霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一四章 舗照(ほてる)〔一五一四〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第59巻 真善美愛 戌の巻 篇:第3篇 地底の歓声 よみ(新仮名遣い):ちていのかんせい
章:第14章 舗照 よみ(新仮名遣い):ほてる 通し章番号:1514
口述日:1923(大正12)年04月02日(旧02月17日) 口述場所:皆生温泉 浜屋 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1925(大正14)年7月8日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]:
三千彦と伊太彦はデビス姫とともにチルテルの館を抜け出そうと、庭先を木蔭に隠れながら進んで行った。すると足元の落とし穴にかかり、滑り落ちてしまった。三人は怪我もなく地底の一間に安着した。そこには思いもよらぬ広い洞があり、燐光がきらめいていた。
辺りには燐鉱があってその光が洞窟内を照らしている。三人が出口を探していると、伊太彦は広い岩室があるのを見つけた。筵が敷き詰めてあったので、三人はそこで休んだ。
地上が明るくなると、どこからともなく光がさしてきて、燐鉱は弱まった。伊太彦は岩室の入り口に宿屋の番頭を気取って頬杖ついて横たわっている。そこへヘールが落ちてきた。
落とし穴の底で声をかけられたヘールは驚いたが、伊太彦は近頃ここで岩窟ホテルを開業したのだとからかう。ヘールは面白がって部屋に入って行く。
次にチルテルが落ち込んできた。チルテルは、ここは自分の館内の落とし穴だと伊太彦にくってかかるが、伊太彦は番頭ぶった滑稽を並べ立て、煙に巻いてしまう。チルテルもいぶかりながら部屋に入って行く。
部屋に入ってきたヘールが、三千彦とデビス姫をホテルの従業員扱いするので、二人はいぶかっている。チルテルがやってきたのを見たヘールは、テクに相撲で負けたことをからかう。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2017-05-06 16:03:34 文字数:4861 OBC :rm5914
愛善世界社版:186頁 八幡書店版:第10輯 551頁 修補版: 校定版:197頁 普及版: 初版: ページ備考:
001神(かみ)の教(をしへ)の三千彦(みちひこ)は[※第8章#141の後のエピソード]
002デビスの姫(ひめ)を救(すく)ひ出(だ)し
003伊太彦(いたひこ)司(つかさ)と諸共(もろとも)に
004チルテル館(やかた)の庭前(にはさき)を
005木蔭(こかげ)に身(み)をば隠(かく)しつつ
006意気(いき)揚々(やうやう)と帰(かへ)り行(ゆ)く
007忽(たちま)ち足元(あしもと)バツサリと
008思(おも)ひ掛(が)けなき底脱(そこぬ)けの
009滑(すべ)り落(お)ちたる陥穽(おとしあな)
010三人(みたり)は何(なん)の怪我(けが)もなく
011地底(ちてい)の一間(ひとま)に安着(あんちやく)し
012四辺(あたり)を見(み)れば摩訶(まか)不思議(ふしぎ)
013思(おも)ひもよらぬ広(ひろ)い洞(ほら)
014光(ひかり)きらめく燐光(りんくわう)の
015常磐(ときは)堅磐(かきは)の岩(いは)の穴(あな)
016黒白(あやめ)も分(わか)ぬ暗(やみ)の夜(よ)に
017光明(くわうみやう)世界(せかい)に登(のぼ)りたる
