霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一〇章 スガの長者(ちようじや)〔一七一二〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第67巻 山河草木 午の巻 篇:第2篇 春湖波紋 よみ(新仮名遣い):しゅんこはもん
章:第10章 スガの長者 よみ(新仮名遣い):すがのちょうじゃ 通し章番号:1712
口述日:1924(大正13)年12月27日(旧12月2日) 口述場所:祥雲閣 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1926(大正15)年8月19日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
一行は、スガの港に到着する。
アリーは三五教により救われ、感謝の後に皆に別れる。
イルク、ダリヤは自分たちを助けてくれた宣伝使たち一行を、家に招く。
父親でスガの街の長者、アリスはウラル教に、息子・娘の無事を念じていた。
過去の悪行を思い、懺悔をしていたところ、息子・娘の無事の帰宅を知る。
アリスはウラル教の神殿に悔い改めの祝詞を上げ、息子・娘と三五教の宣伝使たちを迎え入れる。
そこへ、南方の方より鬨の声が聞こえ、雲焼けを認める。一同は、バルガン城に大足別将軍が攻め入り、市外を焼き払ったことを知る。(トルマン国の話は第70巻へ、梅公のその後の行動は第68巻第16章へ続く)
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2018-05-13 18:15:21 OBC :rm6710
愛善世界社版:132頁 八幡書店版:第12輯 78頁 修補版: 校定版:134頁 普及版:68頁 初版: ページ備考:
001 (みなと)家々(いへいへ)点燈(ともしび)湖水(こすい)(うつ)り、002(あたか)不夜城(ふやじやう)(ごと)くにみえた。003天空(てんくう)()(わた)り、004星光(せいくわう)きらめき(わた)つて、005えも()はれぬ清新(せいしん)空気(くうき)(ただよ)うた。006数百(すうひやく)(にん)乗客(じやうきやく)(さき)(あらそ)うて棧橋(さんばし)(わた)り、007(おのおの)家路(いへぢ)(かへ)(もの)008宿(やど)(もと)めて()(もの)009(いち)()非常(ひじやう)雑鬧(ざつたう)(きは)めた。010梅公(うめこう)一行(いつかう)(いま)(ふね)をおりむとする(とき)011船長(せんちやう)のアリーはあわただしく梅公司(うめこうつかさ)(まへ)(ひざまづ)き、012(あつ)(なみだ)(なが)(なが)ら、
013アリー宣伝使(せんでんし)(さま)014(おも)はぬ御縁(ごえん)によりまして、015天国(てんごく)福音(ふくいん)()かして(いただ)き、016(また)日頃(ひごろ)妄執(まうしふ)もサラリと()れました。017(これ)よりは(ちち)(あだ)(ほう)ずる(かは)りに、018往来(ゆきき)(ひと)(わが)()(ごと)くに愛護(あいご)し、019(ぜん)一筋(ひとすぢ)(たち)(かへ)ります。020どうか(わたし)たちの()(うへ)021平和(へいわ)(よろこ)びの(さち)あらむ(こと)をお(まも)(くだ)さいませ。022(この)(ふね)()ければ、023(わたし)何処(どこ)(まで)もお(とも)(ねが)いたいので(ござ)いますが、024今日(こんにち)事情(じじやう)(ゆる)しませぬから、025残念(ざんねん)(なが)らお(わか)(まを)します。026どうぞ途中(とちう)無事(ぶじ)神業(しんげふ)成就(じやうじゆ)して、027斎苑(いそ)(やかた)凱旋(がいせん)(あそ)ばすやう、028(わたし)朝夕(あさゆふ)(いの)(いた)して()ります。