霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第六章 金酒結婚(きんしゆけつこん)〔一八一二〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第64巻下 山河草木 卯の巻下 篇:第2篇 鬼薊の花 よみ:おにあざみのはな
章:第6章 第64巻下 よみ:きんしゅけっこん 通し章番号:1812
口述日:1925(大正14)年08月19日(旧06月30日) 口述場所:丹後由良 秋田別荘 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1925(大正14)年11月7日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる] 主な登場人物: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日: OBC :rm64b06
愛善世界社版:77頁 八幡書店版:第11輯 524頁 修補版: 校定版:77頁 普及版:63頁 初版: ページ備考:
001 守宮別(やもりわけ)はお(はな)(とも)に、002(とら)霊城(れいじやう)()()七八町(しちはつちやう)()横町(よこまち)のカフエーに()り、003此処迄(ここまで)()()びれば()安心(あんしん)と、004コツプ(さけ)をきこし()すべく、005(いや)がるお(はな)()()いて無理(むり)奥座敷(おくざしき)(とほ)り、
006『オイ、007女房(にようばう)008イヤお(はな)009肝腎(かんじん)祝言(しうげん)(さかづき)最中(さいちう)に、010(とら)極道(ごくだう)(かへ)つてうせたものだから、011恰度(ちやうど)百花爛漫(ひやくくわらんまん)()(にほ)(はな)(はやし)に、012(あらし)()いたやうなものだつた。013殺風景(さつぷうけい)(きは)まる。014折角(せつかく)(まへ)()いで()れた(さけ)(ひざ)(うへ)(こぼ)して仕舞(しま)ひ、015気分(きぶん)(わる)くて仕様(しやう)()いから、016(あらた)めて此処(ここ)祝言(しうげん)心持(こころもち)一杯(いつぱい)やらうぢやないか』
017如何(いか)にも、018(わたし)だつて貴方(あなた)(なさけ)のお(つゆ)のお神酒(みき)があまり(あわ)てたものだから(みな)(くち)(そと)(こぼ)れて仕舞(しま)ひ、019三分(さんぶん)(いち)(はい)つてをりませぬわ。020ここ(まで)()れば大丈夫(だいぢやうぶ)です。021(ゆつ)くりとやりませうか。022一生(いつしやう)一代(いちだい)のお(いはひ)ですからなア。023(しか)しお(とら)さまが(あと)()つかけてでも()たら、024一寸(ちよつと)(こま)りますがなア』
025『ナアニ、026尻餅(しりもち)ついて気絶(きぜつ)して()るのだもの、027滅多(めつた)()気遣(きづか)ひは()い。028もし()たつて()んだ。029夫婦(ふうふ)(さかづき)をして()るのにゴテゴテ()権利(けんり)もあるまい。030そんな(こと)心配(しんぱい)して()ては悪魔(あくま)()(なか)だ、031一日(いちにち)もぢつとして()られ()い。032神様(かみさま)のお(みち)もお(みち)だが、033人間(にんげん)衣食住(いしよくぢう)(みち)大切(たいせつ)だから、034吾々(われわれ)()相当(さうたう)にやらねばならぬからなア』
035 ()(はな)して()(ところ)へカフエーの給仕(きふじ)真白(まつしろ)のエプロンを()け、036コーヒーを(はこ)んで()て、
037『モシお(きやく)さま、038(なに)(いた)しませうかなア』
039『ウン、040()第一(だいいち)にお(さけ)一本(いつぽん)つけて()れ。041さうして(うなぎ)蒲焼(かばやき)(たひ)刺身(さしみ)042淡泊(あつさり)した吸物(すひもの)猪口(ちよく)(ひと)手軽(てがる)(たの)むよ』
