霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第六章 妖霧(えうむ)〔一〇七一〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第39巻 舎身活躍 寅の巻 篇:第2篇 黄金清照 よみ:おうごんせいしょう
章:第6章 第39巻 よみ:ようむ 通し章番号:1071
口述日:1922(大正11)年10月22日(旧09月3日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年5月5日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
谷道の傍らの森に、古ぼけた祠があった。レーブとタールはその後ろに隠れて、先ほどの災難についてひそひそ話にふけっている。そこへ、息をはずませてハムが祠の前にやってきた。
ハムは、二人の女に投げられた災難を吐露し、レーブとタールが自分を助けるどころか悪態をついて放置していたことに怒りを表した。
ハムは、そのあと聞こえてきた宣伝歌から三五教徒がの応援が来たと思い、その恐ろしさを祠の前に訴えた。そしてもう体が動かくなったと嘆き、バラモン教の神に助けを乞うた。
河鹿川の谷底から立ち上った霧にあたりは包まれ、一足先も見えなくなってしまった。レーブとタールはハムが弱音を吐いて参っているのをからかってやろうと、霧を幸い祠の下から這い出した。
タールとレーブは、黄金姫と清照姫の声色を使って、鬼の母子を演じ、ハムを震え上がらせた。ハムは恐ろしさに思わず、霧の中の声に向かって命乞いを始める。
二人が鬼の母子の真似をしてハムをなぶっていると、山おろしに霧は払われて、三人の姿ははっきりをわかってきた。ハムは、レーブとタールが自分をからかっていたことがわかり、怒りに足腰の痛みも忘れて立ち上がった。
レーブとタールをそれをみて、細谷道を命からがら逃げて行った。
主な登場人物: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日: OBC :rm3906
愛善世界社版:78頁 八幡書店版:第7輯 308頁 修補版: 校定版:81頁 普及版:31頁 初版: ページ備考:
001 谷路(たにみち)(かたはら)のコンモリとした(もり)(ふる)ぼけた(ひと)つの(ほこら)がある。002(その)(うしろ)にヒソビソ(ばなし)をしてゐる二人(ふたり)(をとこ)があつた。
003『オイ、004レーブ、005今日(けふ)(ぐらゐ)(こは)()()うた(こと)はないぢやないか、006イヤ怪体(けたい)()はあるまい。007バラかパンヂーか芍薬(しやくやく)かと()ふやうな(うつく)しいクヰン(さま)()アと二人(ふたり)()れで河鹿峠(かじかたうげ)天降(あまくだ)(あそ)ばしたので、008(おれ)一目(ひとめ)(その)姿(すがた)(をが)むなり、009(たましひ)(ちう)()び、010仮令(たとへ)(てき)でも(かま)はぬ、011(いつ)ぺんあの綺麗(きれい)()で、012三人(さんにん)(やつ)のやうにさわつて(もら)ひたかつたが、013(しか)(なが)らあんな()()うても(つま)らないし、014一体(いつたい)あれは何神(なにがみ)さまだらう。015(おれ)はそれからこつちといふものは、016あの女神(めがみ)姿(すがた)()にちらついて、017()うにも()うにも仕方(しかた)がないワ。018(こは)いやうな(なん)とも()へぬ気分(きぶん)になつて()たよ』
019レーブ『貴様(きさま)余程(よほど)()いデレ(すけ)だな。020そんなこつて大切(たいせつ)使命(しめい)(つと)まるか。021もし貴様(きさま)022あれが(れい)のレコであつたら、023如何(どう)する(つもり)だ』