018心地(ここち)し乍(なが)ら悠々(いういう)と
019三人(みたり)は手(て)をばつなぎつつ
020蒲鉾(かまぼこ)なりの大道(だいだう)を
021進(すす)むが如(ごと)くスタスタと
022足(あし)に任(まか)せて探(さぐ)り行(ゆ)く。
023伊太(いた)『何(なん)だかバツサリと地底(ちてい)へ落(お)ちた様(やう)な気(き)がしたと思(おも)へば024四辺(あたり)はキラキラと光(ひか)り輝(かがや)く光明(くわうみやう)世界(せかい)だ。025扨(さて)も扨(さて)も不思議(ふしぎ)な事(こと)があるものだな。026三千彦(みちひこ)さま、027吾々(われわれ)は夢(ゆめ)でも見(み)てゐるのぢやありますまいかな』
028三千(みち)『いや決(けつ)して夢(ゆめ)ではありませぬ。029敵(てき)の術中(じゆつちう)に陥(おちい)り陥穽(おとしあな)に落(お)ち込(こ)むだのですよ。030凡(すべ)て此(この)辺(へん)は地中(ちちう)の洞穴(ほらあな)が沢山(たくさん)ある所(ところ)です。031此(この)暗夜(あんや)にキラキラ光(ひか)るのは全部(ぜんぶ)燐鉱(りんくわう)です。032然(しか)し乍(なが)らここは昔(むかし)033立派(りつぱ)な人間(にんげん)の住居(すまゐ)して居(ゐ)た所(ところ)に違(ちが)ひありませぬ。034何処(どこ)か此処辺(ここら)で休息(きうそく)致(いた)しませう』
035伊太(いた)『比較(ひかく)的(てき)スベスベしたよく慣(な)れた岩窟(いはや)ですな。036これ位(くらゐ)だと何処(どこ)か探(さが)したら、037沢山(たくさん)な座敷(ざしき)がとつてあるに違(ちが)ひ厶(ござ)いませぬわ。038一(ひと)つ念入(ねんい)りに探(さが)して見(み)て、039座敷(ざしき)でもあればまア貴方(あなた)御(ご)夫婦(ふうふ)は新所帯(しんしよたい)をなさいませ。040私(わたし)はまア臨時(りんじ)番頭(ばんとう)となつて御用(ごよう)を致(いた)しませう。041ねえ奥様(おくさま)、042結構(けつこう)でせう』
043デビス『ホヽヽヽヽ、044伊太彦(いたひこ)様(さま)の仰有(おつしや)る事(こと)、045ようまアそんな気楽(きらく)な事(こと)が云(い)つて居(を)られますな。046ここは敵(てき)の屋敷(やしき)、047何時(なんどき)煙攻(けむりぜ)めに会(あ)はされるやら、048徳利攻(とつくりぜめ)にされるやら分(わか)りもせぬのに049本当(ほんたう)に貴方(あなた)は楽天(らくてん)主義(しゆぎ)ですな』
050伊太(いた)『陥穽(おとしあな)からバツサリと地底(ちてい)へ落転(らくてん)主義(しゆぎ)です。051まアまア宜(よろ)しいわい。052刹那心(せつなしん)を楽(たのし)みませう。053後(あと)には玉国別(たまくにわけ)の先生(せんせい)もあり真純彦(ますみひこ)も残(のこ)つて居(を)りますから、054屹度(きつと)尋(たづ)ね出(だ)して私(わたし)等(たち)を救(すく)つて呉(く)れるに違(ちが)ひありませぬ。055マア取越(とりこし)苦労(くらう)をせずに此(この)瞬間(しゆんかん)を楽(たのし)みませう。056悔(くや)んで見(み)た所(とこ)で、057どうにもならぬぢやありませぬか。058暫(しばら)く馬鹿(ばか)になつて居(を)れば何(なに)も苦(くる)しい事(こと)はありませぬわ。059世(よ)の中(なか)に馬鹿(ばか)と狂人(きちがひ)になる位(くらゐ)幸福(かうふく)はありませぬからな。060神(かみ)様(さま)も始終(しじう)馬鹿(ばか)と狂人(きちがひ)になれと仰有(おつしや)りますが061本当(ほんたう)に馬鹿(ばか)と狂人(きちがひ)位(ぐらひ)気楽(きらく)なものは厶(ござ)いませぬわい、062アツハヽヽヽ』
