霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第七章 曲輪玉(まがわのたま)〔一三二二〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第51巻 真善美愛 寅の巻 篇:第2篇 夢幻楼閣 よみ:むげんろうかく
章:第7章 第51巻 よみ:まがわのたま 通し章番号:1322
口述日:1923(大正12)年01月25日(旧12月9日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年12月29日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
文助は階段を十二三階上がったところで妖幻坊とぶつかり、顔を引っ掻かれて引き倒されてしばらく気が遠くなっていた。気が付くと、懐に何か蜂の巣のような音がする、丸い塊が入っていた。
目の悪い文助は、てっきり妖幻坊の杢助がいたずらに蜂の巣を懐に入れたのだろうと思い、受付に戻って傍らにあった板箱に入れてしまった。箱がかたかたいって飛び上がったり唸りがひどくなっても、八のせいだと思っていた。
一方、妖幻坊は自分の変相術に必須の曲輪の玉を落としたことに気が付いた。妖幻坊は体の具合が悪くなってきた。この曲輪の玉は、肌を離れてから一昼夜経つと、変相が解けて本性が現れてしまう。またスマートが雷のような声で唸ったので、路傍の芝生の上に倒れてしまった。
高姫が追いついてきたので、妖幻坊は自分は斎苑の館から奪ってきた如意宝珠を小北山に落としてきたようだ、とごまかした。妖幻坊は文助と衝突したときに思い当り、初と徳がやってくると、二人に小北山に戻って玉を取ってくるように命じた。
初と徳は仕方なく小北山の受付に戻り、文助が事情を知らないのをいいことに玉を奪おうとしたが、文助は二人の態度に頑なになってしまった。徳が文助と格闘している間に、初は音をたよりに玉の入った箱を探りだし、箱ごと懐に入れた。
二人は小北山を逃れると、ようやく命からがら怪志の森の妖幻坊と高姫のところに戻ってきた。妖幻坊は二人が玉の箱を持ってきたので満足したが、高姫は如意宝珠の玉だと聞いていたので、また執着心を出して玉を欲しがった。
妖幻坊は、後で必ず見せるとその場をごまかして逃れた。妖幻坊は先を急ごうとしたが、初と徳がへばってこれ以上進むことができなかった。一同は野宿をすることにしたが、初と徳が寝込んでしまうと、高姫は妖幻坊を促し、森を抜けて浮木の里を指して走り出した。
主な登場人物: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日: OBC :rm5107
愛善世界社版:101頁 八幡書店版:第9輯 302頁 修補版: 校定版:103頁 普及版:48頁 初版: ページ備考:
001 階段(かいだん)十二三階(じふにさんかい)()がつた(ところ)で、002文助(ぶんすけ)妖幻坊(えうげんばう)(かほ)をひつかかれ、003突倒(つきたふ)され、004ウンと(うめ)いて、005(しばら)くは()(とほ)くなつてゐた。006それ(ゆゑ)007(あと)から(はし)つた高姫(たかひめ)(はつ)008(とく)(こと)はチツとも()らなかつた。009依然(いぜん)として、010彼等(かれら)一同(いちどう)教主館(けうしゆやかた)休息(きうそく)()るものとのみ(かんが)へてゐた。011ヤツと()()()れば、012(ふところ)何物(なにもの)(はち)()のやうな(こゑ)(きこ)えて()る。013文助(ぶんすけ)は、
014『ハテ此奴(こいつ)不思議(ふしぎ)だ。015杢助(もくすけ)さまに衝突(しようとつ)して()(とほ)くなり逆上(のぼ)せて()るのかなア』
016(おも)ひながら、017(ふところ)()()れると、018(あま)(おも)くない、019(まる)(かたまり)(もの)(ふところ)(のこ)つてゐた、020周囲(まはり)石綿(いしわた)のやうに(やはら)かく、021そして(みみ)へあてて()ると「ウーン、022ウン」と(うな)つてゐる。023文助(ぶんすけ)少時(しばらく)(てのひら)()せたり、024(みみ)()てたりして(かんが)へてゐた。025そしてハタと片手(かたて)(ひざ)()ち、
026『ヤ、027此奴(こいつ)ア、028(はち)()だ。029うつかり(やぶ)らうものなら、030(この)(わる)()(この)(うへ)()されちやたまらぬ。031杢助(もくすけ)さまも随分(ずいぶん)悪戯好(いたづらず)きだな、032(ひと)()()えぬかと(おも)うて、033(ふところ)へつつ()んで()つたのだな。034(あま)りエライ(いきほひ)でおりて()たものだから、035(わたし)衝突(しようとつ)して、036それでつき(たふ)されたのだ。037(なん)だか(かほ)がピリピリする。038(いし)(かほ)をすり()いたと()える』
039(ひと)判断(はんだん)してゐる。