024タール『そんな(こと)(さき)にならな(わか)らぬワイ。025()(かく)(すゐ)()かぬ(やつ)(ばか)りがゴロついてるものだから、026(ほどこ)すべき手段(しゆだん)がない。027(しか)三人(さんにん)(やつ)仮令(たとへ)(いのち)はなくなつても光栄(くわうえい)だと(おも)うて、028成仏(じやうぶつ)するだらう。029あんな(たか)(ところ)からウンと一思(ひとおも)ひに天国(てんごく)()けるのならば、030おれもあの女神(めがみ)()つて(もら)うて、031天国(てんごく)()つた(はう)何程(なにほど)結構(けつこう)だか()れない。032実際(じつさい)(この)()(なか)()つたつて面白(おもしろ)くも(なん)ともないからなア』
033レーブ『それ(ほど)()にたいのなら、034なぜハムが()ひかけた(とき)(ころ)して(もら)はなんだのだ。035ヤツパリ貴様(きさま)(いのち)(をし)いのだらう』
036タール『馬鹿(ばか)()ふな。037貴様(きさま)()げるものだから朋友(ほういう)義務(ぎむ)(おも)んじて、038附合(つきあひ)()げてやつたのだ。039何程(なにほど)天国(てんごく)がよいと()つても、040ハムのやうな(やつ)(ころ)されてはたまらぬからな。041たつた(いつ)ぺんより()(こと)出来(でき)(いのち)を、042アテーナの女神(めがみ)(やう)なクヰン(さま)御手(おて)(かか)つて()ぬのならば()んでも(めい)するが、043ゲヂゲヂのやうに世間(せけん)から(いや)がられてる鬼面(おにづら)のハムの()にかかるこたア、044何程(なにほど)()(ずき)(おれ)だつて真平(まつぴら)御免(ごめん)(かうむ)りたいワイ。045アーアま一度(いちど)女神(めがみ)御顔(おかほ)(をが)みたくなつて()たワイ』
046レーブ『()アサンの御顔(おかほ)如何(どう)だ。047万々一(まんまんいち)あのクヰンさまがお(まへ)女房(にようばう)になつてやると仰有(おつしや)つたら、048()アサンもキツとお添物(そへもの)()()るに(ちがひ)ないが、049(その)(とき)にや貴様(きさま)如何(どう)する(つもり)だ』
050タール『()アサンだつて(をんな)だよ、051あんな(むすめ)()んだ(くらゐ)だから、052(わか)(とき)非常(ひじやう)なナイスに(ちがひ)ない、053(むかし)のナイスだと(おも)へば(あま)気分(きぶん)(わる)いこたアない(こと)はないワイ。054ウツフヽヽヽ』
055レーブ『コリヤ(しづか)にせい。056ハムの(やつ)057(こゑ)()きつけてやつて()やがつたら、058それこそ大変(たいへん)だぞ。059(おれ)(いのち)今度(こんど)()るに(ちがひ)ない、060(あま)両人(りやうにん)()ひすぎたからなア、061大変(たいへん)(おこ)つてけつかるに(ちがひ)ないから、062マア(しばら)沈黙(ちんもく)(まく)をおろして、063潜航艇(せんかうてい)のやうに(ほこら)床下(ゆかした)にでも伏艇(ふくてい)して()らうぢやないか』
064 かかる(ところ)足音(あしおと)(たか)くスースーと(いき)をはずませやつて()たのはハムである。065ハムは(ほこら)(まへ)置石(おきいし)(こし)(うち)かけて独言(ひとりごと)をいつてゐる。
