霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一四章 猩々島(しやうじやうじま)〔一四八九〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第58巻 真善美愛 酉の巻 篇:第3篇 千波万波 よみ:せんぱばんぱ
章:第14章 猩々島 よみ:しょうじょうじま 通し章番号:1489
口述日:1923(大正12)年03月29日(旧02月13日) 口述場所:皆生温泉 浜屋 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1925(大正14)年6月15日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる] 主な登場人物: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:
愛善世界社版:167頁 八幡書店版:第10輯 430頁 修補版: 校定版:178頁 普及版:66頁 初版: ページ備考:
001 印度(ツキ)(くに)北端(ほくたん)002テルモンの湖水(こすい)(みなみ)(わた)つたイヅミの(くに)のスマの(さと)にバーチルと()豪農(がうのう)があつた。003バーチルは何不自由(なにふじいう)なき()であり(なが)ら、004(ひま)ある(ごと)湖水(こすい)(ふね)(うか)べ、005(うを)(あさ)(こと)唯一(ゆゐいつ)(たのし)みとして()た。006(つま)のサーベルは何時(いつ)も『危険(きけん)漁業(ぎよげふ)()めて(いへ)におとなしく()つて財産(ざいさん)整理(せいり)をせよ』と諫言(かんげん)したが、007どうしても()かうとはせず、008女房(にようばう)寝静(ねしづ)まつたのを(かんが)浜辺(はまべ)()(れい)(ごと)(あみ)をうち(つり)()れ、009あまり面白(おもしろ)いので何時(いつ)とはなしに(おき)(おき)へと(なが)()で、010到底(たうてい)一日(いちにち)(かへ)(こと)出来(でき)ない地点(ちてん)(まで)()つて(しま)つた。011(ふね)()した()()(はな)れ、012その()(また)ズツポリ()れて、013()(うつ)るを(わす)れて一生懸命(いつしやうけんめい)一人(ひとり)(しもべ)(とも)によく()れるのに(こころ)()られて()た。
014 満天(まんてん)(にはか)黒雲(くろくも)(おこ)り、015一点(いつてん)星影(ほしかげ)さへも()えなくなり、016雨風(あめかぜ)(はげ)しく(なみ)(たか)沢山(たくさん)(うお)(ふね)()んで()ては到底(たうてい)危険(きけん)(まぬが)(がた)くなつて()た。017されど折角(せつかく)(ほね)()つて()つた(さかな)をムザムザ湖中(こちう)()げて(しま)ふのは、018どうも()しくて(たま)らない、019だと()つて(すこ)しは(おも)みを(かる)くせなくては到底(たうてい)(ふね)覆没(ふくぼつ)(まぬが)れなくなつて()た。020(しもべ)のアンチーは(ふる)(をのの)き、021泣声(なきごゑ)()して、
022アンチー『旦那様(だんなさま)023どう(いた)しませう。024到底(たうてい)(この)(くら)がりに大暴風(おほあらし)()ては(たす)かりこはありますまい。025貴方(あなた)折角(せつかく)()りになつた(この)(さかな)(ひと)つも(のこ)らず(うみ)(とう)じて(しま)ひませう。026さうすれば(ふね)(かる)くなり、027どうなり、028こうなり()()(しま)()いて(いのち)(たも)(こと)出来(でき)ませう。029何卒(どうぞ)一匹(いつぴき)(のこ)らず()てさして(くだ)さいませぬか』
030泣声(なきごゑ)になつて歎願(たんぐわん)した。031バーチルは(しもべ)言葉(ことば)(はら)()て、032(こゑ)(とが)らして、
