第一三章 (かみ)述懐歌(じゆつくわいか)(一)〔一八四四〕

001 太元(おほもと)顕津男(あきつを)(かみ)太陰(たいいん)機関(きくわん)として、002御霊(みたま)月界(げつかい)(とど)めて(その)肉体(にくたい)高地秀(たかちほ)(みや)(あさ)(ゆふ)なに(つか)へまし、003(かみ)経綸(しぐみ)(おこな)はむとして、004彼方(かなた)此方(こなた)教司(をしへつかさ)分配(まくば)りて天界(てんかい)経綸(けいりん)(つか)(まつ)れども、005(いづ)御霊(みたま)御教(みをしへ)誤信(ごしん)せる凡神(ぼんしん)個神的(こしんてき)小乗教(せうじやうけう)(かたむ)(かみ)のみ(おほ)くして、006国生(くにう)神生(かみう)みなる天界(てんかい)経綸(けいりん)()神業(しんげふ)(さと)らず、007種々(しゆじゆ)のあらぬことのみ()()らして力限(ちからかぎ)りに(さまた)ぐるぞ是非(ぜひ)もなき。008太元(おほもと)顕津男(あきつを)(かみ)高地秀(たかちほ)(みね)(のぼ)らせ(たま)ひ、009(てん)(はい)()(はい)述懐(じゆつくわい)(うた)(たま)ふ。
010()(かみ)()さしはおろそかならねども
011()(くだ)すべき余地(よち)もなきかな
012(くに)()神生(かみう)(よろづ)のものを()
013(わが)神業(かむわざ)(はた)()ざるか
014()(かみ)神宣(みこと)(かしこ)国魂(くにたま)
015(かみ)()まばやと(おも)朝夕(あさゆふ)
016(われ)にして(あや)しき(こころ)()たねども
017百神(ももがみ)(たち)はわが(みち)なみする
018ゆとりなき(こころ)()てる凡神(ただがみ)
019(しこ)のささやき由々(ゆゆ)しかりけり
020凡神(ただがみ)(こころ)(したが)(われ)なれば
021(さまた)げらるることもあるまじ
022凡神(ただがみ)(こころ)(かな)へば()(かみ)
023神慮(しんりよ)()はず(われ)如何(いか)にせむ
024()(かみ)大経綸(だいけいりん)()らずして
025(われ)()しさまに()ふぞうたてき
026()(かみ)(こころ)(ふか)(また)(ひろ)
027(ちひ)さき(かみ)如何(いか)(さと)らむ
028凡神(ただがみ)(はま)真砂(まさご)(かず)(ごと)
029(おほ)居坐(ゐま)せば詮術(せんすべ)もなし
030()(かみ)御心(みこころ)(さと)(さと)(かみ)
031(すくな)神世(みよ)経綸(しぐみ)(くる)
032遠近(をちこち)御樋代(みひしろ)(がみ)(くば)りあれど
033相見(あひみ)むよしも()()なりけり
034いすくはし(かみ)()まむと(あさ)(ゆふ)
035(ねが)ひしこともあだとなりぬる
036()(かみ)(つく)(たま)ひし天界(てんかい)
037清明(せいめい)真悟(しんご)(かみ)ぞすくなき
038()(かみ)()さしを如何(いか)(はた)さむと
039(われ)(ひさ)しく(なや)みけるかな
040皇神(すめかみ)()さし(たま)ひしくはし()
041(また)さかし()もあはむすべなし
042御依(みよ)さしに(そむ)くと(おも)へど天界(てんかい)
043(みだ)(おも)ひてためらふ(われ)なり』
044 ()(かみ)顕津男(あきつを)(かみ)天界(てんかい)経綸(けいりん)()(さづ)(たま)ひし八十(やそ)比女神(ひめがみ)は、045(いたづ)らに神命(しんめい)()ちつつ(なが)年月(としつき)経給(へたま)ひにける。046とりわけ側近(そばちか)(つか)(まつ)れる八柱(やはしら)比女神(ひめがみ)も、047凡神(ぼんしん)(ささや)(あま)(つよ)きに()(たま)ひて(むな)しく神業(みわざ)放棄(はうき)し、048只時(ただとき)(いた)るを()(たま)ふのみ。049(つひ)には()()(たま)ひて神業(みわざ)(はた)()ず、050()益々(ますます)(くも)らひ(すさ)びて、051さしもの天界(てんかい)()(つき)邪神(じやしん)蔓延(まんえん)し、052収拾(しうしふ)すべからざるに(いた)れるこそ是非(ぜひ)なけれ。
