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第二章 恋淵(こひぶち)〔一四三二〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第56巻 真善美愛 未の巻 篇:第1篇 自愛之柵 よみ:じあいのしがらみ
章:第2章 第56巻 よみ:こいぶち 通し章番号:1432
口述日:1923(大正12)年03月14日(旧01月27日) 口述場所:竜宮館 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1925(大正14)年5月3日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる] 主な登場人物: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日: OBC :rm5602
愛善世界社版:18頁 八幡書店版:第10輯 151頁 修補版: 校定版:19頁 普及版:6頁 初版: ページ備考:
001 波斯(フサ)印度(ツキ)との国境(くにざかひ)テルモン(ざん)山続(やまつづ)きエルシナ(だに)山口(やまぐち)に、002(さび)しき(かまど)(けぶり)()えて(はる)永日(ながひ)も、003いとど(くら)(がた)(はしら)はゆるぎ(うつばり)()ちし(やぶ)()に、004火影(ほかげ)()えし(あき)()(なが)(しづ)伏家(ふせや)(はな)(あざむ)妙齢(めうれい)美人(びじん)005(やぶ)れし(きぬ)()(まと)(ただ)一人(ひとり)悲嘆(ひたん)()れて()る。006(かつ)鬼雲彦(おにくもひこ)(かり)(やかた)(むす)び、007バラモン(けう)(ひら)きたるテルモン(ざん)神館(かむやかた)(あと)(まも)小国別(をくにわけ)008小国姫(をくにひめ)二人(ふたり)があつた。009(この)二人(ふたり)夫婦(ふうふ)にはデビス(ひめ)010ケリナ(ひめ)()二人(ふたり)(うつく)しき(むすめ)()つて()た。
011 ケリナ(ひめ)近所(きんじよ)鎌彦(かまひこ)()(わか)(をとこ)(こひ)()ち、012両親(りやうしん)()(しの)びテルモン(ざん)(やかた)()()し、013エルシナ(だに)(ひと)(だに)破家(あばらや)()て、014夫婦気取(ふうふきど)りで(くら)して()たのである。015(しか)(なが)(をつと)一年(いちねん)以前(いぜん)(ある)目的(もくてき)(いだい)て、016ケリナ(ひめ)(この)破家(あばらや)(のこ)()()つたきり(なん)便(たより)もなく、017(あと)(のこ)つた(ひめ)途方(とはう)()(おや)(さと)(かへ)りもならず、018(また)(ほか)()(こと)出来(でき)ず、019()()(くら)ひ、020(あるひ)(とぼ)しき果物(くだもの)(など)(あさ)つて(わづ)かに(その)()(おく)り、021(をつと)鎌彦(かまひこ)消息(せうそく)()ちつつあつた。022(いへ)益々(ますます)(まづ)しくして朋友知己(ほういうちき)もなく(おとな)ふものは(みね)(あらし)(あめ)(おと)のみであつた。
023 (ひろ)世界(せかい)(みづか)(せば)めて(やま)(ふか)()(かく)()()(かな)しさ、024やるせなく、025人跡(じんせき)なければ(みち)(せま)萱草(かやくさ)(うづ)もれ、026(なつ)炎天(えんてん)(なん)となく(こころ)(さび)しく時々(ときどき)猛獣(まうじう)(こゑ)027(みみ)劈裂(つんざ)(たましひ)(ちう)()ばすこと幾回(いくくわい)なるを()らず。028何日(いつ)(まで)()つても(かへ)(きた)らざる(をつと)姿(すがた)029(まつた)(かみ)(めぐ)みに見放(みはな)され、030(つゆ)(いのち)野辺(のべ)(さら)(たま)ひしには(あら)ざるかと、031とつおひつ、032思案(しあん)()(なが)(つき)(ひかり)便(たよ)りに(くさ)()け、033(やうや)うにして(たに)(くち)人通(ひとどほ)りに()た。