063三千(みち)『もう宜(よ)い加減(かげん)に後(あと)へ引返(ひつかへ)しませう。064何程(いくら)行(い)つても際限(さいげん)がありませぬわ。065これからベルヂスタン、066アフガニスタンの方(はう)へ行(ゆ)くと、067斯(こ)んな岩窟(いはや)は沢山(たくさん)あると云(い)ふ事(こと)です。068醜(しこ)の岩窟(いはや)と云(い)つて随分(ずいぶん)有名(いうめい)なものもあるからな』
069伊太(いた)『兎(と)も角(かく)も、070も一度(いちど)念入(ねんい)りに探(さが)して見(み)ませう』
071と又(また)元(もと)へ引返(ひつかへ)し其処辺(そこら)中(ぢう)を探(さが)して見(み)ると072自分(じぶん)の落(お)ち込(こ)むだ穴(あな)の横(よこ)に少(すこ)し凹(へつこ)んだ処(ところ)がある、073伊太彦(いたひこ)はグツと押(お)して見(み)ると広(ひろ)い岩窟(いはや)があつて、074燐鉱(りんくわう)がキラキラと四辺(あたり)に光(ひか)つて居(ゐ)る。
075伊太(いた)『ヤ、076有難(ありがた)い、077ここで暫(しば)らく籠城(ろうじやう)ときめやう。078これ丈(だ)け設備(せつび)が出来(でき)て居(ゐ)ると食糧(しよくりやう)も水(みづ)も何処(どこ)かにあるだらう』
079と先(さき)に立(た)つて進(すす)み入(い)る。
080 三(さん)人(にん)はドシドシ奥(おく)へ進(すす)むで見(み)ると、081足(あし)にガシガシと触(さは)るものがある。082よくよく見(み)れば芭蕉(ばせう)の葉(は)で編(あ)んだ莚(むしろ)が敷(し)きつめてある。
083伊太(いた)『や、084此奴(こいつ)ア意外(いぐわい)な珍座敷(ちんざしき)だ。085まアここで三(さん)人(にん)が悠(ゆつく)りと雑魚寝(ざこね)を致(いた)しませう。086然(しか)し御(お)邪魔(じやま)になれば暫(しばら)く控(ひか)へて居(ゐ)ませう』
087デビス姫(ひめ)『思(おも)ひきや醜(しこ)の岩窟(いはや)に落(おと)されて
088畳(たたみ)の上(うへ)に寝(い)ぬる嬉(うれ)しさ。
089菅畳(すがだたみ)いやさや敷(し)きて三人(みたり)連(づ)れ
090寝(ね)る夢心地(ゆめごこち)してぞ嬉(うれ)しき』
091伊太彦(いたひこ)『又(また)しても寝(ね)る事(こと)許(ばか)り仰有(おつしや)るな
092此(この)伊太彦(いたひこ)はセリバシーぞや』
093デビス姫(ひめ)『妾(わらは)とて神(かみ)の御業(みわざ)の済(す)む迄(まで)は
094同(おな)じ思(おも)ひのセリバシーなり』
095伊太彦(いたひこ)『千早(ちはや)振(ふ)る神代(かみよ)も聞(き)かぬ妹(いも)と背(せ)が
096セリバシーとは怪(あや)しかりけり』
097三千彦(みちひこ)『心(こころ)なき人(ひと)は三千彦(みちひこ)デビス姫(ひめ)の
098仲(なか)を怪(あや)しく思(おも)ふなるらむ』
099伊太彦(いたひこ)『人前(ひとまへ)を飾(かざ)ることなく詳細(まつぶさ)に
100告(つ)げさせ玉(たま)へ鴛鴦(をし)の親(した)しみ』
101デビス姫(ひめ)『只(ただ)見(み)れば夫婦(めをと)の睦(むつ)びせしものと
102思(おも)ふなるらむ世(よ)の人々(ひとびと)は。