040『そして(にぎ)りつぶしちや(はち)可愛相(かあいさう)だ、041(しか)しながら、042そこらに()つておけば(ひと)がいたづらすると(こま)る、043此奴(こいつ)(ひと)つ、044御玉筥(みたまばこ)(なか)へでも()れておかうかなア。045ウン、046(さいは)ひ、047ここに(まり)空箱(あきばこ)がある。048丁度(ちやうど)具合(ぐあひ)がよささうだ』
049()ひながら、050あつい板箱(いたばこ)(たま)()れ、051荒白苧(あらさを)(かた)(むす)び、052自分(じぶん)座右(ざう)において、053(また)もや(まつ)()()()()きさしを、054せつせと彩色(ゑど)つてゐた。055(はこ)はカタカタと自然(しぜん)飛上(とびあが)るのを(べつ)(あや)しとも(おも)はず、056(はち)非常(ひじやう)にあばれてをるのだと早合点(はやがてん)し、057(その)(うへ)珍石(ちんせき)風鎮(ふうちん)()せておいた。058(うな)りはますます(はげ)しくなつて()た。
059『ハハア、060(はち)がたうとう()(やぶ)つて()よつたとみえる、061エーエー(はち)()(やぶ)つたやうだといふが、062いかにも(やかま)しいものだなア』
063独語(ひとりご)ちつつ、064(また)もや絵筆(ゑふで)をせつせと(はし)らしてゐる。
065 (はなし)(かは)つて妖幻坊(えうげんばう)()げしなに、066自分(じぶん)変相術(へんさうじゆつ)必要(ひつえう)()(べか)らざる曲輪(まがわ)(たま)を、067どつかにおとし、068(にはか)(からだ)具合(ぐあひ)(わる)くなつて()た。069(この)曲輪(まがわ)(はだ)(はな)れてから一昼夜(いつちうや)()てば、070変相(へんさう)(あら)はれるのである。071そして(やま)(うへ)からスマートが(らい)(ごと)(こゑ)(うな)つたので、072ペタリと路傍(ろばう)芝生(しばふ)(うへ)(たふ)れて(しま)つた。073そこへ高姫(たかひめ)一生懸命(いつしやうけんめい)()()き、
074『コレ杢助(もくすけ)さま、075(まへ)さまはこんな(ところ)(たふ)れてゐるのかいな、076サアサア()きなさい()きなさい、077どつこも怪我(けが)はありませぬかなア』
078 妖幻坊(えうげんばう)は、079(ふところ)(さぐ)り、080曲輪(まがわ)のない(こと)()がつき、081蒼白(まつさを)(かほ)をし、
082『ヤ、083失敗(しま)つた、084肝腎(かんじん)(たから)(うしな)つて(しま)つた。085これがなければ(たちま)正体(しやうたい)(あら)はれるがなア、086ああ如何(どう)したらよからうかなア』
087『コレ杢助(もくすけ)さま、088正体(しやうたい)(あら)はれると(いま)仰有(おつしや)つたが、089ソラ一体(いつたい)(なん)(こと)ですか。090そして曲輪(まがわ)とか、091(いま)()はれたやうだが、092(その)曲輪(まがわ)(なに)をするものですか』
093『ウン、094これは一名(いちめい)金剛不壊(こんがうふゑ)如意宝珠(によいほつしゆ)()つて、095あれさへあれば、096()(なか)自由自在(じいうじざい)になるのだ。097それをたうとう(おと)して(しま)つたのだ、098ああ(こま)つた(こと)をしたわい』
099(なに)100金剛不壊(こんがうふゑ)如意宝珠(によいほつしゆ)? それはお(まへ)さま、101何処(どこ)から()()れたのだい。102(わたし)(その)宝珠(ほつしゆ)については随分(ずいぶん)苦労(くらう)したものだよ。103一旦(いつたん)(わたし)(はら)呑込(のみこ)んだ(こと)があるのだからな、104それをお(まへ)さまが()つてゐたとは、105因縁(いんねん)といふものは(こは)いものだな。106如何(どう)して、107杢助(もくすけ)さま、108貴方(あなた)のお()()りましたか』
109(わし)総務(そうむ)をやつてゐたものだから、110始終(しじう)斎苑(いそ)(やかた)のお宝物(たからもの)として監督(かんとく)してゐたのだ。111それをば此方(こちら)()がけに、112ソツと(もの)して()たのだよ』
113『それを()うしたと()ふのだい』
114『どうも小北山(こぎたやま)でおとして()たやうだ。115(たしか)階段(かいだん)(くだ)(とき)には(ふところ)にあつたやうに(おも)ふが、116あの文助(ぶんすけ)行当(ゆきあた)つた(とき)に、117彼奴(あいつ)()られたかも()れない。118ああ(むか)ふの()()るからは最早(もはや)取返(とりかへ)(こと)出来(でき)まい。119反対(あべこべ)に、120あちらからあれを使(つか)はれようものなら、121()うする(こと)出来(でき)ぬからのう』
122杢助(もくすけ)さま、123そんな気楽(きらく)(こと)()うてをれますか。124仮令(たとへ)()(なか)飛込(とびこ)まうが、125(みづ)(なか)(はい)らうが、126取返(とりかへ)さなくちや、127思惑(おもわく)()たぬぢやありませぬか。128(その)(たま)さへあれば三五教(あななひけう)崩壊(ほうくわい)させ、129ウラナイ(けう)天下(てんか)にするのは朝飯前(あさめしまへ)仕事(しごと)ぢやないか、130何程(なにほど)吾々(われわれ)があせるよりも、131(その)(たま)(ひと)つがどれだけ(はたら)きをするか(わか)りますまい。132(これ)から(わたし)調(しら)べて()ます。133もしも文助(ぶんすけ)()つて()つたら、134ひつたくつて()ますから』
