霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
目 次設 定
設定
印刷用画面を開く [?]プリント専用のシンプルな画面が開きます。文章の途中から印刷したい場合は、文頭にしたい位置のアンカーをクリックしてから開いて下さい。[×閉じる]
話者名の追加表示 [?]セリフの前に話者名が記していない場合、誰がしゃべっているセリフなのか分からなくなってしまう場合があります。底本にはありませんが、話者名を追加して表示します。[×閉じる]
表示できる章
テキストのタイプ [?]ルビを表示させたまま文字列を選択してコピー&ペーストすると、ブラウザによってはルビも一緒にコピーされてしまい、ブログ等に引用するのに手間がかかります。そんな時には「コピー用のテキスト」に変更して下さい。ルビも脚注もない、ベタなテキストが表示され、きれいにコピーできます。[×閉じる]

文字サイズ
フォント

ルビの表示



アンカーの表示 [?]本文中に挿入している3~4桁の数字がアンカーです。原則として句読点ごとに付けており、標準設定では本文の左端に表示させています。クリックするとその位置から表示されます(URLの#の後ろに付ける場合は数字の頭に「a」を付けて下さい)。長いテキストをスクロールさせながら読んでいると、どこまで読んだのか分からなくなってしまう時がありますが、読んでいる位置を知るための目安にして下さい。目障りな場合は「表示しない」設定にして下さい。[×閉じる]


宣伝歌 [?]宣伝歌など七五調の歌は、底本ではたいてい二段組でレイアウトされています。しかしブラウザで読む場合には、二段組だと読みづらいので、標準設定では一段組に変更して(ただし二段目は分かるように一文字下げて)表示しています。お好みよって二段組に変更して下さい。[×閉じる]
脚注 [?][※]や[#]で括られている文字は当サイトで独自に付けた脚注です。まだ少ししか付いていませんが、目障りな場合は「表示しない」設定に変えて下さい。ただし[#]は重要な注記なので表示を消すことは出来ません。[×閉じる]


文字の色
背景の色
ルビの色
傍点の色 [?]底本で傍点(圏点)が付いている文字は、『霊界物語ネット』では太字で表示されますが、その色を変えます。[×閉じる]
外字1の色 [?]この設定は現在使われておりません。[×閉じる]
外字2の色 [?]文字がフォントに存在せず、画像を使っている場合がありますが、その画像の周囲の色を変えます。[×閉じる]

  

表示がおかしくなったらリロードしたり、クッキーを削除してみて下さい。


【新着情報】サイトの全面改修に伴いサブスク化します。詳しくはこちらをどうぞ。(2023/12/19)
マーキングパネル
設定パネルで「全てのアンカーを表示」させてアンカーをクリックして下さい。

【引数の設定例】 &mky=a010-a021a034  アンカー010から021と、034を、イエローでマーキング。

          

第一三章 軍談(ぐんだん)〔一一六四〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第43巻 舎身活躍 午の巻 篇:第4篇 愛縁義情 よみ(新仮名遣い):あいえんぎじょう
章:第13章 軍談 よみ(新仮名遣い):ぐんだん 通し章番号:1164
口述日:1922(大正11)年11月28日(旧10月10日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年7月25日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる] 主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2023-01-10 14:03:54 OBC :rm4313
愛善世界社版:199頁 八幡書店版:第8輯 100頁 修補版: 校定版:209頁 普及版:84頁 初版: ページ備考:
001 数十(すうじふ)(ねん)雨風(あめかぜ)(もてあそ)ばれて、002屋根(やね)飛散(とびち)(はしら)(ゆが)み、003()るかげもなき古祠(ふるほこら)(まへ)に、004薄雲(はくうん)(かぶ)つてボンヤリ輪廓(りんくわく)不明瞭(ふめいれう)(あら)はした(つき)(ひかり)()(なが)ら、005(はなし)(ふけ)(しち)(にん)(をとこ)があつた。006これは勿論(もちろん)治国別(はるくにわけ)007玉国別(たまくにわけ)一行(いつかう)である。
008玉国別(たまくにわけ)治国別(はるくにわけ)さま、009昨日来(さくじつらい)大風(おほかぜ)には随分(ずゐぶん)(なや)みでしたらうなア。010それに(また)バラモン(けう)軍勢(ぐんぜい)がやつて()たので、011一段(いちだん)()(ほね)()れたことでせう』
012治国別(はるくにわけ)河鹿(かじか)(たうげ)此方(こちら)(くだ)(をり)しも片彦(かたひこ)013久米彦(くめひこ)軍勢(ぐんぜい)出会(でつくは)し、014()(かく)屈竟(くつきやう)難所(なんしよ)(ぢん)(かま)へ、015(おもむろ)言霊(ことたま)打出(うちだ)した(ところ)016昨日(さくじつ)暴風(ばうふう)木々(きぎ)()()()(ごと)く、017隊伍(たいご)(みだ)し、018這々(はふばふ)(てい)()()つて(しま)ひましたよ。019貴方(あなた)(この)森蔭(もりかげ)(おい)て、020キツと(てき)潰走(くわいそう)待受(まちう)け、021言霊(ことたま)打出(うちだ)しなさるだらう、022両方(りやうはう)より言霊(ことたま)(はさ)(うち)面白(おもしろ)からうと(かんが)へて()りました。023そしてさぞ(ほこら)(もり)(まへ)には沢山(たくさん)帰順者(きじゆんしや)()るだらうと、024イヤもう(たのし)んで(まゐ)りました。025(てき)(この)谷道(たにみち)(とほ)らなかつたですか』
