第一四章 怒濤澎湃〔三一四〕
インフォメーション
著者:出口王仁三郎
巻:霊界物語 第7巻 霊主体従 午の巻
篇:第3篇 太平洋
よみ(新仮名遣い):たいへいよう
章:第14章 怒濤澎湃
よみ(新仮名遣い):どとうほうはい
通し章番号:314
口述日:1922(大正11)年01月31日(旧01月04日)
口述場所:
筆録者:高木鉄男
校正日:
校正場所:
初版発行日:1922(大正11)年5月31日
概要:
舞台:
あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:船客たちが四方山話にふける一方、船中に歌を歌う女(奇姫)があった。それは、遠く常世の国へ旅立った男を思う歌であった。
その歌を聴いて、白雪郷から来た長髪の荒男(国彦)は、その女が自分の息子の恋人であることを知った。男の息子(高彦)は、この恋愛が白雪郷の規則を破ったかどで、村を追放されていたのであった。
男は女に、息子の居場所を教えてくれ、と頼み込んだ。そのとき、突然嵐がやってきた。すると女は荒れ狂う海に身を投げてしまった。
男は女を助けようと自ら海に飛び込んだ。
そんな中、暗中に静かに宣伝歌が響き聞こえてきた。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]:
備考:
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データ凡例:
データ最終更新日:2020-05-04 17:58:21
OBC :rm0714
愛善世界社版:82頁
八幡書店版:第2輯 65頁
修補版:
校定版:86頁
普及版:35頁
初版:
ページ備考:
001 船戸の神はガラガラと錨を釣上げたり。002折から吹き来る東風に真帆をかかげ風を孕まして、003果しもなき大海原を船底に鼓を打たせながら、004波上静かに辷り行く。005日は西の海の端に舂きて水面を金色に彩りぬ。006東の山の端より昇る玉兎の光に照されて日は海に隠るとも、007その名は光る日の出神。008この世の幸を祝ふ祝姫、009連なる浪の面那芸彦、010空は一面の星光粗らに輝き、011月光波間に浮き沈み、012常世の春の波の上、013夜を日に踵いで進み行く。014この船には三人の宣伝使を始め国々の沢山の人々が四方山の話に耽り、015波路の憂さを払ひ慰めてゐたり。016船中の一方より白髪交りの長髪の大男、017赤黒き面をヌツト出し、
018男『おい船頭、019ここは一体なんといふ処だ』
020船頭『此処かい、021ここは海といふ処だよ』
022男『海は極つて居るワイ。023何ンといふ海ぢや』
024船頭『此処かい、025ここは乳の海ぢや』
026男『フン分つた。027生の父上母さまは何処に如何して御座るやら、028生命の際に唯一目、029会うて死にたい顔見たい、030といふ海かい』
031甲『何処の奴か知らぬが縁起の悪い事を吐かすない。032一寸下は水地獄だぞよ』
033男『貴様こそ縁起の悪いことを云ふ、034水地獄なンて俺は大の嫌ひだ。035瑞の霊が探険して来たやうな恐ろしい処が、036この海の底の方に在るかと思へば、037船乗も嫌になつてしまふワ』
038 このとき船の一方より涼しい女の歌ふ声聞えきたる。
039女『山より高き父の恩 040海より深き母の恩
041山と海との恩忘れ 042この海原を打ち渡り
043常世の国に身を隠す 044恋しき男に会はむとて
045此処まで来たは来たものの 046長き浪路に倦き果てて
047もと来し国へ帰り行く
049父母棄てて恋慕ふ 050男に付くか恋慕ふ
051夫を捨てて海山の 052深き恵みの父母の
053御側に帰り村肝の
055善と悪との国境
057成らぬ苦しき海の上 058月は御空に輝けど
059妾は思案に暮の鐘 060故郷を思ふ恋しさの
061心の空も掻き曇る 062吁如何にせむ千尋の
