霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一三章 漆別(うるしわけ)〔一八一九〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第64巻下 山河草木 卯の巻下 篇:第3篇 開花落花 よみ:かいからっか
章:第13章 漆別 よみ:うるしわけ 通し章番号:1819
口述日:1925(大正14)年08月20日(旧07月1日) 口述場所:丹後由良 秋田別荘 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1925(大正14)年11月7日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる] 主な登場人物: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:
愛善世界社版:174頁 八幡書店版:第11輯 560頁 修補版: 校定版:177頁 普及版:63頁 初版: ページ備考:
001 昨日(さくじつ)暴動(ばうどう)(さわ)ぎで、002憲兵(けんぺい)警官(けいくわん)血眼(ちまなこ)になり、003行交(ゆきか)(ひと)一々(いちいち)誰何(すいか)して、004主義者(しゆぎしや)入込(いりこ)まない(やう)と、005警戒網(けいかいまう)()つてゐる。006守宮別(やもりわけ)新調(しんてう)洋服(やうふく)()(なが)ら、007(えき)(むね)(ほの)かに()える地点(ちてん)までやつて()ると、008一人(ひとり)警官(けいくわん)がツカツカと()(きた)り、
009一寸(ちよつと)()つて(くだ)さい。010身体(しんたい)検査(けんさ)(いた)しますから』
011 守宮別(やもりわけ)警官(けいくわん)よりも(なに)よりも(おそ)ろしいのは、012疑深(うたがひぶか)いお(はな)追跡(つゐせき)である。013(あま)彼方此方(あちらこちら)をキヨロキヨロと見廻(みまは)(なが)(ある)いてゐたものだから、014警官(けいくわん)(あや)しまれて、015首尾(しゆび)よく()(つか)まれたるなりき。
016(わたし)守宮別(やもりわけ)です。017警官(けいくわん)調(しら)べられる理由(りいう)はありませぬ。018これでも日出島(ひのでじま)高等(かうとう)武官(ぶくわん)ですよ。019(あま)乱暴(らんばう)(こと)をなさると、020帝国(ていこく)公使館(こうしくわん)(うつた)へて、021エルサレム(しよ)暴状(ばうじやう)曝露(ばくろ)し、022国際(こくさい)問題(もんだい)(おこ)しますよ、023そこ(はな)して(くだ)さい。024急用(きふよう)がありますから』
025『さう(あわ)てるには(およ)ばないぢやありませぬか。026どうも其処辺(そこら)をキヨロキヨロ見廻(みまは)し、027おちつきの()貴方(あなた)(ある)(かた)028挙動(きよどう)不審(ふしん)(みと)めますから、029一応(いちおう)身体(しんたい)取調(とりしら)べます』
030取調(とりしら)べるなら調(しら)べても(よろ)しい。031後腹(あとばら)()めないやうに()をつけなさいや、032ヘン、033(ひと)馬鹿(ばか)にしてゐる』
034といひ(なが)ら、035自分(じぶん)からボタンを(はづ)し、036大道(だいだう)のまん(なか)で、037赤裸(まつぱだか)となり、038オチコもポホラのヌボも丸出(まるだ)しにして()せる。
039『イヤ、040(よろ)しい、041エー御邪魔(おじやま)(いた)しました。042どうぞ(ふく)()けて(くだ)さい』
043(ふく)()いと()はなくとも、044(おれ)(ふく)だ、045勝手(かつて)()るワイ。046()らぬおとがい(たた)くな』
