霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一三章 軍談(ぐんだん)〔一一六四〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第43巻 舎身活躍 午の巻 篇:第4篇 愛縁義情 よみ:あいえんぎじょう
章:第13章 軍談 よみ:ぐんだん 通し章番号:1164
口述日:1922(大正11)年11月28日(旧10月10日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年7月25日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる] 主な登場人物: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:
愛善世界社版:199頁 八幡書店版:第8輯 100頁 修補版: 校定版:209頁 普及版:84頁 初版: ページ備考:
001 数十年(すうじふねん)雨風(あめかぜ)(もてあそ)ばれて、002屋根(やね)飛散(とびち)(はしら)(ゆが)み、003()るかげもなき古祠(ふるほこら)(まへ)に、004薄雲(はくうん)(かぶ)つてボンヤリ輪廓(りんくわく)不明瞭(ふめいれう)(あら)はした(つき)(ひかり)()(なが)ら、005(はなし)(ふけ)七人(しちにん)(をとこ)があつた。006これは勿論(もちろん)治国別(はるくにわけ)007玉国別(たまくにわけ)一行(いつかう)である。
008玉国別(たまくにわけ)治国別(はるくにわけ)さま、009昨日来(さくじつらい)大風(おほかぜ)には随分(ずゐぶん)(なや)みでしたらうなア。010それに(また)バラモン(けう)軍勢(ぐんぜい)がやつて()たので、011一段(いちだん)御骨(おほね)()れたことでせう』
012治国別(はるくにわけ)河鹿峠(かじかたうげ)此方(こちら)(くだ)(をり)しも片彦(かたひこ)013久米彦(くめひこ)軍勢(ぐんぜい)出会(でつくは)し、014()(かく)屈竟(くつきやう)難所(なんしよ)(ぢん)(かま)へ、015(おもむろ)言霊(ことたま)打出(うちだ)した(ところ)016昨日(さくじつ)暴風(ばうふう)木々(きぎ)()()()(ごと)く、017隊伍(たいご)(みだ)し、018這々(はふばふ)(てい)()()つて(しま)ひましたよ。019貴方(あなた)(この)森蔭(もりかげ)(おい)て、020キツと(てき)潰走(くわいそう)待受(まちう)け、021言霊(ことたま)打出(うちだ)しなさるだらう、022両方(りやうはう)より言霊(ことたま)(はさ)(うち)面白(おもしろ)からうと(かんが)へて()りました。023そしてさぞ(ほこら)(もり)(まへ)には沢山(たくさん)帰順者(きじゆんしや)()るだらうと、024イヤもう(たのし)んで(まゐ)りました。025(てき)(この)谷道(たにみち)(とほ)らなかつたですか』
026玉国別(たまくにわけ)『ヤアもう残念(ざんねん)なことを(いた)しました。027神様(かみさま)神罰(しんばつ)(かうむ)り、028大怪我(おほけが)(いた)し、029心気沮喪(しんきそさう)したと()え、030雪崩(なだれ)(ごと)()げくる(てき)無念(むねん)(なが)らも、031(みな)取逃(とりに)がして(しま)ひました』
032治国別(はるくにわけ)『それは(なん)とも仕方(しかた)がありませぬ。033何事(なにごと)神界(しんかい)御都合(ごつがふ)でせう。034(しか)(なが)大怪我(おほけが)をなさつたとは……』
035玉国別(たまくにわけ)『ハイ(さる)(やつ)両眼(りやうがん)をかきむしられ、036一旦(いつたん)失明(しつめい)(いた)しましたが、037有難(ありがた)御神徳(ごしんとく)によつて(やうや)片目(かため)(すく)はれ、038(この)森蔭(もりかげ)休息(きうそく)して頭痛(づつう)()(いた)みの(なほ)るのを()つて()りました』
039治国別(はるくにわけ)『それは(まこと)()(どく)千万(せんばん)040月夜(つきよ)とはいへ、041(あま)りボンヤリとしてゐて、042(かほ)()えませなんだが、043ドレ一寸(ちよつと)()せて(くだ)さい』
044()(なが)ら、045玉国別(たまくにわけ)(かほ)(のぞ)()んだ。
046『ヤア大変(たいへん)だ。047()のまはりがただれて()ります。048余程(よほど)きつく()いたものと()えますなア』
049玉国別(たまくにわけ)吾々(われわれ)(こころ)油断(ゆだん)より(みづか)(わざわひ)(まね)いたのです。050(じつ)宣伝使(せんでんし)として(かほ)がありませぬ』
051治国別(はるくにわけ)『ここでは(なん)だかきまりが(わる)いやうですが、052どこぞ()場所(ばしよ)でゆつくり(はな)さうぢやありませぬか』
053玉国別(たまくにわけ)一町(いつちやう)(ばか)(この)(もり)(のぼ)つて()きますると、054恰好(かつかう)休息所(きうそくしよ)があります。055(じつ)(ところ)今宵(こよひ)(その)森蔭(もりかげ)養生(やうじやう)がてら、056敵軍(てきぐん)(すす)むのを(なが)めて()りました』
057治国別(はるくにわけ)『そんなら、058(その)森蔭(もりかげ)休息所(きうそくしよ)までお(とも)(いた)しませう』
059玉国別(たまくにわけ)(いづ)(また)(てき)残党(ざんたう)通過(つうくわ)するやら、060(ふたた)()(かへ)しに()るやら(わか)りませぬから、061此処(ここ)二人(ふたり)(ほど)見張(みはり)をさしておいて(まゐ)りませうかなア』
