霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第八章 春乃愛(はるのあい)〔一七五三〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第69巻 山河草木 申の巻 篇:第2篇 愛国の至情 よみ:あいこくのしじょう
章:第8章 第69巻 よみ:はるのあい 通し章番号:1753
口述日:1924(大正13)年01月23日(旧12月18日) 口述場所:伊予 山口氏邸 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1927(昭和2)年10月26日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
伊佐彦の妻、樽乃姫は嫉妬深く、残虐な性格であった。連夜、政務に追われる夫が帰ってこないことを怒り、ついに春乃姫からの手紙を勘違いして、狂乱してしまう。
街中に剣とピストルを携えて飛び出し、誰彼かまわず切りつけ、狙撃する。ついに、取り締まりに捕縛され、牢獄に投げ込まれる。
隣の牢獄に入れられていた愛州は、樽乃姫の狂乱の様から世の中の乱れを見て取り、その感興を歌に詠んでいる。
一方、春乃姫は侠客たちに約束したとおり、牢獄にやってきて愛州を開放し、城を抜け出す手引きをする。春乃姫は、兄・国照別から知らされて、愛州が実はヒルの国の国司の長子・国愛別であることを知っていたのであった。
主な登場人物: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日: OBC :rm6908
愛善世界社版: 八幡書店版:第12輯 317頁 修補版: 校定版:124頁 普及版:66頁 初版: ページ備考:
001 高砂城(たかさごじやう)世子(せいし)国照別(くにてるわけ)が、002何時(いつ)とはなしに城内(じやうない)より姿(すがた)()してから、003松若彦(まつわかひこ)004伊佐彦(いさひこ)両人(りやうにん)必死(ひつし)となつて(その)捜索(そうさく)にかかつてゐた。005松若彦(まつわかひこ)大老(たいらう)として大小(だいせう)政治(せいぢ)監督(かんとく)し、006伊佐彦(いさひこ)賢平(けんぺい)007取締(とりしまり)などを使役(しえき)し、008(もつぱ)国照別(くにてるわけ)世子(せいし)捜索(そうさく)全力(ぜんりよく)()げてゐたが、009深溝町(ふかみぞちやう)俥帳場(くるまちやうば)車夫(しやふ)となつて(ばけ)()んでゐた(こと)新聞紙(しんぶんし)によつて喧伝(けんでん)されてからは一層(いつそう)(うち)(おどろ)き、010(みづか)変装(へんさう)して昼夜(ちうや)(べつ)なく市井(しせい)(ちまた)(さぐ)り、011車夫(しやふ)らしき(もの)(かた)(ぱし)から面体(めんてい)(しら)べ、012(うち)(そと)活動(くわつどう)(つづ)けて()た。013そこへ(また)横小路(よここうぢ)侠客(けふかく)愛州(あいしう)不穏(ふおん)演説(えんぜつ)をやり、014益々(ますます)人心悪化(じんしんあくくわ)徴候(ちようこう)()えたと()ふので、015(ねむ)たい()()らして(みづか)(さぐり)(にん)(あた)つてゐた。