033バーチル『こりやアンチー、034(おれ)がこれ()危険(きけん)(をか)して折角(せつかく)()つた(さかな)(みな)(なが)せとは、035(なん)()失礼(しつれい)(こと)()ふ。036(さかな)(おも)たくて(ふね)(かへ)(おそれ)があると()ふのなら、037貴様(きさま)のやうな重量(ぢうりやう)(おほ)い、038柄見倒(がらみだふ)しが(うみ)()()めば(この)(ふね)余程(よほど)(かる)くなつて(さかな)(たす)かるのだ』
039半狂(はんきやう)(をとこ)とて(さかな)にかけたら()(はな)もない。040(しもべ)(たい)して(じつ)無慈悲(むじひ)(きは)まる叱言(こごと)()つた。
041アンチー『旦那(だんな)さま、042(わたし)(をさな)(とき)から貴方(あなた)(うち)(やしな)はれた(しもべ)ですから、043貴方(あなた)のお(いのち)(かか)はる(やう)(こと)あれば、044身代(みがは)りとなる(こと)覚悟(かくご)(まへ)(ござ)います。045(しか)何程(なにほど)(しもべ)()つても、046矢張(やつぱ)人間(にんげん)(ござ)います。047(さかな)幾何(いくら)でも()れませうが、048(この)アンチーの(からだ)世界(せかい)(ひと)つほか()りませぬから、049そんな無慈悲(むじひ)(こと)仰有(おつしや)らずに(はや)(この)(さかな)()てさせて(くだ)さいませ』
050バーチル『その(はう)主人(しゆじん)危難(きなん)(すく)ふと(いま)(まを)しただらう。051主人(しゆじん)大切(たいせつ)丹精(たんせい)()らして()つた(この)(うを)(たす)けて、052何故(なぜ)(その)(はう)重量(ぢうりやう)(げん)ずるために(うみ)()()まないのか。053そんな(こと)(しもべ)(つと)めが(つと)まるのか。054(わけ)(わか)らぬ代物(しろもの)だな』
055アンチー『旦那様(だんなさま)056()んだ(さかな)よりも(わたし)(いのち)(はう)余程(よつぽど)(やす)いので(ござ)いますか。057そりや(あんま)没義道(もぎだう)ぢや(ござ)いませぬか』
058バーチル『馬鹿(ばか)(まを)せ。059(さかな)(うち)()つて(かへ)れば自分(じぶん)(たの)しみ村中(むらぢう)(やつ)にも刺身(つくり)にしたり、060煮〆(にしめ)にしても、061()いて()はさうと(まま)だ。062何程(なにほど)肥太(こえふと)つて()ても貴様(きさま)(からだ)刺身(さしみ)にもなるかい。063(たれ)だつて一人(ひとり)でも(よろこ)んで(いただ)くものはない。064(おれ)忠義(ちうぎ)(つく)さうと(おも)ふなら(はや)貴様(きさま)(はう)から()()まぬか。065グヅグヅして()ると(ふね)転覆(てんぷく)して(しま)ふぢやないか。066貴様(きさま)一人(ひとり)(いのち)()くするか、067二人(ふたり)(いのち)()くするかと()瀬戸際(せとぎは)だ。068さア(はや)()()かして()()め』
069アンチー『これは(また)()しからぬ(こと)仰有(おつしや)います。070貴方(あなた)はどうかして()りますな。071(にはか)仰有(おつしや)(こと)へんになつたぢやありませぬか』
072 バーチルは(しば)らく俯向(うつむ)いて(かんが)へて()たが(にはか)に、073(おどろ)いた(やう)(こゑ)で、
074バーチル『やア如何(いか)にもさうだ。075(あんま)吃驚(びつくり)して(さかな)人間(にんげん)軽重(けいぢう)(あやま)つて()つた。076やア(こら)へて()れ、077せうもない(こと)()つたものだ。078(あんま)(さかな)()をとられ(あたま)()()んだものか、079(めう)幻覚(げんかく)(おこ)したものだ。080さアお(まへ)()(とほ)りにする。081さアさア(さかな)()つた()つた』
082と、083ここに主従(しゆじゆう)一生懸命(いつしやうけんめい)折角(せつかく)()つた(さかな)(つか)んでは海中(かいちう)()げ、084(つか)んでは()げして、085(やうや)半分(はんぶん)(ばか)(ほか)()したと(おも)時分(じぶん)に、086(とら)()ゆるが(ごと)(おと)をして(おそ)ふて()大海嘯(おほつなみ)にバツサリと()まれて、087(ふね)諸共(もろとも)(なみ)()()まれて(しま)つた。088二人(ふたり)暗夜(あんや)荒湖(あらうみ)()()み、089最早(もは)如何(いかん)ともする(こと)出来(でき)ないので(うん)(てん)(まか)して()た。