135『イヤ、136あの(たま)はお(まへ)なんぞが、137いらふものぢやない、138(ひと)がいらふと()えて(しま)ふからな』
139馬鹿(ばか)(こと)()ひなさるな、140(わたし)だつて一度(いちど)()()つた(こと)もあり、141(くち)()んだ(こと)もあるのだ。142滅多(めつた)()える気遣(きづか)ひはありませぬぞや。143サ、144これから(わたし)取返(とりかへ)して()ませう』
145(なん)()つても、146(まへ)此処(ここ)(うご)いちや()かない、147此処(ここ)()つてくれ。148何時(いつ)スマートがやつて()るか、149(わか)つたものぢやないから』
150『ヘン、151スマートスマートて、152(なん)ですか、153ありや四足(よつあし)ぢやありませぬか』
154(おれ)はあの(いぬ)(かぎ)つて、155(あたま)(いた)くつて仕方(しかた)がないのだ』
156(はなし)してゐる。157そこへハアハアと(いき)(はづ)ませながら、158(はつ)159(とく)両人(りやうにん)(やうや)追付(おつつ)いた。
160妖幻(えうげん)『ヤ、161(はつ)162(とく)163(まへ)はついて()たのか、164ああ(えら)いものだ。165ヤツパリ(おれ)たちの味方(みかた)だ』
166(はつ)『ハイ、167もうあなた、168かうなつちや、169(わたし)だつて小北山(こぎたやま)には()られませぬ。170貴方(あなた)(がた)のお世話(せわ)になるより仕方(しかた)がないと(おも)つて、171(あと)()つかけて(まゐ)りました』
172高姫(たかひめ)『ああ(とく)()()るぢやないか』
173『ハイ、174何卒(どうぞ)(よろ)しう(ねが)ひます。175到底(たうてい)小北山(こぎたやま)へは(かへ)(かほ)(ござ)いませぬからな。176貴方(あなた)(がた)御世話(おせわ)になるより、177最早(もはや)活路(くわつろ)(ござ)いませぬ』
178『お(まへ)179御苦労(ごくらう)だが、180一寸(ちよつと)一度(いちど)181小北山(こぎたやま)まで()つて()(もら)へまいかな』
182(はつ)『ヘー、183()かぬこた(ござ)いませぬが、184(なに)かお(わす)れにでもなつたのですか』
185杢助様(もくすけさま)一寸(ちよつと)した、186(まる)いものを(おと)して(ござ)つたのだ。187大方(おほかた)188あの文助(ぶんすけ)(ひろ)うて()るに(ちが)ひないから、189(まへ)うまくチヨロまかして、190文助(ぶんすけ)()から受取(うけと)つて()(くだ)さい。191いい()だからな』
192『ヘー、193()かぬこた(ござ)いませぬが、194(また)(しり)三百(さんびやく)(たた)かれちや(たま)りませぬから、195小北山(こぎたやま)ばかりはこらへて(もら)ひたいものですな。196約束(やくそく)(やぶ)つて、197貴女(あなた)本当(ほんたう)(たた)いたものですから、198(あし)(いた)くつて、199ここまで(はし)つて()るのが並大抵(なみたいてい)のこつちやなかつたですよ。200(この)(いた)(あし)で、201あのきつい(さか)(ふたた)(のぼ)れとは、202チツと(ひど)いですな。203(とく)204(まへ)()うだ。205おれとは余程(よほど)(きず)(かる)いやうだから、206一寸(ちよつと)使(つかひ)()つて()てくれまいかなア』
207(とく)(おれ)だつて、208貴様(きさま)より余程(よつぽど)きついぞ。209どうも(いた)くつて、210いのこがさして、211(ろく)(ある)かれやしないワ。212(あし)丸切(まるき)(ぼう)のやうになつて(しま)つたよ』
213『それなら二人(ふたり)()つて()(くだ)さいな。214少々(せうせう)ばかり(おそ)くなつても(かま)はないから、215(わたし)(むか)ふの怪志(あやし)(もり)で、216杢助(もくすけ)さまと、217神様(かみさま)(いの)つて()つてゐるから……』
218 二人(ふたり)不承々々(ふしようぶしよう)(きびす)(かへ)し、219(あし)をチガチガさせながら竹切(たけぎ)れを(ひろ)つて(つゑ)となし、220一本橋(いつぽんばし)(あやふ)(わた)り、221小北山(こぎたやま)急坂(きふはん)(のぼ)つて、222(やうや)受付(うけつけ)(まへ)()つた。223()れば文助(ぶんすけ)一生懸命(いつしやうけんめい)()()いてゐる。
224(はつ)『もし文助(ぶんすけ)さま、225(まへ)さま、226最前(さいぜん)はひどうこけましたなア、227どつこもお怪我(けが)はありませなんだかなア』
