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第55巻(午の巻)
序文
総説歌
第1篇 奇縁万情
01 心転
〔1409〕
02 道謡
〔1410〕
03 万民
〔1411〕
04 真異
〔1412〕
05 飯の灰
〔1413〕
06 洗濯使
〔1414〕
第2篇 縁三寵望
07 朝餉
〔1415〕
08 放棄
〔1416〕
09 三婚
〔1417〕
10 鬼涙
〔1418〕
第3篇 玉置長蛇
11 経愕
〔1419〕
12 霊婚
〔1420〕
13 蘇歌
〔1421〕
14 春陽
〔1422〕
15 公盗
〔1423〕
16 幽貝
〔1424〕
第4篇 法念舞詩
17 万巌
〔1425〕
18 音頭
〔1426〕
19 清滝
〔1427〕
20 万面
〔1428〕
21 嬉涙
〔1429〕
22 比丘
〔1430〕
余白歌
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第八章
放棄
(
はうき
)
〔一四一六〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第55巻 真善美愛 午の巻
篇:
第2篇 縁三寵望
よみ(新仮名遣い):
えんさんちょうぼう
章:
第8章 放棄
よみ(新仮名遣い):
ほうき
通し章番号:
1416
口述日:
1923(大正12)年03月03日(旧01月16日)
口述場所:
竜宮館
筆録者:
加藤明子
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1925(大正14)年3月30日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
アヅモスは炊事場に戻ると、お民に小言を言い始めた。アヅモスとお民は口げんかになった。お民はフエルにも矛先を向け、柄杓を水に汲んで二人にぶっかけた。アヅモスとフエルは鉄拳を振るってお民を叩きつけた。
お民の悲鳴を聞いて、番頭の一人・アーシスが走り来たり、お民からアヅモスを引き離した。フエルは逃げてしまった。アヅモスはアーシスを箒で叩きつけて、逃げてしまった。
アーシスは、お民の態度をたしなめて注意を与えた。アーシスはふと、お民に素性を尋ねた。お民は自分の母がビクトリヤ城に奉公に行っていた間に刹帝利のお手がかかって生まれたのだ、と明かした。一方アーシスも、自分は左守キュービットの落とし子だと明かした。
二人は出生の秘密を明かしたからには夫婦となろうと言いあった。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2024-05-18 17:36:08
OBC :
rm5508
愛善世界社版:
99頁
八幡書店版:
第10輯 69頁
修補版:
校定版:
101頁
普及版:
42頁
初版:
ページ備考:
001
アヅモスはフエルと
共
(
とも
)
に
炊事場
(
すゐじば
)
に
帰
(
かへ
)
り、
002
下女
(
げぢよ
)
のお
民
(
たみ
)
を
捉
(
つか
)
まへてそろそろ
小言
(
こごと
)
を
云
(
い
)
ひ
初
(
はじ
)
めた。
003
アヅモス『オイ、
004
お
民
(
たみ
)
、
005
貴様
(
きさま
)
が
確
(
しつか
)
りしないものだから
大変
(
たいへん
)
な
恥
(
はぢ
)
を
掻
(
か
)
いたぢやないか。
006
何
(
なん
)
の
為
(
ため
)
に
炊事
(
すゐじ
)
の
御用
(
ごよう
)
をして
居
(
ゐ
)
るのだ。
007
女
(
をんな
)
と
云
(
い
)
ふものは
飯焚
(
めした
)
きが
肝腎
(
かんじん
)
だ。
008
折角
(
せつかく
)
の
珍客
(
ちんかく
)
さまに
灰
(
はひ
)
まぶれの
飯
(
めし
)
を
食
(
く
)
はさうとしたぢやないか、
009
ちと
心得
(
こころえ
)
ないと
当家
(
ここ
)
には
置
(
お
)
く
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ぬぞ』
010
お
民
(
たみ
)
『アヅモスの
番頭
(
ばんとう
)
さま、
011
さう
注文通
(
ちうもんどほり
)
に
御飯
(
ごはん
)
が
焚
(
た
)
けるものぢやありませぬよ、
012
今日
(
こんにち
)
の
日天
(
につてん
)
様
(
さま
)
でも
照
(
て
)
つたり
曇
(
くも
)
つたり
遊
(
あそ
)
ばすぢやありませぬか、
013
…………
014
朝夕
(
あさゆふ
)
の
飯
(
めし
)
さへこわし
柔
(
やはら
)
かし
015
兎角
(
とかく
)
まま
にはならぬ
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
……
016
と
云
(
い
)
ふ
歌
(
うた
)
さへあるぢやありませぬか。
017
さう
小言
(
こごと
)
を
仰有
(
おつしや
)
ると
此方
(
こちら
)
の
方
(
はう
)
から
尻
(
しり
)
をからげて「
左様
(
さやう
)
なら」と
出