016 伊佐彦(いさひこ)(つま)樽乃姫(たるのひめ)は、017四斗樽(しとだる)(ごと)(おほ)きな(はら)(かか)へた不格好(ぶかくかう)(をんな)である。018そして(かれ)極端(きよくたん)なるサデスムス患者(くわんじや)であつた。019さてサデスムスとは嫉妬(しつと)でもなく憎悪(ぞうを)でもなくして、020自分(じぶん)(もつと)(あい)する異性(いせい)(たい)し、021普通(ふつう)一般人(いつぱんじん)想像(さうざう)だも(およ)ばざる(やう)残虐(ざんぎやく)行為(かうゐ)(くは)へて、022性欲(せいよく)興奮(こうふん)満足(まんぞく)()ると()病的(びやうてき)人間(にんげん)()ふので、023医学上(いがくじやう)から()かる部類(ぶるゐ)人間(にんげん)を、024サデスムス(すなは)性的残忍症(せいてきざんにんしやう)といつてゐる。025()くの(ごと)変態的性欲狂(へんたいてきせいよくきやう)は、026如何(いか)なる名医(めいい)薬剤(やくざい)(ほとん)治療(ちれう)(のぞ)()(もの)である。027樽乃姫(たるのひめ)(この)病気(びやうき)(をか)されてゐた。028(あぶら)こく肥満(ひまん)した元気(げんき)肉体(にくたい)()ち、029性欲(せいよく)興奮(こうふん)(おさ)()(こと)出来(でき)ず、030毎夜(まいよ)空閨(くうけい)嫉妬(しつと)(つの)()やし、031連夜(れんや)(をつと)伊佐彦(いさひこ)(かへ)つて()ないのを()て、032(ほか)(ます)(はな)出来(でき)たのではあるまいか、033自分(じぶん)元来(ぐわんらい)不格好(ぶかくかう)女性(ぢよせい)である、034到底(たうてい)(をつと)(あい)(さう)なスタイルではない。035かう毎晩(まいばん)(うち)(そと)にして、036国家(こくか)老中(らうぢう)ともあるべき(もの)が、037女房(にようばう)にも(かほ)()せないのは、038キツトどつかの待合(まちあひ)へどつかの女性(ぢよせい)引張(ひつぱ)()んでヤニ(さが)つてるに(ちが)ひない。039かうなれば可愛(かあい)(あま)つて(にく)さが百倍(ひやくばい)だ。040(いま)主人(しゆじん)(かへ)つて()たら、041ピストルに(たま)をこめ、042いきなり眉間(みけん)(ねら)つて一思(ひとおも)ひに(うち)(ころ)し、043(ほか)(あだ)(をんな)弄具(おもちや)となつた股間(こかん)珍器(ちんき)油揚(あぶらげ)にして、044(きつね)()はしてやらうと、045(おそ)ろしい瞋恚(しんい)(ほのほ)()やし、046悋気(りんき)(つの)()やし、047おみつ狂乱(きやうらん)(やう)なスタイルで(かみ)逆立(さかだ)て、048眉毛(まゆげ)(たて)にして、049吐息(といき)をつき(なが)(まち)(かま)へてゐた。050家臣(かしん)下女(げぢよ)には事毎(ことごと)八当(やつあた)りとなり、051()るもの、052()はるもの、053(しやく)(さは)り、054家具(かぐ)をブチ(やぶ)り、055箪笥(たんす)引出(ひきだし)から(をつと)衣類(いるゐ)引出(ひきだ)してはベリベリと(ひき)()き、056(をつと)(もち)ゐた食器(しよくき)下駄(げた)057(くつ)(いた)(まで)058メチヤメチヤに(こは)して(しま)ひ、059どうにもかうにも、060鎮撫(ちんぷ)仕方(しかた)()くなつてゐた。061そこへ高砂城(たかさごじやう)から春乃姫(はるのひめ)(さま)のお使(つかひ)だと()つて、062伊佐彦(いさひこ)(むか)ひ、063一通(いつつう)書状(しよじやう)(おく)つて()た。
