(じぶんら)()(こと)にせう、093キツと(あめ)()み、094快晴(くわいせい)になるは請合(うけあひ)西瓜(すゐくわ)だ、095吾々(われわれ)出修(しゆつしう)には(かなら)天祐(てんいう)があるから安心(あんしん)して()つてお()れ』
096(くち)から出任(でまか)せ、097覚束(おぼつか)なき予言(よげん)二人(ふたり)嘲笑(からか)ひ、098自分等(じぶんら)馬鹿(ばか)にした(やう)面付(つらつき)でシブシブ(かへ)つて()く。
099 三人(さんにん)問屋(とんや)部屋(へや)でガツト(むし)(やう)(ちひ)さく(ちぢ)かんで(しん)()いた。100大方(おほかた)白川(しらかは)夜船(よぶね)でも()いで()たであらう。101一眠(ひとねむり)したと(おも)時分(じぶん)に、102大丹生屋(おほにふや)門口(かどぐち)打叩(うちたた)き、
103『お(きやく)さん(ひる)船頭(せんどう)()た』
104(さけ)んでゐる。105……サア(しめ)た……と一度(いちど)にはね()き、106(また)御意(ぎよい)(かは)らぬ(うち)と、107(ただち)支度(したく)(とり)かかつた。
108船頭(せんどう)さん、109天気(てんき)はゼロだらう』
110とからかへば、
111『イヤ気色(けしき)大変(たいへん)よい(やう)だが、112()ける(だけ)()つて()(わか)らぬ』
113とまだ()()らぬ返事(へんじ)である。
114 時節(じせつ)到来(たうらい)港口(かうこう)()たのは廿二日(にじふににち)(まさ)午前(ごぜん)二時(にじ)であつた。115ヤハリ(そら)(くも)()つて(ほし)(ひと)青雲(あをくも)一片(いつぺん)見当(みあた)らぬが、116米価(べいか)のあがる糠雨(ぬかあめ)が、117ピリピリと(こわ)(さう)一行(いつかう)(かほ)()める(くらゐ)118(れい)南泊辺(みなみとまりへん)まで()()すと、119火光(くわくわう)海面(かいめん)()らして疾走(しつそう)せる一隻(いつせき)大汽船(だいきせん)行違(ゆきちが)うた。120(その)動波(どうは)(ため)(わが)小舟(をぶね)自由自在(じいうじざい)翻弄(ほんろう)されたのは、121(じつ)(しやく)にさわつて(たま)らぬ。122(しばら)くすると(てん)所々(ところどころ)雨雲(あまぐも)(ころも)()いで、123(あを)(くも)(はだへ)(あら)はし、124点々明滅(てんてんめいめつ)125天書(てんしよ)(あら)はるるも、126連日(れんじつ)降雨(あめ)内海(うちうみ)部分(ぶぶん)(みづ)(にご)つて()るせいか、127今夜(こんや)(きよ)(ほし)(なみ)宿(やど)()りて()らぬ。128博奕ケ崎(ばくちがさき)(あと)()()()(ほど)に、129東天(とうてん)(くれない)(てう)して(はるか)山頂(さんちやう)より隆々(りうりう)朝瞰(てうとん)吐出(はきだ)し、130冠島(をしま)沓島(めしま)眼前(がんぜん)(よこた)はり、131胸中濶然(きようちうくわつぜん)欣扑歓呼(きんべんくわんこ)(おぼ)えず拍手(はくしゆ)神島(しま)遥拝(えうはい)し、132各自(かくじ)感謝(かんしや)祈願(きぐわん)祝詞(のりと)奏上(そうじやう)(たてまつ)る。133海上(かいじやう)至極(しごく)平穏(へいおん)で、134縮緬(ちりめん)(やう)(なみ)奇麗(きれい)(なが)れて()る。135水夫(すいふ)汗水(あせみどろ)になつて力限(ちからかぎ)(とも)(へさき)とから()()ける。136小舟(こぶね)()()(ごと)く、137(とり)()(ごと)冠島(をしま)()いたのは恰度(ちやうど)六時(ろくじ)五分前(ごふんまへ)であつた。
138 何時(いつ)でも片道(かたみち)十時間(じふじかん)以上(いじやう)十二時間(じふにじかん)はかかるものを、139今回(こんくわい)(かぎ)つて(わづか)四時間(よじかん)()らずとは(じつ)意外(いぐわい)であつた。140喜楽(きらく)得意(とくい)満面(まんめん)(あふ)れて、