029(つぎ)にダリヤさま、030イルクさま、031(わたし)(いま)(まで)あなたの家庭(かてい)仇敵(きうてき)として()(ねら)つてをりましたが、032最早(もはや)今日(こんにち)となつては三五(あななひ)神風(かみかぜ)()(はら)はれ、033心中(しんちう)一点(いつてん)(ちり)()めない清浄(せいじやう)無垢(むく)霊身(れいしん)(たち)(かへ)つたやうな精神(せいしん)(いた)します。034(うら)み、035(ねた)みも憤怒(ふんど)(ねん)(ござ)いませぬから、036どうぞ()安心(あんしん)(くだ)さいませ。037そしてダリヤさまは(わたし)(おな)(はは)胎内(たいない)より(うま)れた、038いはば(わたし)(いもうと)同様(どうやう)ですから、039どうか今後(こんご)(した)しく()交際(かうさい)(ねが)ひたう(ござ)います。040(とう)さまにも(よろ)しく仰有(おつしや)つて(くだ)さいませ』
041イルク『何事(なにごと)因縁事(いんねんごと)(ござ)いませう。042(わたし)(いま)貴方(あなた)のお言葉(ことば)()いて安心(あんしん)(いた)しました。043(じつ)(ところ)は、044(いま)(まで)貴方(あなた)(わたし)(ちち)附狙(つけねら)つてゐられるといふ(こと)を、045方々(はうばう)人々(ひとびと)から内聞(ないぶん)(いた)しまして、046内々(ないない)心配(しんぱい)してゐた(ところ)(ござ)いますが、047最早(もはや)(その)言葉(ことば)()(うへ)は、048(わたし)(この)()(なか)(ひろ)くなつたやうな心持(こころもち)(いた)します。049ダリヤに(たい)して貴方(あなた)兄上(あにうへ)さま、050(また)(わたし)もダリヤに(たい)しては(あに)(ござ)いますから、051どうか(さん)(にん)兄妹(きやうだい)となつて、052(なか)()(かみ)(さま)(めぐみ)(いだ)かれて、053()(なか)(わた)らうぢや(ござ)いませぬか』
054アリ『ハイ有難(ありがた)(ござ)います。055こんな(うれ)しい(こと)は、056(うま)れてから一度(いちど)(あぢ)はつた(こと)(ござ)いませぬ。057どうか親子(おやこ)兄妹(きやうだい)(なか)よう()らして(くだ)さいませ。058(とき)にダリヤさま、059(わたし)(つき)一回(いつくわい)づつ(この)(みなと)(まゐ)りますから、060(また)どうぞ(あそ)びに()(くだ)さい』
061ダリ『ハイ、062有難(ありがた)(ござ)います。063貴方(あなた)(この)(みなと)へお()きになつたならば、064キツト(わたし)(たく)をお(たづ)(くだ)さいませ。065(わたし)本当(ほんたう)(にい)さまのやうに(ぞん)じて()りますから』
066アリー『有難(ありがた)(すめ)大神(おほかみ)御恵(みめぐみ)
067日頃(ひごろ)(むね)雲霧(くもきり)はれぬる』
068ダリヤ『一度(ひとたび)()はしと(おも)一度(ひとたび)
069(こひ)しと(おも)ひし(ひと)(わか)るる。
070恋雲(こひぐも)(わが)兄上(あにうへ)()きしより
071(ぬぐ)ふが(ごと)()れにける(かな)
072アリー『胤違(たねちが)(わが)(いもうと)()(なが)
073(こひ)のきづなに(しば)られにける。
074あゝされど(かみ)(をしへ)(かしこ)ければ
075(みち)ならぬ(みち)()くすべもなし』
076梅公(うめこう)大空(おほぞら)(ほし)()えわたり両人(りやうにん)
077きよき(こころ)()りあかしぬる』
078ヨリコ(ひめ)『いざさらばアリーの(きみ)(わか)れなむ
079(やす)くましませ(うみ)浪路(なみぢ)を』
080アリー『ヨリコ(ひめ)(うづ)言霊(ことたま)おだやかに
081(わが)(たましひ)(うち)ぬきにける』
082花香姫(はなかひめ)惟神(かむながら)(いづ)道芝(みちしば)ふみしより
083いとさまざまの(いろ)をみる(かな)
084 かく(たがひ)(わか)れの(うた)(うた)(なが)ら、085軒燈(けんとう)(かがや)くスガの(みなと)市中(しちう)をイルクが(やかた)()して、086宣伝歌(せんでんか)(うた)(なが)(すす)()く。
