霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一〇章 拘淫(こういん)〔一八一六〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第64巻下 山河草木 卯の巻下 篇:第2篇 鬼薊の花 よみ:おにあざみのはな
章:第10章 第64巻下 よみ:こういん 通し章番号:1816
口述日:1925(大正14)年08月20日(旧07月1日) 口述場所:丹後由良 秋田別荘 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1925(大正14)年11月7日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる] 主な登場人物: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日: OBC :rm64b10
愛善世界社版:128頁 八幡書店版:第11輯 542頁 修補版: 校定版:130頁 普及版:63頁 初版: ページ備考:
001 橄欖山(かんらんざん)坂道(さかみち)木蔭(こかげ)四五人(しごにん)のドルーズ(じん)や、002アラブや、003猶太人(ユダヤじん)労働服(らうどうふく)()(まま)面白相(おもしろさう)雑談(ざつだん)(ふけ)りゐる。004その(なか)一人(ひとり)なるバルガンは、
005『オイ、006ガクシー、007(きさま)(この)(あひだ)戦争(せんそう)()つたといふ(はなし)だが、008金鵄勲章(きんしくんしやう)でも(もら)つたのか。009花々(はなばな)しき功名(こうみやう)手柄(てがら)をして(かへ)るなぞと()ひよつて、010近所合壁(きんじよがつぺき)(おく)られ、011大変(たいへん)(いきほひ)であつたが、012凱旋祝(がいせんいはひ)()つから()いた(こと)もなし、013いつの()にか吾々(われわれ)労働者(らうどうしや)仲間(なかま)舞戻(まひもど)つて()よつたが、014一体(いつたい)(たたか)ひの状況(じやうきやう)()うなつたのぢやい』
015ガクシー『ドルーズ(ぞく)のあの叛乱(はんらん)によつて仏軍(ふつぐん)から(やと)はれ、016ジエーベル・ドルーズの(みやこ)017ジエールに進軍(しんぐん)した(とき)018ドルーズ(ぞく)(いきほひ)猖獗(しやうけつ)にして、019仏軍(ふつぐん)()もなく打破(うちやぶ)られ、020みじめな(ざま)四方(しはう)八方(はつぱう)へ、021一時(いちじ)散乱(さんらん)して(しま)つたのだ。022(その)(とき)(おれ)軍夫(ぐんぷ)として、023(じつ)(ところ)(うしろ)(はう)輸送(ゆそう)をやつてゐたが、024大砲(たいはう)(たま)が、025間近(まぢか)にドンドン()ちて()るので、026何奴(どいつ)此奴(こいつ)(こし)()かし、027肝腎(かんじん)軍夫(ぐんぷ)が、028兵隊(へいたい)担架(たんか)()せられて(はこ)ばれるといふ(みぢ)めな(ざま)だつたよ』
029『あれ(だけ)軍器(ぐんき)(ととの)うたフランスの精兵(せいへい)が、030なぜ(また)暴民団体(ばうみんだんたい)たるドルーズ(ぞく)(もろ)くも打破(うちやぶ)られたのだ。031チとバランスがとれぬぢやないか』
032『そこが所謂(いはゆる)戦争(せんそう)水物(みづもの)といふのだ。033兵数(へいすう)(おほ)(はう)()(とも)034武器(ぶき)整頓(せいとん)した(はう)()つとも、035(また)武器(ぶき)調(ととの)はない兵数(へいすう)(すく)ない(はう)()つとも、036それは(とき)(うん)だから(わか)らないワ。037(なに)しろドルーズ(ぞく)一兵卒(いつぺいそつ)(いた)(まで)地理(ちり)には精通(せいつう)して()(うへ)038(ひと)()()てる(うへ)039あれ(だけ)人気(にんき)だつたから、040(その)虚勢(きよせい)(だけ)ででも(かつ)なねばならぬ道理(だうり)だ。