霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
目 次設 定
設定
印刷用画面を開く [?]プリント専用のシンプルな画面が開きます。文章の途中から印刷したい場合は、文頭にしたい位置のアンカーをクリックしてから開いて下さい。[×閉じる]
テキストのタイプ [?]ルビを表示させたまま文字列を選択してコピー&ペーストすると、ブラウザによってはルビも一緒にコピーされてしまい、ブログ等に引用するのに手間がかかります。そんな時には「コピー用のテキスト」に変更して下さい。ルビも脚注もない、ベタなテキストが表示され、きれいにコピーできます。[×閉じる]

文字サイズ
フォント

ルビの表示



アンカーの表示 [?]本文中に挿入している3~4桁の数字がアンカーです。原則として句読点ごとに付けており、標準設定では本文の左端に表示させています。クリックするとその位置から表示されます(URLの#の後ろに付ける場合は数字の頭に「a」を付けて下さい)。長いテキストをスクロールさせながら読んでいると、どこまで読んだのか分からなくなってしまう時がありますが、読んでいる位置を知るための目安にして下さい。目障りな場合は「表示しない」設定にして下さい。[×閉じる]


宣伝歌 [?]宣伝歌など七五調の歌は、底本ではたいてい二段組でレイアウトされています。しかしブラウザで読む場合には、二段組だと読みづらいので、標準設定では一段組に変更して(ただし二段目は分かるように一文字下げて)表示しています。お好みよって二段組に変更して下さい。[×閉じる]
脚注 [?][※]や[#]で括られている文字は当サイトで独自に付けた脚注です。まだ少ししか付いていませんが、目障りな場合は「表示しない」設定に変えて下さい。ただし[#]は重要な注記なので表示を消すことは出来ません。[×閉じる]


文字の色
背景の色
ルビの色
傍点の色 [?]底本で傍点(圏点)が付いている文字は、『霊界物語ネット』では太字で表示されますが、その色を変えます。[×閉じる]
外字1の色 [?]この設定は現在使われておりません。[×閉じる]
外字2の色 [?]文字がフォントに存在せず、画像を使っている場合がありますが、その画像の周囲の色を変えます。[×閉じる]

  

表示がおかしくなったらリロードしたり、クッキーを削除してみて下さい。


マーキングパネル
設定パネルで「全てのアンカーを表示」させてアンカーをクリックして下さい。

【引数の設定例】 &mky=a010-a021a034  アンカー010から021と、034を、イエローでマーキング。

          

第一四章 賓民窟(ひんみんくつ)〔一七八一〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第70巻 山河草木 酉の巻 篇:第2篇 千種蛮態 よみ:せんしゅばんたい
章:第14章 第70巻 よみ:ひんみんくつ 通し章番号:1781
口述日:1925(大正14)年08月24日(旧07月5日) 口述場所:丹後由良 秋田別荘 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1925(大正14)年10月16日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
テイラとハリスは、千草姫の変わりよう、また受けた命令のあまりのことに、太子に相談にやってくる。
太子は千草姫が発狂したと見なして、テイラ・ハリスに向上主義者レールとマークのところに隠れるように薦め、紹介文を書いて二人に渡す。
二人は貧民窟のレール・マークの隠れ家に行き、かくまわれることとなった。
主な登場人物: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日: OBC :rm7014