087 スガの(みなと)百万(ひやくまん)長者(ちやうじや)(きこ)えたるアリスの(やかた)広大(くわうだい)なる土塀(どべい)をめぐらし、088数十棟(すうじつとう)(うるは)しき邸宅(ていたく)倉庫(さうこ)(たち)(なら)び、089(てん)(ふう)じて鬱蒼(うつさう)たる庭木(にはき)彼方(あなた)此方(こなた)(たち)(なら)び、090自然(しぜん)(もり)をなしてゐた。091表門(おもてもん)には二人(ふたり)門番(もんばん)092若主人(わかしゆじん)姫君(ひめぎみ)帰宅(きたく)なきに(こころ)(いた)め、093(さけ)()(なが)小声(こごゑ)(ささや)いてゐる。
094(かふ)(カル)『オイ、095アル、096嬢様(ぢやうさま)今日(けふ)半月(はんつき)(ばか)りになるのに、097()だお(かへ)りにならないが、098一体(いつたい)()うなさつたのだらう。099(はな)(じま)()遊覧(いうらん)(かへ)(みち)海賊(かいぞく)にさらはれ(あそ)ばしたきり、100(なん)音沙汰(おとさた)もないのだから、101親旦那(おほだんな)(この)(ごろ)()心配(しんぱい)(さう)(かほ)()つたら、102()るもお()(どく)のやうだ。103それに若旦那(わかだんな)(また)十日前(とをかまへ)から、104(ぢやう)さまの行方(ゆくへ)(さが)して()ると()つて()かれたきり、105(これ)(なん)音沙汰(おとさた)もないぢやないか。106(まる)木乃伊(みいら)()りが木乃伊(みいら)になつたやうなものだなア』
107アル『(なん)()つても、108目付役(めつけやく)無能(むのう)だからね。109まして海賊(かいぞく)(とら)はれたなんて()はうものなら、110真青(まつさを)(かほ)をして(ふる)うてゐるのだから、111たまつたものだないワ。112(ねずみ)()らぬ(ねこ)()うとく必要(ひつえう)はないのだけれどなア』
113カル『本当(ほんたう)(きさま)のいふ(とほ)りだよ。114去年(きよねん)(はる)だつたが、115(この)珍館(うづやかた)泥棒(どろばう)(しの)()んだ(とき)116(おれ)一目散(いちもくさん)目付役(めつけやく)飛込(とびこ)んで、117目付役(めつけやく)に、118(いま)泥棒(どろばう)這入(はい)つてゐますから、119(いま)すぐに()てしばつて(くだ)さいと()つたら、120目付役(めつけやく)(やつ)121真青(まつさを)(つら)しやがつて、122地震(ぢしん)(まご)のやうにビリビリとふるうて(ばか)りゐやがつて、123早速(さつそく)()()ようとしやがらぬ。124そこに七八(しちはち)(にん)部下(ぶか)目付(めつけ)がコクリコクリと夜舟(よぶね)をこいでいたが、125(おれ)泥棒(どろばう)(はい)つたといふ(こゑ)()いて、126ビツクリ()をさまし、127(ふくろ)のよな()をさらし、128泥棒(どろばう)人相(にんさう)はどうだ、129何人(なんにん)()れか、130(とし)はいくつ(くらゐ)だ、131どこから(はい)つたか、132着物(きもの)縞柄(しまがら)はどうだ、133(をとこ)(をんな)か、134老人(らうじん)子供(こども)か、135(びつこ)()つかちかなど()かいでもよいことを()きやがつて、136グヅグヅ時間(じかん)をのばし、137()いかげん泥棒(どろばう)(かへ)つた(ころ)138ブリキをちやらつかせてやつて()ようと()算段(さんだん)だ。139(あん)(ぢやう)140(かへ)つて()ると、141泥棒(どろばう)がグツスリ仕事(しごと)をして(かへ)つて(しま)つた(あと)だつた。142本当(ほんたう)(めくら)目付(めつけ)状態(じやうたい)だ。143到底(たうてい)吾々(われわれ)はこんな泥棒(どろばう)蔓延(まんえん)する()(なか)に、144安心(あんしん)して(くら)すこた出来(でき)ないワ、145目付(めつけ)といふ(もの)()()はぬ(もの)だね』
