霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一二章 (おに)(こひ)〔一三七五〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第53巻 真善美愛 辰の巻 篇:第2篇 貞烈亀鑑 よみ:ていれつきかん
章:第12章 第53巻 よみ:おにのこい 通し章番号:1375
口述日:1923(大正12)年02月13日(旧12月28日) 口述場所:竜宮館 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1925(大正14)年3月8日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
鬼春別は剣のつかを握って久米彦を叱責した。久米彦は、女を追い出せと言うなら辞職する、と売り言葉に買い言葉になった。
カルナ姫は、久米彦が軍籍にいるから自分は気に入ったのだが、辞職するなら鬼春別に仕えることにする、と発言した。鬼春別も、久米彦が辞職したら自分が一人で軍隊を統率しなければならなくなるから、利発なカルナ姫を副将軍にそればいい、と勝手な理屈をひねって、カルナ姫を自分のものにしようと野心を起こしだした。
久米彦はあわてて、行きがかり上そう言っただけで辞職するつもりはない、と言い改めた。鬼春別はむっとして、自分は上官の権利で久米彦を免職し、カルナ姫を副将軍にすると言い張った。
二人がにらみ合っていると、鬼春別の副官・スパールが一人の美人を連れて鬼春別に献上しに来た。女の顔を見ると、カルナ姫に勝る美人である。これはヒルナ姫が、やはりカルナ姫と同じ作戦でわざとバラモン軍に捕らえられたのであった。
鬼春別はこれを見て久米彦との矛を収め、ヒルナ姫を自分のテントに連れてこさせた。ヒルナ姫はわざと隣のテントに聞こえるように、自分はビク国の豪農の娘で、カルナ姫は侍女だということを歌ってきかせた。
鬼春別がヒルナ姫とのろけていると、久米彦がやってきた。久米彦は、カルナ姫がヒルナ姫の侍女だと聞いて、ヒルナ姫が鬼春別の妻となったら、自分はその侍女をめとったというkとおが面白くなく、談判に来たのであった。
ヒルナ姫はバラモン軍を内部から瓦解させようとという作戦だから、久米彦にも秋波を送り、気を持たせた。
ついに鬼春別と久米彦は言い争いになり、互いに刀を抜いて切り合いを始めた。様子を聞いて驚いたカルナ姫が鬼春別のテントに飛んできたが、ハルナ姫は目で合図をした。二人はわざと、恐そうにテントの隅で震えている。
副官たちはテントに戻ってくると二人の将軍が刀を抜いて切り合いをしているので驚いて中に割って入り、二人をいさめた。鬼春別と久米彦は潮時と剣をさやにおさめて腰を下ろした。
主な登場人物: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日: OBC :rm5312
愛善世界社版:123頁 八幡書店版:第9輯 548頁 修補版: 校定版:128頁 普及版:62頁 初版: ページ備考:
001 鬼春別(おにはるわけ)厳然(げんぜん)として姿勢(しせい)(ととの)へ、002佩剣(はいけん)(つか)左手(ゆんで)(にぎ)り、003蠑螈(いもり)立上(たちあが)つたやうなスタイルで、
004久米彦(くめひこ)殿(どの)005陣中(ぢんちう)(をんな)引入(ひきい)れる(こと)は、006軍律(ぐんりつ)(うへ)から()ても(ゆる)(べか)らざる(ところ)(ござ)る。007何故(なにゆゑ)(かく)(ごと)美人(びじん)陣中(ぢんちう)(ひき)よせ、008軍務(ぐんむ)(わす)れ、009狂態(きやうたい)(えん)じらるるか』
010久米彦(くめひこ)『ハイ、011拙者(せつしや)軍律(ぐんりつ)(そむ)き、012(をんな)引入(ひきい)れたと()つてお(とが)めになるならば、013是非(ぜひ)(ござ)いませぬ。014只今(ただいま)(かぎ)責任(せきにん)()びて辞職(じしよく)(つかまつ)ります』
015 鬼春別(おにはるわけ)久米彦(くめひこ)将軍(しやうぐん)(いま)辞職(じしよく)されては大変(たいへん)だと(こころ)(おどろ)(なが)らも、016平然(へいぜん)として、
017鬼春別(おにはるわけ)貴殿(きでん)辞職(じしよく)(のぞ)みとあらば、018辞職(じしよく)(ゆる)してもやらう、019(しか)(なが)今日(こんにち)(ゆる)(こと)(まか)りなりませぬ。020一時(いちじ)(はや)(この)(をんな)追出(おひだ)しめされ』
021久米彦(くめひこ)(この)(をんな)追出(おひだ)(くらゐ)ならば、022只今(ただいま)(かぎ)りお(ひま)(いただ)きませう』
023 カルナ(ひめ)二人(ふたり)(なか)葛藤(かつとう)(おこ)さしめ、024バラモン(ぐん)根底(こんてい)から攪乱(かくらん)するは(この)(とき)と、025心中(しんちう)画策(くわくさく)(さだ)め、
