霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一七章 琴玉(ことたま)〔一七六二〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第69巻 山河草木 申の巻 篇:第4篇 新政復興 よみ:しんせいふっこう
章:第17章 琴玉 よみ:ことたま 通し章番号:1762
口述日:1924(大正13)年01月24日(旧12月19日) 口述場所:伊予 山口氏邸 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1927(昭和2)年10月26日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
国愛別の祖国、ヒルの国(=インカ国=日の神の子孫の国)もまた、珍の国と同様、常世国より来た悪思想により人心動揺し、社会は不穏な形勢となっていた。
折りしも国司・楓別命の長子・国愛別が逐電したというので、長老秋山別・モリスは国内をくまなく捜索したが行方を得られなかった(実は珍の国で侠客として活躍していたことは、これまでの物語に述べられている)。
そこで、やむなく妹の清香姫を世継として立てていた。
清香姫は、兄がこの国家の危機を立て替えなおそうと、まずは世情の調査の為に城を抜け出したことを知っていた。城に居ては、昔かたぎの両親や長老たちが、新しい考え方をさえぎるばかりであったからである。
清香姫の意見も常に入れられず、国家の刷新を神明に祈って、ただ身はやせ衰えるばかりであった。
ところが、秋山別、モリスの両老は姫の様子を見て、恋の病と勘違いし、婿選びの準備をはじめてしまう。これに愛想をつかした清香姫はついに、兄と同じように城を出て国の改革に身を投じようと決心するに至る。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日: OBC :rm6917
愛善世界社版: 八幡書店版:第12輯 360頁 修補版: 校定版:251頁 普及版:66頁 初版: ページ備考:
001 (かみ)(めぐみ)(かげ)もなき、002()さへ目出(めで)たきヒルの(くに)高倉山(たかくらやま)本城(ほんじやう)003堅磐常磐(かきはときは)(みやこ)中央(ちうあう)下津岩根(したついはね)厳然(げんぜん)(たち)(なら)び、004三五(あななひ)(うず)(をしへ)(とも)国家(こくか)益々(ますます)隆昌(りうしやう)(おもむ)き、005日暮河(ひぐらしがは)清流(せいりう)(きよ)(みやこ)中心(ちうしん)(なが)れて、006交通(かうつう)運輸(うんゆ)便宜(べんぎ)よく、007げに地上(ちじやう)天国(てんごく)(たた)へらるるに(いた)つた。
008 楓別命(かへでわけのみこと)009清子姫(きよこひめ)二人(ふたり)(あひだ)国愛別(くにちかわけ)010清香姫(きよかひめ)一男一女(いちなんいちぢよ)があつた。011祖先(そせん)清彦(きよひこ)日出神(ひのでのかみ)神徳(しんとく)()けて、012(ここ)にインカ(こく)なるものを()て(()(かみ)子孫(しそん)()013衆生(しゆじやう)崇敬(すうけい)(まと)となつてゐた。014衆生(しゆじやう)楓別命(かえでわけのみこと)国司(こくし)(あふ)ぎ、015大師(だいし)(あが)め、016(おや)(した)しみ、017上下一致(しやうかいつち)(あま)(わづら)はしき法規(はふき)もなく、018(きは)めて平穏(へいおん)無事(ぶじ)(さか)えてゐた。019(しか)るに常世国(とこよのくに)より交通機関(かうつうきくわん)発達(はつたつ)につれて、020種々(しゆじゆ)悪思想(あくしさう)往来(わうらい)し、021比類(ひるゐ)なき天国(てんごく)瑞祥(ずゐしやう)(あら)はしたる(この)神国(しんこく)も、022(いま)(やうや)人心(じんしん)動揺(どうえう)し、023個人主義(こじんしゆぎ)(をしへ)発達(はつたつ)して、024遊惰(いうだ)(もの)(おほ)(あら)はれ、025不良(ふりやう)老年(らうねん)026不良(ふりやう)中年(ちうねん)少年(せうねん)上下(しやうか)()ち、027()(わす)()(はし)り、028(あたか)常世(とこよ)(くに)状態(じやうたい)となり、029国司(こくし)(かる)んじ、030役人(やくにん)(いや)しめ、031民心(みんしん)悪化(あくくわ)して不安(ふあん)空気(くうき)国内(こくない)にみちて()た。