第二三章 諸教同根〔二七三〕
001 ここに伊弉冊命は返り歌詠まし給ひぬ。002其の歌、
004正しき清き秩序あり
005汝が命の宣言
010天にも地にも只一つ
011力と頼む汝が命
013たよるは汝が御魂一つ 014心の清き赤玉は
015魂の緒清く冴えわたり 016吾の御霊は月雪の
017色にも擬ふ白玉の 018天と地との真釣りあひ
019尊き御代に相生の 020松の神世の基礎を
021天より高く搗き固め 022地の底まで搗き凝らし
023天と地とは睦び合ひ 024力を協せ村肝の
025心一つに御子生まむ
027世は紫陽花の七かはり 028如何に天地変るとも
029汝と吾との其の仲は 030千代も八千代も変らまじ
033尽きせぬ縁は天伝ふ 034月に誓ひて大空の
035星の如くに御子生まむ 036生めよ生め生め地の上に
037仰げば高し久方の
039永久に栄ゆる汝がみたま 040阿那邇夜志愛袁登古
041阿那邇夜志愛袁登古
043八尋の殿にさし籠り 044天津御祖の皇神の
046御魂を永久に斎くべし』
047と声も涼しく歌ひ給ふ。
048 是より二神は撞の御柱を、049左右より隈なく廻り給ひて、050青木ケ原の真中に立てる八尋殿に立帰り、051息を休め給ひける。
052 ここに月照彦神、053足真彦、054弘子彦、055祝部、056岩戸別の諸神人は、057野立彦神、058野立姫神の御跡を慕ひて神界現界の地上の神業を終へ、059大地の中心地点たる火球の世界、060即ち根の国底の国に出でまして、061幽界の諸霊を安息せしめむため、062天教山の噴火口に身を投じ給ひける。
063 神徳高く至仁至愛にして、064至誠至直の神人は、065神魂清涼の気に充たされ、066さしもに激烈なる猛火の中に飛び入りて、067少しの火傷も負はせ給はず、068無事に幽界に到着し給ひぬ。
069 これらの諸神人は幽界を修理固成し、070かつ各自身魂の帰着を定め、071再び地上に出生して、072月照彦神は印度の国浄飯王の太子と生れ、073釈迦となつて衆生を済度し、074仏教を弘布せしめたまひけり。075ゆゑに釈迦の誕生したる印度を月氏国といひ、076釈迦を月氏と称するなり。
077 また足真彦は、078これまた月照彦神の後を逐ひて月氏国に出生し、079達磨となつて禅道を弘布したり。
080 時により処によりて、081神人の身魂は各自変現されたるなり。082何れも豊国姫命の分霊にして、083国治立命の分身なりける。
084 少名彦は幽界を遍歴し、085天地に上下し、086天津神の命をうけ猶太に降誕して、087天国の福音を地上に宣伝したまふ。
088 天道別命は天教山の噴火口より地中の世界に到達し、089これまた数十万年の神業を修し、090清められて天上に上り、091天地の律法を再び地上に弘布せり。092之を後世「モーゼ」の司と云ふ。
093 天真道彦命も同じく天教山の噴火口に飛び入り、094火の洗礼を受けて根底の国を探険し、095地上に出生して人体と化し、096エリヤの司と現はれてその福音を遍く地上に宣伝し、097天下救済の神業に従事したり。
098 また高皇産霊神の御子たりし大道別は、099日の出神となりて神界現界に救ひの道を宣伝し、100此度の変によりて天教山に上り、101それより天の浮橋を渡りて日の御国に到り、102仏者の所謂大日如来となりにける。103神界にてはやはり日出神と称へらるるなり。
104 また豊国姫命は地中の火球、105汐球を守り、106数多の罪ある身魂の無差別的救済に、107神力を傾注したまへり。108仏者の所謂地蔵尊は即ちこの神なり。
109 天教山は後にシナイ山とも称せらるるに至りぬ。110併し第一巻に表はれたるシナイ山とは別のものたるを知るべし。
111 弘子彦司は一旦根底の国にいたりしとき、112仏者の所謂閻羅王なる野立彦命の命により、113幽界の探険を中止し、114再たび現界に幾度となく出生し、115現世の艱苦を積みて遂に現代の支那に出生し、116孔子と生れ、117治国安民の大道を天下に弘布したりける。
118 然るに孔子の教理は余り現世的にして、119神界幽界の消息に達せざるを憂慮し給ひ、120野立彦命は吾が身魂の一部を分けて、121同じ支那国に出生せしめ給ひぬ。122之老子なり。
123(大正一一・一・二〇 旧大正一〇・一二・二三 井上留五郎録)