(
で
)
かけませうか。
018
此
(
この
)
頃
(
ごろ
)
は
彼方
(
あちら
)
や
此方
(
こちら
)
に
沢山
(
たくさん
)
の
工場
(
こうぢやう
)
が
出来
(
でき
)
て
女
(
をんな
)
は
払底
(
ふつてい
)
ですよ。
019
こんな
月給
(
げつきふ
)
の
安
(
やす
)
い
下女
(
げぢよ
)
になるものは
滅多
(
めつた
)
にありませぬよ。
020
私
(
わたし
)
が
此家
(
ここ
)
の
下女
(
げぢよ
)
に
来
(
き
)
て
上
(
あ
)
げたのは、
021
恩恵
(
おんけい
)
的
(
てき
)
に
社会
(
しやくわい
)
奉仕
(
ほうし
)
の
一端
(
いつたん
)
だと
思
(
おも
)
うて
来
(
き
)
て
居
(
を
)
るのですよ。
022
万公別
(
まんこうわけ
)
と
云
(
い
)
ひ、
023
お
前
(
まへ
)
さまと
云
(
い
)
ひ
全然
(
まるきり
)
女
(
をんな
)
の
腐
(
くさ
)
つた
様
(
やう
)
な
男
(
をとこ
)
だな。
024
女
(
をんな
)
の
事
(
こと
)
を
構
(
かま
)
ふ
腰抜
(
こしぬ
)
けは
目
(
め
)
なつと
噛
(
か
)
んで
死
(
し
)
んだがよろしいわいなア、
025
これでも
家政
(
かせい
)
学校
(
がくかう
)
を
卒業
(
そつげふ
)
した
シヤン
ですからねえ、
026
ヘン
余
(
あま
)
り
構
(
かま
)
うて
貰
(
もら
)
ひますまいかい』
027
アヅモス『
偉
(
えら
)
さうに
云
(
い
)
うて
居
(
ゐ
)
るが、
028
今朝
(
けさ
)
の
料理
(
れうり
)
の
仕方
(
しかた
)
は
一体
(
いつたい
)
何
(
なん
)
だ。
029
あんな
加減
(
かげん
)
の
悪
(
わる
)
いものが
食
(
く
)
へると
思
(
おも
)
ふか、
030
偉
(
えら
)
さうに
云
(
い
)
ふない』
031
お
民
(
たみ
)
『
食
(
く
)
へなけりや
食
(
く
)
はいでもよいぢやないか。
032
お
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
は
料理法
(
れうりはふ
)
を
知
(
し
)
らないものだからゴテゴテ
云
(
い
)
ふのだらう、
033
下司口
(
げすぐち
)
だからなア。
034
松魚節
(
かつを
)
の
煮汁
(
だし
)
か、
035
昆布
(
こぶ
)
の
煮汁
(
だし
)
か、
036
雑魚
(
ざこ
)
の
煮汁
(
だし
)
か、
037
味
(
あぢ
)
の
素
(
もと
)
を
使
(
つか
)
つたか
弁別
(
べんべつ
)
のつかないやうな
下司口
(
げすぐち
)
が、
038
料理
(
れうり
)
の
小言
(
こごと
)
を
云
(
い
)
ふ
資格
(
しかく
)
がありますか』
039
アヅモス『
偉
(
えら
)
さうに
云
(
い
)
ふない、
040
何
(
なん
)
だその
風
(
ふう
)
は、
041
のめのめと
売女
(
ばいた
)
の
出来損
(
できぞこな
)
い
見
(
み
)
たやうな
風
(
ふう
)
をしやがつて、
042
そんな
事
(
こと
)
で
立派
(
りつぱ
)
な
料理
(
れうり
)
が
出来
(
でき
)
ると
思
(
おも
)
ふか。
043
抑
(
そもそも
)
料理
(
れうり
)
に
取
(
と
)
りかかるには
襷
(
たすき
)
をかけるか、
044
エプロンを
着
(
つ
)
けるかして
身仕度
(
みじたく
)
をきちんとして
髪
(
かみ
)
の
毛
(
け
)
もバラバラせぬやうに、
045
そして
苔
(
こけ
)
の
生
(
は
)
えたやうな
手
(
て
)
を、
046
曹達
(
さうだ
)
ででも
洗
(
あら
)
つて
清潔
(
せいけつ
)
にしなければ、
047
折角
(
せつかく
)
の
御
(
ご
)
馳走
(
ちそう
)
に
黴菌
(
ばいきん
)
が
伝染
(
うつ
)
るぢやないか。
048
そして
米
(
こめ
)
を
磨
(
と
)
ぐにも
砂
(
すな
)
を
注意
(
ちうい
)
して
取
(
と
)
るのだ、
049
クレクレと
揺
(
ゆす
)
つて
居
(
を
)
ると
砂
(
すな
)
は
底
(
そこ
)
にイサルから
容易
(
ようい
)
なものだ。
050
今朝
(
けさ
)
のやうに
灰
(
はひ
)
や
砂
(
すな
)
の
混
(
まじ
)
つた
飯
(
めし
)
は
誰
(
たれ
)
だつて
食
(
く
)
はれぬぢやないか。
051
さうして
洗
(
あら
)
ふにもお
米
(
こめ
)
を
砕
(
くだ
)
かないやうにして、
052
水
(
みづ
)
が
澄
(
す
)
みきり
白水
(
しろみづ
)
がないとこ
迄
(
まで
)
洗
(
あら
)
ふのだぞ』
053
お
民
(
たみ
)
『エエ
八釜
(
やかま
)
しい
番頭
(
ばんとう
)
ぢやな。
054
お
前
(
まへ
)
さまは
何処
(
どこか
)