062治国別(はるくにわけ)『オイ五三公(いそこう)063(まへ)御苦労(ごくらう)だが、064(この)(ほこら)(まへ)(しばら)関所守(せきしよもり)をやつてくれないか』
065五三公(いそこう)『ハイ承知(しようち)(いた)しました。066玉国別(たまくにわけ)さまの部下(ぶか)(かた)一人(ひとり)拝借(はいしやく)したいものですなア。067なることならば(わたし)()(うま)()伊太公(いたこう)関守(せきもり)(つと)めませう』
068玉国別(たまくにわけ)残念(ざんねん)ながら伊太公(いたこう)貴方(あなた)にお(わた)しする(わけ)には(まゐ)りませぬ』
069五三公(いそこう)(たれ)だつて(おな)じことぢやありませぬか。070(わたし)先生(せんせい)()うして一人(ひとり)留守番(るすばん)をお(めい)じになつたのだから、071貴方(あなた)だつて、072伊太公(いたこう)一人(ひとり)(ぐらゐ)ここにお(のこ)しになつても()かりさうなものですなア』
073道公(みちこう)(じつ)(ところ)伊太公(いたこう)(やつ)074(てき)捕虜(ほりよ)となつて(しま)つたのだ。075これから吾々(われわれ)両人(りやうにん)伊太公(いたこう)取返(とりかへ)しに敵中(てきちう)飛込(とびこ)まふと(おも)つてゐるのだが、076何分(なにぶん)先生(せんせい)()(いた)め、077(あたま)(いた)めて(ござ)るものだから()くことも出来(でき)ず、078()()でないのだ』
079五三公(いそこう)『ヤアさうか、080そりや大変(たいへん)だ。081(おれ)先生(せんせい)(ゆる)しさへあれば伊太公(いたこう)所在(ありか)(たづ)ねに()きたいものだなア』
082治国別(はるくにわけ)『ヤア、083玉国別(たまくにわけ)さま、084伊太公(いたこう)(てき)捕虜(ほりよ)になつたのですか』
085玉国別(たまくにわけ)残念(ざんねん)ながら……』
086治国別(はるくにわけ)『ヤアそりや(こま)つたことが出来(でき)たものだ。087マアマアゆつくりと森蔭(もりかげ)御相談(ごさうだん)(いた)しませう。088そんなら五三公(いそこう)089御苦労(ごくらう)だが、090(まへ)一人(ひとり)ここに関守(せきもり)をやつてゐてくれ』
091五三公(いそこう)『ハイやらぬことはありませぬが、092(なん)だか(わたし)一人(ひとり)()てられた(やう)気分(きぶん)になりますワ。093どうぞ晴公(はるこう)なりと(のこ)して(くだ)さいなア』
094玉国別(たまくにわけ)『イヤ(よろ)しい、095純公(すみこう)此処(ここ)(のこ)して()きませう。096オイ純公(すみこう)097(まへ)御苦労(ごくらう)なれど、098五三公(いそこう)さまと臨時(りんじ)関守(せきもり)(たの)む』
099純公(すみこう)承知(しようち)(いた)しました。100どうしても(わたし)雑兵(ざふひやう)だとみえて、101将校(しやうかう)会議(くわいぎ)参列(さんれつ)(ゆる)されないのですなア、102(てき)(とほ)くに()ひちらし、103(やや)小康(せうかう)()たる(この)場合(ばあひ)104仕方(しかた)がありませぬから、105(わたし)五三公(いそこう)さまと(また)別働隊(べつどうたい)(つく)つて、106将校(しやうかう)会議(くわいぎ)開設(かいせつ)(いた)しませう。107サア、108(りやう)先生(せんせい)(はじ)道公(みちこう)109晴公(はるこう)110万公(まんこう)111ゆつくりと(やす)んでおいでなさいませ』
112玉国別(たまくにわけ)(しつか)(たの)む。113(かは)つたことがあれば()()つて合図(あひづ)をしてくれ』
114純公(すみこう)万事(ばんじ)呑込(のみこ)んで()ります』
115玉国別(たまくにわけ)『そんなら(よろ)しう(たの)む』
116玉国別(たまくにわけ)(さき)()つて、117以前(いぜん)森蔭(もりかげ)(のぼ)つて()く。
118 両宣伝使(りやうせんでんし)(およ)三人(さんにん)()()(うづだか)()んだ(うへ)(みの)()き、119言霊戦(ことたません)状況(じやうきやう)や、120懐谷(ふところだに)遭難(さうなん)顛末(てんまつ)などを(つつ)まず(かく)さず(たがひ)打明(うちあ)けて(だん)()うてゐる。
121 此方(こちら)古祠(ふるほこら)(まへ)122純公(すみこう)123五三公(いそこう)(ちか)西山(せいざん)(かく)れた(つき)見送(みおく)(なが)ら、
124純公(すみこう)『ヤア月様(つきさま)もとうとうアリヨースとお(かへ)(あそ)ばした。125どうも(にはか)山影(やまかげ)(おそ)うて()たと()ふものか、126暗黒界(あんこくかい)になつたぢやないか』
127五三公(いそこう)『どうせお(つき)さまだつて、128(おな)じとこに(とど)まつていらつしやる道理(だうり)がない。129やがて(また)()(ばか)りぢやない、130夜明(よあ)けも近付(ちかづ)いたのだから、131(しばら)くグツとここで(よこた)はり、132バラモン征伐(せいばつ)(ゆめ)でも()ようぢやないか』
133純公(すみこう)『お(まへ)()たけら()てくれ、134関守(せきもり)がそんなことぢや(つと)まらないから、135(おれ)此処(ここ)()をあけて職務(しよくむ)忠実(ちうじつ)(つと)めてゐる。136ヤア言霊戦(ことたません)随分(ずゐぶん)(まへ)疲労(くたび)れただらう、137無理(むり)もない(おれ)(みの)()してやるから、138サア()たり()たり』