228『ハイ有難(ありがた)う、229杢助(もくすけ)さまが、230(あま)(いきほひ)よく(さか)(くだ)つて(ござ)るのに、231(わたし)()(わる)いものだからヨボヨボして(あが)るのと、232(ほそ)階段(かいだん)だから、233衝突(しようとつ)し、234はね()ばされて、235チツとばかり、236こんな(きず)をしました。237ピリピリして仕方(しかた)がないのだ。238それでも神様(かみさま)のお(かげ)で、239御神水(ごしんすい)をつけたら余程(よつぽど)(いた)みが()まりましたよ。240今晩(こんばん)はお(つち)をドツサリ(いただ)いて(やす)まして(もら)はうと(おも)つてゐるのだ』
241『ヤア、242(なん)とえらい(きず)だな、243爪形(つめがた)(はい)つて()るぢやないか』
244(とが)つた(いし)沢山(たくさん)()いてあるものだから、245こんなに(きずつ)いたのだよ。246杢助(もくすけ)さまは教主館(けうしゆやかた)にゐられるだらうな。247そして高姫(たかひめ)さまも機嫌(きげん)がよいかなア』
248 初公(はつこう)文助(ぶんすけ)が、249まだ杢助(もくすけ)250高姫(たかひめ)(など)逃出(にげだ)した(こと)()らぬものと(さと)り、251(やや)安心(あんしん)(むね)をなで、
252『ハイ、253(いま)(おく)(やす)んでゐられますよ。254そして、255エー、256文助(ぶんすけ)さまに衝突(しようとつ)してすまなかつたから、257(ことわ)りを()つて()てくれと仰有(おつしや)るのですよ。258杢助(もくすけ)さまも()がまはるとか()つて(やす)んでゐられます、259高姫(たかひめ)さまも介抱(かいほう)して(ござ)るものだから、260貴方(あなた)にお(うかが)ひにも()かれないからと()つてくれと()はれました』
261『それはマア御親切(ごしんせつ)有難(ありがた)いことだ。262何卒(どうぞ)(よろ)しう、263文助(ぶんすけ)()つて()つたと(つた)へて(くだ)さい。264ああ神様(かみさま)のお(みち)(かた)は、265(なに)から(なに)までよく()()くものだなア』
266(とき)文助(ぶんすけ)さま、267(まへ)さま(なに)不思議(ふしぎ)なものを(ひろ)はなかつたかな』
268(べつ)(なん)にも(ひろ)つた(おぼえ)はないが、269杢助(もくすけ)さまと衝突(しようとつ)した(とき)270(わたし)(ふところ)(めう)(こゑ)がするので(さぐ)つて()れば、271(はち)()のやうなものが()()たのだ。272そしてそれを(みみ)にあてて()ると、273ブンブンブンと(うな)つてゐる。274此奴(こいつ)杢助(もくすけ)さまが土窩蜂(どかばち)()(にぎ)つて()て、275(わたし)吃驚(びつくり)ささうと(おも)つて、276(わたし)(ふところ)捻込(ねぢこ)んだのだな。277エエ(とし)してテンゴする(ひと)だと(おも)つてゐる。278(しか)何程(なにほど)年寄(としよ)つても、279神様(かみさま)のお(みち)(はい)ると子供(こども)のやうになるから、280つい(たれ)しも悪戯(いたづら)のしたくなるものだ』
281(その)(はち)()とやらを一寸(ちよつと)()せて(くだ)さらぬか』
282『イヤイヤそんな(もの)いらつて、283()うなるものか。284(わたし)はそこらへ(はち)()られちや大変(たいへん)だと(おも)つて、285(はこ)(なか)()れて(しま)つたのだ。286どうやら(はち)()(やぶ)つたとみえて、287(やかま)しい(こと)いの。288こんなものをいぢつたら、289それこそ一遍(いつぺん)()()されて(しま)ひますよ』
290(とく)(その)(はち)()是非(ぜひ)とも()せて(いただ)きたいものだな、291()されたつて(かま)やしないぢやないか』
292『イヤ、293おきなさい おきなさい、294(まへ)さまばかりの難儀(なんぎ)ぢやない、295こんな(ところ)であばれられようものなら、296(たれ)もかれも大変(たいへん)()()はねばならぬ。297それだから(わし)がチヤンと(はこ)()れてしまつておいたのだ』
298(はつ)何卒(どうぞ)一遍(いつぺん)299(その)(はこ)なつと()せて(くだ)さいな。300(なか)まで()けようとは()ひませぬから……』
301『イヤイヤ、302前達(まへたち)(わた)してたまらうか、303(これ)直接(ちよくせつ)杢助様(もくすけさま)にお(わた)しするのだ。304(やす)みになつて()れば、305(いづ)れお()()めるだらう。306(その)時私(わたし)()づから御渡(おわた)しする(つも)りだ。307これは(はち)()のやうだが、308よくよく(かんが)へると、309(なに)かの(たから)らしいから、310(まへ)さまに(わた)すこたア出来(でき)ませぬワイ。311たつて(わた)せと()ふなら、312杢助様(もくすけさま)から(なに)(しるし)をもつて()(くだ)さい、313さうすりや(その)(しるし)引替(ひきかへ)(わた)しませう。314(あと)から面倒(めんだう)(おこ)ると文助(ぶんすけ)(こま)るからなア』
315『ああ(こま)つた(こと)だなア、316(なん)とかして()つて()ななくちや駄目(だめ)だぞ』
317『コレ、318(まへ)(なん)といふ(こと)仰有(おつしや)る。319どこへ()つて()ぬのだい』