141喜楽(きらく)(つみ)(かる)安閑坊(あんかんばう)参拝(さんぱい)すると(この)(とほ)りだ、142神様(かみさま)公平(こうへい)無私(むし)()らせられる』
143一人(ひとり)調子(てうし)()つて()る。144冠装束(かむりしやうぞく)いかめしく徐々(じよじよ)神前(しんぜん)(すす)み、145供物(くぶつ)(けん)じ、146祝詞(のりと)(そう)し、147拝礼(はいれい)(をは)つて、148(うやうや)しく社殿(しやでん)(まか)りさがつた。149記念(きねん)(ため)自分(じぶん)神前(しんぜん)丸石(まるいし)一個(いつこ)頂戴(ちやうだい)した。150勿論(もちろん)交換(かうくわん)(いし)持参(ぢさん)して()るのであるから、151(ただ)頂戴(ちやうだい)したのではない、152今日(けふ)明神(みやうじん)祭日(さいじつ)とて、153前日(ぜんじつ)から数名(すうめい)氏子(うぢこ)社務所(しやむしよ)出入(でい)りして、154境内(けいだい)掃除(さうぢ)()つて()る。
155(はや)うから参詣(さんけい)でしたなア、156マア一服(いつぷく)なさい』
157()(ゆづ)親切(しんせつ)(あつ)感謝(かんしや)しつつ、158(また)海浜(かいひん)船繋場(ふなつなぎば)引返(ひきかへ)した。159名木(めいぼく)冠島桑(をしまくは)去年(きよねん)(なつ)160或者(あるもの)(ため)盗伐(たうばつ)されて(しま)つて(かげ)(とど)めず、161(わづか)三尺(さんじやく)(ばか)(まわ)つた桑樹(さうじゆ)波打際(なみうちぎは)()こじに古自(こじ)(よこ)たへられてある。162(じつ)憤慨(ふんがい)()へぬ次第(しだい)である。
163一昨年(いつさくねん)あたりから、164横浜(よこはま)神戸(かうべ)あたりから六七十人(ろくしちじふにん)団体(だんたい)がやつて()て、165五六十万羽(ごろくじふまんば)鯖鳥(さばとり)密猟(みつれふ)したので、166近頃(ちかごろ)大変(たいへん)(とり)()つて、167漁猟(ぎよれふ)差支(さしつかへ)(みな)(もの)(こま)つとるわいの』
168水夫(すいふ)二人(ふたり)(かな)しさうに物語(ものがた)りつつ、169(はや)くも沓島(めしま)(むか)つて漕出(こぎだ)した。
170 冠島(をしま)沓島(めしま)中津神岩(なかつかみいは)には数十羽(すうじつぱ)(おき)(とり)171(むな)()姿(すがた)()たたきも()()しと(なが)()に、172一行(いつかう)(ふね)見送(みおく)つて()る。173浅久里(あさぐり)174(たな)(した)巌壁(がんぺき)面白(おもしろ)左手(ゆんで)(なが)めて、175諸鳥(もろどり)(さへづ)(こゑ)(つりがね)(いは)真下(ました)()ぎつけた。176奇絶壮絶(きぜつさうぜつ)胸為(むねため)清涼(せいりやう)(おぼ)ゆ。
177 ()明治(めいぢ)三十四年(さんじふよねん)178見渡(みわた)せば山野(さんや)靉靆(あいたい)として(はな)()(にほ)ひ、179淡糊(うすのり)()いて(なが)したやうな春霞(はるがすみ)はパノラマの(ごと)景色(けしき)配合(はいがふ)調和(てうわ)して、180(とり)新緑(しんりよく)(こずゑ)(うた)ひ、181(てふ)黄金(わうごん)()(はな)()うてゐる好時節(かうじせつ)182舞鶴(まひづる)(うみ)白波(はくは)のゆるやかに(ころ)(きた)つて、183(とほ)きは()(ちか)きは(しろ)く、184それが日光(につくわう)反射(はんしや)して、185水蒸気(すゐじようき)(おほ)(はる)(うみ)縁取(ふちど)つて、186()()はれぬ絶景(ぜつけい)天下(てんか)泰平(たいへい)真最中(まつさいちう)187出口(でぐち)教祖(けうそ)三十五名(さんじふごめい)教弟(をしへご)引連(ひきつ)れられて、188(この)鐘岩(つりがねいは)絶頂(ぜつちやう)(のぼ)()ち、189丹後国(たんごのくに)宮川(みやがは)上流(じやうりう)190天岩戸(あまのいはと)産水(うぶみづ)竜宮館(りうぐうやかた)真清水(ましみづ)()()られ、191眼下(がんか)海原(うなばら)()かけて、192(うやうや)しく撒布(さんぷ)(たま)ひ、193(しゆく)して(あふ)せらるるやう、
