第一〇章 狼の岩窟〔一一一四〕
インフォメーション
著者：出口王仁三郎
巻：霊界物語 第41巻 舎身活躍 辰の巻
篇：第2篇 神機赫灼
よみ（新仮名遣い）：しんきかくしゃく
章：第10章 狼の岩窟
よみ（新仮名遣い）：おおかみのいわや
通し章番号：1114
口述日：1922（大正11）年11月11日（旧09月23日）
口述場所：
筆録者：松村真澄
校正日：
校正場所：
初版発行日：1924（大正13）年6月15日
概要：
舞台：
あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です（一部加筆訂正してあります）。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]：イルナの都から四五里ほど離れたところに高照山という高い山脈が横たわっている。イルナの都に行くためには、この山を越す必要があった。高照山は昔、大洪水があったときに高照姫命が天降り給いて国人をその頂に救った因縁があった。
この山の峠は照山峠といった。今より十万年以前に世界的な大地震があり、ハルナの都は海底深く沈没してしまった。今のボンベイは、その時代の大雲山の頂に当たっている。
照山峠の二三里右手に、狼の岩窟があり、恐ろしい狼が群れて闊歩し、人間の侵入を許さない場所であった。黄金姫と清照姫は、イルナの森の手前から狼に誘われて、この岩窟に進み入ることになった。
二人は狼の歓呼の声に迎えられ、狼王の大岩窟に進み入った。岩窟の中は広く美しく、天国の宮殿のようであった。母娘は案に相違しながら狼に導かれて奥に進むと、そこには白髪異様の老人が美しい姫神とともに端座して狼に何事かささやいている。
母娘がよくよく見れば、三五教の宣伝使・天の目一つ神（北光神）と竹野姫の夫婦であった。黄金姫は、北光神夫婦がどうしてこのようなところに立て籠もっているのか尋ねた。
北光神は、神素盞嗚尊より猛獣を済度するようにと命じられたのだと答えた。竹野姫は、狼を使いとして母娘をここへ呼んだのは、イルナの国で大黒主の一派・右守のカールチンの陰謀を打ち破ってもらいたいためだ、と明かした。
イルナのセーラン王の一族を誘い出し、この狼の岩窟に一時かくまう必要があり、その役目を母娘に託したいのだという。母娘は任務を承諾した。
竹野姫は、任務中は狼の眷属が二人を守るであろうと告げた。また道中左守の娘・ヤスダラ姫の一行に会うだろうと告げ、一行中の竜雲に、北光神が岩窟で待っていると伝言してほしいと依頼した。
黄金姫母娘と北光神夫婦は互いに宣伝歌、和歌を交わして任務の成功を祈願した。黄金姫母娘は元来た道を引き換えし、狼の眷属に守られつつ峠を越えてイルナの都に進むことになった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]：
備考：
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データ凡例：
データ最終更新日：2022-12-12 12:15:54
OBC ：rm4110
愛善世界社版：142頁
八幡書店版：第7輯 582頁
修補版：
校定版：148頁
普及版：69頁
初版：
ページ備考：
001 入那の都より四五里を隔てたる所に高照山といふ高山脈が横はつてゐる。002イルナの都へ行くには如何しても此山を越さねばならぬ。003昔大洪水のあつた時、004高照姫命が天降り給ひて、005国人を此高山の頂に救はれた因縁に依つて今尚高照山と称へられてゐるのである。006此峠を照山峠と称へられてゐる。007今より十万年以前に世界的大地震があつて、008今の印度は非常な高原地であつたのが、009大に降下して了つたものである。010ハルナの都も今は孟買となつてゐるが、011今の孟買は丁度其時代の大雲山の頂に当つてゐる。012ハルナの都は海底深く沈没して了つた。013故に今日の地理学、014地質学より見れば、015大変に此物語は相違する点の多々あるは言を俟たない次第である。
016 照山峠の二三里右手に当つて、017狼の岩窟といふのがある。018ここには実に恐ろしき狼の群が天地を我物顔に横行闊歩して、019人間の一歩も其地点に踏み入る事を許さない狼窟であつた。020黄金姫、021清照姫はイルナの森の少しく手前から狼の群に誘はれて、022此狼の岩窟に進み入る事となつた。023（狼とは食人種の別称）
024 噂に聞く恐ろしき狼の棲処とは言ふものの、025母娘両人が宣伝歌を歌ひながら、026狼につれられて山深く進み入ると、027幾千万とも限りなく、028狼軍は細谷路の傍に列を作り、029ウーウーと歓呼の声を放ち、030二人の入り来るをば嬉しげに待ち迎へてゐる。031母娘はあたりに心を配りながら、032漸くにして狼王の棲息せる大岩窟に進み入つた。
