霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一六章 (あま)降里(くだり)〔一七八三〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第70巻 山河草木 酉の巻 篇:第3篇 理想新政 よみ(新仮名遣い):りそうしんせい
章:第16章 天降里 よみ(新仮名遣い):あまくだり 通し章番号:1783
口述日:1925(大正14)年08月25日(旧07月6日) 口述場所:丹後由良 秋田別荘 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1925(大正14)年10月16日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
太子は貧民窟の有様を見て、国の改革の思いを新たにする。
そこへ、番僧が人員調査のためにやってくる。レールとマークは、太子一行を自分の妻と友人として番僧に説明する。
太子は、この番僧がむしろ向上主義運動者たちに共感しているのを見て取って、自分の素性を明かして仲間に誘う。
番僧テルマンは承諾して、レール・マーク・太子たちの仲間となる。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日: OBC :rm7016
愛善世界社版:201頁 八幡書店版:第12輯 464頁 修補版: 校定版:207頁 普及版:102頁 初版: ページ備考:
001 シグレ(ちやう)貧民窟(ひんみんくつ)九尺(くしやく)二間(にけん)にはレール、002マークの両人(りやうにん)003(にはか)にテイラ、004ハリス、005チウイン、006チンレイの(あたら)しい()(にん)珍客(ちんきやく)(むか)へ、007どことはなく大活気(だいくわつき)(みなぎ)つて()た。008新来(しんらい)珍客(ちんきやく)(いづ)れも(ふる)ぼけた労働服(らうどうふく)()(まと)ひ、009(これ)太子(たいし)か、010貴婦人(きふじん)かと()まがふ(ばか)り、011服装(みなり)(おと)して(しま)つた。012それ(ゆゑ)七軒(しちけん)長屋(ながや)(とな)りの婆嬶(ばばかか)(れん)も、013(ゆめ)にも太子(たいし)王女(わうぢよ)変装(へんさう)とは()(よし)もなかつた。
014 (あさ)(はや)うから女議員(をんなぎゐん)が、015カバンの(かは)りに手桶(てをけ)をさげて、016井戸端(ゐどばた)会議(くわいぎ)(つばくろ)親方(おやかた)よろしく開催(かいさい)してゐる。
017(かふ)『これ、018(うめ)さま、019レールさま(とこ)(この)(ごろ)(めう)な、020()ちづれものが、021やつて()てゐるぢやないか。022あら、023大方(おほかた)024乗馬下(じやうめおろ)しの貴婦人(きふじん)かも()れんが、025長屋(ながや)規則(きそく)(まも)つて、026饂飩(うどん)一杯(いつぱい)づつ(くば)りさうなものだのに、027まだ挨拶(あいさつ)にも()()ぬぢやないかい』
028(おつ)『お(たけ)さま、029饂飩(うどん)蕎麦(そば)一杯(いつぱい)(もら)ふやうな(こと)があつたら、030それこそ大変(たいへん)ですよ。031あとが(うる)さいからな』
032(たけ)『それでも、033(わたし)去年(きよねん)(くれ)(この)長屋(ながや)(なが)()んで()(とき)034(まへ)さま()率先(そつせん)して、035(なん)かと世話(せわ)をして(くだ)さつた(さい)に、036長屋(ながや)規則(きそく)だから、037饂飩(うどん)蕎麦(そば)一杯(いつぱい)づつ(むか)三軒(さんげん)両隣(りやうどな)りへ(くば)れと()なしたものだから、038親爺(おやぢ)のハツピを(しち)において饂飩(うどん)一杯(いつぱい)づつ(くば)りましたよ』