愛善世界社版: 八幡書店版:第12輯 454頁 修補版: 校定版:180頁 普及版:89頁 初版: ページ備考:
001 千草姫(ちぐさひめ)(めい)()け、002キユーバーの捜索(そうさく)(むか)はむとするテイラ(ひめ)は、003(はは)モクレンの()(ふく)王様(わうさま)面会(めんくわい)せむものと(おも)へども、004千草姫(ちぐさひめ)警戒(けいかい)(きび)しく到底(たうてい)(ちか)よる(こと)出来(でき)ぬので、005チウイン太子(たいし)(やかた)()ひ、
006御免(ごめん)なさいませ。007太子様(たいしさま)008テイラで御座(ござ)います』
009 太子(たいし)(つくゑ)にもたれ、010三五(あななひ)経典(きやうてん)(しき)りに読誦(どくしよう)して()たが、011テイラの(こゑ)門口(かどぐち)(きこ)えたので、012(ただ)ちに門口(かどぐち)(むか)()で、013さも(うれ)しげに、
014チウイン『ヤア女将軍(ぢよしやうぐん)テイラ殿(どの)015まあまあ此方(こちら)へ……。016よう()(くだ)さつた。017(なん)だか最前(さいぜん)から其方(そなた)()ひたいと(おも)つて()(ところ)だ。018今日(けふ)はゆつくり(はな)しませう』
019テイラ『ハイ、020有難(ありがた)御座(ござ)います。021急用(きふよう)出来(でき)ましたので一寸(ちよつと)御相談(ごさうだん)(まゐ)りました。022失礼(しつれい)さして(いただ)きます』
023と、024一室(いつしつ)()()太子(たいし)(むか)ひあつて、
025テイ『(とき)太子様(たいしさま)026今日(こんにち)(わらは)(はは)(とも)王妃様(わうひさま)(まね)かれ沢山(たくさん)御馳走(ごちそう)(いただ)きました(ところ)027王妃様(わうひさま)様子(やうす)(にはか)(かは)り「(わらは)三千世界(さんぜんせかい)救世主(きうせいしゆ)だ」とか、028()出神(でのかみ)生宮(いきみや)だ」とか、029(めう)(こと)(おほ)せられ、030(その)(うへ)(わらは)(たい)し「()妖僧(えうそう)キユーバーの所在(ありか)(さが)して()よ」との(きび)しき御命令(ごめいれい)031(いな)(まつ)(こと)()ず、032ひそかに御相談(ごさうだん)(まゐ)りました。033どうか御意見(ごいけん)(うけたま)はり()御座(ござ)います』
034太子(たいし)『はて、035(こま)つたなあ、036母上(ははうへ)発狂(はつきやう)されたのであらう。037どうも様子(やうす)(この)(あひだ)から(へん)だと(おも)つて()た。038母上(ははうへ)何故(なにゆゑ)()悪僧(あくそう)大変(たいへん)可愛(かあい)がつて()られるのだ。039(しか)(なが)ら、040(かれ)(ごと)きものを城中(じやうちう)()()れなば、041益々(ますます)母上(ははうへ)(こころ)(みだ)し、042如何(いか)なる悪智慧(わるぢゑ)()()むかも()れない。043(それ)(ゆゑ)(わが)(はか)らひにて(ある)(ところ)にキユーバーを押込(おしこ)めておいたのだから、044捜索(そうさく)などは()めたがよからう』
045テイ『ハイ、046有難(ありがた)御座(ござ)います。047(わらは)(なん)だか(へん)だと(おも)つて()りました。048(しか)(なが)ら、049左守家(さもりけ)()(わけ)にも(まゐ)りませぬ。050何時(なんどき)王妃様(わうひさま)(ひと)()し、051(わらは)行動(かうどう)をお調(しら)べなさるか()れませぬから』