026カルナ(ひめ)『これはこれは、027勇壮(ゆうさう)活溌(くわつぱつ)な、028凛々(りり)しき(をとこ)らしき、029(もつとも)敬愛(けいあい)する、030(おと)名高(なだか)英雄(えいゆう)豪傑(がうけつ)031(その)御威勢(ごゐせい)日月(じつげつ)(ごと)鬼春別(おにはるわけ)将軍様(しやうぐんさま)032(はじ)めて御目(おめ)にかかりまする。033(をんな)()として陣中(ぢんちう)()(きた)(こと)は、034軍律上(ぐんりつじやう)不都合(ふつがふ)かは(ぞん)じませぬが、035(わらは)(けつ)して(みづか)(のぞ)んで陣中(ぢんちう)御訪問(ごはうもん)(まを)したのでは(ござ)いませぬ。036ビクトル(さん)神王(しんわう)(もり)参拝(さんぱい)せむと、037一人(ひとり)のお友達(ともだち)(とも)(きた)(をり)しも、038貴方(あなた)部下(ぶか)出会(であ)ひ、039路傍(ろばう)()(たふ)され、040()()かしてゐました。041(じつ)無残(むざん)武士(ぶし)もあるもので(ござ)います。042そこへエミシ、043マルタの士官様(しくわんさま)御通(おとほ)(あそ)ばし、044(わらは)(たす)けて此処(ここ)(おく)(とどけ)(くだ)さいました。045(その)御親切(ごしんせつ)(けつ)して(わす)れは(いた)しませぬ。046(これ)(まつた)将軍様(しやうぐんさま)日頃(ひごろ)御訓練(ごくんれん)御統率(ごとうそつ)(よろ)しきを()たるが(ため)(ござ)いませう。047(わらは)(すく)はれましたのは、048(まつた)鬼春別(おにはるわけ)将軍(しやうぐん)御余光(ごよくわう)感謝(かんしや)(いた)して()ります。049何卒(なにとぞ)々々(なにとぞ)仁慈(じんじ)御心(みこころ)(もつ)て、050(この)陣営(ぢんえい)静養(せいやう)さして(くだ)さいますれば、051(かた)()みまするし、052御飯(ごはん)()かして(もら)ひます。053如何(いか)軍律(ぐんりつ)(きび)しき陣中(ぢんちう)なればとて、054三軍(さんぐん)指揮(しき)(あそ)ばす将軍様(しやうぐんさま)に、055(をんな)がなくては不都合(ふつがふ)(ござ)いませう。056一兵卒(いつぺいそつ)ならばいざ()らず。057(いやしく)尊貴(そんき)()(もつ)て、058仮令(たとへ)軍中(ぐんちう)とはいへ独身生活(どくしんせいくわつ)とは(おそ)()つた(こと)(ござ)います』
059 鬼春別(おにはるわけ)はカルナ(ひめ)阿諛諂侫(あゆてんねい)言葉(ことば)()()けて、060(にはか)態度(たいど)一変(いつぺん)し、061閻魔顔(えんまがほ)(たちま)地蔵顔(ぢざうがほ)(へん)じて(しま)つた。062そして言葉(ことば)やさしく、063カルナに(むか)ひ、
064鬼春別(おにはるわけ)成程(なるほど)065其方(そなた)()はるる(とほ)りだ。066久米彦(くめひこ)将軍(しやうぐん)辞職(じしよく)(いた)すと()ふなり、067さすれば拙者(せつしや)(ただ)一人(ひとり)068(この)軍隊(ぐんたい)統率(とうそつ)するには、069(もつとも)不便(ふべん)(かん)ずる次第(しだい)だ。070其方(そなた)(さつ)する(ところ)071高等教育(かうとうけういく)()けてる(やう)だから、072(をんな)だつて将軍(しやうぐん)(つと)まらない(はず)はあるまい。073只今(ただいま)より久米彦(くめひこ)将軍(しやうぐん)(あと)(おそ)はしめ、074女将軍(ぢよしやうぐん)として(にん)ずるであらう。075伊邪那岐大神(いざなぎのおほかみ)黄泉比良坂(よもつひらさか)(たたか)ひに、076(まつ)(たけ)(うめ)女将軍(ぢよしやうぐん)使(つか)はし、077大勝利(だいしようり)()られた(ため)しもある。078女房(にようばう)としておくのは軍律(ぐんりつ)(そむ)くかは()らねども、079将軍(しやうぐん)として相並(あひなら)軍機(ぐんき)(つく)すは軍律違反(ぐんりつゐはん)でもない』
080勝手(かつて)理窟(りくつ)(ひね)()し、081カルナ(ひめ)自分(じぶん)のものにせむと(はや)くも野心(やしん)(おこ)()した。
082カルナ(ひめ)『ハイ、083有難(ありがた)(ござ)います。084(わらは)久米彦(くめひこ)将軍様(しやうぐんさま)が、085軍籍(ぐんせき)将軍(しやうぐん)としてゐられるのが大変(たいへん)()()りましたので、086(じつ)(ところ)仮情約(かりじやうやく)締結(ていけつ)(いた)しましたなれど、087(をんな)(こころ)(うば)はれ、088千騎一騎(せんきいつき)場合(ばあひ)に、089将軍職(しやうぐんしよく)()するといふやうな(こし)(よわ)いハイカラ男子(だんし)にはホトホト愛想(あいさう)()きまして(ござ)います。090何卒(なにとぞ)鬼春別(おにはるわけ)将軍様(しやうぐんさま)091(あは)れな(をんな)(ござ)いますから何卒(なにとぞ)々々(なにとぞ)可愛(かあい)がつて(いただ)きたう(ござ)います。092(その)(かは)(わらは)はあらむ(かぎ)りのベストを(つく)し、093(その)任務(にんむ)(はづか)しめない(かんが)へで(ござ)います』
094 久米彦(くめひこ)(あわて)てカルナ(ひめ)(くち)()をあてる(やう)(ふう)で、