066ハム『アーア、067(なん)といふ今日(けふ)怪体(けつたい)()だらう。068天女(てんによ)のやうなナイスがやつて()やがつて、069無限(むげん)(ちから)をあらはし、070おれたち三人(さんにん)(ねこ)(かへる)(くは)へたやうに、071ポイと谷底(たにそこ)()げこみ、072サツサと()つて(しま)ひやがつた。073空中(くうちう)七八回(しちはちくわい)廻転(くわいてん)したと(おも)へば、074真綿(まわた)のやうな(すな)(うへ)へドスンと(おと)され、075(しばら)くは()(とほ)くなつてゐたが、076(やうや)くにして()がつき起上(おきあが)らうとすれ(ども)077(こし)(ほね)如何(どう)なりよつたか、078チーツとも(うご)けないので自然(しぜん)療治(れうぢ)()つてゐると、079そこへレーブ、080タールの無情漢(むじやうかん)()がやつて()て、081(おれ)水葬(すゐさう)するの、082二人(ふたり)(たす)けてやるのと、083(ほざ)いてゐやがる。084()しからぬ(こと)(ぬか)(やつ)(はら)()つて(たま)らず、085(こし)(いた)みも打忘(うちわす)れて()(あが)るや(いな)や、086二人(ふたり)(やつ)ア、087(くも)(かすみ)()げて(しま)ひよつた。088モウ大分(だいぶ)()きよつただらう。089イール、090ヨセフの両人(りやうにん)をまだ(ぬく)みがあるので()(かへ)らしてやらうと(おも)ひ、091いろいろ介抱(かいほう)してると、092(なん)とも()れぬ(はら)(えぐ)るやうな(こゑ)で、093宣伝歌(せんでんか)(うた)うて()(やつ)がある。094此奴(こいつ)ア、095キツと最前(さいぜん)母娘(おやこ)(もの)身内(みうち)(ちがひ)ない、096グヅグヅしてると大変(たいへん)(やうや)此処(ここ)までやつて()たが(また)もや(こし)(いた)一歩(いつぽ)(ある)けぬやうになつて(しま)つた。097ヤレ(うれ)しやと()がゆるんだが(くち)(ばか)達者(たつしや)身体(からだ)がサツパリ(うご)かぬ。098アヽ如何(どう)したら()からうかな。099もしや最前(さいぜん)宣伝使(せんでんし)がやつて()よつたら、100又候(またぞろ)谷底(たにそこ)()られて今度(こんど)こそ(いのち)終末(しうまつ)だ、101アーア、102バラモン(けう)大神様(おほかみさま)103(わたし)はお(みち)(ため)にやつた(こと)(ござ)いますから、104仮令(たとへ)少々(せうせう)不調法(ぶてうはふ)(ござ)いましても(ひろ)(こころ)見直(みなほ)して(この)足腰(あしこし)(はや)()てて(くだ)さいませ、105(ねがひ)(いた)します』
106涙声(なみだごゑ)になつて(いの)()した。107レーブ、108タールの二人(ふたり)(ほこら)床下(ゆかした)から(この)独言(ひとりごと)をスツカリ()いて(しま)ひ、109(たがひ)(した)()してニタツと(わら)ひ、110(なに)(うなづ)()うてゐる。
111 (にはか)河鹿川(かじかがは)谷底(たにそこ)から濛々(もうもう)として灰色(はひいろ)(きり)立昇(たちのぼ)り、112あたりを(つつ)んで(しま)つた。113最早(もはや)一足先(ひとあしさき)()えなくなつた。114二人(ふたり)はこれ(さいは)ひと(ほこら)床下(ゆかした)から()()した。
115 ハムは苦痛(くつう)益々(ますます)(はげ)しくなつたと()え、116ウンウンと(うな)()し、117(つひ)には、
118『アヽ(くる)しい(くる)しい』
119()をもがく様子(やうす)が、120(きり)(とほ)してボンヤリと()えて()た。121ハムは二人(ふたり)のここに()ることは(ゆめ)にも()らなかつた。122(ただ)宣伝使(せんでんし)一行(いつかう)()ひかけて()はせまいかと、123それのみが(おそ)ろしくて(ふる)ふてゐたのである。