052太子(たいし)成程(なるほど)それも(こま)る。053(まへ)姿(すがた)()えさへせねば、0531(わか)らない054母上(ははうへ)はキユーバーの捜索(そうさく)()つて()るのだと安心(あんしん)せられるだらう』
055テイ『(わらは)何処(どこ)(かく)れたら宜敷(よろし)御座(ござ)いませうか』
056太子(たいし)『いや心配(しんぱい)するな。057(わたし)(いま)手紙(てがみ)()くから058(これ)をもつて名宛(なあて)(ひと)(ところ)()つて世話(せわ)になれ。059(しばら)くの(あひだ)だから』
060テイ『ハイ、061(おほせ)(したが)ひ、062さうさして(いただ)きませう』
063 太子(たいし)何事(なにごと)かすらすらと巻紙(まきがみ)()(したた)め、064三百円(さんびやくえん)(かね)(ふう)()み、
065太子(たいし)『サア、066(これ)()つてお(いで)なさい。067屹度(きつと)世話(せわ)をして()れるだらうから』
068 テイラは、069書面(しよめん)表書(うわがき)()(たふ)れむ(ばか)りに(おどろ)いた。
070テイ『もし太子様(たいしさま)071レールと()(をとこ)は、072向上運動(かうじやううんどう)張本人(ちやうほんにん)では御座(ござ)いませぬか』
073太子(たいし)如何(いか)にもさうだ。074(かれ)はトルマン(ごく)救世主(きうせいしゆ)同様(どうやう)だ』
075テイ『太子様(たいしさま)(また)このレールと()(をとこ)御交際(ごかうさい)御座(ござ)いますか』
076不思議(ふしぎ)さうに()ふ。
077太子(たいし)(べつ)交際(かうさい)()(ほど)でもないが、078一度(いちど)()ふた(こと)がある。079(その)(とき)(かれ)(こころ)(そこ)(まで)見抜(みぬ)いておいた。080屹度(きつと)大切(たいせつ)にして()れるよ。081(この)書面(しよめん)(なか)三百円(さんびやくゑん)(ふう)()んであるから、082これは其方(そなた)賄料(まかなひれう)としてレールに(あた)へるのだ』
083テイ『ハイ、084有難(ありがた)御座(ござ)います。085()(かく)()つて(まゐ)りませう』
086挨拶(あいさつ)する(をり)しも門口(かどぐち)より、
087右守(うもり)(むすめ)ハリスで御座(ござ)います。088太子様(たいしさま)にお()(かか)りたう御座(ござ)います』
089(をんな)(やさ)しき(こゑ)(きこ)えて()た。090太子(たいし)(ただ)ちに()つて(みづか)入口(いりぐち)()()け、
091太子(たいし)『ヤア、092ハリス殿(どの)か、093よう()(くだ)さつた。094(いま)テイラ将軍(しやうぐん)()()(くだ)さるところだ。095サア、096ハリス将軍(しやうぐん)(はい)りなさい』
097気軽(きがる)(まね)()れ、098ここに三人(さんにん)(ともゑ)なりに対坐(たいざ)した。
099ハリス『太子様(たいしさま)100御勉強中(ごべんきやうちう)をお邪魔(じやま)(いた)しました。101ヤ、102貴方(あなた)はテイラ(さま)103先刻(せんこく)失礼(しつれい)いたしましたね』
104テイ『いやどう(いた)しまして、105貴女(あなた)王妃様(わうひさま)御命令(ごめいれい)(くわん)して、106()しなさつたので御座(ござ)いますか』
107ハリ『ハイ、108左様(さやう)御座(ござ)います。109大変(たいへん)(こと)(おほせ)つかつたので、110(じつ)(こま)()つて()るので御座(ござ)いますよ』
111太子(たいし)『ハヽヽヽヽヽ、112ハリス将軍(しやうぐん)もキユーバー上人(しやうにん)所在(ありか)捜索隊(さうさくたい)でも(おほ)せつかつたのだらう』
113ハリ『いえいえ どうして どうして、114捜索隊(さうさくたい)はテイラさまに大命(たいめい)(くだ)りました。115(わらは)はもつともつと六ケ(むつか)しい御用(ごよう)(おほ)せつけられたので御座(ござ)います』