095久米彦(くめひこ)『イヤイヤ、096カルナ殿(どの)097(けつ)して拙者(せつしや)辞職(じしよく)(いた)さぬ。098御安心(ごあんしん)なされ、099鬼春別(おにはるわけ)将軍(しやうぐん)(あま)拙者(せつしや)恋愛(れんあい)干渉(かんせう)なさるものだから、100つひ()(あが)りになつて、101辞職(じしよく)(いた)すと(まを)したのだよ。102ここ(まで)()()げた地位(ちゐ)を、103さうムザムザと()てる馬鹿者(ばかもの)があるか、104よう(かんが)へてみよ。105吾々(われわれ)自由意志(じいういし)束縛(そくばく)し、106圧迫(あつぱく)せむとする(もの)あらば、107仮令(たとへ)上官(じやうくわん)(いへど)自己保護(じこほご)(ため)()()ててみせる。108マアマア安心(あんしん)(いた)すがよい、109かう()えても拙者(せつしや)沈勇(ちんゆう)だ。110ハツハハハ』
111カルナ(ひめ)『ああさうで(ござ)いましたか、112それを()いてヤツと安心(あんしん)(いた)しました、113(しか)らば貴方様(あなたさま)夫婦(ふうふ)たることを予約(よやく)(いた)しませう。114ねえ久米彦(くめひこ)将軍様(しやうぐんさま)
115 鬼春別(おにはるわけ)はムツとした(かほ)(また)もや(いか)()し、
116鬼春別(おにはるわけ)『いかに久米彦(くめひこ)将軍(しやうぐん)軍職(ぐんしよく)(とど)まらむと(いた)(とも)117総司令官(そうしれいくわん)たる(それがし)承諾(しようだく)(いた)さぬ(かぎ)りは駄目(だめ)だ。118一旦(いつたん)武士(ぶし)(くち)から辞職(じしよく)申出(まをしいで)以上(いじやう)は、119ヨモヤ撤回(てつくわい)することは出来(でき)まい、120それでは男子(だんし)とは(まを)されぬ。121覆水(ふくすゐ)(ぼん)(かへ)らず、122()いた(つば)()めない道理(だうり)123鬼春別(おにはるわけ)断然(だんぜん)久米彦(くめひこ)(しよく)()き、124カルナ(ひめ)(もつ)副将軍(ふくしやうぐん)(いた)すに()つて、125久米彦(くめひこ)殿(どの)126(けん)投出(なげだ)し、127軍服(ぐんぷく)着替(きか)へて、128早々(さうさう)(この)()退却(たいきやく)めされ』
129久米彦(くめひこ)『これは(また)理不尽(りふじん)な、130何咎(なにとが)あつて、131大黒主(おほくろぬし)より任命(にんめい)されたる拙者(せつしや)将軍職(しやうぐんしよく)褫奪(ちだつ)せんとなさるるか、132チツとは僣越(せんゑつ)(ござ)らうぞや。133そんな乱暴(らんばう)御命令(ごめいれい)には、134久米彦(くめひこ)(だん)じて服従(ふくじゆう)(つかまつ)りませぬ』
135(こゑ)(とが)らし抗弁(かうべん)した。
136鬼春別(おにはるわけ)(なん)()つても、137上官(じやうくわん)命令(めいれい)大黒主(おほくろぬし)命令(めいれい)だ。138グヅグヅ()はずに退却(たいきやく)めされ。139カルナ殿(どの)140如何(いかが)(ござ)る。141拙者(せつしや)権威(けんゐ)(この)(とほ)り、142仮令(たとへ)久米彦(くめひこ)将軍(しやうぐん)たり(とも)143(ただ)一言(いちごん)(もと)左右(さいう)する権能(けんのう)があるのだからなア、144ワツハハハハ』
145カルナ(ひめ)成程(なるほど)貴方(あなた)本当(ほんたう)(この)もしい将軍様(しやうぐんさま)146(わたし)147貴方(あなた)になれば(いのち)まで差上(さしあ)げます、148本当(ほんたう)凛々(りり)しい威厳(ゐげん)(そな)はつた、149絶対(ぜつたい)無限(むげん)権力者(けんりよくしや)(ござ)いますな』
150 久米彦(くめひこ)形勢(けいせい)益々(ますます)不良(ふりやう)()て、151焼糞(やけくそ)になり鬼春別(おにはるわけ)(ねめ)つけ、152(かたな)(つか)()をかけて、153(ただ)一打(ひとうち)()(たふ)し、154一層(いつそう)(こと)155自分(じぶん)総指揮官(そうしきくわん)とならむかと決心(けつしん)して、156(すき)(ねら)つてゐる。157鬼春別(おにはるわけ)久米彦(くめひこ)様子(やうす)(ただ)ならざるに(こころ)(ゆる)さず、158()らば()らむと(つか)()をかけ、159(たがひ)阿吽(あうん)(いき)()らして、160山門(さんもん)仁王(にわう)(ごと)くつつ()つてゐる。161カルナは(この)(てい)()て、
162カルナ(ひめ)『ホホホ、163(なん)とマア御両人様(ごりやうにんさま)凛々(りり)しいお姿(すがた)164どちらを()ても、165(はな)あやめ、166(かふ)()らうか、167(おつ)()らうか、168(はな)(はな)169(つき)(つき)170(そろ)ひも(そろ)うた立派(りつぱ)なお(かた)(こと)171あああ(からだ)(ふた)つあつたなら、172(ひと)つは鬼春別(おにはるわけ)将軍様(しやうぐんさま)(したが)ひ、173(ひと)つは久米彦(くめひこ)将軍様(しやうぐんさま)(つか)へるのだに、174(まま)ならぬ浮世(うきよ)だなア』