047()(なが)ら、048スラスラと洋服(やうふく)()け、049十日(とをか)(ほど)(まへ)にチラツと()ておいた、050白首(しらくび)()青楼(せいろう)()して、051一目散(いちもくさん)(はし)()く。052(はだか)になつた(さい)053三千円(さんぜんゑん)()りの蟇口(がまぐち)(おと)し、054()がつかぬ様子(やうす)なので、055警官(けいくわん)(なに)秘密(ひみつ)書類(しよるゐ)でもあるのではなかろか。056日出島(ひのでじま)高等(かうとう)武官(ぶくわん)だと()ひよつたから、057軍事(ぐんじ)探偵(たんてい)かも()れない。058軍備(ぐんび)(くわん)する秘密(ひみつ)書類(しよるゐ)でもあらうものなら、059巡査部長(じゆんさぶちやう)(たちま)警部(けいぶ)になれるだらうといふ、060いろいろな(かんが)へから、061ソツと(ひろ)ひあげ、062本署(ほんしよ)持帰(もちかへ)署長(しよちやう)(まへ)(なか)(あらた)める(こと)とした。063守宮別(やもりわけ)(たしか)にポケツトの(なか)蟇口(がまぐち)(とも)三千円(さんぜんゑん)(はい)つてゐるものと安心(あんしん)し、064鷹揚(おうやう)態度(たいど)で、065青楼(せいろう)段階子(だんばしご)(のぼ)り、066三階(さんがい)見晴(みはらし)よき一間(ひとま)(はい)つて、067(しき)りに()(たた)いてゐる。068階下(かいか)(はう)に『ハーイ』といふ甲走(かんばし)つた(をんな)(こゑ)がしたと(おも)へば、069()もなく、070トントントンと段階子(だんばしご)(とどろ)かせ(あが)つて()たのは、071(かね)()ておいた、072色白(いろじろ)十七八(じふしちはち)美人(びじん)である。073守宮別(やもりわけ)(にはか)(くち)のはたの(あわ)()いたり()ヤニを()つたり、074(はな)をかみたりし(なが)ら、075()ました(かほ)(ひか)へてゐると、
076『お(きやく)さま、077コンチは、078今日(コンチ)はありー……』
079『ホヽヽヽ、080(なん)今日(コンチ)()りーと()ふたつて(わか)らぬぢやないか。081(おれ)砂糖(さたう)ではないぞ、082佐渡(さど)(つち)化身(けしん)だぞ。083モツとハツキリ()はぬかい』
084『ハイ、085あテイは、086総理(そうり)大臣(だいじん)()ばれましても、087知事(ちじ)さまに()ばれましても、088華族(くわぞく)さまによばれましても、089今日(こんち)はアリーで(とほ)るのですもの、090(いま)のお役人(やくにん)さまは、091官等(くわんとう)一級(いつきふ)(ちが)ふと、092それはそれは(えら)いものですがな。093局長(きよくちやう)さまの(ところ)課長(くわちやう)さまがお(いで)になると、094直立(ちよくりつ)不動(ふどう)姿勢(しせい)で、095……ハ、096ハ、097ハヽヽと、098かう(かしこ)まつてゐやはります。099局長(きよくちやう)さまは局長(きよくちやう)さまで、100不行儀(ふぎやうぎ)格好(かくかう)で、101椅子(いす)にのさばり(かへ)つて、102……何々(なになに)事務(じむ)()うなつたか、103(うま)くやつとけよ……と仰有(おつしや)ひます。104さうすると、105課長(くわちやう)さまは、106……ハア、107オチ二三式(にさんしき)で、108(こは)(やう)にして(さが)つて()かはりますワ。109(その)局長(きよくちやう)さまが大臣(だいじん)(そば)()くと(まへ)課長(くわちやう)さまよりも、110(ひと)つエライ謹慎振(きんしんぶり)ですよ。111総理(そうり)大臣(だいじん)()ちや剛勢(がうせい)なものですよ。112(その)総理(そうり)大臣(だいじん)さまがチョコチョコ(あたい)()んで()れやはりますが、113イヤもう(をんな)にかけたら、114ヤクタイなものですワ。115おつもの()(にぎ)つたり、116(はな)をつまみ、117頤髯(あごひげ)(つか)んでパクパクさして()げても、118(かほ)相好(さうがう)(くづ)して……コリヤ綾子(あやこ)119無茶(むちや)をするない……かう仰有(おつしや)るのですもの、120絶対(ぜつたい)無限(むげん)権威(けんゐ)を、121芸者(げいしや)といふものは具備(ぐび)してゐますよ。122それだから、123(きやく)さまに、124アリー……といつたのは余程(よほど)光栄(くわうえい)だと(おも)つて(くだ)さい』
