霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
目 次設 定
設定
印刷用画面を開く [?]プリント専用のシンプルな画面が開きます。文章の途中から印刷したい場合は、文頭にしたい位置のアンカーをクリックしてから開いて下さい。[×閉じる]
テキストのタイプ [?]ルビを表示させたまま文字列を選択してコピー&ペーストすると、ブラウザによってはルビも一緒にコピーされてしまい、ブログ等に引用するのに手間がかかります。そんな時には「コピー用のテキスト」に変更して下さい。ルビも脚注もない、ベタなテキストが表示され、きれいにコピーできます。[×閉じる]

文字サイズ
フォント

ルビの表示



アンカーの表示 [?]本文中に挿入している3~4桁の数字がアンカーです。原則として句読点ごとに付けており、標準設定では本文の左端に表示させています。クリックするとその位置から表示されます(URLの#の後ろに付ける場合は数字の頭に「a」を付けて下さい)。長いテキストをスクロールさせながら読んでいると、どこまで読んだのか分からなくなってしまう時がありますが、読んでいる位置を知るための目安にして下さい。目障りな場合は「表示しない」設定にして下さい。[×閉じる]


宣伝歌 [?]宣伝歌など七五調の歌は、底本ではたいてい二段組でレイアウトされています。しかしブラウザで読む場合には、二段組だと読みづらいので、標準設定では一段組に変更して(ただし二段目は分かるように一文字下げて)表示しています。お好みよって二段組に変更して下さい。[×閉じる]
脚注 [?][※]や[#]で括られている文字は当サイトで独自に付けた脚注です。まだ少ししか付いていませんが、目障りな場合は「表示しない」設定に変えて下さい。ただし[#]は重要な注記なので表示を消すことは出来ません。[×閉じる]


文字の色
背景の色
ルビの色
傍点の色 [?]底本で傍点(圏点)が付いている文字は、『霊界物語ネット』では太字で表示されますが、その色を変えます。[×閉じる]
外字1の色 [?]この設定は現在使われておりません。[×閉じる]
外字2の色 [?]文字がフォントに存在せず、画像を使っている場合がありますが、その画像の周囲の色を変えます。[×閉じる]

  

表示がおかしくなったらリロードしたり、クッキーを削除してみて下さい。


マーキングパネル
設定パネルで「全てのアンカーを表示」させてアンカーをクリックして下さい。

【引数の設定例】 &mky=a010-a021a034  アンカー010から021と、034を、イエローでマーキング。

          

第一五章 破粋者(やぶれすゐしや)〔一七三九〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第68巻 山河草木 未の巻 篇:第4篇 月光徹雲 よみ:げっこうてつうん
章:第15章 第68巻 よみ:やぶれすいしゃ 通し章番号:1739
口述日:1925(大正14)年01月30日(旧01月7日) 口述場所:月光閣 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1926(大正15)年9月30日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
秋野が原のあたりに人気もない片隅に、古ぼけた水車小屋が立っていた。カーク、サーマンという二人の男が小屋の番をしている。
二人は右守サクレンスの手下であった。
これより以前に、太子とスバール姫は右守の手下たちに捕らえて、小屋の地下室に幽閉されていたのであった。
主な登場人物: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日: OBC :rm6815