でボーイでもやつて
居
(
ゐ
)
たのかな、
055
好
(
よ
)
うこせこせと
釜
(
かま
)
の
下
(
した
)
までゴテづく
吝嗇坊
(
けちんばう
)
だなア』
056
アヅモス『
別
(
べつ
)
に
構
(
かま
)
ひたい
事
(
こと
)
は
無
(
な
)
いけれど、
057
余
(
あま
)
り
貴様
(
きさま
)
が
分
(
わか
)
らぬから、
058
一応
(
いちおう
)
料理法
(
れうりはふ
)
を
教
(
をし
)
へて
置
(
お
)
くのだ。
059
総
(
すべ
)
て
小鳥
(
ことり
)
や
魚
(
さかな
)
を
串
(
くし
)
にさして
焼
(
や
)
く
時
(
とき
)
は
火
(
ひ
)
を
遠
(
とほ
)
くし、
060
そして
強火
(
つよび
)
にした
方
(
はう
)
が、
061
美味
(
おい
)
しう
焼
(
や
)
けるものだ。
062
魚
(
さかな
)
は
身
(
み
)
の
方
(
はう
)
から、
063
小鳥
(
ことり
)
は
皮
(
かは
)
の
方
(
はう
)
から
焼
(
や
)
くのだよ。
064
昔
(
むかし
)
から
魚身
(
ぎよしん
)
鳥皮
(
てうひ
)
といふからなア、
065
充分
(
じゆうぶん
)
焼
(
や
)
いてから
裏
(
うら
)
がへさないと
不味
(
まづく
)
なる。
066
さうして
網
(
あみ
)
や
串
(
くし
)
の
焼
(
や
)
けた
後
(
あと
)
で
肉
(
にく
)
を
載
(
の
)
せるのだ。
067
それから
煮
(
に
)
る
時
(
とき
)
には
醤油
(
しやうゆ
)
や
水
(
みづ
)
を
十分
(
じふぶん
)
煮立
(
にた
)
たして
置
(
お
)
いて、
068
其
(
その
)
後
(
あと
)
に
入
(
い
)
れないと
甘
(
うま
)
い
汁
(
しる
)
が
出
(
で
)
て
仕舞
(
しま
)
ふのだ。
069
野菜
(
やさい
)
は
真青
(
まつさを
)
に
茹
(
ゆで
)
るには
湯
(
ゆ
)
に
塩
(
しほ
)
を
少
(
すこ
)
し
入
(
い
)
れて
蓋
(
ふた
)
をせずに
茹
(
ゆで
)
ると
其
(
その
)
儘
(
まま
)
の
色
(
いろ
)
を
保
(
たも
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
070
さうして
茹
(
ゆだ
)
つたら
直
(
すぐ
)
冷
(
つめ
)
たい
水
(
みづ
)
に
入
(
い
)
れるのだ。
071
牛蒡
(
ごばう
)
や、
072
蕗
(
ふき
)
や、
073
筍
(
たけのこ
)
や、
074
百合根
(
ゆりね
)
等
(
など
)
の
灰汁
(
あく
)
の
強
(
つよ
)
いものは
一
(
いつ
)
たん
湯掻
(
ゆが
)
いてから
煮
(
た
)
くのだ。
075
さうして
使
(
つか
)
うた
道具
(
だうぐ
)
はいつも
定
(
きま
)
つた
場所
(
ばしよ
)
へキチンと
置
(
お
)
いて
置
(
お
)
くのだ、
076
清潔
(
きれい
)
に
磨
(
みが
)
いて
元
(
もと
)
の
所
(
ところ
)
へちやんと
戻
(
もど
)
して
置
(
お
)
かぬとまさかの
時
(
とき
)
に
間
(
ま
)
に
合
(
あ
)
はぬぞ。
077
棚
(
たな
)
の
上
(
うへ
)
に
塵
(
ちり
)
が
溜
(
たま
)
つて
居
(
を
)
るか
居
(
を
)
らぬかそれも
考
(
かんが
)
へて
網
(
あみ
)
や
串
(
くし
)
や、
078
薄鍋
(
うすなべ
)
を
置
(
お
)
いて
置
(
お
)
くのだ。
079
そして
余
(
あま
)
つた
食物
(
たべもの
)
は
蠅不入
(
はいいらず
)
に
入
(
い
)
れるか、
080
布巾
(
ふきん
)
をかけて
置
(
お
)
くのだぞ』
081
お
民
(
たみ
)
『エエ
矢釜
(
やかま
)
しい、
082
お
前
(
まへ
)
さまは
土方
(
どかた
)
の
飯焚
(
めした
)
きでも
仕
(
し
)
て
居
(
ゐ
)
たのだらう。
083
余
(
あま
)
り
喋
(
しやべ
)
るとお
里
(
さと
)
が
見
(
み
)
えますぞや』
084
アヅモス『これやお
民
(
たみ
)
、
085
土方
(
どかた
)
の
飯焚
(
めした
)
きとは
何
(
なん
)
だ。
086
女
(
をんな
)
と
思
(
おも
)
うて
容赦
(
ようしや
)
をすれば
何
(
なに
)
を
吐
(
ぬか
)
すか
分
(
わか
)
つたものぢやない、
087
不調法
(
ぶてうはふ
)
しておきやがつて
何
(
なに
)
を
口答
(
くちごた
)
へをするのぢや、
088
これでも
一家
(
いつか
)
の
総理
(
そうり
)
大臣
(
だいじん
)
だぞ』
089
お
民
(
たみ
)
『ホホホホ。
090
総理
(
そうり
)
大臣
(
だいじん
)
なんて
尻
(
けつ
)
が
呆
(
あき
)
れますわい。
091
当家
(
たうけ
)
の
総理
(
そうり
