霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第四章 陰使(いんし)〔一五〇四〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第59巻 真善美愛 戌の巻 篇:第1篇 毀誉の雲翳 よみ:きよのうんえい
章:第4章 陰使 よみ:いんし 通し章番号:1504
口述日:1923(大正12)年04月01日(旧02月16日) 口述場所:皆生温泉 浜屋 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1925(大正14)年7月8日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる] 主な登場人物: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:
愛善世界社版: 八幡書店版:第10輯 504頁 修補版: 校定版:58頁 普及版: 初版: ページ備考:
001(とほ)神代(かみよ)(むかし)より
002アヅモス(さん)聖場(せいぢやう)
003梵天(ぼんてん)帝釈(たいしやく)自在天(じざいてん)
004大国彦(おほくにひこ)神霊(しんれい)
005(いつ)きまつりて天王(てんのう)
006(もり)(とな)へて朝夕(あさゆふ)
007(つつし)(うやま)(つか)へたる
008イヅミの(くに)のスマの(さと)
009里庄(りしやう)(やく)(えら)まれし
010(やかた)(あるじ)バーチルは
011アンチーと(とも)湖原(うなばら)
012(すなど)りせむと()でしより
013如何(いかが)なりしか白浪(しらなみ)
014(おも)(なが)めて里人(さとびと)
015悲歎(ひたん)(なみだ)にくれ(なが)
016野辺(のべ)(おく)りを相済(あひす)まし
017(あきら)()つた(なつ)(よひ)
018()きを三年(みとせ)のあともなく
019(ゑみ)(たた)へて(かへ)()
020主従(しゆじゆう)二人(ふたり)(かげ)()
021枯木(かれき)(はな)()きし(ごと)
022老若男女(らうにやくなんによ)()(つど)
023目出度(めでた)目出度(めでた)いお目出度(めでた)
024(あま)岩戸(いはと)(ひら)けしと
025二十戸前(にじつとまへ)(くら)をあけ
026(たくは)へおきし般若湯(はんにやたう)
027各自(てんで)(には)持出(もちだ)して
028(かわ)きし餓鬼(がき)川水(かはみづ)
029(ひた)りし(ごと)くガブガブと
030うつつを()かし()(くる)
031かかる(ところ)へバラモンの
032キヨの関守(せきもり)チルテルは
033数多(あまた)兵士(へいし)引率(ひきつ)れて
034三五教(あななひけう)宣伝使(せんでんし)
035(この)()(ふか)(しの)びしと
036()くより(こま)(むちう)ちて
037実否(じつぴ)(さぐ)(しら)ぶべく
038威儀(ゐぎ)(ただ)して入来(いりきた)
039(おもて)(もん)(くぐ)()
040()(とど)かない広庭(ひろには)
041(まなこ)(ひか)らし(なが)むれば
042(ところ)()(まで)里人(さとびと)
043うごなはりゐて(うれ)しげに
044(さけ)()みかはし(うた)(うた)
045(くる)へるさまを()るよりも
046(のど)(むし)()承知(しようち)せず
047つきつけられし(しやく)()
048相好(さうがう)くづし馬上(ばじやう)より
049ヒラリと(には)(とび)おりて
050数多(あまた)従者(じうしや)諸共(もろとも)
051(した)()ちならしかぶりつく
052()にも(いや)しき(さけ)(くら)
053()るも(あは)れな次第(しだい)なり。
054 チルテルは(さけ)(をんな)にかけては()(はな)もない厄介者(やつかいもの)である。055テク、056アキス、057アールの三人(さんにん)長柄(ながえ)(しやく)鼻先(はなさき)般若湯(はんにやとう)突付(つきつ)けられ、058(たちま)自分(じぶん)使命(しめい)をケロリと(わす)れたものの(ごと)く、059口汚(くちぎたな)群衆(ぐんしう)(うち)(まじ)つてガブリガブリと()(はじ)めた。060テクは夢中(むちう)になつて、061巻舌(まきじた)使(つか)(なが)ら、062彼方(あなた)此方(こなた)とゴロつき(はじ)めたり。