194教祖(けうそ)向後(こうご)三年(さんねん)(のち)には(かなら)日露(にちろ)開戦(かいせん)がある。195(その)(とき)巨人(きよじん)(ごと)強大国(きやうだいこく)小児(せうに)(ごと)小国(せうこく)とが、196世界(せかい)列国(れつこく)環視(くわんし)(もと)で、197所謂(いはゆる)()れの場所(ばしよ)198檜舞台(ひのきぶたい)(うへ)での腕比(うでくら)べの大戦争(だいせんそう)であるから、199万々一(まんまんいち)不幸(ふかう)にして、200(わが)(くに)不利(ふり)戦争(せんそう)(をは)るやうな(こと)になつたら、201それこそ大変(たいへん)202万却末代(まんごふまつだい)日本(にほん)帝国(ていこく)(あたま)(あが)らぬ。203そこで国祖(こくそ)神霊(しんれい)(おほい)(これ)憂慮(いうりよ)(たま)ひ、204(いま)(この)老躯(らうく)をここに(つか)はし、205世界(せかい)平和(へいわ)(ため)206日東帝国(につとうていこく)国威(こくゐ)宣揚(せんやう)(ため)祈願(きぐわん)せさせ(たま)ふなり、207あゝ(うしとら)大金神(だいこんじん)国常立尊(くにとこたちのみこと)よ、208(あふ)(ねが)はくは太平洋(たいへいやう)(ごと)(ひろ)く、209日本海(にほんかい)(ごと)(ふか)御庇護(ごひご)(わが)神国(しんこく)日本(にほん)(うへ)(くだ)(たま)ひて、210(この)(きよ)けき産水(うぶみづ)(うる)はしき真清水(ましみづ)海洋(かいやう)一周(いつしう)し、211(くも)となり、212(あめ)となり、213(あるひ)(ゆき)となり(あられ)となつて、214(あまね)五大洲(ごだいしう)(うるほ)はし、215天下(てんか)曲霊(まがひ)掃蕩(さうたう)し、216汚穢(をゑ)洗滌(せんぜう)し、217天国(てんごく)地上(ちじやう)建設(けんせつ)し、218豊葦原瑞穂国(とよあしはらのみづほのくに)をして、219(まこと)楽境(たかま)となさしめ、220黄金世界(わうごんせかい)現出(げんしゆつ)せしめ(たま)へ』
221満腔(まんこう)熱誠(ねつせい)信仰(しんかう)をこめ、222天地(てんち)(くづ)るる(ばか)りの大音声(だいおんじやう)()()げて祈願(きぐわん)されし断岩(だんがん)(すなは)()れであると、223喜楽(きらく)(はなし)()いた一行(いつかう)は、224是非(ぜひ)一度(いちど)登岩(とがん)して()たき一念(いちねん)()せずしてムラムラと湧起(ゆうき)し、225()(たて)(たま)らぬやうになつた。
226 水夫(すいふ)(たの)んでカツカツにも(ふね)()けて(もら)ひ、227かき(のぼ)つて()ると、228手足(てあし)がワナワナするやうな心地(ここち)がして教祖(けうそ)勇気(ゆうき)()たせられて()られることを、229今更(いまさら)のやうに感歎(かんたん)せずには()られぬやうになつた。230(おと)名高(なだか)弥勒(みろく)菩薩(ぼさつ)自然岩(しぜんがん)厳然(げんぜん)として(その)英姿(えいし)(あら)はし、231(あたか)巨人(きよじん)(まめ)(ごと)人間(にんげん)眼下(がんか)睥睨(へいげい)して()るやうで、232どこともなく神聖(しんせい)不可犯(をかすべからず)(おもむき)(をが)まれる。