146アル『それもさうだらうかい。147(わづか)月給(げつきふ)(もら)つて、148(よる)(ひる)もこき使(つか)はれ、149(いのち)がけの仕事(しごと)をせいと()はれちや、150(たれ)だつて尻込(しりご)みするよ。151目付(めつけ)になる(やつ)ア、152何奴(どいつ)此奴(こいつ)社会(しやくわい)落伍者(らくごしや)(ばか)りだからな。153チツト(ばか)気骨(きこつ)のある(もの)なら、154(たれ)がそんなつまらぬ(やく)(つと)めるものかい、155小学校(せうがくかう)教員(けういん)には(がく)()らずしてなれず、156商売(しやうばい)せうにも資本(しほん)はなし、157(はたら)くのは(いや)なり、158つまり堕落(だらく)書生(しよせい)(あが)りが()はむが(かな)しさに奉職(ほうしよく)してゐるのだから、159チツタ、160大目(おほめ)()てやらねばなろまいよ』
161カル『(しか)し、162目付(めつけ)月給(げつきふ)(やす)いから、163()大目(おほめ)にみるとした(ところ)で、164目付頭(めつけがしら)(やつ)165エラ(さう)大将面(たいしやうづら)をさげて()(なが)ら、166泥棒(どろぼう)()いて、167(こし)()かさん(ばか)りに(おどろ)くのだから(おそれ)()るぢやないか。168今時(いまどき)役者(やくしや)にロクな(やつ)(あり)(さう)なこたないけれど、169人民(じんみん)保護(ほご)(にん)にある目付役(めつけやく)がこんなザマでは、170天下(てんか)益々(ますます)紛乱(ふんらん)する(ばか)りだ。171呑舟(どんしう)(うを)法網(はふまう)(やぶ)つて(のが)れ、172小魚(こうを)やモロコは(みな)ふん(じば)られて獄中(ごくちう)呻吟(しんぎん)してゐる()(なか)だから、173到底(たうてい)規定(きて)便(たよ)りに、174吾々(われわれ)安閑(あんかん)(くら)(わけ)には()かぬ。175自守団(じしゆだん)でも組織(そしき)して(みづか)(まも)るより(みち)はないだないか』
176などと目付役(めつけやく)悪口(あくこう)をついてゐる。177そこへイルク、178ダリヤの兄妹(きやうだい)宣伝使(せんでんし)(おく)られて悠々(いういう)(かへ)つて()た。179アル、180カルの両人(りやうにん)(ゆめ)かと(ばか)狂喜(きやうき)(なが)ら、
181アル『これはこれは、182若旦那(わかだんな)(さま)183(ぢやう)さま、184(まち)かねまして(ござ)います』
185カル『マアマアマア186無事(ぶじ)()(かへ)つて(くだ)さいました。187これで(わたし)(たち)睾丸(きんたま)のしわが()びました。188親旦那(おほだんな)(さま)のお(かほ)のしわも今日(けふ)からのんびりとする(こと)(ござ)いませう。189ヤ、190沢山(たくさん)なお(つれ)さまで(ござ)いますな』
191イルク『さぞお(とう)さまが()つてゐられただらうな。192サア(はや)案内(あんない)してくれ。193イヤ、194(とう)さまに二人(ふたり)無事(ぶじ)(かへ)つたと(まをし)()げてくれ。195(その)(あひだ)(あし)でも(あら)つてゐるから』
196 『ハイ(かしこ)まりました』とカルを(もん)(のこ)しおき、197アルはアリスの居間(ゐま)(いそ)ぎかけ()んだ。198主人(あるじ)のアリスは(おく)一間(ひとま)にウラル(ひこ)(かみ)(ねん)(をは)り、199煙草(たばこ)をくゆらし(なが)ら、200(くび)(かたむ)け、201(ひと)(ごと)をいつてゐる。
202アリス『あゝ(わし)(ほど)(かた)(わる)(もの)()にあらうか。203(おや)代々(だいだい)から沢山(たくさん)財産(ざいさん)(ゆづ)られて、204生活(せいくわつ)(じやう)困難(こんなん)(すこ)しも(かん)じないが、205肝腎(かんじん)女房(にようばう)はイルクを()んだまま、206産後(さんご)肥立(ひだち)(わる)く、207冥土(めいど)黄泉(くわうせん)(きやく)となり、208(さん)(ねん)(あひだ)空閨(くうけい)(まも)つて(つま)菩提(ぼだい)(とむら)うてゐた。