041(わづ)二万(にまん)(ぐらひ)叛乱軍(はんらんぐん)五万(ごまん)のフランス(へい)が、042飛行機(ひかうき)大砲(たいはう)輜重車(しちようしや)も、043(なに)もかも(うつ)ちやつて、044(いのち)カラガラ敗北(はいぼく)して(しま)ひ、045ドルーズは(てき)武器(ぶき)応用(おうよう)して、046あく(まで)頑強(ぐわんきやう)(たたか)ひを(つづ)けるものだから、047仏軍(ふつぐん)はたうとうジェーダの首都(しゆと)占領(せんりやう)されて(しま)つたのだい。048本当(ほんたう)(つよ)(もの)(よわ)い、049(よわ)(もの)(つよ)時節(じせつ)になつたものだ』
050『さうすると、051俺達(おれたち)社会(しやくわい)弱者(じやくしや)として、052地平線下(ちへいせんか)(あせ)にひたつて蠢動(しゆんどう)してゐるのだが、053何時(いつ)(また)(あたま)をあげる(とき)があるだらうかな』
054『あらいでかい、055有為転変(うゐてんぺん)()(なか)だ。056いつ(まで)()持切(もちきり)にはさせぬと、057どつかの(かみ)さまもいつてゐる(さう)だから、058未来(みらい)(かなら)吾々(われわれ)プロレタリヤの天下(てんか)だ。059まあまあクヨクヨ(おも)はずに、060(しばら)辛抱(しんばう)するのだな、061今日(けふ)今日(けふ)とて、062エルサレムの(まち)温順(おとなし)(ある)いてゐると、063(おれ)風体(ふうてい)(みにく)いとか(あや)しいとか()ひやがつて、064スパイの(やつ)065何処迄(どこまで)尾行(びかう)してうせるのだ。066そして(ぬか)(こと)にや……(きみ)はどつから()た、067そして何処(どこ)()く。068(なん)(よう)だ。069(とし)(いく)つだ。070姓名(せいめい)(なん)といふ……などと三文(さんもん)にもならぬおせつかい(あそ)ばすのだから、071(みち)安心(あんしん)して(ある)けやしないワ。072(まる)(うへ)()つてゐる役人(やくにん)(ども)は、073子供(こども)につつかれた(はち)()番兵蜂(ばんぺいばち)(やう)神経過敏(しんけいくわびん)になつてゐやがるのだからのう』
074本当(ほんたう)(つま)らぬ()(なか)だの、075何時迄(いつまで)(この)(まま)にして()こうものなら、076世界(せかい)はメチヤメチヤになるだらうよ。077どうしても(この)調子(てうし)では十年(じふねん)たたぬ(うち)大革命(だいかくめい)(おこ)るだらうと(おも)つてゐるのだ』
078『そらさうだ、079生活難(せいくわつなん)就職難(しうしよくなん)(さけ)びがこれ(だけ)(やかま)しくなつて()るのだもの。080ブル階級(かいきふ)役人(やくにん)(ども)()いかげんに()()ましやがらぬと、081たつた(いま)082俺達(おれたち)地位(ちゐ)転倒(てんたう)して彼奴等(あいつら)(みじ)めな(ざま)になるだらうよ。083(おれ)(その)()()(まで)()んでも()なれないのだ。084先祖代々(せんぞだいだい)から彼奴等(あいつら)(しひた)げられて()たのだもの、085祖先(そせん)(はぢ)(すす)ぐのは、086吾々(われわれ)子孫(しそん)たる(もの)義務(ぎむ)だからなア。087最前(さいぜん)(この)山麓(さんろく)でトロッキーとかいふ(をとこ)が、088労働団(らうどうだん)農民団(のうみんだん)(あつ)めて過激(くわげき)演説(えんぜつ)をやつて()つたが、089()いてみれば(いち)から(じふ)(まで)御尤(ごもつと)至極(しごく)だ。090(しか)(なが)ら、091あんな(こと)()いて()らうものなら、092蜘蛛(くも)()をはつた(ごと)警察(けいさつ)(あみ)にかかつて、093厭応(いやおう)なしに、094(くら)(ところ)へブチ()まれちや大変(たいへん)だと(おも)ひ、095君子(くんし)(あやふ)きに近付(ちかづ)かずといふ筆法(ひつぱふ)で、096ここ(まで)スタスタやつて()りや、097(きみ)たち御連中(ごれんちう)御集会(ごしふくわい)098屹度(きつと)今頃(いまごろ)にや、099(なに)乱痴気(らんちき)(さわ)ぎが(はじ)まつてるかも()れないよ』