125此奴(こいつ)面白(おもしろ)い、126一寸(ちよつと)(はな)せるワイ。127(まへ)(いま)綾子(あやこ)といつたが、128本名(ほんみやう)(なん)といふのだ』
129『ハイ、130(あたい)本名(ほんみやう)綾子(あやこ)131源氏名(げんじな)有明家(ありあけや)綾子(あやこ)さまですよ』
132『ナニ?綾子(あやこ)菖蒲(あやめ)133怪体(けつたい)(こと)もあるものだな。134(をんな)(まよ)ふとあやめ()かぬ(しん)(やみ)になるといふ(こと)だが、135(おれ)(こころ)もチツと(ばか)あやしうなつて()たぞ』
136『お(きやく)さま、137何程(なにほど)あやめ(わか)らなくなつても、138綾子(あやこ)しい(こと)さへ()けりや、139晴天白日(せいてんはくじつ)ですワ』
140『イヤ、141(じつ)観世音菩薩(くわんぜおんぼさつ)綾子(あやこ)(きみ)艶麗(えんれい)御容姿(ごようし)拝観(はいくわん)して、142(こころ)土台(どだい)あやしくグラ()()したのだよ。143オイ、144綾子(あやこ)145素面(すめん)では(はなし)出来(でき)ない。146酒肴(さけさかな)(かね)(かま)はないから、147充分(じゆうぶん)(こしら)へて()つて()てくれ。148そして此処(ここ)芸者(げいしや)何人(なんにん)()るか()らぬが、149仮令(たとへ)百人(ひやくにん)()つても結構(けつこう)だ』
150『お(きやく)さま、151ソンナ(わけ)にや()きませぬよ。152当地(たうち)規則(きそく)として、153一人(ひとり)のお(きやく)さまに一人(ひとり)より芸者(げいしや)()(こと)出来(でき)ないですもの』
154『フーンさうか、155そら仕方(しかた)がない。156今日(けふ)(じつ)三千円(さんぜんゑん)散財(さんざい)をせうと(おも)つて()たのだが、157ナアンのこつちやい。158(いや)でも(おう)でも流連(いつづけ)せねばならぬのか、159どれ(だけ)使(つか)つたつて、160一人(ひとり)芸者(げいしや)三百円(さんびやくえん)使(つか)へまい。161さうすりや、162十日(とをか)有明楼(ありあけろう)牢獄住居(らうごくずまゐ)かな、163アハヽヽヽ』
164牢獄住居(らうごくずまゐ)なぞと、165(なに)仰有(おつしや)います。166激戦場裡(げきせんぢやうり)()つてゐる紳士紳商(しんししんしやう)167大臣(だいじん)(その)()(をとこ)さまが、168(いのち)洗濯(せんたく)(あそ)ばす天国(てんごく)浄土(じやうど)ですよ。169どうかお(かね)さへあれば、170十日(とをか)なと百日(ひやくにち)なと千日(せんにち)なと、171流連(いつづけ)して(くだ)さい。172(その)(かは)(あたい)手枕(てまくら)して可愛(かあい)がつて()げますワ』
173『ヨーシ()た。174此奴(こいつ)洒落(しやれ)てる、175(わが)()()たりといふべしだ。176(じつ)綾子(あやこ)177(おれ)はな十日(とをか)(ほど)以前(いぜん)178(この)門先(かどさき)(とほ)つた(とき)179(まへ)姿(すがた)をチラツと見初(みそ)めてから、180煩悩(ぼんなう)(いぬ)(くる)()し、181()ても(さめ)てもゐられないので、182国許(くにもと)電報(でんぱう)()ち、183(かね)(おく)つて(もら)つて、184(まへ)(かほ)()()たのだ。185(おれ)心底(しんてい)もチツトは、186汲取(くみと)つて()れなくては(こま)るよ』