209(おも)ひまはせば(わが)()(ふる)くより出入(でいり)する売薬(ばいやく)行商人(ぎやうしやうにん)女房(にようばう)自分(じぶん)()くなつた(つま)(その)容貌(ようばう)そつくりなので、210(たちま)煩悩(ぼんなう)(いぬ)()はれ、211(みち)ならぬこととは()(なが)ら、212女房(にようばう)(そば)主人(しゆじん)不在(ふざい)(かんが)へて、213幾度(いくど)となく()いよつてみたが、214どうしても(ぐわん)として(おう)じてくれぬ。215(こひ)(ほのほ)(わが)()をこがさん(ばか)りに()()つて、216到底(たうてい)こばり()れないので、217無理(むり)()りつつ()女房(にようばう)アンナを()だてを(もつ)て、218(わが)(やかた)引張(ひつぱ)()み、219(くら)(なか)()ぢこめておいて、220無理(むり)往生(わうじやう)女房(にようばう)となし、221(つひ)(いもうと)のダリヤを()んだが、222(また)もやアンナは先妻(せんさい)同様(どうやう)産後(さんご)肥立(ひだち)(わる)く、223先妻(せんさい)命日(めいにち)()くなつて(しま)つた。224そして(かれ)(をつと)女房(にようばう)()られたのが残念(ざんねん)さに、225ハルの湖水(こすい)()()げて()んで(しま)つた、226(おも)へば(おも)へば自分(じぶん)(うん)(わる)いのも(てん)()(わざ)であらう。227(つゑ)とも(ちから)とも(はしら)とも(たの)二人(ふたり)愛児(あいじ)は、228(また)もや行方(ゆくへ)不明(ふめい)となり、229(ただ)一人(ひとり)巨万(きよまん)(とみ)(かか)へて、230(この)()(のこ)つてゐても、231何一(なにひと)つの(たのし)みもなく、232それだと()つて、233()ぬにも()なれず、234現世(げんせ)(おい)(をか)した(つみ)(むく)ひによつて、235死後(しご)(かなら)地獄(ぢごく)のドン(ぞこ)(おと)されるだらう。236それを(おも)へば(さび)(なが)らも、237(いち)(にち)でも(この)()(なが)らへて()りたいやうな()もする。238あゝ()うしたら、239(この)苦患(くげん)から(のが)れる(こと)出来(でき)るだらう。240ウラル(ひこ)(かみ)(さま)(ねん)(なが)ら、241(こころ)(そこ)(かみ)(さま)見透(みす)かされるやうな()がして242(なん)だか(おそ)ろしいやうだ。243(かみ)(さま)(まへ)()るのでさへもオヅオヅして()る。244あゝ(さび)しい(こと)だ。245最早(もはや)二人(ふたり)(わが)()は、246無事(ぶじ)(かへ)つて()気遣(きづか)ひはあるまい。247あゝ()うしたら()からうかなア』
248(くび)をうな()れて、249(くや)(なみだ)にくれてゐた。250そこへ門番(もんばん)のアルが(あわ)ただしく、251ニコニコとして(あら)はれ(きた)り、
252アル『大旦那(おほだんな)(さま)253(よろこ)びなさいませ。254二人(ふたり)(さま)無事(ぶじ)(かへ)りになりました』
255アリス『ナニ、256二人(ふたり)(かへ)つたか。257そしてどちらも機嫌(きげん)ようしてゐるか』
258アル『ハイ、259シヤンシヤンしてゐられますよ。260(なん)だか()(にん)(ばか)りお()れがあるやうで(ござ)います。261(くは)しいことは(ぞん)じませぬが、262若旦那(わかだんな)(さま)もお嬢様(ぢやうさま)も、263あの方々(かたがた)(たす)けられてお(かへ)りになつたのぢやなからうかと(おも)ひます。264(いま)(あし)(あら)つてゐられますから、265(やが)てここへお()でになりませう』
266アリス『それは(なに)より(うれ)しい(こと)だ。267(わし)(これ)からウラルの(かみ)(さま)()(れい)(まをし)()げるから、268(まへ)たちは番頭(ばんとう)下女(げぢよ)にさう()つて()れ。269(はや)夕飯(ゆふげ)用意(ようい)をせよ』
270アル『ハイ、271(かしこ)まりました。272左様(さやう)ならば旦那(だんな)(さま)