026玉国別(たまくにわけ)『ヤアもう残念(ざんねん)なことを(いた)しました。027(かみ)(さま)神罰(しんばつ)(かうむ)り、028大怪我(おほけが)(いた)し、029心気(しんき)沮喪(そさう)したと()え、030雪崩(なだれ)(ごと)()げくる(てき)無念(むねん)(なが)らも、031(みな)取逃(とりに)がして(しま)ひました』
032治国別(はるくにわけ)『それは(なん)とも仕方(しかた)がありませぬ。033何事(なにごと)神界(しんかい)()都合(つがふ)でせう。034(しか)(なが)大怪我(おほけが)をなさつたとは……』
035玉国別(たまくにわけ)『ハイ(さる)(やつ)両眼(りやうがん)をかきむしられ、036一旦(いつたん)失明(しつめい)(いた)しましたが、037有難(ありがた)()神徳(しんとく)によつて(やうや)片目(かため)(すく)はれ、038(この)森蔭(もりかげ)休息(きうそく)して頭痛(づつう)()(いた)みの(なほ)るのを()つて()りました』
039治国別(はるくにわけ)『それは(まこと)()(どく)千万(せんばん)040月夜(つきよ)とはいへ、041(あま)りボンヤリとしてゐて、042(かほ)()えませなんだが、043ドレ一寸(ちよつと)()せて(くだ)さい』
044()(なが)ら、045玉国別(たまくにわけ)(かほ)(のぞ)()んだ。
046治国別『ヤア大変(たいへん)だ。047()のまはりがただれて()ります。048余程(よほど)きつく()いたものと()えますなア』
049玉国別(たまくにわけ)吾々(われわれ)(こころ)油断(ゆだん)より(みづか)(わざわひ)(まね)いたのです。050(じつ)宣伝使(せんでんし)として(かほ)がありませぬ』
051治国別(はるくにわけ)『ここでは(なん)だかきまりが(わる)いやうですが、052どこぞ()場所(ばしよ)でゆつくり(はな)さうぢやありませぬか』
053玉国別(たまくにわけ)一町(いつちやう)(ばか)(この)(もり)(のぼ)つて()きますると、054恰好(かつかう)休息所(きうそくしよ)があります。055(じつ)(ところ)今宵(こよひ)(その)森蔭(もりかげ)養生(やうじやう)がてら、056敵軍(てきぐん)(すす)むのを(なが)めて()りました』
057治国別(はるくにわけ)『そんなら、058(その)森蔭(もりかげ)休息所(きうそくしよ)までお(とも)(いた)しませう』
059玉国別(たまくにわけ)(いづ)(また)(てき)残党(ざんたう)通過(つうくわ)するやら、060(ふたた)()(かへ)しに()るやら(わか)りませぬから、061此処(ここ)二人(ふたり)(ほど)見張(みはり)をさしておいて(まゐ)りませうかなア』
062治国別(はるくにわけ)『オイ五三公(いそこう)063(まへ)()苦労(くらう)だが、064(この)(ほこら)(まへ)(しばら)関所守(せきしよもり)をやつてくれないか』
065五三公(いそこう)『ハイ承知(しようち)(いた)しました。066玉国別(たまくにわけ)さまの部下(ぶか)(かた)一人(ひとり)拝借(はいしやく)したいものですなア。067なることならば(わたし)()(うま)()伊太公(いたこう)関守(せきもり)(つと)めませう』
068玉国別(たまくにわけ)残念(ざんねん)ながら伊太公(いたこう)貴方(あなた)にお(わた)しする(わけ)には(まゐ)りませぬ』
069五三公(いそこう)(たれ)だつて(おな)じことぢやありませぬか。070(わたし)先生(せんせい)()うして一人(ひとり)留守番(るすばん)をお(めい)じになつたのだから、071貴方(あなた)だつて、072伊太公(いたこう)一人(ひとり)(ぐらゐ)ここにお(のこ)しになつても()かりさうなものですなア』
073道公(みちこう)(じつ)(ところ)伊太公(いたこう)(やつ)074(てき)捕虜(ほりよ)となつて(しま)つたのだ。075これから吾々(われわれ)両人(りやうにん)伊太公(いたこう)取返(とりかへ)しに敵中(てきちう)飛込(とびこ)まふと(おも)つてゐるのだが、076何分(なにぶん)先生(せんせい)()(いた)め、077(あたま)(いた)めて(ござ)るものだから()くことも出来(でき)ず、078()()でないのだ』
079五三公(いそこう)『ヤアさうか、080そりや大変(たいへん)だ。081(おれ)先生(せんせい)(ゆる)しさへあれば伊太公(いたこう)所在(ありか)(たづ)ねに()きたいものだなア』
082治国別(はるくにわけ)『ヤア、083玉国別(たまくにわけ)さま、084伊太公(いたこう)(てき)捕虜(ほりよ)になつたのですか』
085玉国別(たまくにわけ)残念(ざんねん)ながら……』
086治国別(はるくにわけ)『ヤアそりや(こま)つたことが出来(でき)たものだ。087マアマアゆつくりと森蔭(もりかげ)()相談(さうだん)(いた)しませう。088そんなら五三公(いそこう)089()苦労(くらう)だが、090(まへ)一人(ひとり)ここに関守(せきもり)をやつてゐてくれ』
091五三公(いそこう)『ハイやらぬことはありませぬが、092(なん)だか(わたし)一人(ひとり)()てられた(やう)気分(きぶん)になりますワ。093どうぞ晴公(はるこう)なりと(のこ)して(くだ)さいなア』
094玉国別(たまくにわけ)『イヤ(よろ)しい、095純公(すみこう)此処(ここ)(のこ)して()きませう。096オイ純公(すみこう)097(まへ)()苦労(くらう)なれど、098五三公(いそこう)さまと臨時(りんじ)関守(せきもり)(たの)む』
099純公(すみこう)承知(しようち)(いた)しました。100どうしても(わたし)雑兵(ざふひやう)だとみえて、101将校(しやうかう)会議(くわいぎ)参列(さんれつ)(ゆる)されないのですなア、102(てき)(とほ)くに()ひちらし、103(やや)小康(せうかう)()たる(この)場合(ばあひ)104仕方(しかた)がありませぬから、105(わたし)五三公(いそこう)さまと(また)別働隊(べつどうたい)(つく)つて、106将校(しやうかう)会議(くわいぎ)開設(かいせつ)(いた)しませう。107サア、108(りやう)先生(せんせい)(はじ)道公(みちこう)109晴公(はるこう)110万公(まんこう)111ゆつくりと(やす)んでおいでなさいませ』
