霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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回顧録

インフォメーション
題名:回顧録 著者:瑞月(出口王仁三郎)
誌名:神霊界 掲載号: ページ:59
概要: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2026-07-31 05:48:26 文字数:18546 OBC :M192919210201c10
派生[?]この文献を底本として書かれたと思われる文献です。[×閉じる]出口王仁三郎著作集 > 第一巻 神と人間 > 『霊界物語』 抄 > 回顧録
瑞月
 王仁(わたし)明治(めいぢ)丗一(ねん)(きう)(がつ)九日(ここのか)神使(しんし)(ともな)はれ丹波(たんば)穴太(あなを)霊山(れいざん)高熊山(たかくまやま)に一週間(しうかん)霊的(れいてき)修行(しうげふ)()えてより天眼通(てんがんつう)天耳通(てんじつう)自他神通(じたしんつう)天言通(てんげんつう)宿命通(しゆくめいつう)大畧(たいりやく)神得(しんとく)し、治教(ちけう)皇道(かうどう)大本(おほもと)教義(けうぎ)をして今日(こんにち)あるに(いた)らしめたるに(つい)ては、千変(せんぺん)万化(ばんくわ)波瀾(はらん)があり、縦横(じうわう)無限(むげん)曲折(きよくせつ)()る。旧役員(きうやくゐん)反抗(はんかう)信者(しんじや)離反(りはん)官憲(くわんけん)圧迫(あつぱく)宗教家(しうけうか)迫害(はくがい)親族(しんぞく)知友(ちいう)総攻撃(そうこうげき)新聞(しんぶん)雑誌(ざつし)単行本(たんかうぼん)熱罵(ねつば)嘲笑(てうせう)社会(しやかい)誤解(ごかい)(とう)(じつ)筆紙(ひつし)口舌(こうぜつ)()くする(ところ)のもので()い。王仁(わたし)唯々(ただただ)開教後(かいけうご)廿四年間(ねんかん)経緯(いきさつ)(きは)めて簡単(かんたん)記憶(きおく)より喚起(かんき)して、()一端(いつたん)(しめ)(こと)にする。
 
 皇道(かうどう)大本(おほもと)には変性(へんじやう)男子(なんし)神系(しんけい)と、変性(へんじやう)女子(によし)神系(しんけい)との二大(にだい)神系(しんけい)が、歴然(れきぜん)として区別(くべつ)されて()る。出口(でぐち)大教祖(だいけうそ)国祖(こくそ)国常立尊(くにとこたちのみこと)表現神(へうげんしん)として綾部(あやべ)()高天原(たかあまはら)(あら)はれ、神世(しんせい)出現(しゆつげん)予言(よげん)警告(けいこく)(はつ)し、(もつ)神世出現(よはね)神業(しんげふ)専行(せんかう)し、(みづ)(もつ)身魂(みたま)洗礼(せんれい)(ほどこ)し、救世主(きりすと)再生(さいせい)再臨(さいりん)()つて()られたので()る。ヨハネの(はじめ)てキリストに対面(たいめん)する(まで)には(ほと)んど七(ねん)(あひだ)()(さけ)びつつ()つたのである。そして変性(へんじやう)男子(なんし)女体(によたい)男霊(だんれい)にして、五十七(さい)(はじ)めて(ここ)(いづ)御魂(みたま)神業(しんげふ)参加(さんか)(たま)ひ、明治(めいぢ)二十五(ねん)(せう)(がつ)元旦(がんたん)より、(どう)四十五(ねん)(せう)(がつ)元旦(がんたん)まで、前後(ぜんご)(まん)二十年間(ねんかん)水洗礼(すゐせんれい)(もつ)現世(げんせ)汚濁(をだく)せる体系(たいけい)一切(いつさい)洗礼(せんれい)(ほどこ)し、世界(せかい)革命(かくめい)神策(しんさく)実現(じつげん)(たま)ふたのである。()欧刕(おうしう)大戦乱(だいせんらん)(ごと)きは、(いづ)御魂(みたま)神業(しんげふ)発動(はつどう)にして、三千(さんぜん)世界(せかい)一大(いちだい)警告(けいこく)であつたのである。