034 ここには()なり(おほ)きな谷川(たにがは)(なが)激流(げきりう)飛沫(ひまつ)()ばして()る。035(これ)をエルシナ(がは)()ふ。036ケリナ(ひめ)()果敢(はか)なみて前後(あとさき)(かんが)へもなく、037()(をど)らして崖下(がいか)水中(すいちう)目蒐(めが)けて()()んだ。038(つき)西(にし)(みね)(かく)(よる)(やみ)益々(ますます)濃厚(のうこう)となつて()た。039(この)(とき)谷川(たにがは)(ふち)長剣(ちやうけん)(こし)()覆面頭巾(ふくめんづきん)三人(さんにん)(をとこ)040ひそびそと何事(なにごと)(ささや)いてゐる。
041(かふ)『おい、042兄弟(きやうだい)043吾々(われわれ)三人(さんにん)(きた)(もり)でゼネラル(さま)から六千両(ろくせんりやう)(かね)(もら)(その)御教訓(ごけうくん)によつて一時(いちじ)(はや)国許(くにもと)(かへ)り、044(おや)女房(にようばう)子供(こども)(よろこ)ばさうと(おも)つてゐたが、045到頭(たうとう)()(ごと)くならず、046スツカリと(めぐ)みの(かね)()られて(しま)ひ、047如何(どう)しても(この)(まま)(くに)(かへ)(こと)出来(でき)ぬぢやないか。048(なん)とかしてもう一働(ひとはたら)きやつて、049それを(しほ)泥棒(どろばう)をスツカリ(おも)ひきり、050国許(くにもと)(かへ)つて正業(せいげふ)()()いものだな』
051(おつ)『おい、052ベル、053貴様(きさま)俺等(おれたち)(みな)二千両(にせんりやう)づつ分配(ぶんぱい)したのだが(いま)最早(もはや)無一物(むいちぶつ)054()つたものを()られると()ふのは天地(てんち)自然(しぜん)道理(だうり)だから、055悪銭(あくせん)()につかず、056もうスツカリ(おも)ひきつたら如何(どう)ぢや。057(おれ)やもう(この)商売(しやうばい)(はじ)めから()かんのだが、058益々(ますます)(いや)になつて()たよ。059折角(せつかく)()つた(かね)(また)()られてしまへば(なん)にもならぬぢやないか。060(ただ)(のこ)るのは罪悪(ざいあく)ばかりだからな』
061(へい)『おい、062ベル、063ヘルの両人(りやうにん)064()られたとはそりや(なん)だ。065吾々(われわれ)(みな)娼婦(ばいた)(のろ)け、066(さけ)(おぼ)れて使(つか)つてしまつたぢやないか。067それ()愉快(ゆくわい)(こと)をしたのだから(けつ)して()られたのぢやないよ。068それよりも(これ)から十里(じふり)ばかり()くとテルモン(ざん)神館(かむやかた)がある。069そこへお(まゐ)りしてスツカリ(こころ)(あらた)めてゼネラル(さま)(やう)山伏(やまぶし)となり法螺貝(ほらがひ)でも()いて(まは)らうぢやないか。070さうすれば(いま)(まで)(つみ)(ほろ)びて極楽参(ごくらくまゐ)りが出来(でき)るかも()れないよ』
071ベル『エー、072しようもない、073そんな弱音(よわね)()きやがる(やつ)(この)谷川(たにがは)へでも()()げて(くたば)つたが()からう。074(おれ)益々(ますます)これから泥坊学(どろばうがく)研究(けんきう)をして天下(てんか)財宝(ざいほう)自由自在(じいうじざい)(いた)(つも)りだ』
075(へい)(しか)し、076(なん)だか(めう)(おと)がしたぢやないか。077まさか投身(みなげ)ではあるまいな』