116太子(たいし)『それや一体(いつたい)どんな(よう)だ。117差支(さしつかへ)なくば()かして(もら)ひたいものだなあ』
118ハリ『ハイ、119(わらは)は、120太子様(たいしさま)生擒(いけど)御用(ごよう)(あふ)せつかりました』
121太子(たいし)『ハヽヽヽヽヽ、122(さすが)はハリス女将軍(ぢよしやうぐん)だけあつて、123それ相当(さうたう)御用(ごよう)()ひつけられたものだなあ。124(その)美貌(びばう)をもつて攻撃(こうげき)されるものなら、125(またた)()にチウイン砲台(はうだい)滅茶々々(めちやめちや)(こわ)されて仕舞(しま)ふかも()れないよ』
126ハリ『王妃様(わうひさま)のお言葉(ことば)には「(べに)127白粉(おしろい)128(あぶら)(をし)まず、129盛装(せいさう)をこらし()()なく太子(たいし)(こひ)(ふち)(おとし)いれ、130首尾(しゆび)よく成功(せいこう)(いた)したならば、131(なんぢ)太子妃(たいしひ)にしてやらう」との有難(ありがた)御恩命(ごおんめい)132いやはや(おそ)()つて()りまする』
133テイ『(なん)とまあ、134(すゐ)なお(かあ)さまぢや御座(ござ)いませぬか。135ハリス(さま)136(うらや)ましう御座(ござ)います』
137ハリ『どうか貴女(あなた)138(わらは)捜索(そうさく)(まゐ)りますから、139貴女(あなた)(かは)つて(くだ)さいませぬか。140到底(たうてい)この使命(しめい)(わらは)(ごと)(もの)挺子(てこ)には()ひませぬ。141(また)太子(たいし)生擒(いけど)るなどの大野心(だいやしん)は、142王家(わうけ)(おも)ひ、143右守家(うもりけ)(おも)へばどうして出来(でき)ませう。144(じつ)(こま)()つて御座(ござ)います』
145(たい)『これや一通(ひととほり)ぢやない。146母上(ははうへ)には(なに)悪神(あくがみ)憑依(ひようい)して、147トルマン(じやう)攪乱(かくらん)せむと(たく)らんで()るに(ちが)ひない。148いやハリス殿(どの)149()手紙(てがみ)()きますから、150宛名人(あてなにん)(ところ)(しばら)()をお(しの)びなさい。151(あと)都合(つがふ)よく(はは)手前(てまへ)(とり)なしておきます。152どうやら両将軍(りやうしやうぐん)()(うへ)危険(きけん)(せま)つて()たやうに()(かんが)へる』
153()(なが)ら、154すらすらと巻紙(まきがみ)何事(なにごと)(したた)め、155これ(また)三百円(さんびやくえん)紙幣(しへい)(ふう)()み、
156『サア、157ハリス殿(どの)158(しばら)(この)宛名人(あてなにん)(ところ)()つて()(しの)んで()(くだ)さい』
159差出(さしだ)書状(しよじやう)160ハリスはハツと(くび)をさげ()(いただ)き、161名宛(なあて)()ればマーク殿(どの)(したた)めてある。162ハリスは仰天(ぎやうてん)せむ(ばか)吃驚(びつくり)して太子(たいし)(かほ)をつくづく見守(みまも)(なが)ら、
163ハリ『太子様(たいしさま)164御冗談(ごぢようだん)では御座(ござ)いませぬか。165マークと()人間(にんげん)首陀向上運動(しゆだかうじやううんどう)首謀者(しゆぼうしや)166ラマ本山(ほんざん)注意人物(ちういじんぶつ)167彼様(かやう)人間(にんげん)(ところ)へ、168どうして(しの)んで()(こと)出来(でき)ませうか』