039(うめ)『そら、040さうですとも、041普通(ふつう)人間(にんげん)なら、042(たがひ)(なか)ようして、043交際(つきあい)をして(もら)はなくちやなりませぬが、044あのレールさま、045一人(ひとり)のマークさまの二人(ふたり)046ラマ本山(ほんざん)のブラツクリストとか()ふものについて()人物(じんぶつ)で、047いつも番僧(ばんそう)さまが如意棒(によいぼう)をブラ()げて調(しら)べに()るぢやないか。048あの(ひと)向上会(かうじやうくわい)(ゐん)とか、049(くろ)主義者(しゆぎしや)とか()ふぢやないか。050そんな(ひと)交際(かうさい)でもしようものなら、051番僧(ばんそう)さまにつけねらはれ、052(たれ)もいやがつて日傭者(ひよさ)にも(やと)うて()れませぬワ。053さうすりや(たちま)親子(おやこ)(あご)乾上(ひあが)つて(しま)ふぢやありませぬか。054親爺(おやぢ)さまは毎日(まいにち)土方(どかた)をやり、055(わたし)(たち)はマツチの箱貼(はこはり)をして会計(くわいけい)(たす)けては()るものの、056(あめ)三日(みつか)()りや(たちま)土方(どかた)出来(でき)ず、057親子(おやこ)(かつ)(じに)せねばならぬと()境遇(きやうぐう)だもの、058番僧(ばんそう)さまなんかに(にら)まれちや(たま)りませぬわな』
059(たけ)(なん)とマア(おそ)ろしい(ひと)(この)路地(ろぢ)這入(はい)つて()たものぢやないか。060(この)(ごろ)はあんな(ひと)がうろつくので寺庵(じあん)異持法(いぢはふ)だとか、061国士団(こくしだん)062………(はふ)とか、063(むつ)かしい法律(はふりつ)発布(はつぷ)され、064(さん)(にん)()つて(はなし)をして()つても、065(すぐ)引張(ひつぱ)られるさうだから、066かう()(にん)(ろく)(にん)一緒(いつしよ)水汲(みづく)みをやるのは剣呑(けんのん)ですぜ』
067(うめ)『タカが(をんな)ぢやありませぬか。068本来(ほんらい)裏長屋(うらながや)(かか)(れん)が、069何人(なんにん)()つて(すずめ)会議(くわいぎ)をやつた(ところ)何一(なにひと)出来(でき)やしないわ。070何程(なにほど)(めくら)番僧(ばんそう)さまだつて、071(をんな)まで引張(ひつぱ)つて(かへ)るやうな無茶(むちや)(こと)はしますまいよ』
072(たけ)(なに)073(をんな)でも仲々(なかなか)()()はぬ連中(れんぢう)さまがありますよ。074今時(いまどき)女性(ぢよせい)(みな)075高等(かうとう)淫売(いんばい)教育(けういく)とか、076()ふものを()けてゐる(ひと)だから、077女権(ぢよけん)拡張(くわくちやう)とか女子(ぢよし)参政論(さんせいろん)だとか、078いろいろのオキャンや、079チャンピオンが(あら)はれて、080ラマ本山(ほんざん)(あたま)(いた)めるものだから、081(この)(ごろ)(をんな)でも容赦(ようしや)なく、082番僧(ばんそう)さま、083一寸(ちよつと)(あや)しいと()たら(すぐ)引張(ひつぱ)つて()くさうだよ。084あの向上会(かうじやうくわい)(ゐん)さまの(なか)にも、085どうやら高等(かうとう)淫売(いんばい)らしい、086綺麗(きれい)(をんな)(さん)(にん)まで、087やつて()てゐるのだもの、088何時(いつ)番僧(ばんそう)さまがやつて()るか()れないわ。089蕎麦(そば)()馳走(ちそう)(どころ)か、090此方(こつち)側杖(そばづゑ)()はされちや(たま)りませぬな。091サアサア(かへ)りませう』
092五六(ごろく)(にん)婆嬶(ばばかか)手桶(てをけ)をヒツ()げて093各自(めいめい)(ちひ)さい(やぶ)()をくぐつて姿(すがた)(かく)して(しま)つた。