100(たれ)でも()いから、101(しつか)りした犠牲者(ぎせいしや)(あら)はれると()いのだがなア。102さうすりや俺達(おれたち)ア、103漁夫(ぎよふ)()(しめ)安楽(あんらく)(くら)せるのだけれど、104何奴(どいつ)此奴(こいつ)()ざかしい人間(にんげん)(ばか)りで、105自分(じぶん)身命(しんめい)()して矢面(やおもて)()つといふ大馬鹿(おほばか)()()んで、106サツパリ駄目(だめ)だ。107かういふ(とき)にや、108どうしても大馬鹿(おほばか)でなけりや、109世界(せかい)改造(かいざう)出来(でき)ないからのう』
110『そらさうだ。111ドルーズ(ぞく)酋長(しうちやう)カンバスでさへも、112(はじ)めは大変(たいへん)(いきほひ)矢面(やおもて)()ち、113二万(にまん)民衆(みんしう)武器(ぶき)携帯(けいたい)させ、114フランス(ぐん)勇敢(ゆうかん)(たたか)ひ、115一時(いちじ)大勝利(だいしようり)(はく)しよつたが、116いよいよ(ここ)といふ(ところ)で、117(にはか)怖気立(おぢけだ)ち、118安全(あんぜん)地帯(ちたい)()(のが)れよつたものだから、119全軍(ぜんぐん)士気(しき)(とみ)阻喪(そさう)し、120折角(せつかく)()つた首都(みやこ)(ふたた)仏軍(ふつぐん)()()し、121重立(おもだ)つた(もの)(いづ)れも(ばく)につき、122ドルーズ(ぞく)へは莫大(ばくだい)賠償金(ばいしやうきん)()()けられ、123ヤツトの(こと)で、124カンバスの哀願(あいぐわん)()つて、125大赦令(たいしやれい)()かれ、126一件落着(いつけんらくちやく)するはしたものの、127ドルーズは(えら)破目(はめ)(おちい)つたものだ。128徹底的(てつていてき)にどこ(まで)犠牲(ぎせい)になるといふ(やつ)さへあれば、129あんな(こと)()いのだけれどな、130(なん)()つても烏合(うがふ)(しう)だから、131バラモンには最後(さいご)(まで)(てき)する(こと)出来(でき)やしないワ。132(これ)(おも)ふと吾々(われわれ)プロレタリヤの前途(ぜんと)暗澹(あんたん)たるものだないか。133(はら)いせまぎれに、134夜中(やちう)(ひそ)かに役所(やくしよ)(もん)小便(せうべん)()りかけたり、135(くそ)()れた(くらゐ)では(なん)にも(かう)はないし、136大頭(おほあたま)一疋(いつぴき)二疋(にひき)爆弾(ばくだん)でやつてみた(ところ)で、137(めし)(うへ)(はへ)()ふやうなものだ。138(せん)ぐり(せん)ぐり(つぎ)から(つぎ)へと、139だんだん(わる)(やつ)(あら)はれて、140益々(ますます)吾々(われわれ)(たい)して(きび)しい法律(はふりつ)発布(はつぷ)したり、141三人(さんにん)()つて(はなし)をしても拘引(こういん)するといふ、142(いし)()をつめたやうな()()はすのだから、143矢張(やつぱり)144(よわ)(もの)(よわ)い、145(つよ)(もの)(つよ)時節(じせつ)だ……と()つても仕方(しかた)がない。146(つよ)(もの)(よわ)い、147(よわ)(もの)(つよ)時節(じせつ)万年(まんねん)一度(いちど)(ぐらゐ)しか、148(めぐ)つて()るものぢやない。149(なん)だか日出島(ひのでじま)からブラバーサとかいふ宣伝使(せんでんし)がやつて()て、150(いま)救世主(きうせいしゆ)(あら)はれるとか、151(かみ)(おもて)(あら)はれて(ぜん)(あく)とを立別(たてわ)けするとか、152(した)(うへ)になり、153(うへ)(した)になるとか、154ほざいてゐるやうだが、155これも一種(いつしゆ)宗教(しうけう)(ひろ)めの広告(くわうこく)()ぎないだらう。156何程(なにほど)宗教(しうけう)(あい)()いても、157パンを(あた)へてくれなくちや、158吾々(われわれ)生存権(せいぞんけん)保持(ほぢ)する(こと)出来(でき)ないのだからなア。