)
大臣
(
だいじん
)
はシーナさまぢやありませぬか、
092
お
前
(
まへ
)
さまは
二
(
に
)
の
番頭
(
ばんとう
)
だ。
093
そこらの
隅
(
すみ
)
くたを
掃除
(
さうぢ
)
大臣
(
だいじん
)
だ。
094
ごたごた
云
(
い
)
はずと
箒
(
はうき
)
なともつて
次
(
つぎ
)
の
間
(
ま
)
を
掃
(
は
)
いて
来
(
き
)
なさい。
095
万公山
(
まんこうやま
)
が
破裂
(
はれつ
)
して
大変
(
たいへん
)
な
灰
(
はひ
)
が
降
(
ふ
)
つて
居
(
ゐ
)
ますぞよ。
096
箒
(
はうき
)
を
使
(
つか
)
つたらチヤンと
釘
(
くぎ
)
にかけて
置
(
お
)
くのですよ。
097
其処辺
(
そこら
)
に
立
(
た
)
てて
置
(
お
)
くと
箒
(
はうき
)
の
先
(
さき
)
がサツパリ
薙刀
(
なぎなた
)
のやうになつて
仕舞
(
しま
)
ひますぞや。
098
そしてハタキは
手首
(
てくび
)
を
下
(
さ
)
げて、
099
天井裏
(
てんじやううら
)
から
障子
(
しやうじ
)
の
棧
(
さん
)
と
上
(
うへ
)
から
下
(
した
)
へパタパタとはたくのですよ。
100
どうしても
動
(
うご
)
かせない
道具
(
だうぐ
)
は
被物
(
おほひ
)
をしておいて
隅
(
すみ
)
から
掃
(
は
)
いて
来
(
く
)
るのです。
101
そして
畳
(
たたみ
)
の
目
(
め
)
に
逆
(
さか
)
らうと、
102
塵埃
(
ほこり
)
が
皆
(
みんな
)
畳
(
たたみ
)
の
目
(
め
)
に
滲
(
にじ
)
んで
仕舞
(
しま
)
ひますよ。
103
箒
(
はうき
)
の
先
(
さき
)
を
跳
(
は
)
ねんやうにしてソツソツと
掃
(
は
)
くのですよ、
104
それが
済
(
す
)
んだら
椽側
(
えんがは
)
の
掃除
(
さうぢ
)
をしなさい。
105
雑巾
(
ざふきん
)
を
緩
(
ゆる
)
う
堅
(
かた
)
う
絞
(
しぼ
)
つて、
106
板
(
いた
)
の
目
(
め
)
なりに
力
(
ちから
)
を
入
(
い
)
れて
拭
(
ふ
)
くのだよ。
107
角
(
すみ
)
の
所
(
ところ
)
は
雑巾
(
ざふきん
)
を
三角
(
さんかく
)
にして
拭
(
ふ
)
けば
綺麗
(
きれい
)
になりますわ。
108
夫
(
それ
)
からニス、
109
漆
(
うるし
)
や、
110
桧
(
ひのき
)
の
柱
(
はしら
)
は
乾布巾
(
からぶきん
)
で
念入
(
ねんい
)
れに
拭
(
ふ
)
くのですよ。
111
きつと
濡
(
ぬ
)
れた
雑巾
(
ざふきん
)
で
拭
(
ふ
)
いてはなりませぬぞえ』
112
アヅモス『これお
民
(
たみ
)
、
113
何
(
なん
)
だ
下女
(
げぢよ
)
の
癖
(
くせ
)
に
番頭
(
ばんとう
)
に
指揮
(
さしづ
)
すると
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
があるか』
114
お
民
(
たみ
)
『ヘン
私
(
わたし
)
が
下女
(
げぢよ
)
なら、
115
お
前
(
まへ
)
は
下男
(
げなん
)
ぢや、
116
余
(
あま
)
り
偉
(
えら
)
さうに
云
(
い
)
うて
貰
(
もら
)
ひますまいか。
117
これこれフエルさま お
前
(
まへ
)
が
灰撒
(
はひまき
)
の
発頭人
(
ほつとうにん
)
だ。
118
何
(
なに
)
をグヅグヅして
居
(
ゐ
)
るのだ、
119
早
(
はや
)
くアヅモスの
下男
(
げなん
)
と
一緒
(
いつしよ
)
に
掃除
(
さうぢ
)
をしなさらぬかいなア』
120
フエル『さう
矢釜
(
やかま
)
しゆ
云
(
い
)
ふない。
121
俺
(
おれ
)
だつて
今朝
(
けさ
)
迄
(
まで
)
庫
(
くら
)
の
中
(
なか
)
へ
罪人
(
ざいにん
)
同様
(
どうやう
)
突込
(
つつこ
)
まれて
居
(
ゐ
)
たのだから、
122
些
(
ちつ
)
とは
休養
(
きうやう
)
しなければやりきれぬぢやないか』
123
お
民
(
たみ
)
は、
124
お民
『エエこの
女郎
(
めらう
)
男
(
をとこ
)
の
腰抜
(
こしぬけ
)
奴
(
め
)
』
125
と
云
(
い
)
ふより
早
(
はや
)
く
柄杓
(
ひしやく
)
に
水
(
みづ
)
を
汲
(
く
)
んで
二人
(
ふたり
)
にぶツかけた。
126
アヅモス、
127
フエルは
真赤
(
まつか
)
になつて、
128
アヅモス、フエル
『これやお
民
(
たみ
)
、
129
馬鹿
(
ばか
)
にしやがるな、
130
これを
喰
(
くら
)
へ』
131
と
双方
(
さうはう
)
から
鉄拳
(
てつけん
)
を
振
(
ふる
)
つて
一人
(
ひとり
)
の
女
(
をんな
)
を
叩
(
たた
)
き
付
(
つ