139五三公(いそこう)『お(まへ)()られないのは、140(ひと)原因(げんいん)があるのだらう。141伊太公(いたこう)行方(ゆくへ)()にかかつてゐるのだらうがなア』
142純公(すみこう)『それが第一(だいいち)心配(しんぱい)だ。143一秒間(いちべうかん)だつて彼奴(あいつ)(こと)(わす)れやうたつて、144(わす)れられるものか。145(おれ)()うして安閑(あんかん)とここに関守(せきもり)(つと)めてゐるものの、146伊太公(いたこう)はエラい責苦(せめく)()はされてゐるかと(おも)へば、147如何(どう)して(ねむ)ることが出来(でき)ようぞ』
148五三公(いそこう)『アハヽヽヽそれ(ほど)()になるか。149(ひと)一人(ひとり)(くらゐ)如何(どう)なつてもいいぢやないか、150貴様(きさま)さへ安全(あんぜん)にあつたら(なに)よりも大慶(たいけい)だらう。151たつた今迄(いままで)ピチピチして()つた人間(にんげん)()といふ魔風(まかぜ)()かれて、152ウンと一声(ひとこゑ)冥土(めいど)旅立(たびだ)ちする(やつ)もあるのだ。153何程(なにほど)貴様(きさま)がハートに(なみ)()ててもがいた(ところ)如何(どう)する(こと)出来(でき)ぬぢやないか。154そんな(ひと)疝気(せんき)頭痛(づつう)()むやうな馬鹿(ばか)(こと)(おも)はぬが()いぞ。155(しま)ひにや貴様(きさま)(からだ)まで(こは)して(しま)ふぢやないか』
156純公(すみこう)貴様(きさま)余程(よほど)()冷血漢(れいけつかん)だなア。157何程(なにほど)(わが)()大事(だいじ)だといつて、158(とも)危難(きなん)平気(へいき)見遁(みのが)すことが出来(でき)ようかい。159それが朋友(ほういう)義務(ぎむ)だ。160(いな)義務(ぎむ)どころか(なさけ)ぢやないか』
161五三公(いそこう)『さう心配(しんぱい)するな。162伊太公(いたこう)(けつ)して嬲殺(なぶりごろし)になつたり、163虐待(ぎやくたい)されたりするやうな(をとこ)ぢやない。164彼奴(あいつ)じゆん(さい)(をとこ)だから、165そこは(うま)合槌(あひづち)()ち、166(てき)でさへも可愛(かあい)がるやうな交際振(かうさいぶり)発揮(はつき)してゐるよ。167キツと(てき)同情(どうじやう)()けてゐるに(きま)つて()るワ』
168純公(すみこう)『さうだらうかなア、169それが本当(ほんたう)ならば、170(おれ)もチツと(ばか)安心(あんしん)だ』
171五三公(いそこう)伊太公(いたこう)はまた如何(どう)して捕虜(ほりよ)になりよつたのだ。172(その)顛末(てんまつ)をチツと()かして()れないか』
173純公(すみこう)『ウーン、174俺達(おれたち)先生(せんせい)とあの森蔭(もりかげ)休息(きうそく)してゐると、175バラモン(けう)軍勢(ぐんぜい)(この)(ほこら)(まへ)休息(きうそく)人員(じんゐん)点呼(てんこ)までやつてゐやがるぢやないか。176そして素盞嗚大神(すさのをのおほかみ)(さま)征伐(せいばつ)すると()つて、177ヒドイ進軍歌(しんぐんか)(うた)つてゐやがるのだ。178それを()いて吾々(われわれ)三五教(あななひけう)信者(しんじや)如何(どう)して(こら)へて()ることが出来(でき)ようか。179……不意(ふい)()んで()て、180一人(ひとり)(のこ)らず打懲(うちこら)してやらうと(おも)つたが、181何分(なにぶん)先生(せんせい)()(わる)いものだから、182一息(ひといき)(はな)れる(わけ)()かず、183切歯扼腕(せつしやくわん)悲憤(ひふん)(なみだ)(なが)してゐると伊太公(いたこう)(やつ)(たま)りかねて、184金剛杖(こんがうづゑ)縦横無尽(じうわうむじん)打振(うちふ)り、185(いのち)(まと)敵中(てきちう)(ただ)一人(ひとり)()()んだきり、186(かへ)つて()ないのだ。187(じつ)残念(ざんねん)なことをしたワイ。188先生様(せんせいさま)のお()めなさるのも()かずに()つたものだから、189神様(かみさま)(ばち)(てき)(とら)はれよつたのだ。190アヽ(おも)へば(おも)へば(また)(かな)しくなつて()たワイ』
191五三公(いそこう)(なん)とした向意気(むかふいき)(つよ)(をとこ)だらうなア、192後前(あとさき)(かんが)へず、193匹夫(ひつぷ)(ゆう)(ふる)ふと、194そんな()()はねばならぬ。195何事(なにごと)先生(せんせい)命令(めいれい)さへ、196神妙(しんめう)()いて()れば()いのだのになア』
197純公(すみこう)久方(ひさかた)(そら)()えたる(つき)みれば
198(とも)()(うへ)(した)はるる(かな)
199(わが)(とも)(いま)やいづくの何人(なにびと)
200(すく)はれゐるか心許(こころもと)なし』
201五三公(いそこう)惟神(かむながら)(たふと)(かみ)(つか)へたる
202(かみ)()ならば(やす)くいまさむ』
203純公(すみこう)『アーア、204(あま)りの心配(しんぱい)で、205(うた)()んでみようと(おも)うたが、206(うた)もハツキリ()ては()ないワ。207先生(せんせい)はあの(とほ)()をわづらひ、208(あたま)(いた)め、209伊太公(いたこう)行方(ゆくへ)不明(ふめい)となり、210(なん)とした俺達(おれたち)一行(いつかう)は、211(うん)(わる)いものだらう、212神様(かみさま)見離(みはな)されたのぢやあるまいかなア』
