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一〇 母の背

インフォメーション
題名:10 母の背 著者:出口澄子
ページ:
概要: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日: OBC :B124900c12
001 母は栗柄(くりから)の糸ひきがすむと、002綾部に帰ってきてくださいました。003そうして屑買いをつづけられました。
004 私はそのころ上町(かんまち)ひょうじさんという茶の製造をしているところにいって働きました。005子供にでもできる茶()りをさしてもらって、006いくらもらっていたのかは忘れましたが、007日当をもらってかえりました。008母さんは夜になって家に帰ってこられますと、009よく私を(せな)におんぶして歩いて下さいました。010近所の人に、011「昼は茶()りにやらしますので、012夜にこうして負うてやりますんじゃ」と言われていました。013そのころは母さんと私の二人暮らしでしたし、014私はおッきくなってもこうして、015しじゅうおんぶしてもらって歩いてもらいました。
016 これは母が帰神(かむがかり)におなりになるまえでありました。017糸とりの仕事もないころで、018商売も思わしくなく、019教祖さまも収入がないので困っておいでの時でした。020ある日(はかま)をはいた人が家にはいってきました。021役場の人であります。022そのころの町役場の役人は洋服をきている人はなく、023みんな(はかま)をはいていました。024私の家にきた役人は家中(かちゅう)(士族やしき)のひらわさんという爺さんで町の上納係りで税金の督促にきたのでありました。025その人を見ると教祖さまは小さな私の蔭にかくれるようにして、026そっと奥にゆかれました。
027 しばらくして出てこられ「今できませんから」といって断わっていられました。028その時の母さんの顔を私はおばえています。029教祖さまはこの時のことを(のち)に警察で申されています。030「今日生活(くらし)ができぬ者に上納がおくれたと言って三銭ずつ足代(あしだい)をとって、031それで酒を飲んでうまかったか」とえらいけんまくで役人のやり方を怒られたのであります。032また「下の者をいじめるより、033大きなところに(ぞく)がいるではないか」と言われたのも、034その日のことがあって世の中のことを考えられたからでありましょう。035教祖さまが帰神(かむがかり)になられますまえは、036なにか一つ大へん強いものが、037あのやさしかった母さんからチラチラと見え初めていたように思います。
038 教祖さまはふだんは屑買いにはげまれ、039ある時は糸ひきにでかけられました。040また下駄の鼻緒の内職をされていることもありました。
041 教祖さまのなされた糸くりも鼻緒の仕事も紙屑を集められたことも、042みな神界から見れば大きな意味があったのであります。
043 ことに教祖さまの“紙屑集め”と清吉(せいきち)兄さんの“紙()き”は神界からの大きなお仕組みでありました。
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