053 顕津男(あきつを)(かみ)(だい)勇猛心(ゆうまうしん)発揮(はつき)し、054(その)神業(みわざ)敢行(かんかう)せむと、055村肝(むらきも)(こころ)(こま)立直(たてなお)(たま)ひしこと幾度(いくたび)なりしか、056されど(つひ)には百神(ももがみ)雄猛(をたけ)びに(さまた)げられて、057遂行(すゐかう)(たま)はざりしこそ永劫(えいごふ)遺憾(ゐかん)なりける。058八柱(やはしら)御側(みそば)(ちか)(つか)(まつ)比女神(ひめがみ)は、059顕津男(あきつを)(かみ)(たい)述懐(じゆつくわい)()(たま)ふ。060()(おん)(うた)
061()(かみ)御霊(みたま)()けし寿々子(すずこ)比女(ひめ)
062(こころ)しらずやあが()岐美(きみ)
063(むす)ぼれし(こころ)()かむ(すべ)もなし
064神業(みわざ)(つか)ふる(ひま)にしなければ
065天界(てんかい)(けが)れを(みづ)寿々子(すずこ)比女(ひめ)
066(ふか)(なが)れに()()りにける
067天界(てんかい)はさやけく(ひろ)(くも)りたる
068(こころ)いだきて(ちぢ)まるべきやは
069(たま)()生命(いのち)(かぎ)(つか)へむと
070(おも)(まこと)岐美(きみ)()まずや
071吾心(わがこころ)(さび)しくなりぬ朝夕(あさゆふ)
072御側(みそば)(つか)へて詮術(せんすべ)なければ
073朝夕(あさゆふ)岐美(きみ)(つか)ふる()ながらも
074(ゆめ)うつつなる御霊(みたま)(われ)なり
075(ゆめ)かあらず(うつつ)かあらず(まぼろし)
076まぼろしならぬ岐美(きみ)神姿(みすがた)
077高地秀(たかちほ)(みや)朝夕(あさゆふ)(いの)りつつ
078まだ吾時(わがとき)(いた)らざりけり
079大神(おほかみ)()さし(たま)ひし(この)月日(つきひ)
080あだに(すご)さむ()こそうたてき
081()(かみ)大御心(おほみこころ)()(まつ)
082岐美(きみ)御旨(みむね)(さと)りては()
083()くさへも自由(じいう)にならぬ吾身(わがみ)なり
084(かみ)にある()殊更(ことさら)つらし』
085 顕津男(あきつを)(かみ)は、086(これ)(こた)へて(うた)(たま)はく、
087比女神(ひめがみ)(こころ)()まぬにあらねども
088(とき)(いた)るまで(しの)びて()ちませ
089(われ)とても木石(ぼくせき)ならぬ()にしあれば
090(なれ)(かな)しき(こころ)()れり』
091 寿々子(すずこ)比女(ひめ)(かみ)(うた)(たま)ふ。
092()くならば(つか)()さへも(しの)()
093岐美(きみ)(こころ)(よわ)きをかなしむ
094天地(あめつち)(はばか)(こと)のあるべきや
095()大神(おほかみ)()さしなりせば』
096顕津男の(かみ)()(かく)(しば)しの(あひだ)()たれたし
097(われ)にも(はる)(そな)へありせば』
098 ()(たがひ)(うた)取交(とりかは)(とき)(いた)るを()(たま)ひぬ。099朝香(あさか)比女(ひめ)(かみ)(また)御歌(みうた)()まし(たま)はく、
100岐美(きみ)(おも)(こころ)(やみ)にあらねども
101(おも)ひにもゆる朝香(あさか)比女(ひめ)(われ)
