第三九章 言霊解(げんれいかい)一〔三八九〕

001(かれ)ここに伊弉諾(いざなぎの)(みこと)()(たま)はく「(うつ)くしき()那邇妹(なにもの)(みこと)や、002()(ひと)()()へつるかも」と()(たま)ひて、003御枕(みまくら)べに匍匐(はらば)御足(みあと)べにはらばひて、004()(たま)(とき)に、005御涙(みなみだ)()りませる(かみ)は、006香山(かぐやま)畝尾(うねを)()(もと)にます、007御名(みな)泣沢女(なきさはめ)(かみ)008(かれ)()(かむ)()りましし伊弉冊(いざなみの)(かみ)は、009出雲(いづも)(くに)伯伎(ははき)(くに)との(さかひ)010比婆(ひば)(やま)(かく)しまつりき』
011 伊弉諾(いざなぎの)(みこと)(すなは)天系(てんけい)霊系(れいけい)(ぞく)する(かみ)でありまして、012(すべ)ての万物(ばんぶつ)安育(あんいく)するために地球(ちきう)修理(しうり)固成(こせい)されました、013国常立(くにとこたちの)(みこと)()後身(こうしん)たる御子(みこ)(かみ)(さま)でありますが、014古事記(こじき)にある(ごと)く、015迦具土(かぐつちの)(かみ)()れまして、016(すなは)今日(こんにち)は、017交通(かうつう)機関(きくわん)でも、018戦争(せんそう)でも、019生産(せいさん)機関(きくわん)でも火力(くわりよく)ばかりの()で、020()(かみ)(さま)(あら)ぶる()となつたのであります。021この()(かみ)()んで地球(ちきう)表現神(へうげんしん)たる伊弉冊(いざなみの)(みこと)神去(かむさ)りましたのであります。022この()(なか)(ほとん)生命(せいめい)がないのと(おな)じく、023神去(かむさ)りましたやうな状態(じやうたい)であります。
024 そこで伊弉諾(いざなぎの)(みこと)()(あい)する地球(ちきう)滅亡(めつぼう)せむとして()るのは、025迦具土(かぐつちの)(かみ)(うま)れたからであるが、026火力(くわりよく)(もつ)てする文明(ぶんめい)何程(なにほど)文明(ぶんめい)(すす)んでも、027()(なか)がこれでは(なん)にもならぬ。028地球(ちきう)には(かへ)られぬと()らせ(たま)はつたのであります。029これが『()(ひと)()()へつるかも』といふ(こと)であります。
030 (つぎ)に『御枕(みまくら)べに匍匐(はらば)御足(みあと)べにはらばひて』といふことは、031病人(びやうにん)にたとへると病人(びやうにん)腹這(はらば)ひになつて()んだのを(くや)(ごと)く、032病人(びやうにん)(おな)じく(よこ)になつて寝息(ねいき)(かんが)へたり、033()()でて()たり、034(また)()(みやく)をとつて()たり、035(あし)(みやく)をとつて()たり、036何処(どこ)(うへ)(はう)(いき)分子(ぶんし)がないか、037(あたま)(あた)(ところ)生気(せいき)はないか、038日本(やまと)(だましひ)()(のこ)つては()ないかと調(しら)見給(みたま)ひし(ところ)(ほとん)死人(しにん)同様(どうやう)上流(じやうりう)社会(しやくわい)にも、039下等(かとう)社会(しやくわい)にも(みやく)はなくて、040何処(どこ)にも生命(せいめい)はなくなつて()る。041(まつた)今日(こんにち)()(なか)はそれの(ごと)くに(あたた)かみはなく冷酷(れいこく)なもので、042(しか)道義心(だうぎしん)公徳心(こうとくしん)滅亡(めつぼう)して(しま)つて()るのであります。043それで()(かな)しみ(たま)(とき)に、044その(なみだ)(なか)()りませる(かみ)()泣沢女(なきさはめの)(かみ)というて、045これは大慈(だいじ)大悲(だいひ)大神(おほかみ)(さま)が、046地上(ちじやう)一切(いつさい)生物(せいぶつ)(あはれ)(たま)(ところ)同情(どうじやう)(なみだ)()ふことであります。047今日(こんにち)でも支那(しな)(ある)地方(ちはう)には泣女(なきをんな)といふのがあつて、048(ひと)()んだ(とき)(やと)はれて()きに()儀式(ぎしき)習慣(しふくわん)(のこ)つて()るのも、049これに起源(きげん)して()るのであります。