063テク『これはこれは、064チルテルのキャプテン(さま)065よくマア御入来(ごじゆらい)(くだ)さいました。066今日(けふ)新主人(しんしゆじん)バーチルが(ひさ)()りで帰国(きこく)(いた)しまして、067(その)祝宴(しゆくえん)(ひら)いて()(ところ)(ござ)います。068第一番(だいいちばん)にお役所(やくしよ)(はう)招待状(せうたいじやう)()すのが本意(ほんい)(ござ)いますが、069(なん)(まを)しても、070清廉(せいれん)潔白(けつぱく)なお役人様(やくにんさま)071身分(みぶん)(ちが)ひますから、072(この)テクのやうなスパイとは(おな)じやうには(まゐ)りませず 073つい御案内(ごあんない)(まをし)かね遠慮(ゑんりよ)(いた)して()りましたが、074キャプテン(さま)(はう)から御出張(ごしゆつちやう)(くだ)さいますとは、075(なん)()光栄(くわうえい)(ござ)いませう。076サア何卒(どうぞ)(さけ)(いづみ)渾々(こんこん)()()でて()きませぬ。077何卒(どうぞ)(おも)存分(ぞんぶん)おあがり(くだ)さいまして、078底抜(そこぬ)(さわ)ぎをやつて(いただ)きたう(ござ)います。079(この)座敷(ざしき)露天(ろてん)(ござ)いますが、080奈落(ならく)(そこ)から()(かた)めておきましたから、081メツタに(ゆか)(おち)気遣(きづかひ)(ござ)いませぬ。082何卒(どうぞ)(こころ)おきなく御召(おめし)(あが)(くだ)さいませ。083主人(しゆじん)のバーチルに(かは)つて、084新番頭(しんばんとう)のテクが、085(およ)ばず(なが)御挨拶(ごあいさつ)申上(まをしあ)げます』
086(みぎ)(てのひら)無雑作(むざふさ)(はな)(ぱしら)をプイと(ひだり)(はう)()し、087(ひぢ)(かほ)(あせ)(ぬぐ)ふ。
088チルテル『お(まへ)はテクぢやないか。089(なん)とマア()(はや)い、090辞職(じしよく)許可(きよか)()ずに、091勝手(かつて)番頭(ばんとう)になるといふことがあるものか。092バラモンの御威勢(ごゐせい)(おそ)れぬか、093不届者(ふとどきもの)だなア』
094テク『モシ、095キャプテン(さま)096さう(さけ)()小難(こむつか)しい(かほ)をなさいますと、097折角(せつかく)()めい(さけ)不味(まづ)くなつて(しま)ひますワ。098マア、099小言(こごと)(あらた)めて(のち)(うけたま)はりませう。100(この)(さけ)(つら)みて(わら)はない(もの)何処(どこ)にありますか。101サア(ひと)つお(しやく)(いた)しませう。102(うら)別室(はなれ)におかかへ(あそ)ばした、103あのナイスのお(しやく)ならば、104一入(ひとしほ)(さけ)(うま)いでせうが、105どうもそれ(だけ)不便(ふべん)(ござ)いますなア、106エヘヽヽヽ』
107チルテル『どうかして、108(まへ)109(ひと)つあの(をんな)をチルナに内証(ないしよう)でソツと()んで()てくれまいかな、110褒美(はうび)(いく)らでもやるからな』
111テク『ヘ、1111(かしこ)まりました。112(その)(かは)りに褒美(はうび)として、113(かね)()りませぬ、114(また)(さけ)はここで沢山(たくさん)(いただ)かうと(まま)ですから、115()以外(いぐわい)のものを(いただ)きたいもので(ござ)います』
116チルテル『(なに)(いただ)きたいと()ふのだ』
117テク『ヘー、118カンが(いただ)きたいので(ござ)います』
119チルテル『カンなればすぐに出来(でき)るでないか、120かう冷酒(ひやざけ)(ばか)りガブガブやつてゐては面白(おもしろ)くないからのう』
121テク『ハテまあ、122カンの(わる)い、123カンと()つたらカンですがな。124(さけ)のカン(なん)かとは(ちが)ひますよ。125ポンポン カンカンと人民(じんみん)(つか)まへて威張(ゐば)()らす(くわん)ですよ』
126チルテル『成程(なるほど)127それなら成功(せいこう)(うへ)128目付頭(めつけがしら)にしてやらう』
