澄子とのにはかの結婚は遠近の信徒の心を驚かせたり
あんな者が養子になつては神様ももうおしまひと足立が雄猛ぶ
結婚を祝せんとして京都より土田雄弘はるばる来る
折もあれ八木より福島夫婦づれ祝ひのためと綾部に来る
正信は口をきはめて朝夕のわが行状をののしりゐたり
かくなりし上は是非なし黙せよと四方平蔵頭をおさへる
正信と土田の意見衝突し争論の結果つかみあひせり
まづまづと二人をなだめ酒飲ませやつとその場はしづまりにけり
神様のことがあなたにわかるかと福島久子が口を尖らす
『久子』大本の大神様のあとを継ぐこと上田さん出来る覚悟か
『上田』そんなこと考へてをらぬ出来るのもまた出来ぬのも神の御心
『久子』何といふあなたは馬鹿なことをいふ出来ねばとつとと去んで下さい
『上田』去にたいはやまやまなれど神様に私は縛られ動けないのだ
『久子』平蔵さん困つた人を御養子にようまあ世話して下さりましたな
へヽヽヽと額に手をあて平蔵はうつぶしながら苦笑ひせり
『足立』金光教の教師の行状に比ぶれば話にならぬ天地の相違だ
『上田』さうだとも天地がひつくりかへるのだ神の経綸を御存知ないのか
『上田』かうなれば梃子でも棒でも動かない開祖はわが母澄子はわが妻
『上田』どうなつと勝手に相談するがよい私は神に任すばかりだ
『平蔵』こんな人と話は出来ぬ日が暮れる皆さん開祖にまかせませうぞや
一同は不平不満の面もちに長き春日は暮れ果てにけり
竹村や足立や春蔵面面の策動たちまち烟と消えたり
長い物にまかるるが当世と森津老が俄に吾を尊敬し初めたり