078ベル『うん、079どうやら投身(みなげ)らしい。080(しか)(なが)()にたい(やつ)勝手(かつて)()んだら()いのだ。081俺等(おれたち)はどこ(まで)(せい)執着(しふちやく)(つよ)いのだから千年(せんねん)万年(まんねん)生通(いきとほ)すつもりだよ』
082(へい)投身(みなげ)()けば、083こりや()うしては()られぬ。084(なん)とかして(たす)けねばなるまいぞ。085なあヘル』
086ヘル『うん、087さうだ。088シャルの()(とほ)(これ)から真裸(まつばだか)になり谷川(たにがは)()()んで(すく)うてやらうかい。089愚図々々(ぐづぐづ)してゐると何程(なにほど)(なが)れの(おそ)(ふち)でも死骸(しがい)がなくなるかも()れないよ』
090 シャルは『おう、091さうだ』と()(なが)衣類(いるゐ)()()てザンブとばかり(やみ)(ふち)目蒐(めが)けて()()んだ。092()()んだ途端(とたん)自分(じぶん)(あし)(ちから)(かぎ)りに(くら)ひついたものがある。093シャルは(おどろ)いて(こゑ)(かぎ)りに『(たす)けて()れえ(たす)けて()れえ』と(さけ)ぶ。094ヘルは(また)もやザンブと()()んだ。095()れば二人(ふたり)男女(だんぢよ)(ふち)()きつ(しづ)みつ(つか)()つてゐる。096ヘルは(くら)がりに(かみ)()(つか)んで浅瀬(あさせ)引張(ひつぱ)()げた。097二人(ふたり)とも多量(たりやう)(みづ)()んで(ほとん)(いき)()へてゐた。098ヘルは(こゑ)(かぎ)りに、
099ヘル『おい、100ベル、101大変(たいへん)だ。102シャル(まで)()によつた(やう)だ。103(はや)()手伝(てつだ)つて(みづ)()かして()れ』
104 ベルは泰然(たいぜん)として(うへ)(はう)から、
105ベル『おい、106ヘルの(やつ)107シャルはもう()んだか。108()(こと)()きな(やつ)()つといたら()いぢやないか。109そして、110一人(ひとり)(やつ)(をとこ)(をんな)か、111どちらか。112(をんな)なら(たす)けても()いがな』
113 ヘルは、
114ヘル『エー、115薄情(はくじやう)(やつ)め』
116()(なが)()細砂(ごみ)(うへ)二人(ふたり)引張(ひつぱ)()色々(いろいろ)介抱(かいほう)をして(みづ)()かせた。117二人(ふたり)(やうや)くにして(いき)()(かへ)した。
118ヘル『おい、119シャル、120(あぶ)ない(こと)だつたのう。121まア()がついて(なに)よりだ。122(しか)何処(どこ)のお女中(ぢよちう)()らぬが、123ようまア甦生(いきかへ)つて(くだ)さつた。124これで吾々(われわれ)懸命(いのちがけ)(はたら)きも無駄(むだ)にはならない。125ああ(うれ)しや、126大自在天(だいじざいてん)(さま)
127合掌(がつしやう)する。128ベルは(うへ)(はう)からスパスパと煙草(たばこ)()(なが)ら、
129ベル『おい、130三人(さんにん)娑婆亡者(しやばまうじや)131死損(しにぞこな)()132(なに)をグヅグヅしてゐるのだ。133いい加減(かげん)(のぼ)つて()ぬかい』
134ヘル『おい、135ベルの(やつ)136()(くら)くては仕方(しかた)がない。137貴様(きさま)138そこらで(ひと)()()いて灯明(あかり)をつけて()れないか。139(あが)(みち)(わか)らぬからのう』