090イヅミの(くに)のスマの(さと)
091首陀(しゆだ)豪農(がうのう)バーチルは
092(つま)(いさ)めも()かばこそ
093気色(けしき)(わる)(よる)(うみ)
094こんな(とき)には何時(いつ)よりも
095獲物(えもの)(おほ)いと()(なが)
096(しもべ)アンチー(ともな)ひて
097スマの(うら)より(ふね)()
098何時(いつ)もにもなき豊漁(ほうれふ)
099うつつを()かし()らぬ()
100沖合(おきあひ)(とほ)(なが)()
101一夜(いちや)()かし(あした)より
102(また)もや黄昏(たそがれ)()ぐる(まで)
103一心不乱(いつしんふらん)(すなど)りし
104夜中(よなか)(ころ)となりし(とき)
105一天(いつてん)(にはか)()(くも)
106黒白(あやめ)()かぬ(やみ)となり
107(たちま)(おそ)暴風雨(ばうふうう)
108(なみ)(たか)まり白波(しらなみ)
109(たてがみ)(ふる)釣舟(つりぶね)
110()みつき(きた)(おそ)ろしさ
111(とら)()(たけ)(りよう)(ぎん)
112獅子(しし)(たけ)びの物凄(ものすご)
113(かぜ)(なみ)との(うな)(ごゑ)
114(たゆ)まず(くつ)せずバサバサと
115(あみ)打下(うちお)ろし様々(さまざま)
116(おほ)きな(さかな)(あさ)りつつ
117(うつつ)になれる(をり)もあれ
118漁船(ぎよせん)()()()(ごと)
119上下(じやうげ)左右(さいう)翻弄(ほんろう)
120身辺(しんぺん)(あやふ)くなりければ
121ここに主従(しゆじゆう)二人(ふたり)()
122種々(いろいろ)雑多(ざつた)(あらそ)ひつ
123折角(せつかく)()らへし魚族(ぎよぞく)をば
124スツカリ(うみ)()げやりて
125せめて(いのち)(ひろ)はむと
126あせる(をり)しも山岳(さんがく)
127(やう)なる(なみ)船体(せんたい)
128(たちま)()まれて無残(むざん)にも
129(みづ)藻屑(もくず)となりにけり
130僕男(しもべをとこ)のアンチーは
131行衛不明(ゆくゑふめい)となり()てて
132()べど(かへ)らぬ死出(しで)(たび)
133()くも(あは)れな次第(しだい)なり
134大海中(おほわだなか)()()てる
135(ひと)(おそ)れて()りつかぬ
136猩々ケ島(しやうじやうがしま)磯端(いそばた)
137打上(うちあ)げられしバーチルが
138(なみ)(からだ)翻弄(ほんろう)され
139(いき)()()えになりし(とき)
140猩々(しやうじやう)(わう)(あら)はれて
141手早(てばや)(くが)(すく)()
142真水(まみづ)(くち)(ふく)ませて
143(やうや)(いのち)(すく)ひける
144()面白(おもしろ)物語(ものがたり)
145(たたみ)(なみ)(うか)びたる
146長方形(ちやうはうけい)(ふね)()
147敷島(しきしま)煙草(たばこ)(くゆ)らせて
148ここ(まで)()べて北村(きたむら)
149隆光彦(たかてるひこ)(ふで)(さき)
150(うつ)して千代(ちよ)(つた)へむと
151万年筆(まんねんひつ)剣尖(けんさき)
152原稿用紙(げんかうようし)につきつけて
153あらあらここに(しる)()
154ああ惟神(かむながら)々々(かむながら)
155御霊(みたま)(さち)はひましませよ。
156 バーチルはフツと()がつけば()(すで)()(はな)れ、157自分(じぶん)()()らぬ孤島(こたう)磯端(いそばた)横臥(わうぐわ)し、158沢山(たくさん)猩々(しやうじやう)(あつ)まり(きた)つて『キヤーキヤー』と()()(なが)自分(じぶん)周囲(しうゐ)(あり)(ごと)取巻(とりま)いて()る。159(かたはら)(すぐ)れて(だい)なる一匹(いつぴき)猩々(しやうじやう)自分(じぶん)(かほ)()てさも同情(どうじやう)()へざるものの(ごと)(くび)(かたむ)(なみだ)(なが)して()る。160よくよく()れば(うはさ)()いた猩々(しやうじやう)(しま)である。