103さり乍(なが)ら心(こころ)健気(けなげ)な三千彦(みちひこ)は
104怪(あや)しき夢(ゆめ)を結(むす)び玉(たま)はず』
105三千彦(みちひこ)『伊太彦(いたひこ)やデビスの姫(ひめ)よ村肝(むらきも)の
106ゆめ心(こころ)をな傷(いた)め玉(たま)ひそ』
107伊太彦(いたひこ)『伊太彦(いたひこ)の心(こころ)は君(きみ)が親(した)しみを
108神(かみ)の御前(みまへ)に祈(いの)り暮(くら)しつ。
109村肝(むらきも)の心(こころ)配(くば)らせ玉(たま)ふなく
110妹背(いもせ)の道(みち)を守(まも)らせ玉(たま)へ。
111妹(いも)と背(せ)の仲(なか)を隔(へだ)つる伊太彦(いたひこ)は
112人目(ひとめ)の垣(かき)と思召(おぼしめ)すらむ。
113板垣(いたがき)を潜(くぐ)りて出(い)づる門戸(もんこ)あり
114隙(ひま)行(ゆ)く駒(こま)の例(ためし)知(し)らずや。
115根(ね)の国(くに)や底(そこ)の国(くに)迄(まで)落(お)ちしかと
116思(おも)ひし事(こと)も夢(ゆめ)となりぬる。
117何(なん)となく心(うら)勇(いさ)ましくなりにけり
118岩窟(いはや)の中(なか)にあるを忘(わす)れて。
119栲褥(たくぶすま)いやさや敷(し)きて三人(みたり)連(づ)れ
120夜(よ)の明(あ)くるをば待(ま)ちつつ寝(いね)む』
121デビス姫(ひめ)『いざさらば伊太彦(いたひこ)司(つかさ)三千彦(みちひこ)よ
122心(こころ)定(さだ)めて寝(ねむり)に就(つ)かむ』
123三千彦(みちひこ)『村肝(むらきも)の心(こころ)にかかる雲(くも)もなし
124花(はな)と月(つき)との君(きみ)とありせば』
125伊太彦(いたひこ)『花(はな)は姫(ひめ)伊太彦(いたひこ)司(つかさ)は三千彦(みちひこ)に
126つきの姿(すがた)となりにけるかな』
127三千彦(みちひこ)『伊太彦(いたひこ)やデビスの姫(ひめ)の真心(まごころ)を
128神(かみ)は嘉(よみ)して救(すく)ひ玉(たま)はむ。
129何事(なにごと)も神(かみ)のまにまに従(したが)ひて
130天(あま)の岩戸(いはと)の開(あ)くを待(ま)たなむ』
131 かく互(たがひ)に三十一(みそひと)文字(もじ)を詠(よ)み交(かは)し乍(なが)ら132其(その)夜(よ)は他愛(たあい)もなく眠(ねむ)らひにけり。
133 地上(ちじやう)の世界(せかい)は漸(やうや)く明(あか)るくなつたと見(み)えて134四辺(あたり)の燐鉱(りんくわう)は次第(しだい)々々(しだい)に薄(うす)らぎ、135新(あたら)しき光(ひかり)が何処(どこ)ともなく刺(さ)して来(き)た。136伊太彦(いたひこ)は入口(いりぐち)の間(ま)に宿屋(やどや)の番頭然(ばんとうぜん)として一人(ひとり)頬杖(ほほづえ)をついて横(よこた)はつて居(ゐ)る。137そこへバサリと落(お)ちて来(き)た一人(ひとり)の男(をとこ)がある。138よくよく見(み)ればユゥンケルのヘールなりける。
139伊太(いた)『や、140入(い)らつしやい』
141 ユゥンケルは此(この)声(こゑ)に驚(おどろ)いて、
142ヘール『や、143あ、144貴方(あなた)は何人(なにびと)で厶(ござ)いますか、145何時(いつ)の間(ま)に此処(ここ)にお越(こ)しになつたのですか』