159……ヤ、160(なん)だか山下(やました)(あた)つて、161(さわ)がしい(こゑ)がし()したぞ。162トロッキーの(やつ)163どうやら警官隊(けいくわんたい)格闘(かくとう)(はじ)めたらしいワイ。164ソロソロ()りて壮快(さうくわい)戦闘(せんとう)()りを見物(けんぶつ)せうぢやないか。165獅子(しし)()(なん)ぞのやうに、166かう()かげに潜伏(せんぷく)して、167()(のろ)ひ、168悲鳴(ひめい)をあげて()つても、169一文(いちもん)所得(しよとく)もなし、170愉快(ゆくわい)もないからのう』
171『おけおけ、172コンナ(とき)()るものぢやない。173側杖(そばづゑ)をくつて()()まれちや大変(たいへん)だ、174()(あらし)(あと)(しづ)けさを見聞(けんぶん)するのが、175処世上(しよせいじやう)悧巧(りかう)なやり(かた)だ。176それよりも(はら)いせに(なに)面白(おもしろ)(はなし)をせうぢやないか』
177俺達(おれたち)面白(おもしろ)(はなし)があつて(たま)らうかい、178(あさ)から(ばん)までブル階級(かいきふ)()きつかはれ、179(わづか)賃銭(ちんせん)(めぐ)まれて、180孜々(しし)として(わづか)露命(ろめい)をつないでる悲惨(ひさん)境遇(きやうぐう)にあつては、181到底(たうてい)面白(おもしろ)(あぢ)(わか)らず、182(くる)しい(こと)(ばか)りだ。183(おれ)五六年前(ごろくねんぜん)(こと)だつたが、184仕方(しかた)がないので、185人力車夫(じんりきしやふ)をやつてゐると、186家主(やぬし)(やつ)187人並(ひとなみ)よりも(たか)店賃(たなちん)()(なが)ら、188従僕(じゆうぼく)(なに)かのようにガクシーガクシーと(くち)ぎたなく(よび)つけにしやがつて、189雪隠(せつちん)掃除(さうぢ)までいひ()けくさる。190劫腹(ごふはら)でたまらないが、191(おこ)れば(いへ)()()けと()ひやがるし、192裏店(うらだな)隅々(すみずみ)(まで)貧民(ひんみん)でつまつてゐる(この)(さい)193此処(ここ)()()されたが最後(さいご)194(たちま)親子(おやこ)野宿(のじゆく)をせなくちやならず、195仕方(しかた)がないので辛抱(しんばう)して()ると、196しまひの(はて)にや、197おれの(かかあ)()呼捨(よびすて)にさらすのだ。198けつたいの(わる)いの胸糞(むねくそ)(わる)いのつて、199(むね)張裂(はりさ)ける(やう)だつた。200そこで(おれ)道路(だうろ)(はた)()ゑて、201()にかけてる野良犬(のらいぬ)一疋(いつぴき)(ひろ)つて()て、202そいつに家主(やぬし)()()け、203(おほ)きな(こゑ)で、204……コラ権州々々(ごんしうごんしう)……と口汚(くちぎた)なく(わめ)()て、205(その)(たび)(ごと)拳骨(げんこつ)(あたま)を、206大家(おほや)権州(ごんしう)だと(おも)ひ、207(なぐ)りつけてやつた。208(その)(とき)や、209チツと(ばか)痛快(つうくわい)だつたが、210野良犬(のらいぬ)(やつ)211大変(たいへん)大喰(おほぐらひ)をしよるので女房(にようばう)子供(こども)(あご)干上(ひあが)(さう)になつた。212此奴(こいつ)にや(ひと)(おれ)(めん)くらはざるを()なかつたが、213それでも人間(にんげん)意地(いぢ)だ。214こんな(ところ)屁古(へこ)たれちや、215(をとこ)()たないと、216()らぬ(ところ)力瘤(ちからこぶ)をいれ、217(はたら)いても(はたら)いても、218(みな)(いぬ)にしてやられる。219(くるし)()ててる矢先(やさき)へ、220大家(おほや)権州(ごんしう)()221(おほ)きな(いぬ)(には)かに三疋(さんびき)()ひやがつて、222其奴(そいつ)(おれ)()女房(にようばう)()(せがれ)()()けやがつて、223家内中(かないぢう)()つて(たか)つて()びつけにしやがるので、224(おれ)もこんな(ところ)屁古垂(へこた)れちや仕方(しかた)がない。