043芸者(げいしや)はお()びになりませぬか、044(なん)なら旦那(だんな)さまに適当(てきたう)別品(べつぴん)(ござ)いますよ』
045『ウーン、046さうだなア』
047『モシお(かあ)さま、048(すゐ)()かして()げて(くだ)さいな。049(なん)()つても、050まだお(わか)いのですからな。051芸者(げいしや)()いとお(さけ)(うま)(すす)みませぬからなア』
052『ヤ、053また必要(ひつえう)()つたらお(ねが)ひしませう。054()(かく)(さけ)(ねが)ひませう』
055(やや)プリンとして()る。056(をんな)足早(あしばや)(おもて)()()つた。057(はな)(かほ)には暗雲(あんうん)(ただよ)ふた。
058『これ守宮別(やもりわけ)さま、059一本(いつぽん)だけ()んで此処(ここ)()()りませうか、060本当(ほんたう)馬鹿(ばか)にして()るぢやないか。061(おく)さまとも()はず、062(かあ)さまなぞと、063馬鹿(ばか)らしくて()られませぬワ』
064『マア()いぢやないか、065(かあ)さまと()られたなら()結構(けつこう)だよ。066(ひと)老人(としより)()える(ほど)価値(ねうち)があるのだからなア』
067『それだと()つて(あま)(ひと)馬鹿(ばか)にして()ますわ』
068 かく(はな)(ところ)以前(いぜん)(をんな)酒肴(さけさかな)用意(ようい)調(ととの)(はこ)(きた)り、
069『お客様(きやくさま)(えら)うお()たせ(いた)しました。070御用(ごよう)(ござ)いましたら何卒(どうぞ)()()つて(くだ)さい』
071 守宮別(やもりわけ)はこの(をんな)何処(どこ)とも()しに(いろ)(しろ)く、072目許(めもと)(すず)しく、073()()いしい(ところ)があるのに()()られ、074口角(こうかく)から、075(ねば)つたものを二三寸(にさんずん)(ばか)(おと)しかけた。076(この)(みち)へかけては勇者(ゆうしや)のお(はな)077何条(なんでう)見逃(みのが)すべき、078(をんな)()()るを()つて守宮別(やもりわけ)胸倉(むなぐら)をグツと()り、079()()()すり、
080『これや、081(わし)馬鹿(ばか)にするのかい、082()つともない目尻(めじり)()げたり(よだれ)()つたり、083アンナ売女(ばいた)がそれ(ほど)()()るのか、084(くさ)つた霊魂(たましひ)だなア、085サア(この)短刀(たんたう)(はら)()つて(もら)ひませう』
086『まあまあ()つてくれ、087さう()(ちがひ)をしてくれると(こま)るよ。088(よだれ)()つたのは(のど)(むし)催足(さいそく)して()つて()つた(さけ)()みたい()めだ。089()(ほそ)うしたのも矢張(やつぱ)(さけ)()みたいからだ。090(なん)立派(りつぱ)立派(りつぱ)な、091神徳(しんとく)()()ちた、092(なに)ぬけ()のないお(はな)さまの(かほ)()()て、093()うして(ほか)(こころ)()るものか。094(まへ)(ちつ)とヒステリツクの()があるから(こま)るよ。095さう一々(いちいち)(うたが)つて(もら)つては(こま)る。096(とら)だつて其処(そこ)(まで)疑惑(ぎわく)(まは)さなかつたよ』
097『さうでせう、098矢張(やつぱ)りお(とら)さまがお()()るでせう。099(わたし)余程(よほど)よい間抜(まぬけ)だからお(まへ)さまに(だま)されてこんな(ところ)(まで)()()されたのですよ。100オヽ(こは)(こは)や、101こんな(をとこ)にうつかり(はう)けて()らう(もの)なら、102折角(せつかく)国許(くにもと)から(おく)つて()(かね)(みな)()(たふ)され、103売女(ばいた)買収費(ばいしうひ)()られて(しま)ふのだつた。104あゝいい(ところ)()()いた。105これも(まつた)く、106竜宮(りうぐう)乙姫(おとひめ)(さま)(この)(をとこ)油断(ゆだん)がならぬぞよ、107何程(なにほど)(くち)(うま)(こと)(まうし)ても()るでないぞよ、108(あと)後悔(こうくわい)()()はぬぞよ、109とお()らせ(くだ)さつたのだらう。110あゝ乙姫(おとひめ)(さま)有難(ありがた)(ござ)います。111(わたし)本当(ほんたう)馬鹿(ばか)(ござ)いました。112オンオンオン』