187『あ、188さう仰有(おつしや)いますと、189十日(とをか)(ほど)以前(いぜん)に、190あの有名(いうめい)気違(きちがひ)()アさまのお(とら)さまとかいふ救世主(きうせいしゆ)のお(とも)をして(ある)いてゐられた、191ゐもりとか、192とかげとかいふお(かた)ぢやありませぬか。193随分(ずゐぶん)親密(しんみつ)(さう)態度(たいど)(ある)いてゐられましたね。194あんな立派(りつぱ)(おく)さまがあるのに、195(あたい)のやうなお多福(たふく)相手(あひて)になつて、196もしやお(とら)さまに嗅付(かぎつ)けられては、197(あたい)(いのち)がありませぬワ。198どうか今日(けふ)(かへ)つて(くだ)さいな。199一生(いつしやう)のお(ねがひ)ですもの』
200馬鹿(ばか)いふな、201(おれ)三ケ月(さんかげつ)以前(いぜん)202国許(くにもと)出発(しゆつぱつ)し、203スイスのゼネバへ、204エスペラント会議(くわいぎ)があつたので、205一寸(ちよつと)(のぞ)きに()つた(かへ)りがけだ』
206何時(いつ)ゼネバからお(かへ)りになつたのですか』
207『ウン昨日(きのふ)(かへ)つて()(ところ)だ』
208『ようマア、209(きやく)さま、210ソンナ(うそ)(ぱち)()はれたものですな、211(げん)(いま)(あたい)に、212十日前(とをかまへ)(あたい)(かほ)()たと仰有(おつしや)つたぢやありませぬか』
213『そら()ふた。214(たしか)()ふた。215(その)十日前(とをかまへ)はゼネバへ()(みち)すがらだもの』
216成程(なるほど)217ソンナラさうにしておきませう。218()(かく)(かね)さへ(はら)つて(もら)へば、219商売(しやうばい)ですから、220(かね)(だけ)(あい)(そそ)ぎますよ』
221『オイ(はや)(さけ)()つて()ぬかい、222()(しら)けて仕方(しかた)がないぢやないか』
223()つてゐる(とき)しも、224トントントンと階段(かいだん)(のぼ)足音(あしおと)(きこ)()たりぬ。
225『お(きやく)さま、226待兼(まちかね)のお(さけ)()(やう)ですワ』
227『ヤ、228其奴(そいつ)豪気(がうき)だ。229(はや)(はや)く、230待兼山(まちかねやま)杜鵑(ほととぎす)だ』
231 (ここ)両人(りやうにん)喋々喃々(てふてふなんなん)(さけ)()()はし、232(くだ)らぬ(はなし)(とき)(つひや)したり。233守宮別(やもりわけ)綾子(あやこ)無敵(むてき)上戸連(じやうこれん)(またた)(うち)七八十本(しちはちじつぽん)燗徳利(かんとつくり)をこかして(しま)ひぬ。234綾子(あやこ)(さけ)()ふたが最後(さいご)235()だらのない女性(ぢよせい)で、236自分(じぶん)(はう)から、237(ぜん)()ゑるといふ、238したたか(もの)である。239守宮別(やもりわけ)益々(ますます)笑壺(ゑつぼ)()り、
240『アヽア、241一万円(いちまんゑん)(かね)があれば、242一月(ひとつき)(ゆつ)くり(あそ)べるのになア……』
243(ひそ)かに歎息(たんそく)をもらし(なが)ら、244()ふた(とき)(かさ)ぬげ(しき)で、245(あぢ)(わる)(はまぐり)()つた口直(くちなほ)しにと、246無性(むしやう)矢鱈(やたら)(うへ)(した)への大活劇(だいくわつげき)をやり()した。247到当(たうとう)二人(ふたり)(かみ)()から(つめ)(さき)(まで)()()ふて(しま)ひ、248()つても()れぬ恋仲(こひなか)となりにけり。
249『オイ、250綾子(あやこ)251(まへ)一体(いつたい)どこから()たのだい』
252『ハイ(あたい)はエルサレム(うま)れですよ。253(とう)さまが極道(ごくだう)だものですから、254たうとう(あたい)をコンナ(ところ)()つて(しま)つたのです。255(あたい)(うま)れた(とき)相当(さうたう)財産家(ざいさんか)だつたさうですが()もなくお(かあ)さまが()くなられたので、256(とう)さまが後妻(ごさい)引入(ひきい)れ、257(あさ)から(ばん)まで酒池肉林(しゆちにくりん)大騒(おほさわ)ぎ、258何程(なにほど)(かね)()つても(はたら)かずに()つて(ばか)()れば、259(やま)さへ()くなる道理(だうり)260たうとう貧乏(びんばふ)のドン(ぞこ)()ちて、261(くび)がまはらぬので、262(あたい)十一(じふいち)(とし)から、263(この)有明楼(ありあけろう)十年(じふねん)千円(せんゑん)約束(やくそく)()つて(しま)つたのです。264本当(ほんたう)(こま)つた(おや)ですワ』