032楓別命(かへでわけのみこと)033清子姫(きよこひめ)朝夕(てうせき)(かみ)(いの)り、034国家(こくか)隆昌(りうしやう)衆生(しゆじやう)安寧(あんねい)(あさ)(ゆふ)なに国魂(くにたま)(みや)祈願(きぐわん)しつつあつた。035何時(いつ)()にやら世子(せいし)たるべき国愛別命(くにちかわけのみこと)姿(すがた)(かく)し、036行衛不明(ゆくへふめい)となつて(しま)つた。037楓別(かへでわけ)夫婦(ふうふ)(はじ)め、038秋山別(あきやまわけ)039モリスの両老(りやうらう)(ひたひ)青筋(あをすぢ)をたて、040部下(ぶか)役人(やくにん)(とく)して国内(こくない)(くま)なく捜索(そうさく)すれ(ども)041(なん)手掛(てがか)りもなかつた。042(ここ)(おい)てか()むを()ず、043大会議(だいくわいぎ)(ひら)いた結果(けつくわ)044(いもうと)清香姫(きよかひめ)をしてヒルの(くに)世子(せいし)とする(こと)となつた。
045 清香姫(きよかひめ)(あに)(みこと)同様(どうやう)046時勢(じせい)()()にブル階級(かいきふ)()なるを()り、047如何(いか)にもして(わが)国家(こくか)(すく)はむと肝胆(かんたん)(くだ)きつつあつた。048されども昔気質(むかしかたぎ)両親(りやうしん)(はじ)め、049時勢(じせい)(まなこ)(くら)老臣(らうしん)()一々(いちいち)清香姫(きよかひめ)意見(いけん)反対(はんたい)し、050いつも(もち)ひられなかつた。051清香姫(きよかひめ)国家(こくか)前途(ぜんと)(おも)(うか)べて()もロクに(ねむ)られず、052神明(しんめい)(いの)つて、053国家(こくか)(わだか)まる妖雲(えううん)一掃(いつさう)し、054(あたら)しき天地(てんち)(ひら)かむと、055それのみに(こころ)(くだ)いて、056()()()(やせ)(おとろ)ふる(ばか)りであつた。
057 モリス、058秋山別(あきやまわけ)老臣(らうしん)城内(じやうない)評議所(ひやうぎしよ)(くび)(あつ)めて、059心配気(しんぱいげ)何事(なにごと)(ささや)()つてゐる。
060秋山(あきやま)『モリス殿(どの)061(この)(ごろ)(ごと)(ひめ)(さま)御様子(ごやうす)062御身(おんみ)()(おも)はるるかな』
063モリス『左様(さやう)(ござ)る、064(さつ)する(ところ)065()(やまひ)ではあるまいかと御案(おあん)(まを)してゐるのだ。066貴殿(きでん)御考(おかんが)へもヤハリ気病(きやまひ)(おも)はれるだらうな』
067秋山(あきやま)『いーかにも、068左様(さやう)(ござ)らう。069(いま)から(おも)(いだ)せば、070拙者(せつしや)貴殿(きでん)も、071紅井姫(くれなゐひめ)(さま)072エリナ(さま)について(こひ)におち、073(つひ)にはシーズン(がは)(なん)()つたと()歴史(れきし)(ござ)れば、074まして妙齢(めうれい)美人(びじん)075恋病(こひやまひ)(わづら)(たま)ふは当然(たうぜん)(ござ)らう。076一時(いちじ)(はや)適当(てきたう)御養子(ごやうし)(むか)へて(ひめ)(さま)御心(みこころ)(なぐさ)めねばならうまい。077いつも(ひめ)(さま)が、078吾々(われわれ)(たい)し、079()()かぬ(ぢい)だ、080()()かぬ(ぢい)だと仰有(おつしや)るが、081(いま)(かんが)へてみれば、082(はや)(わらは)(をつと)()たせ、083()()かぬ(やつ)だ……との(なぞ)であつたかも()れぬ、084(こひ)苦労(くらう)した吾々(われわれ)()(じつ)迂闊(うくわつ)(こと)(ござ)つたワイ』