113()(しづ)む。
114『こりやお(はな)115さうぷりぷりと(おこ)つて()れては(こま)るぢやないか。116(うたがひ)もよい加減(かげん)()らしたら()いぢやないか。117(さけ)(うへ)()ふた(こと)()のつぼに()つて、118さう攻撃(こうげき)せられちや、119如何(いか)勇猛(ゆうまう)海軍(かいぐん)中佐(ちうさ)でも()()れぬぢや()いか。120(さけ)(うへ)()ふた(こと)はマアあつさり見直(みなほ)()(なほ)すのぢやなア』
121『まだ、122一口(ひとくち)()みもせぬ(くせ)(さけ)(うへ)とは()()へたものです(わい)
123『「(かほ)()(ばか)りで()がいくならば……(さけ)()みや(たる)()()ふだらう」といふ文句(もんく)をお(まへ)何時(いつ)(うた)つて()るだらう。124(しか)しあの文句(もんく)実際(じつさい)とは正反対(せいはんたい)だ。125(わし)はお(まへ)(かほ)()ると()(へん)になつて(しま)ふのだ。126それと(おな)じに燗徳利(かんどくり)()ると恍惚(くわうこつ)として微酔気分(ほろよひきぶん)になつて(しま)ふのだから、127如何(どう)かさう御承知(ごしようち)(ねが)ひたい。128さう矢釜(やかま)しく()はれると(さけ)(あぢ)不味(まづ)くなつて仕方(しかた)がない』
129『それやサウでせうとも、130カフエーの白首(しらくび)()()皺苦茶(しわくちや)(わたし)(かほ)御覧(ごらん)になつたつて、131(さけ)美味(おい)しい(はず)(ござ)いませぬわ。132サアサア貴方(あなた)(ゆつ)くりとお(さけ)召上(めしあが)つて代価(だいか)(はら)つてお(かへ)りなさい。133(わたし)はもう()んな(てら)される(ところ)一時(いつとき)()るのが苦痛(くつう)ですわ。134貴方(あなた)はまるで、135(わたし)(くび)()()るやうな、136えぐい()()はして(くだ)さいます。137あゝこんな(こと)なら約束(やくそく)をせなかつたら()かつたになア』
138 守宮別(やもりわけ)自暴自棄糞(やけくそ)になり一万両(いちまんりやう)(かね)()(つも)りで、139(わざ)(ふと)()()た。
140『お(はな)さま、141夫婦(ふうふ)約束(やくそく)()()したいと仰有(おつしや)るのですか、142何程(なんぼ)(わし)可愛(かあい)(おも)つても、143(まへ)さまの(はう)から約束(やくそく)するぢやなかつたにと()ふやうな愛想尽(あいそづ)かしが()以上(いじやう)()()()いと()ふお(かんが)へでせう。144守宮別(やもりわけ)もお(はな)さまに海洋万里(かいやうばんり)(そら)見棄(みす)てられ愛想(あいそ)()かされるのも結句(けつく)光栄(くわうえい)です。145サアどうぞ(えん)()つて(くだ)さい。146(ちつ)とも御遠慮(ごゑんりよ)()りませぬからなア』
147『これ()(はや)守宮別(やもりわけ)さま、148(たれ)(えん)()ると()ひましたか、149(いま)となつて(えん)()るやうな(あさ)(かんが)へで約束(やくそく)(いた)しませぬよ。150そんな(こと)()つて貴方(あなた)(この)(はな)(いや)になつたものだから()()さうとするのでせう』