273()(なが)ら、274勝手元(かつてもと)をさして(いそ)()く。275アリスは神殿(しんでん)(むか)感謝(かんしや)祝詞(のりと)奏上(そうじやう)してゐる。
276アリス『天地(てんち)万有(ばんいう)(だい)司宰神(しさいじん)たるウラル(ひこ)大神(おほかみ)(おん)(まへ)に、277スガの(さと)薬屋(くすりや)主人(あるじ)278アリス(つつし)(うやま)ひ、279感謝(かんしや)(ことば)(ささ)げます。280()()罪悪(ざいあく)(かさ)(きた)りし、281悪魔(あくま)(ひと)しき吾々(われわれ)身魂(みたま)をも()すて(たま)はず、282最愛(さいあい)なる(わが)(せがれ)283(わが)(むすめ)安全(あんぜん)無事(ぶじ)に、284(わが)()(かへ)させ(たま)ひし、285(その)(ひろ)(あつ)()恩徳(おんとく)を、286有難(ありがた)感謝(かんしや)(いた)します。287今日(こんにち)(まで)288(わが)()(どん)(じん)()三毒(さんどく)にあてられ、289五逆(ごぎやく)十悪(じふあく)(ちまた)(まよ)ひ、290(ひと)貧苦(ひんく)困窮(こんきう)()(かい)せず、291利己(りこ)一片(いつぺん)()(はし)り、292大神(おほかみ)御子(みこ)たる数多(あまた)人民(じんみん)(くるし)めまつり、293(くは)ふるに(ひと)妻女(さいぢよ)(うば)ひ、294悪逆(あくぎやく)無道(ぶだう)(かぎり)(つく)して(まゐ)りました。295(ごく)重悪人(ぢうあくにん)(わたくし)をも()すて(たま)はず、296(おん)(めぐ)(くだ)さいました(その)広大(くわうだい)無辺(むへん)()仁慈(じんじ)(たい)し、297感謝(かんしや)にたへませぬ。298あゝ(かみ)(さま)299(わたくし)今日(こんにち)より前非(ぜんぴ)(くひ)(あらた)め、300祖先(そせん)より(つた)はりし一切(いつさい)財産(ざいさん)をあなたに(たてまつ)り、301スガ(やま)山元(やまもと)清浄(しやうじやう)()(えら)み、302荘厳(さうごん)なる社殿(しやでん)(いとな)み、303(わが)罪悪(ざいあく)万分一(まんぶんいち)をつぐない、304来世(らいせ)冥福(めいふく)(あた)へられむ(こと)(いの)(たてまつ)ります。305どうか(わが)(ねがひ)(たひら)けく(やす)らけく、306(あひ)うべなひ(くだ)さいまして、307子孫(しそん)永久(えいきう)(たち)(さか)え、308大神(おほかみ)()恩徳(おんとく)永久(えいきう)(よく)()(やう)309()守護(しゆご)あらむ(こと)を、310ひとへに(ねが)(たてまつ)ります。311惟神(かむながら)(たま)幸倍(ちはへ)ませ』
312悔悟(くわいご)(なみだ)をこぼし(なが)ら、313感謝(かんしや)哀願(あいぐわん)祈願(きぐわん)をこめてゐる。314そこへ(あに)のイルクを先頭(せんとう)にダリヤ(ひめ)315梅公(うめこう)316ヨリコ(ひめ)317花香姫(はなかひめ)318シーゴーの(ろく)(にん)()れ、319悠々(いういう)として這入(はい)つて()た。
320アリス『ヤ、321其方(そなた)(せがれ)か、322……(むすめ)か、323()うマア無事(ぶじ)(かへ)つて()た。324(ちち)はここ半月(はんつき)(あひだ)325()()もロクに()ず、326(かみ)(さま)におすがり(まを)してゐた。327(その)おかげで、328今日(けふ)はお(まへ)(たち)無事(ぶじ)(かほ)()ることを()たのだ。329モウ(わし)はこれつきり、330(この)()()つても心残(こころのこ)りはない。331……(いづ)れの(かた)かは()りませぬが332よくマア(わが)()(おく)つて()(くだ)さいました。333(つつし)んでお(れい)(まをし)()げます』
334梅公(うめこう)(はじ)めてお()にかかります、335(わたし)三五教(あななひけう)宣伝使(せんでんし)のお(とも)(つか)へる梅公(うめこう)(まを)(もの)(ござ)いますが、336波切丸(なみきりまる)船中(せんちう)(おい)て、337イルクさまと眤懇(じつこん)になり、338一夜(いちや)宿(やど)()無心(むしん)にあがりました。339どうか(よろ)しうお(ねがひ)(いた)します』