225もつと(いぬ)(あつ)めて大家(おほや)家内中(かないぢう)()をつけて、226(よび)つけにしてやらうと(おも)つたが、227()()(かんが)へてみれば、228(おほ)きな(うち)三夫婦(みふうふ)もけつかつて、229()(まご)総計(そうけい)二十八匹(にじふはちひき)()やがるものだから、230たうとう根負(こんまけ)して(はた)をまき、231(ほこ)(をさ)めて、232一時(いちぢ)ジェールの(みやこ)(まで)逃出(にげだ)して(しま)つたのだ。233本当(ほんたう)仕方(しかた)のないものだよ』
234『ハヽヽヽヽ、235そら失敗(しつぱい)だつたね。236さうだから、237(むかし)賢人(けんじん)とか君子(くんし)とかいふ阿呆者(あはうもの)が、238(なが)(もの)にまかれよ……とか、239衆寡(しうくわ)(てき)せず……とか、240ほざきよつたのだ。241何程(なんぼ)面白(おもしろ)(はなし)()いといつても、242失敗(しつぱい)(ばか)りぢやあるまい。243(まへ)だつて、244(なが)(こと)人力屋(じんりきや)をして()れば、245(ちつ)(ぐらゐ)ボロい(こと)もあつただらう』
246『いやもう失敗(しつぱい)だらけだ。247エー、248コーツと、249何時(いつ)やらの(ゆふ)まぐれだつた。250ジェールの(みやこ)郊外(かうぐわい)(ある)いてると、251(おほ)きなデーツプリと(ふと)つた、252布袋(ほてい)のやうな(をとこ)がやつて()よつて、253(おれ)万民(ばんみん)(ふく)(あた)へる(ふく)(かみ)だから、254一時間(いちじかん)(ばか)()せて()れないか、255……と()ひよつたので、256(かね)(いく)(くだ)さるか……といへば、257(まへ)(かね)をやつては(ふく)退()ぬ。258(おれ)さへ()せておけば、259屹度(きつと)(そなた)(うち)明日(あす)から繁昌(はんじやう)すると()ひよつたので、260此奴(こいつ)(ねが)うてもない(こと)だ、261一時間(いちじかん)(ばか)無料働(ただばたらき)しても(かま)はぬ、262八卦(はつけ)みて(もら)つても三十銭(さんじつせん)五十銭(ごじつせん)()られるのだ……と(おも)ひ、263クソ(おも)たい、264(ふと)(ふく)(かみ)()せて、265町中(まちぢう)(みぎ)(ひだり)へウロつきまはつた(ところ)266モウ(これ)()いと()ひよつたので梶棒(かぢぼう)()ろしよると、267一寸(ちよつと)便所(べんじよ)()つて()ると(ぬか)しよつてなア。268便所(べんじよ)(はい)ると姿(すがた)()えなくなつて(しま)つたので、269それから(おれ)便(べん)(もよほ)したので便所(べんじよ)(はい)り、270沢山(たくさん)雪隠(せつちん)()()けて、271一々(いちいち)点検(てんけん)してみたが、272(かげ)(かたち)もない。273此奴(こいつ)アいよいよ(ふく)(かみ)だ、274姿(すがた)()えたのだ。275キツと明日(あす)から(ふく)があるに(ちが)ひないと、276(わが)()(かへ)り、277(くるま)をしまはうとすると、278そこへ財布(さいふ)(のこ)つてゐる。279()げてみると中々(なかなか)(おも)い。280此奴(こいつ)アしめた。281いかにも(ふく)神様(かみさま)だわイ。282有難(ありがた)頂戴(ちやうだい)(いた)しますと五六遍(ごろくぺん)(あたま)(うへ)(ささ)げ、283神棚(かみだな)へまつり、284(しほ)をふつて、285其処辺中(そこらぢう)(きよ)め、286()けて()(ところ)287大枚(たいまい)百両(ひやくりやう)丸金(まるきん)()()いてけつかる。