169太子(たいし)『いや心配(しんぱい)()らぬ。170(かれ)(けつ)して悪人(あくにん)でない。171(わが)トルマン(ごく)将来(しやうらい)重鎮(ぢうちん)となる人物(じんぶつ)だ。172この書状(しよじやう)をもつて()けば屹度(きつと)世話(せわ)して()れるだらう』
173ハリ『テイラさま、174(わたし)175どうしませう。176太子様(たいしさま)も、177あまりぢや御座(ござ)いませぬか。178()(やう)(ところ)島流(しまなが)しとは(あま)(ひど)御座(ござ)いますわ』
179テイ『(わらは)だつて有名(いうめい)向上会(かうじやうくわい)のレールさまの(いへ)(あづ)けられるのですもの。180(なに)かこれには太子様(たいしさま)(おい)(ふか)いお(かんが)へがお()りなさるのでせう。181()(かく)いつて()ようぢやありませぬか』
182と、183二人(ふたり)(はや)くも太子(たいし)(いとま)()げ、
184太子様(たいしさま)185(しばら)()つて(まゐ)ります』
186黄昏(たそがれ)(さいは)裏町通(うらまちどほ)りを(つた)うて187レール、188マークの住家(すみか)をさして()でて()く。
189 レール、190マークの両人(りやうにん)()()生活(せいくわつ)()はれ、191九尺二間(くしやくにけん)裏店(うらだな)に、192二人一組(ふたりひとくみ)世帯(しよたい)をやつて()る。193二人(ふたり)荒井ケ嶽(あらゐがだけ)(ふもと)なる岩窟(がんくつ)番人(ばんにん)()へ、194(かた)(ぢやう)をかけおき、195(かへ)つて()(ところ)であつた。196両人(りやうにん)はやれやれと(こし)(おろ)し、197夕飯(ゆふはん)(はし)()らむとする(とき)198門口(かどぐち)(やさ)しき(をんな)(こゑ)
199御免(ごめん)なさいませ。200レール、201マークさまのお(たく)此処(ここ)御座(ござ)いますか』
202 薄暗(うすくら)がりにレール、203マーク二人(ふたり)(この)(こゑ)()くより、
204レール『オイ、205マーク、206(なま)めかしい、207しかも高尚(かうしやう)女性(ぢよせい)(こゑ)門口(かどぐち)(きこ)えて()るぢやないか。208さうして「レール、209マークさまのお(たく)は」と、210ほざいて()るやうだ。211一体(いつたい)(なん)だらうか』
212マーク『ヘン、213馬鹿(ばか)()ふな。214こんな(ところ)(たれ)(たづ)ねて()るものか、215しかも()()間際(まぎは)に、216大方(おほかた)(きつね)(たぬき)のお(ばけ)だらうよ』
217レ『いやいや、218(たしか)(をんな)(こゑ)だ』
219()つて()(とき)しも、220(ふたた)(やさ)しき(をんな)(こゑ)
221『レールさま、222マークさまのお(たく)此所(ここ)御座(ござ)いますか』
223マ『如何(いか)にも女性(ぢよせい)(こゑ)だ』
224()(なが)ら、225つつと()つて(ひし)になつた(やぶ)()をがらりと()()け、226()れば盛装(せいさう)()らした二人(ふたり)美人(びじん)227ニコニコとして、
228(をんな)(わらは)は、229一寸(ちよつと)様子(やうす)あつて貴方(あなた)のお(いへ)へお世話(せわ)になりに(まゐ)りました。230どうか宜敷(よろし)(ねが)ひます。231()れば(おく)さまもお()(たち)もおはさぬ様子(やうす)232どうかお世話(せわ)にして(くだ)さいませ』
