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第57巻(申の巻)
序文
総説歌
第1篇 照門山颪
01 大山
〔1451〕
02 煽動
〔1452〕
03 野探
〔1453〕
04 妖子
〔1454〕
05 糞闘
〔1455〕
06 強印
〔1456〕
07 暗闇
〔1457〕
08 愚摺
〔1458〕
第2篇 顕幽両通
09 婆娑
〔1459〕
10 転香
〔1460〕
11 鳥逃し
〔1461〕
12 三狂
〔1462〕
13 悪酔怪
〔1463〕
14 人畜
〔1464〕
15 糸瓜
〔1465〕
16 犬労
〔1466〕
第3篇 天上天下
17 涼窓
〔1467〕
18 翼琴
〔1468〕
19 抱月
〔1469〕
20 犬闘
〔1470〕
21 言触
〔1471〕
22 天葬
〔1472〕
23 薬鑵
〔1473〕
24 空縛
〔1474〕
25 天声
〔1475〕
余白歌
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第一五章
糸瓜
(
へちま
)
〔一四六五〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第57巻 真善美愛 申の巻
篇:
第2篇 顕幽両通
よみ(新仮名遣い):
けんゆうりょうつう
章:
第15章 糸瓜
よみ(新仮名遣い):
へちま
通し章番号:
1465
口述日:
1923(大正12)年03月25日(旧02月9日)
口述場所:
皆生温泉 浜屋
筆録者:
加藤明子
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1925(大正14)年5月24日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
一方エキスとヘルマンもテルモン山の山中に来ていた。二人はワックスが押し込めた姫を助け出し、姫の歓心を得て恋の勝者となろうと相談をしていた。
二人はケリナ姫が閉じ込められている岩窟に来て、姫の歓心を買おうと歌を歌いかけたが、お互いにお互いをけなしはじめ、ワックスと共に企んだ悪事の中身まで歌ってしまう。
エキスとヘルマンは互いにののしり合い、大喧嘩となって取っ組み合いを始めてしまう。ケリナは二人が悪事を自ら明かし勝手に喧嘩を始めたのを聞いて思わず笑ってしまった。ケリナ姫は述懐を歌い、求道居士の無事を祈った。
エキスとヘルマンは格闘のうちに息も絶え絶えになってしまった。そこにスマートを連れた三千彦がやってきた。三千彦はケリナ姫に名乗りかけ、あたりの岩片で岩窟の錠前を打ち壊して姫を助け出した。
三千彦は倒れていたエキスとヘルマンを岩窟に投げ込むと、棒でつっかいをした。ケリナ姫は岩窟に閉じ込められて足が立たず、三千彦に負われてデビス姫の岩窟に向かった。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :
rm5715
愛善世界社版:
194頁
八幡書店版:
第10輯 331頁
修補版:
校定版:
202頁
普及版:
95頁
初版:
ページ備考:
001
テルモン
山
(
ざん
)
の
夜嵐
(
よあらし
)
に
002
染黒
(
しぐろ
)
い
顔
(
かほ
)
を
煽
(
あふ
)
られて
003
スタスタ
来
(
きた
)
る
二人
(
ふたり
)
連
(
づ
)
れ
004
鳩
(
はと
)
の
岩窟
(
いはや
)
の
入口
(
いりぐち
)
に
005
少時
(
しばし
)
佇
(
たたず
)
み
息
(
いき
)
凝
(
こ
)
らし
006
中
(
なか
)
の
様子
(
やうす
)
を
窺
(
うかが
)
へば
007
押籠
(
おしこ
)
められしケリナ
姫
(
ひめ
)
008
鈴
(
すず
)
の
鳴
(
な
)
るやうな
声
(
こゑ
)
をして
009
何
(
なに
)
か
述懐
(
じゆつくわい
)
歌
(
うた
)
ひ
居
(
ゐ
)
る
010
エキス、ヘルマン
両人
(
りやうにん
)
は
011
胸
(
むね
)
ををどらし
入口
(
いりぐち
)
の
012
鉄門
(
かなど
)
に
身
(
み
)
をばよせ
乍
(
なが
)
ら
013
叶
(
かな
)
はぬ
恋
(
こひ
)
と
知
(
し
)
らずして
014
訪
(
たづ
)
ね
来
(
きた
)
るぞ
可笑
(
をか
)
しけれ
015
岩窟
(
いはや
)
の
外
(
そと
)
に
人
(
ひと
)
ありと
016
知
(
し
)
らぬが
仏
(
ほとけ
)
のケリナ
姫
(
ひめ
)
017
其
(
その
)
身
(
み
)
の
不運
(
ふうん
)