213五三公(いそこう)『そんな(こと)吾々(われわれ)にや(わか)らないワイ。214善悪正邪(ぜんあくせいじや)区別(くべつ)するのは(かみ)ばかりだ。215それだから(かみ)(おもて)(あら)はれて、216(ぜん)(あく)とを立別(たてわ)けると、217基本歌(きほんか)()()るのだ。218()(かく)伊太公(いたこう)(ため)に、219何神(なにがみ)(ほこら)()らぬが、220ここで(いの)ることにしようかい』
221純公(すみこう)『ヤアそりや有難(ありがた)い、222伊太公(いたこう)(ため)(いの)つてやらうと()ふのか』
223涙声(なみだごゑ)()(なが)ら、224()(あは)せて暗祈(あんき)黙祷(もくたう)をなすこと(やや)(しば)し、225(やうや)くにして()はカラリと()けた。
226 (あわ)てて谷間(たにま)()ちた二三頭(にさんとう)(うま)227主人(しゆじん)所在(ありか)(もと)めてノソリノソリと急坂(きふはん)(くだ)つて()た。
228純公(すみこう)『ヤア(てき)(うま)()げそそくれたと()えて、229今頃(いまごろ)にやつて()よつた。230ヤア此奴(こいつ)ア、231何奴(どいつ)此奴(こいつ)(あし)(いた)めてゐる塩梅(あんばい)だ。232畜生(ちくしやう)といひ(なが)可哀相(かあいさう)だなア。233(ひと)神様(かみさま)(ねが)つて(うま)(あし)(なほ)してやらうかなア』
234五三公(いそこう)(にはか)獣医(じうい)でも開業(かいげふ)する(つも)りかなア、235免状(めんじやう)()つてゐるか。236(いま)時節(じせつ)何程(なにほど)技能(ぎのう)があつても免状(めんじやう)がなければ駄目(だめ)だぞ。237どんな筍医者(たけのこいしや)でも、238開業(かいげふ)試験(しけん)といふ関門(くわんもん)()うなり()うなり通過(つうくわ)さへしておけば、239立派(りつぱ)なドクトルだ。240(なに)()つても規則(きそく)づくめの杓子定規(しやくしぢやうぎ)行方(やりかた)だからなア』
241純公(すみこう)『アヽ(うま)(やつ)……(みな)さまお(はや)うとも(なん)とも(ぬか)さずに、242俺達(おれたち)好意(かうい)()にして通過(つうくわ)して(しま)ひやがつた、243ヤツパリ畜生(ちくしやう)畜生(ちくしやう)だなア』
244五三公(いそこう)純公(すみこう)245(うま)(たす)けてやるのは()いが、246(うま)よりも大切(たいせつ)(もの)があるだろ』
247純公(すみこう)『いかにも、248(うま)(たす)けねばなるまいが、249第一(だいいち)先生(せんせい)御病気(ごびやうき)(なほ)(やう)鎮魂(ちんこん)をせなくてはならなかつたなア。250(しか)(おれ)畜生(ちくしやう)鎮魂(ちんこん)(ぐらゐ)(しやう)()うてゐるのだ。251到底(たうてい)先生(せんせい)御病気(ごびやうき)鎮魂(ちんこん)(なほ)すといふやうなこたア出来(でき)やしないワ』
252五三公(いそこう)誠心(まごころ)さへ(てん)(つう)じたら、253先生(せんせい)病気(びやうき)だつてキツと(なほ)るよ』
254純公(すみこう)『さう()けばさうかも()れぬなア、255(なん)だか()らぬが、256()()ちつかないワイ。257()()がカラツと()けては、258()坂路(さかみち)(やや)安心(あんしん)だが、259(しか)(なが)昨夜(さくや)逃去(にげさ)つた(てき)集団(しふだん)が、260(この)谷路(たにみち)吾々(われわれ)前途(ぜんと)閉塞(へいそく)して、261一人(ひとり)(のこ)らず、262(とりこ)にせむと、263待構(まちかま)へてゐるやうな()がしてならないワ』
264五三公(いそこう)『そりやキツトさうだらうよ。265面白(おもしろ)いぢやないか、266エヽー。267これからが吾々(われわれ)真剣(しんけん)舞台(ぶたい)となるのだ、268そんな弱々(よわよわ)したこと()はずにチツと(しつか)りせぬかい』
269 ()(はな)(とき)しも、270(うま)から転落(てんらく)し、271(あし)(きず)つけた()(おく)れのバラモン(けう)(をとこ)272(やり)(つゑ)につき、273二人連(ふたりづれ)でヒヨクリ ヒヨクリと(びつこ)をひき(なが)ら、274此処(ここ)(あら)はれて()た。275(この)二人(ふたり)片彦(かたひこ)将軍(しやうぐん)秘書役(ひしよやく)ともいふべき、276マツ、277タツの両人(りやうにん)であつた。278二人(ふたり)純公(すみこう)279五三公(いそこう)(ほこら)(まへ)狛犬然(こまいぬぜん)(すわ)つてゐるのに()()き、280馴々(なれなれ)しく、
281マツ(こう)『ヤア三五教(あななひけう)大先生(だいせんせい)282(はや)うさまで(ござ)います。283夜前(やぜん)大変(たいへん)御苦労(ごくらう)(ござ)いましたなア。284随分(ずゐぶん)御疲労(おくたびれ)になつたでせう。285(わたし)大変(たいへん)疲労(くたびれ)になりました。286これ御覧(ごらん)なさいませ、287一方(いつぱう)のコンパスがチツと(ばか)破損(はそん)(いた)しまして、288(この)手槍(てやり)をコンパス代用(だいよう)に、289無理槍(むりやり)にここ(まで)(くだ)つて()(ところ)です、290此処(ここ)でゆつくりと(やす)んで()かうと(おも)つて(たのし)んで(まゐ)りました。291()(ところ)でお()にかかりました。292()(なか)相身互(あひみたがひ)だから、293貴方(あなた)赤十字班(せきじふじはん)衛生隊(ゑいせいたい)思召(おぼしめ)して吾々(われわれ)両人(りやうにん)看護(かんご)をして(くだ)さいな。294()れば貴方(あなた)のお召物(めしもの)には(まる)(じふ)がついてゐる。295キツと白十字社(はくじふじしや)救護班(きうごはん)(おも)ひますが、296(ちが)ひますかな』