102あさからぬ朝香(あさか)比女(ひめ)(むね)()
103()()(たま)(みづ)大神(おほかみ)
104朝夕(あさゆふ)岐美(きみ)(はべ)らふ朝香(あさか)比女(ひめ)
105(ふか)(こころ)()ませ(たま)はれ
106(こころ)(よわ)岐美(きみ)(おも)ひて朝香(あさか)比女(ひめ)
107(あさ)(ゆふ)なのいきどうろしもよ
108(くも)りたる(かみ)(こころ)(むか)へます
109岐美(きみ)(こころ)(よわ)きをかなしむ
110()えさかる(ほのほ)()さむ(すべ)もなし
111幾度(いくたび)()なまく(おも)ひたりしよ
112顕津男(あきつを)(かみ)にいませば(あきら)けく
113(この)()()れて見合(みあ)ひましませ
114一度(ひとたび)のみとのまぐはひあらずして
115(しの)ばるべしやは(わか)()()
116(いづ)御霊(みたま)(かみ)(をしへ)(おも)けれど
117あまりの(かた)きをうらみつつ()
118()(かみ)(ゆる)(たま)ひし(みち)なれば
119如何(いか)でためらふことのあるべき』
120 顕津男(あきつを)(かみ)は、121(これ)(こた)へて御歌(みうた)()ませる。
122『あさからぬ真心(まごころ)(きよ)朝香(あさか)比女(ひめ)
123(なれ)(なや)みは(われ)()るなり
124(こころ)(よわ)(われ)にあらねど(いま)(しば)
125(まこと)(かみ)()づるまで()
126(われ)とても()さしの神業(みわざ)()げざるを
127(あさ)(ゆふ)なに(かな)しみて()り』
128 朝香(あさか)比女(ひめ)(かみ)(ふたた)(うた)(たま)ふ。
129朝夕(あさゆふ)をこめて(うら)みし(わが)(こころ)
130朝香(あさか)比女(ひめ)のあさましきかな
131()ゆる()火中(ほなか)()ちし心地(ここち)して
132(あさ)(ゆふ)なを岐美(きみ)(おも)()
133村肝(むらきも)(こころ)(まこと)岐美(きみ)(まへ)
134打明(うちあ)けしこそせめてもと(なぐさ)む』
135 宇都子(うづこ)比女(ひめ)(かみ)は、136顕津男(あきつを)(かみ)(まへ)御歌(みうた)()まし(たま)ふ。
137村肝(むらきも)(こころ)(ほのほ)(つつ)まれて
138つれなき岐美(きみ)(うら)むのみなる
139よしやよし百神(ももがみ)如何(いか)にはかゆとも
140(かみ)神業(みわざ)をばはかるべしやは
141岐美(きみ)こそは比古遅(ひこぢ)にませば(かみ)()
142経綸(しぐみ)のために(はばか)(たま)ふな
143朝夕(あさゆふ)御側(みそば)(ちか)(つか)へつつ
144岐美(きみ)にまみゆることの(くる)しき
145宇都比女(うづひめ)(うづ)(こころ)(あか)さむと
146岐美(きみ)御前(みまへ)言挙(ことあ)げするも
147岐美(きみ)(おも)(こころ)(いと)百千々(ももちぢ)
148(みだ)(みだ)れて()くよしもなし
149御側(みそば)(ちか)(つか)(まつ)らふ()ながらも
150言問(ことと)ふさへも(まま)ならぬ()
151(かに)()(よこ)さの(かみ)(こと)()
152(ひろ)(たま)はず()()てませよ
153言霊(ことたま)伊吹(いぶ)きの狭霧(さぎり)醜草(しこぐさ)
154(しこ)(こと)()()(はら)ひませ
155(おん)(そば)(はべ)るはつらし(おん)(そば)
156(はな)るるも()(われ)なりにけり
157神業(かむわざ)何時(いつ)()つるとも()らずして
158月日(つきひ)(おく)吾身(わがみ)をぞ(かな)しき
159(この)(うへ)(こころ)(こま)()(なほ)
160(われ)にゆるせよ一夜(いちや)(ちぎ)りを』
