言霊学より見たる鳥
王仁
此一篇は、出口教主の旧稿中の一節です。言霊学活用の一端を御紹介する為めに掲載しました。(編者)
◎鶴
ツルとは、ツルの反ツにして、ツは続き列なりて百千の数を宰るの言なり、是を名として鶴といふなり、故に千百の齢を保つなり、此鳥続き列なるの霊有るを以て、一度来りし所には三度四度来り、一度にして止むことなし。万葉集に佐可故要底阿部乃田面爾為流多豆乃等毛思吉伎美波安須佐倍母我毛と在りて、鶴は一度にては止まぬといふ事を含みたる歌なり。
◎田鶴
タヅとは、タは多きこと列なることなり。ツルの反ツにしてタツといふ田は借字にして多鶴の義なり。
芦辺乎左志底田鶴鳴渡るなどいふは鶴の群立ちて鳴き渡ることなり
◎葦田鶴
アシタヅとは、アシの反イにしてイは命のことなり。ツは鶴にて命列鶴といふことなり。葦は借字なれば字義に迷ふ可らず。アシタとは命の長きといふことを鶴に冠せたるの詞なり。
◎雁
カリとは、カリの反キにして気なり、天地の気に霊合ひなり、是を名としてカリといふなり、故に此の鳥は天地の気に従ひて、天の気の垂る方に彼が気も共に垂るなり、此地に天の気垂るる秋は彼が気と共に此地に垂て気垂り春亦た天の気彼地に垂る時は彼が気と共にたれて行くなり、彼は只天の気の垂るる方を気垂として天気を秋とす、彼が方角に北といふも無く秋といふもなし。世の人北方を指して彼が故郷の如くいふも彼の地に子が産むの故なり、北に子を産むといふも天地の気に従ふの故なり、女は陰にして気垂るを以て既に女御を北の方と唱ふるは此の義なり。この鳥秋此地に気垂りて春亦た彼の地に帰るに時を違へず、故に一名をカリガネといふ、カネの反ケにしてケは差別正を宰る言にして兼て違はざるを名としてカリガネといふ、子を鳴音に設けていふは活用なり。
◎鴨
カモとは、カは数のこと、モは母ふことにして数多く母ふを名としてカモといふ故に万葉集に
鴨毛古呂などいふモは母ふこと、コは凝こと、ロは固ることにて、友を連れて母ひ固り群り居ることなり。
◎鴎
カモメとは、カモは数母の義なり、メはムレの反のメにして、数々母ひて群がるといふ名としてカモメといふなり、即ち鴨の類なり。
◎鴉
カラスとは、カラの反カなり、カは黒き事なり、スは鳥の霊にして黒き鳥といふ名なり、此鳥の鳴く音カアの二言を鳴く也、カは明暗の差別のことなり、アは天なり、故に昼夜の差別を知りて暁天を告げ、亦能く物の差別を知る故に吉凶を知る事を宰るなり。
◎鶏
ニハトリとは二羽鳥の義なり、諸鳥皆二羽ならざるは無しと雖も、此鳥は雌鳥能く雄鳥を助けて暁を告ぐ。
(暁を知るは雌鳥にして声を為は雄也)能く雌雄相睦みて片時も離れざるの名なり、此鳥の鳴くはカキクケコの一行に音あり、是を反にしてコケカアと鳴くなり。人は吹く息を以て言いふ故にカキクケコといふ、鳥は入息を宰りて鳴く故に反に鳴くなり、コケカアといふコは凝ることにして刻なり、ケは正しきこと、カは別ること、アは親音の響にして時々刻々を正しく別くるといふ声なり、故に暁のヽの刻より時々ヽヽを正し別けて告るなり。亦一名カケといふ、カは別るること、ケは正しきことにしてヽヽを正し別るといふ名なり。亦一名クタカケといふクは与むこと、タは列なること、カは別るること、ケは正しきことにして、時々刻々を与み列ねて正しく別るといふ名なり。亦一名ユフツゲ鳥といふ、即ち夕告鳥といふ義なり、亦一名イヘツドリといふ、是は野鳥に対したる名にして家に居る鳥といふことなり。
◎鵲
カササキとは、カは暉火なり、ササキとは割き割きのキの二言を一言に約めてカササギといふ、即ち火割割の義にして、朝に日の割き割き放れて暉くを宰る鳥といふ名なり。鴉には大小あり、大なるを鴉といひ小なるを鵲といふなり、烏鴨は烏なり、別に黒小鳥のあるにはあらず、鴉は夕暮を告げ鵲は暁を告るの鳥なり、朝暮鳴音に心を留めて聞き試む可し。必ず其の差別ある事を知る。本一にして二の名を為す也。扨て此の鴉と鶏は衆鳥に勝れし霊鳥なり、漢国にては鳳凰を以て霊鳥として太古に在りしも今は無し、皇国の霊鳥は古今に絶へず。考ふるに天地は本来何の為に創造せらるる乎、曰く人の為に創造せられる故に鴉に命じて朝暮を告げしめ、鶏に命じて時刻を報ぜしめ、人に五穀を与へて口腹を養ひ、〓を与へて肌を暖ため、牛馬に命じて労を助け、食物乏しければ魚肉を与へ(五穀実らざる年は海魚必ず多し)天地万物に命じて人を助け給ふこと親として子を養ふが如し。
◎千鳥
チドリとは、チは一より百千の数を宰る言なり、故に多数鳥といふ名なり、其義に因りて千の字を借りて千鳥とも書く、即ち冬の小鳥をいふなり。
◎百千鳥
モモチドリとは、モモは母母にて百々に通ふ、群小鳥のいふ名なり、故に百千鳥と書くも総ての小鳥の謂なり。
◎稲負背鳥
イナオフセドリとは、イナは稲なり、オセフは負背にして稲の中に群がる野雀の名にて秋の小鳥なり。
◎止都宣教鳥 一名鶺鴒
トツギオシヘ鳥とは、トは与むこと、ツは連ること、キは気なり、ヲシヘは教にして男女の気与み連なるを教ふる鳥といふ名なり、漢名是をセキレイといふ、セキの反シにしてレイの反リなり、即ちシリなり、故に此の鳥は尻を動かして女男の交ることを教ふるの名なり。
◎呼小鳥
ヨブ小鳥とは何鳥といふ定まりあるにあらず、只鳴く音の呼ぶが如くなるを以て名と為す、呼ぶといふに用あり、既に兼好法師の徒然草に呼小鳥鳴く時に招魂の法を行ふと書きたる人なども、人の将に死んとする時に其子名を呼んで鳴くことを指して呼子鳥といふ。何にても呼ぶといふに用あるなり、総て此小鳥は子取の霊合にて天地初て息を生るに小鳥を先とす、小鳥子を取々て然して大鳥を後に産む天地神霊子を取るの御伝は別に此小鳥の名にありと雖も複雑なれば改めて詳説する時あるべし。(未完)
[#次号に続きがある]