085両人(りやうにん)(いち)()もなく、086そんな(めう)(ところ)()(まは)して(しま)つたのである。
087秋山(あきやま)『それにしても、088適当(てきたう)御養子(ごやうし)(えら)まねばなるまいが、089露骨(ろこつ)(ひめ)(さま)(うかがつ)てみたら()うだらうかな』
090モリス『マサカ、091貴女(あなた)(をつと)(たれ)(いた)しませうか……などと、092(あま)失礼(しつれい)で、093いふ(わけ)にもゆかず、094(こま)つたぢやないか』
095秋山(あきやま)『しかし、096候補者(こうほしや)二三人(にさんにん)物色(ぶつしよく)して、097写真(しやしん)でも()り、098(ひめ)(さま)居間(ゐま)にソツト()らしておき、099(ひめ)(さま)がお()()したら、100ソツト(つくゑ)引出(ひきだし)(をさ)めておかれるだらうし、101()のくはぬ写真(しやしん)は、102あの御気象(ごきしやう)だから、103屹度(きつと)引裂(ひきさ)くか(すみ)をぬらつしやるに(ちが)ひない。104そして(ひめ)(さま)(こころ)瀬踏(せぶみ)した(うへ)105遠廻(とほまは)しにかけて(さぐ)つてみようでないか、106(これ)老臣(らうしん)たる(もの)肝腎要(かんじんかなめ)御用(ごよう)だらうと(おも)ふ』
107モリス『成程(なるほど)108それでは拙者(せつしや)が、109部下(ぶか)相当(さうたう)家庭(かてい)(そだ)つた清家連(せいかれん)(せがれ)写真(しやしん)(あつ)めることに(いた)さう。110てもさても()(ところ)()がついたものだ。111惟神(かむながら)(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)
112(いさ)()ち、113両老(りやうらう)()(やうや)(さが)つたので(わが)()(かへ)りゆく。
114 (はなし)(かは)つて清香姫(きよかひめ)城内(じやうない)庭園(ていえん)侍女(じぢよ)(とも)逍遥(せうえう)(なが)ら、115ダリヤの(はな)(ふた)()つちぎつて()()(なが)ら、116(わが)居間(ゐま)へと(かへ)つて()た。117()れば(つくゑ)(うへ)に、118なまめかしいハイカラ(をとこ)写真(しやしん)四五枚(しごまい)ズラリと(なら)んでゐる。119清香姫(きよかひめ)一目(ひとめ)()るより侍女(じぢよ)(とほ)ざけ、120(ふすま)密閉(みつぺい)してよくよく()れば、121頑迷固陋派(ぐわんめいころうは)清家(せいか)(せがれ)小照(せうせう)であつた。122清香姫(きよかひめ)一々(いちいち)(その)写真(しやしん)点検(てんけん)123写真(しやしん)(うへ)から(すみ)黒々(くろぐろ)一首(いつしゆ)(うた)書添(かきそ)へておいた。
124(この)姿(すがた)()れば()(ほど)(いや)らしき
125根底(ねそこ)(くに)亡者(まうじや)なるらむ』
126 (また)一枚(いちまい)写真(しやしん)に、
127『さいこ(づち)目鼻(めはな)をつけたやうな(つら)
128(いま)(うち)たたき(やぶ)()てたし』
129 (また)一枚(いちまい)写真(しやしん)(むか)ひ、
130折角(せつかく)()()姿(すがた)(うま)()
131(をんな)()たるあさましさかな』
132 (また)(ひと)つの写真(しやしん)に、
133『どれ()ても(まこと)(たま)(ひと)つだに
134なしと(おも)へば(かな)しくなりぬ』
135 最後(さいご)写真(しやしん)に、
136『チト(ばか)(をとこ)らしくは(おも)へども
137わが()(きみ)となる(たま)でなし』
138楽書(らくがき)をして状袋(じやうぶくろ)()れ、139秋山別(あきやまわけ)140モリス両老殿(りやうらうどの)」と表面(へうめん)(しる)し、141()()つて侍女(じぢよ)()んだ。142侍女(じぢよ)春子(はるこ)(ふすま)(しづ)かに(おし)()け、