288コリヤ、289(いはひ)をせにやなるまいと、290俥引(くるまひき)友達(ともだち)近所合壁(きんじよがつぺき)(あつ)めて、291(その)(なか)(かね)三十円(さんじふゑん)(ばか)りはり()んだ(つも)りで、292百円(ひやくゑん)(かね)料理屋(れうりや)()せつけて()き、293仕出(しだ)しをさして、294一生懸命(いつしやうけんめい)(ふく)(かみ)さまを讃美(さんび)し、295()めや(うた)への大散財(おほさんざい)をやつて()ると、296昨夜(さくや)(ふく)(かみ)()297ポリスと(とも)にやつて()よつて、298(たな)(うへ)にある財布(さいふ)()をつけ、299……これは昨夜(さくや)(くるま)(うへ)(わす)れて()いた(かね)だとぬかし、300有難(ありがた)うとも御苦労(ごくらう)とも(ぬか)さず、301ポリスの(やつ)おまけに、302拾得物(しふとくぶつ)隠匿罪(いんとくざい)ででもあるやうな(つら)して、303()めつけて(かへ)つて(しま)ひやがつた。304怪体(けたい)(わる)いの(わる)くないのつて、305(その)(とき)()けは女房(にようばう)にも申訳(まをしわけ)()たず、306(あな)でもあれば(はい)りたい(やう)()がしたよ。307それから料理屋(れうりや)(やつ)308三十円(さんじふゑん)催促(さいそく)毎日(まいにち)日日(ひにち)やつて()やがる。309どれ(だけ)(はたら)いたつて、310三十円(さんじふゑん)はおろか三円(さんゑん)(かね)出来(でき)ないので、311女房(にようばう)因果(いんぐわ)(ふく)め、312(また)もや貧民窟(ひんみんくつ)(はし)つぱへ宿替(やどかへ)をしてやつたのだ。313ホンの一晩(ひとばん)ヌカ(よろこ)びをした(だけ)だつたよ。314(うん)(わる)(もの)といふ(やつ)ア、315する(こと)なす(こと)(わる)いものだ。316あゝあ、317本当(ほんたう)()(なか)(いや)になつて(しま)つたワイ』
318『ウツフヽヽ、319(その)(とき)(かか)(かほ)()たかつたのう』
320丸切(まるき)出来損(できそこな)ひの今戸焼(いまどやき)のダルマみた(やう)(かほ)をしてふくれた(とき)にや、321(おれ)(いささ)面目玉(めんぼくだま)をつぶしたよ。322エーエ、323怪体(けたい)(わる)い、324(ついで)にも(ひと)(はな)してやろ。325これも人力(じんりき)()いてゐた(とき)(はなし)だ。326日輪様(にちりんさま)西(にし)(やま)()半身(はんしん)(かく)された時分(じぶん)327一人(ひとり)のお(きやく)がやつて()て、328……オイ俥屋(くるまや)329(おれ)はジェールの(みやこ)見物(けんぶつ)()(もの)だが、330(ひと)(かほ)()えぬ(やう)になる(まで)331十銭(じつせん)()るから()せて()れぬか、332……と(ぬか)すので、333此奴(こいつ)あボロい、334三町(さんちやう)五町(ごちやう)(ある)きや、335ズツポリと()()れるだろ。336(その)(あひだ)十銭(じつせん)(かね)まうけはボロいと、337(ふた)返事(へんじ)でお(きやく)()せ、338ゴロゴロと引張(ひつぱり)()した(ところ)339二時間(にじかん)たつても三時間(さんじかん)たつても()りようとぬかさず、340とうと、341夜明(よあ)(ごろ)(まで)(くるま)()かされた。342それでもまだ、343(ひと)(かほ)()えるぢやないか、344とお(きやく)(ぬか)す。345可怪(をか)しいと(そら)(あふ)いで()ると、346(なん)(こと)だ、347十四日(じふよつか)月夜(つきよ)だつた』
348『ハヽヽ()馬鹿(ばか)だな。349どうで(うん)(わる)(やつ)のする(こと)はそんなものだ。350おまけに余程(よほど)頓馬(とんま)だからな、351フヽヽヽ』
352 四五人(しごにん)労働者(らうどうしや)(とも)(こゑ)(そろ)へてゲラゲラと(わら)つてゐる。353そこへ守宮別(やもりわけ)354(はな)両人(りやうにん)(なん)だか意茶(いちや)つき(なが)坂路(さかみち)(のぼ)つて()た。
355バルガン『オイオイ、356彼奴(あいつ)日出島(ひのでじま)からやつて()たといふ、357フンゾ(ぐら)ひの泥酔(どろよひ)守宮別(やもりわけ)といふ(やつ)だ。358そしてあの(ばば)石灰(いしばひ)ガマの(いたち)のやうにコテコテと白粉(おしろい)をぬつて(わか)()せてゐやがるが、359(とら)といふ気違婆(きちがひばば)(ちがひ)ないよ。360(ひと)(はら)いせに(なぶ)つてやらうぢやないか』