愛善世界社版: 八幡書店版:第12輯 226頁 修補版: 校定版:207頁 普及版:69頁 初版: ページ備考:
001 那美山(なみやま)南麓(なんろく)002秋野ケ原(あきのがはら)片隅(かたすみ)(ふる)ぼけた茅葺(かやぶき)水車(すいしや)小屋(ごや)()つてゐる。003附近(あたり)人家(じんか)もなく、004()わたす(かぎ)り、005(とう)(なん)西(せい)三方(さんぱう)原野(げんや)萱草(かやぐさ)(てん)(つら)なつてゐる。006(この)水車(すいしや)小屋(ごや)水車(みづぐるま)(わく)(そん)(きね)()れ、007所々(ところどころ)(あめ)もりがして、008(いま)全然(ぜんぜん)活動(くわつどう)中止(ちうし)してゐる。009カーク、010サーマンの二人(ふたり)何事(なにごと)(この)茅屋(あばらや)秘密(ひみつ)(ざう)するものの(ごと)く、011(つと)大事(だいじ)蛙面(かはづづら)をさらして仁王(にわう)(ごと)(つか)(なが)ら、012雑談(ざつだん)(ふけ)つてゐる。
013カーク『オイ、014サーマン、015(この)(あひだ)随分(ずいぶん)(ほね)()れたぢやないか。016()古寺(ふるでら)十人(じふにん)づつの手下(てした)(ひき)つれ、017つかまえに()つた(とき)や、018(おれ)も「到底(たうてい)此奴(こいつ)駄目(だめ)かなア……」と一時(いちじ)(さぢ)()げたが、019(だん)じて(おこな)へば鬼神(きじん)(これ)()くとかいつて、020たうとう(もの)にした。021あの(とき)(おれ)勇気(ゆうき)途中(とちう)(くじ)けやうものなら、022サツパリ目的物(もくてきぶつ)取逃(とりのが)し、023百円(ひやくゑん)づつの懸賞金(けんしやうきん)駄目(だめ)になる(ところ)だつた。024(きさま)(たち)(おれ)のお(かげ)で、025百円(ひやくゑん)大金(たいきん)にありついたのだから、026チツとは(おれ)恩恵(おんけい)()つてゐるだらうな』
027サーマン『ヘン、028(えら)(さう)()ふない。029(きさま)太子(たいし)一瞥(いちべつ)()うて、030ビリビリと(ふる)()し、031地上(ちじやう)平太張(へたば)つて、032(いき)をつめ、033(もの)さへ(ろく)によう()はなかつたぢやないか。034(その)(とき)035(おれ)が「オイ、036カーク、037しつかりせぬかい」と(くつ)(きさま)(けつ)()つてやつたので、038(やうや)輿(みこし)()げよつたぢやないか。039()きなり、040(あま)つちよに睾丸(きんたま)をつかまれて悲鳴(ひめい)をあげて(あを)くなり、041()をくひしばり白目(しろめ)(ばか)りにしやがつて、042フンのびた(とき)のザマつたらなかつたよ、043(あま)(えら)(さう)()ふものぢやないワ』
044カ『それだつて、045太子(たいし)のカークれ場所(ばしよ)(この)古寺(ふるでら)だと、046カーク(しん)(もつ)報告(はうこく)したのは(おれ)ぢやないか。047それだから(なん)()つても(おれ)功名手柄(こうみやうてがら)一番槍(いちばんやり)048(ほま)れは天下(てんか)にカークカークたるものだ』
049サ『(なに)(ほど)発見者(はつけんしや)だと()つても、050ヤツパリ(おれ)勇気(ゆうき)がなかつたら、051(きさま)はあの山奥(やまおく)(つめ)たくなり、052(おほかみ)(ども)餌食(ゑじき)になつてゐる代物(しろもの)だ。053(いのち)(おや)のサーマンさまだぞ。054オイ百両(ひやくりやう)(うち)五十両(ごじふりやう)(ぐらゐ)(おれ)にボーナスを()しても、055(あま)(そん)はいくまいぞ。056五十両(ごじふりやう)(いのち)(たす)かつたと(おも)へば(やす)いものだ。057(おれ)()()いても一切衆生(いつさいしゆじやう)成仏(じやうぶつ)するんだからなア』