233(とほ)()東北(とうほく)(はな)てば日本海(にほんかい)波浪(はらう)銀屏(ぎんぺい)(つら)ねたるが(ごと)く、234黄金(こがね)大塊(たいくわい)東天(とうてん)(かがや)き、235足下(そくか)(うみ)翠絹(すゐけん)(しとね)(ごと)く、236美絶壮絶(びぜつさうぜつ)快感(くわいかん)(たと)ふるに(もの)なし。237歎賞(たんしやう)(ひさし)うして(ふたたび)(ふね)(あが)り、238(わに)()突当岩(つきあていは)巡見(じゆんけん)するに、239()(また)()240(くわい)(また)(くわい)241(めう)()()ち、242(ぜつ)(さけ)び、243精神(せいしん)恍惚(くわうこつ)として羽化登仙(うくわとうせん)したるの(おも)ひであつた。
244 (ふね)容赦(ようしや)もなく鬼岩(おにいは)眼下(がんか)()()で、245(から)うじて戸隠岩(とがくしいは)漕付(こぎつ)いた。246到着(たうちやく)早々(さうさう)(しやく)にさわつたのは、247不届(ふとど)至極(しごく)にも()かる神聖(しんせい)なる神島(しま)にまで、248密猟者(みつれふしや)入込(いりこ)み、249(すこ)(ばか)りの平地(へいち)(ぼく)して藁小屋(わらごや)(むす)び、250雨露(うろ)(しの)ぎつつ、251日夜(にちや)鳥網(とりあみ)()りまはし、252棍棒(こんぼう)携帯(けいたい)し、253垢面(くめん)八字髭(はちじひげ)(たくは)へた()ても(おそ)ろしい様子(やうす)254(はら)でも()いたら人間(にんげん)でも容赦(ようしや)なく餌食(ゑじき)にし兼間(かねま)じき五十男(ごじふをとこ)が、255張本人(ちやうほんにん)()えて、256数多(あまた)壮丁(さうてい)使役(しえき)して(しき)りに信天翁(あはうどり)捕獲(ほくわく)して()真最中(まつさいちう)であつたが、257彼等(かれら)教服姿(けうふくすがた)吾等(われら)一行(いつかう)遥見(えうけん)して、258何故(なにゆゑ)右往左往(うわうさわう)にあわてふためき、259山上(さんじやう)()がけて()(のぼ)るあり、260断岩(だんがん)無暗(むやみ)疾走(しつそう)するあり、261何事(なにごと)(おこ)りたるかと(あや)しまるる(ほど)であつた。262(やや)落付顔(おちつきがほ)一人(ひとり)(ちか)(まね)いて、
263喜楽(きらく)『あなた()(なに)(もつ)てか(にはか)にあわて(まよ)ふぞ。264自分等(じぶんら)信仰上(しんかうじやう)より梅雨(ばいう)(をか)して(いま)(この)神島(しま)参詣(さんけい)した(もの)だが、265()ればあんた()海鳥(かいてう)密猟者(みつれふしや)()えるが、266(しか)商売(しやうばい)とは()(なが)ら、267かかる危険(きけん)殺伐(さつばつ)所業(しよげふ)()めて、268()正業(せいげふ)()(たま)へ』
269三人(さんにん)熱誠(ねつせい)()めて()(さと)(ども)270(もと)より(とら)(おほかみ)(ごと)人物(じんぶつ)271一言(ひとこと)(みみ)()(さう)気配(けはい)だにない。272自由(じいう)(けん)(かま)てなやホツチツチ」と()はぬ(ばか)りの面構(つらがま)へ、273()らぬ(やつ)()やがつて、274(ひと)をビツクリさしやがつたが、275マア裁判官(さいばんくわん)でなくて大安心(だいあんしん)……と口走(くちばし)つたのは滑稽(こつけい)(きは)みであつた。276(そもそ)昨年来(さくねんらい)出口教祖(でぐちけうそ)冠島(をしま)沓島(めしま)密猟(みつれふ)非常(ひじやう)(をし)まれ、277()(つみ)もなき鳥族(てうぞく)(いたづら)生命(せいめい)(うば)はるるを(あはれ)(たま)ひ、278鳥族(てうぞく)保護(ほご)祈願(きぐわん)まで、279朝夕(あさゆふ)神前(しんぜん)にて御執行(ごしつかう)あつたが、280本日(ほんじつ)満願(まんぐわん)()なれば、281神明(しんめい)謝礼(しやれい)(ため)種々(しゆじゆ)供物(くもつ)()たせ、282自分等(じぶんら)(とく)御差遣(ごさけん)になつたのである。