を
歎
(
かこ
)
ちつつ
018
湿
(
しめ
)
り
勝
(
がち
)
なる
歌
(
うた
)
ひ
声
(
ごゑ
)
019
秋野
(
あきの
)
にすだく
虫
(
むし
)
の
音
(
ね
)
か
020
但
(
ただし
)
は
駒
(
こま
)
の
鈴
(
すず
)
の
音
(
ね
)
か
021
紛
(
まが
)
ふべらなる
憂音
(
いうおん
)
に
022
語
(
かた
)
り
出
(
いだ
)
すぞ
可憐
(
いぢら
)
しき。
023
二人
(
ふたり
)
は
声
(
こゑ
)
を
秘
(
ひそ
)
め
乍
(
なが
)
ら、
024
エキス『オイ、
025
ヘルマン、
026
ワックスの
奴
(
やつ
)
、
027
テルモン
山
(
ざん
)
の
奥
(
おく
)
へ
悪酔怪
(
あくすゐくわい
)
の
演説
(
えんぜつ
)
が
祟
(
たた
)
つて
逃
(
に
)
げ
失
(
う
)
せたのを
幸
(
さいはひ
)
、
028
貴様
(
きさま
)
と
俺
(
おれ
)
と
二人
(
ふたり
)
で
探
(
さが
)
し
出
(
だ
)
し、
029
姫
(
ひめ
)
の
歓心
(
くわんしん
)
を
得
(
え
)
て
恋
(
こひ
)
の
優勝者
(
いうしようしや
)
とならうぢやないか、
030
こんな
機会
(
きくわい
)
は
又
(
また
)
とあるものぢやない』
031
ヘルマン『ウン、
032
それやさうだ。
033
六百
(
ろくぴやく
)
両
(
りやう
)
の
金
(
かね
)
はぼつたくり、
034
又
(
また
)
テルモン
山
(
ざん
)
の
花
(
はな
)
と
謳
(
うた
)
はれた
美人
(
びじん
)
を
娶
(
めと
)
り
楽
(
たの
)
しく
嬉
(
うれ
)
しく
暮
(
くら
)
すのも
亦
(
また
)
乙
(
おつ
)
ぢやないか。
035
併
(
しか
)
しこれは
借
(
か
)
りて
来
(
き
)
た
知恵
(
ちゑ
)
では
駄目
(
だめ
)
かも
知
(
し
)
れない。
036
迂
(
う
)
つかり
肱鉄
(
ひぢてつ
)
をかまされては
取返
(
とりかへ
)
しがつかぬからなア。
037
何
(
なん
)
とかして
知恵
(
ちゑ
)
を
絞
(
しぼ
)
り
出
(
だ
)
して、
038
甘
(
うま
)
くやらねばならぬ。
039
余
(
あま
)
り
近
(
ちか
)
くによつてケリナ
姫
(
ひめ
)
さまの
耳
(
みみ
)
に
入
(
はい
)
つては
大変
(
たいへん
)
だ。
040
四五間
(
しごけん
)
ここを
離
(
はな
)
れて
悠
(
ゆつ
)
くり
相談
(
さうだん
)
しようかい』
041
エキス『ウン、
042
それが
上分別
(
じやうふんべつ
)
だ』
043
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
044
四五間
(
しごけん
)
傍
(
かたはら
)
の
雑草
(
ざつさう
)
の
中
(
なか
)
にドツカリと
腰
(
こし
)
を
下
(
お
)
ろし、
045
エキス『オイ、
046
後
(
あと
)
の
喧嘩
(
けんくわ
)
を
先
(
さき
)
にして
置
(
お
)
くのだが、
047
甘
(
うま
)
く
手
(
て
)
に
入
(
い
)
つた
時
(
とき
)
には
貴様
(
きさま
)
は
何方
(
どちら
)
を
取
(
と
)
るのだ』
048
ヘルマン『ウン、
049
俺
(
おれ
)
はデビス
姫
(
ひめ
)
を
申受
(
まをしう
)
ける
積
(
つも
)
りだ』
050
エキス『ヘン、
051
些
(
ちつ
)
と
面
(
つら
)
と
相談
(
さうだん
)
をして
見
(
み
)
よ。
052
デビス
姫
(
ひめ
)
の
夫
(
をつと
)
になれば、
053
小国別
(
をくにわけ
)
様
(
さま
)
の
御
(
お
)
世継
(
よつぎ
)
だぞ。
054
貴様
(
きさま
)
のやうな
野呂作
(
のろさく
)
がどうして
左様
(
さやう
)
な
事
(
こと
)
が
勤
(
つと
)
まらうかい』
055
ヘルマン『マア
何方
(
どちら
)
でもよいわ、
056
取
(
と
)
らぬ
狸
(
たぬき
)
の
皮算用
(
かはざんよう
)
して
居
(
ゐ
)
た
所
(
ところ
)
で
面白
(
おもしろ
)
くない。
057
それより
姉妹
(
おとどい
)
のナイスに
選
(
えら
)
ましたらよいではないか、
058
それが
一番
(
いちばん
)
公平
(
こうへい
)
だからなア』
059
エキス『それも
面白
(