124 レーブは(ばば)アの(つく)(ごゑ)になつて、
125(この)(ほこら)(まへ)卑怯(ひけふ)未練(みれん)にも、126八尺(やさか)(をとこ)()(づら)をかわき、127(なに)をグヅグヅといつてゐるのだ。128わしは河鹿峠(かじかたうげ)でお(まへ)谷底(たにそこ)()()んだ黄金姫(わうごんひめ)だよ。129モウ今頃(いまごろ)十万億土(じふまんおくど)(たび)をしてゐるかと(おも)うたに、130またこんな(ところ)(まよ)うて()たのか、131ヨモヤ幽霊(いうれい)ではあるまい。132(くちなは)生殺(なまごろ)しにしておいても、133ハムも可哀想(かあいさう)だから、134スツパリと(ころ)してやらねばなるまい。135ここに(とが)つた(いは)がある。136コレ清照姫(きよてるひめ)137(まへ)二人(ふたり)彼奴(あいつ)徳利(とくり)(たた)きわつてやりませうか。138(さけ)(かは)りに(あか)()()るだらうから、139それを(さけ)(かは)りに()んでみたら随分(ずゐぶん)(うま)からう、140大分(だいぶ)(なが)らく人間(にんげん)()()はなかつたが、141大変(たいへん)()獲物(えもの)ぢや、142かうして黄金姫(わうごんひめ)()けてゐるのも随分(ずゐぶん)(つら)いものぢや。143アヽ(かみ)さまは結構(けつこう)飲食(おんじき)(あた)へて(くだ)さる、144臀部(でんぶ)あたりは随分(ずゐぶん)ポツテリと(にく)がついて()るから、145スキ(やき)にして()へば大変(たいへん)(あぢ)()いのだけれど、146(なに)()うても道中(だうちう)(こと)だから、147(この)(かたな)一片々々(ひときれひときれ)ゑぐつて(なま)()うた(はう)(あぢ)がよからうぞや。148オツホヽヽヽ』
149 タールは(わか)女子(をなご)(こゑ)で、
150『お()アさま、151本当(ほんたう)にお(なか)()いて、152(この)鬼娘(おにむすめ)(こま)つて()りました。153これも(まつた)鬼雲彦(おにくもひこ)さまの大黒主(おほくろぬし)(あた)へて(くだ)さつたのでせう。154今日(けふ)三年(さんねん)蜈蚣姫(むかでひめ)さま、155小糸姫(こいとひめ)さまの所在(ありか)(たづ)ねると()つて、156手当(てあて)ばかりをボツタくり、157チツとも()ざましい仕事(しごと)(いた)さぬので(ばち)(あた)り、158鬼雲彦(おにくもひこ)さまがキツと吾々(われわれ)母娘(おやこ)(ひさ)しぶりで(あた)へて(くだ)さつたのでせう。159どうもグリグリした(いや)らしい目玉(めだま)だから、160あの()から(さき)にゑぐり()してやりませうか、161ホツホヽヽヽ。162なんと(うま)さうな(にほ)ひが(いた)しますこと、163(おに)時々(ときどき)こんな(こと)()ければやり()れませぬワ。164イツヒヽヽヽ』
165 (もや)(つつ)まれて(こゑ)のみより(きこ)えぬので、166ハムは以前(いぜん)母娘(おやこ)はヤツパリ(おに)であつたか、167コリヤたまらぬ……と()()さうとすれ(ども)168(こし)(いた)み、169(あし)()え、170ビクとも(うご)かれない。171とうとうハムは泣声(なきごゑ)()して、
172『モシモシ(おに)母娘(おやこ)(さま)173どうぞ今日(けふ)(ばか)りは(をし)(いのち)をお(たす)(くだ)さいませ。174(わたし)鬼雲彦(おにくもひこ)さまの家来(けらい)(ござ)います。175(わたし)のやうな(もの)をおあがりになつては、176(かへつ)てあなたの(つみ)になり鬼雲彦(おにくもひこ)さまからお(とが)めの(ほど)(おそ)ろしう(ござ)いませう。177味方(みかた)味方(みかた)()ふといふ(こと)はあり()(べか)らざる(ところ)178どうぞ今日(けふ)(ところ)御無礼(ごぶれい)をお(ゆる)(くだ)さいまして、179(いのち)(ばか)りはお(たす)けを(ねが)ひます』