094 チウインは共同(きようどう)井戸(ゐど)(そば)にある(むさくる)しい共同(きようどう)便所(べんじよ)這入(はい)つて()つたが、095(この)(をんな)(れん)(はなし)一伍(いちぶ)一什(しじふ)()(をは)り、096そしらぬ(かほ)をして(かへ)(きた)り、
097チウ『オイ、098レールの兄貴(あにき)099(ぼく)(めう)(こと)()いて()たよ。100イヤ、101もう(おほい)社会(しやくわい)教育(けういく)()た。102人間(にんげん)()ふものはホンに生活(せいくわつ)(じやう)大変(たいへん)懸隔(けんかく)があるものだな』
103レ『長屋(ながや)(すずめ)(つばめ)()(こと)大抵(たいてい)(きま)つてゐますよ。104(わたし)向上会(かうじやうくわい)(ゐん)だと()つて、105いつも(くち)(きは)めて悪口(わるぐち)()ひ、106テンで(こは)がつて交際(かうさい)をせないのです。107随分(ずいぶん)108悪垂(あくた)(ぐち)(たた)いたでせう』
109チウ『ハヽヽヽ仲々(なかなか)面白(おもしろ)いわ、110イヤ(しか)面白(おもしろ)いと()うては()まぬ。111(この)トルマン(ごく)には一人(ひとり)貧民(ひんみん)のないやうに、112(なん)とかして(ほね)()らねばなるまい』
113レ『タラハン(ごく)のスダルマン太子(たいし)は、114アリナ、115バランスと()賢明(けんめい)棟梁(とうりやう)臣下(しんか)()て、116教政(けうせい)改革(かいかく)断行(だんかう)されたと()(はなし)ですが、117屹度(きつと)よく(をさ)まるでせう。118まだ今々(いまいま)(こと)ですから、119その結果(けつくわ)(わか)りませぬが、120今日(こんにち)場合(ばあひ)121あゝするより(ほか)(みち)御座(ござ)りますまい。122トルマン(ごく)(いま)改革(かいかく)時期(じき)だと(おも)ひます。123どうか太子(たいし)(さま)英断(えいだん)(もつ)124(いち)(にち)(はや)教政(けうせい)改革(かいかく)断行(だんかう)し、125国民(こくみん)信望(しんばう)をつなぎ、126天下(てんか)名君(めいくん)(あふ)がれ(たま)ふやう、127吾々(われわれ)努力(どりよく)したいと(おも)ひます』
128チウ『ヤ、129(じつ)(ぼく)もスダルマン太子(たいし)のやり(くち)には感服(かんぷく)してゐる。130どうしても(おも)ひきつて決行(けつかう)せなくちや駄目(だめ)だ。131()(かく)132やれる()けやりたいものだな』
133レ『今度(こんど)宰相(さいしやう)余程(よほど)(わか)つてゐるやうですが、134浄行(じやうぎやう)古手(ふるて)首陀(しゆだ)大将(たいしやう)毘沙頭(びしやがしら)古手(ふるて)が、135いくら(あたま)(なや)まし、136教政(けうせい)内局(ないきよく)組織(そしき)した(ところ)で、137その寿命(じゆみやう)(なが)くて一年半(いちねんはん)138(みじか)(やつ)三月(みつき)(くらゐ)(たふ)れて(しま)ふのだから、139吾々(われわれ)教徒(けうと)はいい(つら)(かは)ですよ。140今日(こんにち)最早(もはや)141人文(じんぶん)発達(はつたつ)して人民(じんみん)(みな)自覚(じかく)して()りますから、142古疵物(ふるきずもの)信用(しんよう)しませぬ。143()(かく)144清浄(しやうじやう)無垢(むく)民間(みんかん)から()たものでないと、145大衆(たいしう)信望(しんばう)をつなぐ(こと)はむつかしいですな』