064 樽乃姫(たるのひめ)(その)書状(しよじやう)手早(てばや)()()り、065表書(うはがき)()れば、066伊佐彦(いさひこ)老中殿(らうぢうどの)067春乃姫(はるのひめ)より』と(しる)してある。068(この)文字(もじ)()るより、069(また)もや(かみ)逆立(さかだ)てて、070()をくひしばり、071(おほ)きな(はな)(あな)をムケムケさせ(なが)ら、072バリバリと(ふう)(おし)()り、073(ひら)いて()ればいとも(うる)はしき水茎(みづくき)(あと)074家流(いへりう)でサラサラと(なが)るる(ごと)くに(かき)(なが)してある。075樽乃姫(たるのひめ)は……サアいい証拠(しようこ)(つか)んだ……と(いき)(はづ)ませ(なが)()んで()くと、
 
076一筆(ひとふで)(しめ)しまゐらす。077先日(せんじつ)(わらは)()(うへ)につき色々(いろいろ)御親切(ごしんせつ)(おほ)(くだ)され、078一度(いちど)(いな)まむかと(おも)(さふら)ひしも、079国家(こくか)前途(ぜんと)(かんが)へ、080(また)両親(りやうしん)意見(いけん)斟酌(しんしやく)し、081貴殿(きでん)赤心(まごころ)()れて、082(つひ)貴意(きい)(したが)ふことと相成(あひな)りたるは、083(すで)貴殿(きでん)()らるる(ところ)なり。084今後(こんご)(たがひ)胸襟(きようきん)(ひら)き、085上下(じやうげ)障壁(しやうへき)()ち、086抱擁帰一(はうようきいつ)(たがひ)心裡(しんり)(うち)()け、087(あたか)夫婦間(ふうふかん)愛情(あいじやう)()けるが(ごと)親密(しんみつ)なる態度(たいど)(もつ)て、088国家(こくか)(ため)0881尽力(じんりよく)(いた)(たく)089(この)(だん)貴意(きい)()(まゐ)らす、090めでたくかしこ
 
091(しる)してある。092……サア、093サデスムスの樽乃姫(たるのひめ)怒髪(どはつ)(てん)()き、094(たちま)残虐性(ざんぎやくせい)発揮(はつき)し、095ピストル大剣(たいけん)左右(さいう)()(たづさ)へ、096()きがけの駄賃(だちん)にと、097家令(かれい)098家扶(かふ)099下女(げぢよ)などを、100(あるひ)狙撃(そげき)し、101(あるひ)(きり)()て、102往来(ゆきき)人々(ひとびと)(あた)るを(さいは)(いづ)れも(てき)()なして、103()()()()て、104(うち)まくり、105……(わが)怨敵(をんてき)所在(ありか)高砂城内(たかさごじやうない)……と夜叉(やしや)(ごと)くに(かみ)()(みだ)し、106(あわ)()(なが)らあばれ()く。107たまたま高砂城(たかさごじやう)馬場(ばば)駿馬(しゆんめ)(またが)り、108此方(こなた)(むか)()(きた)(をつと)伊佐彦(いさひこ)出会(であ)ひ、109矢庭(やには)(うま)(あし)()り、110馬腹(ばふく)風穴(かざあな)穿(うが)ち、111(その)()顛倒(てんたう)せしめた。112伊佐彦(いさひこ)形相(ぎやうさう)(かは)つた(その)面体(めんてい)に、113自分(じぶん)(つま)とは()らず、114賢平(けんぺい)115取締(とりしまり)指揮(しき)して、116()()(これ)捕縛(ほばく)せしめ、117(まち)はづれの牢獄(らうごく)投込(なげこ)ましめた。
118 樽乃姫(たるのひめ)侠客(けふかく)親分(おやぶん)愛州(あいしう)(つな)がれてゐる(となり)牢獄(らうごく)に、119四肢五体(ししごたい)(きび)しく(しば)られ投込(なげこ)まれた。120そして(ほとん)半狂乱(はんきやうらん)状態(じやうたい)となり、121無性(むしやう)矢鱈(やたら)(しやべ)()ててゐる。