361ガクシー『なぶつたつて仕方(しかた)がないぢやないか。362(なん)とか因縁(いんねん)をつけて、363(ふところ)(かね)でも、364おつぽり()さすよにせなけや、365(たちま)明日(あす)生計(せいけい)()たないからの』
366『それもさうだ、367(ひと)相手(あひて)になつてみよう』
368()(なが)ら、369守宮別(やもりわけ)(まへ)にツカツカと(すす)()り、
370『エ、371一寸(ちよつと)(もの)をお(たづ)(まをし)ますが、372日出島(ひのでじま)からお(こし)になつてゐる、373守宮別(やもりわけ)さまといふ立派(りつぱ)宣伝使(せんでんし)(さま)貴方(あなた)ぢや(ござ)いませぬか』
374守宮(やもり)『ウン、375(おれ)守宮別(やもりわけ)だ。376(なん)(よう)かな』
377バルガン『ハイ、378(べつ)(よう)といふては(ござ)いませぬが』
379(なん)だい、380(よう)がなけりや、381アタ邪魔(じやま)(くさ)い、382(たづ)ねるに(およ)ばぬぢやないか』
383『オイ、384ガクシー、385(これ)から(きさま)(ばん)だ。386(なん)だか(たづ)ねる(やう)(こと)があるやうに()つてたぢやないか。387ドンドンと、388それ、389(もの)になる(まで)(たづ)ねるのだぞ』
390ガクシー『ヨシ()た。391(これ)からが(おれ)本舞台(ほんぶたい)だ。392モシモシ守宮別(やもりわけ)さま、393(この)御婦人(ごふじん)はお(とら)さまでせうね。394最前(さいぜん)()いて()れば、395神聖(しんせい)にして(をか)(べか)らざる(この)霊山(れいざん)へ、396(とら)さまと意茶(いちや)つきもつて、397(のぼ)りになつたが、398左様(さやう)(こと)をやつて(もら)ふと、399聖地(せいち)(けが)れますよ。400エルサレムの市民(しみん)がこんな(こと)()かうものなら、401(まへ)さま、402どんな(こと)になるか()れませぬぜ』
403『ハツハヽヽヽ、404()くない()くない、405アレは、406あやめのお(はな)といつて、407日出島(ひのでじま)()つての別嬪(べつぴん)だ。408(とら)なンか(ふる)めかしいワ。409今日(けふ)(あらた)めて結婚式(けつこんしき)をあげ、410(この)霊山(れいざん)御礼参(おれいまゐ)(かたがた)411新婚(しんこん)旅行(りよかう)洒落(しやれ)てゐるのだ。412(かみ)さまだつて、413聖場(せいぢやう)だつて、414夫婦(ふうふ)(まゐ)るのを(とが)める理由(りいう)はあるまい。415自由(じいう)(けん)だ。416()つといてくれ』
417()つとけといつても、418()つとけぬワイ』
419『ソンナラ()うするといふのだ』
420(きさま)生命(いのち)頂戴(ちやうだい)するのだ、421覚悟(かくご)せい』
422『ハヽヽヽヽ、423おあいにくさま。424(ひと)つより()大事(だいじ)大事(だいじ)生命(いのち)は、425新夫人(しんふじん)花子(はなこ)(ぢやう)にサーツパリ(あた)へて(しま)うたのだ。426モウ(この)(うへ)やらうといつたつて、427やる(もの)がないワイ』
428(はな)『ホヽヽヽ、429もしもし皆様(みなさま)430守宮別(やもりわけ)さまの(いのち)(みな)このお(はな)頂戴(ちやうだい)したのですよ』
431ガクシー『エー、432のろけよるない。433ここを(なん)心得(こころえ)てゐやがる』
434『ここはパレスチナの中心地(ちうしんち)435エルサレムの市街(しがい)(した)()る、436キリスト再臨(さいりん)()(たか)き、437橄欖山(かんらんざん)中腹(ちうふく)ですよ』
438『そらなーんぬかしてけつかる。439(たれ)がソンナ(こと)()いてゐるかい。440サ、441(きさま)(いのち)守宮別(やもりわけ)(いのち)と、442(ふた)(なが)一緒(いつしよ)(もら)はう、443覚悟(かくご)せい』
