霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一五章 (もち)(かは)〔一三三〇〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第51巻 真善美愛 寅の巻 篇:第3篇 鷹魅艶態 よみ:ようみえんたい
章:第15章 餅の皮 よみ:もちのかわ 通し章番号:1330
口述日:1923(大正12)年01月26日(旧12月10日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年12月29日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
高姫は宮子を外に出すと、鏡の前で自分を映して悦に入っていた。着物を脱いで鏡に映していると、侍女の少女たちに化けていた豆狸が戸の開いたところから侵入し、飛びついた。高姫は驚いてひっくり返ってしまった。
あわただしく着物を直し、なおも鏡に向かってうぬぼれていると、戸の隙間から宮子が半ば狸の正体を現し、どんぐりのような目でにらんでいる。高姫は思わずコラッと叫んだ。宮子はおどろいてその場を立ち去った。
高姫がなおも鏡の前で自惚れながら独り言で蠑螈別を懐かしんでいると、宮子が戸を外から叩いた。宮子は言われるままに庭園を散歩してきたのだ、と高姫に答え、どんぐりの目の怪物を自分も見たと報告した。
高姫は、宮子と共にパンと葡萄酒の食事をとり、宮子の耳をはばかって、それとわからないように蠑螈別を思う恋の歌を歌った。宮子は高姫の様子を見て、蠑螈別の名前を出して探りを入れた。高姫は、蠑螈別は自分と妖幻坊を付け狙う三五教の仇だとごまかした。
すると戸の外から、妖幻坊の高宮彦がやってくると五月が知らせる声がした。高姫は宮子に命じて部屋を片付けさせた。
主な登場人物: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:
愛善世界社版:216頁 八幡書店版:第9輯 344頁 修補版: 校定版:223頁 普及版:99頁 初版: ページ備考:
001 高姫(たかひめ)宮子(みやこ)(とも)(わが)居間(ゐま)(かへ)り、002(すぐ)襠衣(うちかけ)をぬぐ(はず)だが、003一度(いちど)自分(じぶん)盛装(せいさう)した姿(すがた)をトツクリと()てからでなくては()しいと(おも)つたか、004(かがみ)(まへ)にスツクと()ち「ウーン」と()つたきり、005わが姿(すがた)()とれてゐる。006宮子(みやこ)高姫(たかひめ)(うしろ)行儀(ぎやうぎ)よく(すわ)つてゐた。007高姫(たかひめ)益々(ますます)感心(かんしん)して「ウーン ウーン」と(いき)()め、008(あま)気張(きば)つて感心(かんしん)したので、009(うへ)()(いき)裏門(うらもん)破裂(はれつ)し「ブブブブーツ」と法螺貝(ほらがひ)()いた。010宮子(みやこ)はビツクリして「クスクス」と(はな)()らせながら、011二歩(ふたあし)三歩(みあし)(あと)しざりした。012(この)宮子(みやこ)()けた化物(くわいぶつ)妖幻坊(えうげんばう)片腕(かたうで)で、013数千年(すうせんねん)(ごふ)()獅子(しし)のやうな古狸(ふるだぬき)であつた。014(たちま)(はな)(ゆが)むやうな(やつ)()きかけられ、015(おも)はず()らず正体(しやうたい)一部(いちぶ)(あら)はして、016クスクスと()つたのである。017高姫(たかひめ)四辺(あたり)見廻(みまは)し、
018『アレマア、019(みや)ちやまとした(こと)が、020行儀(ぎやうぎ)(わる)い、021こんな(ところ)でオナラを(だん)じたり、022ホホホホホ』
023『アレマア、024(かあ)さまとした(こと)が、025自分(じぶん)がオナラをひりながら、026殺生(せつしやう)だワ』