146チウ『そらさうだ。147会衆(ゑしう)古手(ふるて)首陀頭(しゆだがしら)浄行(じやうぎやう)金持(かねもち)会衆(ゑしう)が、148何遍(なんべん)出直(でなほ)した(ところ)で、149まるで子供(こども)飯事(ままごと)をしてゐるやうなものだ。150亡宗(ばうしう)政治(せいぢ)151骸骨(がいこつ)政治(せいぢ)152幽霊(いうれい)政治(せいぢ)153日暮(ひぐら)政治(せいぢ)154軟骨(なんこつ)政治(せいぢ)155章魚(たこ)政治(せいぢ)156圧搾(あつさく)宗政(しうせい)ばつかりやられて()つちや、157大衆(たいしう)到底(たうてい)(いき)をつく(こと)出来(でき)まい。158(ぼく)もどうかして(この)(さい)159かくれたる智者(ちしや)仁者(じんしや)(さが)(もと)め、160善政(ぜんせい)()いて()たいと(おも)ふのだ。161(しか)(なが)ら、1611まだ自分(じぶん)部屋住(へやずまひ)(こと)でもあり、162両親(りやうしん)(あたま)(ふる)くつて時代(じだい)趨勢(すうせい)(わか)らないものだから、163(じつ)(こま)つてゐるのだ。164(なん)とか(ひと)(おほ)きな目覚(めざま)しが()るといいのだけれどな』
165レ『太子(たいし)(さま)166(かなら)心配(しんぱい)して(くだ)さるな。167吾々(われわれ)王室(わうしつ)中心(ちうしん)向上(かうじやう)主義(しゆぎ)ですが、168現代(げんだい)大衆(たいしう)何時(いつ)でも一撃(いちげき)梵鐘(ぼんしよう)(ひびき)(とも)()つやうになつて()ります。169テイラさまや、170ハリスさまの(まへ)で、171こんな(こと)()ふのはチツト(ばか)()ひにくいけれど、172今度(こんど)戦争(せんそう)がなかつたなら、173吾々(われわれ)(すで)(すで)左守(さもり)174右守(うもり)両人(りやうにん)(たを)し、175宗政(しうせい)改革(かいかく)太子(たいし)(さま)にお(ねが)ひする(ところ)だつたのです。176(すで)(すで)()(ゆみ)(つる)につがへられて()つたのです。177左守(さもり)178右守(うもり)浄行(じやうぎやう)戦争(せんそう)(ため)(たふ)れたのだから、179()本人(ほんにん)にとつては非常(ひじやう)光栄(くわうえい)だつたのでせう。180さうでなくつても今日(けふ)まで(ふた)つの(くび)はつながれて()ない(はず)ですから』
181 テイラ、182ハリスの両人(りやうにん)平気(へいき)(かほ)して(わら)つてゐる。
183レ『もしテイラさま、184ハリスさま、185貴女(あなた)はお(とう)さまの(こと)()はれても、186(なん)ともないのですか』
187テイ『ハイ、188()として(ちち)()(かな)しまぬものはありませぬ。189(しか)(なが)大衆(たいしう)怨府(ゑんぷ)となり、190非業(ひごふ)最後(さいご)()げられやうなものなら、191それこそ()として(たま)りませぬが、192危機(きき)一髪(いつぱつ)場合(ばあひ)になつて、193王家(わうけ)のため国教(こくけう)のために(たたか)つて()んだのですもの、194(まつた)くウラルの(かみ)さまの御恵(みめぐみ)だと(おも)つて有難(ありがた)(かん)じて()りますわ。195ネー、196ハリスさま、197貴女(あなた)だつてさうお(かんが)へでせう』
198ハリ『何事(なにごと)(みな)199因縁事(いんねんごと)ですもの、200仕方(しかた)がありませぬわね』
201レ『イヤお二人(ふたり)とも、202立派(りつぱ)なお心掛(こころがけ)203向上会(かうじやうくわい)(わたし)今日(こんにち)上流(じやうりう)に、204こんな(かんが)への(ひと)があるかと(おも)へば(いささ)心強(こころづよ)くなつて()ました。205オイ、206マーク、207トルマンの国家(こくか)心配(しんぱい)()らないよ、208(よろこ)(たま)へ、209(この)若君(わかぎみ)(いただ)き、210(この)賢明(けんめい)左守(さもり)右守(うもり)のお(ぢやう)さまが(うへ)にある以上(いじやう)は、211国家(こくか)大磐石(だいばんじやく)だ。212(おれ)(たち)(いま)(まで)(じふ)(ねん)(あひだ)213国事(こくじ)改宗(かいしう)奔走(ほんそう)した曙光(しよくわう)(あら)はれたやうなものだ』