297五三公(いそこう)『アハヽヽヽ此奴(こいつ)面白(おもしろ)(わが)(たう)()だ。298オイ、299コンパスの破損(はそん)先生(せんせい)300ドクトルが(ひと)診察(しんさつ)をしてやらう』
301マツ(こう)『イヤ其奴(そいつ)有難(ありがた)い、302何分(なにぶん)(よろ)しう(たの)みます。303(てき)()味方(みかた)といふのも、304人間(にんげん)勝手(かつて)につけた名称(めいしよう)で、305ヤツパリ神様(かみさま)()から()れば(みな)兄弟(きやうだい)だからなア』
306純公(すみこう)『ヤアま一人(ひとり)負傷者(ふしやうしや)があるぢやないか』
307マツ(こう)『ハイこれはタツと()ひまして、308片彦(かたひこ)将軍(しやうぐん)秘書役(ひしよやく)ですよ。309(わたし)一寸(ちよつと)新米(しんまい)ではあるが、310(なつ)でもないのに、311ヒシヨ避暑(ひしよ))をやつて()ります。312アハヽヽヽ、313まだまだ七八人(しちはちにん)負傷者(ふしやうしや)谷底(たにそこ)呻吟(しんぎん)してゐますから、314(ひと)担架隊(たんかたい)でも()して、315此処(ここ)まで()(はこ)び、316(この)(ほこら)臨時(りんじ)野戦(やせん)病院(びやうゐん)として、317治療(ちれう)(あた)へてやつて(もら)ひたいものですなア。318三五教(あななひけう)(てき)でも(たす)けるといふ(をしへ)だと()いたから、319(この)マツ(こう)もスツカリと()(ゆる)し、320(おや)(そば)(かへ)つて()たやうな気分(きぶん)になりました』
321 何程(なにほど)(にく)(てき)でも悪人(あくにん)でも、322(むか)ふの(はう)から打解(うちと)け、323()けつ(はな)しでやつて()られると人間(にんげん)といふものは(めう)なもので、324(なん)となく贔屓(ひいき)がつき、325(わが)()(わす)れて(たす)けてやりたくなるものである。326バラモン(けう)のマツ(こう)327タツ(こう)流石(さすが)片彦(かたひこ)将軍(しやうぐん)秘書(ひしよ)(つと)むる(だけ)あつて、328(さき)んずれば(ひと)(せい)するといふ筆法(ひつぱふ)()呑込(のみこ)んでゐた。329(その)(じつ)()でも蒟蒻(こんにやく)でもいかぬしれ(もの)なのだ。330五三公(いそこう)331純公(すみこう)もそんなことを()らぬ(やう)馬鹿(ばか)ではないが、332(てき)(はう)から()()られると、333()らず()らずの(あひだ)受太刀(うけだち)にならざるを()ないのであつた。
334五三公(いそこう)三五教(あななひけう)独特(どくとく)鎮魂(ちんこん)妙術(めうじゆつ)(ほどこ)してやるから、335()づそこで(よこ)になつて()よ』
336マツ(こう)『イヤ有難(ありがた)う、337三五教(あななひけう)信者(しんじや)はさうなくてはならぬ。338如何(いか)にも()(をしへ)だなア。339博愛(はくあい)主義(しゆぎ)だ。340あゝ(てき)(なが)(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)341カタキ(なが)(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)
342五三公(いそこう)『アハヽヽヽ此奴(こいつ)面白(おもしろ)(やつ)だ。343遺憾(ゐかん)(なが)(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)344イヤイヤ(なが)(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)345仕方(しかた)がない(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)
346マツ(こう)『アハヽヽヽアイタヽヽヽ、347(あま)(わら)ふと、348(ほね)(ひび)いて(いた)くて仕方(しかた)がないワ。349オイ、350タツ(こう)351貴様(きさま)(ひと)治療(ちれう)()けないか、352何程(なにほど)大治療(だいちれう)()けても薬礼(やくれい)()らず、353入院料(にふゐんれう)()らぬのだから、354(かか)湯巻(ゆまき)まで六一銀行(ろくいちぎんかう)無期徒刑(むきとけい)にやる必要(ひつえう)もなし、355(きは)めて安全(あんぜん)なものだぞ』
356タツ(こう)(おれ)(きず)余程(よほど)(ふか)いのだから、357さう(ぢき)(なほ)らうかなア』
358五三公(いそこう)『さう心配(しんぱい)をするな。359(おれ)技術(ぎじゆつ)信用(しんよう)してくれ。360白十字(はくじふじ)病院長(びやうゐんちやう)361死学博士(しがくはくし)だ、362千人(せんにん)患者(くわんじや)(あつか)つたら、363九百九十九人(くひやくくじふくにん)までは(みな)霊壇(れいだん)(なほ)し、364墓場(はかば)(おく)るのだから、365死学博士(しがくはくし)といふのだよ、366随分(ずゐぶん)(えら)(もの)だらう。367そして天国(てんごく)復活(ふくくわつ)さしてやるのだ。368()かさうと(ころ)さうと自由自在(じいうじざい)369耆婆扁鵲(きばへんじやく)跣足(はだし)()げるといふ大博士(だいはくし)だからなア。370ウツフヽヽヽ』