444『お(やす)御用(ごよう)445何卒(どうぞ)446生命(いのち)をお()りやしたら、447(たの)んでおきますが、448守宮別(やもりわけ)さまと一緒(いつしよ)(からだ)引括(ひつくく)つて(はうむ)つて(くだ)さいや』
449『エー、450此奴(こいつ)アたまらぬ、451まだ(のろ)けてゐやがる。452(はし)にも(ぼう)にもかからぬ代物(しろもの)だな』
453『ホヽヽヽ、454どうで、455(まへ)さま(がた)()()ふやうな(をんな)ぢや(ござ)いませぬワイな。456(まへ)さまは()んな(こと)いつてお(かね)()しいのだろ。457(かね)()しけらほしいと、458なぜ(をとこ)らしうスツパリ()はぬのだい』
459()うしてここに六人(ろくにん)()つてゐるのだから、460少々(せうせう)()くされ(がね)(ぐらゐ)(もら)つたつて仕方(しかた)がないワ。461とつとと百両(ひやくりやう)(ばか)しよこせ、462さうすりや、463無事(ぶじ)(この)関所(せきしよ)通過(つうくわ)さしてやるワ。464淫乱婆(いんらんばば)()が……』
465『ホヽヽ、466(わたし)衆生済度(しゆじやうさいど)(ため)467(この)()(あら)はれた真宗(しんしう)開山(かいざん)いんらん上人(しやうにん)ですよ。468肉食(にくじき)妻帯(さいたい)469勝手(かつて)たるべしといふ宗門(しうもん)(ひら)いたのだから、470(べつ)守宮別(やもりわけ)さまと()をつないで聖地(せいち)(ある)いたつて、471霊山(れいざん)法則(はふそく)(そむ)きも(いた)しますまい。472アタ甲斐性(かひしやう)のない。473(おほ)きな荒男(あらをとこ)六人(ろくにん)()つて、474百両(ひやくりやう)()れなんて、475よくも()へたものだな、476せめて一万両(いちまんりやう)()してくれと何故(なぜ)()はぬのだい』
477一万両(いちまんりやう)でも十万両(じふまんりやう)でも、478請求(せいきう)するこたア()つてるが、479(その)(つら)(おほ)きな(こと)いつたつて、480()つて()(さう)(こと)がない。481それだから、482(そなた)風体相応(ふうていさうおう)百両(ひやくりやう)()つたのだ』
483『ヘン、484ソンナ貧乏(びんばふ)(おも)つて(くだ)さるのかい。485コレ御覧(ごらん)486(この)貯金帳(ちよきんちやう)にチヤンと一万両(いちまんりやう)()いてるでせう。487(しか)(なが)何程(なにほど)請求(せいきう)したつて、488やるやらぬは此方(こつち)自由(じいう)だ。489そんなら仕方(しかた)がないから、490百円(ひやくゑん)(めぐ)んで()げませう。491今後(こんご)(かなら)(かなら)無心(むしん)()つちやなりませぬよ』
492()(なが)ら、493百円(ひやくゑん)(たば)()()せば、
494『ヤア、495これはこれは有難(ありがた)う、496三拝九拝(さんぱいきうはい)497(まさ)頂戴(ちやうだい)(つかまつ)ります。498どうか(また)(よろ)しう御願(おねがひ)(まを)します』
499(いや)だよ、500もうこれつ()りだから、501覚悟(かくご)しなさい。502サ、503守宮別(やもりわけ)さま、504(はや)くお(やま)頂上(ちやうじやう)(まで)(まゐ)りませう』
505 ()かる(ところ)十四五人(じふしごにん)武装(ぶさう)した憲兵(けんぺい)警官(けいくわん)(あら)はれ(きた)り、506バルガン、507ガクシーを(はじ)四人(よにん)労働者(らうどうしや)有無(うむ)をいはせず、508ふん(じば)り、509坂路(さかみち)引立(ひつた)てて()く。510(はな)(これ)()るより(また)守宮別(やもりわけ)(くだ)らぬ義侠心(ぎけふしん)()してくれては面倒(めんだう)だと、511守宮別(やもりわけ)()無理(むり)無体(むたい)引張(ひつぱ)急坂(きふはん)(のぼ)()く。
512大正一四・八・二〇 旧七・一 於由良秋田別荘 松村真澄録)