おもしろ
)
からう、
060
併
(
しか
)
し
先方
(
むかふ
)
に
選
(
えら
)
ませるなら
姉妹
(
おとどい
)
共
(
とも
)
、
061
俺
(
おれ
)
の
方
(
はう
)
に
秋波
(
しうは
)
を
送
(
おく
)
るに
定
(
きま
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
062
其
(
その
)
時
(
とき
)
には
一寸
(
ちよつと
)
加減
(
かげん
)
を
見
(
み
)
て
貴様
(
きさま
)
にお
古
(
ふる
)
を
譲
(
ゆづ
)
つてやらうか』
063
ヘルマン『
馬鹿
(
ばか
)
云
(
い
)
ふな、
064
貴様
(
きさま
)
のやうな
糸瓜
(
へちま
)
に
目鼻
(
めはな
)
をつけたやうな
細長
(
ほそなが
)
い
顔
(
かほ
)
をしながら
自惚
(
うぬぼ
)
れた
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
ふな』
065
エキス『
俺
(
おれ
)
が
糸瓜
(
へちま
)
なら
貴様
(
きさま
)
は
南瓜
(
かぼちや
)
だ』
066
ヘルマン『
南瓜
(
かぼちや
)
も
糸瓜
(
へちま
)
もあつたものかい。
067
マア
見
(
み
)
て
居
(
を
)
れ、
068
この
南瓜
(
かぼちや
)
がどんな
事
(
こと
)
をするか、
069
歌
(
うた
)
にも
云
(
い
)
ふだらう、
070
今年
(
ことし
)
南瓜
(
かぼちや
)
の
当
(
あた
)
り
年
(
どし
)
、
071
糸瓜
(
へちま
)
の
当
(
あた
)
り
年
(
どし
)
とは
開闢
(
かいびやく
)
以来
(
いらい
)
聞
(
き
)
いた
事
(
こと
)
はないわ、
072
エヘヘヘヘ』
073
エキス『コリヤどて
南瓜
(
かぼちや
)
、
074
何
(
なに
)
を
ごうたく
吐
(
こ
)
きやがるのだ。
075
マア
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
俺
(
おれ
)
が
年嵩
(
としかさ
)
だから
長上
(
ちやうじやう
)
を
敬
(
うやま
)
ふ
礼儀
(
れいぎ
)
に
従
(
したが
)
つて
俺
(
おれ
)
に
任
(
まか
)
して
置
(
お
)
いたらよからう。
076
未
(
ま
)
だ
先方
(
せんぱう
)
の
意向
(
いかう
)
も
分
(
わか
)
らぬのに
喧嘩
(
けんくわ
)
したつて
仕方
(
しかた
)
が
無
(
な
)
いからのう』
077
ヘルマン『ウンさうだ。
078
こんな
所
(
ところ
)
で
角目立
(
つのめだ
)
つて
喧嘩
(
けんくわ
)
して
居
(
ゐ
)
た
所
(
ところ
)
で
面白
(
おもしろ
)
くない。
079
まづ
第一
(
だいいち
)
ケリナ
姫
(
ひめ
)
をチヨロまかし、
080
先方
(
むかふ
)
の
意志
(
いし
)
に
任
(
まか
)
す
事
(
こと
)
にしよう。
081
サアこれから
岩窟
(
いはや
)
の
前
(
まへ
)
に
立
(
た
)
つて
歌
(
うた
)
を
歌
(
うた
)
ひ、
082
ケリナさまに
思
(
おも
)
ひつかすのだ』
083
と
二人
(
ふたり
)
は
足音
(
あしおと
)
を
忍
(
しの
)
ばせ
岩窟
(
がんくつ
)
の
傍
(
そば
)
に
躙寄
(
にじりよ
)
り、
084
エキス『
悪者
(
わるもの
)
に
誘拐
(
かどはか
)
されて
岩窟
(
いはやど
)
に
085
押込
(
おしこ
)
められし
君
(
きみ
)
ぞいとしき』
086
ヘルマン『
天照
(
あまてら
)
す
皇
(
すめ
)
大神
(
おほかみ
)
よ
岩窟
(
いはやど
)
を
087
一日
(
ひとひ
)
も
早
(
はや
)
く
立
(
た
)
ち
出
(
い
)
でませよ』
088
エキス『
手力男
(
たぢからを
)
神
(
かみ
)
の
命
(
みこと
)
の
現
(
あら
)
はれて
089
ケリナの
姫
(
ひめ
)
が
岩戸
(
いはと
)
を
開
(
ひら
)
かむ』
090
ヘルマン『あなさやけあな
面白
(
おもしろ
)
の
御姿
(
みすがた
)
を
091
拝
(
をが
)
む
吾
(
われ
)
こそ
楽
(
たの
)
しかりけり』
092
エキス『テルモンの
神
(
かみ
)
の
館
(
やかた
)
にあれましし
093
ケリナの
姫
(
ひめ
)
の
姿
(
すがた
)
やさしき』
094