233マ『どこの貴婦人(きふじん)()りませぬが、234冗談(ぢようだん)()つてはいけませぬよ。235(わたし)はお粥腹(かゆばら)(かか)へて(うゑ)()(かん)(ふる)へて()貧民窟(ひんみんくつ)主人公(しゆじんこう)236どうして人様(ひとさま)のお世話(せわ)する余裕(よゆう)御座(ござ)いませう。237大方(おほかた)人違(ひとちが)ひで御座(ござ)いませう。238(かへ)(くだ)さいませ。239オイ、240レール大変(たいへん)(こと)になつて()たぢやないか。241貴婦人(きふじん)が、242しかも二人(ふたり)243盛装(せいさう)()らしお(まへ)(おれ)とを(たづ)ねて()られたのだが、244どうも承知(しようち)出来(でき)ぬぢやないか。245大方(おほかた)それ、246キユーバーに関係(くわんけい)のある、247(やす)くない連中(れんぢう)ぢやなからうか』
248と、249小声(こごゑ)(ささや)く。
250レ『成程(なるほど)さうかも()れぬよ。251此奴(こいつ)はうつかり相手(あひて)になつては駄目(だめ)だ。252スコブツエン(しう)のキユーバーと()(やつ)253沢山(たくさん)貴婦人(きふじん)胡麻化(ごまくわ)しよつたと()ふことだ。254その貴婦人(きふじん)(おれ)()二人(ふたり)牢番(らうばん)をして()(こと)(かぎ)つけ、255(たづ)ねて()よつたのだらう。256そんな(こと)をしては太子様(たいしさま)(たい)して(まをし)(わけ)()いからなア。257(ことわ)つて()(かへ)せ』
258マ『折角(せつかく)(なが)ら、259二人(ふたり)女中(ぢよちう)さま、260レール、261マークは当家(たうけ)()りませぬ。262トツトとお(かへ)(くだ)さいませ。263こんな(やぶ)()(たづ)ねると()女性(ぢよせい)人間(にんげん)ぢやありますまい。264(きつね)(たぬき)かの()けた(やつ)(みと)めるからトツトといんで(くだ)さい』
265()ふより(はや)(やぶ)()をピシヤリと()め、266()突張(つつぱ)りをかうて(しま)つた。
267マ『ハヽヽヽヽヽ、268(この)破戸(やぶれど)一枚(いちまい)(くろがね)(もん)より(たか)269()(ところ)だ、270ハヽヽヽヽヽ』
271大声(おほごゑ)(わら)ふ。
272テイ『もし御両人様(ごりやうにんさま)273どうか(この)手紙(てがみ)()んで(くだ)さいませ。274さうすれば貴方(あなた)(がた)のお(うたが)ひが()れるでせう』
275と、276()隙間(すきま)より二通(につう)(とも)()()んだ。277二人(ふたり)二通(につう)(とも)(ひろ)()げ、278薄暗(うすぐら)いランプにすかして()れば、279一通(いつつう)にはレール殿(どの)280チウイン太子(たいし)より、281一通(いつつう)にはマーク殿(どの)282チウイン太子(たいし)より、283(しる)されてある。284(いそ)(ふう)()しきつて()れば、285(まさ)しくチウイン太子(たいし)手紙(てがみ)間違(まちが)ひない。286さうして()れきつた貧乏世帯(びんばふせたい)へ、287大枚(たいまい)三百円(さんびやくゑん)(づつ)288(をんな)賄料(まかなひれう)として(ふう)()んである。289二人(ふたり)(あわ)てて()()()け、
290レ『ヤこれはこれは失礼(しつれい)いたしました。291むさくろしい(ところ)御座(ござ)いますが、292どうかお這入(はい)(くだ)さいませ。293オイ、294マーク手箒(てばうき)でそこらを()かないか、295珍客(ちんきやく)だぞ。296これは左守家(さもりけ)のお(ぢやう)さまと、297右守家(うもりけ)のお(ぢやう)さまだ』
298()(なが)ら、299二人(ふたり)一生懸命(いつしやうけんめい)300(くろ)ずんだ(たたみ)(おもて)(には)(はき)()した。
301テイ『どうぞお(かま)(くだ)さいますな。302今日(けふ)から(わたし)がお掃除(さうぢ)(いた)します。303御飯(ごはん)()きます。304(をとこ)さまがなさいますと()つともなう御座(ござ)います』
