自分が神霊の世界に目覚めかけてから今日に至るまで満五年に垂んとする。此間の境遇の変化、思想の推移、覚れる時の歓天喜地、迷へる時の煩悶苦慮、又共鳴者を得たる喜び、誤解者に遇へる痛心落胆、さては何物にも換へ難き胸底の覚悟、生死を超越せる国家の大事──此等一伍一什の体験をそのままに葬り去つて了ふのは余りに貴重であり、実質があり過ぎる。縦令千万人が声を揃へて狂と呼び、愚と嘲り、パラノイアと譏り、誇大妄想と名けうとて、一里半毫も自分の信念を傷けることは出来ない。
実をいふと現在の自分は五年以前の自分とは異なり、何等文筆上の野心もなければ、又他の同情に縋らんとする女々しさもない。従つて筆を執るなどは聊か億劫な感じもする、が折角神から授けられたる破天荒の経験──少くとも最近二千年来地上の人類の大多数に許されざりし特殊の経験閲歴をそのままに黙殺し去るも、決して神慮に協へる業ではないと信ずるから、大正日日の再刊を機とし、百忙中に一閑を割き、思ひ出のまにまに、筆を走らさんと決心した次第である。万一途中に故障起りて執筆の遑なく、編集者と読者とに迷惑を及ぼす虞がありては相済まぬ次第であるから、成るべく、一挿話一事件毎に標題を改めて個々独立せしめようと思ふ。しかしその実は連続せる自己五年間の閲歴の続き物である。