146伊太(いた)『つい近頃(ちかごろ)旅館(りよくわん)開業(かいげふ)を致(いた)しまして147まだ設備(せつび)も充分(じうぶん)に出来(でき)て居(を)りませぬが、148何卒(どうぞ)足(あし)を洗(あら)つて奥(おく)へお通(とほ)り下(くだ)さいませ。149そして上等(じやうとう)が一泊(いつぱく)五(ご)円(ゑん)、150但(ただ)し昼飯(ちうはん)を抜(ぬ)きに致(いた)しましてで厶(ござ)います。151昼飯(ちうはん)ともに七(しち)円(ゑん)で厶(ござ)います。152その代(かは)り茶代(ちやだい)廃止(はいし)の広告(くわうこく)をして置(お)きましたから比較(ひかく)的(てき)安(やす)いものです。153然(しか)し茶代(ちやだい)としては頂(いただ)きませぬが、154お土産(みやげ)としてならば百(ひやく)円(ゑん)でも千(せん)円(ゑん)でも少(すこ)しも辞退(じたい)は致(いた)しませぬ』
155ヘール『アハヽヽヽ、156腹(はら)さへヘール様(やう)な事(こと)がなければ辛抱(しんばう)致(いた)します。157何分(なにぶん)此(この)頃(ごろ)は貧乏神(びんばふがみ)に見舞(みまは)れて居(を)りますから、158あまり高(たか)い宿賃(やどちん)は出(だ)せませぬ。159どうか二等(にとう)位(ぐらゐ)の所(とこ)でお願(ねがひ)致(いた)します』
160伊太(いた)『開業(かいげふ)匆々(さうさう)で設備(せつび)も出来(でき)て居(を)りませぬから、161チツとは辛抱(しんばう)して頂(いただ)かねばなりませぬ。162そして食(く)つて頂(いただ)くものは何(なに)もありませぬが、163鬼(おに)の蕨(わらび)か、164捻餅(ひねりもち)か、165鼻抓(はなつまみ)団子(だんご)ならば無尽蔵(むじんざう)に仕込(しこ)んであるから166腕(うで)のつづく迄(まで)食(く)つて貰(もら)はうと儘(まま)で厶(ござ)いますわ』
167ヘール『いや、168もう結構(けつこう)です。169泊(と)めてさへ頂(いただ)けばそれで宜(よろ)しい』
170伊太(いた)『それならお望(のぞ)みに任(まか)せませう。171然(しか)し宿賃(やどちん)は前金(ぜんきん)で厶(ござ)いますから172其(その)お積(つも)りで願(ねが)ひます。173お茶代(ちやだい)は要(い)りませぬがチツと小便(せうべん)臭(くさ)う厶(ござ)いますが、174大変(たいへん)暖(あたた)かくつて丁度(ちやうど)飲(の)み頃(ごろ)で厶(ござ)いますよ』
175ヘール『折角(せつかく)泊(と)めて頂(いただ)かうと思(おも)ひましたが176小便茶(せうべんちや)を飲(の)まされちや堪(たま)りませぬから、177此方(こつち)から小便(せうべん)致(いた)します。178大(おほ)きに有難(ありがた)う。179又(また)次(つぎ)の宿屋(やどや)で御(ご)厄介(やくかい)になります』
180伊太(いた)『此(この)岩窟(がんくつ)ホテルは何処(どこ)へおいでになつても181皆(みな)此(この)伊太屋(いたや)の屋敷(やしき)で厶(ござ)います。182伊太屋(いたや)の主人(しゆじん)の承諾(しようだく)なくては、183どこの端(はし)くれにも置(お)く事(こと)は出来(でき)ませぬ。184千日前(せんにちまへ)の夜店(よみせ)でさへも地代(ぢだい)をとられるのですから、185そんな事(こと)をして居(を)つては商売(しやうばい)が立(た)ち行(ゆ)きませぬからな』
186ヘール『アツハヽヽヽ、187それなら極上等(ごくじやうとう)でお願(ねが)ひ致(いた)しませう』