143(ひめ)(さま)144(まね)きになりましたのは(なに)御用(ごよう)(ござ)りますか』
145清香(きよか)(はる)146(まへ)御苦労(ごくらう)だが、147(これ)()つて秋山別(あきやまわけ)148モリスの(ところ)(とど)けて(くだ)さい。149そして返事(へんじ)()くに(およ)ばないから、150(わた)してさへおけばトツトと(かへ)つて()るのだよ』
151 春子(はるこ)は「ハイ、152(かしこ)まりました」と足早(あしばや)()つて()でてゆく。153(あと)清香姫(きよかひめ)一間(ひとま)密閉(みつぺい)し、154二絃琴(にげんきん)取出(とりだ)して(こころ)(しづ)かに述懐(じゆつくわい)(うた)つてゐる。
155(わらは)(よる)なきヒルの(くに)
156高倉城(たかくらじやう)国司(こくし)(むすめ)
157清香(きよか)(ひめ)(うま)()
158(あに)(みこと)諸共(もろとも)
159(つき)(はな)よと(はぐ)くまれ
160(なん)不自由(ふじゆう)(なつ)(よひ)
161(すず)しき浴衣(ゆかた)()にまとひ
162時雨(しぐれ)(かは)船遊(ふなあそ)
163(なに)不自由(ふじゆう)なき上流(じやうりう)
164社会(しやくわい)(そだ)ちし()因果(いんぐわ)
165()有様(ありさま)(あきら)かに
166(さと)(あた)はぬ目無鳥(めなしどり)
167ヒルの御国(みくに)(すゑ)(つひ)
168(よる)暗路(やみぢ)とならむかと
169(おも)へば(かな)足乳根(たらちね)
170(ちち)行末(ゆくすゑ)(はは)()(うへ)
171(すく)はむ(ため)兄妹(おとどい)
172(たがひ)(こころ)(てら)()
173()潮流(てうりう)(したが)ひて
174(あやふ)国家(こくか)(すく)ふべく
175(かみ)(いの)りて()(うち)
176(うれ)しや(とき)(めぐ)()
177(あに)(みこと)逸早(いちはや)
178これの(やかた)()(たま)
179(あさ)(ゆふ)なに(しも)をふみ
180つぶさに世情(せじやう)()(たま)
181(われ)孱弱(かよわ)女子(をみなご)
182(あに)(かは)りて(ただ)一人(ひとり)
183(この)神国(かみくに)(まも)らむと
184(こころ)千々(ちぢ)(くだ)けども
185昔心(むかしごころ)()れやらぬ
186(ちち)(はは)との心意気(こころいき)
187秋山別(あきやまわけ)老臣(らうしん)
188頑迷固陋(ぐわんめいころう)のモリス()
189清家(せいか)とか()無機物(むきぶつ)
190此上(こよ)なき(もの)珍重(ちんちよう)
191(くに)政治(せいぢ)()(つき)
192日向(ひなた)(こほり)(おとろ)へて
193(かみ)()さしのヒルの(くに)
194(うづ)もりゆくこそ(かな)しけれ
195(また)何者(なにもの)悪戯(あくぎ)にや
196(わが)心根(こころね)白雲(しらくも)
197(みたま)(くら)仇男(あだをとこ)
198()しき姿(すがた)(うつ)()
199わが文机(ふづくゑ)(なら)べおく
200(しこ)(たくみ)(おそ)ろしさ
201(さつ)する(ところ)秋山別(あきやまわけ)
202モリスの(たく)みし(わざ)ならめ
203()くなる(うへ)片時(かたとき)
204これの(やかた)()むを()
205(また)誘惑(いうわく)魔神(まがみ)()
206(とら)へられては一大事(いちだいじ)
207(あに)(ちか)ひし神業(かむわざ)
208いつの()にかは()りとげむ
209今宵(こよひ)(やみ)(さいはひ)
210用意(ようい)万端(ばんたん)ととのへて
211侍女(じぢよ)をもつれず(ただ)一女(ひとり)
212(すす)()かなむ(うづ)(くに)
213(やま)(けは)しく(かは)(ふか)
214(あらし)(つよ)(あめ)しげく
215魔神(まがみ)(やから)(おほ)くとも
216(この)()(おも)真心(まごころ)
217(わが)三五(あななひ)大神(おほかみ)