161バーチル『ああ(わし)(おそ)ろしい()んな(しま)漂着(へうちやく)したのか。162あまり自我心(じがしん)(つよ)(ため)女房(にようばう)(いさ)めも()かず(かく)れて(れふ)()たのが一生(いつしやう)不覚(ふかく)だつた。163さうして(しもべ)のアンチーは如何(どう)なつたであらう。164ああ(おそ)ろしい(こと)になつた。165(かへ)らうと(おも)つても(ふね)はなし、166猩々(しやうじやう)(ゑじき)になつて(しま)ふのか』
167恐怖心(きようふしん)()られて(おそ)(をのの)いて()た。
168 意外(いぐわい)にも猩々(しやうじやう)(わう)とも(おぼ)しき大猿(おほざる)親切(しんせつ)さうにバーチルに(せな)()け、169(わが)()()はれよ』との()形容(けいよう)(しめ)して()る。170バーチルは『もう()うなつては因果腰(いんぐわごし)()めるより仕方(しかた)がない。171彼等(かれら)()すがままに(まか)さむ』かと猩々(しやうじやう)(せな)怖々(こはごは)(なが)()きついた。172猩々(しやうじやう)()()ふたまま、173きつい岩山(いはやま)をいと安々(やすやす)(のぼ)り、174頂上(ちやうじやう)屏風(びやうぶ)()てた(やう)(いは)穿()いてある(ふか)洞穴(ほらあな)(なか)へ、175サツサと()()んで(しま)つた。176バーチルは岩窟(いはや)(なか)(みちび)かれ、177(むね)(とどろ)かして()ると、178(めづ)らしき果物(くだもの)小猿(こざる)むしら(きた)つて(かは)()(など)して、179(これ)()へよと(すす)めるのである。180意外(いぐわい)猩々(しやうじやう)態度(たいど)に、181ヤツと(むね)()()ろし、182(からだ)(つか)れて(なは)(やう)にグニヤグニヤになつて()るのを、183(しば)休養(きうやう)せむとゴロリと(よこ)になつた。184猩々(しやうじやう)()()(なかば)(かわ)いたのを(あつ)()いて、185バーチルを(かか)自分(じぶん)手枕(てまくら)をして母親(ははおや)(あか)(ばう)添乳(そへち)をする(やう)に、186いと親切(しんせつ)体中(からだぢう)()(さす)り、187介抱(かいはう)熱中(ねつちう)して()る。188かくの(ごと)くしてバーチルは三年(さんねん)月日(つきひ)(この)猩々ケ島(しやうじやうがしま)(おく)(こと)となつた。189(この)猩々(しやうじやう)(めす)であつて(この)(しま)動物(どうぶつ)(わう)である。190猩々(しやうじやう)(ほか)鹿(しか)(うさぎ)()んで()た。191されど(うさぎ)鹿(しか)時々(ときどき)猩々王(しやうじやうわう)(そば)にやつて()(むつ)まじげに(あそ)んで()る。
192 二年目(にねんめ)猩々(しやうじやう)とバーチルの(あひだ)半人半獣(はんにんはんじう)(めう)(あか)(ばう)(うま)れた。193猩々(しやうじやう)(わう)掌中(しやうちう)(たま)(いつくし)み、194バーチルに自慢(じまん)さうに(いだ)かせたり、195自分(じぶん)(かほ)()めたり(ちち)()まして(その)()成人(せいじん)()つものの(ごと)くであつた。196バーチルも(くに)(かへ)らうと(おも)つても肝腎(かんじん)(ふね)はなし、197(また)猩々王(しやうじやうわう)()(しの)んで(かへ)(わけ)にも()かなかつた。198バーチルは三年(さんねん)(あひだ)猩々(しやうじやう)同棲(どうせい)し、199大抵(たいてい)表情(へうじやう)(もつ)意志(いし)(つう)ずる(こと)出来(でき)(やう)になつて()た。200(なん)となく浜辺(はまべ)()たくなつて(たま)らないので猩々王(しやうじやうわう)身振(みぶり)(もつ)浜辺(はまべ)(あそ)びに()かうかと()つた。201猩々王(しやうじやうわう)(うれ)しげに(うなづ)いて()()(なが)数多(あまた)小猿(こざる)(したが)へ、202バーチルの身辺(しんぺん)(まも)(なが)ら、203嶮峻(けんしゆん)岩山(いはやま)(くだ)つて磯端(いそばた)()(かに)()ひかけたり、204(すな)()つたり、205色々(いろいろ)(なぐさ)みをして(うれ)しさうに(なつ)磯辺(いそべ)(あそ)びをやつて()た。