140ベル『八釜(やかま)しう()ふない。141泥坊(どろばう)()禁物(きんもつ)だ。142(さいは)(なつ)(こと)でもあり(さむ)くもあるまいから、143()()ける(まで)144そこへ伏艇(ふくてい)してゐるがよからう。145水雷艇(すいらいてい)一隻(いつせき)あるさうだし、146都合(つがふ)()いわ。147(ふか)(はま)つた(こひ)(ふち)148(なん)でも馬鹿(ばか)(をんな)()つて(くさ)(をとこ)心中立(しんぢうだて)をして()んだのだらう。149そんな(やつ)(たす)けに()(やつ)何処(どこ)にあるかい。150余程(よつぽど)目出度(めでた)(やつ)だな。151アハハハハハ』
152 ヘル、153シャルの二人(ふたり)はベルの友情(いうじやう)()らぬ冷酷(れいこく)態度(たいど)憤慨(ふんがい)(なが)ら、154(やうや)くケリナ(ひめ)(たす)けて、155壁立(かべた)(やう)(いは)(つた)ふて(のぼ)つて()た。156ベルは(をんな)()くよりその美醜(びしう)(ため)さむと枯芝(かれしば)(あつ)めてパツと()()いた。157よくよく()れば(をんな)(いろ)()(まで)(しろ)く、158気品(きひん)(たか)妙齢(めうれい)美人(びじん)であるにも(かかは)らず、159その着衣(ちやくい)(じつ)見窄(みすぼ)らしき弊衣(へいい)であつた。
160ベル『やア、161これはこれは何処(どこ)のお女中(ぢよちう)()りませぬが、162随分(ずいぶん)綺麗(きれい)なお(かた)163襤褸(ぼろ)黄金(こがね)(たま)(つつ)んだ(やう)貴女(あなた)様子(やうす)164さぞ斯様(かやう)(ところ)投身(みなげ)をなさるに()いては(なに)(ふか)理由(わけ)があるでせう。165(なに)()もあれ、166(たす)(まを)さねばなるまいと(ぞん)じ、167家来(けらい)のヘル、168シャルをして(たす)けにやりました。169さア逐一(ちくいち)事情(じじやう)をお(はなし)なさいませ』
170シャル『ヘン、171うまい(こと)仰有(おつしや)るわい。172俺等(おれたち)(たす)けてやらうかと()つた(とき)173()()(やつ)勝手(かつて)()なしたら()いと(ぬか)したでないか。174のうヘル、175(この)ナイスの(かほ)()て、176()ぐアンナ(こと)(ぬか)すのだから(あき)れてものが()へぬぢやないか』
177ヘル『うん、178さうだ。179仕方(しかた)のない(やつ)だ。180もしもしお女中(ぢよちう)さま、181(まへ)(たす)(やう)発企(ほつき)したのは(この)ヘルで(ござ)ります。182それで(わたし)家来(けらい)のシャルが第一着(だいいちちやく)()()み、183(まへ)水中(すいちう)()(つか)まつて(くる)しんでる(ところ)(わたし)()()みお二人(ふたり)とも(いのち)(たす)けたのですよ。184(この)ヘルが()らなかつたならば、185(まへ)もシャルも(すで)冥途(めいど)旅立(たびだち)をして()つたのですからな』
186ケリナ『はい、187有難(ありがた)(ござ)います。188ツヒ(をんな)(ちひ)さい(こころ)からヒステリツクを(おこ)し、189一層(いつそう)()んな憂世(うきよ)()るよりも極楽参(ごくらくまゐ)りをしたが(まし)だと、190無分別(むふんべつ)()して()()んで()ましたものの(あんま)(くる)しいのと、191(にはか)娑婆(しやば)(こひ)しくなつたので如何(どう)しようかと藻掻(もが)いて()ます矢先(やさき)192貴方等(あなたがた)(あら)はれてお(たす)(くだ)さいましたのは本当(ほんたう)神様(かみさま)のやうに(ぞん)じます。193ようまアお(たす)(くだ)さいました』
194ヘル『エヘヘヘヘおい、195ベル、196どうだ。197もう貴様(きさま)野心(やしん)駄目(だめ)だぞ。198二人(ふたり)証拠人(しようこにん)()るのだからな。199もしもしお女中(ぢよちう)さま、200此奴(こいつ)大悪人(だいあくにん)大泥棒(おほどろばう)ですよ。201バラモン(けう)鬼春別(おにはるわけ)将軍様(しやうぐんさま)でさへも(おど)かして(ふところ)のお(かね)(うば)ひとると()悪人(あくにん)ですからな』
