霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第二〇章 声援(せいゑん)〔一七六五〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第69巻 山河草木 申の巻 篇:第4篇 新政復興 よみ(新仮名遣い):しんせいふっこう
章:第20章 声援 よみ(新仮名遣い):せいえん 通し章番号:1765
口述日:1924(大正13)年01月25日(旧12月20日) 口述場所:伊予 山口氏邸 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1927(昭和2)年10月26日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
一方、清香姫と春子姫は高照山の山麓にたどり着いた。
二人はヒルの国の現状を嘆き、下に下って身魂を磨き立て直しをなさんとの意思を表し、歌に歌っている。
そこへ、山賊・源九郎一党が現れ、二人を取り囲んでしまう。
春子姫は啖呵を切り、あくまで賊に屈しない意気を見せるが、多勢に無勢、危機に陥ってしまう。しかし、今まさに捉えられようとするとき、宣伝歌の声が聞こえてくる。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2018-11-23 16:47:32 OBC :rm6920
愛善世界社版:276頁 八幡書店版:第12輯 374頁 修補版: 校定版:291頁 普及版:66頁 初版: ページ備考:
001 清香姫(きよかひめ)002春子姫(はるこひめ)()()についで、003高照山(たかてるやま)山麓(さんろく)(まで)辿(たど)りついた。004本街道(ほんかいだう)()くと、005追手(おつて)(おそれ)があるので、006本街道(ほんかいだう)()うた山林(さんりん)野原(のはら)(しの)(しの)(すす)んで()くので、007比較(ひかく)(てき)(みち)(ひま)がとれる。008谷川(たにがは)(すず)しき木蔭(こかげ)二人(ふたり)(こし)(うち)かけ(いき)(やす)述懐(じゆつくわい)(うた)つてゐる。
009清香(きよか)久方(ひさかた)天津(あまつ)御空(みそら)(つた)()
010(あさひ)(きよ)きヒルの(くに)
011高倉山(たかくらやま)下津(したつ)岩根(いはね)宮柱(みやばしら)
012(ふと)しく()てて三五(あななひ)
013(すめ)大神(おほかみ)(いつき)つつ
014日出(ひのでの)(かみ)御教(みをしへ)
015(つた)(つた)へて()(すく)
016インカの(なが)(きよ)くして
017四方(よも)民草(たみぐさ)(いさ)みつつ
018(めぐみ)(つゆ)(うるほ)へる
019(その)神国(かみくに)もいつしかに
020黄泉国(よもつくに)より(あら)()
021(しこ)魔神(まがみ)(をか)されて
022(はら)ふすべなき(やみ)()
023ヒルの御国(みくに)(よる)(ごと)
024(やみ)(とばり)(つつ)まれて
025黒白(あやめ)()かぬ人心(ひとごころ)
026あが足乳根(たらちね)父母(ちちはは)
027(あか)(こころ)紅葉彦(もみぢひこ)
028(かへで)(わけ)次々(つぎつぎ)
029(あか)(こころ)大前(おほまへ)
030(ささ)げまつりて(つか)へまし
031世人(よびと)(みちび)(たま)へども
032時世(じせい)(くら)老臣(らうしん)
033(こころ)(やみ)()れやらず
034ヒルの天地(てんち)()(つき)
035常夜(とこよ)(やみ)となりはてて
036阿鼻(あび)叫喚(けうくわん)(とき)(こゑ)
037春野(はるの)()ける(はな)()
038(こずゑ)(さへづ)(とり)(こゑ)
039秋野(あきの)にすだく(むし)()
040(みな)亡国(ばうこく)気配(けはい)あり
041(この)()(この)(まま)すごしなば
042インカの(くに)(たちま)ちに
043修羅(しゆら)(ちまた)成果(なりは)てて
044わが衆生(しゆじやう)()(くに)
045(そこ)(くに)なる(くるし)みを
046うけて(ほろ)ぶは()のあたり
047時代(じだい)目覚(めざ)めし(あに)(きみ)
048われと(かた)らひ逸早(いちはや)