320杢助(もくすけ)さまのお居間(ゐま)まで()つて(かへ)つて、321(その)ブンブン(だま)をお(なぐさ)みにするのだ。322さうすればお()(なぐさ)めになつて、323(はや)くお(なほ)りになるだらうからな』
324『それ(ほど)必要(ひつえう)なら、325(これ)から(わたし)が、326つい五間(ごけん)(ばか)りだから、327杢助(もくすけ)さまのお居間(ゐま)へお(たづ)(まを)して、328直接(ちよくせつ)()(わた)しませう。329(とほ)(ところ)ではなし、330面倒(めんだう)手続(てつづ)きもいらないから……』
331『オイ、332初公(はつこう)333此奴(こいつ)(とて)駄目(だめ)だぞ。334直接(ちよくせつ)行動(かうどう)だ。335(この)文助(ぶんすけ)押倒(おしこか)しといて()つて()かうぢやないか』
336『ヘン、337(えら)さうに()ふない、338(わたし)(かく)してあるのだから、339(くち)から(そと)()さぬ(かぎ)り、340(まへ)たちが二年(にねん)三年(さんねん)かかつて(さが)した(ところ)で、341(その)所在(ありか)(わか)つてたまるものか。342(なん)でも、343あれは結構(けつこう)神力(しんりき)()つてゐる(たから)(ちが)ひない、344(わたし)()()うてゐるのかも()れない。345(なん)だか(にはか)()しくなつて()た。346杢助(もくすけ)さまが(わたし)()(たふ)してまで、347(ふところ)()れてくれたのだから、348(いま)になつて(かへ)せと()つたつて、349権利(けんり)此方(こちら)(うつ)れば最早(もはや)文助(ぶんすけ)(もの)だ。350滅多(めつた)(かへ)しませぬぞや』
351 (この)(とき)(そば)において風呂敷(ふろしき)(かく)してあつた玉箱(たまばこ)が、352ウーンウーンと一層(いつそう)(たか)(うな)()した。353二人(ふたり)は、
354『ヤ、355(なん)でも(この)(ちか)くにあるらしいぞ。356オイ、357(この)盲爺(めくらぢい)貴様(きさま)358突倒(つつこか)して(おさ)へてをれ、359(その)()(おれ)捜索(そうさく)するから……』
360『コリヤ、361()がみえなくても、362まさかの(とき)になればコレ(この)(とほ)り、363(こま)かい()()(おれ)だぞ。364(おれ)はワザとに(めくら)()つて、365貴様(きさま)たちの様子(やうす)(かんが)へて()るのだ。366(めくら)でない証拠(しようこ)(この)()をみい、367これでも(わか)るだろ。368そして柔道(じうだう)百段(ひやくだん)免状取(めんじやうと)りだ。369前達(まへたち)十人(じふにん)百人(ひやくにん)(たば)になつて()たとて、370こたへるやうな文助(ぶんすけ)ぢやないぞ。371(この)(たま)はブンブンいふから文助(ぶんすけ)(さづ)かつた文助玉(ぶんすけだま)だぞ。372貴様(きさま)(たち)(わた)すべき(もの)ぢやない、373秋口(あきぐち)()のやうにブンブンぬかさずに、374すつ()んでゐなさい。375それよりも(はや)炊事場(すゐじば)()つて、376御飯(ごはん)用意(ようい)でもしたがよからうぞや。377ゴテゴテ(まを)すと、378松姫(まつひめ)さまに申上(まをしあ)げるぞえ』
379(はつ)『ヤア、380此奴(こいつ)ア、381一寸(ちよつと)グツが(わる)いワイ。382柔道(じうだう)百段(ひやくだん)()いちやア、383滅多(めつた)手出(てだ)しは出来(でき)ぬぞ。384(おれ)(しり)さへ(いた)くなけりや、385こんな(ぢい)さまの一人(ひとり)二人(ふたり)(なん)でもないが、386だんだん()れて()(ある)けないからな』
387(とく)『それでも杢助(もくすけ)さまや高姫(たかひめ)さまが怪志(あやし)(もり)()つて(ござ)るぢやないか』
388『ナニ、389怪志(あやし)(もり)()つて(ござ)ると。390ハハア、391さうすると、392松姫(まつひめ)(さま)(しか)られて、393()げよつたのだなア、394フーン、395それで(なん)だか(いぬ)がワンワン()いて()つたて』
396『オイ初公(はつこう)397此奴(こいつ)398()()えるなんて(うそ)だよ。399(なん)でも(この)間中(まぢう)(さが)せばあるのだ。400貴様(きさま)401(この)(ぢい)(ひと)格闘(かくとう)してをれ、402(その)()(おれ)(さが)すから』
403(おれ)(からだ)自由(じいう)にならぬから、404ヤツパリ貴様(きさま)405文助(ぶんすけ)格闘(かくとう)してをれ、406(その)()にマンマと(たま)(さが)()して()つて()くから……』
407『ヨーシ』