050 神去(かむさ)りました伊弉冊(いざなみの)(みこと)は、051(これ)死人(しにん)にたとへて出雲(いづも)(くに)伯耆(はうき)(くに)(さかひ)(はう)むられたと()いてありますが、052出雲(いづも)といふのは何処(いづく)もといふことで(また)雲出(くもいづ)(くに)といふことである。
053 今日(こんにち)(ごと)(みだ)()つて、054(うへ)(した)四方(しはう)八方(はつぱう)055(あや)しい(くも)(つつ)んで()るといふ(こと)であります。056伯耆(はうき)(くに)といふのは、057(はは)きといふことで雲霧(うんむ)()(はら)うと()ふことである。058科戸(しなど)(かぜ)吹払(ふきはら)うと()ふのもさうであります。059(すなは)(くに)(きよ)める精神(せいしん)と、060(くも)らす精神(せいしん)との(さかひ)()たれたのであります。061所謂(いはゆる)善悪(ぜんあく)正邪(せいじや)分水嶺(ぶんすゐれい)()つたものであります。062(じつ)(いま)世界(せかい)光輝(くわうき)ある神世(かみよ)(うる)はしき、063(たの)しき黄金(わうごん)世界(せかい)になるか、064絶滅(ぜつめつ)するか、065()(くに)(そこ)(くに)066地獄(ぢごく)()現出(げんしゆつ)するかの(さかひ)()つて()るのであります。
067比婆(ひば)(やま)(かく)し』といふ(こと)霊系(れいけい)(ぞく)し、068(あか)(はう)で、069太陽(たいやう)光線(くわうせん)といふ意義(いぎ)()ふのは、070(かさ)ねたもので、071これは(わる)いことを()したものであります。072(すなわ)霊主(れいしゆ)体従(たいじゆう)体主(たいしゆ)霊従(れいじゆう)との中間(ちうかん)(たち)て、073(かみ)時機(じき)()たせられたと()ふことであります。074()くして伊弉冊(いざなみの)(みこと)(すなは)地球(ちきう)国魂(くにたま)は、075半死(はんし)半生(はんしやう)状態(じやうたい)であるが、076(しか)天系(てんけい)(ぞく)する伊弉諾(いざなぎの)(みこと)純愛(じゆんあい)()精神(せいしん)から、077(この)地球(ちきう)惨状(さんじやう)()るに(しの)びずして、078迦具土(かぐつちの)(かみ)(すなわ)()文明(ぶんめい)(すす)んだため、079()うなつたといふので、080十拳剣(とつかのつるぎ)(もつ)迦具土(かぐつちの)(かみ)(くび)()(たま)うたのであります。081十拳(とつか)(つるぎ)()くと()(こと)は、082戦争(せんそう)(もつ)物質(ぶつしつ)文明(ぶんめい)悪潮流(あくてうりう)一掃(いつさう)さるる(こと)で、083所謂(いはゆる)(くび)()(たま)うたのであります。
084 この(くび)といふことは、085近代(きんだい)でいへば独逸(どいつ)のカイゼルとか、086某国(ぼうこく)大統領(だいとうりやう)とか()(すべ)ての首領(しゆりやう)()したのである。087(すなは)軍国(ぐんこく)主義(しゆぎ)親玉(おやだま)異図(いと)破滅(はめつ)せしむる(ため)に、088大戦争(だいせんそう)(もつ)戦争(せんそう)惨害(さんがい)(さと)らしむる神策(しんさく)であります。