218(かなら)(めで)させ(たま)ひつつ
219(わが)兄妹(おとどい)(のぞ)みをば
220(かなら)()てさせ(たま)ふべし
221今宵(こよひ)(かぎ)りに(この)(やかた)
222()でゆく(わが)()果敢(はか)なさよ
223あゝ足乳根(たらちね)父上(ちちうへ)
224母上(ははうへ)御無事(ごぶじ)にましまして
225(わが)兄妹(おとどい)神業(しんげふ)
226完成(くわんせい)するのを()たせませ
227(わが)ゆく(あと)(さぞ)やさぞ
228頑迷固陋(ぐわんめいころう)老臣(らうしん)
229狼狽(うろた)(さわ)(こと)だらう
230(その)有様(ありさま)()のあたり
231()にちらついて(あは)れさも
232一入(ひとしほ)(ふか)(あき)(そら)
233常夜(とこよ)(やみ)(つつ)まれし
234(かな)しき(おも)ひの(うか)ぶかな
235あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
236御霊(みたま)(さち)はひましまして
237清香(きよか)(ひめ)()(ごと)
238いと(たひら)けく(やす)らけく
239()げさせ(たま)へと()(まつ)
240(あさひ)()るとも(くも)るとも
241(つき)()つとも()くるとも
242(うご)かざらましヒルの(くに)
243(つち)()(やま)()(かは)(あふ)
244海嘯(つなみ)(たか)(おそ)ふとも
245(した)岩根(いはね)永久(とことは)
246(きづ)()げたる(この)(しろ)
247千代(ちよ)八千代(やちよ)(くだ)けまじ
248あゝさり(なが)らさり(なが)
249()衆生(しゆじやう)をば如何(いか)にせむ
250思想(しさう)洪水(こうずい)氾濫(はんらん)
251日暮河(ひぐらしがは)堤防(ていばう)
252(まさ)崩壊(ほうくわい)せむとする
253(この)惨状(さんじやう)()(なが)らも
254(なほ)泰然(たいぜん)(ひか)へゐる
255老臣(らうしん)たちの(おろ)かさよ
256(わらは)兄妹(おとどい)()かりせば
257ヒルの(みやこ)衆生(しゆじやう)
258(たちま)修羅(しゆら)畜生(ちくしやう)
259地獄(ぢごく)(ふち)(おちい)らむ
260(まも)らせ(たま)惟神(かむながら)
261(かみ)かけ(ねん)(たてまつ)る』
262一生懸命(いつしやうけんめい)(うた)つてゐる。263其処(そこ)(ふすま)(そと)から秋山別(あきやまわけ)264モリスの両人(りやうにん)一度(いちど)に『姫様(ひめさま)々々(ひめさま)』と()ばはつた。265(ひめ)はあわてて(こと)()をやめ、266()らぬ(かほ)にて、
267(その)(こゑ)秋山別(あきやまわけ)268モリス殿(どの)ではないか、269何用(なによう)()らないが、270(ふすま)()けてお這入(はい)りなさい』
271 両人(りやうにん)(ひめ)言葉(ことば)に、2711(わた)りに(ふね)(うち)(よろこ)び、272もみ()(なが)ら、273(ふすま)をあけて()(きた)り、274丁寧(ていねい)辞儀(じぎ)(なが)ら、275何事(なにごと)()()さむとしてモヂモヂしてゐる。
276清香(きよか)最前(さいぜん)277春子(はるこ)()たしてやつた品物(しなもの)は、278(まへ)279受取(うけと)つて()れただらうな』
280秋山(あきやま)『ハイ、281(たしか)拝見(はいけん)(いた)しました。282それに(つい)(ひめ)(さま)御伺(おうかが)(いた)したいので(ござ)いますが、283あの五枚(ごまい)写真(しやしん)はヒルの(くに)(おい)ては、284地位(ちゐ)といひ門閥(もんばつ)()ひ、285学問(がくもん)といひ器量(きりやう)といひ、286(もつと)選抜(せんばつ)された、287ヒルの(くに)五人男(ごにんをとこ)といはれてゐる賢明(けんめい)()()つた名物男(めいぶつをとこ)(ござ)ります。