049(かみ)(おん)(ため)(くに)(ため)
050世人(よびと)(ため)高倉(たかくら)
051堅磐(かきは)常磐(ときは)堅城(けんじやう)
052あとに見捨(みす)てて(あま)さかる
053(ひな)(くだ)りて()(たま)
054()(きた)へつつ(あたら)しく
055(うま)(きた)らむ()(なか)
056(はしら)とならむと雄健(をたけ)びし
057(かみ)誓約(うけひ)(たてまつ)
058()でさせ(たま)ひし健気(けなげ)さよ
059(わらは)(もと)よりなよ(だけ)
060(ちから)(よわ)()なれども
061御国(みくに)(おも)(みち)(おも)
062雄々(をを)しき(こころ)(かは)りなし
063すき()(かぜ)(いと)ひたる
064(とこ)(かざ)りし姫百合(ひめゆり)
065仮令(たとへ)(しほ)るる()なりとも
066(あか)(こころ)()(むす)
067(とき)()ちつつ(しも)をふみ
068()れぬ旅路(たびぢ)をやうやうに
069(すす)(きた)りし(うれ)しさよ
070あゝ天地(あめつち)大御神(おほみかみ)
071(わらは)兄妹(おとどい)両人(りやうにん)
072(きよ)けき(あか)真直(ますぐ)なる
073(こころ)(うべ)なひ(たま)ひつつ
074今日(けふ)首途(かどで)をどこ(まで)
075意義(いぎ)あらしめよ(さち)あらしめよ
076ヒルの御国(みくに)(そら)(うち)(あふ)
077高倉山(たかくらやま)(いつ)きたる
078国魂神(くにたまがみ)(おん)(まへ)
079(そら)()(くも)(わが)(こころ)
080のせて(かよ)ひつ()(まつ)
081あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
082御霊(みたま)のふゆを()ぎまつる
083あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
084御霊(みたま)恩頼(ふゆ)()ぎまつる』
085 春子姫(はるこひめ)(また)(うた)ふ。
086故里(ふるさと)(そら)(うち)(あふ)(おも)ふかな
087わが大君(おほぎみ)はいかにますかと。
088ヒルの(そら)(うち)(あふ)ぎつつ(おも)ふかな
089モリス秋山別(あきやまわけ)()(うへ)
090あの(くも)灰色(はひいろ)
091さうしてヒルの(そら)から
092(はし)つて()
093(いた)ましや
094秋山別(あきやまわけ)モリスの神柱(かむばしら)
095青息(あをいき)吐息(といき)
096余煙(よえん)だらう
097あゝ(いた)ましや灰色(はひいろ)
098(くも)(つつ)まれて
099ヒルの(くに)衆生(しゆじやう)
100さぞ(くる)しき雰囲気(ふんゐき)(うち)
101()(かこ)ちて
102(なや)んでゐるだらう
103(はる)()
104百花(ももばな)千花(ちばな)
105牡丹(ぼたん)(はな)清香姫(きよかひめ)
106あの灰色(はひいろ)
107(くも)(いな)みて
108こき(むらさき)
109(くも)(ただよ)(うづ)(そら)
110(にげ)()()になつたのだもの
111あゝ天津風(あまつかぜ)時津風(ときつかぜ)
112(みなみ)から(きた)()けよ
113さうして
114(むらさき)(くも)をヒルの(そら)(おく)
115あの灰色(はひいろ)(くも)
116常世(とこよ)(くに)(ふき)()らせよ
117国愛別(くにちかわけ)世子(せいし)(きみ)
118(はや)くも(うづ)()しますか
119あの(うづ)(そら)(くも)(いろ)のめでたさよ
120高照山(たかてるやま)(そら)には
121まだ灰色(はひいろ)がかつた
122(あは)(くも)往来(ゆきき)してゐる
123(これ)(おも)へば
124われ()二人(ふたり)()(うへ)
125まだハツキリと()れて()ないだらう
126あゝ味気(あぢき)なき
127浮世(うきよ)(くも)
128灰色(はひいろ)(そら)
129(てん)()
130(やま)(かは)
131(みな)灰色(はひいろ)(つつ)まれた
132今日(けふ)景色(けしき)
133国魂(くにたま)(かみ)
134(いか)りに()れてや
135四方(よも)(あや)しき(くも)竜世姫(たつよひめ)