129テク『滅相(めつさう)もない、130そんな(いや)しい職掌(しよくしやう)御免(ごめん)(かうむ)りたう(ござ)います。131せめてリューチナントに抜擢(ばつてき)して()しいものですな』
132チルテル『うまく、133チルナに(わか)らぬやうに、134此処(ここ)へあのナイスを(ひつ)ぱつて()よつたら、135リューチナントにしてやらう。136(ひと)(ほね)()つてみてくれ』
137テク『滅相(めつさう)な、138此頃(このごろ)何事(なにごと)先金(さきぎん)とか手附(てつけ)とかがなければ、139一切(いつさい)取引(とりひき)(いた)しませぬから、140()不成功(ふせいこう)(をは)つたら御返(おかへ)しするといふことにして、141()(かく)リューチナントに(めい)じて(くだ)さいませ。142さうでないと、143カンナの(やつ)144リューチナントだと()つて威張(ゐば)()らしますから、145裏口(うらぐち)から(しの)()むだ()さきに、146カンナの(やつ)に「コラツ」と一喝(いつかつ)くはされたが最後(さいご)147()(あし)()ませぬ。148(わたし)がリューチナントならば同役(どうやく)ですからな』
149チルテル『アヽ仕方(しかた)がない、150臨事(りんじ)憲兵(けんぺい)中尉(ちうゐ)にしてやらう。151(しか)(あま)りケンペーらしく()ふと剥奪(はくだつ)するから、152さう(おも)へ』
153テク『ヤア有難(ありがた)う。154(これ)からテクのテクダで、155(うま)引張(ひつぱ)つて()やせう、156マア(しばら)()つてゐて(くだ)さい。157そしてテクの腕前(うでまへ)()(いただ)けば、158光栄(くわうえい)です。159……あゝあ(いそが)しいことだ。160バーチル()大番頭(おほばんとう)(けん)リューチナントと、161(にはか)出世(しゆつせ)をしたものだから、162(にはか)事務(じむ)煩雑(はんざつ)になつて()たワイ。163矢張(やつぱり)無官(むくわん)太夫(たゆう)(はう)()いかなア』
164チルテル『無官(むくわん)太夫(たゆう)がよければ、165(いま)言葉(ことば)取消(とりけ)す』
166テク『滅相(めつさう)な、167一旦(いつたん)武士(ぶし)(くち)から()たお言葉(ことば)168不調法(ぶてうはふ)もないに、169取消(とりけし)(ゆる)しませぬぞ。170上官(じやうくわん)一言(いちごん)金石(きんせき)よりも(おも)いぢやありませぬか。171()りにも朝令暮改的(てうれいぼかいてき)(こと)仰有(おつしや)いますと、172(たちま)信用(しんよう)()におちますぞ』
173チルテル『エー仕方(しかた)がない。174それならバラモンの中尉(ちうゐ)として()注意(ちうい)して、175女房(にようばう)のチルナ(ひめ)(わか)らぬ(やう)176()()れたのを(さいはひ)177うまくそこは弁舌(べんぜつ)使(つか)つて、178ナイスを此処(ここ)()れて()てくれ。179さうして(しやく)をさせて大勢(おほぜい)(やつ)にアツと()はせ、180(おれ)腕前(うでまへ)遺憾(ゐかん)なく(みな)(やつ)()()せびらかしてやるのも愉快(ゆくわい)だ。181サア(はや)()つた()つた』
182テク『エヘヽヽヽ、183こんなことに抜目(ぬけめ)のあるテクぢやありませぬワイ。184サア(これ)から一走(ひとはし)()つて(まゐ)ります。185マア(ゆつく)御酒(ごしゆ)でも()(あが)りませ……ヤア、186コレワイサの、1861シテコイナ』
187(めう)身振(みぶり)をし(なが)ら、188頬被(ほほかぶ)りをクツスリと()め、189群衆(ぐんしう)(なか)(くぐ)つて、190(あし)もヒヨロ ヒヨロ、191チルテルが駐屯所(ちうとんじよ)別室(はなれ)()して(しの)()く。