122樽乃(たるの)『エー、123残念(ざんねん)口惜(くちを)しや、124(わらは)何科(なにとが)あつて斯様(かやう)(みぐるし)牢獄(らうごく)へブチ()んだのか。125(わらは)勿体(もつたい)なくも高砂城(たかさごじやう)(おい)て、126老中(らうぢう)尊敬(そんけい)されたる伊佐彦(いさひこ)女房(にようばう)127樽乃姫(たるのひめ)(さま)だ。128(しか)るに賢平(けんぺい)(やつ)129(たふと)()(うへ)()らず、130盲滅法界(めくらめつぽふかい)(わらは)(しば)()げ、131(むさくる)しい牢屋(らうや)投込(なげこ)むとは(なん)(こと)だ。132(いま)仕返(しかへ)しをしてやるから、133(おも)()つたがよからうぞ。134エー残念(ざんねん)やな、135クヽ口惜(くちを)しやな。136(この)(いまし)めが()けたならば、137()くの(ごと)きヒヨヒヨの牢獄(らうごく)138(ただ)一叩(ひとたたき)(うち)(やぶ)り、139(わが)(をつと)寝取(ねと)つた春乃姫(はるのひめ)(はじ)め、140(をつと)伊佐彦(いさひこ)生首(なまくび)(ひき)()き、141みん(ごと)(かたき)()つて()せうぞ。142坊主(ばうず)(にく)けりや袈娑(けさ)まで(にく)い。143国依別(くによりわけ)国司(こくし)末子姫(すゑこひめ)144松若彦(まつわかひこ)(かた)(ぱし)から()()()()て、145(うらみ)()らさでおかうか。146モウかうなる(うへ)樽乃姫(たるのひめ)(おに)だ、147悪魔(あくま)だ、148夜叉明王(やしやみやうわう)だ、149阿修羅王(あしゆらわう)だ。150(この)()(なか)泥海(どろうみ)にしてでも、151(うらみ)()らさにやおくものか』
152とキリキリキリと歯切(はぎり)をかみ、153昼夜(ちうや)(べつ)なく、154(おな)(こと)繰返(くりかへ)繰返(くりかへ)呶鳴(どな)()てて()る。
155 隣室(りんしつ)(つな)がれて()愛州(あいしう)は、156樽乃姫(たるのひめ)狂的独語(きやうてきどくご)()いて、157興味(きようみ)(かん)(うた)ふ。
158『うば(たま)(やみ)()なれば曲津神(まがつかみ)
159牢屋(ひとや)(なか)まで(しの)()るかな。
160サデスムス()みて夜昼(よるひる)あれ(くる)
161(はげ)しき性欲(せいよく)(くる)ひタルの(ひめ)
162(われ)(いま)正義(せいぎ)(ため)(とら)へられ
163ままならね(ども)(こころ)(たひ)らか。
164(わが)()をば(ころ)魔神(まがみ)(きた)(とも)
165(ゆび)もさされぬ(たま)(いのち)は。
166(くに)さまや幾公(いくこう)浅公(あさこう)(その)(ほか)
167真人(まびと)はいかに()(すご)すらむ。
168ヒルの(くに)ヒルの(みやこ)(あと)にして
169(おも)ひもよらぬ(なや)みする(かな)
170(やみ)()のいと(ふか)ければ黎明(れいめい)
171(ちか)きを(おも)ひて(ひと)(たの)しむ。
172()(なか)(まこと)(かみ)のゐます(うへ)
173(すく)(たま)はむ(われ)身魂(みたま)を。
174(いま)しばし牢屋(ひとや)(なか)にひそみつつ
175(かみ)にうけたる(みたま)きよめむ。
176可憐(かれん)なる樽乃(たるの)(ひめ)繰言(くりごと)
177()きて()のさま(あきら)かに()る。
178樽乃姫(たるのひめ)(しばら)()てよいかめしき
179鉄門(かなど)(ひら)(はる)(きた)らむ。
180(なれ)()(すく)ひやらむとあせれ(ども)
181(まま)ならぬ()如何(いか)(せん)なき』
182 ()口吟(くちずさ)んで()る。
