第一八章 天の瓊矛〔二六八〕
001 この大変乱に天柱砕け、002地軸裂け、003宇宙大地の位置は、004激動の為やや西南に傾斜し、005随つて天上の星の位置も変更するの已むを得ざるに致りける。
006 さて大地の西南に傾斜したるため、007北極星および北斗星は、008地上より見て、009その位置を変ずるに至り、010地球の北端なる我が国土の真上に、011北極星あり、012北斗星またその真上に在りしもの、013この変動に依りて稍我が国より見て、014東北に偏位するに致りける。
015 また太陽の位置も、016我が国土より見て稍北方に傾き、017それ以後気候に寒暑の相違を来したるなり。
018 ここに大国治立命は、019この海月成す漂へる国を修理固成せしめむとし、020日月界の主宰神たる伊邪那岐尊および伊邪那美尊に命じ、021天の瓊矛を賜ひて天の浮橋に立たしめ、022地上の海原を瓊矛を以つて掻きなさしめ給ひぬ。
023 この瓊矛と云ふは、024今の北斗星なり。025北極星は宇宙の中空に位置を占め、026月の呼吸を助け、027地上の水を盛ンに吸引せしめたまふ。028北斗星の尖端にあたる天教山は、029次第に水量を減じ、030漸次世界の山々は、031日を追うて其の頂点を現はしにける。
032 数年を経て洪水減じ、033地上は復び元の陸地となり、034矛の先より滴る雫凝りて、035一つの島を成すといふは、036この北斗星の切尖の真下に当る国土より、037修理固成せられたるの謂なり。
038 太陽は復び晃々として天に輝き、039月は純白の光を地上に投げ、040一切の草木は残らず蘇生し、041而て地上総ての蒼生は、042殆ど全滅せしと思ひきや、043野立彦、044野立姫二神の犠牲的仁慈の徳によりて、045草の片葉に至るまで、046残らず救はれ居たりける。
048『神は餓鬼、049虫族に至る迄、050つつぼには落さぬぞよ』
051と示し給ふは、052この理由である。
053 アヽ有難きかな、054大神の仁慈よ。055唯善神は安全にこの世界の大難たる大峠を越え、056邪神は大峠を越ゆるに非常の困苦あるのみなりき。
057 而て仁慈の神は、058吾御身を犠牲となし禽獣魚介に至る迄、059これを救はせ給ひけり。060世の立替へ立直しを怖るる人よ。061神の大御心を省み、062よく悔い改め、063よく覚り、064神恩を畏み、065罪悪を恥ぢ、066柔順に唯神に奉仕し、067その天賦の天職を盡すを以て心とせよ。
068 惟神霊幸倍坐世。
069(大正一一・一・一八 旧大正一〇・一二・二一 外山豊二録)