192 (そら)黒雲(くろくも)(つつ)まれて、193(ふた)()(くも)(ほころ)びから、194(かすか)(ほし)(またた)いてゐる。195(しの)びよつたる五月暗(さつきやみ)196障子(しやうじ)(あか)りをあてに、197足音(あしおと)(しの)ばせ(うかが)ひみれば、198影法師(かげぼふし)(みつ)(うつ)つてゐる。199そして一人(ひとり)(をんな)200二人(ふたり)はどうも(をとこ)らしい。201テクは『ハハア、202あの影法師(かげぼふし)から(かんが)へてみると、203カンナ、204ヘールの両人(りやうにん)とみえる。205抜目(ぬけめ)のない(やつ)だな。206キャプテンさまの不在(ふざい)(うかが)ひ、207うまく()()れやうと野心(やしん)(おこ)して襲撃(しふげき)してゐやがるのだナ。208(しか)彼奴(きやつ)()()かないワイ。209一人(ひとり)(をんな)口説(くど)くに()れを(さそ)うて()くといふ(やつ)がどこにあるか。210(しか)(こま)つたことには、211あんな(やつ)二人(ふたり)(そば)にひつついてゐやがると、212肝腎要(かんじんかなめ)(おれ)使命(しめい)(はた)せない。213ここは(ひと)肝玉(きもだま)をおつぽり()して、214憲兵中尉(けんぺいちうゐ)(おど)かしてやらう。215そして「不義者(ふぎもの)見付(みつ)けた……」と大喝(だいかつ)一声(いつせい)216()()りバラバラと(ちひ)さくなつて逃失(にげう)せる(やう)にやるのだな、217エツヘヽヽヽ。218()うなると、219リューチナントも有難(ありがた)いものだ』と独言(ひとりご)ちつつ故意(わざ)とに足音(あしおと)(たか)(まど)外面(そとも)にすりよつて、
220テク『やアやア、221(それがし)今日(こんにち)チルテルのキャプテン殿(どの)より(あらた)めて憲兵中尉(けんぺいちうゐ)要職(えうしよく)(さづ)けられたるテクで(ござ)るぞよ。222(をんな)一人(ひとり)居間(ゐま)入来(いりきた)り、223密々(ひそびそ)(ささや)いてゐる(やつ)何者(なにもの)だ。224大抵(たいてい)障子(しやうじ)(かげ)()つて、225(その)誰人(たれ)なるかは(わか)つてゐるが226今日(けふ)新任(しんにん)(いはひ)としてみて()(ふり)(いた)す。227サア(はや)くトツトと姿(すがた)(かく)し、228(もと)(しよく)忠実(ちうじつ)についたがよからう。229グヅグヅ(いた)して(この)(はう)(つら)()られたが最後(さいご)230(その)(はう)(たちま)ちリューチナントもユゥンケルも(ぼう)にふらねばならぬぞや、231エエン。232(はな)(した)(なが)代物(しろもの)だなア』
233 カンナ、234ヘールの両人(りやうにん)はテクの言葉(ことば)()いて、
235『ヤア此奴(こいつ)大変(たいへん)だ。236こんなことをキャプテンに報告(はうこく)されようものなら、237サツパリ駄目(だめ)だ。238エー仕方(しかた)がない、239こちらに弱点(じやくてん)があるのだから、240ここはマア辛抱(しんばう)して退却(たいきやく)することにせうかい』
241小声(こごゑ)(ささや)き、242(この)()をつつと()つて(やみ)(かく)れようとする。243初稚姫(はつわかひめ)故意(わざ)平気(へいき)(かほ)で、
244初稚(はつわか)『あのカンナ(さま)245ヘール(さま)246マアいいぢや(ござ)いませぬか。247種々(いろいろ)(めづら)しいお(はなし)()かして(くだ)さいまして、248(わらは)大変(たいへん)()(ところ)(ござ)いました。249モウ(しばら)御悠(ごゆつく)りなさいませ。250これからクラブィコードでも(だん)じて御慰(おなぐさ)めに(きよう)しませう。251そしてお(ちや)でも(ゆつく)りあがつて御帰(おかへ)(くだ)さいませ。252偶々(たまたま)()(くだ)さいまして、253(なん)御愛想(おあいさう)(ござ)いませぬから』
254カンナ『ヘ、255有難(ありがた)(ござ)います。256(いま)御聞(おきき)(とほ)り、257(まど)(そと)(たれ)かが()()りますから、258貴女(あなた)御迷惑(ごめいわく)になつても()(どく)(ござ)います。259()(かく)一度(いちど)退却(たいきやく)(いた)しませう』