)
けて
居
(
ゐ
)
る。
132
お
民
(
たみ
)
は
荒男
(
あらをとこ
)
二人
(
ふたり
)
に
叩
(
たた
)
きつけられ、
133
悲鳴
(
ひめい
)
を
上
(
あ
)
げて『
人殺
(
ひとごろし
)
ー
人殺
(
ひとごろし
)
ー』と
叫
(
さけ
)
び
出
(
だ
)
した。
134
此
(
この
)
声
(
こゑ
)
に
驚
(
おどろ
)
いてアーシスは
走
(
はし
)
り
来
(
きた
)
り、
135
いきなりアヅモスの
首
(
くび
)
に
手拭
(
てぬぐ
)
ひを
後
(
うしろ
)
からパツと
引
(
ひ
)
つかけグツと
引
(
ひ
)
き
倒
(
たふ
)
した。
136
フエルはこの
権幕
(
けんまく
)
に
驚
(
おどろ
)
いて
裏口
(
うらぐち
)
から
細
(
ほそ
)
くなつて
逃
(
に
)
げ
出
(
だ
)
しけり。
137
お
民
(
たみ
)
『アーシスさま
好
(
よ
)
う
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さいました。
138
此奴
(
こいつ
)
偉
(
えら
)
さうに
云
(
い
)
やがつて
仕方
(
しかた
)
がないので
水
(
みづ
)
をかけてやりましたら、
139
男
(
をとこ
)
らしうもない、
140
女
(
をんな
)
一人
(
ひとり
)
に
二人
(
ふたり
)
の
荒男
(
あらをとこ
)
が
鉄拳
(
てつけん
)
を
振
(
ふる
)
つて
喧嘩
(
けんくわ
)
を
買
(
か
)
ひに
来
(
き
)
よつたのですよ』
141
アーシス『
本当
(
ほんたう
)
に
無茶
(
むちや
)
の
事
(
こと
)
をする
男
(
をとこ
)
ですね。
142
オイ、
143
アヅモス
何
(
なん
)
だ、
144
下女
(
げぢよ
)
を
捉
(
つか
)
まへて
余
(
あま
)
り
大人気
(
おとなげ
)
ないぢやないか』
145
アヅモス『エーチヨツ、
146
横合
(
よこあひ
)
から
飛
(
と
)
んで
来
(
き
)
やがつて
ちよつかい
を
出
(
だ
)
しやがるものだから、
147
折角
(
せつかく
)
の
折檻
(
せつかん
)
がワヤになつて
仕舞
(
しま
)
つた。
148
コリヤ、
149
アーシス、
150
俺
(
おれ
)
の
喉
(
のど
)
を
締
(
し
)
めてどうするのだ、
151
これ
見
(
み
)
よ、
152
痕
(
かた
)
がついて
居
(
ゐ
)
るぢやないか』
153
アーシス『
喧嘩
(
けんくわ
)
の
結末
(
かた
)
がついたらそれでよいぢやないか。
154
アー
偉
(
えら
)
い
畳中
(
たたみぢう
)
が
灰
(
はひ
)
だらけだ。
155
ちと
箒
(
はうき
)
なと
持
(
も
)
つて
其処辺
(
そこら
)
中
(
ぢう
)
を
掃除
(
さうぢ
)
して
来
(
こ
)
い。
156
これだけお
客
(
きやく
)
さまで
忙
(
いそが
)
しいのに、
157
女
(
をんな
)
を
相手
(
あひて
)
にして
居
(
ゐ
)
る
所
(
どころ
)
かい』
158
アヅモス『
此奴
(
こいつ
)
もお
民
(
たみ
)
が
感染
(
かんせん
)
したと
見
(
み
)
えて
箒
(
はうき
)
持
(
も
)
て
箒
(
はうき
)
持
(
も
)
てと
吐
(
ぬか
)
しやがるな。
159
箒
(
はうき
)
に
憚
(
はばか
)
りさまだ』
160
アーシス『
貴様
(
きさま
)
は
何時
(
いつ
)
も
ほうき
の
守
(
かみ
)
だといつて
威張
(
ゐば
)
つて
居
(
ゐ
)
たぢやないか。
161
箒
(
はうき
)
持
(
も
)
つのは
貴様
(
きさま
)
の
性
(
しやう
)
に
合
(
あ
)
うて
居
(
ゐ
)
るわ。
162
サア
早
(
はや
)
く
掃
(
は
)
いたり
掃
(
は
)
いたり』
163
アヅモスは
庭箒
(
にははうき
)
を
取
(
と
)
るより
早
(
はや
)
く、
164
アーシスの
頭
(
かしら
)
を
目蒐
(
めが
)
けて、
165
アヅモス『コリヤ、
166
伯耆
(
はうき
)
の
守
(
かみ
)
さまが、
167
貴様
(
きさま
)
の
頭
(
かしら
)
を
播磨
(
はりま
)
の
守
(
かみ
)
さまだ』
168
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
らピシヤピシヤと
撲
(
なぐ
)
りつけ
尻
(
しり
)
に
帆
(
ほ
)
をかけて
此
(
この
)
場
(
ば
)
を
逃
(
に
)
げ
去
(
さ
)
つた。
169
アーシスは
怒
(
いか
)
つてアヅモスの
後
(
あと
)
を
追
(
お
)
つ
駆
(
か
)
けようとするのを、
170
お
民
(
たみ
)
はグツと
抱
(
だ
)
き
止
(
と
)
め
声
(
こゑ
)
を
慄
(
ふる
)
はして、
171
お
民
(
たみ
)
『もしもし
貴方
(
あなた
)
、
172
一寸
(
ちよつと
)