ヘルマン『
此
(
この
)
君
(
きみ
)
は
天下
(
てんか
)
無双
(
むさう
)
のナイスなり
095
如何
(
いか
)
でかエキスに
靡
(
なび
)
き
給
(
たま
)
はむ』
096
エキス『ヘルマンの
醜
(
しこ
)
の
司
(
つかさ
)
が
偉
(
えら
)
さうに
097
ケリナの
姫
(
ひめ
)
を
慕
(
した
)
ひ
来
(
く
)
るかな』
098
ヘルマン『こらエキス
余
(
あんま
)
り
口
(
くち
)
が
過
(
す
)
ぎるぞや
099
如意
(
によい
)
の
宝珠
(
ほつしゆ
)
は
誰
(
たれ
)
が
盗
(
ぬす
)
んだ』
100
エキス『
如意
(
によい
)
宝珠
(
ほつしゆ
)
盗
(
ぬす
)
んだ
奴
(
やつ
)
はワックスよ
101
エキスの
為
(
ため
)
に
館
(
やかた
)
に
納
(
をさ
)
まる』
102
ヘルマン『
馬鹿
(
ばか
)
云
(
い
)
ふな
宝珠
(
ほつしゆ
)
の
玉
(
たま
)
は
三五
(
あななひ
)
の
103
三千彦
(
みちひこ
)
司
(
つかさ
)
の
手柄
(
てがら
)
ならずや』
104
エキス『そんな
事
(
こと
)
、こんな
所
(
ところ
)
で
云
(
い
)
ふ
馬鹿
(
ばか
)
が
105
又
(
また
)
と
世界
(
せかい
)
に
一人
(
ひとり
)
あらうか』
106
ヘルマン『
是
(
これ
)
はしたりケリナの
姫
(
ひめ
)
の
隠
(
かく
)
れます
107
岩窟
(
いはや
)
の
前
(
まへ
)
をうかと
忘
(
わす
)
れて』
108
エキス『それだからトンマ
男
(
をとこ
)
の
南瓜面
(
かぼちやづら
)
109
訳
(
わけ
)
も
糸瓜
(
へちま
)
もないと
云
(
い
)
ふのだ』
110
ヘルマン『
糸瓜
(
へちま
)
野郎
(
やらう
)
青
(
あを
)
い
顔
(
かほ
)
して
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
ふ
111
擂
(
すりこぎ
)
のやうな
頭
(
どたま
)
かかへて』
112
エキス『
斯
(
か
)
うなれば
義理
(
ぎり
)
も
糸瓜
(
へちま
)
もあるものか
113
サア
来
(
こ
)
い
勝負
(
しようぶ
)
力比
(
ちからくら
)
べだ』
114
ヘルマン『
言論
(
げんろん
)
の
尊
(
たふと
)
ばれつる
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
に
115
直接
(
ちよくせつ
)
行動
(
かうどう
)
は
野蛮
(
やばん
)
の
骨頂
(
こつちやう
)
』
116
エキス『
馬鹿
(
ばか
)
云
(
い
)
ふな
最後
(
さいご
)
の
勝利
(
しようり
)
は
実力
(
じつりよく
)
だ
117
見事
(
みごと
)
ケリナを
取
(
と
)
つて
見
(
み
)
せうぞ』
118
ヘルマン『
糸瓜
(
へちま
)
野郎
(
やらう
)
、
何程
(
なにほど
)
姫
(
ひめ
)
に
惚
(
ほ
)
れたとて
119
先方
(
むかふ
)
がきかねば
馬鹿
(
ばか
)
を
見
(
み
)
るのみ』
120
エキス『
此
(
この
)
上
(
うへ
)
は
南瓜頭
(
かぼちやあたま
)
をかち
割
(
わ
)
つて
121
鬱憤
(
うつぷん
)
晴
(
は
)
らさにや
男
(
をとこ
)
が
立
(
た
)
たぬ』
122
ヘルマン『こりや
糸瓜
(
へちま
)
南瓜
(
かぼちや
)
の
腕
(
うで
)
を
知
(
し
)
つて
居
(
ゐ
)
るか』
123
エキス……『
知
(
し
)
つて
居
(
を
)
れやこそ
喧嘩
(
けんくわ
)
するのだ』
124
たうとう
終
(
しまひ
)
には
大喧嘩
(
おほげんくわ
)
となり、
125
ケリナ
姫
(
ひめ
)
の
事
(
こと
)
はそつちのけにして
長
(
なが
)
い
男
(
をとこ
)
と
短
(
みじか
)
い
太
(
ふと
)
い
男
(
をとこ
)
とが
組
(
く
)
んず
組
(
く
)
まれつ、
126
ウンウンキヤーキヤーと
喚
(
わめ
)
きながら
毛
(
け
)
を
むし
つたり
睾丸
(
きんたま
)
を
掴
(
つか
)
んだり、
127
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
格闘
(
かくとう
)
をして
居
(
ゐ
)
る。
128
ケリナ
姫
(
ひめ
)
は
二人
(
ふたり
)
の
問答
(
もんだふ