371マツ(こう)『いい加減(かげん)洒落(しやれ)をやめて、372(はや)(おれ)苦痛(くつう)(たす)けて()れないか。373白十字(はくじふじ)病院(びやうゐん)金看板(きんかんばん)(かか)(なが)(おれ)苦痛(くつう)(よそ)にみて、374仁術者(じんじゆつしや)身分(みぶん)としてクツクツと(わら)(やつ)があるかい、375エーン、376余程(よほど)(この)医者(いしや)(たけのこ)()えるなア』
377純公(すみこう)副院長(ふくゐんちやう)(おれ)がタツ(こう)治療(ちれう)をするから、378五三公(いそこう)さま(いな)院長(ゐんちやう)さま、379貴方(あなた)はマツ(こう)受持(うけも)つて、380完全無欠(くわんぜんむけつ)なコンパスにしてやつて(くだ)さい。381どちらが(はや)(なほ)るか(ひと)競走(きやうそう)をやつて()ませうかなア。382有名(いうめい)死学博士(しがくはくし)(ばか)りがよつて()るのだからなア、383アハヽヽヽ』
384 マツ、385タツ一度(いちど)に『ウツフヽヽヽ、386アイタヽヽヽ、387アハヽヽヽ、388アイタヽヽヽ』
389マツ(こう)『コリヤ(あま)(わら)はして()れない』
390純公(すみこう)(わら)ふのは病気(びやうき)(くすり)だ。391(わら)(かど)には恢復(くわいふく)(きた)るといつてな、392(おれ)(わら)はすのが得意(とくい)だ。393それが医術(いじゆつ)(おく)()だよ。394イヒヽヽヽ』
395マツ(こう)『モシモシ院長(ゐんちやう)さま、396どうぞ(はや)治療(ちれう)にかかつて(くだ)さいな』
397五三公(いそこう)貴様(きさま)(うち)には(いへ)もあるだろ。398田地(でんぢ)(くら)(はやし)もあるだらうなア』
399マツ(こう)(おれ)だつて片彦(かたひこ)将軍(しやうぐん)秘書役(ひしよやく)(つと)める(くらゐ)だから、400相当(さうたう)地位(ちゐ)名望(めいばう)財産(ざいさん)()つてゐるわい』
401五三公(いそこう)『ウンさうか、402其奴(そいつ)掘出(ほりだ)(もの)だ。403早速(さつそく)(なほ)すと(おれ)商売(しやうばい)干上(ひあが)つて(しま)うワイ。404コーツと、405いつやらの(はなし)だ……(ある)(ところ)医者(いしや)があつた、406大変(たいへん)ようはやる医者(いしや)で、407山井養仙(やまゐやうせん)さまといつて名高(なだか)いものだつた、408其奴(そいつ)一人(ひとり)山井養洲(やまゐやうしう)といふ弟子(でし)があつた。409そこへ土地(とち)富豪(ふがう)病気(びやうき)(かか)養仙(やうせん)(くすり)服用(ふくよう)してゐた。410(すこ)()くなると(また)(わる)くなる、411(また)()くなる(また)(わる)くなる。412三年(さんねん)(ばか)りもブラブラして、413養仙(やうせん)(くすり)(かみ)のやうに(おも)つて服薬(ふくやく)してゐた。414或時(あるとき)養仙(やうせん)二三日(にさんにち)急用(きふよう)出来(でき)て、415他行(たぎやう)した不在(ふざい)()に、416書生(しよせい)養洲(やうしう)()(その)(をとこ)留守(るす)師団長(しだんちやう)気分(きぶん)診察(しんさつ)し、417(くすり)をもり(あた)へた(ところ)418三日目(みつかめ)にスツカリ全快(ぜんくわい)してお(れい)にやつて()よつた。419四五日(しごにち)たつと、420養仙(やうせん)先生(せんせい)帰宅(きたく)したので、421書生(しよせい)養洲(やうしう)()422したり(がほ)で……先生(せんせい)あの松兵衛(まつべゑ)を、423貴方(あなた)不在中(るすちう)(わたし)診察(しんさつ)して(くすり)をもりましたら、424三日目(みつかめ)にスツカリ全快(ぜんくわい)し、425最早(もはや)(くすり)(した)しむ必要(ひつえう)がないから、426(れい)()ましたと()つて、427薬価(やくか)勘定(かんぢやう)し、428チツと(ばか)菓子料(くわしれう)()いて(かへ)りました。429これが菓子料(くわしれう)(ござ)いますと差出(さしだ)し、430()められるかと(おも)ひの(ほか)養仙(やうせん)()(かど)()て……大馬鹿者(おほばかもの)ツ、431貴様(きさま)医者(いしや)資格(しかく)はない……と呶鳴(どな)りつけた。432そこで養洲(やうしう)むきになり……医者(いしや)仁術(じんじゆつ)といつて、433(ひと)病気(びやうき)(たす)けるのが商売(しやうばい)ぢやありませぬか、434何故(なぜ)(しか)(あそ)ばすか……といへば、435養仙(やうせん)一寸(ちよつと)ダラ(すけ)をねぶつたやうな(かほ)して……貴様(きさま)馬鹿(ばか)だなア。436松兵衛(まつべゑ)(うち)にはまだ(くら)もある、437(いへ)山林(さんりん)田畑(でんぱた)(のこ)つて()るぢやないか、438エーン、439さう(はや)(なほ)して()うなるか、440彼奴(あいつ)財産(ざいさん)全部(ぜんぶ)(おれ)(ふところ)這入(はい)るまでは(なほ)されぬのだ、441バカツ……と()つたさうだ、442(じつ)(えら)医者(いしや)だ。443(その)心得(こころえ)がなくては、444如何(どう)しても院長(ゐんちやう)にはなれないワ。445さうだから(おれ)(その)養仙(やうせん)さまに(なら)つて、446貴様(きさま)負傷(ふしやう)如何(どう)ともヨウセンのだ、447アハヽヽヽ、448イヒヽヽヽ』
449マツ(こう)『エヘヽヽヽ、450イヽイタイ イタイ イタイ イタイ、451ウツフヽヽアイタヽヽヽ』
452タツ(こう)『エヘヽヽヽアイタヽヽヽ』