 変性(へんじやう)女子(によし)(みづ)御魂(みたま)神業(しんげふ)参加(さんか)奉仕(ほうし)し、(れい)(もつ)世界(せかい)万民(ばんみん)洗礼(せんれい)(ほど)こすの神務(しんむ)である。明治(めいぢ)丗一(ねん)の二(がつ)九日(ここのか)(もつ)瑞霊(ずゐれい)表現者(へいげんしや)として(あら)はれ、大正(たいしやう)(ねん)(がつ)九日(ここのか)(もつ)前後(ぜんご)(まん)二十年間(ねんかん)霊的(れいてき)神業(しんげふ)完成(くわんせい)したのである。物質(ぶつしつ)万能(ばんのう)主義(しゆぎ)無神(むしん)無霊魂(むれいこん)(せつ)に、心酔(しんすゐ)累惑(るゐわく)せる体主(たいしゆ)霊従(れいじう)現代(げんだい)も、(やや)覚醒(かくせい)(ゐき)(たつ)し、神霊(しんれい)実在(じつざい)認識(にんしき)するもの()(つき)(おほ)きを(くわ)(きた)れるは、(すなは)瑞霊(ずゐれい)偉大(ゐだい)なる神機(しんき)発動(はつどう)結果(けつくわ)にして、(けつ)して人智(じんち)人力(じんりよく)(いた)(ところ)では()いのである。
 (あやま)れる信者(しんじや)(なか)には、今日(こんにち)皇道(かうどう)大本(おほもと)発展(はつてん)天下(てんか)覚醒(かくせい)は、役員(やくゐん)信者(しんじや)忠実(ちうじつ)熱心(ねつしん)なる努力(どりよく)結果(けつか)なりと(しよう)すれども、如何(いか)神智(しんち)偉能(ゐのう)ありとも、厳瑞(げんずゐ)二霊(にれい)深甚(しんじん)なる()経綸(けいりん)と、神界(しんかい)()加護(かご)なくしては、一人(いちにん)(いへど)首肯(しゆかう)せしめ入道(にうだう)せしむる(こと)出来(でき)ないのである。
 
 変性(へんじやう)男子(なんし)は五十七(さい)にして神世開祖(よはね)神業(しんげふ)()り、爾来(じらい)二十(いう)年間(ねんかん)神筆(しんぴつ)()るひ、(もつ)物質界(ぶつしつかい)大改正(だいかくせい)促進(そくしん)し、(いま)霊界(れいかい)()りても()神業(しんげふ)継続(けいぞく)奉仕(ほうし)されつつ()るのである。
 (つぎ)変性(へんじやう)女子(によし)は三十年間(ねんかん)神業(しんげふ)奉仕(ほうし)して(もつ)五六七(みろく)神政(しんせい)成就(ぜうじゆ)()ち、世界(せかい)道義的(だうぎてき)統一(とういつ)し、(もつ)神皇(しんかう)徳沢(とくたく)(よく)せしむるの神業(しんげふ)であると()く。神業(しんげふ)奉仕(ほうし)以来(いらい)本年(ほんねん)(もつ)(まん)二十三(ねん)(のこ)る七ケ(ねん)こそ女子(によし)()りて、(もつと)重大(じうだい)なる任務(にんむ)遂行(すゐかう)難関(なんかん)である。神諭(しんゆ)(いは)く、『三十(ねん)身魂(みたま)立替(たてかへ)立直(たてなほ)しと(いた)すぞよ』と。変性(へんじやう)男子(なんし)の三十(ねん)神業(しんげふ)成就(ぜうじゆ)は、大正(たいしやう)十一(ねん)(せう)(がつ)元日(がんじつ)である。変性(へんじやう)女子(によし)の三十(ねん)神業(しんげふ)成就(ぜうじゆ)は、大正(たいしやう)十七(ねん)(がつ)九日(ここのか)である。神諭(しんゆ)に、身魂(みたま)立替(たてかへ)立直(たてなほ)しとあるを、()(かんが)へて()ると、(すゐ)洗礼(せんれい)体系的(たいけいてき)革命(たてかへ)が三十(ねん)であつて、(これ)はヨハネの奉仕(ほうし)すべき神業(しんげふ)であり、(れい)洗礼(せんれい)霊魂(れいこん)(てき)革令(たてなおし)が、前後(ぜんご)三十(ねん)(えう)すると()神示(しんじ)である。