112玉国別(たまくにわけ)(しつか)(たの)む。113(かは)つたことがあれば()()つて合図(あひづ)をしてくれ』
114純公(すみこう)万事(ばんじ)呑込(のみこ)んで()ります』
115玉国別(たまくにわけ)『そんなら(よろ)しう(たの)む』
116玉国別(たまくにわけ)(さき)()つて、117以前(いぜん)森蔭(もりかげ)(のぼ)つて()く。
118 (りやう)宣伝使(せんでんし)(およ)(さん)(にん)()()(うづだか)()んだ(うへ)(みの)()き、119言霊戦(ことたません)状況(じやうきやう)や、120懐谷(ふところだに)遭難(さうなん)顛末(てんまつ)などを(つつ)まず(かく)さず(たがひ)打明(うちあ)けて(だん)()うてゐる。
121 此方(こちら)古祠(ふるほこら)(まへ)122純公(すみこう)123五三公(いそこう)(ちか)西山(せいざん)(かく)れた(つき)見送(みおく)(なが)ら、
124純公(すみこう)『ヤア月様(つきさま)もとうとうアリヨースとお(かへ)(あそ)ばした。125どうも(にはか)山影(やまかげ)(おそ)うて()たと()ふものか、126暗黒界(あんこくかい)になつたぢやないか』
127五三公(いそこう)『どうせお(つき)さまだつて、128(おな)じとこに(とど)まつていらつしやる道理(だうり)がない。129やがて(また)()(ばか)りぢやない、130夜明(よあ)けも近付(ちかづ)いたのだから、131(しばら)くグツとここで(よこた)はり、132バラモン征伐(せいばつ)(ゆめ)でも()ようぢやないか』
133純公(すみこう)『お(まへ)()たけら()てくれ、134関守(せきもり)がそんなことぢや(つと)まらないから、135(おれ)此処(ここ)()をあけて職務(しよくむ)忠実(ちうじつ)(つと)めてゐる。136ヤア言霊戦(ことたません)随分(ずゐぶん)(まへ)疲労(くたび)れただらう、137無理(むり)もない(おれ)(みの)()してやるから、138サア()たり()たり』
139五三公(いそこう)『お(まへ)()られないのは、140(ひと)原因(げんいん)があるのだらう。141伊太公(いたこう)行方(ゆくへ)()にかかつてゐるのだらうがなア』
142純公(すみこう)『それが第一(だいいち)心配(しんぱい)だ。143(いち)秒間(べうかん)だつて彼奴(あいつ)(こと)(わす)れやうたつて、144(わす)れられるものか。145(おれ)()うして安閑(あんかん)とここに関守(せきもり)(つと)めてゐるものの、146伊太公(いたこう)はエラい責苦(せめく)()はされてゐるかと(おも)へば、147如何(どう)して(ねむ)ることが出来(でき)ようぞ』
148五三公(いそこう)『アハヽヽヽそれ(ほど)()になるか。149(ひと)一人(ひとり)(くらゐ)如何(どう)なつてもいいぢやないか、150貴様(きさま)さへ安全(あんぜん)にあつたら(なに)よりも大慶(たいけい)だらう。151たつた今迄(いままで)ピチピチして()つた人間(にんげん)()といふ魔風(まかぜ)()かれて、152ウンと一声(ひとこゑ)冥土(めいど)旅立(たびだ)ちする(やつ)もあるのだ。153何程(なにほど)貴様(きさま)がハートに(なみ)()ててもがいた(ところ)如何(どう)する(こと)出来(でき)ぬぢやないか。154そんな(ひと)疝気(せんき)頭痛(づつう)()むやうな馬鹿(ばか)(こと)(おも)はぬが()いぞ。155(しま)ひにや貴様(きさま)(からだ)まで(こは)して(しま)ふぢやないか』
156純公(すみこう)貴様(きさま)余程(よほど)()冷血漢(れいけつかん)だなア。157何程(なにほど)(わが)()大事(だいじ)だといつて、158(とも)危難(きなん)平気(へいき)見遁(みのが)すことが出来(でき)ようかい。159それが朋友(ほういう)義務(ぎむ)だ。160(いな)義務(ぎむ)どころか(なさけ)ぢやないか』
161五三公(いそこう)『さう心配(しんぱい)するな。162伊太公(いたこう)(けつ)して嬲殺(なぶりごろし)になつたり、163虐待(ぎやくたい)されたりするやうな(をとこ)ぢやない。164彼奴(あいつ)じゆん(さい)(をとこ)だから、165そこは(うま)合槌(あひづち)()ち、166(てき)でさへも可愛(かあい)がるやうな交際振(かうさいぶり)発揮(はつき)してゐるよ。167キツと(てき)同情(どうじやう)()けてゐるに(きま)つて()るワ』
168純公(すみこう)『さうだらうかなア、169それが本当(ほんたう)ならば、170(おれ)もチツと(ばか)安心(あんしん)だ』
171五三公(いそこう)伊太公(いたこう)はまた如何(どう)して捕虜(ほりよ)になりよつたのだ。172(その)顛末(てんまつ)をチツと()かして()れないか』
173純公(すみこう)『ウーン、174(おれ)(たち)先生(せんせい)とあの森蔭(もりかげ)休息(きうそく)してゐると、175バラモン(けう)軍勢(ぐんぜい)(この)(ほこら)(まへ)休息(きうそく)人員(じんゐん)点呼(てんこ)までやつてゐやがるぢやないか。176そして素盞嗚(すさのをの)大神(おほかみ)(さま)征伐(せいばつ)すると()つて、177ヒドイ進軍歌(しんぐんか)(うた)つてゐやがるのだ。178それを()いて吾々(われわれ)三五教(あななひけう)信者(しんじや)如何(どう)して(こら)へて()ることが出来(でき)ようか。179……不意(ふい)()んで()て、180一人(ひとり)(のこ)らず打懲(うちこら)してやらうと(おも)つたが、181何分(なにぶん)先生(せんせい)()(わる)いものだから、182一息(ひといき)(はな)れる(わけ)()かず、183切歯(せつし)扼腕(やくわん)悲憤(ひふん)(なみだ)(なが)してゐると伊太公(いたこう)(やつ)(たま)りかねて、184金剛杖(こんがうづゑ)縦横(じうわう)無尽(むじん)打振(うちふ)り、185(いのち)(まと)敵中(てきちう)(ただ)一人(ひとり)()()んだきり、186(かへ)つて()ないのだ。187(じつ)残念(ざんねん)なことをしたワイ。188先生(せんせい)(さま)のお()めなさるのも()かずに()つたものだから、189(かみ)(さま)(ばち)(てき)(とら)はれよつたのだ。190アヽ(おも)へば(おも)へば(また)(かな)しくなつて()たワイ』