063深き海路に身を投げて
065天と地との神々に 066心の底より謝罪せむ』
067と歌ひ始むるや、068長髪の男はその女の手をグツト握り、
069男『オイ待て。070今の歌で様子は判つた。071俺の忰は貴様の為に結構な白雪郷に居る事も出来ず、072たうとう里人より刎ね出されて仕舞つて、073この前の月に常世の国に逐電し、074夫れがために俺のところは大変な迷惑だ。075大切な忰は白雪郷の規則を破つて、076村は逐ひ出され、077俺も浮世の義理で勘当はしたものの、078如何しても忘れられぬは親子の情愛だ。079年寄つた俺が遥々この浪路を渡つて忰の後を追ふも子故に迷ふ親心、080俺の女房は夫れを苦にして死ンで了ひよつたぞよ。081お前も夫れほど俺の忰を慕つて、082この海原を渡つて行かうと云ふ親切は、083俺が忰を思ふも同じことだ。084思へば実に有難い。085清いお前の志、086俺の可愛い忰を愛して呉れるお前と思へば、087如何したものか今までの腹立もスツカリと水の泡沫のやうに消えて了つて、088今は一層憐なやうな心持がして来た。089何ンでも堅い約束をして居るのであらう。090お前に聞けば常世の国の何処に居るといふことは判つて居らう筈、091どうぞ包まず親ぢやと思うて、092俺に逐一知らして呉れ。093俺が何ほど山野を駈廻つて探したとて、094この海よりも広いダダツ広い常世の国を、095十年や二十年探したとて、096探し当らるるものではない。097忰の在処を聞かして呉れたら、098俺もお前と親子に成り、099親子三人睦まじう、100常世の国の何処の端でも厭はず、101暮す考だ』
102とさしも頑丈の荒男も、103子ゆゑの暗に鎖されて四辺かまはず蚕豆のやうな涙をボロボロと溢すその憐さ。
104 今までさしも晴朗なりし大空も忽ち黒雲蔽ひ、105一望模糊として電光閃々、106雷鳴轟き、107凄然として風荒れ狂ひ、108雨は沛然として降り来り、109怒濤澎湃実に惨澹たる光景となりぬ。110今まで四方山の話に喧噪を極めたる一同の乗客は、111顔色蒼白となり得もいはれぬ不安の念に満たされけるが、112アツと一声叫ぶよと見る間に、113麗しき女の姿は荒れ狂ふ浪に向つてザンブと許り身を投じたり。114長髪の男は声を限りに、
115男『ヤアわが娘、116いな他処の女、117何故に投身したぞ。118助ける術は無いか、119皆の者救へ救へ』
120という声も、121猛り狂ふ浪の音に遮られて、122一同の耳には通はざりける。123男は天に向つて合掌し暫し何事か祈ると見えしが、124またもや身を跳らして海中にザンブとばかり飛込み、125水煙を立てて姿は跡白浪と成りにける。126心なき海の面は怒濤の山岳凄じく、127船を木葉のごとく翻弄するのみ。
128 黒白も分かぬ深黒の海面に、129一道の光明船を目がけて射照し来るあり。130天には電光時々閃き渡り、131雷鳴轟き惨また惨。132一同何れも決死の覚悟。133否ただ口々に忍び忍びに何物をか祈りゐたりけり。
134(日の出神)『浪風荒き海原も 135虎狼の咆き叫ぶ
136荒野の原も何のその 137神の教に任す身は
138心も安き法の船 139御世を救ひの宣伝使
140風も吹け吹け浪荒れよ
142仮令この身は海底の
145尊き神の御守りに
146開く稜威も高天原の 147聖地に救はれ永久に
148春の弥生の花の頃 149心の清き益良夫が
150暗路を光り照すてふ 151日の出神の宣伝使
152風も悪魔も祝姫 153荒き海面面那芸の
154凪て目出度き和田の原 155凪て目出度き和田の原
156千尋の海に身を投げし 157吾身の罪を久比奢母智
158姫の命の真心は
160今に海原凪ぎ渡り
162実にも尊き神の道 163神の恵みは弥広き
166と暗中より声も涼しく宣伝歌響き来たりぬ。
167(大正一一・一・三一 旧一・四 高木鉄男録)