待
(
ま
)
つて
下
(
くだ
)
さいませ、
173
これだけ
沢山
(
たくさん
)
のお
客
(
きやく
)
さまでお
取
(
と
)
り
込
(
こ
)
みでもあり、
174
病人
(
びやうにん
)
さまもあるのに、
175
番頭
(
ばんとう
)
同士
(
どうし
)
が
喧嘩
(
けんくわ
)
なさつては
家
(
うち
)
の
親方
(
おやかた
)
に
済
(
す
)
みませぬ。
176
又
(
また
)
スガールさまやスミエルさまの
病気
(
びやうき
)
に
障
(
さは
)
るといけませぬからなア』
177
アーシス『さうだと
云
(
い
)
つて
此
(
この
)
儘
(
まま
)
にする
訳
(
わけ
)
には
行
(
ゆ
)
かぬぢやないか、
178
後
(
のち
)
の
為
(
ため
)
にならぬからなア』
179
お
民
(
たみ
)
『まアまア
今日
(
けふ
)
は
辛抱
(
しんばう
)
して
下
(
くだ
)
さいませ、
180
親方
(
おやかた
)
や
娘
(
むすめ
)
さまが
心配
(
しんぱい
)
なさいますからな』
181
アーシス『ウンそれもさうだ。
182
そんならお
前
(
まへ
)
の
意見
(
いけん
)
に
従
(
したが
)
つて
今日
(
けふ
)
は
忘
(
わす
)
れる
事
(
こと
)
にせう。
183
併
(
しか
)
しお
前
(
まへ
)
も
此
(
この
)
家
(
うち
)
へ
来
(
き
)
たらチツと
言葉
(
ことば
)
を
改
(
あらた
)
めて
呉
(
く
)
れぬと
困
(
こま
)
るよ。
184
御
(
ご
)
主人
(
しゆじん
)
様
(
さま
)
を
親方
(
おやかた
)
と
云
(
い
)
つたり、
185
お
嬢様
(
ぢやうさま
)
の
名
(
な
)
を
呼
(
よ
)
んだりすると
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
があるか』
186
お
民
(
たみ
)
『そんなら
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つたらよいのですか』
187
アーシス『お
上
(
かみ
)
の
方
(
かた
)
をお
呼
(
よ
)
びするには
御
(
ご
)
主人
(
しゆじん
)
様
(
さま
)
を
旦那
(
だんな
)
様
(
さま
)
と
云
(
い
)
ふのだ。
188
奥様
(
おくさま
)
はお
部屋
(
へや
)
様
(
さま
)
とか
奥様
(
おくさま
)
とか
云
(
い
)
つてよい。
189
さうして
御
(
ご
)
老人
(
らうじん
)
は
御
(
ご
)
隠居
(
いんきよ
)
様
(
さま
)
とか、
190
大旦那
(
おほだんな
)
様
(
さま
)
とか
申上
(
まをしあげ
)
るのだよ。
191
男
(
をとこ
)
のお
子様
(
こさま
)
なれば
坊
(
ばう
)
様
(
さま
)
、
192
女
(
をんな
)
のお
子
(
こ
)
はお
嬢様
(
ぢやうさま
)
、
193
或
(
あるひ
)
は
坊
(
ばう
)
ちやま、
194
お
嬢
(
ぢやう
)
さまなど
云
(
い
)
つたらよい。
195
二人
(
ふたり
)
以上
(
いじやう
)
の
時
(
とき
)
は
大
(
おほ
)
きな
坊
(
ばう
)
ちやま、
196
小
(
ちひ
)
さいお
嬢様
(
ぢやうさま
)
と
云
(
い
)
ふのだ。
197
そして
自分
(
じぶん
)
の
事
(
こと
)
は
私
(
わたくし
)
と
云
(
い
)
ひ、
198
ウチ
だとか、
199
アテ
だとか、
200
ワタシ
などは
見
(
み
)
つともないから
云
(
い
)
はぬがいい。
201
さうして
受
(
う
)
け
答
(
ごた
)
へは
ヘエ
なんと
云
(
い
)
つてはいけない、
202
ハイ
と
云
(
い
)
ふのだよ。
203
朝
(
あさ
)
起
(
お
)
きたらお
上
(
かみ
)
へ
御
(
ご
)
挨拶
(
あいさつ
)
をするのに「お
早
(
はや
)
う
厶
(
ござ
)
います」と
云
(
い
)
ひ、
204
晩
(
ばん
)
は「お
寝
(
やす
)
み
遊
(
あそ
)
ばせ」、
205
外出
(
ぐわいしゆつ
)
の
時
(
とき
)
には「
行
(
い
)
つて
参
(
まゐ
)
ります」、
206
自分
(
じぶん
)
の
用事
(
ようじ
)
で
外出
(
ぐわいしゆつ
)
する
時
(
とき
)
は「
一寸
(
ちよつと
)
やつて
頂
(
いただ
)
きます」と
云
(
い
)
ふのだ。
207
帰宅
(
きたく
)
の
時
(
とき
)
は「
唯今
(
ただいま
)
帰
(
かへ
)
りました」、
208
御飯
(
ごはん
)
の
時
(
とき
)
は「
頂
(
いただ
)
きます」とか、
209
「
頂戴
(
ちやうだい
)
致
(
いた
)
します」とか
云
(
い
)
ふのだ。
210
そして
旦那
(
だんな
)
様
(
さま
)
の
外出
(
ぐわいしゆつ
)
の
時
(
とき
)
は「
行
(
い
)
つていらつしやいませ」、
211