188伊太(いた)『いや毎度(まいど)御(ご)贔屓(ひいき)に有難(ありがた)う厶(ござ)います。189さア何卒(どうぞ)奥(おく)へお通(とほ)り下(くだ)さいませ。190デビス姫(ひめ)と云(い)ふ仲居(なかゐ)も居(を)り、191三千彦(みちひこ)といふ幇間(たいこもち)も居(を)りますから、192御(ご)退屈(たいくつ)なれば何(なん)なりと仰(おほ)せつけ下(くだ)さいませ。193それが岩窟(がんくつ)ホテルの特色(とくしよく)です。194ウツフヽヽヽ』
195ヘール『それなら御(ご)厄介(やくかい)になりませう』
196と奥(おく)の間(ま)に羽(は)ばたきし乍(なが)ら進(すす)み入(い)る。
197伊太(いた)『アツハヽヽヽ、198宿屋(やどや)ごつこも面白(おもしろ)いものだ。199然(しか)し乍(なが)ら一晩(ひとばん)五(ご)円(ゑん)では、200どうも算盤(そろばん)が合(あ)はぬやうだ。201朝(あさ)から晩(ばん)まで高(たか)い炭火(すみ)を焚(た)いて炬燵(こたつ)も拵(こしら)へてやらねばならず、202一室(ひとま)に一(ひと)つづつ火鉢(ひばち)には火(ひ)を絶(た)やさぬやうにせねばならず、203不心得(ふこころえ)のお客(きやく)になると折角(せつかく)畳替(たたみが)へした畳(たたみ)に煙草(たばこ)の火(ひ)を落(おと)して焦(こが)すなり、204蒲団(ふとん)が硬(かた)いの、205軟(やわらか)いの、206薄(うす)いの、207厚(あつ)いの、208重(おも)たいの、209水(みづ)に金気(かなけ)があるの、210なんのと叱言(こごと)許(ばか)り聞(き)かされて……一寸(ちよつと)五(ご)円(ゑん)と云(い)ふと、2101高(たか)い様(やう)だが211懐勘定(ふところかんぢやう)して見(み)ると余(あんま)り、212ぼろいものぢやないわい。213アタ邪魔(じやま)臭(くさ)い、214一(いち)里(り)も一里半(いちりはん)もある警察(けいさつ)に宿帳(やどちやう)を持(も)つて行(ゆ)かねばならず、215夏(なつ)の日(ひ)はまだ宜(い)いが216冬(ふゆ)の雪(ゆき)が一丈(いちぢやう)も積(つも)つた間(あひだ)は217何程(いくら)貰(もら)つてもやりきれないわ。218開業(かいげふ)匆々(さうさう)一人(ひとり)のお客(きやく)はあつたが219之(これ)では如何(どう)も詮(つま)らない。220三(さん)人(にん)の家内(かない)が一人(ひとり)位(ぐらゐ)お客(きやく)を泊(と)めたつて、221そのかすりで如何(どう)して世帯(しよたい)が持(も)てるものか。222電燈料(でんとうれう)も払(はら)はねばならず、223戸数割(こすうわり)も相当(さうたう)に課(か)けられるなり、224おまけに家賃(やちん)に地代(ぢだい)、225町内(ちやうない)の交際(つきあい)、226よう物入(ものい)りのする事(こと)だ。227誰(たれ)か大金持(おほがねもち)のお客(きやく)さまが泊(とま)つて228金(かね)の十千万(とちまん)両(りやう)も雪隠(せつちん)の中(なか)へ落(おと)しておいて呉(く)れると宜(い)いけれどな。229何程(なにほど)山吹色(やまぶきいろ)だと云(い)つても、230雪隠(せつちん)に浮(う)いとる奴(やつ)では糞(くそ)の役(やく)にも立(た)たず、231あゝ仕方(しかた)が無(な)いな、232せめて今晩(こんばん)は客(きやく)の十(じふ)人(にん)位(ぐらゐ)は泊(と)めたいものだな』
233 斯(か)く一人(ひとり)興(きよう)がつてゐる所(ところ)へ234上(うへ)の方(はう)からズルズルズル ドスンとさくなだりに落(お)ち込(こ)むで来(き)た一人(ひとり)の大男(おほをとこ)がある。