260初稚(はつわか)(なに)仰有(おつしや)います、261(わらは)(けつ)して迷惑(めいわく)とは(かん)じて()りませぬ。262天下(てんか)()れて文学(ぶんがく)のお(はなし)()かして(いただ)いて()るので(ござ)いますもの。263貴方(あなた)(わたし)(なか)(あや)しい関係(くわんけい)があるのでなし、264(たれ)がお(いで)になつても遠慮(ゑんりよ)()りますまい。265(かへつ)左様(さやう)なことをなされますと、266(いた)くない(はら)(さぐ)られ、267貴方(あなた)(がた)御迷惑(ごめいわく)になるかも()れませぬよ。268貴方(あなた)立派(りつぱ)軍人様(ぐんじんさま)ぢや(ござ)いませぬか、269(よひ)どれさまの一人(ひとり)二人(ふたり)(おそ)ろしいので(ござ)いますか』
270カンナ『ヘ、271(べつ)(おそ)ろしいことも(ござ)いませぬ、272(しか)(なが)(あと)がうるさう(ござ)いますからなア』
273初稚(はつわか)『うるさい(こころ)さへ()つてゐなければ(かま)はぬぢやありませぬか。274(ひと)(くち)には()()てられぬと(まを)しまして、275世間(せけん)(うはさ)()にしてるやうなことでは、276到底(たうてい)()(なか)()つて()ざましい(はたら)きは出来(でき)ませぬよ』
277カンナ『成程(なるほど)278(せつ)御尤(ごもつと)も、279(しか)らばモウ(しばら)御同席(ごどうせき)(ねが)ひませう。280オイ、281ヘール、282かう二人(ふたり)()るとカサが(たか)いから、283(まへ)(しばら)退席(たいせき)してくれまいか、284関所(せきしよ)(はう)何時(いつ)(よう)出来(でき)るか(わか)らぬからのう』
285ヘール『ヘツヘヽヽヽ、286仰有(おつしや)いますワイ。287(その)()()るやうなヘールぢやありませぬぞ』
288初稚(はつわか)何卒(どうぞ)二人様(ふたりさま)289御悠(ごゆつくり)なさいませ。290(なに)御心配(ごしんぱい)()りませぬ。291……コレコレ テク(さま)とやら、292そこでは()がたべます。293何卒(どうぞ)這入(はい)りなさいませ』
294テク『イヤア、295(いで)たな、296矢張(やつぱ)り、297リュウチナントといふ(こゑ)()いて、298幾分(いくぶん)(こころ)(うご)いたとみえるワイ、299イヒヽヽヽ』
300(かす)かに(わら)(なが)ら、301『オホン』と(ひと)咳払(せきばらひ)302表戸(おもてど)をソツとあけ、303故意(わざ)とすました(かほ)をして、304直立不動(ちよくりつふどう)態度(たいど)(しめ)し、
305テク『これはこれは、306古今無双(ここんむさう)のナイス(さま)307(わたくし)(しん)中尉(ちうゐ)(ござ)います。308一寸(ちよつと)キャプテン(さま)命令(めいれい)()つて、309貴方(あなた)折入(をりい)つての御願(おねがひ)がありますので、310使者(ししや)(まか)()しました。311何卒(どうぞ)(これ)()両人(りやうにん)少時(しばらく)(とほ)ざけて(いただ)きたう(ござ)います』
312初稚(はつわか)『お二人様(ふたりさま)313(なん)だか御用(ごよう)があるさうで(ござ)いますから、314失礼(しつれい)(ござ)いますが、315一寸(ちよつと)少時(しばらく)(せき)をお(はづ)(くだ)さいませぬか』
316カンナ『ヘー、317(なが)いことですか、318……(なが)ければ(なが)いで、319此方(こちら)にも事務上(じむじやう)都合(つがふ)(ござ)いますから、320(じつ)(ところ)(いそ)がしい(なか)繰合(くりあは)せて、321奥様(おくさま)御命令(ごめいれい)……ウン否々(いやいや)322奥様(おくさま)()(しの)んで一寸(ちよつと)御機嫌(ごきげん)(うかが)ひに(まゐ)つたので(ござ)いますからなア』
323初稚(はつわか)奥様(おくさま)御機嫌(ごきげん)(よろ)しう(ござ)いますかな、324()うしたものか、325(わたし)御面会(ごめんくわい)申込(まをしこ)んでもお(いそが)しいと()えて、326まだ()つて(いただ)けませぬ』
327ヘール『そらさうでせう。328(なん)()つても、329()けて仕方(しかた)がないのですからなア、330ヘツヘヽヽヽ。331オイ、332カンナ、333(ひめ)(さま)請求(せいきう)()つて、334暫時(ざんじ)離席(りせき)することにせうかい』
335とスゴスゴと立出(たちい)336(やみ)(しの)んで二人(ふたり)(はなし)()いてゐる。
337大正一二・四・一 旧二・一六 於皆生温泉浜屋 松村真澄録)