第二四章 富士鳴戸〔二七四〕
001 二柱は茲に撞の御柱を廻り合ひ、002八尋殿を見立て玉ひ、003美斗能麻具波比の神業を開かせ玉ひぬ。004美斗能麻具波比とは、005火と水との息を調節して、006宇宙万有一切に対し、007活生命を賦与し玉ふ尊き神業なり。008撞の御柱の根に清き水を湛へたまひぬ。009これを天の真奈井と云ひまた後世琵琶湖と云ふ。010撞の御柱のまたの御名を伊吹の御山と云ふ。011天の御柱の神は九山八海の山を御柱とし、012国の御柱の神は塩の八百路の八塩路の泡立つ海の鳴戸灘をもつて胞衣となし玉ひ、013地の世界の守護を営ませ玉ふ。014また鳴り鳴りて鳴りあまれる、015九山八海の火燃輝のアオウエイの緒所と云はれて居るは不二山にして、016また鳴り鳴りて鳴り合はざるは、017阿波の鳴戸なり。018『富士と鳴戸の経綸』と神諭に示し玉ふは、019陰陽合致、020採長補短の天地経綸の微妙なる御神業の現はれをいふなり。021鳴戸は地球上面の海洋の水を地中に間断なく吸入しかつ撒布して地中の洞穴、022天の岩戸の神業を輔佐し、023九山八海の山は地球の火熱を地球の表面に噴出して、024地中寒暑の調節を保ち水火交々相和して、025大地全体の呼吸を永遠に営み居たまふなり。026九山八海の山と云ふは蓮華台上の意味にして、027九山八海のアオウエイと云ふは、028高く九天に突出せる山の意味なり。029而て富士の山と云ふは、030火を噴く山と云ふ意義なり、031フジの霊反しはヒなればなり。
032 茲に当山の神霊たりし木花姫は、033神、034顕、035幽の三界に出没して、036三十三相に身を現じ、037貴賤貧富、038老幼男女、039禽獣虫魚とも変化し、040三界の衆生を救済し、041天国を地上に建設するため、042天地人、043和合の神と現はれたまひ、044智仁勇の三徳を兼備し、045国祖国治立命の再出現を待たせ玉ひける。046木花姫は顕、047幽、048神における三千世界を守護し玉ひしその神徳の、049一時に顕彰したまふ時節到来したるなり。050これを神諭には、
051『三千世界一度に開く梅の花』
052と示されあり。053木花とは梅の花の意なり。054梅の花は花の兄と云ひ、055兄をこのかみと云ふ。056現代人は木の花と云へば、057桜の花と思ひゐるなり。058節分の夜を期して隠れたまひし、059国祖国治立の大神以下の神人は、060再び時節到来し、061煎豆の花の咲くてふ節分の夜に、062地獄の釜の蓋を開けて、063再び茲に神国の長閑な御世を建てさせ玉ふ。064故に梅の花は節分をもつて花の唇を開くなり。065桜の花は一月後れに弥生の空にはじめて花の唇を開くを見ても、066木の花とは桜の花に非ざる事を窺ひ知らるるなり。
067 智仁勇の三徳を兼備して、068顕幽神の三界を守らせたまふ木花姫の事を、069仏者は称して観世音菩薩といひ、070最勝妙如来ともいひ、071観自在天ともいふ。072また観世音菩薩を、073西国三十三箇所に配し祭りたるも、074三十三相に顕現したまふ神徳の惟神的に表示されしものにして、075決して偶然にあらず。076霊山高熊山の所在地たる穴太の里に、077聖観世音を祭られたるも、078神界に於る何彼の深き因縁なるべし。079瑞月は幼少の時より、080この観世音を信じ、081かつ産土の小幡神社を無意識的に信仰したるも、082何彼の神の御引き合はせであつたことと思ふ。083惟神霊幸倍坐世。
085三十三魂は瑞霊の意なり。086また天地人、087智仁勇、088霊力体、089顕神幽とも云ひ、090西王母が三千年の園の桃の開き初めたるも三月三日であり、091三十三は女の中の女といふ意味ともなるを知るべし。
092（大正一一・一・二〇 旧大正一〇・一二・二三 加藤明子録）