183 其処(そこ)盛装(せいさう)()らした妙齢(めうれい)美人(びじん)従者(じゆうしや)をも()れず、184牢屋(ひとや)巡視(じゆんし)名目(めいもく)愛州(あいしう)在所(ありか)(たづ)ねてやつて()た。185数多(あまた)科人(とがにん)沢山(たくさん)牢屋(ひとや)(なか)()()まれてゐるので、186一目(ひとめ)()(こと)のない春乃姫(はるのひめ)には、187どれが愛州(あいしう)だか見当(けんたう)がつかなかつた。188春乃姫(はるのひめ)(しと)やかな(こゑ)にて(うた)(なが)愛州(あいしう)(たづ)ねてゐる。
189『ここは()()(うづ)(くに)
190高砂城(たかさごじやう)(まち)はづれ
191(つみ)ある(ひと)(つみ)のなき
192(ひと)諸共(もろとも)(めしひ)たる
193(つかさ)(しば)りあつめ()
194無理(むり)投込(なげこ)地獄道(ぢごくだう)
195(うづ)(みやこ)()(たか)
196白浪男(しらなみをとこ)愛州(あいしう)
197どこの牢屋(らうや)(ひそ)むやら
198乾児(こぶん)源州(げんしう)(その)(ほか)
199数多(あまた)乾児(こぶん)(たの)まれて
200(なれ)(すく)ひに()(をんな)
201名乗(なの)れよ名乗(なの)愛州(あいしう)
202(じん)(あい)とは天地(あめつち)
203(かみ)(たふと)御心(みこころ)
204(いま)常暗(とこやみ)()(なか)
205(おもて)(あい)標榜(へうばう)
206(かげ)(ひそ)みて(あく)をなす
207牢屋(らうや)にいます愛州(あいしう)
208(あく)(おもて)標榜(へうばう)
209(あまね)(あい)発揮(はつき)して
210市井(しせい)弱者(じやくしや)(たす)けゆく
211(かみ)(ほとけ)真人(しんじん)
212かかる(たふと)侠客(けふかく)
213(おのれ)都合(つがふ)(わる)いとて
214あらぬ罪名(ざいめい)をきせ(なが)
215牢屋(らうや)投込(なげこ)(にく)らしさ
216これぞ(まつた)醜司(しこつかさ)
217(おもて)忠義(ちうぎ)(かざ)りつつ
218(おの)野望(やばう)(さまた)げと
219なる真人(しんじん)(ことごと)
220(くる)しめなやまし(わが)(のぞ)
221()てむが()めの(たく)(ごと)
222看破(かんぱ)したれば春乃姫(はるのひめ)
223人目(ひとめ)(しの)(いま)此処(ここ)
224(あら)はれ(きた)りて愛州(あいしう)
225(いのち)(すく)(たす)けむと
226(こころ)千々(ちぢ)(くだ)くなり
227(はや)名乗(なの)れよ(あい)(かみ)
228(あい)女神(めがみ)(いま)此処(ここ)
229(なれ)在所(ありか)(たづ)ねつつ
230(くだ)()にけり逸早(いちはや)
231名乗(なの)らせ(たま)(あい)(かみ)
232(うづ)(みやこ)男伊達(をとこだて)
233(うづ)(みやこ)男伊達(をとこだて)
234(うた)ひつつ愛州(あいしう)牢屋(らうや)(まへ)(きた)る。235愛州(あいしう)(この)(うた)()くより、236驚喜(きやうき)(なが)ら、237(やや)(つか)れたる(こゑ)にて、
238雪霜(ゆきしも)にとぢこめられし白梅(しらうめ)
239春乃光(はるのひかり)()ひて(わら)はむ。
240(まが)りたる(こと)しなさねど醜神(しこがみ)
241忌憚(きたん)にふれて(とら)へられける。
242(わが)()をば(すく)(たす)くる春乃姫(はるのひめ)
243あつき(こころ)(なみだ)こぼるる』
244 春乃姫(はるのひめ)(この)(うた)()くより、245愛州(あいしう)なることを(さと)り、246手早(てばや)(ぢやう)をはづし、247(くら)牢屋(らうや)(うち)(むか)ひ、
248(はな)(ひら)()()のめぐむ春乃姫(はるのひめ)