151馬鹿(ばか)()ふな、152(まへ)(はう)から此処(ここ)()()すと()つたぢやないか。153売女(ばいた)とお(たの)しみなさいなぞと散々(さんざん)悪口(あくこう)をつき、154(この)(をつと)(たい)愛想(あいそ)(づか)しを()つたらう。155(おれ)軍人(ぐんじん)だ、156女々(めめ)しい(こと)()はない。157(いや)なものを無理(むり)()ふてくれとは要求(えうきう)せぬ。158(この)(えん)(つな)がると(つな)がらぬとはお(まへ)(こころ)(ひと)つぢやないか』
159『やあ、160それで貴方(あなた)誠意(せいい)(わか)りました。161何処迄(どこまで)(わたし)()ふて(くだ)さるでせうなあ、162本当(ほんたう)(にく)(ほど)可愛(かあい)いわ』
163守宮別(やもりわけ)(かた)にぶら(さが)る。
164『これや無茶(むちや)をすな、165(さけ)がこぼれるぢやないか、166(あま)()つとも()くないぞ。167それそれカフエーの女中(ぢよちう)足音(あしおと)(きこ)えて()た』
168『ヘン、169()たつて(なん)です、170天下(てんか)()れての夫婦(ふうふ)ぢやありませぬか。171カフエーの女中(ぢよちう)にこのお目出(めで)たいお(やす)うない(ところ)()せつけてやるのが痛快(つうくわい)ですわ。172ほんとにお(かあ)さまなどと(ひと)馬鹿(ばか)にして()るぢやないか。173ねえ守宮別(やもりわけ)さま、174(わたし)貴方(あなた)とは仮令(たとへ)(てん)()となり()(てん)となり、175三千世界(さんぜんせかい)跡形(あとかた)もなく壊滅(くわいめつ)しても、176(こころ)(こころ)のピツタリ()ふた(こひ)花実(はなみ)永久(とこしへ)()えませぬわネエ』
177『ウン、178それやさうだ、179(とら)(さぞ)今頃(いまごろ)にや死物狂(しにものぐるひ)になつて(おれ)(あと)(さが)して()るだらうが、180(じつ)痛快(つうくわい)ぢやないか』
181『お(とら)(こと)一生(いつしやう)()はぬといつたぢやありませぬか。182矢張(やつぱ)未練(みれん)があると()えて、183ちよいちよい言葉(ことば)(さき)(あら)はれますなあ。184エヽ()やしい』
185力一(ちからいつ)ぱい頬辺(ほほべた)()ねる。
186『これや無茶(むちや)をするな、187(はな)(はな)(はな)さぬか』
188『この頬辺(ほほべた)がチ()れる(とこ)(まで)(はな)しませぬよ』
189益々(ますます)()()る。190守宮別(やもりわけ)()から(はな)から(くち)から(しる)()らして、191『アイタヽヽヽ』と小声(こごゑ)(さけ)んで()る。192其処(そこ)女中(ぢよちう)足音(あしおと)がしたのでお(はな)はパツと(はな)した。
193『あ(おそ)ろしいお(まへ)(をんな)だなあ、194今迄(いままで)コンナ(をんな)とは()らなかつたよ。195本当(ほんたう)猛烈(まうれつ)なものだなア』
196『さうですとも、197人殺(ひとごろ)しのお(はな)異名(あだな)()つた強者(したたかもの)ですよ。198(わか)(とき)(わたし)のレツテルで刃物(はもの)()たずと幾人(いくにん)(ころ)したか(わか)りませぬもの』
199意茶(いちや)づいて()る。200そこへ女中(ぢよちう)が、
201『お客様(きやくさま)202(かは)りは如何(どう)ですか』
203()ひつつ()()たる。204守宮別(やもりわけ)(あわ)ててハンカチーフで(かほ)(なみだ)鼻液(はなじる)()きながら、
205『アヽ(なん)でも()いからどつさり()つて()い、206兵站部(へいたんぶ)此処(ここ)女房(にようばう)(ひか)へて()るからな……』
207『どうか熱燗(あつかん)沢山(どつさり)淡泊(あつさり)したものか(なに)()つて()(くだ)さい。208(かね)(かま)ひませぬから、209その(かは)芸者(げいしや)などは駄目(だめ)ですよ、210女房(にようばう)(わたし)がついて()ますから』
211 女中(ぢよちう)はビツクリして、
212『あゝこれはこれは(おく)さまで(ござ)いましたか。213先刻(せんこく)はお(かあ)さまなぞと()そこないしまして失礼(しつれい)しました。214それでは芸者(げいしや)などの必要(ひつえう)(ござ)いますまい。215ホヽヽヽ』