191五三公(いそこう)(なん)とした向意気(むかふいき)(つよ)(をとこ)だらうなア、192後前(あとさき)(かんが)へず、193匹夫(ひつぷ)(ゆう)(ふる)ふと、194そんな()()はねばならぬ。195何事(なにごと)先生(せんせい)命令(めいれい)さへ、196神妙(しんめう)()いて()れば()いのだのになア』
197純公(すみこう)久方(ひさかた)(そら)()えたる(つき)みれば
198(とも)()(うへ)(した)はるる(かな)
199(わが)(とも)(いま)やいづくの何人(なにびと)
200(すく)はれゐるか心許(こころもと)なし』
201五三公(いそこう)惟神(かむながら)(たふと)(かみ)(つか)へたる
202(かみ)()ならば(やす)くいまさむ』
203純公(すみこう)『アーア、204(あま)りの心配(しんぱい)で、205(うた)()んでみようと(おも)うたが、206(うた)もハツキリ()ては()ないワ。207先生(せんせい)はあの(とほ)()をわづらひ、208(あたま)(いた)め、209伊太公(いたこう)行方(ゆくへ)不明(ふめい)となり、210(なん)とした(おれ)(たち)一行(いつかう)は、211(うん)(わる)いものだらう、212(かみ)(さま)見離(みはな)されたのぢやあるまいかなア』
213五三公(いそこう)『そんな(こと)吾々(われわれ)にや(わか)らないワイ。214善悪(ぜんあく)正邪(せいじや)区別(くべつ)するのは(かみ)ばかりだ。215それだから(かみ)(おもて)(あら)はれて、216(ぜん)(あく)とを立別(たてわ)けると、217基本歌(きほんか)()()るのだ。218()(かく)伊太公(いたこう)(ため)に、219何神(なにがみ)(ほこら)()らぬが、220ここで(いの)ることにしようかい』
221純公(すみこう)『ヤアそりや有難(ありがた)い、222伊太公(いたこう)(ため)(いの)つてやらうと()ふのか』
223涙声(なみだごゑ)()(なが)ら、224()(あは)せて暗祈(あんき)黙祷(もくたう)をなすこと(やや)(しば)し、225(やうや)くにして()はカラリと()けた。
226 (あわ)てて谷間(たにま)()ちた二三頭(にさんとう)(うま)227主人(しゆじん)所在(ありか)(もと)めてノソリノソリと急坂(きふはん)(くだ)つて()た。
228純公(すみこう)『ヤア(てき)(うま)()げそそくれたと()えて、229今頃(いまごろ)にやつて()よつた。230ヤア此奴(こいつ)ア、231何奴(どいつ)此奴(こいつ)(あし)(いた)めてゐる塩梅(あんばい)だ。232畜生(ちくしやう)といひ(なが)可哀相(かあいさう)だなア。233(ひと)(かみ)(さま)(ねが)つて(うま)(あし)(なほ)してやらうかなア』
234五三公(いそこう)(にはか)獣医(じうい)でも開業(かいげふ)する(つも)りかなア、235免状(めんじやう)()つてゐるか。236(いま)時節(じせつ)何程(なにほど)技能(ぎのう)があつても免状(めんじやう)がなければ駄目(だめ)だぞ。237どんな筍医者(たけのこいしや)でも、238開業(かいげふ)試験(しけん)といふ関門(くわんもん)()うなり()うなり通過(つうくわ)さへしておけば、239立派(りつぱ)なドクトルだ。240(なに)()つても規則(きそく)づくめの杓子(しやくし)定規(ぢやうぎ)行方(やりかた)だからなア』
241純公(すみこう)『アヽ(うま)(やつ)……(みな)さまお(はや)うとも(なん)とも(ぬか)さずに、242(おれ)(たち)好意(かうい)()にして通過(つうくわ)して(しま)ひやがつた、243ヤツパリ畜生(ちくしやう)畜生(ちくしやう)だなア』
244五三公(いそこう)純公(すみこう)245(うま)(たす)けてやるのは()いが、246(うま)よりも大切(たいせつ)(もの)があるだろ』
247純公(すみこう)『いかにも、248(うま)(たす)けねばなるまいが、249第一(だいいち)先生(せんせい)()病気(びやうき)(なほ)(やう)鎮魂(ちんこん)をせなくてはならなかつたなア。250(しか)(おれ)畜生(ちくしやう)鎮魂(ちんこん)(ぐらゐ)(しやう)()うてゐるのだ。251到底(たうてい)先生(せんせい)()病気(びやうき)鎮魂(ちんこん)(なほ)すといふやうなこたア出来(でき)やしないワ』
252五三公(いそこう)誠心(まごころ)さへ(てん)(つう)じたら、253先生(せんせい)病気(びやうき)だつてキツと(なほ)るよ』
254純公(すみこう)『さう()けばさうかも()れぬなア、255(なん)だか()らぬが、256()()ちつかないワイ。257()()がカラツと()けては、258()坂路(さかみち)(やや)安心(あんしん)だが、259(しか)(なが)昨夜(さくや)逃去(にげさ)つた(てき)集団(しふだん)が、260(この)谷路(たにみち)吾々(われわれ)前途(ぜんと)閉塞(へいそく)して、261一人(ひとり)(のこ)らず、262(とりこ)にせむと、263待構(まちかま)へてゐるやうな()がしてならないワ』
264五三公(いそこう)『そりやキツトさうだらうよ。265面白(おもしろ)いぢやないか、266エヽー。267これからが吾々(われわれ)真剣(しんけん)舞台(ぶたい)となるのだ、268そんな弱々(よわよわ)したこと()はずにチツと(しつか)りせぬかい』
269 ()(はな)(とき)しも、270(うま)から転落(てんらく)し、271(あし)(きず)つけた()(おく)れのバラモン(けう)(をとこ)272(やり)(つゑ)につき、273二人(ふたり)(づれ)でヒヨクリ ヒヨクリと(びつこ)をひき(なが)ら、274此処(ここ)(あら)はれて()た。275(この)二人(ふたり)片彦(かたひこ)将軍(しやうぐん)秘書役(ひしよやく)ともいふべき、276マツ、277タツの両人(りやうにん)であつた。278二人(ふたり)純公(すみこう)279五三公(いそこう)(ほこら)(まへ)狛犬然(こまいぬぜん)(すわ)つてゐるのに()()き、280馴々(なれなれ)しく、