214マ『本当(ほんたう)にさうだ。215(ぼく)(なん)だか、216()から(よみがへ)つたやうな晴々(はればれ)した爽快(さうくわい)気分(きぶん)になつて()たよ。217(なん)()つても(とし)(わか)貴婦人(きふじん)()として、218(こま)(むち)()砲煙(はうえん)弾雨(だんう)(あひだ)を、219三軍(さんぐん)指揮(しき)して奔走(ほんそう)された女丈夫(ぢよぢやうぶ)だもの。220(ぼく)()(ごと)痩男(やせをとこ)(ひめ)さまの(まへ)ではサツパリ顔色(がんしよく)なしだ、221ハツハヽヽヽ』
222 かく(はなし)してゐる(ところ)223如意棒(によいぼう)(おと)がガラガラと(きこ)えて()た。
224レ『ヤ、225(また)番僧(ばんそう)がやつて()よつたな。226チウインさま、227どうか本名(ほんめい)()つちや、228いけませぬよ。229(みな)さま、230そのつもりでゐて(くだ)さい。231屹度(きつと)人員(じんゐん)調査(てうさ)にやつて()たのでせうから』
232チウ『よしよし、233心配(しんぱい)するな』
234番僧(ばんそう)『レールさま、235一寸(ちよつと)()()けて(くだ)さい』
236 レールは入口(いりぐち)(やぶ)()をガラリと(おし)()けニコニコし(なが)ら、
237『ヤア、238これはこれは、239(あさ)(はや)うから()苦労(くらう)御座(ござ)ります。240(なん)御用(ごよう)()りませぬが、241トツトと()這入(はい)(くだ)さい。242拙宅(せつたく)(この)(ごろ)はお(きやく)()えまして大変(たいへん)(にぎや)かう御座(ござ)ります。243(にはか)(ろく)(にん)家内(がない)となつたものですから、244(ふところ)(さむ)いレールにとつては(いささ)(こま)つて()りますわい。245貴方(あなた)(この)(ごろ)物価(ぶつか)騰貴(とうき)で、246さぞお(こま)りでせうな』
247(ばん)(きみ)()(とほ)248(ぼく)大変(たいへん)生活難(せいくわつなん)(おそ)はれてゐるのだ。249女房(にようばう)内職(ないしよく)で、250どうなりかうなり、251ひだるい()はせずに(くら)してゐるが、252随分(ずいぶん)(つら)いものだよ。253(きみ)はこれと()仕事(しごと)もしてゐないやうだが、254随分(ずいぶん)裕福(ゆうふく)(くら)しをしてゐるらしいね。255(かしは)(たた)いてあるぢやないか。256(しか)(この)()(にん)(かた)何処(どこ)から()られたのだ。257(じつ)(この)長屋(ながや)(かか)本山(ほんざん)密告(みつこく)して()たものだから、258職務(しよくむ)(じやう)調(しら)べぬ(わけ)にも()かず、259(また)(きみ)(にが)(かほ)をしられるのを()(なが)ら、260(これ)職務(しよくむ)(じやう)やむを()ないのだから、261一応(いちおう)取調(とりしら)べに()たのだ。262どうか(わる)(おも)はないやうにして(くだ)さい』
263レ『(ひさ)()りで郷里(きやうり)友人(いうじん)や、264(わたし)女房(にようばう)や、265マークの女房(にようばう)(たづ)ねて()てくれたのですよ。266明日(あす)はどうして()はうかと兵糧(ひやうろう)がつきたので頭痛(づつう)鉢巻(はちまき)をやつてゐた(ところ)267郷里(きやうり)からこの(とほ)(かしは)(こめ)(さけ)()つて()たものだから、268(ひさ)()りで()馳走(ちそう)にありつかうと(おも)つて、269(あさ)から立働(たちはたら)いてゐた(ところ)ですよ』