180タール『ホツホヽヽヽあのハムの白々(しらじら)しい言葉(ことば)181コレ鬼婆(おにば)アさま、182何事(なにごと)(みみ)をふたして()つてやりませうか。183鬼雲彦(おにくもひこ)さまだつて、184こんな(ところ)までお()(とど)道理(だうり)もなし、185(あたま)からスツカリ()つて雪隠(せんち)饅頭(まんぢう)()つたやうな(かほ)さへして()ればメツタに(わか)りはしませぬ。186(さいは)山中(やまなか)(こと)とて誰一人(たれひとり)()()(おに)もなし、187こんな機会(きくわい)はありませぬ。188あゝモウたまらぬたまらぬ、189(なん)ともいへぬ(うま)さうな(ひと)(にほ)ひだ。190ナア鬼婆(おにば)アさま、191グヅグヅしてゐると三五教(あななひけう)宣伝使(せんでんし)()たら大変(たいへん)です』
192 ハムはあわてて、
193『モシモシ鬼婆(おにば)アさまに鬼娘(おにむすめ)さま、194そりや(あま)りお胴欲(どうよく)ぢや。195味方(みかた)味方(みかた)(ころ)すといふ(こと)がどこにありますか。196(わたし)をバラモン(けう)同士(どうし)のよしみで(たす)けて(くだ)さいな』
197タール『ホツホヽヽヽ鬼婆(おにば)アさまあれをお()きなさいませ。198あんな勝手(かつて)(こと)()ひます、199味方(みかた)(なか)にも(てき)があるといふぢやありませぬか。200(この)ハムといふ(やつ)201味方(みかた)(なか)(てき)ですから、202(なん)容捨(ようしや)もいりますまい、203(わか)つた(ところ)御褒美(ごほうび)こそ(いただ)け、204鬼雲彦(おにくもひこ)さまからお叱言(こごと)(いただ)気遣(きづかひ)はありませぬ。205此奴(こいつ)同類(どうるゐ)にレーブ、206タールと()(やつ)があつて、207最前(さいぜん)()アさまと(わたし)二人(ふたり)して谷底(たにそこ)()()んでやつたイール、208ヨセフ()三人(さんにん)(いのち)(たす)けにはるばる谷底(たにそこ)(たづ)()き、209(おな)味方(みかた)であり(なが)(この)ハムだけは悪人(あくにん)だから(たす)けてやらぬ(はう)がよからう、210(にく)まれ()()にはばると()つて、211どうにもかうにも仕方(しかた)のない(やつ)だと、212(げん)此奴(こいつ)部下(ぶか)でさへも()つてゐた(くらゐ)だから、213()つた(ところ)でメツタに(ばち)(あた)りませぬ、214のうレーブよ……オツトドツコイ鬼婆(おにば)アさま』
215レーブ『コリヤ心得(こころえ)てものを()はぬかい、216ハム(こう)(やつ)217(さと)つたら折角(せつかく)狂言(きやうげん)(みづ)(あわ)になるぢやないか』
218タール『ナーニ(さと)つたつて(かま)ふものか、219ハムは足腰(あしこし)()たぬのだから、220鬼婆(おにばば)でなくても鬼娘(おにむすめ)でなくても、221あの一升徳利(いつしようどくり)をカチわつて、222生血(なまち)(しぼ)()し、223臀肉(けつにく)でも()うてやれば()いのだ。224サアサア、225(はや)いがお(とく)だ、226グヅグヅしてると、227三五教(あななひけう)宣伝使(せんでんし)にでも()つかつたら大変(たいへん)だぞ』