027『コレコレ宮子(みやこ)さま、028(まへ)侍女(じじよ)ぢやないか。029侍女(こしもと)といふものは、030主人(しゆじん)がオナラを(だん)じた(とき)に、031不調法(ぶてうはふ)(いた)しましたと自分(じぶん)引受(ひきう)けるのだよ、032それが侍女(こしもと)第一(だいいち)(つと)めだからな。033これから()七回(しちくわい)八回(はちくわい)()るかも()れないから、034(その)(とき)はキツトお(まへ)さまがあやまるのだよ』
035『それでも(わたし)036閉口(へいこう)だワ』
037(たぬき)のやうに、038クスクスなんて、039これから(わら)つちや()けませぬぞや』
040『それでも、041(かあ)さま、042(あま)(くさ)かつたので、043(たぬき)()かと(おも)つたのよ』
044『コレ(みや)さま、045一寸(ちよつと)(そと)(あそ)びにいつて()ておくれ、046(かあ)さまはチツトばかり、047内証(ないしよう)(よう)があるから』
048『ヘヘヘヘ(うま)(こと)仰有(おつしや)いますワイ。049(わたし)(そと)()しておいて、050(また)自惚鏡(うぬぼれかがみ)(まへ)で、051独言(ひとりごと)()つて(よろこ)ぶのでせう』
052『どうでも(よろ)しい、053(まへ)さまは子供(こども)だから、054やつさなくても(うつく)しいのだ。055(をんな)身嗜(みだしな)みが肝腎(かんじん)だからなア。056(くろ)(かほ)(みだ)れた(かみ)を、057(をつと)(ひと)()せるのは失礼(しつれい)だ。058(をんな)として(つつ)しむべきことは第一(だいいち)身嗜(みだしな)みだから、059(まへ)さまが()ると、060()がひけて、061十分(じふぶん)化粧(けしやう)出来(でき)ないから、062半時(はんとき)ばかり、063田圃(たんぼ)へいつて(あそ)んで()なさい。064田圃(たんぼ)(とほ)ければ、065一遍(いつぺん)城内(じやうない)庭園(ていゑん)をみまはつて()(くだ)さい』
066『それなら()つて(まゐ)ります、067十分(じふぶん)おやつしなさいませ』
068『エー、069いらぬ(こと)()ひなさるな、070トツトとお()きんか』
071『ハーイ』
072とワザと(こは)さうに(こし)(かが)め、073()ふやうにしてドアの(そと)飛出(とびだ)し、074()()つポンポンポンと足踏(あしぶ)みをして床板(ゆかいた)()らし、075それから(おな)(ところ)をドスドスドスと一歩(いつぽ)々々(いつぽ)(ひく)くし、076(とほ)くへ()つたやうなふりを(よそほ)うた。077高姫(たかひめ)足音(あしおと)がだんだん(ひく)くなるので、078廊下(らうか)(つた)つて(あそ)びに()つたものと(おも)ひ、079やつと安心(あんしん)して自惚鏡(うぬぼれかがみ)立向(たちむか)うた。080そして(あま)一心(いつしん)になつてゐたので、081ドアの()いてあるのに()がつかなかつた。082宮子(みやこ)観音開(くわんおんびらき)のドアの三角型(さんかくがた)(ひら)いた一寸(いつすん)ばかりの(すき)から、083(まる)()()いて(なか)様子(やうす)(うかが)つてゐた。
084『あああ、085(なん)とマア、086()れば()(ほど)087フツクリとした(ほほ)べた、088それに(べに)うつりのよい(くちびる)089天教山(てんけうざん)木花姫(このはなひめ)のやうな(はな)(かたち)090(すず)をはつたよな目許(めもと)に、091新月(しんげつ)(まゆ)092(ゆき)(はだ)093耳朶(みみたぶ)のフツサリとした、094(かみ)()(つや)のよさ、095なぜマア造化(ざうくわ)(かみ)は、096(わたし)(ばか)りにこんな美貌(びばう)(あた)へて、097世間(せけん)(をんな)には、098可愛相(かあいさう)に、099あんな不器量(ぶきりやう)(かほ)(あた)へたのだらう。100どう(かんが)へてみても、101背恰好(せかつかう)といひ、102(たか)からず、103(ひく)からず、104(ふと)からず、105(こま)からず、106(にく)(やはら)かにしてシマリあり、107(この)(ゆび)だつて、108一節々々(ひとふしひとふし)109(うめ)(つぼみ)(ひら)きかけのやうだワ。