288(ひめ)(さま)()年頃(としごろ)289(あま)露骨(ろこつ)(まをし)()げるも如何(いかが)(ぞん)じ、290モリスと相談(さうだん)(うへ)ソツト写真(しやしん)(あつ)めて御意(ぎよい)(うかが)つた次第(しだい)(ござ)います。291(しか)るに(ひめ)(さま)無造作(むざうさ)に、292写真(しやしん)(おもて)(すみ)くろぐろと(うた)をお()きになりましたが、293一向(いつかう)(その)()()ませぬので、294どうぞ御心(みこころ)()(ところ)忌憚(きたん)なく(おほ)()(くだ)さらば、295吾々(われわれ)両人(りやうにん)如何(いか)(やう)とも取計(とりはか)らふで(ござ)りませう』
296 清香姫(きよかひめ)297(なん)()つても今晩(こんばん)都合(つがふ)よく(この)()(にげ)()さねばならぬのだから、298(あま)(おこ)らして警戒(けいかい)(げん)にさせては(かへつ)不利益(ふりえき)(はや)くも合点(がてん)し、299ワザと空呆(そらとぼ)けて、
300清香(きよか)『ホツホヽヽヽ、301(はづか)しいワ、302どうかゆつくり(かんが)へさして頂戴(ちやうだい)303ねえ』
304秋山(あきやま)御考(おかんが)へなさるも結構(けつこう)(ござ)いませうが、305一時(いつとき)(はや)結婚問題(けつこんもんだい)をきめなくては、306吾々(われわれ)老臣(らうしん)(やく)()みませぬ。307(わたくし)(うら)一号(いちがう)二号(にがう)番号(ばんがう)をつけておきましたから、308(ひめ)(さま)のお(くち)から、309一寸(ちよつと)何号(なんがう)だといふ(こと)仰有(おつしや)つて(くだ)さいませぬか』
310清香(きよか)『さうだなア、311一号(いちがう)でもよし、312二号(にがう)でもよし、313三号(さんがう)でも四号(しがう)でも五号(ごがう)でもよしだ、314どうでもよしだ、315ホヽヽヽヽ』
316モ『モシ(ひめ)(さま)317そんなアヤフヤの御返辞(ごへんじ)をされちや(こま)るぢやありませぬか。318何号(なんがう)なら何号(なんがう)とハツキリ()つて(くだ)さいませ』
319清香(きよか)『ホヽヽ、320一生(いつしやう)(しよう))の(こと)()めるのに、321五号(ごがう)(がふ))では()らぬぢやないか、322モウ五合(ごがふ)(ばか)(あつ)めて()(くだ)さい、323そしたら返辞(へんじ)をするからねえ』
324モ『(ひめ)(さま)325(これ)でまだ()らないと仰有(おつしや)るのですか、326(これ)はモウ第一流(だいいちりう)ですよ。327(あと)はモウ第二流(だいにりう)になりますから、328(とて)もお()()りませぬワ』
329と、330(まる)小間物屋(こまものや)店出(みせだ)しをしてるやうな(こと)()つてゐる。
331清香(きよか)『とも(かく)332今日(けふ)(あま)咄嗟(とつさ)(こと)()まらないから、333明日中(あすぢう)に、334(これ)といふのをきめて御返事(ごへんじ)をする。335両人(りやうにん)(とも)336(とう)さまお(かあ)さまの手前(てまへ)337(よろ)しく(たの)んだぞや』
338 秋山別(あきやまわけ)339モリスの両人(りやうにん)は、340ヤレ(うれ)しや、341(これ)一安心(ひとあんしん)笑顔(ゑがほ)をつくり追従(つゐしよう)タラタラ機嫌(きげん)()(なが)ら、342(あたま)(ふた)()()いて、
343両人(りやうにん)(ひめ)(さま)344左様(さやう)ならば、345一時(いつとき)(はや)御返事(ごへんじ)をお()(まをし)()げます』
346言葉(ことば)(のこ)してスタスタと(この)()()つて(しま)つた。347清香姫(きよかひめ)はニタリと(わら)ひ、348(また)もや(こと)(とり)よせて(おも)ひの(たけ)(うた)(はじ)めけり。
349大正一三・一・二四 旧一二・一二・一九 伊予 於山口氏邸、松村真澄録)
   
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