281マツ(こう)『ヤア三五教(あななひけう)大先生(だいせんせい)282(はや)うさまで(ござ)います。283夜前(やぜん)大変(たいへん)()苦労(くらう)(ござ)いましたなア。284随分(ずゐぶん)()疲労(くたびれ)になつたでせう。285(わたし)大変(たいへん)疲労(くたびれ)になりました。286これ御覧(ごらん)なさいませ、287一方(いつぱう)のコンパスがチツと(ばか)破損(はそん)(いた)しまして、288(この)手槍(てやり)をコンパス代用(だいよう)に、289無理槍(むりやり)にここ(まで)(くだ)つて()(ところ)です、290此処(ここ)でゆつくりと(やす)んで()かうと(おも)つて(たのし)んで(まゐ)りました。291()(ところ)でお()にかかりました。292()(なか)相身互(あひみたがひ)だから、293貴方(あなた)赤十字(せきじふじ)(はん)衛生隊(ゑいせいたい)思召(おぼしめ)して吾々(われわれ)両人(りやうにん)看護(かんご)をして(くだ)さいな。294()れば貴方(あなた)のお召物(めしもの)には(まる)(じふ)がついてゐる。295キツと白十字(はくじふじ)(しや)救護班(きうごはん)(おも)ひますが、296(ちが)ひますかな』
297五三公(いそこう)『アハヽヽヽ此奴(こいつ)面白(おもしろ)(わが)(たう)()だ。298オイ、299コンパスの破損(はそん)先生(せんせい)300ドクトルが(ひと)診察(しんさつ)をしてやらう』
301マツ(こう)『イヤ其奴(そいつ)有難(ありがた)い、302何分(なにぶん)(よろ)しう(たの)みます。303(てき)()味方(みかた)といふのも、304人間(にんげん)勝手(かつて)につけた名称(めいしよう)で、305ヤツパリ(かみ)(さま)()から()れば(みな)兄弟(きやうだい)だからなア』
306純公(すみこう)『ヤアま一人(ひとり)負傷者(ふしやうしや)があるぢやないか』
307マツ(こう)『ハイこれはタツと()ひまして、308片彦(かたひこ)将軍(しやうぐん)秘書役(ひしよやく)ですよ。309(わたし)一寸(ちよつと)新米(しんまい)ではあるが、310(なつ)でもないのに、311ヒシヨ避暑(ひしよ))をやつて()ります。312アハヽヽヽ、313まだまだ七八(しちはち)(にん)負傷者(ふしやうしや)谷底(たにそこ)呻吟(しんぎん)してゐますから、314(ひと)担架隊(たんかたい)でも()して、315此処(ここ)まで()(はこ)び、316(この)(ほこら)臨時(りんじ)野戦(やせん)病院(びやうゐん)として、317治療(ちれう)(あた)へてやつて(もら)ひたいものですなア。318三五教(あななひけう)(てき)でも(たす)けるといふ(をしへ)だと()いたから、319(この)マツ(こう)もスツカリと()(ゆる)し、320(おや)(そば)(かへ)つて()たやうな気分(きぶん)になりました』
321 何程(なにほど)(にく)(てき)でも悪人(あくにん)でも、322(むか)ふの(はう)から打解(うちと)け、323()けつ(はな)しでやつて()られると人間(にんげん)といふものは(めう)なもので、324(なん)となく贔屓(ひいき)がつき、325(わが)()(わす)れて(たす)けてやりたくなるものである。326バラモン(けう)のマツ(こう)327タツ(こう)流石(さすが)片彦(かたひこ)将軍(しやうぐん)秘書(ひしよ)(つと)むる(だけ)あつて、328(さき)んずれば(ひと)(せい)するといふ筆法(ひつぱふ)()呑込(のみこ)んでゐた。329(その)(じつ)()でも蒟蒻(こんにやく)でもいかぬしれ(もの)なのだ。330五三公(いそこう)331純公(すみこう)もそんなことを()らぬ(やう)馬鹿(ばか)ではないが、332(てき)(はう)から()()られると、333()らず()らずの(あひだ)受太刀(うけだち)にならざるを()ないのであつた。
334五三公(いそこう)三五教(あななひけう)独特(どくとく)鎮魂(ちんこん)妙術(めうじゆつ)(ほどこ)してやるから、335()づそこで(よこ)になつて()よ』
336マツ(こう)『イヤ有難(ありがた)う、337三五教(あななひけう)信者(しんじや)はさうなくてはならぬ。338如何(いか)にも()(をしへ)だなア。339博愛(はくあい)主義(しゆぎ)だ。340あゝ(てき)(なが)(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)341カタキ(なが)(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)
342五三公(いそこう)『アハヽヽヽ此奴(こいつ)面白(おもしろ)(やつ)だ。343遺憾(ゐかん)(なが)(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)344イヤイヤ(なが)(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)345仕方(しかた)がない(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)
346マツ(こう)『アハヽヽヽアイタヽヽヽ、347(あま)(わら)ふと、348(ほね)(ひび)いて(いた)くて仕方(しかた)がないワ。349オイ、350タツ(こう)351貴様(きさま)(ひと)治療(ちれう)()けないか、352何程(なにほど)大治療(だいちれう)()けても薬礼(やくれい)()らず、353入院料(にふゐんれう)()らぬのだから、354(かか)湯巻(ゆまき)まで六一(ろくいち)銀行(ぎんかう)無期(むき)徒刑(とけい)にやる必要(ひつえう)もなし、355(きは)めて安全(あんぜん)なものだぞ』
356タツ(こう)(おれ)(きず)余程(よほど)(ふか)いのだから、357さう(ぢき)(なほ)らうかなア』