110(つめ)(いろ)瑪瑙(めなう)のやうだし、111ああ神様(かみさま)112(わたし)はなぜにこれ(ほど)(うつく)しいのでせう、113イヤイヤさうではあるまい、114義理天上(ぎりてんじやう)()出神(でのかみ)生宮(いきみや)だから、115ヤツパリ人間(にんげん)ではないのだ。116杢助(もくすけ)さまが、117(まへ)高天原(たかあまはら)最奥霊国(さいあうれいごく)天人(てんにん)だと仰有(おつしや)つた。118成程(なるほど)119それで人間(にんげん)とはすべての(てん)(ちが)ふのだ。120あああ、121(かほ)()ばかり()()つた(ところ)で、122自分(じぶん)姿(すがた)全部(ぜんぶ)(しら)べてみなくちや(わか)るものぢやない。123ドレドレ侍女(こしもと)のをらぬのを(さいはひ)に、124赤裸(まつぱだか)となつて、125肉体(にくたい)曲線美(きよくせんび)(しら)べてみようかな』
126独語(ひとりご)ちつつ、127着物(きもの)全部(ぜんぶ)()ぎ、128(かがみ)打向(うちむか)ひ、
129『ヤア、130どこからどこまで完全無欠(くわんぜんむけつ)なものだ。131乳房(ちぶさ)のフツクリとした、132そしてツンモリとしてゐる(ところ)133(なん)としたいい恰好(かつかう)だらう。134(むね)扇形(あふぎがた)になり、135(こし)のあたりは(はち)のやうだワ。136そして(しり)はポツクリと(まる)(まる)(ふと)り、137(はだ)のツヤは瑠璃光(るりくわう)のやうだし、138膝頭(ひざがしら)位置(ゐち)から(きびす)との距離(きより)139大腿骨(だいたいこつ)(ふと)さ、140(なが)さ、141どつから()ても、142これ(くらゐ)理想的(りさうてき)出来(でき)身体(からだ)は、143マアあるまい。144ドレドレ肝腎(かんじん)如意(によい)のお(たま)も、145(ひと)(かがみ)(うつ)してみませうかなア』
146とパサパーナをやる(とき)のやうなスタイルで、147一生懸命(いつしやうけんめい)御玉(みたま)をうつしてゐる。
148『ああ恰好(かつかう)のいい(こと)149ホホホホ、150こんな(ところ)(ひと)にみられちや、151大変(たいへん)だがな、152(しか)(この)御殿(ごてん)(なか)から(ひら)かなくちや、153(そと)から(ひら)かぬのだから都合(つがふ)()くしてあるワイ』
154夢中(むちう)になつて(かがみ)(うつ)してゐる。155八人(はちにん)少女(せうぢよ)()けてゐた豆狸(まめだぬき)は、156(めう)(にほ)ひがするので、157()のあいた(ところ)からスツと侵入(しんにふ)し、158ドブ(がひ)()(ごろ)(くさ)つたのが()ちてゐると(おも)つて、159矢庭(やには)()()いた。160高姫(たかひめ)はキヤツと(おどろ)き、161赤裸(まつぱだか)(まま)ひつくり(かへ)つた。162豆狸(まめだぬき)(おどろ)いて、163(くも)(かすみ)()()して(しま)つた。
164(この)座敷(ざしき)には、165(ごふ)()(ねづみ)がゐると()える、166うつかり(はだか)にはなつては()れまい。167どつかで(ねこ)()でも(もら)つて()()つておかねば、168夜分(やぶん)(ろく)()られたものぢやない、169アイタタタタ、170杢助殿(もくすけどの)貴重品(きちようひん)(だい)なしにして(しま)つた』
171(あわただ)しく着物(きもの)()かへ、172チヤンと(ふり)(なほ)して、173(なほ)自惚(うぬぼ)れながら、174ソツと入口(いりぐち)()れば、175観音開(くわんのんびらき)()三角型(さんかくがた)(そと)(ひら)き、176二寸(にすん)ばかりのスキから、177宮子(みやこ)(なかば)正体(しやうたい)(あら)はし、178団栗(どんぐり)のやうな()(にら)んでゐる。179高姫(たかひめ)(おも)はず、
180『コラツ』
181(さけ)んだ。182宮子(みやこ)はビツクリして、183(その)()立去(たちさ)つた。