235伊太(いた)『もしもし、236貴方(あなた)はテルモン詣(まゐり)で厶(ござ)いますか。237これから先(さき)は一寸(ちよつと)宿(やど)が厶(ござ)いませぬから238拙者(せつしや)の宅(たく)へ泊(とま)つて行(い)つて下(くだ)さいませ。239キヨの湖水(こすい)には海賊船(かいぞくせん)が横行(わうかう)致(いた)して居(を)ります。240海上(かいじやう)で賊(ぞく)に剥(は)ぎとられるよりも241弊館(へいくわん)でお泊(とま)り下(くだ)さつて剥(はぎ)とられなさつた方(はう)が安全(あんぜん)で厶(ござ)いませう』
242チルテル『お前(まへ)はどこの奴(やつ)だ。243ここは俺(おれ)の屋敷内(やしきない)の岩窟(がんくつ)だが、244誰(たれ)に断(ことわ)つて、245こんな所(ところ)に居(ゐ)るのだ』
246伊太(いた)『借地権(しやくちけん)は已(すで)に登記済(とうきずみ)となり247此(この)家(いへ)は賃貸借(ちんたいしやく)法(はふ)によつて、248一(いつ)ケ月(げつ)四十九(しじふく)円(ゑん)(始終(しじう)食(く)えぬ)の家賃(やちん)を払(はら)つて居(ゐ)ます以上(いじやう)は、249矢張(やつぱ)り伊太屋(いたや)の財産(ざいさん)も同様(どうやう)で厶(ござ)います。250サア何卒(どうぞ)お泊(とま)り下(くだ)さい。251千客(せんきやく)万来(ばんらい)開業(かいげふ)匆々(そうそう)目出度(めでた)い事(こと)だ。252御(ご)姓名(せいめい)は何(なん)と申(まを)します。253一寸(ちよつと)宿帳(やどちやう)に記(しる)して頂(いただ)きたいものです』
254チルテル『エー、255お前(まへ)は人(ひと)を馬鹿(ばか)にするのか。256但(ただし)は呆(はう)けて居(ゐ)るのか。257ここはホテルでも何(なん)でもない、258キヨの関所(せきしよ)の庭前(にはさき)の陥穽(おとしあな)だ。259つまり俺(おれ)の領分内(りやうぶんない)だ。260グヅグヅ申(まを)すと承知(しようち)せぬぞ』
261伊太(いた)『成程(なるほど)、262貴方(あなた)が大家(おほや)様(さま)で厶(ござ)いましたか。263これはこれは失礼(しつれい)致(いた)しました。264然(しか)し当家(たうけ)に泊(とま)つて貰(もら)へば265矢張(やつぱ)り宿賃(やどちん)を貰(もら)はねばなりませぬ。266阿呆(あはう)の国(くに)、267野留間(ぬるま)郡(ぐん)頓馬村(とんまむら)大字(おほあざ)腰抜(こしぬけ)小字(こあざ)失恋(しつれん)、268第(だい)苦百(くひやく)苦集(くじふ)苦(く)番地(ばんち)の始終(しじう)苦(く)、269狐(きつね)騙(だま)されゑ門(もん)、270雅名(がめい)は落胆(らくたん)と書(か)いて置(お)きました。271マア之(これ)で形式(けいしき)さへ通(とほ)ればいいのですからな』
272チルテル『エー、273合点(がてん)のゆかぬ事(こと)だわい。274初稚姫(はつわかひめ)のナイス、275テクの奴(やつ)と手(て)を曳(ひ)いて、276今頃(いまごろ)にや喜(よろこ)んで其処辺(そこら)をブラついて居(ゐ)やがるだらう。277此処(ここ)へ落(お)ち込(こ)んで来(く)ると宜(い)いがな、278エー怪体(けつたい)な事(こと)だわい』