033 岩窟の中は大変に広く且つ美しく、034所々に金、035銀、036瑪瑙、037しやこ、038瑠璃などが光つてゐる。039其美はしさ、040恰も天国の宮殿に進み入つた如き感じがした。041母娘は案に相違しながら狼に導かれて奥深く進み入ると、042そこに白髪異様の老人が美はしき姫神と共に端坐し、043何事か狼に囁いてゐる。044狼はよく人語を解するものの如くであつた。045母娘は怪しみながら老人の側近く寄り見れば、046豈図らむや三五教の宣伝使、047天の目一つ神夫婦である。
048 黄金姫は打驚き、049頓狂な声を出して、
050黄金姫『ヨウ、051貴方は北光の神様では厶いませぬか。052珍しい所でお目にかかりました。053どうしてマア斯様な狼窟へ御夫婦とも御立籠になつてゐられますか』
054北光神『神素盞嗚尊より、055汝は神変不思議の神力を得たれば、056最早人間界を済度するには及ばぬ。057人間界は他の宣伝使にて事足れば、058汝は之より猛獣の棲処に進み入り、059彼等憐れなる獣類の霊を済度し、060向上せしめ、061生を変へて人間と生れしむべく、062恵の露を施せよとの御命令、063謹んで承はり、064とうとう今は鷹依姫、065竜国別さまのやうに、066猛獣の王となりましたよ。067アハヽヽヽ』
068黄金姫『何とマア大神様の御仁慈は、069禽獣まで及ぼすとはここの事で厶いますなア。070私等母娘、071入那の森を越えて都へ進まむとする折しも、072数十頭の狼現はれ来り、073吾等母娘の袖を喰へ無理に引張りますので、074何事か神様の思召ならむと、075ここ迄狼にひかれて岩窟参りをやつて来ました。076オホヽヽヽ』
077竹野『貴女は三五教にて御名の高き黄金姫の神司で厶いましたか、078お若いのは清照姫様で厶いますか。079世の為道の為、080御苦労さまで厶いますなア』
081黄金姫『ハイ有難う厶います。082貴女は黄泉比良坂に於て桃の実と仕へ給うた竹野姫様で厶いましたか。083御高名は承はり、084一度拝顔を得たしと明暮れ祈つてゐましたが、085これは又思はぬ所で拝顔を得ました。086何分身魂の曇つた吾々母娘、087どうぞお叱りを願ひます』
088竹野姫『御鄭重な御挨拶、089痛み入ります。090どうぞ何分にも宜しく御交際を願ひます』
091北光『貴女は玉山峠に於て、092狼に救はれたでせう』
093黄金『ハイ左様で厶います、094貴方それを御存じで厶いますか』
095北光神『狼共の注進により、096貴女の危急を救ふべく、097一小隊ばかり繰出しました、098アハヽヽヽヽ』
099黄金姫『それは御親切に能う救うて下さいました。100吾々は未だ人間心がぬけませぬので、101猛獣迄もなづけることは出来ませぬ。102又獣の言を解する事も出来ない困つた女で厶います。103かやうな身魂を以て宣伝使とは実にお恥しう厶います』
104北光神『貴女をここへお招きしたのは外では厶いませぬ。105実は貴女はハルナの都へお越し遊ばす事になつて居りますれども、106それ以前に一つ、107不思議な働きをして頂かねばなりませぬから、108狼を遣はして、109右の手続きを取つたので御座います。110実はイルナの国にバラモン教の神司兼刹帝利なるセーラン王の部下にカールチンといふ心汚き右守があつて、111ハルナの都の大黒主と諜し合せ、112セーラン王を打亡ぼし、113自ら刹帝利の位地に進まむと致して居ります。114就いてはハルナの都より数千騎を以て、115近々にセーラン王の館へ攻めよせ来る筈なれば、116貴女は之よりイルナ城に進み入り、117セーラン王其他一族を誘ひ出し、118此狼の岩窟へ迎へとり、119徐に右守の陰謀を打破つて貰ひたい。120其為に貴女を御苦労になつたのです』
121と始めて狼の迎へに来た理由を物語る。
122黄金姫『委細承知致しました。123左様ならば母娘両人が之よりイルナ城へ進みませう。124何卒御保護を願ひます』
125北光神『眷族共を数多従へさせますれば御安心下さいませ。126併しながら狼といふ奴は屋外の守護にはなりますが、127屋内へ這入れば少しも働きの出来ない奴ですから、128どうぞ気をつけて行つて下さい。129貴女は途中に於て、130竜雲を始め、131ヤスダラ姫にキツト会ふでせう。132北光の神が待つてゐたと言つて下さい』
133 黄金姫は目を丸くし、
134黄金姫『ナニ竜雲と仰有るのは、135セイロン島に於て謀叛を企んだ妖僧では厶いませぬか』
136 北光の神ニツコと笑ひ、