)
を
聞
(
き
)
いて
自分
(
じぶん
)
の
苦
(
くる
)
しき
岩窟内
(
がんくつない
)
にあるのもうち
忘
(
わす
)
れ、
129
思
(
おも
)
はず
知
(
し
)
らずホホホホホと
笑
(
わら
)
ふ。
130
ケリナ
姫
(
ひめ
)
は
静
(
しづか
)
に
歌
(
うた
)
ふ。
131
ケリナ
姫
(
ひめ
)
『
人里
(
ひとざと
)
離
(
はな
)
れしテルモンの
132
深山
(
みやま
)
の
奥
(
おく
)
の
岩窟
(
がんくつ
)
に
133
情
(
つれ
)
なき
男
(
をとこ
)
に
攫
(
さら
)
はれて
134
不運
(
ふうん
)
を
歎
(
かこ
)
つ
吾
(
わが
)
身
(
み
)
にも
135
心
(
こころ
)
の
慰
(
なぐさ
)
む
時
(
とき
)
は
来
(
き
)
ぬ
136
悪
(
あく
)
に
長
(
た
)
けたる
二人
(
ふたり
)
連
(
づ
)
れ
137
神
(
かみ
)
の
館
(
やかた
)
の
御宝
(
みたから
)
を
138
盗
(
ぬす
)
み
出
(
いだ
)
して
父母
(
ちちはは
)
を
139
苦
(
くる
)
しめまつりワックスの
140
悪魔
(
あくま
)
と
共
(
とも
)
に
怖
(
おそ
)
ろしき
141
企
(
たく
)
みを
致
(
いた
)
す
馬鹿
(
ばか
)
男
(
をとこ
)
142
妾
(
わらは
)
の
色香
(
いろか
)
に
目
(
め
)
が
眩
(
くら
)
み
143
岩窟
(
いはや
)
の
前
(
まへ
)
に
塞
(
ふさ
)
がりて
144
互
(
たがひ
)
に
心
(
こころ
)
の
黒幕
(
くろまく
)
を
145
捲
(
まく
)
り
上
(
あ
)
げたる
浅
(
あさ
)
はかさ
146
如何
(
いか
)
に
曇
(
くも
)
りし
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
の
147
盲
(
めくら
)
聾
(
つんぼ
)
と
云
(
い
)
ふとても
148
これ
程
(
ほど
)
馬鹿
(
ばか
)
が
世
(
よ
)
にあろか
149
自分
(
じぶん
)
の
企
(
たく
)
みを
吾
(
わが
)
前
(
まへ
)
に
150
一
(
ひと
)
つも
残
(
のこ
)
らず
曝
(
さら
)
け
出
(
だ
)
し
151
あた
汚
(
けが
)
らはしき
色恋
(
いろこひ
)
と
152
糸瓜
(
へちま
)
や
南瓜
(
かぼちや
)
のお
化
(
ばけ
)
等
(
ら
)
が
153
囁
(
ささや
)
く
声
(
こゑ
)
ぞ
憐
(
あは
)
れなり
154
馬鹿
(
ばか
)
に
与
(
あた
)
ふる
薬
(
くすり
)
はないと
155
世
(
よ
)
の
諺
(
ことわざ
)
も
目
(
ま
)
の
当
(
あた
)
り
156
眺
(
なが
)
めし
妾
(
わらは
)
の
可笑
(
をか
)
しさよ
157
旭
(
あさひ
)
は
照
(
て
)
るとも
曇
(
くも
)
るとも
158
月
(
つき
)
は
盈
(
み
)
つとも
虧
(
か
)
くるとも
159
仮令
(
たとへ
)
大地
(
だいち
)
は
沈
(
しづ
)
むとも
160
吾
(
わが
)
身
(
み
)
の
命
(
いのち
)
は
失
(
う
)
するとも
161
神力
(
しんりき
)
無双
(
むさう
)
の
求道
(
きうだう
)
さま
162
二世
(
にせ
)
の
夫
(
をつと
)
と
村肝
(
むらきも
)
の
163
心
(
こころ
)
の
中
(
うち
)
に
定
(
さだ
)
めてゆ
164
何程
(
なにほど
)
綺麗
(
きれい
)
な
男
(
をとこ
)
でも
165
妾
(
わらは
)
の
目
(
め
)
には
鬼瓦
(
おにがはら
)
166
顧
(
かへり
)
みるだに
嫌
(
いや
)
らしき
167
エキス、ヘルマン
二人
(
ふたり
)
の
馬鹿
(
ばか
)
奴
(
め
)
168
互
(
たがひ
)
に
命
(
いのち
)
の
奪
(
と
)
り
合
(
あひ
)
を
169
始
(
はじ
)
めて
苦
(
くる
)
しむ
可笑
(
をか
)
しさよ
170
アア
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
171
神
(
かみ
)
の
御霊
(
みたま
)
の
幸
(
さち
)
はひて
172
一日
(
ひとひ
)
も
早
(
はや
)
く
吾
(
わが
)
身
(
み
)
をば
173
救
(
すく
)
はせ
給