136(めぐ)ませ(たま)
137科戸(しなど)(かぜ)
138(おこ)させ(たま)
139(きよ)めの(かぜ)を』
140 清香姫(きよかひめ)(また)(うた)ふ。
141久方(ひさかた)天津(あまつ)御空(みそら)(うち)(あふ)
142()行先(ゆくさき)(なげ)くわれかな。
143(てん)()(みな)灰色(はひいろ)(つつ)まれて
144()常暗(とこやみ)とならむとぞする。
145いかにせば(この)灰雲(はひくも)()れぬらむ
146わが言霊(ことたま)(ちから)なければ。
147時津風(ときつかぜ)()けよ大空(おほぞら)
148(また)()(うへ)
149われ()(うへ)
150陰鬱(いんうつ)
151(この)雰囲気(ふんゐき)何時(いつ)(まで)
152かからむ(かぎ)人草(ひとぐさ)
153次第(しだい)次第(しだい)(ほろ)びなむ
154頑迷(ぐわんめい)固陋(ころう)獅子(しし)(こゑ)
155新進(しんしん)気鋭(きえい)(うま)(こゑ)
156(きた)(みなみ)(ひび)きつつ
157地震(なゐふる)となり(いかづち)となり
158やがては()るるヒルの(くに)
159(これ)(おも)へば片時(かたとき)
160()(やす)んじて高倉(たかくら)
161(やま)(つき)をば(たの)しまむや
162(はな)(にほ)へど
163(つき)()れど
164(とり)(うた)へど
165わが()には
166わが(みみ)には
167(みな)亡国(ばうこく)(いろ)()
168地獄(ぢごく)(こゑ)(きこ)
169あゝ(いた)ましき(いま)()
170(きよ)()まして(いにしへ)
171インカの御代(みよ)立直(たてなほ)
172四民(しみん)平等(べうどう)(とり)(うた)
173(はな)()(にほ)天国(てんごく)
174ヒルの(みやこ)()たせたい
175あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
176(はな)のうてなの清香姫(きよかひめ)
177()()もめぐむ春子姫(はるこひめ)
178()みもならはぬ高砂(たかさご)
179(あし)(いた)むる初旅(はつたび)
180(めぐ)ませ(たま)天津(あまつ)(かみ)
181国魂神(くにたまがみ)(おん)(まへ)
182(たに)()()づる(うぐひす)
183かよわき(こゑ)張上(はりあ)げて
184(ひとへ)(いの)(たてまつ)
185(ひとへ)(いの)(たてまつ)る』
186 ()かる(ところ)覆面(ふくめん)頭巾(づきん)山賊(さんぞく)(むれ)十数(じふすう)(にん)187バラバラと(あら)はれ(きた)り、188二人(ふたり)姿(すがた)()泥棒(どろばう)親分(おやぶん)らしき(やつ)189巨眼(きよがん)(ひら)き、190二人(ふたり)包囲(はうゐ)(なが)ら、191長刀(ちやうたう)をズラリと引抜(ひきぬ)き、
192親分(おやぶん)『オイ、193(あま)つちよ、194(その)(はう)何処(どこ)何者(なにもの)だ。195一寸(ちよつと)()(ところ)196(その)(はう)容貌(きりよう)といひ、197持物(もちもの)といひ、198衣服(いふく)といひ、199普通(ふつう)民家(みんか)(うま)れた(をんな)ではあるまい。200一伍(いちぶ)一什(しじふ)201(その)(はう)素性(すじやう)源九郎(げんくらう)(まへ)白状(はくじやう)(いた)せ。202違背(ゐはい)(およ)ばば、203(この)(はう)にも覚悟(かくご)があるぞ』
204 清香姫(きよかひめ)(はじ)めて泥棒(どろばう)出会(であ)つた(おそ)ろしさに、205(かほ)(いろ)(まで)かへて(ふる)うてゐる。206春子姫(はるこひめ)(ひめ)()庇護(かば)(なが)ら……仮令(たとへ)泥棒(どろばう)二十(にじふ)(にん)三十(さんじふ)(にん)押寄(おしよ)(きた)り、207兇器(きようき)()つて(むか)ふとも、208日頃(ひごろ)(きた)へた柔術(やはら)(おく)()をあらはし、209一人(ひとり)(のこ)らず、210谷川(たにがは)投込(なげこ)み、211()らしめて()れむ……と覚悟(かくご)をきはめ(なが)ら、212()らぬ(てい)にて、213ワザとおとなしく、214両手(りやうて)をつき、