175 鬼春別(おにはるわけ)176久米彦(くめひこ)はカルナの美貌(びばう)にゾツコン(こころ)(とろ)かしてゐた。177カルナの精神(せいしん)(はか)りかね、178仁王立(にわうだち)になつた(まま)179()(ばか)りキヨロつかせてゐる。180そこへワイワイとどよめき(なが)一人(ひとり)美人(びじん)()いてやつて()たのは鬼春別(おにはるわけ)副官(ふくくわん)スパールであつた。
181スパール『モシ鬼春別(おにはるわけ)(さま)182陣中(ぢんちう)(おい)斯様(かやう)美人(びじん)()()れました、183どうか貴方(あなた)御用(ごよう)()ちますればと(ぞん)じ、184ワザワザ()れて(かへ)りました。185城内(じやうない)(たたか)ひは味方(みかた)大勝利(だいしようり)186最早(もはや)後顧(こうこ)(うれひ)(ござ)いませぬ。187何卒(どうぞ)(この)(をんな)をトツクリお調(しら)(あそ)ばして、188よきに御処分(ごしよぶん)(ねが)ひます』
189慇懃(いんぎん)()べた。190鬼春別(おにはるわけ)(この)(こゑ)にハツとして、191(をんな)(つら)()れば、192カルナ(ひめ)(まさ)数等(すうとう)美人(びじん)である。193そして(なん)とはなしに気品(きひん)(たか)く、194(うるほ)ひのある(くろ)()195如何(いか)なる男子(だんし)悩殺(なうさつ)する(てい)魅力(みりよく)(そな)はつてゐた、196鬼春別(おにはるわけ)久米彦(くめひこ)との(あらそ)ひをスツカリ(わす)れて(しま)ひ、
197鬼春別(おにはるわけ)『スパール、198(その)(はう)()(やつ)だ、199ここは久米彦(くめひこ)居間(ゐま)だ、200(この)(はう)居間(ゐま)(この)(をんな)(とほ)せ』
201()(なが)(さき)()つて自分(じぶん)のテントに(かへ)り、202胡座(あぐら)をかいてニコニコして()る。203スパールは美人(びじん)(とも)なひ、204鬼春別(おにはるわけ)(まへ)()(つか)へ、
205スパール『(きみ)御命令(ごめいれい)()り、206城内(じやうない)(さし)()()(をり)しも、207(わが)部下(ぶか)のシヤム、208(それがし)計画(けいくわく)(どほ)りよく遵奉(じゆんぽう)して、209刹帝利(せつていり)(はじ)左守司(さもりのかみ)(その)()勇将(ゆうしやう)生捕(いけどり)(いた)しました。210最早(もはや)(たたか)ひは大勝利(だいしようり)211御安心(ごあんしん)なさいませ。212(しか)るに、213これなる(をんな)214ビクトル(ざん)神王(しんわう)(みや)参拝(さんぱい)途中(とちう)215癪気(しやくけ)(おこ)路上(ろじやう)(たふ)れて()りました(ゆゑ)216(すく)()げて御前(ごぜん)(ともな)(まゐ)りました。217どうぞ可愛(かあい)がつておやり(くだ)さいませ』
218 鬼春別(おにはるわけ)はニコニコし(なが)ら、
219鬼春別(おにはるわけ)『ウーン、220よく()れて()た、221褒美(はうび)(あと)より(つか)はす。222(なんぢ)(これ)より陣営(ぢんえい)(むか)ひ、223十分(じふぶん)注意(ちうい)(はら)つて、224違算(ゐさん)なき(やう)(いた)すがよからう』
225 スパールは『ハイ』と(こた)へて、226後振返(あとふりかへ)振返(ふりかへ)り、227()でて()く。
228 (この)(をんな)はヒルナ(ひめ)である。
229ヒルナ(ひめ)『これはこれは将軍様(しやうぐんさま)230(はじ)めてお()にかかりまする。231(わらは)はスパール(さま)(おほ)せの(ごと)く、232神王(しんわう)(もり)参拝(さんぱい)途中(とちう)癪気(しやくけ)(おこ)し、233(いのち)(あやふ)(ところ)(たす)けられた(もの)(ござ)います。234バラモンの軍人(ぐんじん)といふものは(じつ)仁慈深(じんじぶか)(かた)(ばか)りですなア。235(これ)(まつた)貴方様(あなたさま)御訓練(ごくんれん)(よろ)しきの(いた)(ところ)感謝(かんしや)(いた)します。236(えう)するに(わらは)(いのち)(たす)けて(くだ)さつたのは貴方様(あなたさま)(ござ)います。237貴方様(あなたさま)(わらは)(ため)には(いのち)(おや)さま、238不束(ふつつか)(もの)なれど、239どうぞ(なに)なりと御用(ごよう)をさして(いただ)ければ有難(ありがた)(ぞん)じます』
240 鬼春別(おにはるわけ)満面(まんめん)(ゑみ)(たた)へ、241ニコニコし(なが)ら、
242鬼春別(おにはるわけ)『ウン、243ヨシヨシ、244(なんぢ)(これ)から(この)(はう)(そば)(ちか)(つか)へて、245(それがし)顧問(こもん)となり、246内助(ないじよ)(らう)()つて(くだ)され』
247 ヒルナ(ひめ)は、
248ヒルナ(ひめ)将軍様(しやうぐんさま)有難(ありがた)(ござ)います』
249鬼春別(おにはるわけ)()をワザと(かた)(にぎ)り、250鬚武者(ひげむしや)(ほほ)に、251(しろ)(やはら)かき(ほほ)をピタリとあてた。
252 鬼春別(おにはるわけ)はグデングデンになり、253背筋(せすぢ)(ほね)(まで)ぬかれたやうな調子(てうし)(ひめ)(ひざ)(まくら)にし、254ゴロンと(よこ)たはり、