(
たま
)
へ
求道
(
きうだう
)
さま
174
教司
(
をしへつかさ
)
の
身
(
み
)
の
上
(
うへ
)
を
175
守
(
まも
)
らせ
給
(
たま
)
へと
大神
(
おほかみ
)
の
176
御前
(
みまへ
)
に
畏
(
かしこ
)
み
願
(
ね
)
ぎまつる』
177
外
(
そと
)
には、
178
エキス、
179
ヘルマンの
二人
(
ふたり
)
血塗
(
ちみどろ
)
になつて
顔
(
かほ
)
を
掻
(
か
)
き
むし
られ、
180
息
(
いき
)
も
絶
(
た
)
え
絶
(
だ
)
えに
格闘
(
かくとう
)
して
居
(
ゐ
)
る。
181
其処
(
そこ
)
へスマートを
連
(
つ
)
れてやつてきたのは、
182
三五教
(
あななひけう
)
の
三千彦
(
みちひこ
)
であつた。
183
スマートは
矢場
(
やには
)
に
岩窟
(
がんくつ
)
の
入口
(
いりぐち
)
に
近
(
ちか
)
より、
184
フンフンと
鋭敏
(
えいびん
)
な
嗅覚
(
きうかく
)
で
嗅
(
かぎ
)
つけ
乍
(
なが
)
ら、
185
ケリナ
姫
(
ひめ
)
の
居
(
を
)
る
事
(
こと
)
を
確
(
たしか
)
めたものの
如
(
ごと
)
く、
186
頻
(
しき
)
りに
尾
(
を
)
を
掉
(
ふ
)
つて、
187
ウーウーと
唸
(
うな
)
り
出
(
だ
)
した。
188
三千彦
(
みちひこ
)
は
岩窟
(
がんくつ
)
の
入口
(
いりぐち
)
より
声
(
こゑ
)
をかけ、
189
三千彦
(
みちひこ
)
『
私
(
わたし
)
は
三五教
(
あななひけう
)
の
神司
(
かむつかさ
)
三千彦
(
みちひこ
)
で
厶
(
ござ
)
います。
190
先日
(
せんじつ
)
よりお
館
(
やかた
)
にお
世話
(
せわ
)
になり
貴女
(
あなた
)
のお
行衛
(
ゆくゑ
)
を
探
(
さが
)
して
居
(
を
)
りましたが、
191
漸
(
やうや
)
く
此処
(
ここ
)
にお
隠
(
かく
)
れと
判明
(
はんめい
)
し、
192
お
迎
(
むか
)
ひに
参
(
まゐ
)
りました。
193
暫
(
しばら
)
くお
待
(
ま
)
ち
下
(
くだ
)
さい。
194
今
(
いま
)
此
(
この
)
入口
(
いりぐち
)
の
戸
(
と
)
を
開
(
あ
)
けますから』
195
ケリナ
姫
(
ひめ
)
は
暫
(
しば
)
し
無言
(
むごん
)
の
儘
(
まま
)
考
(
かんが
)
へ
込
(
こ
)
んで
居
(
ゐ
)
た。
196
ケリナ
姫
(
ひめ
)
『さしこもる
岩窟
(
いはや
)
の
中
(
なか
)
の
姫神
(
ひめがみ
)
は
197
如何
(
いか
)
でか
靡
(
なび
)
かむ
見知
(
みし
)
らぬ
人
(
ひと
)
に。
198
今
(
いま
)
の
先
(
さき
)
も
怪
(
あや
)
しき
男
(
をとこ
)
が
只
(
ただ
)
二人
(
ふたり
)
199
来
(
きた
)
りて
吾
(
われ
)
を
誘
(
さそ
)
はむとせし。
200
身
(
み
)
はたとへ
岩窟
(
いはや
)
の
中
(
なか
)
に
朽
(
く
)
つるとも
201
仇
(
あだ
)
し
男
(
をとこ
)
に
身
(
み
)
をな
任
(
まか
)
さじ』
202
三千彦
(
みちひこ
)
『これはしたりケリナの
姫
(
ひめ
)
の
御
(
おん
)
言葉
(
ことば
)
203
神
(
かみ
)
の
使
(
つかひ
)
にかざり
言
(
ごと
)
なし。
204
村肝
(
むらきも
)
の
心
(
こころ
)
鎮
(
しづ
)
めて
出
(
い
)
でませよ
205
神
(
かみ
)
のまにまに
吾
(
われ
)
は
来
(
きた
)
りぬ』
206
ケリナ
姫
(
ひめ
)
『
情
(
なさ
)
けある
人
(
ひと
)
の
言葉
(
ことば
)
に
従
(
したが
)
ひて
207
岩窟
(
いはや
)
を
出
(
い
)
でむ
早
(
はや
)
開
(
ひら
)
きませ』
208
三千彦
(
みちひこ
)
は
四辺
(
あたり
)
の
岩片
(
がんぺん
)
を
手
(
て
)
に
取
(
と
)
るより
早
(
はや
)
く
錠前
(
ぢやうまへ
)
をへし
折
(
を
)
り、
209
漸
(
やうや
)
くにしてカツと
開
(
ひら
)
ひた。
210
ケリナ
姫
(
ひめ
)
『ヤア
三千彦
(
みちひこ
)
様
(
さま
)
とやら、
211
好
(
よ
)
くマア
助
(