202ベル『アハハハハ(おれ)泥棒(どろばう)なら貴様(きさま)もヤツパリ泥棒(どろばう)ぢやないか。203これこれお女中(ぢよちう)204(じつ)(ところ)吾々(われわれ)三人(さんにん)(みんな)バラモン(けう)軍人(ぐんじん)であつたが、205鬼春別(おにはるわけ)将軍様(しやうぐんさま)猪倉山(ゐのくらやま)山寨(さんさい)三五教(あななひけう)宣伝使(せんでんし)言向和(ことむけやは)され修験者(しうげんじや)になり軍隊(ぐんたい)解散(かいさん)したものだから、206俺等(おれたち)()むを()泥棒(どろばう)商売替(しやうばいが)へをしたのだ。207(しか)(なが)らお(まへ)心配(しんぱい)しなさるな。208泥棒(どろばう)(けつ)して(ひと)生命(いのち)をとるのが目的(もくてき)ぢやない、209(たから)横奪(わうだつ)するのが目的(もくてき)だ。210(まへ)から(たから)()らうと()つた(ところ)何一(なにひと)つありやせない。211それだから(なに)請求(せいきう)しないわ。212(しか)(なが)(ただ)(ひと)つここに請求(せいきう)がある。213それは(ほか)でもない。214(まへ)(いま)此処(ここ)()んだと(おも)へば如何(どん)(あきら)めもつく(はず)だ。215どうだ(わし)(つま)に……仮令(たとへ)三日(みつか)でもなつて()れる()はないか』
216ケリナ『ホホホホホ()かぬたらしい、217モーよう()わむワ。218何程(なにほど)(いのち)(をし)うないと()つてもお(まへ)のやうな鬼面(おにづら)泥棒(どろばう)()(まか)(くらゐ)なら(いさぎよ)(ふち)()()げて()にますわいな。219(わたし)()(まか)(をとこ)世界(せかい)只一人(たつたひとり)よりありませぬわ。220生憎様(あいにくさま)
221ベル『こりや(をんな)222(いのち)(たす)けて(もら)(なが)(なん)()愛想(あいそ)づかしを(まを)すのか。223不都合千万(ふつがふせんばん)な、224(この)(まま)には差許(さしゆる)さぬぞ』
225ケリナ『あのまア得手勝手(えてかつて)(こと)仰有(おつしや)りますわいのう。226(わたし)はお(まへ)(たす)けて(もら)つたのぢやない。227(この)二人(ふたり)(かた)(すく)つて(もら)つたのだから(おほ)きに(はばか)りさま。228ねえお二人(ふたり)さま、229さうでせう。230生命(いのち)(まと)(たす)けて(くだ)さつたのだから、231これには(なに)かの(ふか)因縁(いんねん)がなくては(かな)ひませぬわ』
232ヘル『エヘヘヘヘおい、233ベルの大将(たいしやう)234如何(どう)だい。235世界(せかい)一人(ひとり)より()(まか)すものはないと(この)ナイスが()つて()たのを()いてるかい。236貴様(きさま)(のぞ)けばシャルと(おれ)二人(ふたり)だ。237(しか)(なが)二人(ふたり)(なが)生命(いのち)(たす)けたのは(この)ヘルだ。238のうシャル、239よもや(おれ)御恩(ごおん)(わす)れはしよまいな』
240シャル『うん、241そりや(わす)れぬ。242(しか)(なが)(この)ナイスを(たす)けようと(おも)(こころ)(おれ)もお(まへ)同様(どうやう)だ。243さうだからお(まへ)(おれ)二人(ふたり)(なか)から(この)ナイスに(えら)ましたら()いのだ。244それが順当(じゆんたう)だと(おも)ふよ。245もし、246ケリナさまとやら、247貴女(あなた)のお(かんが)へは如何(どう)ですかな』
248ケリナ『ホホホホホ』