161 顕津男(あきつを)(かみ)162(こた)へて(うた)(たま)はく、
163手枕(たまくら)(ゆめ)()()()ながらも
164()()ることのあたはぬ(くる)しさ
165()(かみ)言訳(いひわ)()たず(そば)()
166()甲斐(かひ)もなきわが()(くる)しき
167(いま)(しば)神々(かみがみ)(こころ)()くるまで
168(とき)()たせよいとほしの(なれ)
169 宇都子(うづこ)比女(ひめ)(かみ)(ふたた)(うた)(たま)ふ。
170『はしたなき(をみな)()(ごと)()(かへ)
171岐美(きみ)なやませしことの(かな)しき
172(はづ)かしさ(くる)しさ(おも)はほてれども
173得堪(えた)()ねつつ真心(まごころ)のべしよ
174(この)(うへ)岐美(きみ)をなやます(ちから)なし
175(かみ)(まか)せて(とき)()たむか
176惟神(かむながら)(かみ)()さしのなかりせば
177かほどに(われ)(なや)まじものを』
178 梅咲(うめさく)比女(ひめ)(かみ)(また)述懐(じゆつくわい)(うた)()(たま)ふ。
179如月(きさらぎ)(うめ)()(はる)()ひながら
180かをるすべなき現身(うつせみ)(はな)
181大方(おほかた)(はる)陽気(やうき)(ただよ)へる
182(この)天界(てんかい)(さび)しむ(われ)なり
183(はる)()ちて(うめ)()比女(ひめ)のあだ(ばな)
184岐美(きみ)はあはれと思召(おぼしめ)さずや
185天地(あめつち)一度(いちど)(うめ)()比女(ひめ)のわれ
186(ちひ)さきことを如何(いか)(おも)はむ
187()(きみ)(くる)しき(こころ)(うべな)ひて
188(われ)はもださむ(はる)()なれど
189(ひら)くべきよしなき(はな)()りながら
190岐美(きみ)(こひ)しくなりまさりつつ
191(はる)()ちて(うめ)()比女(ひめ)初花(はつはな)
192(ひら)かむとして(しも)()たれつ
193(ゆき)()(しも)(あられ)()りて()
194(はる)をかかへし梅咲(うめさく)比女(ひめ)
195惟神(かむながら)(とき)(いた)るを()たむかと
196幾度(いくど)(こころ)立直(たてなほ)しつつ
197(くも)りたる()()(なか)(てら)します
198岐美(きみ)神業(みわざ)(くる)しさに()く』
199 顕津男(あきつを)(かみ)(うた)(たま)ふ。
200真心(まごころ)(きみ)真言(まこと)にあひてわれ
201(やす)くなりつつなほもかなしき
202百神(ももがみ)(しこ)のたけびは(おそ)れねど
203(みだ)()()(おも)ひてためらふ
204(いま)()(いづ)御霊(みたま)(みち)なくば
205わが神業(かむわざ)はやすしと(おも)へり
206さりながら(いづ)御霊(みたま)(ひかり)なくば
207(みづ)(ちから)(そな)はらざるべし
208(なれ)こそは(われ)(こころ)をよく()れり
209(われ)また(なれ)(こころ)をあはれむ
210ぬゑ(くさ)()にしあれども()(こころ)
211雄々(をを)しさ(あか)さに感謝(かんしや)(ねん)()
212(いま)(しば)()たせ(たま)へよ()(こころ)
213()はむ月日(つきひ)()きにあらねば
214朝夕(あさゆふ)神業(みわざ)(おも)ふわが(むね)
215(さと)らす(きみ)(こころ)(うれ)しも』
216 梅咲(うめさく)比女(ひめ)(かみ)(また)(うた)(たま)ふ。
217愛恋(いとこ)やの岐美(きみ)言霊(ことたま)(みみ)にして
218(うめ)()(はる)()心地(ここち)せし
219惟神(かむながら)岐美(きみ)(こころ)(まか)せつつ