270(ばん)成程(なるほど)271どうも田舎(いなか)(ひと)らしいね。272(しか)(なが)田舎(いなか)にしては、273()ふと()まぬが、274垢抜(あかぬ)けのした(かた)(ばか)りだな』
275レ『(この)友人(いうじん)はバクシーと()つて、276チツト(ばか)財産(ざいさん)()つて()ります。277吾々(われわれ)二人(ふたり)国士(こくし)として国家(こくか)(ため)278身命(しんめい)()して活動(くわつどう)してゐるものだから、279妻子(さいし)(やしな)(こと)出来(でき)ないので、280(この)バクシーさまの(うち)へお世話(せわ)になり、281下女(げぢよ)奉公(ぼうこう)使(つか)つて(もら)つて()つた(ところ)282女房(にようばう)一度(いちど)(をつと)(かほ)()たい(かほ)()たいとせがむものだから、283遙々(はるばる)女房(にようばう)()れて、284バクシー夫婦(ふうふ)昨日(きのふ)()てくれたのです。285マアお(まへ)さま(ひさ)()りだ、286一杯(いつぱい)やつたらどうですか。287(べつ)貴方(あなた)職掌(しよくしよう)にも影響(えいきやう)するやうな(こと)はありますまい』
288(ばん)『イヤ、289有難(ありがた)う。290それでは一杯(いつぱい)頂戴(ちやうだい)しようかな。291(ぼく)だつて(おな)じトルマン(ごく)人民(じんみん)だ。292如意棒(によいぼう)をブラ()げて()()けの(ちが)ひだ。293(ひと)上司(じやうし)機嫌(きげん)(そん)じたが最後(さいご)294(たちま)丸腰(まるごし)になつて労働者(らうどうしや)仲間(なかま)()れて(もら)はなくちやならないのだから、295(いま)(うち)(きみ)(たち)懇親(こんしん)(むす)んでおかなくては、296(たちま)自分(じぶん)前途(ぜんと)(あん)じられて仕方(しかた)がないからな。297どうかレールさま、298よろしく(たの)みますよ』
299レ『(いま)高級(かうきふ)僧侶(そうりよ)(など)は、300何奴(どいつ)此奴(こいつ)(みな)賄賂(わいろ)をとつたり、301御用(ごよう)商人(しやうにん)結託(けつたく)して、302(あま)(しる)しこたま()ふてゐやがる餓鬼(がき)(ばか)りだ。303役僧(やくそう)(なか)でも比較(ひかく)(てき)潔白(けつぱく)なのは(きみ)(たち)番僧(ばんそう)仲間(なかま)だ。304それでも()ラマ(ぐらゐ)になると305随分(ずいぶん)予算外(よさんぐわい)収入(しうにふ)があると()(こと)だ。306(きみ)(たち)労働者(らうどうしや)(まへ)如意棒(によいぼう)()せて威張(ゐば)()らす(くらゐ)役得(やくとく)では(つま)らぬぢやないか。307普選(ふせん)()もなく実行(じつかう)される()(なか)だ。308(きみ)吾々(われわれ)仲間(なかま)這入(はい)つて向上(かうじやう)運動(うんどう)牛耳(ぎうじ)をとり、309会衆(ゑしう)にでも選出(せんしゆつ)されて、310国政(こくせい)宗政(しうせい)大改革(だいかいかく)断行(だんかう)(たま)へ。311月給(げつきふ)(やす)番僧(ばんそう)なんかやつて()つた(ところ)で、312つまらぬぢやないか。313何程(なにほど)出世(しゆつせ)したと()つた(ところ)で、314番僧(ばんそう)出世(しゆつせ)()ラマが(せき)(やま)だ。315それも三十(さんじふ)(ねん)(くらゐ)勤続(きんぞく)せなくちや、316そこ(まで)()ぎつける(わけ)にや()かないからな、317ハヽヽヽ』
318(ばん)『ウン、319そらさうだな。320会衆(ゑしう)にでも()て、321うまく立働(たちはたら)けば伴食(ばんしよく)浄行(じやうぎやう)(くらゐ)はなれるかもしれない。322(わる)くした(ところ)首陀頭(しゆだがしら)椅子(いす)(ぐらゐ)には()りつけるかも()れぬ。323生活(せいくわつ)保証(ほしよう)さへしてくれる(もの)があつたら、324(ぼく)今日(けふ)からでも辞職(じしよく)して(きみ)(たち)一緒(いつしよ)活動(くわつどう)するつもりだがな』