たす
)
けに
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さいました。
212
此
(
この
)
御恩
(
ごおん
)
は
決
(
けつ
)
して
忘
(
わす
)
れませぬ』
213
三千彦
(
みちひこ
)
『サア
早
(
はや
)
く
帰
(
かへ
)
りませう。
214
御
(
ご
)
両親
(
りやうしん
)
がお
待
(
ま
)
ち
兼
(
かね
)
で
厶
(
ござ
)
います。
215
就
(
つ
)
いてはお
姉様
(
あねさま
)
も
助
(
たす
)
け
出
(
だ
)
さねばなりませず、
216
求道
(
きうだう
)
様
(
さま
)
も
助
(
たす
)
け
出
(
だ
)
さねばなりませぬから、
217
サア
早
(
はや
)
く
出
(
で
)
て
下
(
くだ
)
さい』
218
ケリナ
姫
(
ひめ
)
『ハイ、
219
有難
(
ありがた
)
う
厶
(
ござ
)
いますが、
220
足
(
あし
)
がワナワナ
致
(
いた
)
しまして
些
(
ちつ
)
とも
立
(
た
)
ちませぬので、
221
困
(
こま
)
つて
居
(
を
)
ります』
222
三千彦
(
みちひこ
)
『アアさうでせう。
223
斯
(
こ
)
んな
処
(
ところ
)
に
閉
(
と
)
ぢ
籠
(
こ
)
められて
居
(
ゐ
)
てはお
足
(
あし
)
も
弱
(
よわ
)
つたでせう。
224
サア
私
(
わたし
)
の
背
(
せな
)
に
負
(
おぶ
)
さつて
下
(
くだ
)
さい。
225
此処
(
ここ
)
に
居
(
を
)
る
犬
(
いぬ
)
はスマートと
申
(
まを
)
しまして、
226
幾度
(
いくど
)
も
私
(
わたし
)
を
助
(
たす
)
けて
呉
(
く
)
れた
義犬
(
ぎけん
)
です。
227
これさへ
居
(
を
)
れば
大丈夫
(
だいぢやうぶ
)
で
厶
(
ござ
)
います』
228
と
背
(
せな
)
を
突
(
つ
)
き
出
(
だ
)
す。
229
ケリナ
姫
(
ひめ
)
は
大舟
(
おほぶね
)
に
乗
(
の
)
つたやうに
安心
(
あんしん
)
して
素直
(
すなほ
)
に
三千彦
(
みちひこ
)
の
背
(
せな
)
に
背負
(
せお
)
はれ、
230
漸
(
やうや
)
くにして
苦
(
くるし
)
き
岩窟
(
がんくつ
)
を
出
(
で
)
た。
231
星
(
ほし
)
の
光
(
ひかり
)
は
金砂
(
きんしや
)
銀砂
(
ぎんしや
)
を
鏤
(
ちりば
)
めた
如
(
ごと
)
く、
232
満天
(
まんてん
)
に
輝
(
かがや
)
いて
居
(
ゐ
)
る。
233
ケリナ
姫
(
ひめ
)
『モシ
三千彦
(
みちひこ
)
様
(
さま
)
、
234
此処
(
ここ
)
に
悪漢
(
わるもの
)
が
二人
(
ふたり
)
斃
(
たほ
)
れて
居
(
ゐ
)
ますが、
235
この
儘
(
まま
)
見逃
(
みのが
)
して
置
(
お
)
いても
宜敷
(
よろし
)
いでせうか』
236
三千彦
(
みちひこ
)
『
成程
(
なるほど
)
余
(
あま
)
り
貴女
(
あなた
)
の
方
(
はう
)
に
気
(
き
)
を
取
(
と
)
られて
居
(
ゐ
)
ましたので
悪漢
(
わるもの
)
の
仕末
(
しまつ
)
を
忘
(
わす
)
れて
居
(
ゐ
)
ました。
237
サア
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
、
238
一寸
(
ちよつと
)
下
(
お
)
りて
居
(
ゐ
)
て
下
(
くだ
)
さい。
239
漸
(
しばら
)
く
貴女
(
あなた
)
の
旧宅
(
きうたく
)
に
閉
(
と
)
ぢ
込
(
こ
)
めて
置
(
お
)
きませう、
240
アハハハハハ』
241
ケリナ
姫
(
ひめ
)
『オホホホホホ、
242
三千彦
(
みちひこ
)
様
(
さま
)
、
243
随分
(
ずいぶん
)
好
(
よ
)
からぬ
奴
(
やつ
)
ですから、
244
改心
(
かいしん
)
する
迄
(
まで
)
大事
(
だいじ
)
に
放
(
ほ
)
り
込
(
こ
)
んで
置
(
お
)
いて
下
(
くだ
)
さいませ』
245
三千彦
(
みちひこ
)
は『
宜敷
(
よろし
)
い』と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
二人
(
ふたり
)
の
足
(
あし
)
を
剛力
(