249いざ(みちび)かむ(はな)御園(みその)へ』
250愛州(あいしう)有難(ありがた)(かたじけ)なしと()ぶるより
251()言霊(ことたま)()らぬ(うれ)しさ』
252春乃姫(はるのひめ)『いざ(はや)()でさせ(たま)(この)牢屋(らうや)
253(しこ)(つかさ)()つけられぬ(うち)
254愛州(あいしう)男伊達(をとこだて)(こころ)ならずも()(きみ)
255(めぐみ)にほだされ牢屋(らうや)()でむ』
256(かへ)(なが)春乃姫(はるのひめ)(みちび)かれ、257非常門口(ひじやうもんぐち)より両人(りやうにん)()()()りて夜陰(やいん)(まぎ)れ、258(いづ)れともなく()ちのび、259二人(ふたり)一生懸命(いつしやうけんめい)(きた)(きた)へと町外(まちはづ)れの(みち)を、260()けつ(まろ)びつ、261日暮(ひぐらし)(もり)へと()けつけ、262(ふる)ぼけた鎮守(ちんじゆ)(みや)床下(ゆかした)夜露(よつゆ)(しの)ぐこととなりぬ。
263愛州(あいしう)(たふと)(ひめ)(さま)御身(おんみ)(もつ)て、264侠客(けふかく)(ごと)吾々(われわれ)一人(ひとり)(たす)けむが(ため)御苦労(ごくらう)をかけまして、265(まこと)感謝(かんしや)()へませぬ。266(この)(うへ)如何(いか)なる(こと)(ござ)いませう(とも)267(いのち)(おや)貴女様(あなたさま)268(いのち)(まと)御恩返(ごおんがへし)(つかまつ)ります』
269(あらた)めて感謝(かんしや)()()べた。
270春乃(はるの)貴方(あなた)侠客(けふかく)愛州(あいしう)さまとは(この)()(しの)(かり)御名(みな)271貴方(あなた)はヒルの(みやこ)楓別(かへでわけ)(さま)長子(ちやうし)国愛別命(くにちかわけのみこと)(さま)(ござ)いませうがな』
272(ほし)をさされて、273愛州(あいしう)はハツと(むね)(おさ)へ、
274『イエイエ(けつ)して(けつ)して左様(さやう)(たふと)身分(みぶん)では(ござ)いませぬ。275ホンの市井(しせい)のならず(もの)276博奕(ばくち)渡世(とせい)(いた)()でも蒟蒻(こんにやく)でもゆかない、277ケチな野郎(やらう)でごぜえやす。278勿体(もつたい)ない 279そんな(こと)()つて(もら)ひますと、280(ばち)(あた)つて()(つぶ)れるかも()れませぬよ、281アツハヽヽヽ。282御冗談(ごじようだん)()いかげんにして(くだ)さいませ』
283春乃(はるの)『イエイエお(かく)しには(およ)びませぬ。284(わが)(あに)国照別(くにてるわけ)からソツと手紙(てがみ)(まゐ)つて()ります。285(その)手紙(てがみ)によれば、286横小路(よここうぢ)侠客(けふかく)愛州(あいしう)といふのは自分(じぶん)兄弟分(きやうだいぶん)だが、287実際(じつさい)素性(すじやう)()かせば、288ヒルの(くに)城主(じやうしゆ)御長子(ごちようし)国愛別(くにちかわけ)(さま)だと()いて(ござ)いましたよ。289そしてお(まへ)理想(りさう)(をつと)()ちたいだらうが、290(あに)()から()たお(まへ)適当(てきたう)(をつと)は、291あの愛州(あいしう)(さま)だと()いて(ござ)いましたもの。292貴方(あなた)(なに)(ほど)(かく)しになつても、293(あに)証明(しようめい)してゐるから駄目(だめ)(ござ)いますよ』