058カ『ヘン、059(よく)(こと)をいふない。060此方(こつち)(はう)五十両(ごじふりやう)よこせ。061右守(うもり)大将(たいしやう)062(たれ)(たれ)平等(びやうどう)に、063(みな)百円(ひやくゑん)づつ(わた)しやがつたものだから、064論功行賞(ろんこうかうしやう)(てん)(おい)て、065非常(ひじやう)不公平(ふこうへい)があるのだ。066(おれ)やモウこんな(さび)しい(ところ)で、067一ケ月(いつかげつ)(わづか)十円(じふゑん)やそこらの月給(げつきふ)(もら)つて()るこた(いや)になつた。068(おれ)やモウ明日(あした)から辞職(じしよく)するから、069(きさま)一人(ひとり)(ばん)するがよからう。070(きさま)(みづか)(しよう)して(すく)ひの(かみ)だと()つてゐやがるから、071(とら)()たつて、072(おほかみ)()たつて大丈夫(だいぢやうぶ)だらう、073ウツフフフ。074とつけもない救世主(きうせいしゆ)(あら)はれたものだ、075イツヒヽヽヽ』
076サ『コリヤ、077カーク、078(あま)馬鹿(ばか)にするない。079(きやう)文句(もんく)にも、080(のう)(まく)(さー)(まん)()」といふ(こと)があるぢやないか。081(さー)(まん)()」さへ(とな)へたら、082三災七厄(さんさいしちやく)立所(たちどころ)消滅(せうめつ)し、083豺狼(さいらう)毒蛇(どくじや)盗人(ぬすびと)(なん)084火難(くわなん)水難(すいなん)(けん)(なん)085一遍(いつぺん)(のが)れるという結構(けつこう)なお(きやう)だよ。086その()をつけてるサー(まん)だから、087(おれ)(すなは)天下(てんか)救世主(きうせいしゆ)サーマンといふのだ、088エツヘヽヽヽ』
089カ『(しか)地下室(ちかしつ)太子(たいし)()うしてゐるだらう。090(した)でも()んで()によつたら大変(たいへん)だがなア。091「どこ(まで)(ころ)さないやうにせ、092飲食物(いんしよくぶつ)(あた)へず、093干殺(ほしころ)せ」と、094右守司(うもりのかみ)御内命(ごないめい)だから、095自殺(じさつ)でもやられちや、096(たちま)俺等(おれたち)首問題(くびもんだい)だぞ』
097サ『そんな心配(しんぱい)はすな。098(なん)というても隣室(りんしつ)古今無双(ここんむさう)美人(びじん)這入(はい)つてゐるのだもの、099あの(ほそ)(まど)(あな)から(たがひ)(かほ)(のぞ)()うて、100(あま)(ささや)きをつづけ、101(たのし)面白(おもしろ)平然(へいぜん)として日夜(にちや)(おく)られるかも()れぬ。102吾々(われわれ)下司(げす)下郎(げらう)心理状態(しんりじやうたい)とは(また)103格別(かくべつ)(ちが)つたものだからのう』
104(なに)(ほど)太子(たいし)だつて美人(びじん)(つら)(ばか)()()つても(はら)(ふく)れないよ。105(ことわざ)にも……(はら)がへつては戦争(いくさ)出来(でき)ぬ……と()ふぢやないか。106饑渇(きかつ)(せま)つて(こひ)だの(ふな)だのと、107そんな陽気(やうき)(こと)(おも)うてゐられるか。108(きさま)余程(よほど)理解(りかい)のない(やつ)だなア』
109サ『ナアニ、110兎角(とかく)浮世(うきよ)(いろ)(さけ)」と、111俗謡(ぞくえう)にもある(とほ)り、112(めし)よりも(さけ)大事(だいじ)だ、113(さけ)よりも大切(たいせつ)なは(いろ)だ。114(その)色女(いろをんな)仮令(たとへ)(へだ)てはあるにしても、115毎日(まいにち)(かほ)見合(みあ)はして、116(あま)つたるい(こと)いつて(たの)しんでゐる太子(たいし)胸中(きようちう)は、117暖風(だんぷう)(はる)()(わた)るが(ごと)心持(こころもち)でゐられるだらうよ。118(こひ)生命(せいめい)源泉(げんせん)だと()ふぢやないか。119(おれ)だつてあんな美人(びじん)(こひ)されるのなら、120百日(ひやくにち)千日(せんにち)121一杯(いつぱい)(みづ)()まいでも、122一椀(いちわん)(しよく)をとらいでも得心(とくしん)だ。123(なん)()つても天下(てんか)名誉(めいよ)だからなア』