283それが(また)偶然(ぐうぜん)(かみ)摂理(せつり)か、284不可思議(ふかしぎ)にも今日(けふ)(すなは)明治(めいじ)四十二年(しじふにねん)六月(ろくぐわつ)廿二日(にじふににち)285京都府(きやうとふ)告示(こくじ)第三百十九号(だいさんびやくじふくがう)(もつ)て、286加佐郡(かさぐん)西大浦村(にしおほうらむら)大字(おほあざ)三浜小橋(みはまこばし)(および)(この)両島(りやうたう)区域(くゐき)禁猟(きんれふ)区域(くゐき)となし、287今後(こんご)十年間(じふねんかん)年内(ねんない)(つう)じて該区域内(がいくゐきない)棲息(せいそく)する鳥類(てうるゐ)(およ)(ひな)捕獲(ほくわく)(また)採卵(さいらん)禁止(きんし)せられた当日(たうじつ)であつた。
288 十年(じふねん)以前(いぜん)出口(でぐち)教祖(けうそ)建設(けんせつ)せられた神祠(しんし)積年(せきねん)風雨(ふうう)(さら)されて、289(なかば)朽廃(きうはい)()し、290()るからに(おそ)(おほ)く、291一日(いちにち)(はや)改築(かいちく)(まつ)りたく、292是非(ぜひ)来春(らいしゆん)までに造営(ざうえい)せむことを神前(しんぜん)祈誓(きせい)した。293(かしこ)(つつし)祠前(しぜん)(すす)み、294各自(かくじ)供物(くもつ)(けん)灯火(とうくわ)奉点(ほうてん)し、295(れい)祝詞(のりと)奏上(そうじやう)(たてまつ)る。296()(のこ)された数万(すうまん)信天翁(あはうどり)不遠慮(ぶゑんりよ)自分等(じぶんら)斎員(さいゐん)頭上(づじやう)()びまはり、297神聖(しんせい)なる教服(けうふく)(そで)糞汁(ふんじふ)(あめ)()らせ、298一帳羅(いつちやうら)台無(だいな)しにする。299まだ(その)(うへ)(ごう)のわいた、300気楽(きらく)(さう)(あや)しい(こゑ)(しぼ)()して、301八釜(やかま)しく、302自分等(じぶんら)嘲笑(てうせう)して()(やう)に、303(こころ)(せい)か、304(かん)じられるのである。305それから(きも)投出(なげだ)して、306(こも)(いは)(から)うじて()(すす)めた。
307 ()れば(うへ)絶壁(ぜつぺき)(へだ)てられ、308眼下(がんか)(ふか)谷底(たにそこ)海水(かいすい)(あを)(ただよ)うて物凄(ものすご)い。309(あし)(うら)がウヂウヂするやうな難所(なんしよ)に、310教祖(けうそ)真筆(しんぴつ)(もつ)歴然(れきぜん)(かみ)御名(みな)(しる)されてある。311教祖(けうそ)豪胆(がうたん)熱誠(ねつせい)(かん)じて、312(おも)はず拍手(はくしゆ)九拝(きうはい)感歎(かんたん)(こゑ)(くち)をついて()()た。313始終(しじう)沈黙(ちんもく)(まも)つて()大槻(おほつき)(この)(とき)(おも)()した(やう)(かた)る。
314大槻(おほつき)日露(にちろ)戦役(せんえき)真最中(まつさいちう)315教祖(けうそ)のお(とも)をして、316十三ケ日間(じふさんかにちかん)(この)岩窟(がんくつ)静坐(せいざ)し、317敵艦(てきかん)全滅(ぜんめつ)318(わが)(ぐん)全勝(ぜんしよう)祈願(きぐわん)をこらした(とき)は、319ズイ(ぶん)困窮(こんきう)(きは)めた。