408(とく)文助(ぶんすけ)(あし)をさらへ、409(その)()(たふ)した。410文助(ぶんすけ)実際(じつさい)()()えぬのである。411一生懸命(いつしやうけんめい)文助(ぶんすけ)呶鳴(どな)りながら、412(とく)格闘(かくとう)をしてゐる。413(とく)(しり)がはれ、414(あし)自由(じいう)(うご)かぬので、415(めくら)文助(ぶんすけ)()(おさ)へられ、416フーフーいつて()る。417初公(はつこう)(おと)のするのを(みみ)をすまして(かんが)へてゐたが、418(まへ)にするかと(おも)へば(うしろ)(きこ)える、419(みぎ)(きこ)えたり(ひだり)(きこ)えたり、420(あたま)(うへ)(きこ)えたり(また)床下(ゆかした)のやうでもあり、421チツとも見当(けんたう)がつかなかつた。422そこへ二人(ふたり)がドタン、423バタンと(さわ)(おと)424(わめ)(こゑ)がゴツチヤになつて、425如何(どう)しても処在(ありか)(わか)らない。426フト風呂敷(ふろしき)(つまづ)いた拍子(ひやうし)に、427(ふる)四角(しかく)(はこ)()()た。428手早(てばや)()()つて(みみ)にあてると、429ウンウンウンと(うな)つてゐる。430初公(はつこう)は、
431『ヤ、432これに間違(まちが)ひない』
433(ふところ)捻込(ねぢこ)み、434文助(ぶんすけ)(あたま)()()つこついた。435文助(ぶんすけ)はビツクリして()(はな)した、436トタンに徳公(とくこう)(やうや)(のが)れ、437初公(はつこう)(とも)(あし)をチガチガさせながら、438坂路(さかみち)()ふやうにして(くだ)つて()く。439(やうや)くにして(いのち)カラガラ怪志(あやし)(もり)(かへ)つて()た。440そして手柄(てがら)さうに妖幻坊(えうげんばう)(まへ)(あら)はれ、
441両人(りやうにん)『ヘー、442やつとの(こと)で、443只今(ただいま)(かへ)りました』
444妖幻(えうげん)『ヤ、445それは御苦労(ごくらう)だつた、446(わか)つたかなア』
447(はつ)『ヘー、448中々(なかなか)(わか)りませぬ。449文助(ぶんすけ)(やつ)450どつかへ(かく)して(しま)ひ、451すつたもんだと、452小理窟(こりくつ)ばかり(ぬか)して、453そんな(もの)()らぬといふのです。454そこで(わたし)徳公(とくこう)が、455(なに)()らぬ(はず)があるものか、456(その)ブンブン(だま)(わた)せと左右(さいう)よりつめよりますと、457あの文助(ぶんすけ)458柔道(じうだう)百段(ひやくだん)免状取(めんじやうとり)ですから、459はしかいの、460はしこないのつて、461吾々(われわれ)両人(りやうにん)(みぎ)()(ひだり)()げ、462手玉(てだま)()つて翻弄(ほんろう)(いた)します。463(わたし)(つね)なら、464あんな(ぢぢ)(くらゐ)指一本(ゆびいつぽん)(おさ)へてやるのですが、465(なに)しろお(まへ)さまらに()たれて(この)(とほ)()(あが)つたものだから、466(その)(うへ)(また)(いた)(しり)(たた)かれ、467イヤハヤ(くる)しい()(いた)しました』
468『それはさうと、469(たま)()()つたのか。470どうだ、471(はや)くいはぬか』
472『ヘー、473(この)ブンブン(だま)は、474ブンブンいふから文助(ぶんすけ)因縁(いんねん)がある、475これは杢助(もくすけ)さまが(わたし)にくれたのだ。476(わたし)突飛(つきと)ばしてまで(ふところ)捻込(ねぢこ)んで(くだ)さつたのだから、477(かへ)せというても、478何処(どこ)までも(かへ)さないと頑張(ぐわんば)ります。479そして(この)(たま)(はじ)めは(はち)()かと(おも)つてゐたが、480(けつ)してさうではない、481結構(けつこう)(たから)だと()つて、482あの(ぢい)483執着心(しふちやくしん)(つよ)く、484(なん)()うても(かへ)さないのです』
485高姫(たかひめ)『エーエ、486雉子(きぎす)直使(ひたづかひ)とはお(まへ)(こと)だ。487(なに)をさしても(やく)にたたぬ(をとこ)だな、488(まへ)さまは睾丸(きんたま)何処(どこ)(おと)したのだ』
489(はつ)『ヘー、490(あま)(しり)(たた)かれたものですから、491ビツクリしてどつかへ転宅(てんたく)して(しま)ひました』
492(とく)(しか)両人(りやうにん)奮戦(ふんせん)激闘(げきとう)火花(ひばな)()らし、493(たたか)ひの結果(けつくわ)494戦利品(せんりひん)として、495(その)ブンブン(だま)をここへ()つて(かへ)りました。496イザ、497(あらた)めて、498受取(うけと)(くだ)さいませう』
499(なん)だ、500本当(ほんたう)(はら)(わる)い、501(きも)をつぶしたぢやないか。502(はや)此処(ここ)へお()し、503コレ杢助(もくすけ)さま、504(よろこ)びなさい。505此奴等(こいつら)二人(ふたり)506(ろく)でなしだと(おも)つて()つたが、507みんごと(やく)()つたやうです』
508妖幻(えうげん)『オイ両人(りやうにん)509本当(ほんたう)(その)(たま)取返(とりかへ)して()たのか』
510『ヘーヘ、511それは流石(さすが)(はつ)さまですワイ』
512(それがし)文助爺(ぶんすけぢい)大格闘(だいかくとう)(えん)じてゐる、513(その)(すき)初公(はつこう)(めい)じてぼつたくらしたのですよ』