124カ『アツハヽヽヽ、125法外(はふはづ)れの馬鹿野郎(ばかやらう)だなア。126飲食物(いんしよくぶつ)()てば人間(にんげん)()ぬぢやないか……127()んで花実(はなみ)()くものか……といふ俗謡(ぞくえう)があるだらう。128()(なか)(いのち)資本(しほん)だ。129人間(にんげん)飲食物(いんしよくぶつ)()(いのち)完全(くわんぜん)(たも)つてこそ、130(こひ)といふものの(あぢ)はひが(わか)るのだ。131筍笠(たけのこがさ)のやうに(ほね)(かは)(すぢ)とになつて痩衰(やせおとろ)胃病薬(ゐびやうやく)看板(かんばん)(やう)壁下地(かべしたぢ)(あら)はれ、132手足(てあし)筋骨(すぢぼね)()つて竹細工(たけざいく)()(がみ)をはつたやうなスタイルになつては133(こひ)(みや)もあつたものかい』
134サ『(こひ)でも(みや)でもないよ。135海魚(うみざかな)(わう)たる鯛子様(たひしさま)だ。136それだから太子霊従(たいしれいじう)行動(かうどう)(あそ)ばすのだ。137政治(せいぢ)なんか如何(どう)でも()い、138(おや)なんか如何(どう)でも()い、139自分(じぶん)(こひ)欲望(よくばう)さへ()げれば人生(じんせい)はそれで()いのだ……などと()つて、140あらう(こと)か、141あろまい(こと)か、142山海(さんかい)(ひと)しき養育(やういく)(おん)()けた父親(てておや)難病(なんびやう)見捨(みす)てて、143()いた(をんな)()()()つて随徳寺(ずゐとくじ)をきめこむといふ(すゐ)なお(かた)だからなア』
144カ『それだから(おや)(ばち)(あた)つて、145こんな(ところ)(なげ)()まれたのだ。146つまり(わが)()から()(さび)だから、147()(どく)でも仕方(しかた)がないぢやないか。148……(てん)のなせる(わざはひ)(あるひ)()くるを()べし。149(みづか)らなせる(わざはひ)はさく(べか)らず……といふ(をしへ)がある。150丁度(ちやうど)それにテツキリ符合(ふがふ)してゐるぢやないか。151(とら)山犬(やまいぬ)のやうに、1511(をり)(なか)(ほり)()まれて、152飲食物(いんしよくぶつ)(あた)へられず、153(もだ)(くるし)んでゐるとは、154(じつ)()(どく)千万(せんばん)だ。155(しか)(なが)(これ)自業自得(じごふじとく)だから仕様(しやう)がないワ』
156サ『さう悪口(わるくち)()ふものぢやない。157(きさま)だつて(おれ)だつて百円(ひやくゑん)大金(たいきん)にありつき、158女房(にようばう)立派(りつぱ)着物(きもの)一枚(いちまい)()つてやれたのは、159体主霊従(たいしゆれいじう)(さま)が、160あゝいふ(こと)をして(くだ)さつたお(かげ)ぢやないか。161(あま)粗末(そまつ)にすると冥加(みやうが)(わる)いぞ。162オイ(きさま)163(なん)とかして焼芋(やきいも)のヘタでも()つて()て、164ソツと(ほり)()んだら()うだ。165(その)(くらゐ)人情(にんじやう)はあつても、166(あま)(ばち)(あた)るまいぞ』
167カ『馬鹿(ばか)いふな、168そんな(こと)をしようものなら、169(おれ)(たち)()破滅(はめつ)だ。170(なん)()つても自己愛(じこあい)世間愛(せけんあい)尊重(そんちよう)される()(なか)に、171そんな宋襄(そうじやう)(じん)()めたが()からう。172(わが)()保護上(ほごじやう)険呑至極(けんのんしごく)だぞ』