358五三公(いそこう)『さう心配(しんぱい)をするな。359(おれ)技術(ぎじゆつ)信用(しんよう)してくれ。360白十字(はくじふじ)病院長(びやうゐんちやう)361死学(しがく)博士(はくし)だ、362(せん)(にん)患者(くわんじや)(あつか)つたら、363九百(くひやく)九十九(くじふく)(にん)までは(みな)霊壇(れいだん)(なほ)し、364墓場(はかば)(おく)るのだから、365死学(しがく)博士(はくし)といふのだよ、366随分(ずゐぶん)(えら)(もの)だらう。367そして天国(てんごく)復活(ふくくわつ)さしてやるのだ。368()かさうと(ころ)さうと自由(じいう)自在(じざい)369耆婆(きば)扁鵲(へんじやく)跣足(はだし)()げるといふ大博士(だいはくし)だからなア。370ウツフヽヽヽ』
371マツ(こう)『いい加減(かげん)洒落(しやれ)をやめて、372(はや)(おれ)苦痛(くつう)(たす)けて()れないか。373白十字(はくじふじ)病院(びやうゐん)金看板(きんかんばん)(かか)(なが)(おれ)苦痛(くつう)(よそ)にみて、374仁術者(じんじゆつしや)身分(みぶん)としてクツクツと(わら)(やつ)があるかい、375エーン、376余程(よほど)(この)医者(いしや)(たけのこ)()えるなア』
377純公(すみこう)副院長(ふくゐんちやう)(おれ)がタツ(こう)治療(ちれう)をするから、378五三公(いそこう)さま(いな)院長(ゐんちやう)さま、379貴方(あなた)はマツ(こう)受持(うけも)つて、380完全(くわんぜん)無欠(むけつ)なコンパスにしてやつて(くだ)さい。381どちらが(はや)(なほ)るか(ひと)競走(きやうそう)をやつて()ませうかなア。382有名(いうめい)死学(しがく)博士(はくし)(ばか)りがよつて()るのだからなア、383アハヽヽヽ』
384 マツ、385タツ一度(いちど)に『ウツフヽヽヽ、386アイタヽヽヽ、387アハヽヽヽ、388アイタヽヽヽ』
389マツ(こう)『コリヤ(あま)(わら)はして()れない』
390純公(すみこう)(わら)ふのは病気(びやうき)(くすり)だ。391(わら)(かど)には恢復(くわいふく)(きた)るといつてな、392(おれ)(わら)はすのが得意(とくい)だ。393それが医術(いじゆつ)(おく)()だよ。394イヒヽヽヽ』
395マツ(こう)『モシモシ院長(ゐんちやう)さま、396どうぞ(はや)治療(ちれう)にかかつて(くだ)さいな』
397五三公(いそこう)貴様(きさま)(うち)には(いへ)もあるだろ。398田地(でんぢ)(くら)(はやし)もあるだらうなア』
399マツ(こう)(おれ)だつて片彦(かたひこ)将軍(しやうぐん)秘書役(ひしよやく)(つと)める(くらゐ)だから、400相当(さうたう)地位(ちゐ)名望(めいばう)財産(ざいさん)()つてゐるわい』
401五三公(いそこう)『ウンさうか、402其奴(そいつ)掘出(ほりだ)(もの)だ。403早速(さつそく)(なほ)すと(おれ)商売(しやうばい)干上(ひあが)つて(しま)うワイ。404コーツと、405いつやらの(はなし)だ……(ある)(ところ)医者(いしや)があつた、406大変(たいへん)ようはやる医者(いしや)で、407山井(やまゐ)養仙(やうせん)さまといつて名高(なだか)いものだつた、408其奴(そいつ)一人(ひとり)山井(やまゐ)養洲(やうしう)といふ弟子(でし)があつた。409そこへ土地(とち)富豪(ふがう)病気(びやうき)(かか)養仙(やうせん)(くすり)服用(ふくよう)してゐた。410(すこ)()くなると(また)(わる)くなる、411(また)()くなる(また)(わる)くなる。412(さん)(ねん)(ばか)りもブラブラして、413養仙(やうせん)(くすり)(かみ)のやうに(おも)つて服薬(ふくやく)してゐた。414或時(あるとき)養仙(やうせん)二三(にさん)(にち)急用(きふよう)出来(でき)て、415他行(たぎやう)した不在(ふざい)()に、416書生(しよせい)養洲(やうしう)()(その)(をとこ)留守(るす)師団長(しだんちやう)気分(きぶん)診察(しんさつ)し、417(くすり)をもり(あた)へた(ところ)418三日目(みつかめ)にスツカリ全快(ぜんくわい)してお(れい)にやつて()よつた。419四五(しご)(にち)たつと、420養仙(やうせん)先生(せんせい)帰宅(きたく)したので、421書生(しよせい)養洲(やうしう)()422したり(がほ)で……先生(せんせい)あの松兵衛(まつべゑ)を、423貴方(あなた)不在中(るすちう)(わたし)診察(しんさつ)して(くすり)をもりましたら、424三日目(みつかめ)にスツカリ全快(ぜんくわい)し、425最早(もはや)(くすり)(した)しむ必要(ひつえう)がないから、426(れい)()ましたと()つて、427薬価(やくか)勘定(かんぢやう)し、428チツと(ばか)菓子料(くわしれう)()いて(かへ)りました。429これが菓子料(くわしれう)(ござ)いますと差出(さしだ)し、430()められるかと(おも)ひの(ほか)養仙(やうせん)()(かど)()て……(おほ)馬鹿者(ばかもの)ツ、431貴様(きさま)医者(いしや)資格(しかく)はない……と呶鳴(どな)りつけた。432そこで養洲(やうしう)むきになり……医者(いしや)仁術(じんじゆつ)といつて、433(ひと)病気(びやうき)(たす)けるのが商売(しやうばい)ぢやありませぬか、434何故(なぜ)(しか)(あそ)ばすか……といへば、435養仙(やうせん)一寸(ちよつと)ダラ(すけ)をねぶつたやうな(かほ)して……貴様(きさま)馬鹿(ばか)だなア。436松兵衛(まつべゑ)(うち)にはまだ(くら)もある、437(いへ)山林(さんりん)田畑(でんぱた)(のこ)つて()るぢやないか、438エーン、439さう(はや)(なほ)して()うなるか、440彼奴(あいつ)財産(ざいさん)全部(ぜんぶ)(おれ)(ふところ)這入(はい)るまでは(なほ)されぬのだ、441バカツ……と()つたさうだ、442(じつ)(えら)医者(いしや)だ。443(その)心得(こころえ)がなくては、444如何(どう)しても院長(ゐんちやう)にはなれないワ。445さうだから(おれ)(その)養仙(やうせん)さまに(なら)つて、446貴様(きさま)負傷(ふしやう)如何(どう)ともヨウセンのだ、447アハヽヽヽ、448イヒヽヽヽ』