265『フーン、266(はなし)()けば()(ほど)可哀相(かあいさう)だ。267ヨーシ、268(おれ)がキツと(たす)けてやるから心配(しんぱい)するな。269(まへ)のお(とう)さまといふのは(いま)(なに)してゐるのだ』
270『ヘー、271気違(きちがひ)()アさまと仇名(あだな)()つた、272(とら)さまとかいふ(かた)の、273玄関番(げんくわんばん)(やと)はれてるといふ(こと)ですが、274どうなつたか()りませぬ。275(この)(あひだ)旦那(だんな)さまによう()(をとこ)ハンとお(とら)さまと、276(あたい)のお(とう)さまと、277ここの(かど)()ち、278(あたい)(ゆび)さしてゐました。279アンナ(ひと)がお(とう)さまかと(おも)へば(はづか)しうて(たま)りませぬワ』
280『ナニ、281あのヤク、282……』
283といひかけて、284(にはか)(くち)をつめ、
285『ソリヤ、286ヤク介者(かいもの)だなア。287(まへ)心痛(しんつう)(さつ)する。288(しか)人間(にんげん)七転八起(ななころびやおき)といふから心配(しんぱい)するには(あた)らないよ』
289『ハイ御親切(ごしんせつ)有難(ありがた)(ござ)います。290旦那(だんな)さま、291()(かんが)へても、292(とら)さまと一緒(いつしよ)(ある)いて()られた、293守宮別(やもりわけ)さまのやうに(おも)へて仕方(しかた)がありませぬワ』
294『そら世界(せかい)にや、295他人(たにん)空似(そらに)といつて、296よく()(もの)二人(ふたり)づつあるといふ(こと)だから。297それ(ほど)(また)(わし)()()(をとこ)があつたかいな』
298(いろ)浅黒(あさぐろ)い、299(くち)(とが)つた(ところ)300()(まる)(ところ)301(はな)格好(かくかう)302()()具合(ぐあひ)303どつから何処(どこ)(まで)瓜二(うりふた)つですワ、304(めう)(こと)があるものですな』
305綾子(あやこ)306もうソンナこたア、307()うでも()いから、308(ひと)つあつさり(うた)はうぢやないか』
309『どうか(ひと)旦那(だんな)さまから(うた)つて(くだ)さいな。310そして、311旦那(だんな)さまのお()()かして(くだ)さいな。312旦那(だんな)さま旦那(だんな)さまでは、313()つから()()きませぬからな』
314『ウン、315(おれ)()かい、316(おれ)()は……ウン、317さうだな、318マア、319ブラバーサにしておかうかい』
320旦那(だんな)さまツたら、321なまくらな。322そら三五教(あななひけう)宣伝使(せんでんし)()ぢやありませぬか。323意茶(いちや)つかさずに本当(ほんたう)()仰有(おつしや)つて(くだ)さいな』
324『さう短兵急(たんぺいきふ)追及(ついきふ)されては、325早速(さつそく)()()()ぬワ。326マテマテ、327()くな、328(あわ)てな、329せいては(こと)仕損(しそん)ずるからなア』
330『せかねば(こと)()()はず……とかいひましてね、331ホヽヽヽヽ』
332(おれ)()()いて(おどろ)くな。333()れこそは、334日出(ひので)(しま)にて()(たか)き、335ウヅンバラ・チヤンダーといふ(もの)だよ』
336(うそ)(ばか)り、337ウヅンバラ・チヤンダーは救世主(きうせいしゆ)ぢやありませぬか』
338此奴(こいつ)失敗(しま)つた。339(じつ)漆別(うるしわけ)といふのだよ』
340本当(ほんたう)ですか、341漆別(うるしわけ)か、342うるさい(わけ)()らぬけれど、343(なん)だか判然(はつきり)せぬお名前(なまへ)ぢや(ござ)いませぬか』