255鬼春別(おにはるわけ)鬼春別(おにはるわけ)将軍(しやうぐん)
256神力無双(しんりきむさう)大勇士(だいゆうし)
257(かみ)御言(みこと)(かうむ)りて
258(おと)名高(なだか)きエルサレム
259黄金山(わうごんさん)へと()めのぼる
260(その)(ゆき)がけの副事業(ふくじげふ)
261ビクトリア(じやう)をば占領(せんりやう)して
262刹帝利(せつていり)(はじ)(その)后妃(きさき)
263左守(さもり)右守(うもり)()ふも(さら)
264(もも)(いくさ)司人(つかさびと)
265(みな)(ことごと)()りなびけ
266(いくさ)予定(よてい)大勝利(だいしようり)
267帷幕(ゐばく)(うち)画策(くわくさく)
268めぐらしゐたる(をり)もあれ
269木花姫(このはなひめ)棚機(たなばた)
270(ひめ)(みこと)にまがふなる
271古今無双(ここんむさう)美人(びじん)其方(そなた)
272()びを(てい)してやつて()
273仁義(じんぎ)(いくさ)(てき)はない
274(わが)名声(めいせい)(あこが)れて
275やつて()たのはバラモンの
276(かみ)(みこと)()たまもの
277ホンに愉快(ゆくわい)(こと)だなア
278(となり)陣取(ぢんど)久米彦(くめひこ)
279カルナの(ひめ)とか()ふナイス
280(そば)近付(ちかづ)(やに)さがり
281(うつつ)をぬかす不態(ぶざま)さよ
282軍律(ぐんりつ)(きび)しき(なか)なれど
283(をんな)()のない久米彦(くめひこ)
284ドン栗眼(ぐりまなこ)(ほそ)うして
285此上(こよ)なき(もの)(いつくし)
286(はづか)しげもなくデレてゐる
287カルナの(ひめ)(くら)ぶれば
288(あめ)(つち)との相違(さうゐ)ある
289古今無双(ここんむさう)のヒルナ(ひめ)
290どこの(むすめ)()らね(ども)
291気品(きひん)(たか)(この)ナイス
292鬼春別(おにはるわけ)枕辺(まくらべ)
293(あさ)(ゆふ)なに(はべ)らして
294久米彦(くめひこ)将軍(しやうぐん)()せたいものだ
295ああ面白(おもしろ)面白(おもしろ)
296(をとこ)(うま)れた(その)甲斐(かひ)にや
297こんなナイスを一夜(いちや)でも
298宿(やど)(つま)よと(あい)しつつ
299(たの)しく(うれ)しく(この)()をば
300(わた)つて()たいものだなア
301アハハハハ、アハハハハ
302コリヤコリヤ久米彦(くめひこ)将軍(しやうぐん)
303(おれ)腕前(うでまへ)(この)(とほ)
304女房(にようばう)容貌(きりやう)(くら)べようか
305霊相応(みたまさうおう)といふ(こと)
306ヤツパリこんな(とき)(あら)はれる
307(からす)(からす)(さぎ)(さぎ)
308権威(けんゐ)(つよ)(をとこ)には
309格別(かくべつ)綺麗(きれい)女房(にようばう)がつき()ふものだ
310(かみ)(をしへ)にウソはない
311ホンに愉快(ゆくわい)(こと)だなア
312ヒルナの(ひめ)膝枕(ひざまくら)
313こんな(ところ)久米彦(くめひこ)
314一目(ひとめ)()たならさぞや(さぞ)
315(めう)(つら)してさがるだろ
316イヒヒヒヒ、イヒヒヒヒ』
317()()もなく(よだれ)(なが)し、318ヒルナ(ひめ)小袖(こそで)(とほ)して、319(やはら)かい太腿(ふともも)をぬらした。320ヒルナ(ひめ)は、
321ヒルナ(ひめ)『アレまあ、322(なん)だか(あつ)たかいと(おも)つたら、323将軍様(しやうぐんさま)(よだれ)だわ、324ホホホホ』
325鬼春別(おにはるわけ)『オイ、326ヒルナ、327貴様(きさま)(ひと)(うた)つたら()うだ。328戦争(せんそう)大方(おほかた)カタがついたなり、329最早(もはや)殺伐(さつばつ)空気(くうき)一掃(いつさう)されるに()もなからうから、330其方(そなた)(たの)しく(かり)のホームを(つく)つて、331陣中(ぢんちう)(はな)(うた)はれる()はないか』
332ヒルナ(ひめ)『ハイ、333御勿体(ごもつたい)ない(その)言葉(ことば)334不束(ふつつか)(わらは)335どうぞ可愛(かあい)がつてやつて(くだ)さいませ、336左様(さやう)ならば不調法(ぶてうはふ)(なが)(うた)はして(いただ)きませう』
337(すず)のやうな(こゑ)で、338(となり)久米彦(くめひこ)やカルナ(ひめ)(きこ)えよがしに、339比較的(ひかくてき)()(とほ)(こゑ)(うた)()した。
340ヒルナ(ひめ)(わたし)(うま)れはビクの(くに)
341キールの(さと)豪農(がうのう)
342骨姓(かばね)(いや)しき首陀(しゆだ)(いへ)
343数多(あまた)下僕(しもべ)にかしづかれ
344今日(けふ)花見(はなみ)明日(あす)(また)
345月見(つきみ)(さけ)四方八方(よもやも)
346山野(さんや)(あそ)贅沢(ぜいたく)
347(かぎ)りを(つく)しゐたりしが
348(わらは)侍女(ぢぢよ)のカルナ(ひめ)
349引伴(ひきつ)れまして神王(しんわう)
350(もり)参拝(さんぱい)せむものと