216(わら)(なが)(いで)()く。
217『これお(はな)218()()かない(こと)(おびただ)しいではないか。219(まへ)(わし)とは(とし)母子(おやこ)(ほど)(ちが)ふのだから、220女中(ぢよちう)がさう()へば()れでよいぢやないか。221(おれ)()になんぼ十七八(じふしちはち)()えても世間(せけん)から()れば六十(ろくじふ)(しり)(つく)つたお()アさまだからなア』
222母子(おやこ)だナンテ、223そんな(いつは)りを()ふものぢやありませぬ。224(また)夫婦(ふうふ)だと()ふて()けば、225芸者(げいしや)なぞ(うる)さい世話(せわ)をせうと(まを)しませぬからなア』
226如何(いか)にも御尤(ごもつと)も、227どうしてもお(はな)(おれ)とは一枚(いちまい)役者(やくしや)(うへ)だわい、228エヘヽヽヽ』
229 (おもて)には労働者(らうどうしや)が、230コツプ(ざけ)をあふりながら四辺(あたり)かまはず(しやべ)つて()る。
231『オイ、232トンク、233ぼろい(こと)をやつたぢやないか。234あのお(とら)()アさまを(たす)けに()つて大枚(たいまい)二十円(にじふゑん)づつ。235これで十日(とをか)廿日(はつか)気楽(きらく)(さけ)()めると()ふものぢや。236(とき)にあのお(とら)について()る、237蠑螈(いもり)とか蜥蜴(とかげ)とか()(をとこ)238あれはテツキリお(とら)のレコかも()れないよ。239(とら)(やつ)240何時(いつ)自分(じぶん)弟子(でし)弟子(でし)だと(ぬか)してけつかるが、241あれは屹度(きつと)くつついてけつかるのだらう。242その証拠(しようこ)(おさ)えて(ひと)強請(ゆす)つてやつたら(また)二十円(にじふゑん)三十円(さんじふゑん)(まう)かるだらうからなア』
243『これテク、244ソンナ勿体(もつたい)ない(こと)()ふな。245先方(むかふ)神様(かみさま)ぢやないか、246おまけに吾等(われら)三人(さんにん)はお(とら)さまの神力(しんりき)一耐(ひとたま)りもなく()(たふ)され、247(いのち)()(ところ)(たす)けて(もら)ひ、248(その)(うへ)重大(ぢうだい)使命(しめい)(まで)(おほ)せつかつて()るのぢやないか。249(かね)()しかつたらお(とら)さまに()へば幾何(いくら)でも()れるよ。250あの(とき)(かね)()しけれや幾何(いくら)でもやると()つたぢやないか』
251『それやさうぢや、252まあ(ゆつ)くりとポツポツに(しぼ)()(こと)にせうかい。253(とき)にツーロは何処(どこ)()きよつたのだらうかなア』
254彼奴(あいつ)(なん)だか、255ヤクの(あと)()ふておつかけて()つたぢやないか。256ヤクを(つか)まへて、257(とら)さまの(まへ)()きずり()し、258褒美(ほうび)(かね)()()かうと(おも)つて、259抜目(ぬけめ)なく()()しよつたのだよ』
260(しか)し、261(うら)座敷(ざしき)一寸(ちよつと)(おれ)最前(さいぜん)小便(せうべん)しに()つた(とき)262チラツと()についた(きやく)は、263どうも守宮別(やもりわけ)とお(はな)さまのやうだつたが、264(はし)まめの守宮別(やもりわけ)さまの(こと)だから、265(とら)さまの()(しの)んで、266(はな)さまと内証(ないしよう)で、267○○をやつて()るのぢやなからうかな』
268(なに)269(はな)さまと守宮別(やもりわけ)(うら)()ると()ふのか、270あゝそいつは面白(おもしろ)い。271サア(また)二十円(にじふゑん)だ』
272()(なが)ら、273トンク、274テクの両人(りやうにん)裏座敷(うらざしき)()して(しの)()く。
275大正一四・八・一九 旧六・三〇 於由良秋田別荘 加藤明子録)