第二一章 真木柱〔二七一〕
001 伊弉諾大神の又の御名を、002天の御柱の神といひ、003伊弉冊大神の又の御名を、004国の御柱の神といひ、005天照大神の又の御名を、006撞の御柱の神といふ。
007 この三柱の神は、008天教山の青木ケ原に出でまして、009撞の御柱の神を真木柱とし、010八尋殿を見立て給ひて、011天津神祖の大神を祭り、012月照彦神を斎主とし、013足真彦、014少名彦、015弘子彦、016高照姫、017真澄姫、018言霊姫、019竜世姫、020祝部、021岩戸別その他諸々の神人たちを集へて、022天津祝詞の太祝詞を詔らせ給へば、023久方の天津御空も、024大海原に漂ふ葦原の瑞穂の国も、025清く明く澄み渡りて、026祓戸四柱の神の千々の身魂の活力に復び美はしき神の御国は建てられたるなり。
027 ここに伊弉諾神は撞の御柱を中に置き、028左より此の御柱を行き廻り給ひ、029伊弉冊神は右より廻り合ひ給ひて、030ここに天地を造り固めなし給ひ、031国生み、032島生み、033神生み、034人生み、035山河百の草木の神を生み成し給ふ善言美詞を謡はせ給ひける。036その御歌、
037伊弉諾神『限り無く果てしも知らぬ大空の
039天津御空の果てのはて 040九山八海の火燃輝のアオウエイの
044父と母との言霊に
056七十五声生みなして
057果てしも知らぬ天地を 058造り給ひし大御祖
060左守の神と在れませる
061其の霊主体従の霊高き 062高皇産霊の大御神
063瑞の身魂の本津神 064神皇産霊の大神の
065御息は凝りて天の原
067搗き固めたる神の代と 068寄し給へる高天原の
071常磐堅磐につき立てし 072撞の御柱左より
074照る日の影も明らかに
076輝き渡る青木原
078清く治まる神の国
079清く治まる神の国 080好哉えー神の国
082と謡ひながら、083撞の御柱を左より廻り始め給ひける。
084 このとき撞の御柱を右よりい行き廻りて、085茲に二柱神は、086双方より出会給ひ、087国の御柱の神は、088男神の美はしき、089雄々しき御姿をながめ給ひて喜びに堪へず御歌を詠ませ給ひぬ。090その御歌、
091『久方の天津空より天降りまし 092黄金の橋のその上に
093月と撞との二柱
095天の浮橋度会の 096月雪花の神祭り
097斎ひ治めて伊弉諾の
099撞の御柱行き廻り
101嬉しき君に相生の 102千代万代も動きなく
103松の神代の礎を 104築き固めたる宮柱
105うつしき神代を五六七の世 106仁愛三会の鐘の音も
107鳴り響きたる青木原 108御腹の胞衣は美はしく
109生ひ立ち侍り天の下
111人を生みまし鳥獣
113天津御空の星の如 114生みふやします其の稜威
115見れども飽かぬ御姿の 116清きは真澄の鏡かな
117清きは真澄の鏡かも
119月日の神と生れませる
121愛ー男や、愛ー男 122斯る芽出度き夫神の
123天をば翔り地駆けり 124何処の果を求むとも
126天の御柱夫神の
129今日の祭りに嬉しくも 130善言美詞ほぎ奉る
131七十五声鈴の音も 132すべて芽出度き天の原
133皇御国と鳴り響く 134皇御国と鳴り響く
135一二三四五六七八九十 136百千万の神嘉言
137一二三四五六七八九十 138百千万の神嘉言
139百代も千代も変らずに 140百代も千代も変らずに
141汝と吾とは天地の
144と祝し給ひて、145淡島を生ませ給ひぬ。146この淡島は少名彦神、147国魂神として任けられたまひぬ。148されどこの島は御子の数に入らず、149少名彦神は野立彦神の御跡を慕ひて、150幽界の探険に発足さるる事とはなりける。
151(大正一一・一・二〇 旧大正一〇・一二・二三 外山豊二録)
152(第二一章 昭和一〇・二・一〇 於勝浦支部 王仁校正)