228ハム『モシモシ鬼婆(おにば)アさま、229鬼娘(おにむすめ)さま、230そんなレーブやタールに()けたつて駄目(だめ)です。231(わたし)はそんな(こと)(だま)されるやうな善人(ぜんにん)では(ござ)いませぬ、232悪人(あくにん)でも(ござ)いませぬワイ。233どうぞ今日(けふ)(だけ)()よう()のがして(くだ)さいな、234これ(だけ)脛腰(すねこし)()たぬやうな(もの)自由(じいう)にするのなら、235()()でも(いた)しますぞや。236弱味(よわみ)につけ()んでそんな(こと)をなさると、237鬼婆(おにば)アさま沽券(こけん)(さが)ります、238モツト負惜(まけをし)みの(つよ)代物(しろもの)の、239レーブ、240タールが(いま)(この)(さき)()げましたから、241彼奴(あいつ)(わたくし)(ちが)つて肉付(にくづき)もよし()沢山(たくさん)(ござ)います。242どうぞ今日(けふ)彼奴(あいつ)をきこしめし、243(わたくし)(おや)命日(めいにち)だから(ゆる)して(くだ)さい。244冥土(めいど)御座(ござ)父母(ちちはは)がどれ(だけ)(なげ)(こと)()れませぬ。245アンアンアン オンオンオン』
246(おほかみ)のやうに()()した。
247レーブ『(その)レーブ、248タールといふ(やつ)は、249貴様(きさま)より善人(ぜんにん)悪人(あくにん)か、250それを()かして()れ』
251ハム『ハイハイ()かせます(とも)252(わたくし)(ただ)職務(しよくむ)忠実(ちうじつ)部下(ぶか)(きび)しく使(つか)ひますものだから、253悪人(あくにん)にしられて()るのです。254そして地位(ちゐ)(たか)いものですから、255猜疑心(さいぎしん)(おこ)して、256(なん)とかかんとか悪評(あくひやう)()てられてるので、257(けつ)して世間(せけん)()うてるやうな悪人(あくにん)ぢや(ござ)いませぬ。258あなたも(おに)さまなら、259よく(わたし)(はら)(そこ)(わか)りませう。260善人面(ぜんにんづら)をして(ある)いてる(やつ)にロクな(やつ)ア、261(いま)時節(じせつ)にや(ござ)いませぬ。262レーブ、263タールの(ごと)きは、264(じつ)現代(げんだい)思潮(してう)悪方面(あくはうめん)遺憾(ゐかん)なく具備(ぐび)した(やつ)ですから、265まだ(とほ)くも()きますまい。266(この)(さき)あたりにマゴついてるに(ちがひ)ないから、267彼奴(あいつ)(ひと)カブリ カブつてやつて(くだ)さい、268(さう)すりや(おに)さまのお役目(やくめ)もつとまり、269(この)()(なか)から(あく)断片(だんぺん)取除(とりのぞ)かれるといふもの、270(わたくし)のやうな腰抜(こしぬけ)(しな)びた善人(ぜんにん)駄目(だめ)ですよ。271どうぞなる(こと)ならば、272レーブ、273タールを()つかけて(くだ)さい』
274レーブ『()鬼婆(おにばば)アは悪人(あくにん)(ほね)がこわいから(いや)だ、275(まへ)のやうな善人(ぜんにん)()ひたくて(さが)してゐたのだよ。276人間(にんげん)()つて()はうと(おも)へば世界(せかい)(はま)真砂(まさご)ほどあるが、277()(あぢ)のよい善人(ぜんにん)がないから、278かうして母子(おやこ)(おに)がひもじい(はら)(かか)へてそこら(ぢう)をウロついてゐるのだ。279善人(ぜんにん)()けばどうしても()はずに()られぬ。280コレ鬼娘(おにむすめ)今日(けふ)(なん)といふ吉日(きちじつ)だらう』
281タール『本当(ほんたう)鬼婆(おにば)アさまの仰有(おつしや)(とほ)り、282こんな(うれ)しい(こと)(ござ)いませぬワ。283善人(ぜんにん)(すくな)()(なか)にハムのやうな善人(ぜんにん)()つかつたのは、284掃溜(はきだめ)(さが)してダイヤモンドを(ひろ)つたやうなものだ。285これを()はいで(なに)()ひませう』
