第九章 香具の木の実〔一八四〇〕
001 紫微天界、002最奥霊国紫微の宮居に鎮まり居ます主の大神、003天之峯火夫の神は、004宮の清庭に弥茂り弥栄えつつ非時花咲き実る香具の木の実を、005左守の神に命じてむしり取らせ給へば、006其の数八十に及べり。
007 茲に主の神は虚空にスの言霊を鳴り出で給ひて、008香具の木の実を右手に握らせ呼吸を吹きかけ給へば、009艶麗なる女神の霊御口より生り出でまして香具の木の実に移らせ給ひ、010茲に艶麗なる女神の姿生り出でましぬ。011この女神の名は高野比女の神と申す。012次に一つの木の実を手握り玉の清水に滌ぎ給ひて御息を吹きかけ給へば又もや女神成り出で給ふ。013之を寿々子比女の神と申す。014かくして八十の香具の木の実は、015いづれも天下経綸の御柱として貴の女神と現れ出でませり。
016御鈴ふる厳の言霊幸はひて
017八十比女神は現れましにけり
018主の神は貴の木の実にみいきかけて
019天界経綸の種を生ませり
020国生みの神の神業のなかりせば
022顕津男の神の国生み御子生みは
023大経綸の基なりけり
024国を生み又天を生み神を生み
025人の子生める顕津男の功
026非時の香具の木の実は主の神の
028顕津男の神の神言は八十比女を
029御樋代として国をひらけり
030国々の国魂神を清らけく
031生みおほせたる八十の比女神
032比女神の生みの功は大宇宙
033大千世界をやすく照せり
034 茲に太元顕津男の神は、035主の神の神言かしこみ高野比女の神にみあひて、036高地秀の宮に永久に鎮まり居まし、037国を拓き神ををさめ、038水火の呼吸をくみ合せもやひ合せて雲を生み、039雨を降らせて、040あらゆる天界に湿りを与へ給へば、041国土に万物発生し、042天の狭田長田に瑞穂の稲は実り木の実は熟し、043大嘗の神業漸く完成を告げ給ふ事とはなれり。
044 顕津男の神は主の神の神言かしこみて宇都子比女の神、045朝香比女の神、046梅咲比女の神、047花子比女の神、048香具の比女の神、049小夜子比女の神、050寿々子比女の神、051狭別の比女の神を近く侍らせ神業に奉仕せしめ給ひぬ。052之を八柱の女神となも言ふ。053この外七十まり二柱の比女神を紫微宮界の東西南北、054遠近の国土に配りおきて、055神の御樋代となし、056大経綸を行ひ給ひしぞ畏けれ。
057(昭和八・一〇・一〇 旧八・二一 於水明閣 加藤明子謹録)