173サ『それでも(きさま)174万々一(まんまんいち)太子(たいし)(ふたた)()()られ、175王者(わうじや)()られた(とき)如何(どう)する(つも)りだ。176(おれ)(くる)しめよつたと()つて、177(くび)をうたれても仕方(しかた)あるまい。178さうだから(いま)(うち)にチツと(ぐらゐ)同情(どうじやう)(なみだ)(はら)つて、179焼芋(やきいも)のヘタ(ぐらゐ)(めぐ)んでおく(はう)が、180自己愛(じこあい)精神上(せいしんじやう)(もつと)賢明(けんめい)()(かた)ぢやないか』
181カ『ヘン、182モウ()うなつた以上(いじやう)(かご)(とり)だ。183(てん)()になり、184()(てん)となり、185太陽(たいやう)西(にし)から(あが)(こと)があつても、186……………()()るやうな(こと)があるものか。187()(かく)(なが)(もの)にはまかれ、188(つよ)(もの)(まへ)には()をふつて(したが)ふのが、189自己保存上(じこほぞんじやう)唯一(ゆゐいつ)良法(りやうはふ)だ。190(おれ)(だん)じて何物(なにもの)(あた)へない(つもり)だよ』
191サ『(きさま)192さういふけれど、193太子(たいし)()()(うち)右守(うもり)(かみ)陰謀(いんぼう)露顕(ろけん)し、194太子(たいし)在処(ありか)(わか)つて、195立派(りつぱ)役人(やくにん)(ども)がお(むか)へに()たとすれば、196(その)(とき)大切(だいじ)にしておきやよかつたに」と、197地団駄(ぢだんだ)()んで(くや)むでも、198最早(もはや)(およ)ばぬ(あと)(まつ)りだ。199六日(むゆか)菖蒲(あやめ)十日(とをか)(きく)だ。200それだから(きさま)利益上(りえきじやう)201(おれ)がソツと忠告(ちうこく)するのだ』
202カ『(おれ)(だん)じてそんな女々(めめ)しい卑屈(ひくつ)(こと)はせないよ。203(とき)天下(てんか)(したが)へといふぢやないか。204権威(けんゐ)赫々(かくかく)として、205月日(じつげつ)(ごと)(かがや)(わた)右守(うもり)(きみ)にさへ、206()()れば()いのだ。207オイ(きさま)208地下室(ちかしつ)()つて、209一寸(ちよつと)(しら)べて()い。210(おれ)此処(ここ)外面(ぐわいめん)看視(かんし)(あた)るから……』
211 太子(たいし)地下室(ちかしつ)牢獄(らうごく)()()まれて今日(けふ)三日(みつか)212一飲一食(いちいんいつしよく)もせず、213(ほそ)(せま)(まど)(のぞ)いて、214スバール(ひめ)(かほ)(かすか)(なが)め、215それをせめてもの(なぐさめ)となし、216死期(しき)(いた)るを従容(しようよう)として()つてゐた。217其処(そこ)看視役(かんしやく)のサーマンがやつて()て、
218サ『モシモシ太子様(たいしさま)219(たふと)御身(おんみ)()つて、220かやうな(ところ)断食(だんじき)御修業(ごしうげふ)(あそ)ばすとは(じつ)(おそ)()りまして(ござ)います。221(わたくし)もタラハン(ごく)国民(こくみん)一人(ひとり)御座(ござ)いますれば、222(なん)とかして殿下(でんか)(たい)御恩報(ごおんはう)じが(いた)したい(かんが)へで(ござ)いますが、223何分(なにぶん)相棒(あいぼう)のカークといふ(やつ)224無情(むじやう)冷酷(れいこく)なる鬼畜(きちく)(ごと)動物(どうぶつ)(ござ)いますから、225(わたくし)(まを)(こと)(きき)()れず、226(なに)かお(なか)にたまる(もの)差上(さしあ)げたいと焦慮(せうりよ)して()りますが、227もしもそんな(こと)(いた)しまして、228右守司(うもりのかみ)(みみ)()れば(たちま)(わたくし)(くび)一間先(いつけんさき)(ころが)り、229ヤツと(さけ)()()死出(しで)旅立(たびだち)と、230(つま)らない(こと)になつて(しま)ひますなり、231殿下(でんか)御境遇(ごきやうぐう)(さつ)(まゐ)らして()りますが、232今日(こんにち)場合(ばあひ)如何(いかん)ともする(こと)出来(でき)ませぬから、233どうぞ因縁(いんねん)づくぢやと(あきら)めて234(ひめ)(さま)(かほ)()て、2341(こころ)をお(なぐさ)めなさいませ。