新五月二十七日日本海大海戦は始まりにけり
露国艦隊全滅なしてわが国の前途漸く輝きそめたり
日の本の空をとざせし妖雲は晴れそめにつつ人気湧き立つ
国民の心にかかりし黒雲も漸く晴れて英気みなぎる
日本海戦勝感謝の祭典はいたるところに行はれたり
神前感謝
綾部町八幡神社の神前に感謝せむとてわれ詣でたり
安心はまだ出来ぬとて役員は悲観の雲にとざされてをり
日本の勝つて兜の緒をしめる時来れりと役員は祈る
旅順港二〇三地の占領もこれにて漸く確信つきたり
吾れも亦やつと心を安んじていよいよ布教の旅せむと思ふ
丹波栗
夏も過ぎ秋の半となりぬれば栗の赤き実殼を割り初む
丹波栗はじけ初めたる状を見て布教の勇気とみに加はる
栗さへもはじけて出づる秋となりいよいよ聖地を立ち出でむと思ふ
四尾山木木の梢は色つきて綾部の天地に秋は深めり
本宮山の秋
本宮の山に住まへる改森の頭照らして秋陽耀ふ
本宮山にわが上り行けば改森の親爺喜び茶をすすめける
またしても本宮山を買ひ取れと改森六左衛門は勧むる
本宮山いくらに売るかと尋ぬれば一万円ときり出しにけり
一万円に買おうといへば改森は三万円と俄かに高くいふ
この親爺相手にすれば馬鹿にさると黙して何も答へざりけり
慾ぼけ親爺に
慾ぼけの改森親爺山柿の熟れしを二つむしりて進むる
改森の進むる柿を喰ふ折りに大声あげて立ち上る親爺
四五人の子供が柿をむしりをるを窓より眺めて呶鳴りしなりけり
改森は吾れを一室に残しおき尻引つからげかけ出しにけり
ややありて親爺は子供を引つとらへ何人の子となじり問ひをり
親の名をいふのはこらへて下されと大地に手をつき子供はあやまる
改森は他の子供の親の名をきかせときびしくせめたてて居り
一年間苦心の柿をむざむざとぬすまれ腹が立つと呶鳴れり
この状をわれそばに居て眺めつつ子供に代りあやまりやりたり
ともかくも金で話がつくことと改森親爺うそぶきにけり
柿代を二円渡せば警察へ出すのは許すと改森雄猛ぶ
金二円子供に代りてつぐのふといへば改森合掌をなす
気の毒ですまぬけれども頂くと如才なき事いふ親爺なり
いつも柿をぬすむ子供の親の名は知つてゐますと親爺ほほゑむ
改『桃も栗も柿もあんずもぬすまれて日日の生活おびやかされます』
悪人の多い此の世の中にしてあなたは誠に善人といふ
この山は三万円なら今すぐに約束しますと重ねて彼いふ
十円の金さへ持たぬ吾れにして山を買ふとはやま言ひしなり