320清水(しみづ)一滴(いつてき)()し、321三人(さんにん)(なか)(わづ)三升(さんぜう)煎米(いりごめ)がある(だけ)322これを生命(いのち)(おや)として、323幾十日(いくじふにち)()はねばならぬ、324昼夜(ちうや)にドンドンドンと(あや)しい、325(なん)とも(たと)えやうの()(おと)がして(さび)しいやら、326(すさま)じい(やう)で、327(ひと)心地(ここち)はせず、328陸上(りくじやう)との交通(かうつう)無論(むろん)断絶(だんぜつ)なり、329(あめ)毎日毎夜(まいにちまいや)勤務(つとめ)(やう)()(つづ)ける、330(のど)はかはく、331(はら)はすく、332手足(てあし)はワナワナする、333()はマクマクする、334(はら)はガクガクして、335()んでるのか()きてるのか、336(われ)(なが)(つひ)には判別(はんべつ)()きかねる。337そこへ雨育(あめそだ)ちの(からだ)(にはか)暑熱(しよねつ)()てられる。338(おも)()してもゾツとする。339教祖(けうそ)平素(へいそ)修行(しうぎやう)結果(けつくわ)にや、340神色自若(しんしよくじじやく)として容顔(ようがん)(うるは)しく、341ますます元気(げんき)(ます)(ばか)り、342二十日(にじふにち)三十日(さんじふにち)辛抱(しんばう)出来(でき)(やう)では、343日本男児(につぽんだんじ)本領(ほんりやう)はどこに()るか、344チと勇気(ゆうき)()したが()からうと御叱(おしか)りになる、345自分等(じぶんら)はモウ(この)(うへ)一片(いつぺん)勇気(ゆうき)精力(せいりよく)()すことが出来(でき)ぬのである。346(しか)るに(てん)(あた)へか(むか)ふの(きし)(したた)りおつる(みづ)塩気(しほけ)がないと()(こと)を、347フト発見(はつけん)した。348(あたか)地下(ちか)世界(せかい)から脱出(ぬけで)(やう)心持(こころもち)で、349色々(いろいろ)工夫(くふう)をこらし、350(たづさ)()てる竹筒(たけづつ)()けて(みづ)()り、351(やうや)(かつ)()したといふ始末(しまつ)で、352万一(まんいち)(この)(みづ)()かつたなら、353自分等(じぶんら)生命(いのち)(まつた)うすることが出来(でき)なかつたかも()れぬのであつた。354(しか)一時(いちじ)(みづ)(いき)をしたが何時迄(いつまで)(みづ)(ばか)りでは(たま)らない。355煎米(いりごめ)はモウ三日前(みつかまへ)(をは)りを()げた。356()んな無人島(むじんたう)()()ぬよりも、357陸上(りくじやう)にあつて(いく)らでも国家(こくか)(ため)(つく)すことが出来(でき)るであらうから、358一日(いちにち)(はや)(かへ)らせて(もら)ひたいと教祖(けうそ)()きついた(ところ)が、359教祖(けうそ)可愛相(かあいさう)思召(おぼしめ)したか、360……そんなら明日(あす)(むか)への(ふね)()(やう)神界(しんかい)祈願(きぐわん)してやらう……と(あふ)せられ、361早速(さつそく)御願(おねがひ)になると、362天祐(てんいう)偶然(ぐうぜん)か、363(ただし)島神(たうじん)聴許(ちやうきよ)ましましたか、364翌朝(よくてう)(あさひ)豊栄昇(とよさかのぼ)(ころ)365(はるか)海上(かいじやう)より七隻(しちせき)漁舟(ぎよしう)沓島(めしま)()がけて()()せて()る。366(その)(とき)(うれ)しさは()んでも(わす)れられないと(おも)ひました。367数名(すうめい)漁夫(りようし)自分等(じぶんら)三人(さんにん)(かほ)熟視(じゆくし)して、368てつきり露探(ろたん)誤認(ごにん)し、369(にはか)顔色(がんしよく)()へて(ふる)()し、370……露人(ろじん)一人(ひとり)日本人(にほんじん)二人(ふたり)だ。371(おそ)ろしい迂濶(うくわつ)相手(あひて)()れないぞ……と(たがひ)()()き、372(そで)()き、373逸足早(いちあしはや)()(かへ)らむとする。374()(かへ)られては(たま)らないから、375自分(じぶん)()(あは)さぬ(ばか)りにして、376事情(じじやう)逐一(ちくいち)説明(せつめい)して(たの)()んだ。