449マツ(こう)『エヘヽヽヽ、450イヽイタイ イタイ イタイ イタイ、451ウツフヽヽアイタヽヽヽ』
452タツ(こう)『エヘヽヽヽアイタヽヽヽ』
453純公(すみこう)『それ(だけ)(わら)つたら、454やがて本復(ほんぷく)するだらう。455マア安心(あんしん)したがいいワ』
456タツ(こう)『オイ藪医(やぶい)先生(せんせい)457何時(いつ)になつたら(なほ)るだらうかなア』
458純公(すみこう)『マアマア一寸(ちよつと)予後(よご)不良(ふりやう)だから、459計算(けいさん)がつかぬワイ。460すべて(やまひ)には……エヘン……二大別(にだいべつ)がある。461(いち)先天性(せんてんせい)疾病(しつぺい)といひ、462(いち)後天性(こうてんせい)疾病(しつぺい)()ふ。463(しか)して予後良(よごりやう)あり不良(ふりやう)あり、464良不良(りやうふりやう)(けつ)(がた)きものありだ。465()すべき(やまひ)と、466()すべからざる(やまひ)と、467治不治(ぢふぢ)(けつ)(がた)(やまひ)と、468自然(しぜん)放擲(はうてき)して()いて(なほ)(やまひ)四種類(よんしゆるゐ)ある。469それから内科(ないくわ)外科(げくわ)産科(さんくわ)(わか)れてゐる。470(また)婦人科(ふじんくわ)小児科(せうにくわ)といふのも(この)(ごろ)はふえて()た。471そして(くすり)には内服用(ないふくよう)外用(ぐわいよう)大別(たいべつ)され、472頓服剤(とんぷくざい)必要(ひつえう)があり、473食塩(しよくえん)注射(ちうしや)にモルヒネ注射(ちうしや)474(この)(ごろ)六〇六(ろくぴやくろく)注射(ちうしや)(まで)(ひら)けて()たのだ、475エーン。476随分(ずゐぶん)医者(いしや)になるのも学資(がくし)()るよ。477狂歌(きやうか)(せん)(にん)(ころ)して医者(いしや)になる(やつ)は、478(おのれ)一人(ひとり)(くち)すぎもならず……といふのだから、479(おれ)だつて(いま)まで九百(くひやく)九十九(くじふく)(にん)まで(ころ)してきたのだ。480一人(ひとり)(ころ)せば一人前(いちにんまへ)医者(いしや)になるのだ。481それだから丁度(ちやうど)貴様(きさま)一人(ひとり)霊前(れいぜん)(なほ)す、482有体(ありてい)にいへば(ころ)すのだ。483そこで(はじ)めて(この)純公(すみこう)一人前(いちにんまへ)のドクトルになるのだからなア。484(なん)とよい研究(けんきう)材料(ざいれう)出来(でき)たものだ。485アハヽヽヽ』
486マツ(こう)『アハヽヽヽ何時(いつ)()にか(おれ)足痛(そくつう)(しり)()かけて遁走(とんそう)したと()えるワイ。487オイ、488タツ(こう)貴様(きさま)もいい加減(かげん)(なほ)つたら如何(どう)だ。489イヒヽヽヽ』
490五三公(いそこう)『コリヤなまくらな、491足痛(そくつう)真似(まね)をしてゐたのだな。492仕方(しかた)のない(やつ)だ』
493マツ(こう)『さうだから、494(いた)いか(いた)くないか診察(しんさつ)してくれと()つたぢやないか。495(じつ)(ところ)負傷者(ふしやうしや)だといつて、496(まへ)(たち)同情(どうじやう)()ひ、497ここを無事(ぶじ)通過(つうくわ)する(つも)りだつたが、498(あま)貴様(きさま)言分(いひぶん)()にいつたから、499(なに)もかも白状(はくじやう)するワ。500(じつ)全軍(ぜんぐん)逃走(たうそう)した後始末(あとしまつ)をつけて(かへ)つて()たのだ。501(あし)はかうして繃帯(はうたい)()いてゐるが、502チツとも怪我(けが)してゐないのだよ、503のうタツ(こう)504アハヽヽヽ』
505五三公(いそこう)『アハヽヽこいつア誤診(ごしん)だつた』
506マツ(こう)誤診(ごしん)()親切(しんせつ)()らぬが、507打診(だしん)もないやうだつたね』
508五三公(いそこう)随分(ずゐぶん)聴診(ちやうしん)にのつて大変(たいへん)失敗(しつぱい)をした。509サア(これ)から貴様(きさま)望診(ぼしん)々々(ぼしん)()つたらどうだ。510問診(もんしん)(みち)片彦(かたひこ)()うたら、511死学(しがく)博士(はくし)(よろ)しう()つて()たと()うて()れ、512アーン』
513マツ(こう)『オイオイ院長(ゐんちやう)さま、514なぜ(はな)(した)をさう()でてゐるのだ。515(めう)恰好(かつかう)ぢやないか』
516五三公(いそこう)『ウン(これ)かい。517(ひげ)はないけれど、518気分(きぶん)だけは(はち)()(ひげ)()んでゐる(つも)りだ。519アハヽヽ』
520純公(すみこう)『オイ、521モウ病院(びやうゐん)(あそ)びはやめにしようかい。522そしてゆつくりと軍話(いくさばなし)でもしたらどうだ。523随分(ずゐぶん)面白(おもしろ)いだらうよ』
524マツ(こう)敗軍(はいぐん)(しやう)525(へい)(かた)る……かな。526葬礼(さうれい)すんで医者話(いしやばなし)(おな)(こと)だが、527これも成行(なりゆき)だ。528ここで(ひと)物語(ものがたり)をやつてみよう。529随分(ずゐぶん)(いさぎよ)いぞ、530エツヘヽヽヽ』
531五三公(いそこう)(なん)気楽(きらく)(やつ)(そろ)うたものだなア。532丁度(ちやうど)(ほこら)(まへ)()(にん)打揃(うちそろ)ひ、533軍談(ぐんだん)(はじ)めるのも面白(おもしろ)からう。534アヽ愉快(ゆくわい)愉快(ゆくわい)だ』
535 マツ(こう)講談師(かうだんし)気取(きどり)になつて長方形(ちやうはうけい)(いは)(まへ)(すわ)り、536鉄扇(てつせん)にて(いは)をビシヤビシヤ(たた)(なが)(うな)()した。