235(やみ)があれば(あか)りもある()(なか)236殿下(でんか)だつて何時(いつ)までもかやうな不運(ふうん)(つづ)くものぢや(ござ)いますまい。237屹度(きつと)(もと)(たふと)御位(みくらゐ)にお(のぼ)(あそ)ばす(こと)()いとも(かぎ)りませぬ、238(その)(とき)には()うぞ(わたくし)御引立(おひきた)(くだ)さいませ。239(うま)別当(べつたう)でも、240馬車(ばしや)馭者(ぎよしや)にでも結構(けつこう)(ござ)いますから……』
241太子(たいし)『ハヽヽヽ随分(ずいぶん)辞令(じれい)(たくみ)野郎(やらう)だなア。242それ(ほど)親切(しんせつ)があるなれば、243何故(なぜ)()捕縛(ほばく)したのだ。244(きさま)二十人(にじふにん)悪人輩(あくにんばら)指揮(しき)して、245()斯様(かやう)(ところ)投込(なげこ)(やう)(いた)しただ()いか。246そんな偽善的(ぎぜんてき)同情(どうじやう)(ことば)()くも(けが)らはしい、247そちらへ()け』
248サ『それは殿下(でんか)誤解(ごかい)(まを)すもので(ござ)います。249(わたくし)(けつ)して殿下(でんか)をお(くるし)(まを)さうなどの悪心(あくしん)(ござ)いませぬ。250(もと)より殿下(でんか)(たい)し、251(なん)(うら)みもない(わたし)(ござ)いますから』
252(たい)『アツハヽヽヽ(うら)みはなからうが恩恵(おんけい)(あぢ)はつただらう。253()捕縛(ほばく)した(ため)百円(ひやくゑん)懸賞金(けんしやうきん)(もら)つたぢやないか』
254サ『ハイ、255ソリヤ受取(うけとり)ましたけれど、256女房(にようばう)着物(きもの)()つたりなど(いた)しまして、257(わたし)()には一文(いちもん)もつけた(おぼ)えは(ござ)いませぬ。258(うま)(さけ)一杯(いつぱい)()んだ(こと)もなく、259つまり全部(ぜんぶ)(かかあ)(やつ)にふんだくられて(しま)ひました。260どうか(うらみ)があるなら(うち)(かかあ)(うら)んで(くだ)さい。261一文(いちもん)(まう)けてゐない(わたくし)(たい)し、262そんな(こと)仰有(おつしや)るのは(あま)御無理(ごむり)ぢや(ござ)いませぬか』
263(たい)『ハヽヽヽ、264(めう)団子理窟(だんごりくつ)(こね)(やつ)だな。265(きさま)常識(じやうしき)をどこへやつたのだ』
266サ『ハイ、267情色(じやうしき)女房(にようばう)(うち)大切(たいせつ)保護(ほご)(いた)して()ります。268(なに)(ほど)夫婦(ふうふ)間柄(あひだがら)でも、269()(ところ)(へだ)つて()まつて()りますれば、270情色(じやうしき)(たの)しみも到底(たうてい)(あぢは)(こと)出来(でき)ませぬ』
271(たい)『テモ()ても(なさけ)ない野郎(やらう)だなア。272(はや)(この)()(たち)()れ』
273サ『殿下(でんか)274さうポンポンいふものぢやありませぬよ。275生殺与奪(せいさつよだつ)(けん)は、276()はば間接(かんせつ)吾々(われわれ)(にぎ)つてる(やう)なものですから、277チツとは監視役(かんしやく)(わたくし)(たい)しては、278もうチツと(ばか)丁寧(ていねい)仰有(おつしや)つても、279(あま)御損(ごそん)にもなりますまい。280(あま)りポンつき(あそ)ばすと、281貴方(あなた)御為(おため)になりませぬぞや』