184『まるでここは化物屋敷(ばけものやしき)みたやうな(ところ)だ。185あのドアを(たしか)()めてある(はず)だのに、186(おと)もせずにあいて田螺(たにし)(にら)んでゐた。187(ことわざ)にも美人(びじん)には()がさすといふ(こと)がある。188(わたし)(あま)(うつく)しいものだから、189(ねづみ)田螺(たにし)までが秋波(しうは)(おく)るのかなア。190それ(ほど)恋慕(こひした)うて()るのに、191(わたし)(なん)とか挨拶(あいさつ)をしてやりたいけれど、192こればつかりは、193博愛主義(はくあいしゆぎ)実行(じつかう)する(こと)出来(でき)ぬ。194(あい)といふものは普遍的(ふへんてき)195公的(こうてき)のものだが、196恋愛(れんあい)となると一人愛(いちにんあい)(かぎ)遍狭(へんけふ)(あい)だから、197何程(なにほど)森羅万象(しんらばんしやう)(わたし)()れた(ところ)で、198こればかりは仕方(しかた)がない。199天地(てんち)万物(ばんぶつ)200(かなら)(かなら)高姫(たかひめ)(あい)するのはよいが、201恋愛(れんあい)などはしてくれな。202(いま)高姫(たかひめ)天地万有(てんちばんいう)(むか)つて宣示(せんじ)しておく(ほど)に、203ホツホホホ、204(あま)自惚(うぬぼ)れすぎて、205エライ(こと)()つたものだ。206(しか)しながら事実(じじつ)事実(じじつ)だから仕方(しかた)がない。207あんな(とし)のよつた姿(すがた)(とき)でも、208秋波(しうは)(おく)つてくれた蠑螈別(いもりわけ)さまに、209一度(いちど)(この)姿(すがた)()せて()げたいものだなア。210ああ、211ママならぬは浮世(うきよ)だ。212かかる金殿玉楼(きんでんぎよくろう)に、213尊貴(そんき)(きは)栄耀(えいえう)(きは)めて、214(しか)義理天上(ぎりてんじやう)()出神(でのかみ)215霊国(れいごく)第一(だいいち)天人(てんにん)(あら)はれた()でさへも、216()(なか)(まま)にならぬ(こと)があるものだなア。217双六(すごろく)(さい)河鹿川(かじかがは)(なが)れと蠑螈別(いもりわけ)さまとの密会(みつくわい)は、218(この)高姫(たかひめ)(まま)にならぬ(ところ)だ、219モウ(ひと)(こま)るのは三五教(あななひけう)宣伝使(せんでんし)(ども)だ。220(しか)しながら(うへ)()れば(かぎ)りなし、221(した)みれば(ほど)なし、222マアここらで満足(まんぞく)せなくちやなりますまい。223てもさても幸福(かうふく)()(うへ)ぢやなア。224(この)(うへ)杢助(もくすけ)さまがコレラでも(わづら)つてコロツと()てくれた(その)(あと)へ、225蠑螈別(いもりわけ)さまがヌツケリとお()しにならば、226それこそ(なに)()(こと)がないけれどなア。227北山村(きたやまむら)でスキ(やき)(なべ)真中(まんなか)に、228ハモや(たひ)玉子(たまご)のあばれ()ひ、229(かう)ばしい(さけ)()うて、230(きつね)のやうに釣上(つりあが)つた蠑螈別(いもりわけ)さまの目元(めもと)をみた(とき)愉快(ゆくわい)であつた。231せめて()ぬまでに、232一度(いちど)233蠑螈別(いもりわけ)さまに、234(この)立派(りつぱ)御殿(ごてん)()うて()たいものだなア』
235何時(いつ)()にか(こゑ)(たか)くなり、236(しやべ)()ててゐる。237(そと)からポンポンと(たた)(つぶて)(おと)
238(たれ)だなア、239何用(なによう)だい』
240『ハイ、241(わたし)宮子(みやこ)(ござ)います、242何卒(どうぞ)()けて(くだ)さいな』
243『ササお(はい)りなさい、244いい()だつたな』
245()ひながら、246ドアを(ひら)いて、247宮子(みやこ)引入(ひきい)れ、248(きび)しく()をとぢて(ぢやう)(おろ)した。249高姫(たかひめ)(いま)独言(ひとりごと)を、250もしや宮子(みやこ)()いてゐなかつただらうか、251()かれたら大変(たいへん)だと、252(やや)不安(ふあん)(ねん)にかられながら、