089(ここ)伊邪那岐(いざなぎの)(みこと)090御佩(みはか)せる十拳剣(とつかのつるぎ)()きて、091(その)御子(みこ)迦具土(かぐつちの)(かみ)御頸(みくび)()(たま)ふ。092(ここ)(その)御刀(みはかし)のさきにつける()093湯津(ゆつ)石村(いはむら)にたばしりつきて、094()りませる(かみ)御名(みな)は、095石拆(いはさくの)(かみ)096(つぎ)根拆(ねさくの)(かみ)097(つぎ)石筒(いはつつ)()(をの)(かみ)098(つぎ)御刀(みはかし)(もと)につける()も、099湯津(ゆつ)石村(いはむら)にたばしりつきて()りませる(かみ)御名(みな)は、100甕速日(みかはやひの)(かみ)101(つぎ)樋速日(ひはやひの)(かみ)102(つぎ)建御雷(たけみかづち)()(をの)(かみ)103(また)御名(みな)建布都(たけふつの)(かみ)(また)御名(みな)豊布都(とよふつの)(かみ)104(つぎ)御刀(みはかし)手上(たがみ)にあつまる()105手俣(たまた)より()()()りませる(かみ)御名(みな)闇於加美(くらおかみの)(かみ)106(つぎ)闇御津羽(くらみつはの)(かみ)
107 十拳剣(とつかのつるぎ)(すなわ)神界(しんかい)よりの懲戒(ちようかい)(てき)戦争(せんそう)なる神剣(しんけん)発動(はつどう)(もつ)て、108自然(しぜん)軍国(ぐんこく)主義(しゆぎ)露国(ろこく)独乙(どいつ)(たふ)し、109カイゼルを失脚(しつきやく)させ、110そのとばしりが湯津(ゆつ)石村(いはむら)にたばしりついたのであります。111この湯津(ゆつ)石村(いはむら)につくといふことは、112とは(よる)がつづまつたもので、113(つづ)くのつづまつたもので、114(えう)するに()(つづ)くといふことになります。115彼方(あちら)からも此方(こちら)からも、116(くさ)片葉(かきは)言問(ことと)ひを(いた)しまして、117彼方(あちら)にも此方(こちら)にも、118種々(しゆじゆ)(くら)思想(しさう)勃発(ぼつぱつ)して、119各自(かくじ)勝手(かつて)主義(しゆぎ)なり意見(いけん)なりを()()らしまして過激(くわげき)主義(しゆぎ)だとか、120共産(きやうさん)主義(しゆぎ)だとか、121自然(しぜん)主義(しゆぎ)122社会(しやくわい)主義(しゆぎ)がよいとか、123専制(せんせい)主義(しゆぎ)がよいとか、124いろいろなことを()意味(いみ)になります。125(また)イハといふことは、126(かた)(うご)かぬ(くらゐ)といふことで、127ムラ(むら)がるといふ意義(いぎ)で、128(いは)とは尊貴(そんき)()129(むら)とは(すなは)(した)(はう)人間(にんげん)(むれ)といふことであります。130所謂(いはゆる)タバシリツクといふのは、131()(つづ)いて(うへ)にも(した)にも種々(しゆじゆ)雑多(ざつた)思想(しさう)主義(しゆぎ)喧伝(けんでん)されて()ることであります。132(すなは)ちたばしりついて()りませる(かみ)といふのは、133(うま)(いづ)ることではなくして、134()()りて(やか)ましいといふ(こと)であります。135その(かみ)御名(みな)甕速日(みかはやひの)(かみ)といふ。
136 (たい)137(かがや)くといふことで、138体主(たいしゆ)霊従(れいじゆう)(かみ)であります。139樋速日(ひはやひの)(かみ)霊主(れいしゆ)体従(たいじゆう)(かみ)であつて、140両者(りやうしや)より種々(しゆじゆ)なる思想(しさう)(たたか)ひが(おこ)るといふ(こと)であります。141(すなわ)主義(しゆぎ)(たたか)ひであります。142(つぎ)建御雷(たけみかづち)()(をの)(かみ)は、143直接(ちよくせつ)行動(かうどう)()ふことで、144霊主(れいしゆ)体従(たいじゆう)(こく)言向(ことむけ)平和(やはす)神国(かみくに)であるから、145滅多(めつた)にありませぬが、146体主(たいしゆ)霊従(れいじゆう)(こく)などは皆々(みなみな)建御雷(たけみかづち)()(かみ)であります。147(すなわ)露国(ろこく)のやうに、148支那(しな)のやうに皇帝(くわうてい)退位(たいゐ)せしめたり、149すべて乱暴(らんばう)をするとか、150焼討(やきうち)をするとか、151暴動(ばうどう)(おこ)すとか、152罷業(ひげふ)153怠業(たいげふ)するとかいふ()うな(こと)であります。