351スタスタ(すす)(きた)(をり)
352殺風景(さつぷうけい)軍人(いくさびと)
353(やり)(つるぎ)()きかざし
354雲霞(うんか)(ごと)(すす)()
355(その)権幕(けんまく)(おそろ)しさ
356()(のが)れむといら()ちて
357侍女(じぢよ)(わか)れてマチマチに
358(さまよ)ひゐたる(をり)もあれ
359(にはか)(おこ)癪病(しやくやまひ)
360(いのち)たえむとする(とき)
361(なさけ)(ふか)きスパールさま
362(わらは)(たす)親切(しんせつ)
363(いた)はり(なが)将軍(しやうぐん)
364御前(みまへ)(おく)らせ(たま)ひける
365ああ惟神(かむながら)々々(かむながら)
366盤古神王(ばんこしんのう)自在天(じざいてん)
367神々様(かみがみさま)御恵(おんめぐみ)
368(をし)(いのち)(たす)けられ
369(いま)(また)名望(めいばう)いや(たか)
370バラモン(ぐん)総指揮官(そうしきくわん)
371鬼春別(おにはるわけ)将軍(しやうぐん)
372(たふと)陣営(ぢんえい)(はこ)ばれて
373(おも)ひもよらぬ御寵愛(ごちようあい)
374(かうむ)(わらは)()冥加(みやうが)
375(あさひ)()(とも)(くも)(とも)
376(つき)()つとも()くるとも
377仮令(たとへ)天地(てんち)はかへる(とも)
378(つき)おち(ほし)()するとも
379(この)大恩(たいおん)はいつの()
380(わす)れませうぞバラモンの
381(いくさ)(きみ)(わらは)をば
382いや永久(とこしへ)(いつく)しみ
383(なれ)御側(みそば)朝夕(あさゆふ)
384使(つか)はせ(たま)惟神(かむながら)
385(かみ)かけ(ねん)(たてまつ)
386ああ惟神(かむながら)々々(かむながら)
387御霊(みたま)幸倍(さちはへ)ましませよ』
388(うた)()はり、
389ヒルナ(ひめ)将軍様(しやうぐんさま)390何分(なにぶん)無教育(むけういく)(わらは)391(うた)なんか()めませぬ、392何卒(どうぞ)これでこらへて(くだ)さい』
393鬼春別(おにはるわけ)『アハハハハ、394てもさても立派(りつぱ)なものだ。395久米彦(くめひこ)(いのち)(おや)(たの)んでゐるカルナに(くら)ぶれば、396器量(きりやう)()ひ、397学識(がくしき)程度(ていど)()ひ、398(おか)(べか)らざる気品(きひん)()ひ、399年頃(としごろ)()ひ、400着物(きもの)()こなしと()ひ、401(はだ)(つや)402可愛(かあい)らしい手足(てあし)403瑪瑙(めなう)のやうな(つめ)(いろ)404どこに(てん)のうつ(ところ)のない、405最奥天国(さいあうてんごく)天人(てんにん)(はだし)()げるやうな天下無二(てんかむに)のナイスだ、406アハハハハ』
407とワザと高声(たかごゑ)にて久米彦(くめひこ)将軍(しやうぐん)にヘケラかしてやらうと呶鳴(どな)()ててゐる。
408ヒルナ(ひめ)『ホホホホ、409(わらは)のやうな醜女(しこめ)を、410さうお()(くだ)さいますと(なん)だかクスぐつたいやうな心持(こころもち)(いた)しますワ。411将軍様(しやうぐんさま)412貴方(あなた)(いま)(わらは)をその(やう)寵愛(ちようあい)して(くだ)さいますが、413(また)(ほか)(うつく)しき美人(びじん)(あら)はれた(とき)には、414キツと(わらは)をお()(あそ)ばすので(ござ)いませう。415それを(おも)ふと(なん)だか(うら)めしうなつて(まゐ)りましたワ』
416鬼春別(おにはるわけ)『ハハハハ、417さすがは(をんな)だ。418(なん)でもない(こと)取越苦労(とりこしくらう)(いた)すものでない、419其方(そなた)(ため)なら(いのち)でもやらうといふ決心(けつしん)だ』
420ヒルナ(ひめ)『ホホホホ(なん)とマア辞令(じれい)のお上手(じやうず)なお(かた)421もし(わらは)(いま)(いのち)(くだ)さいと()つたら、422すぐに臂鉄(ひぢてつ)をくはすクセに、423貴方(あなた)(をとこ)似合(にあは)愛嬌(あいけう)のよい(こと)仰有(おつしや)いますね。424流石(さすが)敏腕(びんわん)なる外交家(ぐわいかうか)(だけ)あつて、425仰有(おつしや)ることが垢抜(あかぬけ)(いた)して()りますよ、426ホホホホ』
427鬼春別(おにはるわけ)『アハハハハハ』
428(えつ)()つてゐる。429そこへ久米彦(くめひこ)はヌツと(かほ)()し、
430久米彦(くめひこ)将軍殿(しやうぐんどの)431(その)狂態(きやうたい)(なん)のザマで(ござ)るか、432軍紀(ぐんき)(なん)心得(こころえ)めさる。433拙者(せつしや)()にとまつた以上(いじやう)は、434最早(もはや)了簡(れうけん)(いた)しませぬぞや』
435鬼春別(おにはるわけ)『アハハハハ、436オイ久米彦(くめひこ)437(なん)(その)スタイルは、438(かた)まで四角(しかく)にして、439(なに)気張(きば)つてるのだ、440陣中(ぢんちう)相身互(あひみたがひ)だ、441チツと()()かさぬかい』