137北光神『左様で厶る。138如何に悪人なればとて改心した上は尊き神様の御子。139今は修行の為、140月の国七千余国を巡礼させてありますが、141時々狼の眷族をさし遣はし、142竜雲を守らせ、143又竜雲より絶えず手紙を眷族に持たせて送つて来ます。144実に狼と雖も、145なづいたら重宝なものですよ。146アハヽヽヽ』
147黄金姫『丁度吾々母娘のやうなものですなア。148私も蜈蚣姫といつた頃は、149随分大神様の教に敵対ひ、150黄金の玉を盗みなどして、151悪の限りを尽して来ましたが、152改心の結果、153かやうな尊き宣伝使に採用されましたのですから、154実に神様の御仁慈は、155言葉に尽すことが出来ませぬ』
156と声まで曇らせてホロリと涙を落し、157さし俯むく。
158清照姫『北光の神様、159どうぞ清照も御守護をして下さいませや。160キツト御使命は果しますから。161竹野姫様、162宜しく御願ひ致します』
163竹野姫『何と凛々しい清照姫様の御姿、164どうぞ男の難に会はないやうに気をつけて下さいませ。165貴女も一度御経験が御有りなさるのですからなア』
166 清照姫は少しく頬を赤らめて差俯むくしほらしさ。167北光の神は母娘の首途を祝すべく、168音吐朗々として宣伝歌を歌ひ始むる。
169北光神『神の御稜威も高照の 170山奥深く築かれし 171狼達の岩窟に 172教を開く宣伝使 173北光彦や竹野姫 174黄金姫や清照姫の 175貴の命の首途を 176祝して清き宣伝歌 177謹み敬ひ宣べ立つる 181秋の草野の色深き 182黄金姫や清照姫の 183貴の命の御使に 184仁慈無限の大神の 186眷族共に守らせて 189皇大神の御言もて 190天の目一つ神司 191竹野の姫と諸共に 192汝が命に打向ひ 194言向和す出陣を 195神に代りて宣べ伝ふ 196朝日は照るとも曇るとも 198仮令大地は沈むとも 200皇大神の守ります 203悪逆無道の神司 212大黒主は名にし負ふ 213八岐大蛇の生宮と 216容易に亡ぼす術もなし 218彼等が自ら弱りはて 219悔悟の念の起るまで 222王をば救ひ一族を 228海の彼方に追ひちらし 231時の力は天地を 232造り給ひし大神も 233左右し給ふ事ならず 234ここの道理を聞き分けて 235慌てず騒がず悠々と 236時節を待つて曲神を 237言向け給へ惟神 238神に代りて北光の 239神の司が宣べ伝ふ
242 竹野姫は又黄金姫母娘の首途を祝し、243宣伝歌を歌ふ。
244竹野姫『鬼熊別が妻司と 245現はれ給ひし蜈蚣姫 246心の暗の戸押し開き 247真如の月の御光に 248照らされ給ひ三五の 250名さへ目出度き黄金姫の 254小糸の姫も今は早 259曇は晴れて大空の 262神素盞嗚大神の 263御言畏み秋の空 264草鞋脚絆に身をかため 265心も軽き蓑笠の 267思へば思へば三五の 268尊き神の御教に 269魔司は忽ち善となり 273黄金姫よ清照姫の 274貴の命よ汝は今 276我情我慢の雲を去り 277仁慈無限の大神の 280無抵抗主義を発揮して 285禽獣虫魚を助くるは 286慈悲の心に及ぶまじ 287慈悲博愛を禽獣に 288及ぼし救ふ神心 291神に祈りて竹野姫 292汝が命の出陣に 293際して忠告仕る 295守らせ給へ天津神 296国津神たち八百万 297母娘二人の成功を 298指折り数へ待ち暮らす 299竹野の姫の志 302成功祈り奉る』
303と歌ひ了り、304神殿の神酒を下げ来りて、305母娘に戴かせ、306首途を送る。307黄金姫は簡単に三十一文字を以て答礼に代ふ。
308黄金姫『北光の神の命や竹野姫
309その宣言を固く守らむ。
310世を救ふ心のたけの清ければ
311世に恐るべき曲はあるらめ。
312いざさらばこれより進み入那国
313セーラン王を守り助けむ』
314清照『二柱神の御言を畏みて
315母娘は心勇みて行かむ。
316狼の御供の司に守られて
317入那の国に進む嬉しさ。
318北光の神の命よいざさらば
319待たせ給へよ帰り来る日を。
320竹野姫神の命に物申す
321汝が背の君をよく守りませ』
322 竹野姫は之に答へて、
323竹野姫『大神の御稜威も空に高照の
324イルナに進む人ぞ尊き。
325北光の神の司は生神よ
326今日は岩窟に明日は入那に』
327黄金『いと清き神の司の御教に
328われは進みて都に上らむ。
330神の大道に仕へ給はれ』
331 かく歌ひ、332別れを告げて再び身づくろひをなし、333黄金姫、334清照姫は狼に送られ、335急坂を勇み進んで下り、336山口に出で、337再び元来し道に引返し、338照山峠を越えて入那の都に進むこととはなりぬ。
339（大正一一・一一・一一 旧九・二三 松村真澄録）
霊界物語.ネット～出口王仁三郎 大図書館～