294愛州(あいしう)拙者(わつち)やア、295(くに)さまとか、296国照別(くにてるわけ)さまとか、297そんな(たふと)いお(かた)一面識(いちめんしき)(ござ)いやせぬ。298ソラ大方(おほかた)人違(ひとちが)ひで(ござ)いやせう。299(あい)といふ()はわつち一人(ひとり)ぢや(ござ)いやせぬ。300どうか、301御取違(おとりちが)ひのない(やう)御願(おねがひ)(まを)しやす』
302 春乃姫(はるのひめ)はポンと(かた)(たた)き、
303国愛別(くにちかわけ)(さま)304駄目(だめ)ですよ、305(かく)しには(およ)びませぬ。306サア(これ)から横小路(よここうぢ)のお(やかた)(かへ)らうではありませぬか。307(わらは)源州(げんしう)さまにキツと親方(おやかた)(ちか)(うち)手渡(てわた)しすると、308約束(やくそく)がしてあるのですから、309是非(ぜひ)一度(いちど)源州(げんしう)さまに、310貴方(あなた)身柄(みがら)御渡(おわた)しせねばなりませぬからね』
311愛州(あいしう)『ヤア御親切(ごしんせつ)有難(ありがた)(ござ)います。312(しか)(なが)只今(ただいま)となつては、313破獄逃走者(はごくたうそうしや)としてズキがまはり、314(わが)(やかた)賢平(けんぺい)取締(とりしまり)(もつ)て、315十重(とへ)二十重(はたへ)(とり)まいてをりませう。316左様(さやう)危険(きけん)(ところ)(かへ)るのは(かんがへ)ものですな。317()(ため)318(ひと)(ため)(いのち)()てるのは、319(すこ)しも(をし)みませぬが、320ムザムザと(いのち)()てるのは残念(ざんねん)(ござ)いますから……』
321春乃(はるの)御心配(ごしんぱい)なさいますな。322(わらは)不肖(ふせう)(なが)らも高砂城(たかさごじやう)世継(よつぎ)春乃姫(はるのひめ)(ござ)います。323仮令(たとへ)幾万(いくまん)捕手(とりて)(きた)(とも)324(ただ)一言(いちごん)にて解散(かいさん)をさせてみせませう。325そして(この)()役人(やくにん)(ども)(ゆび)一本(いつぽん)さへさせませぬから、326御安心(ごあんしん)なさいませ』
327愛州(あいしう)有難(ありがた)(ござ)います。328左様(さやう)なればお言葉(ことば)(したが)ひ、329(わが)(いへ)(かへ)りませう。330(おく)つて(もら)ふのも(なん)だか乾児(こぶん)(まへ)331(はづか)しいやうな気分(きぶん)(いた)しますから、332貴方(あなた)はどうぞお(かへ)(くだ)さいませ。333(わたくし)はボツボツ乾児(こぶん)()つてゐませうから、334(わが)(やかた)(かへ)ることに(いた)しませう。335何分(なにぶん)(あと)(ところ)(よろ)しく御願(おねがひ)(いた)します』
336春乃(はるの)左様(さやう)なれば、337(わらは)(これ)から城内(じやうない)(かへ)ることに(いた)します。338(いま)少時(しばし)城内(じやうない)(とどま)り、339世子(せいし)位地(ゐち)()つてゐなければ、340(なに)かの都合(つがふ)(わる)(ござ)いますから……(しか)(なが)何時(いつ)(まで)清家的(せいかてき)生活(せいくわつ)(いた)したくありませぬから、341将来(しやうらい)夫婦(ふうふ)……(いな)兄妹(きやうだい)(ごと)くなつて、342()(ため)(つく)さうでは(ござ)いませぬか、343ねえ国愛別(くにちかわけ)(さま)
344愛州(あいしう)『ハイ、345有難(ありがた)(ござ)います』
346(みぎ)(ひだり)立別(たちわか)れ、347朧夜(おぼろよ)(かげ)(つつ)まれて(しま)つた。
348大正一三・一・二三 旧一二・一二・一八 伊予 於山口氏邸 松村真澄録)