453純公(すみこう)『それ(だけ)(わら)つたら、454やがて本復(ほんぷく)するだらう。455マア安心(あんしん)したがいいワ』
456タツ(こう)『オイ藪医先生(やぶいせんせい)457何時(いつ)になつたら(なほ)るだらうかなア』
458純公(すみこう)『マアマア一寸(ちよつと)予後不良(よごふりやう)だから、459計算(けいさん)がつかぬワイ。460すべて(やまひ)には……エヘン……二大別(にだいべつ)がある。461(いち)先天性(せんてんせい)疾病(しつぺい)といひ、462(いち)後天性(こうてんせい)疾病(しつぺい)()ふ。463(しか)して予後良(よごりやう)あり不良(ふりやう)あり、464良不良(りやうふりやう)(けつ)(がた)きものありだ。465()すべき(やまひ)と、466()すべからざる(やまひ)と、467治不治(ぢふぢ)(けつ)(がた)(やまひ)と、468自然(しぜん)放擲(はうてき)して()いて(なほ)(やまひ)四種類(よんしゆるゐ)ある。469それから内科(ないくわ)外科(げくわ)産科(さんくわ)(わか)れてゐる。470(また)婦人科(ふじんくわ)小児科(せうにくわ)といふのも(この)(ごろ)はふえて()た。471そして(くすり)には内服用(ないふくよう)外用(ぐわいよう)大別(たいべつ)され、472頓服剤(とんぷくざい)必要(ひつえう)があり、473食塩(しよくえん)注射(ちうしや)にモルヒネ注射(ちうしや)474(この)(ごろ)六〇六注射(ろくぴやくろくちうしや)(まで)(ひら)けて()たのだ、475エーン。476随分(ずゐぶん)医者(いしや)になるのも学資(がくし)()るよ。477狂歌(きやうか)千人(せんにん)(ころ)して医者(いしや)になる(やつ)は、478(おのれ)一人(ひとり)(くち)すぎもならず……といふのだから、479(おれ)だつて(いま)まで九百九十九人(くひやくくじふくにん)まで(ころ)してきたのだ。480一人(ひとり)(ころ)せば一人前(いちにんまへ)医者(いしや)になるのだ。481それだから丁度(ちやうど)貴様(きさま)一人(ひとり)霊前(れいぜん)(なほ)す、482有体(ありてい)にいへば(ころ)すのだ。483そこで(はじ)めて(この)純公(すみこう)一人前(いちにんまへ)のドクトルになるのだからなア。484(なん)とよい研究(けんきう)材料(ざいれう)出来(でき)たものだ。485アハヽヽヽ』
486マツ(こう)『アハヽヽヽ何時(いつ)()にか(おれ)足痛(そくつう)(しり)()かけて遁走(とんそう)したと()えるワイ。487オイ、488タツ(こう)貴様(きさま)もいい加減(かげん)(なほ)つたら如何(どう)だ。489イヒヽヽヽ』
490五三公(いそこう)『コリヤなまくらな、491足痛(そくつう)真似(まね)をしてゐたのだな。492仕方(しかた)のない(やつ)だ』
493マツ(こう)『さうだから、494(いた)いか(いた)くないか診察(しんさつ)してくれと()つたぢやないか。495(じつ)(ところ)負傷者(ふしやうしや)だといつて、496前達(まへたち)同情(どうじやう)()ひ、497ここを無事(ぶじ)通過(つうくわ)する(つも)りだつたが、498(あま)貴様(きさま)言分(いひぶん)()にいつたから、499(なに)もかも白状(はくじやう)するワ。500(じつ)全軍(ぜんぐん)逃走(たうそう)した後始末(あとしまつ)をつけて(かへ)つて()たのだ。501(あし)はかうして繃帯(はうたい)()いてゐるが、502チツとも怪我(けが)してゐないのだよ、503のうタツ(こう)504アハヽヽヽ』
505五三公(いそこう)『アハヽヽこいつア誤診(ごしん)だつた』
506マツ(こう)誤診(ごしん)御親切(ごしんせつ)()らぬが、507打診(だしん)もないやうだつたね』
508五三公(いそこう)随分(ずゐぶん)聴診(ちやうしん)にのつて大変(たいへん)失敗(しつぱい)をした。509サア(これ)から貴様(きさま)望診々々(ぼしんぼしん)()つたらどうだ。510問診(もんしん)(みち)片彦(かたひこ)()うたら、511死学博士(しがくはくし)(よろ)しう()つて()たと()うて()れ、512アーン』
513マツ(こう)『オイオイ院長(ゐんちやう)さま、514なぜ(はな)(した)をさう()でてゐるのだ。515(めう)恰好(かつかう)ぢやないか』
516五三公(いそこう)『ウン(これ)かい。517(ひげ)はないけれど、518気分(きぶん)だけは(はち)()(ひげ)()んでゐる(つも)りだ。519アハヽヽ』
520純公(すみこう)『オイ、521モウ病院(びやうゐん)(あそ)びはやめにしようかい。522そしてゆつくりと軍話(いくさばなし)でもしたらどうだ。523随分(ずゐぶん)面白(おもしろ)いだらうよ』
524マツ(こう)敗軍(はいぐん)(しやう)525(へい)(かた)る……かな。526葬礼(さうれい)すんで医者話(いしやばなし)(おな)(こと)だが、527これも成行(なりゆき)だ。528ここで(ひと)物語(ものがたり)をやつてみよう。529随分(ずゐぶん)(いさぎよ)いぞ、530エツヘヽヽヽ』
531五三公(いそこう)(なん)気楽(きらく)(やつ)(そろ)うたものだなア。532丁度(ちやうど)(ほこら)(まへ)四人(よにん)打揃(うちそろ)ひ、533軍談(ぐんだん)(はじ)めるのも面白(おもしろ)からう。534アヽ愉快(ゆくわい)愉快(ゆくわい)だ』
535 マツ(こう)講談師(かうだんし)気取(きどり)になつて長方形(ちやうはうけい)(いは)(まへ)(すわ)り、536鉄扇(てつせん)にて(いは)をビシヤビシヤ(たた)(なが)(うな)()した。