442久米彦(くめひこ)将軍(しやうぐん)一寸(ちよつと)談判(だんぱん)があつて(うかが)ひました。443(しつか)()いて(いただ)()い』
444鬼春別(おにはるわけ)『アハハハハ、445(いくさ)大方(おほかた)()んだのだから、446さう(かた)くなるものだない。447それより(はや)(かへ)つて、448カルナ(ひめ)(かた)でも()んで(もら)うたがよからうぞ』
449 ヒルナ(ひめ)久米彦(くめひこ)将軍(しやうぐん)面体(めんてい)をツラツラ(なが)めて、450(ゑみ)(たた)へ、
451ヒルナ(ひめ)貴方様(あなたさま)はバラモン軍中(ぐんちう)(おい)驍名(げうめい)かくれなき久米彦(くめひこ)将軍様(しやうぐんさま)(ござ)いましたか、452これはこれは失礼(しつれい)(いた)しました。453(わらは)侍女(じぢよ)御世話(おせわ)になつた(さう)(ござ)います。454有難(ありがた)う、455御懇情(ごこんじやう)(ほど)侍女(じぢよ)(かは)つて、456主人(しゆじん)(わらは)御礼(おれい)申上(まをしあ)げます』
457 久米彦(くめひこ)自分(じぶん)折角(せつかく)()()れたカルナ(ひめ)が、458ヒルナ(ひめ)()して美人(びじん)ではあるが、459どこともなしに(おと)つてゐること、460(および)第一(だいいち)(しやく)(さは)るのは、461鬼春別(おにはるわけ)将軍(しやうぐん)(つま)となさむとするヒルナ(ひめ)侍女(じぢよ)だといふ(こと)()いたので、462(なん)だか自分(じぶん)声望(せいばう)(きず)つけられたやうな気分(きぶん)仕出(しだ)し、463(かつ)鬼春別(おにはるわけ)(つま)侍女(じぢよ)女房(にようばう)にしたとあつては、464世間(せけん)(きこ)えも面白(おもしろ)くない、465(おな)(こと)なら、466(なん)とか()つて理窟(りくつ)をつけ、467とつ()へつこをしてやらうと、468(むし)のよい(かんが)へでやつて()たのである。469ヒルナ(ひめ)明敏(めいびん)頭脳(づなう)(はや)くも、470久米彦(くめひこ)心中(しんちう)洞察(どうさつ)した。471(なん)とかして両将軍(りやうしやうぐん)(あひだ)(すき)(しやう)ぜしめ、472バラモン(ぐん)内部(ないぶ)から破壊(はくわい)せむと(おも)(こころ)はカルナ(ひめ)同様(どうやう)である。473ヒルナはワザと(からだ)をシヨナ シヨナさせ(なが)ら、474久米彦(くめひこ)(そば)にツツと()り、475(かた)()(もち)のやうな()でグツと(にぎ)り、476二三遍(にさんぺん)(ゆす)つて、477(めう)視線(しせん)()(なが)ら、478ワザとに(ほほ)(あか)らめ、
479ヒルナ(ひめ)『ああお(はづか)しう(ござ)います』
480意味(いみ)ありげに(かほ)をかくす。481久米彦(くめひこ)益々(ますます)(えつ)()り、482(かほ)相好(さうがう)(くづ)して、
483久米彦(くめひこ)『エヘヘヘヘ、484これはこれはヒルナ(ひめ)どの、485貴女(あなた)鬼春別(おにはるわけ)将軍様(しやうぐんさま)と、486(すで)(すで)情約(じやうやく)締結(ていけつ)なさつた(こと)は、487隣室(りんしつ)(おい)て、488御両所(ごりやうしよ)御歌(おうた)()つて(たしか)()ました。489どうぞ(はら)(わる)い、490おだてないやうにして(くだ)さいな』
491ヒルナ(ひめ)『ホホホホ(おほせ)(ごと)く、492(はづ)かし(なが)情約(じやうやく)(むす)びましたが、493まだ予定(よてい)(ござ)います。494(その)(つぎ)内定(ないてい)495(つぎ)確定(かくてい)と、496順序(じゆんじよ)(ござ)いますから、497予定(よてい)内定(ないてい)(あひだ)()うとも融通(ゆうづう)のつくもので(ござ)います。498ラブは神聖(しんせい)(ござ)いますから、499到底(たうてい)権力(けんりよく)美貌(びばう)や、500金銭(きんせん)圧迫(あつぱく)501(また)法律(はふりつ)などで()めらるべきものでは(ござ)いませぬ。502さうでなくつてはコンヂーニアル・ラブが完全(くわんぜん)成立(なりたち)ませぬからねえ。503結婚問題(けつこんもんだい)人生(じんせい)一代(いちだい)大切(たいせつ)(こと)(ござ)いますから、504本当(ほんたう)のディヴァイン・ラブでなければ、505(すゑ)()げられませぬから、506(をつと)(さだ)むるのは(たがひ)自由(じいう)(ござ)いますからねえ』
507 久米彦(くめひこ)(すで)にヒルナ(ひめ)自分(じぶん)秋波(しうは)をよせたものと早合点(はやがつてん)し、508色男気取(いろをとこきどり)になつて(かほ)(ひも)(まで)(ほど)いてゐる、509(これ)(はん)して鬼春別(おにはるわけ)顔面(がんめん)(たちま)緊張(きんちやう)し、510(まゆ)をつり()げ、511(かほ)殺気(さつき)()びて()た。
512鬼春別(おにはるわけ)久米彦(くめひこ)殿(どの)513ここは拙者(せつしや)居間(ゐま)(ござ)る。514貴方(あなた)自分(じぶん)居間(ゐま)(かへ)つて軍務(ぐんむ)鞅掌(おうしやう)なされ、515不都合(ふつがふ)(ござ)るぞツ』