お
帰
(
かへ
)
りになつた
時
(
とき
)
には「お
帰
(
かへ
)
り
遊
(
あそ
)
ばしませ」と、
212
かう
叮嚀
(
ていねい
)
に
云
(
い
)
ふのだよ。
213
総
(
すべ
)
て
言葉使
(
ことばづかひ
)
はハツキリと
叮嚀
(
ていねい
)
にさうして
柔
(
やさ
)
しみのあるやうに
注意
(
ちゆうい
)
するのだ。
214
使
(
つかひ
)
に
往
(
い
)
つて
来
(
き
)
たら、
215
必
(
かなら
)
ず
直様
(
すぐさま
)
復命
(
ふくめい
)
しなくてはならない。
216
後
(
あと
)
から
序
(
ついで
)
に
申上
(
まをしあげ
)
ますと
云
(
い
)
ふやうな
懶惰事
(
ずるいこと
)
をやつて
居
(
を
)
ると
何時
(
いつ
)
の
間
(
ま
)
にか
肝腎
(
かんじん
)
の
用
(
よう
)
を
忘
(
わす
)
れて
仕舞
(
しま
)
ふからなア』
217
お
民
(
たみ
)
『
何
(
なん
)
とまア
此処
(
ここ
)
の
内
(
うち
)
の
男衆
(
をとこしう
)
は
俄
(
にはか
)
旦那
(
だんな
)
様
(
さま
)
を
初
(
はじ
)
め、
218
誰人
(
たれ
)
も
彼
(
か
)
れも
女
(
をんな
)
みたやうな
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
ふ
人
(
ひと
)
が
集
(
よ
)
つたものだ、
219
オホホホホ、
220
これで
私
(
わたし
)
も
大分
(
だいぶん
)
に
勉強
(
べんきやう
)
を
致
(
いた
)
しました』
221
アーシス『お
民
(
たみ
)
さま、
222
お
前
(
まへ
)
はどこともなしに
下女
(
げぢよ
)
に
似合
(
にあ
)
はぬ
垢抜
(
あかぬけ
)
がして
居
(
ゐ
)
るが、
223
実際
(
じつさい
)
は
何処
(
どこ
)
から
来
(
き
)
たのだ。
224
一寸
(
ちよつと
)
聞
(
き
)
かして
貰
(
もら
)
ひ
度
(
た
)
いものだな』
225
お
民
(
たみ
)
『
私
(
わたし
)
はビクの
城下
(
じやうか
)
に
生
(
うま
)
れた
者
(
もの
)
で
厶
(
ござ
)
いますが、
226
一寸
(
ちよつと
)
様子
(
やうす
)
があつて
親
(
おや
)
の
名
(
な
)
を
名乗
(
なの
)
る
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
ないのですよ』
227
アーシス『ウンさうすると
父
(
てて
)
なし
子
(
ご
)
だな』
228
お
民
(
たみ
)
『まアそんなものでせう。
229
併
(
しか
)
し
父親
(
てておや
)
なしに
出来
(
でき
)
る
子
(
こ
)
は
広
(
ひろ
)
い
世界
(
せかい
)
に
一人
(
ひとり
)
もありますまいから
何処
(
どこ
)
かにあるでせう』
230
アーシス『お
前
(
まへ
)
の
父親
(
てておや
)
と
云
(
い
)
ふのは
一体
(
いつたい
)
誰
(
たれ
)
だ』
231
お
民
(
たみ
)
『
私
(
わたし
)
は
血沼
(
ちぬ
)
の
村
(
むら
)
の
卓助
(
たくすけ
)
と
云
(
い
)
ふ
人
(
ひと
)
に
育
(
そだ
)
てられた
者
(
もの
)
ですが、
232
私
(
わたし
)
のお
父
(
とう
)
さまは
立派
(
りつぱ
)
な
方
(
かた
)
だと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
です。
233
私
(
わたし
)
の
母
(
はは
)
が
奉公
(
ほうこう
)
に
行
(
い
)
つて
居
(
を
)
つて
腹
(
おなか
)
が
膨
(
ふく
)
れ、
234
奥様
(
おくさま
)
が
八釜
(
やかま
)
しいので
父
(
ちち
)
が
金
(
かね
)
をつけて
卓助
(
たくすけ
)
の
家
(
うち
)
にやつたのださうですが、
235
養家
(
やうか
)
の
両親
(
りやうしん
)
も
既
(
すで
)
に
亡
(
な
)
くなつて
仕舞
(
しま
)
ひ、
236
只
(
ただ
)
の
一人
(
ひとり
)
ぼつちで
仕方
(
しかた
)
がないので
其処辺
(
そこら
)
中
(
ぢう
)
を
奉公
(
ほうこう
)
し
歩
(
ある
)
き、
237
二三
(
にさん
)
日前
(
にちまへ
)
に
此処
(
ここ
)
に
雇
(
やと
)
はれたのです』
238
アーシス『
実
(
じつ
)
の
事
(
こと
)
は
俺
(
おれ
)
もビクトリヤ
城下
(
じやうか
)
の
生
(
うま
)
れだが、
239
そいつは
妙
(
めう
)
だなア』
240
お
民
(
たみ
)
『ヘエ
貴方
(
あなた
)
もビクトリヤ
城下
(
じやうか
)
ですか、
241
さうしてお
父
(
とう
)
さまは
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