215春子(はるこ)『ハイ、216(わらは)高倉山(たかくらやま)守護(しゆご)(いた)天人(てんにん)(ござ)います。217大変(たいへん)(えら)権幕(けんまく)で、218(わらは)(なに)かお(たづ)ねの(やう)(ござ)いますが、219人間(にんげん)は、220仮令(たとへ)泥棒(どろばう)にもせよ、221礼儀(れいぎ)といふものが(ござ)いませう。222孱弱(かよわ)(をんな)だと思召(おぼしめ)し、223(あたま)から威喝(ゐかつ)せうとは、224チツト(をとこ)にも似合(にあ)はぬ、225()卑怯(ひけふ)では(ござ)いませぬか。226(なん)御用(ごよう)(ぞん)じませぬが、227天地(てんち)自由(じいう)自在(じざい)(いた)天女(てんによ)(ござ)いますれば、228(まこと)のことならば(なん)でも()いて()げませう、229(その)(かは)(みち)(はづ)れたことならば、230(すこ)しも(ゆる)しませぬぞ』
231とキツパリ()つてのけた。232源九郎(げんくらう)度胸(どきよう)(すわ)つた春子姫(はるこひめ)言葉(ことば)(やや)(ぎも)()かれたが……タカが()れた(をんな)二人(ふたり)233自分(じぶん)十数(じふすう)(にん)命知(いのちし)らずの荒武者(あらむしや)をつれてゐる。234天人(てんにん)天女(てんによ)()らぬが、235こんな(をんな)尻込(しりご)みしては、236今後(こんご)乾児(こぶん)(あつか)(うへ)(おい)て、237信用(しんよう)失墜(しつつゐ)する。238飽迄(あくまで)強圧(きやうあつ)(てき)()たのだから、239無理(むり)()しで()さへつけてやらむ……と覚悟(かくご)をきはめ、240ワザと居丈高(ゐたけだか)になり、
241(げん)『アツハヽヽヽ、242(ぬか)したりな、243すべた(をんな)244天人(てんにん)とはまつかな(いつは)り、245吾々(われわれ)(おそ)ろしさの(その)()(のが)れのテレ(かく)し、246左様(さやう)なことに(たば)かられる源九郎(げんくらう)さまぢやないぞ。247高照山(たかてるやま)山寨(さんさい)数百(すうひやく)(にん)手下(てした)(ひき)つれ、248往来(ゆきき)男女(だんぢよ)(おびや)かす悪魔(あくま)源九郎(げんくらう)たア(おれ)のことだい。249()()(ぬか)さず、250衣類(ゐるゐ)万端(ばんたん)()いで(わた)すか、251さもなくば、252源九郎(げんくらう)女房(にようばう)になるか、253サアどうだ。254(すみやか)返答(へんたふ)(うけたま)はらう』
255 春子姫(はるこひめ)益々(ますます)度胸(どきよう)がすわつて()た。256清香姫(きよかひめ)一生(いつしやう)懸命(けんめい)257(かみ)(すく)ひを心中(しんちう)(いの)つてゐる。
258春子(はるこ)『ホツホヽヽヽヽ259悪魔(あくま)源九郎(げんくらう)とやら、260()(ところ)(あら)はれて()た。261(わらは)其方(そち)出現(しゆつげん)()つてゐたのだ。262邪魔(じやま)(くさ)い、263木偶(でく)(ばう)二十(にじふ)三十(さんじふ)()れて()(ところ)で、264()ごたへがせぬ。265乾児(こぶん)(のこ)らず(ひき)つれ、266(わが)(まへ)(なら)べてみよ。267(かた)つぱしから、268(たしな)めてくれむ。269悪魔(あくま)退治(たいぢ)出陣(しゆつぢん)途中(とちう)270悪魔(あくま)張本(ちやうほん)源九郎(げんくらう)()ふとは、271(なん)たる幸先(さいさき)のよい(こと)だらう。272一人(ひとり)二人(ふたり)面倒(めんだう)だ。273源九郎(げんくらう)274サア一度(いちど)にかかれ、275天人(てんにん)神力(しんりき)(あら)はして、276(なんぢ)(きも)(ひや)しくれむ』