377彼等(かれら)(やうや)くの(こと)納得(なつとく)し、378()(かく)舞鶴(まひづる)まで(おく)つてくれることになつた。379(ところ)(その)甲斐(かひ)もなく、380漁夫(れふし)(てい)よく口実(こうじつ)(まう)けて、381自分等(じぶんら)安心(あんしん)させ、382油断(ゆだん)させて()いて、383一人(ひとり)(のこ)らず()(かへ)つて(しま)つたのである。384大方(おほかた)村役場(むらやくば)へでも報告(はうこく)する(ため)であつたのでせう。385そこで()むを()後野(ごの)()断岩(だんがん)(すべ)りおりて、386(わに)()まで危難(きなん)(をか)し、387海水(かいすゐ)(およ)ぎなどして、388鐘岩(つりがねいは)真下(ました)(まで)()つて()ると、389一人(ひとり)漁夫(ぎよふ)がそこに波浪(はらう)()けて(いと)()(たひ)()つて()最中(さいちう)で、390裸体(らたい)(まま)()つて()後野(ごの)()姿(すがた)()てビツクリし……生命(いのち)()らずの馬鹿者(ばかもの)()391(まへ)(わに)巣窟(さうくつ)(とほ)つて()たなアと(さけ)びつつ、392(ただち)(ふね)()せて戸隠岩(とがくしいは)真下(ました)()()せた。393教祖(けうそ)漁夫(ぎよふ)(むか)ひ、394(あつ)感謝(かんしや)せられ……さてバルチツク艦隊(かんたい)近日(きんじつ)(うち)対馬沖(つしまおき)にて全滅(ぜんめつ)するから安心(あんしん)ぢや、395(まへ)さまも(むら)(かへ)つて(むら)(ひと)()らしてやつて安心(あんしん)させるがよいと……(あふ)せられたが、396(はた)して(その)言葉(ことば)(どほ)り、397七日(なぬか)(ほど)()つた(ところ)で、398日本海(にほんかい)大海戦(だいかいせん)で、399あの(とほ)りの大勝利(だいしようり)400自分(じぶん)(その)(とき)(あま)りの(こと)(あき)れました』
401懐旧談(くわいきうだん)(しき)りにやつて()る。402二人(ふたり)水夫(すいふ)(はなし)()()いて、
403私等(わたしら)二人(ふたり)此島(ここ)御伴(おとも)して(まゐ)りましたが、404教祖(かみ)さまが……モウお(まへ)サン()(かへ)つてくれ、405そして四十日目(しじふにちめ)(ふね)()つて(むか)ひに()てくれ、406万一(まんいち)()なかつたら、407(また)四十日(しじふにち)()つた(ところ)()てくれ……と(あふ)せられたが、408こんな無人島(むじんたう)荒行(あらぎやう)なさるかと(おも)へば、409(にはか)(かな)しくなつて、410二人(ふたり)(とも)()きました』
411朴訥(ぼくとつ)(くち)から(はな)して()る。412帰路(きろ)冠島(おしま)覗岩(のぞきいは)(ふね)(うか)べて和布(わかめ)()り、413(かひ)(かに)捕獲(ほくわく)しつつ、414五丈岩(ごぢやういは)三丈岩(さんぢやういは)(とう)勝景(しようけい)感賞(かんしやう)しつつ、415順風(じゆんぷう)真帆(まほ)をあげ、416帰路(かへりぢ)()く。417(まさ)午時(ひる)であつた。
418 船中(せんちう)にて昼飯(ちうはん)(きつ)し、419舞鶴(まひづる)湾口(わんこう)(かぶら)420久里(くり)421博奕ケ崎(ばくちがさき)422白黒岩(しろくろいは)何時(いつ)しか(あと)()て、423横波(よこなみ)424南泊(みなみどまり)(すす)(ほど)に、425(はや)松原(まつばら)にと(さし)かかれば、426水夫(すいふ)(いさぎよ)く、
427田辺(たなべ)()たさに松原(まつばら)()せば、428田辺(たなべ)がくしの(きり)()む』
429(うた)(なが)ら、430廿二日(にじふににち)午後(ごご)四時(よじ)431大丹生屋(おほにふや)安着(あんちやく)した。
432大正一一・一〇・一七 旧八・二七 松村真澄録)