206 (たちま)二三丁(にさんちやう)ばかり沖合(おきあひ)白帆(しらほ)()げて(とほ)(ふね)がある。207(この)附近(ふきん)容易(ようい)(ふね)(とほ)(こと)出来(でき)ない、208暗礁(あんせう)点綴(てんてつ)危険区域(きけんくゐき)である。209バーチルは(この)(ふね)()るより両手(りやうて)打振(うちふ)打振(うちふ)り、210人間(にんげん)(この)(しま)漂着(へうちやく)して()ると()合図(あひづ)(しめ)した。211船頭(せんどう)のイールはフツと(この)姿(すがた)()(おどろ)いた(やう)(こゑ)で、
212イール『あ、213皆様(みなさま)214一寸(ちよつと)御覧(ごらん)なさいませ。215あの(しま)猩々ケ島(しやうじやうがしま)()つて猩々(しやうじやう)ばかりが()んで()ますが、216不思議(ふしぎ)(こと)には人間(にんげん)らしいものが磯端(いそばた)()つて、217数多(あまた)猩々(しやうじやう)取囲(とりかこ)まれ、218()()つて()ります。219随分(ずいぶん)沢山(たくさん)猩々(しやうじやう)ですよ』
220伊太(いた)(なに)221猩々(しやうじやう)(しま)222そりや面白(おもしろ)からう』
223()ふより(はや)苫屋根(とまやね)(なか)から(へさき)()()てよくよく()れば、224イールの()つた(とほ)人間(にんげん)らしいものが(しき)りに(うで)()つて()る。
225伊太(いた)『もし、226先生(せんせい)227どうやら、228あの(しま)人間(にんげん)漂着(へうちやく)して()様子(やうす)です。229(ひと)(なん)とかして(ふね)()調(しら)べて()かうぢやありませぬか』
230ヤッコス『あれは大変(たいへん)(わる)猩々(しやうじやう)()るのです。231あんな(ところ)()かうものなら、232(みな)両眼(りやうがん)()()かれ(いのち)()られて(しま)ひます。233そんな険呑(けんのん)(ところ)()くものぢやありませぬ。234(けつ)して(わる)(こと)(まを)しませぬ。235()めなさいませ』
236伊太(いた)先生(せんせい)237(そば)まで(ふね)()せて調(しら)べて()ようぢやありませぬか。238(べつ)上陸(じやうりく)さへせなければ危険(きけん)はありませぬ。239()(かく)人間(にんげん)(けだもの)か、240よく調(しらべ)て、241人間(にんげん)ならば(たす)けてやらねばなりますまい。242是非(ぜひ)とも(ふね)()()いものですな』
243玉国(たまくに)成程(なるほど)244(まへ)()(とほ)りだ。245どうも人間(にんげん)らしい。246あんな無人島(むじんたう)(けだもの)同棲(どうせい)してるのだらう。247(なに)面白(おもしろ)(はなし)()けるかも()れない。248()(かく)(わず)二三丁(にさんちやう)(ところ)だから、249船頭(せんどう)さま、250一寸(ちよつと)(ふね)をつけて()れまいか』
251イール『はい、252初稚様(はつわかさま)()ふお(かた)沢山(たくさん)なお(かね)(いただ)き、253(また)宣伝使(せんでんし)仰有(おつしや)(とほ)りにして()れとのお(たの)みで(ござ)いますから(おほ)せに(したが)ひませう』
254玉国(たまくに)『や、255そりや有難(ありがた)い、256そんなら(たの)む』
257 『はい』と(こた)えてイールは(へさき)(てん)水先(みづさき)(かんが)(なが)(やうや)くにして磯辺(いそべ)()いた。
258大正一二・三・二九 旧二・一三 於皆生温泉浜屋 北村隆光録)