253『コレ(みや)さま、254(まへ)どこへ()つてゐたの、255(あま)(はや)いぢやないか』
256『ハイ、257(かあ)さまが庭園(ていゑん)をまはつて()いと仰有(おつしや)いましたから、258一生懸命(いつしやうけんめい)()うて(まは)りましたの。259そした(ところ)が、260(いぬ)遠吠(とほぼゑ)(きこ)えたので、261ビツクリして()げて(かへ)つて()たのよ』
262()うて(かへ)つたの、263(いぬ)(こゑ)にビツクリしたのと、264まるで(たぬき)(なん)ぞのやうな(こと)()ふぢやないか』
265 宮子(みやこ)はウツカリ(しやべ)つてしまつたと(おも)つたが、266(やや)落着(おちつ)かぬ(てい)で、
267『イーエ、268どつかの(ひと)四這(よつばひ)()つてゐたのよ。269そして(いぬ)(ねづみ)()らないが、270(いど)のあたりを()まれて(はし)つてゐたのを()ましたの』
271高姫(たかひめ)(こと)()らねども、272うまく(その)()をつくらうてみた。273高姫(たかひめ)自分(じぶん)(かがみ)(まへ)赤裸(まつぱだか)となつて身体(からだ)(うつ)してゐた(こと)を、274(ほか)(こと)よそへ()つたのだと(おも)ひ、275(やや)不機嫌(ふきげん)(かほ)しながら、
276『コレ(みや)ちやま、277(まへ)(わたし)(はだか)になつてゐた(ところ)(のぞ)いてゐたのだな』
278『イーエ、279()りませぬワ』
280『それでも、281ドアの(そと)()つてゐただろ』
282『チツとばかり()つてゐましたが、283田螺(たにし)のやうな()()いたものが(むか)ふから()ましたので、284ビツクリして()げました。285そして庭園(ていゑん)一廻(ひとまは)りして()ましたよ』
286『お(まへ)もあの田螺(たにし)のやうな()()たのかい』
287『ハイ()ました。288あれは大方(おほかた)浮木(うきき)(もり)()つた(さる)妄念(まうねん)でせう。289さうでなければ(いぬ)かも()れませぬワ』
290『コレ、291(みや)さま、292(さる)だの(いぬ)だのと、293ここでは()つちや()けませぬよ。294(とう)さまが大変(たいへん)にお(きら)ひだから』
295さる(いや)なのはお(かあ)さまぢやありませぬか、296(とう)さまは(いぬ)(きら)ひなのよ』
297『オホホホホ、298(なん)とマア(くち)達者(たつしや)()だこと』
299如意宝珠(によいほつしゆ)(たま)片割(かたわ)れだもの、300チツとは(くち)達者(たつしや)のよ。301(かあ)さまの(くち)から(はい)つて(くち)から()たのだから、302(その)(くち)がうつつて、303(この)(やう)によくはしやぐのだよ。304(ねえ)さまの(たか)ちやまは懸河(けんが)(べん)305(わたし)富楼那(ふるな)(べん)ですよ』
306 高姫(たかひめ)はキチンと(すわ)り、307パンをパクつき、308宮子(みやこ)にも()つて(あた)へ、309葡萄酒(ぶだうしゆ)二三杯(にさんばい)310グツと(ひつ)かけ、311ホロ()機嫌(きげん)になつて、312(おも)ひを(とほ)(うみ)彼方(かなた)()せ、313蠑螈別(いもりわけ)()(うへ)(あん)(わづら)ひながら、314宮子(みやこ)(みみ)(はばか)つて、315(おも)ひも(ふか)(こひ)(うみ)(うた)(うた)つた。
 
316(おき)(はるか)見渡(みわた)せば
317 (さび)しく(きこ)ゆる(うしほ)()
318 (そら)すみ(わた)青白(あをじろ)
319 (つき)御蔭(みかげ)()海鳥(うみどり)
320 (ほし)(ふか)(つめ)たき(うを)()(ごと)
321 真青(まつさを)(ふる)(うみ)
322 (むね)(とどろ)(こひ)(なみ)
323 (かな)しげに(うた)(つづ)ける
324 (しろ)(なみ)
325 (かぜ)物凄(ものすご)()(わた)
326 (つめ)たい(つき)雲間(くもま)(ふる)
327 (のが)れゆく海鳥(うみどり)
328 (あは)れげな(さけ)(ごゑ)