514『それは御苦労(ごくらう)だつた、515どうぞ、516サ、517(はや)(おれ)(ふところ)へソツと()れてくれ』
518高姫(たかひめ)一寸(ちよつと)(わたし)()せて(くだ)さい、519如意宝珠(によいほつしゆ)(たま)なれば(わたし)因縁(いんねん)があるのだ、520(しん)()一遍(いつぺん)調(しら)べておく必要(ひつえう)があるから、521サ、522チヤツと()せなさい』
523『イヤ(けつ)して()せちやならないぞ、524直様(すぐさま)(わし)(わた)すのだ、525高姫(たかひめ)(わた)すと、526一寸(ちよつと)都合(つがふ)(わる)(こと)がある、527(これ)(たれ)にも(わた)さないといふ(たま)だから』
528『ヘン、529よう仰有(おつしや)いますワイ。530初公(はつこう)(いま)(げん)()つて(かへ)つたぢやありませぬか。531女房(にようばう)(わたし)何故(なぜ)一寸(ちよつと)(くらゐ)()られぬのです。532(まへ)さまに(かへ)さぬといふぢやなし、533そんな水臭(みづくさ)(こと)()ふものぢやありませぬぞや』
534『それでもお(まへ)は、535大変(たいへん)如意宝珠(によいほつしゆ)執着心(しふちやくしん)()つてゐるから、536(わた)せないと()ふのだ。537(この)宝珠(ほつしゆ)はチツとも(よく)のない(もの)()たなくちや(けが)れるからな』
538『ヘン、539(けが)れますかな。540それなら、541よう(わたし)のやうな(けが)れた(をんな)(さけ)()んだり、542一緒(いつしよ)(やす)んだりなさいますな。543(なん)とマア(くち)といふものは調法(てうはふ)なものだ。544それ(ほど)(わたし)(にく)いのですか。545ヘン、546(よろ)しい、547(わたし)(わたし)で、548(かんが)へがありますから』
549『さう(おこ)つて(もら)つちや(こま)るぢやないか。550(いま)()せなくても、551かうして立派(りつぱ)(はこ)(はい)つてるのだから、552トツクリと(また)()せてやるぢやないか。553オイ(はつ)554(とく)両人(りやうにん)555(なか)()けて()たか、556()うだ』
557(はつ)『エエ滅相(めつさう)な、558かうブンブン(うな)つてるのだから、559うつかり()けて(はち)にでも()されたら大変(たいへん)ですからな、560コハゴハ()つて()たのですよ』
561『ヤア、562そりや()かした、563それで結構(けつこう)だ。564オイ高姫(たかひめ)さま、565(また)今晩(こんばん)ゆつくりと、566(まへ)だけに()せるから、567それまで()つてゐてくれ。568ここで()けると、569(この)両人(りやうにん)()るからなア。570さうすりや、571それだけ神力(しんりき)がおちるのだから』
572成程(なるほど)573それなら(わか)りました。574キツト()せて(くだ)さるでせうなア』
575『ウン、576(をとこ)一旦(いつたん)()せると()つたら()せるよ』
577『キツトですなア』
578『ウン、579キツトだ。580もし間違(まちが)つたら、581(おれ)(ひと)つよりない(くび)を、582(いく)つでもお(まへ)進上(しんじやう)する。583(なん)()つても、584(した)しい夫婦(ふうふ)(なか)ぢやないか、585さう(おれ)(こころ)(うたが)ふものぢやないワ』
586(まこと)()みませぬ。587サ、588(もく)ちやま、589モウちつと(ばか)先方(むかふ)まで()きませうか』
590(はつ)『もし杢助(もくすけ)さま、591高姫(たかひめ)さま、592(わたし)(あし)(いた)くつて、593一歩(いつぽ)(ある)けぬやうになりました。594どうぞ此処(ここ)今晩(こんばん)露宿(ろしゆく)して(くだ)さいな』
595(とく)(わたし)(ある)けませぬ。596(あま)(しり)(たた)かれたものですから、597どうぞ明日(あす)(あさ)まで、598ここでとまる(こと)にして(くだ)さい、599さうすれば明日(あす)になつたら、600キツト(ある)けるやうになるでせうから』
601高姫(たかひめ)『エーエ、602仕方(しかた)のない(をとこ)だなア。603コレ杢助(もくすけ)さま、604ここに、605今晩(こんばん)(とま)つてやりませうか。606二人(ふたり)(あま)可愛相(かあいさう)ぢやありませぬか』
607妖幻(えうげん)『ああ仕方(しかた)がないなア。608せめてモウ一里(いちり)(ばか)り、609()うとかして(ある)くことが出来(でき)ぬのか。610オイ両人(りやうにん)611チツと()をはりつめて、612モウ一里(いちり)(ばか)()いて()たら()うだ』
613(はつ)(なん)()つて(もら)つても、614とても(からだ)(うご)きませぬワ』
615『ウーン、616そいつア(こま)つたのう。617(とく)()うだ、618チツと(くらゐ)(ある)けるだろ』