537マツ公『ハルナの(みやこ)()(たか)き、538梵天(ぼんてん)帝釈(たいしやく)自在天(じざいてん)539大黒主(おほくろぬし)といふ智勇(ちゆう)兼備(けんび)勇将(ゆうしやう)あり。540それに(したが)英雄(えいゆう)豪傑(がうけつ)541綺羅星(きらほし)(ごと)()(なら)び、542(なか)にもわけて大黒主(おほくろぬし)三羽烏(さんばがらす)(きこ)えたる鬼春別(おにはるわけ)将軍(しやうぐん)543大足別(おほだるわけ)将軍(しやうぐん)544マツ(こう)将軍(しやうぐん)こそは英雄中(えいゆうちう)英雄(えいゆう)なり。545(この)(たび)斎苑(いそ)(やかた)天地(てんち)(かがや)神徳(しんとく)(たか)き、546(さけ)(かん)素盞嗚(すさのをの)(みこと)547数多(あまた)軍勢(ぐんぜい)(ひき)つれ、548アブナイ(けう)組織(そしき)して、549大黒主(おほくろぬし)(まも)らせ(たま)ふ、550(てん)(かがや)(つき)(くに)551五天竺(ごてんぢく)をば蹂躙(じうりん)(いきほひ)益々(ますます)猖獗(しやうけつ)(きは)天下(てんか)騒然(さうぜん)として(あさ)(ごと)くに(みだ)れ、552人民(じんみん)塗炭(とたん)()(おちい)りぬ。553(しか)(ところ)へ、554(また)もやデカタン高原(かうげん)北方(ほつぱう)なるカルマタ(こく)に、555盤古(ばんこ)神王(しんわう)塩長彦(しほながひこ)(ほう)じて(あら)はれ()でたる、556ウラル(けう)常暗彦(とこやみひこ)軍勢(ぐんぜい)557雲霞(うんか)(ごと)く、558地教山(ちけうざん)背景(はいけい)とし、559(あつ)まりゐる。560(いま)天下(てんか)三分(さんぶん)せむとするの(いきほひ)なれば、561何条(なんでう)(もつ)大黒主(おほくろぬし)(ゆる)(たま)ふべき、562三羽烏(さんばがらす)征夷(せいい)大将軍(たいしやうぐん)(にん)じ、563大足別(おほだるわけ)はカルマタ(こく)へ、564鬼春別(おにはるわけ)斎苑(いそ)(やかた)へ、565テンデに部署(ぶしよ)(さだ)め、566進軍(しんぐん)真最中(まつさいちう)なり。567(あき)(やうや)(ふか)くして木々(きぎ)(こずゑ)はバラバラバラバラ、568()りゆく無残(むざん)光景(くわうけい)(こころ)にもとめず、569数多(あまた)軍勢(ぐんぜい)(ひき)つれて、570先鋒隊(せんぽうたい)には片彦(かたひこ)久米彦(くめひこ)両将軍(りやうしやうぐん)571あとから()()一部隊(いちぶたい)は、572ランチ将軍(しやうぐん)573数千騎(すうせんき)(ひき)ゐ、574最後(さいご)本隊(ほんたい)鬼春別(おにはるわけ)将軍(しやうぐん)575全軍(ぜんぐん)指揮(しき)し、576秋風(しうふう)()()(あふひ)(はた)(はやし)(ごと)(ひるがへ)(なが)旗鼓(きこ)堂々(だうだう)()(きた)(その)物々(ものもの)しさ鬼神(きしん)(おどろ)(ばか)(なり)577先陣(せんぢん)(つか)へし片彦(かたひこ)将軍(しやうぐん)(いま)河鹿(かじか)(たうげ)絶頂(ぜつちやう)に、578全軍(ぜんぐん)指揮(しき)(くつわ)(なら)べ、579(ひづめ)(おと)カツカツカツ、580(すず)(おと)シヤンコ シヤンコと、581威風(ゐふう)堂々(だうだう)あたりを(はら)天地(てんち)(あつ)して(のぼ)()く。582百千万(ひやくせんまん)阿修羅(あしゆら)(わう)進軍(しんぐん)()くやと(おも)はれにける。583(しか)(ところ)豈計(あにはか)らむや、584(おも)ひがけなや、585アタ(こは)や、586三五教(あななひけう)宣伝使(せんでんし)治国別(はるくにわけ)587万公(まんこう)588晴公(はるこう)589五三公(いそこう)木端(こつぱ)武者(むしや)(ひき)つれ、590一卒(いつそつ)(これ)(まも)れば万卒(ばんそつ)(すす)(あた)はざる嶮路(けんろ)(やく)し、591神変(しんぺん)不思議(ふしぎ)言霊(ことたま)速射砲(そくしやはう)(ごと)(うち)かけ、592(むか)()(その)(いきほひ)(すさま)じさ。593不意(ふい)(くら)つて味方(みかた)軍卒(ぐんそつ)594(たちま)総体(そうたい)(くづ)れ、595狼狽(うろた)(さわ)いで、596元来(もとき)(みち)へと、597(うま)()()て、598(かぜ)()()()(ごと)く、599バラバラバツと、600(むれ)ゐる千鳥(ちどり)群千鳥(むらちどり)601あはれ果敢(はか)なき次第(しだい)(なり)602無念(むねん)(なみだ)(おさ)(なが)ら、603バラモン(ぐん)武運(ぶうん)のつたなきを(なげ)(かな)しみ、604片彦(かたひこ)将軍(しやうぐん)秘書官(ひしよくわん)605マツ(こう)タツ(こう)両人(りやうにん)は、606(さわ)がず、607(あせ)らず悠々然(いういうぜん)として、608戦場(せんぢやう)(あと)(かた)づけ、609負傷者(ふしやうしや)(いつは)つて、610ここ(まで)やうやう(かへ)りける。611アハヽヽヽ、612エー(あと)如何(いかが)なりまするか、613実地(じつち)検分(けんぶん)(うへ)ボツーボツと講談(かうだん)(つかまつ)りますれば、614明晩(みやうばん)何卒(なにとぞ)十二分(じふにぶん)()ヒイキを(もつ)て、615賑々(にぎにぎ)しく()来聴(らいちやう)あらむことを希望(きばう)いたします。616チヨン チヨン チヨンだ』
617 五三公(いそこう)618純公(すみこう)619タツ(こう)一度(いちど)大口(おほぐち)をあけ、
620五三公、純公、タツ公『アハヽヽヽ』
621(はら)(かか)へ、622(ころ)げて(わら)ふ。
623大正一一・一一・二八 旧一〇・一〇 松村真澄録)

王仁三郎が著した「大作」がこれ1冊でわかる!
飯塚弘明・他著『あらすじで読む霊界物語』(文芸社文庫)
絶賛発売中!

目で読むのに疲れたら耳で聴こう!
霊界物語の朗読 ユーチューブに順次アップ中!
霊界物語の音読まとめサイト
オニド関連サイト最新更新情報
10/22【霊界物語ネット】王仁文庫 第六篇 たまの礎(裏の神諭)』をテキスト化しました。
5/8【霊界物語ネット】霊界物語ネットに出口王仁三郎の第六歌集『霧の海』を掲載しました。
このページに誤字・脱字や表示乱れなどを見つけたら教えて下さい。
返信が必要な場合はメールでお送り下さい。【メールアドレス
合言葉「みろく」を入力して下さい→