537『ハルナの(みやこ)()(たか)き、538梵天(ぼんてん)帝釈(たいしやく)自在天(じざいてん)539大黒主(おほくろぬし)といふ智勇(ちゆう)兼備(けんび)勇将(ゆうしやう)あり。540それに(したが)英雄(えいゆう)豪傑(がうけつ)541綺羅星(きらほし)(ごと)()(なら)び、542(なか)にもわけて大黒主(おほくろぬし)三羽烏(さんばがらす)(きこ)えたる鬼春別(おにはるわけ)将軍(しやうぐん)543大足別(おほだるわけ)将軍(しやうぐん)544マツ(こう)将軍(しやうぐん)こそは英雄中(えいゆうちう)英雄(えいゆう)なり。545(この)(たび)斎苑(いそ)(やかた)天地(てんち)(かがや)神徳(しんとく)(たか)き、546(さけ)燗素盞嗚尊(かんすさのをのみこと)547数多(あまた)軍勢(ぐんぜい)(ひき)つれ、548アブナイ(けう)組織(そしき)して、549大黒主(おほくろぬし)(まも)らせ(たま)ふ、550(てん)(かがや)(つき)(くに)551五天竺(ごてんぢく)をば蹂躙(じうりん)(いきほひ)益々(ますます)猖獗(しやうけつ)(きは)天下(てんか)騒然(さうぜん)として(あさ)(ごと)くに(みだ)れ、552人民(じんみん)塗炭(とたん)()(おちい)りぬ。553(しか)(ところ)へ、554(また)もやデカタン高原(かうげん)北方(ほつぱう)なるカルマタ(こく)に、555盤古神王(ばんこしんわう)塩長彦(しほながひこ)(ほう)じて(あら)はれ()でたる、556ウラル(けう)常暗彦(とこやみひこ)軍勢(ぐんぜい)557雲霞(うんか)(ごと)く、558地教山(ちけうざん)背景(はいけい)とし、559(あつ)まりゐる。560(いま)天下(てんか)三分(さんぶん)せむとするの(いきほひ)なれば、561何条(なんでう)(もつ)大黒主(おほくろぬし)(ゆる)(たま)ふべき、562三羽烏(さんばがらす)征夷大将軍(せいいたいしやうぐん)(にん)じ、563大足別(おほだるわけ)はカルマタ(こく)へ、564鬼春別(おにはるわけ)斎苑館(いそやかた)へ、565テンデに部署(ぶしよ)(さだ)め、566進軍(しんぐん)真最中(まつさいちう)なり。567(あき)(やうや)(ふか)くして木々(きぎ)(こずゑ)はバラバラバラバラ、568()りゆく無残(むざん)光景(くわうけい)(こころ)にもとめず、569数多(あまた)軍勢(ぐんぜい)(ひき)つれて、570先鋒隊(せんぽうたい)には片彦(かたひこ)久米彦(くめひこ)両将軍(りやうしやうぐん)571あとから()()一部隊(いちぶたい)は、572ランチ将軍(しやうぐん)573数千騎(すうせんき)(ひき)ゐ、574最後(さいご)本隊(ほんたい)鬼春別(おにはるわけ)将軍(しやうぐん)575全軍(ぜんぐん)指揮(しき)し、576秋風(しうふう)(みつ)()(あふひ)(はた)(はやし)(ごと)(ひるがへ)(なが)旗鼓(きこ)堂々(だうだう)()(きた)(その)物々(ものもの)しさ鬼神(きしん)(おどろ)(ばか)(なり)577先陣(せんぢん)(つか)へし片彦(かたひこ)将軍(しやうぐん)(いま)河鹿峠(かじかたうげ)絶頂(ぜつちやう)に、578全軍(ぜんぐん)指揮(しき)(くつわ)(なら)べ、579(ひづめ)(おと)カツカツカツ、580(すず)(おと)シヤンコ シヤンコと、581威風堂々(ゐふうだうだう)あたりを(はら)天地(てんち)(あつ)して(のぼ)()く。582百千万(ひやくせんまん)阿修羅王(あしゆらわう)進軍(しんぐん)()くやと(おも)はれにける。583(しか)(ところ)豈計(あにはか)らむや、584(おも)ひがけなや、585アタ(こは)や、586三五教(あななひけう)宣伝使(せんでんし)治国別(はるくにわけ)587万公(まんこう)588晴公(はるこう)589五三公(いそこう)木端武者(こつぱむしや)(ひき)つれ、590一卒(いつそつ)(これ)(まも)れば万卒(ばんそつ)(すす)(あた)はざる嶮路(けんろ)(やく)し、591神変(しんぺん)不思議(ふしぎ)言霊(ことたま)速射砲(そくしやはう)(ごと)(うち)かけ、592(むか)()(その)(いきほひ)(すさま)じさ。593不意(ふい)(くら)つて味方(みかた)軍卒(ぐんそつ)594(たちま)総体(そうたい)(くづ)れ、595狼狽(うろた)(さわ)いで、596元来(もとき)(みち)へと、597(うま)()()て、598(かぜ)()()()(ごと)く、599バラバラバツと、600(むれ)ゐる千鳥(ちどり)群千鳥(むらちどり)601あはれ果敢(はか)なき次第(しだい)(なり)602無念(むねん)(なみだ)(おさ)(なが)ら、603バラモン(ぐん)武運(ぶうん)のつたなきを(なげ)(かな)しみ、604片彦(かたひこ)将軍(しやうぐん)秘書官(ひしよくわん)605マツ(こう)タツ(こう)両人(りやうにん)は、606(さわ)がず、607(あせ)らず悠々然(いういうぜん)として、608戦場(せんぢやう)(あと)(かた)づけ、609負傷者(ふしやうしや)(いつは)つて、610ここ(まで)やうやう(かへ)りける。611アハヽヽヽ、612エー(あと)如何(いかが)なりまするか、613実地(じつち)検分(けんぶん)(うへ)ボツーボツと講談(かうだん)(つかまつ)りますれば、614明晩(みやうばん)何卒(なにとぞ)十二分(じふにぶん)()ヒイキを(もつ)て、615賑々(にぎにぎ)しく御来聴(ごらいちやう)あらむことを希望(きばう)いたします。616チヨン チヨン チヨンだ』
617 五三公(いそこう)618純公(すみこう)619タツ(こう)一度(いちど)大口(おほぐち)をあけ、
620『アハヽヽヽ』
621(はら)(かか)へ、622(ころ)げて(わら)ふ。
623大正一一・一一・二八 旧一〇・一〇 松村真澄録)