279伊太(いた)『何(なに)は兎(と)もあれ、280奥(おく)に賓客室(ひんきやくしつ)が厶(ござ)います。281そこには下女(げぢよ)も下男(げなん)も居(を)りますから世話(せわ)をさせませう。282初稚姫(はつわかひめ)よりもズツと勝(すぐ)れたナイスが開業(かいげふ)と同時(どうじ)に抱(かか)へ込(こ)むでありますから、283まアそんな難(むつかし)い顔(かほ)せずにお泊(とま)り下(くだ)さいませ』
284チルテル『何(なに)は兎(と)もあれ、285どんな女(をんな)が居(を)るか、286一(ひと)つ調(しら)べてやらう』
287と云(い)ひ乍(なが)らスタスタと奥(おく)の間(ま)に進(すす)み入(い)る。288ヘールは奥(おく)の間(ま)に進(すす)むだ。289自分(じぶん)は伊太彦(いたひこ)に揶揄(からか)はれ、290何時(いつ)の間(ま)にかお客(きやく)さま気取(きど)りになり、291横柄(わうへい)な面(つら)をして奥(おく)の間(ま)へ通(とほ)つて見(み)れば、292三千彦(みちひこ)、293デビス姫(ひめ)の二人(ふたり)が一間(いつけん)程(ほど)距離(きより)を隔(へだ)ててキチンと坐(すわ)つて居(ゐ)る。
294ヘール『おい、295お客(きやく)さまだ お客(きやく)さまだ。296こら、297少女(おちよぼ)、298早(はや)く茶(ちや)を出(だ)さないか。299料理人(いたば)と昼日中(ひるひなか)何(なに)密談(みつだん)をやつてるのだ。300そんな事(こと)で商売(しやうばい)が繁昌(はんぜう)するか。301もう、302これつきりで泊(とま)つてやらぬぞ』
303三千彦(みちひこ)『お、304お前(まへ)さま赤裸体(まつぱだか)で何処(どこ)から来(き)たのですか』
305ヘール『何処(どこ)からも何(なに)もあつたものかい。306其処(そこ)から来(き)たのだ。307今(いま)此処(ここ)の番頭(ばんとう)に掛合(かけあ)つて最上等(さいじやうとう)で泊(とま)る事(こと)にしたのだ。308さア早(はや)く茶(ちや)を汲(く)むだり汲(く)むだり』
309三千彦(みちひこ)『訝(いぶ)かしや醜(しこ)の岩窟(いはや)は忽(たちま)ちに
310珍(うづ)のホテルとなりにけらしな』
311デビス姫(ひめ)『何国(なにくに)の旅(たび)のお方(かた)か知(し)らねども
312宿(やど)にはあらじ宿(やど)の妻(つま)ぞや』
313ヘール『吾(われ)こそはリュウチナントのヘールぞや
314憐(あは)れみ玉(たま)へ珍(うづ)のよき人(ひと)。
315初稚(はつわか)の姫(ひめ)を争(あらそ)ひ角力(すまふ)とり
316負(まけ)て岩窟(いはや)に落(お)ち込(こ)みし吾(われ)』
317デビス姫(ひめ)『汝(なれ)も亦(また)これの岩窟(いはや)に落(お)ちしかと
318思(おも)へばいとど憐(あは)れなりけり。
319此(この)上(うへ)は最早(もはや)ナイスに憐(あは)れとも
320あはれないとも分(わか)らざりけり』
321 かかる所(ところ)へ又(また)も真裸体(まつぱだか)のチルテルが322面(つら)膨(ふく)らし乍(なが)らノソリノソリとやつて来(き)た。
323ヘール『アツハヽヽヽ、324おい、325チルテルさま、326君(きみ)も矢張(やつぱ)り恋(こひ)の敗者(はいしや)だな。327や、328賛成(さんせい)々々(さんせい)、329之(これ)で漸(やうや)く溜飲(りういん)が下(さが)つた。330ウツフヽヽヽ』
331(大正一二・四・二 旧二・一七 於皆生温泉浜屋 北村隆光録)
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