340アリス『それは()うこそお(いで)(くだ)さいました。341御存(ごぞん)じの(とほ)り、342茅屋(あばらや)(ござ)いますが、343(いへ)(ひろ)(ござ)いますから、344幾人(いくにん)さまたり(とも)(とま)(くだ)さいませ』
345ダリヤ『お(とう)(さま)346(この)神司(かむつかさ)(さま)(わたし)(たす)けて(いただ)いたのですよ。347(この)(かた)()神徳(しんとく)()つて、348(わたし)(あやふ)(ところ)(たす)けられたやうなものですから、349どうぞお(れい)(まを)して(くだ)さい。350それから、351(この)奇麗(きれい)なお(かた)は、352宣伝使(せんでんし)(さま)のお(とも)で、353ヨリコ(ひめ)さま花香姫(はなかひめ)さまといふお(かた)(ござ)います。354(また)白髪(はくはつ)のお(かた)はシーゴー(さま)といふ(にはか)道心(だうしん)(さま)(ござ)いますが、355本当(ほんたう)心意気(こころいき)のよい(かた)ですから、356無事(ぶじ)(わが)()(かへ)られた(よろこ)びを()ね、357(いへ)祈祷(きたう)をして(いただ)かうと(おも)つて、358(とも)したので(ござ)います』
359アリス『それはそれは、360(いづ)れも方様(がたさま)361ようこそお()(くだ)さいました。362サアどうぞ、363くつろいで(くだ)さいませ。364()遠慮(ゑんりよ)(すこ)しもいりませぬから』
365梅公(うめこう)『ハイ有難(ありがた)(ござ)います。366言葉(ことば)(したが)ひ、367性来(しやうらい)気儘者(きままもの)368自由(じいう)にさして(いただ)きます。369サア(みな)さま、370()主人(しゆじん)のお(ゆる)しが()たのだから、371(からだ)(つか)れを()する(ため)(よこ)におなりなさい』
372ダリヤ『お(とう)さま、373(この)方々(かたがた)本当(ほんたう)活神(いきがみ)(さま)ですから、374粗忽(そこつ)があつては()けませぬ。375どうぞ(わたし)にお世話(せわ)(まか)して(くだ)さいませぬか』
376アリス『よしよし、377(わし)もお(まへ)(たち)(かへ)つたのを()て、378(にはか)(からだ)がガツカリと草労(くたびれ)()たやうだ。379(みな)さまに失礼(しつれい)だけれど、380離室(はなれ)()つてゆつくり(やす)まして(いただ)くから、381手落(ておち)のないやう、382()無礼(ぶれい)のないやう、383おもてなしをしておくれや』
384()(なが)ら、385エビの(やう)(まが)つた(こし)(みぎ)(てのひら)(ふた)()()(なが)ら、
386アリス『皆様(みなさま)387左様(さやう)なら、388失礼(しつれい)(いた)します』
389一言(いちごん)(のこ)し、390離室(はなれ)座敷(ざしき)()をかくした。391(この)(とき)南方(なんぱう)(そら)(むか)つて(とき)(こゑ)(きこ)えて()た。392梅公(うめこう)はヨリコ(ひめ)(とも)庭先(にはさき)(たち)()で、393(おと)する(かた)(なが)むれば、394大空(おほぞら)大変(たいへん)雲焼(くもやけ)がしてゐる。395()れはバルガン(じやう)大足別(おほだるわけ)将軍(しやうぐん)軍隊(ぐんたい)()()つて、396市街(しがい)(やき)(はら)うた大火焔(だいくわえん)が、397(そら)(いろ)(そめ)てゐたのである。
398大正一三・一二・二 新一二・二七 於祥雲閣 松村真澄録)

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5/8【霊界物語ネット】霊界物語ネットに出口王仁三郎の第六歌集『霧の海』を掲載しました。
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