282堅固(けんご)なる(をり)に、283猛悪(まうあく)なる(とら)押込(おしこ)めて、284(そと)から苛責(さいなん)でゐるやうな心持(こころもち)になつて、285下司(げす)下郎(げらう)威張(ゐば)つてゐる。286(となり)(しつ)よりスバール(ひめ)(まど)をさし(のぞ)(なが)ら、
287『あの太子様(たいしさま)288左様(さやう)(けだもの)相手(あひて)におなりなさいますな。289(わらは)残念(ざんねん)(ござ)います』
290(たい)成程(なるほど)291其方(そなた)のいふ(とほ)りだ。292今後(こんご)(なに)()はうまい。293オイ野郎(やらう)(ども)294邪魔(じやま)になる、295(はや)(うへ)(あが)つて、296水車(すいしや)小屋(ごや)立番(たちばん)でも(いた)せ』
297大喝(だいかつ)され、298流石(さすが)のサーマンも(くび)をすくめ(なが)ら、299(ねずみ)のやうに(この)()逃去(にげさ)つた。300カークは(この)(あひだ)頬杖(ほほづゑ)()(なが)ら、301コクリコクリと居睡(ゐねむ)つてゐた。
302サ『コリヤコリヤ、303カーク、304職務(しよくむ)大切(たいせつ)にせぬか、305白昼(はくちう)居睡(ゐねむ)るといふ(こと)があるかい』
306カ『ヤア、307サーマンか、308(おれ)やチツとも居睡(ゐねむ)つてはゐないよ。309(うつ)むいて沈思黙考(ちんしもくかう)310哲学(てつがく)研究(けんきう)をやつてゐたのだ』
311サ『ヘーン、312うまい(こと)いふない。313(いびき)をかいてゐたぢやないか』
314カ『きまつた(こと)だ。315哲学上(てつがくじやう)(いびき)原理(げんり)如何(いか)なるものなりやと、316実地(じつち)研究(けんきう)をやつてゐたのだ。317無学(むがく)文盲(もんまう)(きさま)哲学(てつがく)研究(けんきう)(わか)るか。318それだから常識(じやうしき)がないといふのだ』
319サ『エー、320太子(たいし)にも、321情色(じやうしき)がないと(そし)られ、322(また)(きさま)にも情色(じやうしき)がないと(そし)られ、323本当(ほんたう)(をとこ)(つら)(まる)つぶれだ。324(しか)(なが)(あま)りいうて(もら)ふまいかい。325女房(にようばう)がある以上(いじやう)情色(じやうしき)はあるぢやないか。326(きさま)こそ鰥暮(やもめぐら)しだから、327情色(じやうしき)なんか(あぢ)はつたこたあるまい』
328カ『ハヽヽヽ、329色情(しきじやう)常識(じやうしき)間違(まちが)へてゐやがるな。330オイ、331コラ、332(この)カークはな、333天下一(てんかいち)男地獄(をとこぢごく)334色魔(しきま)先生(せんせい)(うた)はれて()たものだよ。335汝等(きさまら)のやうな唐変木(たうへんぼく)(あへ)窺知(きち)()範囲(はんゐ)ぢやない。336(ねずみ)とる(ねこ)(つめ)(かく)すと()つてな。337(をんな)()いやうな(つら)してる(やつ)に、338(かへつ)(をんな)沢山(たくさん)あるものだ。339(きさま)(この)(かん)消息(せうそく)()らないから、340(こひ)(じやう)(かた)るに()らない人物(じんぶつ)だ』
341サ『ヘン、342仰有(おつしや)いますワイ、343(きさま)のやうな、344(とび)()間違(まちが)へられるやうな(あたま)()をモシヤモシヤと()(しげ)らせ、345和布(わかめ)行列然(ぎやうれつぜん)たる着物(きもの)()やがつて、346色魔(しきま)だの、347男地獄(をとこぢごく)だのと、348そんな(こと)(ぬか)(がら)ぢやあるまい。349ヤツパリ睡呆(ねとぼ)けてゐやがるな。350オイ、351そこの小溝(こみぞ)手水(てうず)でも使(つか)うて()い』