277といふより(はや)く、278襷十字(たすきじふじ)にあやどり、279(やさ)しい(かほ)(うしろ)鉢巻(はちまき)()め、280懐剣(くわいけん)(つか)()をかけ身構(みがま)へした。281(この)(いきほひ)清香姫(きよかひめ)()取直(とりなほ)し、282(また)もや赤襷(あかだすき)白鉢巻(しろはちまき)283懐剣(くわいけん)(さや)(はら)つて源九郎(げんくらう)目懸(めが)けて、284ヂリヂリとつめよせた。285春子姫(はるこひめ)十数(じふすう)(にん)乾児(こぶん)()(くば)り、286()らば()らむと身構(みがま)へしてゐる。287源九郎(げんくらう)一令(いちれい)(もと)に、288乾児(こぶん)二人(ふたり)(むか)つて、289()りつくることとなつてゐた。290(しか)(なが)頭梁(とうりやう)源九郎(げんくらう)二人(ふたり)姿(すがた)()て、291(やや)恋慕(れんぼ)(ねん)(おこ)し……(なに)(ほど)(つよ)いといつても、292(をんな)二人(ふたり)293片腕(かたうで)にも()らないが、294(しか)斯様(かやう)な、295美人(びじん)をムザムザ(ころ)すのは(をし)いものだ、296(なん)とかして(たす)けたい……と(はや)くも(こひ)(とら)はれてゐる。
297春子(はるこ)源九郎(げんくらう)とやら、298(その)(はう)大言(だいげん)()(なが)ら、299なぜ孱弱(かよわ)二人(ふたり)(をんな)手出(てだ)しをせぬのか、300吾々(われわれ)威勢(ゐせい)(おそ)れてゐるのか、301返答(へんたふ)せい。302(わらは)天下(てんか)(すく)宣伝使(せんでんし)だ。303(なんぢ)(ごと)きに(おそ)れを(いだ)いて、304どうして天人(てんにん)(しよく)(つと)まらうぞ、305卑怯(ひけふ)未練(みれん)(をとこ)だなア』
306(げん)『ナアニ、307タカが(をんな)一人(ひとり)二人(ふたり)308片腕(かたうで)にも()らねども、309可惜(あたら)名花(めいくわ)()らすは(をし)いものだ。310それ(ゆゑ)暫時(しばらく)311根株(ねかぶ)()つた鉢植(はちうゑ)(はな)だと(おも)つて(なが)めてゐるのだ。312やがて果敢(はか)ない(をは)りを()げるだらうと(おも)へば、313(いささ)同情(どうじやう)(なみだ)にくれぬ(こと)もないわい。314テモ(さて)()れば()(ほど)315(うつく)しい……イヤいぢらしい(もの)だワイ』
316春子(はるこ)『エヽ(けが)らはしい、317泥棒(どろばう)分際(ぶんざい)として、318天人(てんにん)(むか)ひ、319いぢらしいとか、320(うつく)しいとか、321チツと過言(くわごん)であらうぞ。322()らざる繰言(くりごと)(まを)すよりも323(はた)をまき()をふつて、324(この)()(はや)立去(たちさ)れ、325エヽ(けが)らはしい、326シーツ シーツ』
327(ねこ)でも()(やう)大胆(だいたん)不敵(ふてき)挙動(きよどう)に、328源九郎(げんくらう)(いか)心頭(しんとう)(たつ)し、
329(げん)()らざる殺生(せつしやう)はしたくなけれ(ども)330モウ()うなれば(あと)へは退()かれぬ(をとこ)意地(いぢ)331コリヤ(をんな)332(いま)吠面(ほえづら)かわかしてみせる、333覚悟(かくご)をいたせ……ヤアヤア乾児(こぶん)(ども)334両人(りやうにん)(むか)つて()りつけよ』
335下知(げち)すれば、336心得(こころえ)たりと、337十数(じふすう)(にん)乾児(こぶん)二人(ふたり)(をんな)(むか)つて、338阿修羅(あしゆら)(わう)(ごと)くに(せま)(きた)る。339春子姫(はるこひめ)一方(いつぱう)()で、340清香姫(きよかひめ)(かば)(なが)ら、341(ちから)(かぎ)りに(ふせ)(たたか)へども、342剛力(がうりき)無双(むさう)(てき)襲撃(しふげき)343(はや)くも(ちから)()きて、344(かれ)毒牙(どくが)にかからむとする危機(きき)一髪(いつぱつ)場合(ばあひ)となつて()た。345源九郎(げんくらう)岩上(がんじやう)(こし)(うち)かけ、346平然(へいぜん)として煙草(たばこ)(くゆ)らし(なが)ら、347(この)光景(くわうけい)見下(みお)ろしてゐる。348清香姫(きよかひめ)(いま)(とら)へられむとする一刹那(いつせつな)349あたりの空気(くうき)振動(しんどう)させて宣伝歌(せんでんか)(きこ)えて()た。350あゝ(この)結果(けつくわ)()うなるであらうか。
351大正一三・一・二五 旧一二・一二・二〇 伊予 於山口氏邸、松村真澄録)
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