ふ
方
(
かた
)
です』
242
アーシス『これは
秘密
(
ひみつ
)
だから
云
(
い
)
はれないのだが、
243
人
(
ひと
)
に
云
(
い
)
はなければ
知
(
し
)
らしてやらう。
244
俺
(
おれ
)
も
実
(
じつ
)
はこの
村
(
むら
)
へ、
245
そつと
里子
(
さとご
)
にやられたのだ。
246
俺
(
おれ
)
の
父
(
ちち
)
といふのは
左守
(
さもり
)
の
司
(
かみ
)
のキユービツトと
云
(
い
)
ふお
方
(
かた
)
だ。
247
何
(
なん
)
でも
下女
(
げぢよ
)
との
中
(
なか
)
に
俺
(
おれ
)
が
生
(
うま
)
れたので、
248
藁
(
わら
)
の
上
(
うへ
)
から
此
(
この
)
村
(
むら
)
の
首陀
(
しゆだ
)
の
家
(
うち
)
へやつて
仕舞
(
しま
)
つたと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
だ。
249
どうかして
一遍
(
いつぺん
)
遇
(
あ
)
ひたいのだけれど、
250
名乗
(
なの
)
る
訳
(
わけ
)
にもゆかず
困
(
こま
)
つたものだよ。
251
さうして
一体
(
いつたい
)
お
前
(
まへ
)
は
誰
(
たれ
)
の
子
(
こ
)
だい』
252
お
民
(
たみ
)
『
私
(
わたし
)
のお
母
(
かあ
)
さまは
皐月
(
さつき
)
と
云
(
い
)
ひました。
253
ビクトリヤ
城内
(
じやうない
)
へ
御
(
ご
)
奉公
(
ほうこう
)
に
上
(
あが
)
つて
居
(
ゐ
)
る
時
(
とき
)
、
254
刹帝利
(
せつていり
)
様
(
さま
)
のお
手
(
て
)
が
掛
(
か
)
かつて
腹
(
おなか
)
が
膨
(
ふく
)
れ、
255
それが
為
(
ため
)
にそつと
卓助
(
たくすけ
)
の
家
(
うち
)
へ
下
(
くだ
)
されたのださうです。
256
こんな
事
(
こと
)
云
(
い
)
つて
貰
(
もら
)
うと
私
(
わたし
)
の
命
(
いのち
)
が
無
(
な
)
くなりますから、
257
どうぞ
秘密
(
ひみつ
)
に
頼
(
たの
)
みますよ』
258
アーシス『
成程
(
なるほど
)
道理
(
だうり
)
でどこともなしに
気品
(
きひん
)
の
高
(
たか
)
い
所
(
ところ
)
がある。
259
ヤア
恐
(
おそ
)
れ
入
(
い
)
りました』
260
お
民
(
たみ
)
『
斯
(
か
)
う
双方
(
さうはう
)
から
何事
(
なにごと
)
も
打
(
う
)
ち
合
(
あ
)
けた
以上
(
いじやう
)
は、
261
一層
(
いつそ
)
の
事
(
こと
)
貴方
(
あなた
)
と
夫婦
(
ふうふ
)
になつたらどうでせう、
262
さうすれば
互
(
たがひ
)
に
秘密
(
ひみつ
)
が
守
(
まも
)
れますからなア』
263
アーシス『そりや
有難
(
ありがた
)
いが
何
(
なん
)
だか
勿体
(
もつたい
)
無
(
な
)
いやうな
気
(
き
)
がしてならないわ、
264
世
(
よ
)
が
世
(
よ
)
ならお
前
(
まへ
)
は
立派
(
りつぱ
)
な
王女
(
わうぢよ
)
様
(
さま
)
だ。
265
私
(
わたし
)
は
臣
(
けらい
)
の
身分
(
みぶん
)
だからなア』
266
お
民
(
たみ
)
『そんな
斟酌
(
しんしやく
)
が
要
(
い
)
りますか、
267
サア
手
(
て
)
つ
取
(
と
)
り
早
(
ばや
)
く
相談
(
さうだん
)
を
定
(
き
)
めやうぢやありませぬか』
268
斯
(
か
)
く
二人
(
ふたり
)
が
話
(
はな
)
して
居
(
を
)
る
次
(
つぎ
)
の
間
(
ま
)
に
何人
(
なにびと
)
とも
知
(
し
)
れず
足音
(
あしおと
)
がスウスウと
次第
(
しだい
)
に
細
(
ほそ
)
く
消
(
き
)
えてゆく。
269
これはアヅモスが
二人
(
ふたり
)
の
話
(
はなし
)
を
立
(
た
)
ち
聞
(
ぎ
)
きして
居
(
ゐ
)
たのである。
270
(
大正一二・三・三
旧一・一六
於竜宮館
加藤明子
録)
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飯塚弘明著『
PTC2 出口王仁三郎の霊界物語で透見する世界現象 T之巻
』発刊!
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【霊界物語ネット】
霊界物語ネットに出口王仁三郎の
第六歌集『霧の海』
を掲載しました。
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【08 放棄|第55巻(午の巻)|霊界物語/rm5508】
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