329 衰弱(すゐじやく)せる(うみ)(なげ)
330 ああ神秘(しんぴ)(うみ)
331 (かな)しき(うた)永久(とこしへ)
332 (いや)永久(とこしへ)(うた)ひつづくる』
 
333(こひ)述懐(じゆつくわい)をもらしてゐる。334(いま)まで杢助(もくすけ)(うつつ)をぬかし、335()かる(うる)はしき金殿玉楼(きんでんぎよくろう)栄華(えいぐわ)(きは)むる()となつては、336またもや(きざ)(こひ)(やみ)337(はげ)しき(ほのほ)(つつ)まれて、338(いま)(かな)しき(なみだ)にかきくれてゐる。339宮子(みやこ)不思議(ふしぎ)さうに高姫(たかひめ)(かほ)()て、
340『アレまアお(かあ)さま、341()いてゐらつしやるの、342(とう)さまが()にくはないのですか』
343『コレ(みや)さま、344(なん)といふ(こと)仰有(おつしや)る、345(てん)にも()にも高宮彦(たかみやひこ)さまのやうな(えら)(ひと)がありますか、346どこに(ひと)欠点(けつてん)のない(をとこ)らしい、347勇壮活溌(ゆうさうくわつぱつ)な、348そして気品(きひん)(たか)い、349筋骨(きんこつ)(たくま)しい、350摩利支天様(まりしてんさま)御霊(おみたま)351勿体(もつたい)ない、352(きら)ふなんて、353そんな(こと)がありますものか』
354『それでもお(かあ)さま、355いま()いてゐたぢやないか』
356『そらさうよ、357よう(かんが)へて御覧(ごらん)なさい。358(とう)さまは(おな)(やかた)()みながら、359女房(にようばう)(そば)にやすんで(くだ)さらぬのだもの。360(わたし)だつてチツとは(さび)しくもなり(かな)しくもなりますワ』
361『それでも蠑螈別(いもりわけ)とか、362(なん)とか()つてゐらつしやつたぢやありませぬか』
363(その)蠑螈別(いもりわけ)といふ(やつ)364(わたし)(かたき)だよ。365(とう)さまを(つね)につけ(ねら)(わる)(やつ)だ。366そして(いま)三五教(あななひけう)にトボけてゐるのだから、367神変不思議(しんぺんふしぎ)(じゆつ)(なら)つて、368何時(いつ)(わたし)()めに()るか(わか)らないワ。369けれども、370モウ()うなつた以上(いじやう)は、371(とう)さまの御神力(ごしんりき)如意宝珠(によいほつしゆ)神力(しんりき)蠑螈別(いもりわけ)往生(わうじやう)させ、372(この)結構(けつこう)(ところ)()せびらかしてやりたい。373エー、374それが出来(でき)ぬが残念(ざんねん)だと(おも)つて()いてゐたのよ。375こんな(こと)をお(とう)さまに()つちやなりませぬぞや』
376(けつ)して、377左様(さやう)(つま)らない(こと)申上(まをしあ)げるやうな馬鹿(ばか)ぢやありませぬワ。378そしてお(かあ)さまのお(そば)可愛(かあい)がつて(もら)つてゐるのだもの、379チツト(くらゐ)(かあ)さまに不都合(ふつがふ)があつても、380(かく)しますワ。381それが母子(おやこ)(じやう)ですからなア』
382成程(なるほど)383(まへ)はヤツパリ(わたし)()だ。384どんな(こと)があつても、385善悪(ぜんあく)(かか)はらず、386(しやべ)つてはなりませぬぞや。387(をんな)()(くち)(つつ)しむのが一番(いちばん)大切(たいせつ)だからなア』
388 ()かる(ところ)(また)もやドアの(そと)から、389五月(さつき)(こゑ)として、
390『モシモシ奥様(おくさま)391宮子様(みやこさま)392旦那様(だんなさま)がお()でになりますから、393此処(ここ)をあけておいて(くだ)さい』
394 高姫(たかひめ)(この)(こゑ)(おどろ)き、395(にはか)(なみだ)()き、396そこらを片付(かたづ)けて、397宮子(みやこ)(めい)じて(ぢやう)(はづ)させ、398高宮彦(たかみやひこ)()(きた)るを(いま)(おそ)しと()つてゐる。
399大正一二・一・二六 旧一一・一二・一〇 松村真澄録)