286ハム『モシモシ(わたくし)()(ちがひ)(ござ)います。287ハムは天下一品(てんかいつぴん)大悪人(だいあくにん)(ござ)います。288本当(ほんたう)善人(ぜんにん)といつたら、289タール、290レーブの両人(りやうにん)(ござ)います。291最前(さいぜん)(まへ)さまが、292ハム、293イール、294ヨセフの三人(さんにん)谷底(たにそこ)()()みなさつた(とき)295三人(さんにん)(もの)はすでに縡切(ことき)れむとする(ところ)296危険(きけん)(をか)してあの谷川(たにがは)(わた)り、297御親切(ごしんせつ)三人(さんにん)(たす)けてやらうとした大善人(だいぜんにん)(ござ)いますから、298キツと()(あぢ)もよく、299たべ具合(ぐあひ)(よろ)しいに(ちがひ)はありませぬ。300善人(ぜんにん)(あぢ)がよければ彼等(かれら)両人(りやうにん)(かぎ)ります。301(わたくし)のやうな(もの)をおあがりになつても(すな)をかむやうなものですから、302どうぞこんなガラクタに()をくれず、303天下一品(てんかいつぴん)彼等(かれら)善人(ぜんにん)(はや)()つかけなさいませ。304グヅグヅしてるとどつかへ沈没(ちんぼつ)して(しま)ひます』
305レーブ『(この)鬼婆(おにばば)アは時々(ときどき)(むし)(かは)つて刹那(せつな)々々(せつな)()持方(もちかた)(ちが)つて()る。306最前(さいぜん)善人(ぜんにん)()ひたいと(おも)うたが、307(あま)()ごたへがないから、308(ひと)天下一品(てんかいつぴん)大悪人(だいあくにん)たるお(まへ)()つてみたいのだ。309サア覚悟(かくご)をしたがよからう、310念仏(ねんぶつ)でも(まを)さいのう。311オツホヽヽヽウツフヽヽヽ足腰(あしこし)()たずに(くち)(ばか)達者(たつしや)なハムも()(どく)なものだ。312(この)(とほ)(きり)四方(しはう)()ちこめ、313日輪(にちりん)さまの御光(おひかり)()くなれば、314(おに)得意(とくい)時代(じだい)だ。315(この)()名残(なご)りにモ一度(いちど)日輪様(にちりんさま)御光(おひかり)()せてやりたいは山々(やまやま)なれど、316そしては此方(こちら)(はたら)きが出来(でき)ぬ。317サア、318タール、319オツトドツコイ鬼娘(おにむすめ)320一層(いつそう)(こと)()つてやらうかい』
321 かく()(うち)322サツと吹来(ふきく)山嵐(やまあらし)灰色(はひいろ)(きり)はガラリと()れて、323三人(さんにん)姿(すがた)はハツキリと(わか)つて()た。
324レーブ『アツハヽヽヽ、325とうとう()けが(あら)はれた。326オイ、327ハム、328貴様(きさま)随分(ずゐぶん)よい腰抜(こしぬけ)だなア。329サア二人(ふたり)(あと)()ひかけて()よ。330腰抜(こしぬけ)分際(ぶんざい)としてメツタに()つかける(わけ)には()くまい』
331ハム『(なん)だ、332いらぬ心配(しんぱい)をさせやがつて、333(おぼ)えてけつかれ、334(いま)(かたき)()つてやるから』
335安心(あんしん)腹立(はらだち)一緒(いつしよ)になつてハムは(こし)(いた)みも(あし)(なや)みも(わす)れ、336スツクと立上(たちあが)つた。337二人(ふたり)(きも)(つぶ)し『此奴(こいつ)アたまらぬ』と細谷道(ほそたにみち)をバラバラと(いのち)(かぎ)りに何処(いづこ)となく駆出(かけだ)()げて()く。
338大正一一・一〇・二二 旧九・三 松村真澄録)