249ベル『エー、250如何(どう)しても(おれ)(なび)かぬと(ぬか)しや(なび)かいでも()い。251一度(いちど)()()んでやるからさう(おも)へ』
252ケリナ『あのまあベルさまとやらの空威張(からゐば)りの可笑(をか)しさ。253そんな(こと)今日(こんにち)(をんな)脅喝(けふかつ)され、254(をとこ)盲従(まうじゆう)するやうな馬鹿(ばか)はありませぬぞや。255貴方(あなた)()()んでやると仰有(おつしや)るなら美事(みごと)256()()んで()なさい』
257ベル『よし、258御注文(ごちうもん)とあれば、259何奴(どいつ)此奴(こいつ)(みな)()()んでやらう。260さてもさても(いぢ)らしいものだな。261ここに三人(さんにん)土左(どざ)はんが出来(でき)るかと(おも)へば(いささ)同情(どうじやう)(なみだ)()れぬ(こと)もないわい、262イツヒヒヒヒヒヒ』
263ヘル『さアさア ケリナさま、264こんな(やつ)相手(あひて)にせず何処(どこ)かへ(まゐ)りませう。265そして(たがひ)()打明(うちあ)(ばなし)をしようぢやありませぬか。266おいシャル、267貴様(きさま)はベル大将(たいしやう)のお(とも)忠実(ちうじつ)にやつたら()からうぞ』
268シャル『(おれ)だつて何時(いつ)(まで)泥坊(どろばう)乾児(こぶん)御免(ごめん)(かうむ)りたい。269ゼネラルさまの訓戒(くんかい)(おも)()せば到底(たうてい)泥坊(どろばう)なんて、270(おそ)ろしくて出来(でき)るものぢやないからな』
271ヘル『そんなら、272シャル、273若夫婦(わかふうふ)のお(とも)使(つか)つてやるから()いて()たら()からう。274その(かは)り、275ベルと絶縁(ぜつえん)をするのだぞ』
276 ベルは矢庭(やには)長剣(ちやうけん)引抜(ひきぬ)いてケリナ(ひめ)()りつけた。277ヘル、278シャルの両人(りやうにん)(さや)(まま)ベルの(かたな)()()め、279ケリナ(ひめ)()(もつ)(かこ)ふて()る。280(この)(あひだ)にケリナは(かたはら)のパインの()(ましら)(ごと)駆上(かけのぼ)つて(なん)()けた。281ここに三人(さんにん)(おのおの)長剣(ちやうけん)引抜(ひきぬ)(やみ)()()にケチヤン ケチヤンと敵味方(てきみかた)区別(くべつ)もなく()(あは)せてゐる。282その(たび)(ごと)にピカピカと(ほし)(やう)火花(ひばな)()る。283カチン カチンと(やいば)()()(おと)284火花(ひばな)(ひか)り、285(われ)(わす)れてケリナ(ひめ)はパインの(うへ)から(なが)めてゐる。
286 ベルは(つるぎ)()()て、
287ベル『おい、288ヘル、289シャルの(やつ)290到底(たうてい)(この)(やみ)では勝負(しようぶ)駄目(だめ)だ。291どうだ、292(これ)から組打(くみうち)をやらうかい』
293 『よーし()た』とヘル、294シャルの二人(ふたり)(かたな)()()てた。295此処(ここ)三人(さんにん)腕力(わんりよく)(まか)せてジタンバタンと組合(くみあ)ふて()る。296(つひ)には一生懸命(いつしやうけんめい)になつて三人(さんにん)()んだまま谷底(たにそこ)青淵(あをぶち)へドブンと水音(みなおと)()てて()()んで(しま)つた。297パインの(うへ)から()てゐたケリナ(ひめ)自分(じぶん)恩人(おんじん)(はま)つたのを()るより『(たす)けにやならぬ』と矢庭(やには)()(すべ)()り、298(また)もや青淵(あをぶち)目蒐(めが)けてドブンと()()んで(しま)つた。299四人(よにん)(はた)して如何(いか)なる運命(うんめい)見舞(みま)はるるであらうか。
300大正一二・三・一四 旧一・二七 於竜宮館二階 北村隆光録)