344『まア()うでも()い。345目出度(めでたく)これで帰敬式(ききやうしき)()むだのだから、346(まへ)(おれ)とは(かみ)(ゆる)した夫婦(ふうふ)だ。347()うだ(うれ)しいか』
348 綾子(あやこ)はプリンと()()けて、
349()りませぬ』
350『ハヽア、351肝腎(かんじん)(こと)(わす)れて()つたワイ。352愛想(あいそ)をするのを……』
353といひ(なが)ら、354ポケットに()()れて()たが蟇口(がまぐち)()いので、355吃驚(びつくり)し、
356『ヤ、357此奴(こいつ)大変(たいへん)だ、358失敗(しま)つたア……』
359漆別(うるしわけ)さま、360(なに)かお(わす)れになつたのですかい』
361(おと)したア……、362(ちから)おとした……。363(こま)つたなア……』
364『そらお(こま)りですな。365警察(けいさつ)へお(とど)けになつたら()うです。366正直(しやうぢき)(ひろ)(ぬし)があつて(とど)けてるかも()れませぬよ』
367(じつ)ア、368そこの四辻(よつつじ)警官(けいくわん)(あや)しまれ、369身体(しんたい)検査(けんさ)をやられた(とき)にや、370(いま)(かんが)へてみると、371(すで)()つてゐなかつたやうだ。372どつかで、373チボにでもやられたのだろ。374(しか)綾子(あやこ)375(おれ)()()えても、376国許(くにもと)では百万(ひやくまん)長者(ちやうじや)息子(むすこ)だから、377電報(でんぱう)(ひと)()てば、378一週間(いつしうかん)()たぬ()電報(でんぽう)為替(かはせ)(おく)つてくるから、379それまで夫婦(ふうふ)になつたよしみで、380(まへ)(かね)で、381ここの(はら)ひを()ましておいて()れないか』
382『ハイ、383(ほか)ならぬ貴方(あなた)(こと)ですから、384(はら)つて()きませう。385(かね)()たら、386屹度(きつと)()(くだ)さいや』
387『ヨシヨシ、388(まへ)(わす)れてなるものかい。389今日(けふ)(おれ)(この)楼主(ろうしゆ)(たい)して赤恥(あかはぢ)をかく(ところ)(たす)けてくれたお(まへ)だもの、390()して()つても()れぬ(なか)となつたのだもの、391(これ)(わす)れてたまるものかい。392あゝ仕方(しかた)がない。393(これ)から一寸(ちよつと)カンラン(ざん)見物(けんぶつ)して()るから、394(まへ)ここに()つてゐてくれ』
395『ソンナ(ところ)へお(いで)(あそ)ばすにや(およ)ばぬぢやないですか。396(あたい)(そば)()るより、397橄欖山(かんらんざん)(はう)(こひ)しいのですか』
398『ナニ、399ソンナ(こと)があるものかい。400(まへ)(そば)一刻(いつこく)(はな)()くないのだけれど、401懐中無一物(くわいちうむいつぶつ)では、402どうも安心(あんしん)して、403世話(せわ)になつてる(わけ)にはゆかぬぢやないか』
404(あたい)貴方(あなた)(なか)ぢやもの、405三日(みつか)五日(いつか)御逗留(ごとうりう)(あそ)ばしたつて(かま)ひませぬワ。406衣裳(いしやう)(しち)()いてでも、407三日(みつか)五日(いつか)(やしな)ひますもの、408マア安心(あんしん)して(くだ)さいな』
409『ヨーシ、410それでは(ついで)にモウ二日(ふつか)厄介(やくかい)にならう。411(じつ)はな、412僧院(そうゐん)ホテルの第一号室(だいいちがうしつ)借切(かりき)つてあるのだから、413そこへ()つて宿(とま)れば(かね)()くても、414五日(いつか)十日(とをか)(くら)せるのだからな』
415 ()両人(りやうにん)(こころ)から(うち)とけて恋仲(こひなか)となり、416守宮別(やもりわけ)綾子(あやこ)()つた(ごと)く、417二晩(ふたばん)逗留(とうりう)して三日目(みつかめ)昼頃(ひるごろ)ブラリブラリと、418(なに)くはぬ(かほ)して、419僧院(そうゐん)ホテルへ(かへ)(きた)りける。
420大正一四・八・二〇 旧七・一 於由良秋田別荘 松村真澄録)