154 建御雷(たけみかづちの)(かみ)天神(てんしん)()使(つかひ)でありますが、155本文(ほんぶん)言霊(ことたま)(じやう)から(かんが)ふれば、156(ここ)はその意味(いみ)にはとれぬ、157争乱(そうらん)意味(いみ)になるのであります。158(また)()建布都(たけふつの)(かみ)159(また)豊布都(とよふつの)(かみ)といふのは(ぜん)(あく)方面(はうめん)()したもので、160(すべ)善悪(ぜんあく)美醜(びしう)相交(あひまじ)はるといふことになります。161(すなは)ちよき(とき)には(くる)しみが芽出(めだ)し、162(くる)しみの(とき)には(たのし)みが芽出(めで)して()るといふやうなものであります。
163 ()(なか)混乱(こんらん)すればする(ほど)164一方(いつぱう)(これ)立直(たてなほ)さむとする(ぜん)身魂(みたま)()いて()るといふ意味(いみ)であります。
165 十拳剣(とつかのつるぎ)(にぎ)つて()らるる鍔元(つばもと)(あつ)まる()といふのは、166各自(かくじ)過激(くわげき)思想(しさう)(いだ)いて()るといふ(こと)で、167()()かす(こと)であります。168(すなは)()またから()(いづ)ることになります。169この()またから()(いづ)ると()(こと)は、170厳重(げんぢう)警戒(けいかい)(やぶ)つて(あら)はるる(こと)であります。171闇於加美(くらおかみの)(かみ)といふことは、172世界中(せかいぢう)(うへ)(はう)にも非常(ひじやう)過激(くわげき)思想(しさう)(あら)はれるといふことであります。
173 (つぎ)闇御津羽(くらみつはの)(かみ)みつといふのは、174(みづ)でありまして、175(した)(はう)(すなわ)(たみ)のことで、176これも無茶(むちや)苦茶(くちや)悪思想(あくしさう)になつて、177()(なか)益々(ますます)闇雲(やみくも)になるといふことであります。
178 この(むかし)(こと)今日(こんにち)にたとへて()ますと独逸(どいつ)のカイゼルが失脚(しつきやく)したのも、179露国(ろこく)のザーが(ほろ)んだのも、180支那(しな)皇帝(くわうてい)がああなつたのも、181(みな)(てん)大神(おほかみ)十拳剣(とつかのつるぎ)(もつ)()られたのであります。182(かく)(ごと)(かみ)無形(むけい)神剣(しんけん)(もつ)()られるのであります。183それで人間(にんげん)(たたか)ふことになるのであります。184この(ころ)された迦具土(かぐつちの)(かみ)のことを現代(げんだい)にたとへますれば、185爆弾(ばくだん)とか大砲(たいはう)とか、186火器(くわき)ばかりで(たたか)ふのでありまして、187(ゆみ)とか()(たたか)ふのではありませぬ。188軍艦(ぐんかん)(うご)かすのも()(ちから)であります。189それで大神(おほかみ)(より)()(かみ)(ころ)されたといふことは、190惨虐(ざんぎやく)なる戦争(せんそう)()んだといふことになるのであります。191今回(こんくわい)()(ねん)(わた)世界(せかい)戦争(せんそう)結果(けつくわ)は、192迦具土(かぐつちの)(かみ)滅亡(めつぼう)意味(いみ)して()るのであります。
193大正九・一一・一 於五六七殿講演 外山豊二録)
194大正一一・二・一〇 旧一・一四 谷村真友再録)