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腕力

インフォメーション
題名:腕力 著者:出口王仁三郎
ページ:95
概要: 備考:『故山の夢』p162-167 タグ: データ凡例: データ最終更新日:2023-11-01 08:08:24 OBC :B121808c44
─二十三四歳の頃─
牛乳の得意先なる本町(ほんまち)の内藤菓子屋にいつもやすらふ
牛乳の配逹をはればかへり()は内藤(かた)に休むをつねとす
十六(くわん)砂糖のつつみかつがむと共肌(もろはだ)ぬいできばりかけたり
二十(くわん)の五()(べう)(まい)楽楽(らくらく)とかつげる自分とあなどりてかかる
(なか)なかに砂糖の包みおもくして千辛(せんしん)万苦(ばんく)やつとかつぎぬ
砂糖(づつみ)かつぎあぐれば店員は両手を()つて一斉にわらふ
十六(くわん)の砂糖づつみにあらずして其実(そのじつ)三十二(くわん)ありけり
初めより三十二(くわん)と聞きしならばこの砂糖(づつみ)かつげざるベし
何事も人は気分で勝つものとこの(とき)初めてさとりたるわれ
主人なる内藤(ないとう)半吾(はんご)氏とそれ以後は水魚(すゐぎよ)(まじは)り結びたりける
内藤氏四十一歳われはまだ二十三歳のわかものなりけり
町風呂(まちぶろ)にはじめて()りて軽石(かるいし)顔面(がんめん)こすりいたみくるしむ
町風呂(まちぶろ)ゆ帰れば顔は真赤(まつか)いにただれて血さへにじみゐたりし
井上(ゐのうへ)にきびしく破顔(はがん)の原因を問はれて実状あかし笑はる
軽石は足のきびすを洗ふもの顔は石鹸であらへと笑へり
それ以後は井上獣医(われ)を呼ぶに軽石さんと綽名(あだな)なしたり
軽石といはれて腹の立つままに巨石を運びて(とこ)にすゑたり
二十(くわん)の土のついたる重石(おもいし)をすゑたるを見て井上おこる
コン畜生(いし)をどつかへもつて行けこの軽石()とどなりて()まず
軽石といはねば石を持ち出すといつて井上困らせにけり
これからは軽石なんかいはぬ(ゆゑ)持ち出してくれよとやはらかに出る
素裸になつて石をばかつぎ上げ畳に(おと)して(ゆか)をぬいたり
虫の()床板(ゆかいた)もろくもへし折れて石は床下(ゆかした)に落ちて動かず
大工(だいく)をば呼んでうせろと(かん)ばつた井上の声に飛び出しにけり
(つね)大工(だいく)無理にたのんで連れ帰りやつと床板(ゆかいた)張りてもらひぬ
こんな奴書生(しよせい)に置いちやたまらぬと(にはか)妻帯(さいたい)のはなしはじまる
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