352カ『そこが(きさま)らたちの(わか)らない(ところ)だ。353……(こひ)上手(じやうず)(やつ)れてかかる……と()つてな、354(おれ)(やう)(もの)(かへつ)(をんな)(ほれ)られるのだ。355(きさま)(やう)女子(をなご)真似(まね)をして、356(あたま)にチツクをつけたり、357石灰(いしばひ)(こな)()つたり、358(かかあ)月経(つきやく)頬辺(ほほべた)()つて、359色男然(いろをとこぜん)(かま)へてる(やつ)にや(をんな)(はう)から愛想(あいさう)をつかし、360(つば)でも()つかけ(にげ)(しま)ふものだ。361(しり)大砲(たいはう)(ひぢ)鉄砲(てつぱう)(うち)かけられ、362(はと)豆鉄砲(まめでつぱう)(くら)つたやうな(つら)(ゆび)()はへて、363(をんな)後姿(うしろすがた)(うら)めしげに(なが)めてゐる代物(しろもの)は、364(きさま)のやうな柔弱男子(にうじやくだんし)()(はて)だ。365ヘン馬鹿々々(ばかばか)しい』
366サ『ほつといてくれ、367女房(にようばう)のある立派(りつぱ)人間(にんげん)(かか)なしとは到底(たうてい)()()はぬからのう。368(きさま)最前(さいぜん)(おれ)無学(むがく)文盲(もんまう)だと()ひよつたが、369(きさま)(ぐらゐ)無学(むがく)文盲(もんまう)(やつ)はあるまいよ。370無学(むがく)(やつ)(しよう)して、371ヨメないカカないと()ふぢやないか、372ザマア()やがれ。373(これ)にや一句(いつく)もあるまい、374イツヒヽヽヽ』
375カ『コリヤ、376そんなこたどうでもよい。377地下室(ちかしつ)様子(やうす)はどうだつたい。378隊長(たいちやう)報告(はうこく)せぬかい』
379サ『(なに)報告(はうこく)すべき原料(げんれう)がないぢやないか』
380カ『ハハア、381(きさま)太子(たいし)(しか)りつけられ、382謝罪(あやま)つて(かへ)つて()やがつたな。383どうも(きさま)素振(そぶり)(あや)しいと(おも)つてゐたよ』
384サ『(しか)(しか)り、385(しか)(しか)うして(おれ)(はう)から(しか)りつけて()たのだ。386流石(さすが)太子(たいし)もオンオンと(こゑ)をあげて()いてゐたよ。387(なん)()つても(えら)(もの)だらう。388(おそ)(おほ)くもタラハン(じやう)太子(たいし)一言(いちごん)(もと)叱咤(しつた)するといふ蘇如(そじよ)将軍(しやうぐん)のやうな英雄(えいゆう)だからなア』
389カ『ヘン、390そんな(こと)(なに)自慢(じまん)になるか。391堅固(けんご)(をり)(なか)這入(はい)つてゐる以上(いじやう)太子(たいし)だつて、392(とら)だつて、393(おほかみ)だつて、394()うする(こと)出来(でき)ぬぢやないか。395(たれ)だつて(しか)(ぐらゐ)()のお(ちや)だ』
396サ『ナニ、397理窟(りくつ)からいへばそんなものだが、398実地(じつち)(のぞ)んでみよ。399どこ(とも)なく威厳(ゐげん)(そな)はつてゐて、400(その)(まへ)()くと(からだ)はビリビリ(ふる)ひ、401()はまくまくし、402(した)上腮(うはあご)(はう)へひつついて(かた)くなり、403(むね)はドキドキ、404(あし)はフナフナ、405仲々(なかなか)(しか)勇気(ゆうき)容易(ようい)()()ないよ。406(おれ)ならこされ407一口(ひとくち)でも(しか)りつける(こと)出来(でき)たのだ』
408カ『アツハヽヽヽ、409手厳(てきび)しく反対(あべこべ)に、410(しか)りつけられよつたのだらう』
411 かく(はな)(をり)しも412(ふき)()西風(にしかぜ)(おく)られて、4121(かす)かに宣伝歌(せんでんか)(こゑ)(きこ)()たる。
413大正一四・一・七 新一・三〇 於月光閣 松村真澄録)