305レ『いや勿体(もつたい)ない、306貴方(あなた)(がた)飯炊(めしたき)をさせたり、307掃除(さうぢ)をさしたりして(たま)りますか。308しかし折角(せつかく)()(もら)ひましたが寝具(しんぐ)もなし、309食器(しよくき)()し、310まあ(しばら)くお()(くだ)さい。311マークに(かひ)にやりますからな。312オイ、313マークこの(いただ)いたお(かね)絹夜具(きぬやぐ)二組(ふたくみ)()ふて()い。314そして上等(じやうとう)食器(しよくき)二組(ふたくみ)(そろ)へて()るのだぞ』
315マ『よし()た』
316()()さうとするをテーラは(ほそ)(やはら)かい()で、317マークの(そで)(とら)(なが)ら、
318テイ『もしマーク(さま)319失礼(しつれい)(なが)ら、320彼様(かやう)なお(すまゐ)絹夜具(きぬやぐ)()れたり、321立派(りつぱ)食器(しよくき)をお()れになつては、322直様(すぐさま)(その)(すぢ)(うたが)ひをうけ迷惑(めいわく)をなさいませう。323(わらは)()二人(ふたり)貴方(あなた)(がた)(おな)生活(せいくわつ)(いた)したう御座(ござ)います。324どうか食器(しよくき)(もつと)(わる)()げたやうなものを(もと)めて(くだ)さい。325さうして寝具(しんぐ)(もつと)(わる)い、326これより(わる)いものはないと()ふやうなものを()つて()(くだ)さい。327さうせねば向上会(かうじやうくわい)貴方(あなた)(がた)が、328(その)(すぢ)(うたがひ)()けられては(わらは)(たち)329(なが)いお世話(せわ)になる(こと)出来(でき)ませぬからなあ』
330マ『オイ、331レールどうせうかな、332なんぼなんでもこんな貴婦人(きふじん)にまさか(やぶ)布団(ぶとん)()せる(わけ)にゆかぬぢやないか』
333レ『(なに)334(かま)やしないよ。335(いま)(まで)浄行階級(じやうぎやうかいきふ)生活(せいくわつ)をなされて()たお(ひめ)(さま)336(ちつ)とは吾々(われわれ)貧民窟(ひんみんくつ)生活(せいくわつ)(あぢは)はしてやつてもいいぢやないか。337そんな遠慮(ゑんりよ)をして()つて、338どうして目的(もくてき)貫徹(くわんてつ)出来(でき)ようか』
339テイ『ホヽヽ、340レールさまのお言葉(ことば)341(わたし)ぞつこん()()りましたよ。342ねえハリスさま』
343ハ『さうですねえ、344本当(ほんたう)貧民窟(ひんみんくつ)生活(せいくわつ)愉快(ゆくわい)なものでせうよ』
345マ『これお(ひめ)さま、346貧民窟(ひんみんくつ)生活(せいくわつ)愉快(ゆくわい)だなんて、347(なに)()うて()るのだ。348まあ二三日(にさんにち)やつて()なさい、349吠面(ほえづら)かわいて()げて(かへ)らにやならぬやうになりますよ』
350ハリ『(なに)(ほど)つらくても(かま)ひませぬよ。351国家(こくか)柱石(ちうせき)ともなるべき立派(りつぱ)なお二人(ふたり)さまと共同生活(きようどうせいくわつ)をすると(おも)へば、352どんな(つら)(こと)でも辛抱(しんばう)(いた)しますわ』
353レ『やアお(いで)たな、354これやまあ、355(なん)のこつた。356今日(こんにち)(ただ)(いま)より貧乏神(びんばふがみ)御退却(ごたいきやく)357(ふく)(かみ)御入来(ごじゆらい)358まるで(ゆめ)のやうだわい』
359 四人(よにん)一度(いちど)に『ハヽヽヽヽヽ、360ホヽヽヽヽヽ』361三日(みつか)(つき)西山(せいざん)(かく)れ、362(やみ)(とばり)四辺(あたり)(つつ)み、363近所(きんじよ)合壁(がつぺき)婆嬶(ばばかか)(さへづ)(こゑ)次第々々(しだいしだい)()えて()く。
364大正一四・八・二四 旧七・五 於由良海岸秋田別荘 加藤明子録)