325レ『そりや面白(おもしろ)い、326番僧(ばんそう)(なか)でも、327(きみ)はどつか(ちが)つた(ところ)があると向上会(かうじやうくわい)(ゐん)仲間(なかま)からも()はれてゐるのだ。328(おも)ひきつて番僧(ばんそう)なんか(ぼう)にふり(たま)へ。329(きみ)生活(せいくわつ)は、330このバクシーさまが屹度(きつと)保証(ほしよう)して(くだ)さるよ。331さうしてバクシーさまに(つい)てさへ()れば、332最早(もはや)大磐石(だいばんじやく)だ。333寺庵(じあん)異持法(いぢはふ)334国士団(こくしだん)335…………(はふ)も、336(なに)も、337へつたくれも、338あつたものぢやない』
339チウ『こいツア面白(おもしろ)番僧(ばんそう)さまだ。340オイ(きみ)341(ぼく)(じつ)(ところ)342(うち)()つて()ふがチウイン太子(たいし)だ。343教政(けうせい)改革(かいかく)せむために向上会(かうじやうくわい)(ゐん)仲間(なかま)偵察(ていさつ)変装(へんさう)して()てゐるのだよ。344(きみ)もどうぢや、345今日(けふ)(かぎ)番僧(ばんそう)をやめて向上(かうじやう)運動(うんどう)没頭(ぼつとう)する()はないか。346浄行(じやうぎやう)(ぐらゐ)にや屹度(きつと)(ぼく)がしてやるよ』
347(ばん)本当(ほんたう)ですか、348(はら)(わる)い、349(ひと)(なぶ)るのでせう。350(おそ)(おほ)くも太子(たいし)(さま)が、351かやうな(ところ)へおいでなさる道理(だうり)はありますまい』
352チウ『因習(いんしふ)(とら)はれた現代人(げんだいじん)は、353太子(たいし)()へばどつか特種(とくしゆ)権威(けんゐ)でもあるやうに誤解(ごかい)してゐるが、354太子(たいし)だつて神柱(かむばしら)だつて355(しろ)(こめ)()つて(きいろ)(ふん)()れる代物(しろもの)だ、356ハツハヽヽヽ』
357(ばん)『イヤ(わか)りました、358間違(まちが)御座(ござ)りますまい。359(なん)だかどこともなしに気品(きひん)(たか)(ひと)(おも)つてゐましたが、360さうすると(この)()婦人(ふじん)(たち)(いづ)れも(くも)(うへ)生活(せいくわつ)(あそ)ばす貴婦人(きふじん)でせう。361(わたし)はテルマンと(まを)小本山(せうほんざん)番僧(ばんそう)御座(ござ)ります。362どうか(よろ)しう今後(こんご)()指導(しだう)(ねが)ひます。363如何(いか)なる御用(ごよう)でも犬馬(けんば)(らう)(をし)みませぬ』
364チウ『ハ、365よしよし、366これで新人物(しんじんぶつ)一人(ひとり)()つけた。367早速(さつそく)穫物(えもの)があつた、368ハヽヽヽ』
369 ()隙間(すきま)から太陽(たいやう)光線(くわうせん)五条(いつすぢ)六条(むすぢ)(くろ)ずんだ(たたみ)(うへ)()ち、370(けぶり)のやうな(ほこり)がモヤモヤと輪廓(りんくわく)(ゑが)いて浮游(ふいう)してゐる。371豆腐屋(とうふや)のリンが(かすか)(きこ)えて()る。372新聞(しんぶん)配達(はいたつ)のリンが一入(ひとしほ)(たか)(ひび)く。
373大正一四・八・二五 旧七・六 於由良海岸秋田別荘 北村隆光録)
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10/22【霊界物語ネット】王仁文庫 第六篇 たまの礎(裏の神諭)』をテキスト化しました。
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