がうりき
)
に
任
(
まか
)
せて
左右
(
さいう
)
の
手
(
て
)
に
片足
(
かたあし
)
づつ
握
(
にぎ
)
り、
246
芝草
(
しばくさ
)
の
上
(
うへ
)
を
引
(
ひき
)
ずり
来
(
きた
)
り。
247
猫
(
ねこ
)
でも
引
(
ひ
)
きずるやうにポイと
放
(
ほ
)
り
込
(
こ
)
み、
248
入口
(
いりぐち
)
の
戸
(
と
)
を
カチリ
と
閉
(
し
)
め、
249
丁寧
(
ていねい
)
に
突張
(
つつぱり
)
をかひ、
250
三千彦
(
みちひこ
)
『オイ
金剛
(
こんがう
)
不壊
(
ふゑ
)
の
玉
(
たま
)
の
大盗人
(
おほぬすと
)
、
251
エキス、
252
ヘルマンの
両人
(
りやうにん
)
暫
(
しばら
)
く
此処
(
ここ
)
に
楽隠居
(
らくいんきよ
)
でもして
居
(
を
)
るがよからう。
253
改心
(
かいしん
)
が
出来
(
でき
)
たら
又
(
また
)
出
(
だ
)
してやらうまいものでもない。
254
俺
(
おれ
)
は
悪酔怪
(
あくすゐくわい
)
員
(
ゐん
)
でないから、
255
弱
(
よわ
)
き
女
(
をんな
)
を
助
(
たす
)
け、
256
悪
(
あく
)
に
強
(
つよ
)
き
奴
(
やつ
)
を
懲
(
こ
)
らしてやるのだ。
257
斯
(
か
)
うなるのも
皆
(
みな
)
身
(
み
)
から
出
(
で
)
た
錆
(
さび
)
だと
思
(
おも
)
うて
観念
(
くわんねん
)
したがよからう』
258
エキス『モシモシ
三千彦
(
みちひこ
)
様
(
さま
)
、
259
何卒
(
どうぞ
)
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
二人
(
ふたり
)
を
助
(
たす
)
けて
下
(
くだ
)
さいませ。
260
其
(
その
)
代
(
かは
)
りワックスを
此処
(
ここ
)
へ
捉
(
つか
)
まへて
来
(
き
)
て
入
(
い
)
れるやうに
致
(
いた
)
しますから、
261
実
(
じつ
)
の
所
(
ところ
)
はワックスの
命令
(
めいれい
)
によつて
盗
(
ぬす
)
んだので
厶
(
ござ
)
います。
262
張本人
(
ちやうほんにん
)
はワックスで
厶
(
ござ
)
います』
263
三千彦
(
みちひこ
)
『アハハハハハ、
264
マア
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
だけれど
些
(
ちつ
)
と
御
(
ご
)
休息
(
きうそく
)
なさいませ。
265
サア
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
帰
(
かへ
)
りませう』
266
と
背
(
せ
)
に
負
(
お
)
ひ、
267
スマートに
道案内
(
みちあんない
)
されて、
268
デビス
姫
(
ひめ
)
の
閉
(
と
)
ぢ
籠
(
こ
)
められた
岩窟
(
がんくつ
)
を
指
(
さ
)
して
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く。
269
二人
(
ふたり
)
は
入口
(
いりぐち
)
の
戸
(
と
)
を
無性
(
むしやう
)
矢鱈
(
やたら
)
に
叩
(
たた
)
き、
270
両人
(
りやうにん
)
『
助
(
たす
)
けて
呉
(
く
)
れエ
助
(
たす
)
けて
呉
(
く
)
れエ、
271
此
(
この
)
世
(
よ
)
に
神
(
かみ
)
や
仏
(
ほとけ
)
は
無
(
な
)
いものか。
272
エエ
残念
(
ざんねん
)
や
口惜
(
くちを
)
しやなア』
273
と
身勝手
(
みがつて
)
な
事
(
こと
)
許
(
ばか
)
り
愚痴
(
ぐち
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
274
岩窟
(
がんくつ
)
の
奥
(
おく
)
の
方
(
はう
)
から『ケラ ケラ ケラ』と
嫌
(
いや
)
らしい、
275
身
(
み
)
の
毛
(
け
)
のよだつやうな
笑
(
わら
)
ひ
声
(
ごゑ
)
が
聞
(
きこ
)
えて
来
(
き
)
た。
276
(
大正一二・三・二五
旧二・九
於皆生温泉浜屋
加藤明子
録)
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