220(しの)(まつ)らむ幾年(いくとせ)までも
221村肝(むらきも)(こころ)のたけを岐美(きみ)(まへ)
222(いま)あかしたることの(うれ)しき
223天界(てんかい)はよし(やぶ)るとも愛恋(いとこ)やの
224岐美(きみ)真言(まこと)(わす)れざるべき
225()(かみ)(つく)(たま)ひし天界(てんかい)にも
226朝夕(あさゆふ)かかる(なや)みを()つも
227真清水(ましみづ)昆虫(うじむし)のわく(ためし)あり
228天界(てんかい)なりとてかはりあるべき』
229 花子(はなこ)比女(ひめ)(かみ)(うた)
230天界(てんかい)非時(ときじく)(にほ)花子(はなこ)比女(ひめ)
231(はな)()もなく(つや)だにもなし
232天界(てんかい)(はな)()くべき吾身(わがみ)なり
233岐美(きみ)何故(なにゆゑ)手折(たを)りまさずや
234(はな)()()岐美(きみ)かもと朝夕(あさゆふ)
235(なみだ)(あめ)(うるほ)(われ)なり
236よしやよし百神(ももがみ)如何(いか)(そし)るとも
237(ためら)ふことなく手折(たを)(たま)はれ
238天国(てんごく)(はる)()ひたる花子(はなこ)比女(ひめ)
239(こころ)(とき)じく()時雨(しぐれ)かな
240(たま)()(いのち)までもと(おも)ひつつ
241(われ)()()紫雲英(げんげ)(はな)かも
242神業(かむわざ)はただに(かしこ)しためらひて
243ただ(いたづ)らに(すご)すべきやは
244朝夕(あさゆふ)につれ()岐美(きみ)(はべ)りつつ
245神業(かむわざ)()()()はうたてき
246(たま)()(いのち)()せむと(おも)ふまで
247(むね)(ほのほ)()(さか)りつつ
248炎々(えんえん)御空(みそら)をこがす火炎(くわえん)にも
249()(くる)しもよあつき(こころ)
250(いづ)御霊(みたま)(かみ)(をしへ)()きながら
251(みづ)御霊(みたま)をあはれと(おも)へり
252大局(たいきよく)()をつけずして百神(ももがみ)
253(ちひ)さきことに(こと)さやぐかも
254神界(しんかい)大経綸(だいけいりん)(さまた)ぐる
255(しこ)曲神(まがかみ)打払(うちはら)ひませよ』
256 顕津男(あきつを)(かみ)257(こた)へて(うた)(たま)ふ。
258愛善(あいぜん)(かみ)(をしへ)()()には
259如何(いか)ではふらむ(しこ)曲霊(まがひ)
260わが(ちから)(およ)ばむ(かぎ)()(さと)
261(あい)(ぜん)とに(てら)さむとぞ(おも)
262愛善(あいぜん)(こころ)しなくば(われ)とても
263経綸(しぐみ)神業(みわざ)ためらひはせじ
264瑞々(みづみづ)(みづ)御霊(みたま)神業(かむわざ)
265一神(ひとり)()てぬ(ちか)ひなりけり
266(はな)()もある(こと)()にほだされて
267(かな)しくなりぬ(なれ)真言(まこと)に』
268 花子(はなこ)比女(ひめ)(かみ)(また)(うた)(たま)ふ。
269(はな)()もある身魂(みたま)ぞと()らすこそ
270(いのち)にかへて(うれ)しかりけり
271よしやよし岐美(きみ)()()のあらぬとも
272(われ)はうらまじ(なげ)かじと(おも)
273曲神(まがかみ)(なか)(まじ)こり雄々(をを)しくも
274(しの)ばす岐美(きみ)(こころ)をいとしむ
275()()(われ)岐美(きみ)真心(まごころ)()(ゆゑ)
276(ただ)一度(ひとたび)言挙(ことあ)げせざりき
277神業(かむわざ)(たれ)はばからず(つと)むべき
278(とき)()ちつつ(たの)しみ(くら)さむ』
279昭和八・一〇・一一 旧八・二二 於水明閣 森良仁謹録)