516久米彦(くめひこ)『ヘヘヘヘ、517拙者(せつしや)(まゐ)りますと、518(さだ)めて不都合(ふつがふ)(ござ)いませう。519(しか)らば(わが)居間(ゐま)へさがりませう。520アイヤ、521ヒルナ殿(どの)522拙者(せつしや)()いてお()(あそ)ばせ、523貴女(あなた)侍女(じぢよ)()つて()りますよ』
524ヒルナ(ひめ)『ホホホホ、525(めう)(こと)仰有(おつしや)いますね、526侍女(じぢよ)主人(しゆじん)から訪問(はうもん)するといふ道理(だうり)がどこに(ござ)いませう。527カルナ(ひめ)(はう)から(わらは)御機嫌(ごきげん)(うかが)ひに()(はず)(ござ)いませぬか。528どうぞカルナにさう仰有(おつしや)つて(くだ)さいませ』
529久米彦(くめひこ)成程(なるほど)530(ひめ)(さま)のお言葉(ことば)には条理(でうり)()つて()ります。531(しか)らばカルナ(ひめ)(うかが)はせます、532一寸(ちよつと)()つてゐて(くだ)さい』
533鬼春別(おにはるわけ)(けが)らはしい、534カルナの(ごと)(をんな)拙者(せつしや)居間(ゐま)()()(こと)(まか)()らぬ……ヒルナ其方(そなた)(なん)(おも)ふか』
535ヒルナ(ひめ)将軍様(しやうぐんさま)(おほせ)(とほ)り、536斯様(かやう)(たふと)きお居間(ゐま)へ、537侍女(じぢよ)などを(はべ)らすは(おそ)(おほ)(ござ)います』
538 鬼春別(おにはるわけ)顔色(かほいろ)(やはら)げ、539(やや)得意(とくい)となつて、
540鬼春別(おにはるわけ)『ああさうだらう、541ヒルナの()(とほ)りだ、542流石(さすが)才媛(さいえん)だ。543そして侍女(じぢよ)情約(じやうやく)締結(ていけつ)する(ごと)下劣(げれつ)人格者(じんかくしや)(わが)居間(ゐま)(きた)るべきものではない、544トツトと(かへ)つたがよからう久米彦(くめひこ)545これに違背(ゐはい)はあるまいな、546アハハハハ』
547久米彦(くめひこ)『これは()しからぬ。548貴方(あなた)のお(せつ)では公私混淆(こうしこんかう)といふもの、549貴方(あなた)将軍(しやうぐん)ならば拙者(せつしや)将軍(しやうぐん)550軍務上(ぐんむじやう)()(あは)せも時々(ときどき)(いた)さねばならず、551(また)吾々(われわれ)将軍(しやうぐん)としてお居間(ゐま)をお(たづ)(まを)したもの、552(けつ)して一個人(いちこじん)資格(しかく)(ござ)らぬぞ』
553鬼春別(おにはるわけ)(その)(はう)弁舌(べんぜつ)(もつ)て、554(この)()糊塗(こと)せむと(いた)(ども)555左様(さやう)(こと)巻込(まきこ)まれるやうな迂愚者(うぐしや)では(ござ)らぬ。556サ、557(すみやか)にお()ちめされ、558拙者(せつしや)のラブの妨害(ばうがい)になり(まを)す』
559 久米彦(くめひこ)軍刀(ぐんたう)をヒラリと()いて、560矢庭(やには)鬼春別(おにはるわけ)()りつけた。561鬼春別(おにはるわけ)はヒラリと(たい)をかはし(かたはら)軍刀(ぐんたう)()るより(はや)(また)もやスラリと引抜(ひきぬ)き、562カチヤカチヤと(やいば)(あは)火花(ひばな)()らし、563数十合(すうじふがふ)(およ)んだ。564されど(いづ)れも手利(てき)きと手利(てき)き、565竜虎(りうこ)(あらそ)ひ、566何時(いつ)()つべしとも()えなかつた。567(この)物音(ものおと)(おどろ)いて、568カルナ(ひめ)はヒルナ(ひめ)()(うへ)()づかひ、569(あわ)ただしく()んで()た。570ヒルナはカルナの(かほ)()るより、571()(もつ)合図(あひづ)をし、572……キツと(なか)這入(はい)るな……といふ意味(いみ)(しめ)した、573そして二人(ふたり)美人(びじん)はワザと(こは)(さう)(へや)(すみ)(つくゑ)をかぶつて(ふる)うてゐる、574そして……何方(どちら)一人(ひとり)が……(はや)くやられたら都合(つがふ)()いがと、575(こころ)(うち)(ねん)じてゐた。
576 ()かる(ところ)へ、577スパール、578エミシの両人(りやうにん)(かへ)(きた)り、579(この)(てい)()(おどろ)き、580二人(ふたり)(なか)にわつて()り、
581スパール『モシ鬼春別(おにはるわけ)将軍様(しやうぐんさま)582少時(しばらく)()(くだ)さいませ』
583エミシ『久米彦(くめひこ)将軍様(しやうぐんさま) (しばら)(しばら)く』
584大手(おほて)(ひろ)げてつつ()つた。585これ(さいはひ)両人(りやうにん)(つるぎ)(さや)にをさめ、586ハアハアと(いき)()らし(なが)ら、587俄作(にはかづく)りの椅子(いす)(こし)をおろした。
588 ヒルナ(ひめ)589カルナ(ひめ)はヤツと安心(あんしん)したものの(ごと)く、590ワザと不安(ふあん)(かほ)をし(なが)ら、591ハアハアハアと(いき)(はづ)ませ、592(むね)()()ろし()たりける。
593大正一二・二・一三 旧一一・一二・二八 於竜宮館 松村真澄録)