619(わたし)だつて、620(おな)(こと)ですわ、621(はつ)(きず)よりも余程(よつぽど)ひどいのですからなア。622本当(ほんたう)貴方(あなた)(がた)(ひど)()()はしましたねえ。623八百長(やほちやう)芝居(しばゐ)がこんなにならうとは(おも)ひませなんだ。624(いま)こそ()()つて()りますが、625(じつ)(ところ)(いた)くつて(いた)くつて仕方(しかた)がありませぬワ』
626高姫(たかひめ)『あああ、627これも(かか)(あは)せだ。628仕方(しかた)がない、629それなら(この)(もり)で、630今晩(こんばん)一夜(いちや)()かす(こと)にしませう。631なア杢助(もくすけ)さま、632貴方(あなた)もさうして(くだ)さいな』
633『ウーン、634それなら、635さうしてもよい。636(しか)し、637高姫(たかひめ)638(まへ)はスマートが()ないやうに()をつけてゐてくれよ。639(おれ)(なん)だか()らぬが、640あれ(くらゐ)()にくはぬ(やつ)はないのだから』
641(わたし)だつて、642彼奴(あいつ)(こゑ)()くと、643(はら)(なか)がデングリ(かへ)るやうに(くる)しいのですよ』
644(はつ)『もし、645二人(ふたり)さま、646(わたし)()(こと)()いて(くだ)さつて、647ここでお(とま)りになるのなれば、648(わたし)(いぬ)(ばん)(いた)します。649(いぬ)なら、650仮令(たとへ)五十匹(ごじつぴき)百匹(ひやくぴき)やつて()たつて、651ビクとも(いた)しませぬ。652(わか)(とき)から犬博労(いぬばくらう)綽名(あだな)()つた(をとこ)です。653随分(ずいぶん)(いぬ)()(あは)せに、654そこら(ぢう)()つたものですから、655(いぬ)(たい)する呼吸(こきふ)充分(じうぶん)呑込(のみこ)んで()りますからなア』
656高姫(たかひめ)『ヤ、657それは重宝(ちようほう)(をとこ)だ。658さうすると、659(まへ)今晩(こんばん)犬番(けんばん)(つと)めて(もら)はうかな。660(きつね)(たぬき)(あつ)まつてゐる芸者屋(げいしやや)でも、661ヤツパリ、662ケン(ばん)がおいてあるからな』
663(はつ)『それなら、664(とく)両人(りやうにん)神妙(しんめう)御用(ごよう)(いた)しませう、665ああ有難(ありがた)有難(ありがた)い、666いよいよ(ほし)蒲団(ふとん)(くさ)(しとね)667といふ段取(だんどり)だ。668(もも)(はな)(かを)りが、669(なん)とはなしに、670()()みるやうだ。671あああ(はや)いものだ、672たうとう()()れたとみえるワイ。673ここは怪志(あやし)(もり)()つて、674化物(ばけもの)()るといふ(こと)だが、675(なん)()つても、676時置師神(ときおかしのかみ)(さま)のお(とも)だから大丈夫(だいぢやうぶ)だ。677そこへ、678あのブンブン(だま)があるのだから、679(なに)()たつて、680チツとも(おそ)るる(こと)はない、681なア(とく)
682『ウン、683さうださうだ、684それなら高姫(たかひめ)(さま)685杢助様(もくすけさま)686(やす)みなさいませ』
687高姫(たかひめ)『コレコレ、688前達(まへたち)689祝詞(のりと)をあげて(やす)まぬかいな。690(わたし)(みたま)(ちが)ふから、691杢助(もくすけ)さまと二人(ふたり)神様(かみさま)(をが)(わけ)には()かない。692(なん)()つても高天原(たかあまはら)霊国(れいごく)天人(てんにん)(みたま)693()出神(でのかみ)義理天上(ぎりてんじやう)だから、694前達(まへたち)八衢(やちまた)にまだうろついてをる、695()はば娑婆亡者(しやばまうじや)だから……天国(てんごく)へやつて(くだ)さるやうに、696()きた(とき)()(とき)には、697(かなら)天津祝詞(あまつのりと)奏上(そうじやう)するのだよ』
698妖幻(えうげん)『イヤ、699両人(りやうにん)700今晩(こんばん)天津祝詞(あまつのりと)免除(めんぢよ)しておく。701沢山(たくさん)天人様(てんにんさま)がお()でになると、702一寸(ちよつと)御挨拶(ごあいさつ)(こま)るからなア、703ハツハハハ』
704『コレ、705今日(けふ)杢助(もくすけ)さまの御挨拶(ごあいさつ)で、706(ゆる)して()げるけれど、707明日(あす)からはキツト天津祝詞(あまつのりと)()げるのだよ』
708 両人(りやうにん)は、
709『ハイ承知(しようち)(いた)しました』
710()ひも(をは)らず、711疲労(くたび)れはてて(よこ)になつた(まま)712白河夜船(しらかはよぶね)()いでゐる。713(その)()高姫(たかひめ)杢助(もくすけ)(うなが)し、714一生懸命(いつしやうけんめい)(もり)()()し、715浮木(うきき)(さと)()して、716(やみ)(みち)韋駄天走(ゐだてんばし)りに駆出(かけだ)した。717高姫(たかひめ)(およ)妖幻坊(えうげんばう)は、718今後(こんご)如何(いか)なる活動(くわつどう)をするであらうか。
719大正一二・一・二五 旧一一・一二・九 松村真澄録)
   
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