(しか)(なが)ら三十(ねん)神示(しんじ)されたのは、大要(たいえう)(しめ)されたもので、(けつ)して確定(かくてい)(てき)のものでは()い。伸縮(しんしゆく)遅速(ちそく)到底(たうてい)(まぬが)れない。(これ)神界(しんかい)()方針(はうしん)一定(いつてい)不変(ふへん)であつても、天地(てんち)経綸(けいりん)司宰(しさい)たるべき奉仕者(ほうししや)身魂(みたま)(けん)不研(ふけん)()つて変更(へんかう)されるのは()むを()ないのである。
 神諭(しんゆ)に『天地(てんち)(もと)先祖(せんぞ)(かみ)(こころ)真実(ほんと)徹底了解(わかり)たものが三(にん)()りたら樹替(たてかへ)樹直(たてなほ)しは出来(でき)るなれど、神界(しんかい)(まこと)(わか)りた人民(じんみん)()いから(かみ)何時(いつ)までも()()(こと)出来(でき)ぬから、(はや)改心(かいしん)(いた)して(くだ)されよ。一人(ひとり)(わか)りたら、(あと)信者(しんじや)(わか)つて()るなれど、肝心(かんじん)御方(おかた)(わか)らぬと()ふのも、(これ)には(なに)(ひと)つの原因(わけ)()けねば()らぬぞよ。自然(しぜん)()()(まで)()つて()れば、神業(しぐみ)段々(だんだん)(おく)れる(ばか)りなり、(こころ)から発根(ほつこん)との改心(かいしん)()ければ、(をし)へて(もら)ふてから合点(がつてん)する(やう)身魂(みたま)では、到底(たうてい)この大神業(だいしんげふ)(つと)まらぬぞよ』云々(うんぬん)
 実際(じつさい)()経綸(けいりん)(わか)つて()なくては、空前(くうぜん)絶後(ぜつご)大革正(だいかくせい)神業(しんげふ)完全(くわんぜん)奉行(ほうかう)する(こと)出来(でき)るものでは()い。(じつ)神様(かみさま)歯痒(はがゆ)(おも)つて()らるるでありませう。
 
 ()神諭(しんゆ)身魂(みたま)樹替(たてかへ)樹直(たてなほ)しと()(こと)がある。大抵(たいてい)信者(しんじや)は、()身魂(みたま)混同(こんどう)して、ミタマと()へば霊魂(れいこん)のみの(こと)(おも)つて()(ひと)沢山(たくさん)()るらしい。()身体(しんたい)(また)物質界(ぶつしつかい)()し、(たま)とは霊魂(れいこん)心性(しんしやう)神界(しんかい)()(たま)ふたのである。(すべ)宇宙(うちう)(れい)(たふと)く、(たい)()ぎと()つて()る。()方面(はうめん)(すなは)物質(ぶつしつ)(てき)現界(げんかい)改革(かいかく)断行(だんかう)されるのは国祖(こくそ)大国常立(おほくにとこたちの)(かみ)であり、精神界(せいしんかい)神霊界(しんれいかい)改革(かいかく)断行(だんかう)したまふのは、豊国主(とよくにぬし)(かみ)顕現(けんげん)たる(みづ)御魂(みたま)神権(しんけん)である。(ゆゑ)宇宙(うちう)一切(いつさい)霊界(れいかい)(しゆ)であり、現界(げんかい)(じう)であるから、(これ)(しよう)して霊主(れいしゆ)体従(たいじう)()ふのである。
 大本(おほもと)信者(しんじや)大部分(だいぶぶん)真正(しんせい)神諭(しんゆ)了解(れうかい)出来(でき)()ないから、体的(たいてき)経綸(けいりん)神業者(しんげふしや)ヨハネを(しゆ)とし、霊的(れいてき)経綸(けいりん)神業者(しんげふしや)(じう)として()(ひと)(おほ)い。()全部(ぜんぶ)体主(たいしゆ)霊従(れいじう)信仰(しんかう)堕落(だらく)して()るのである。神諭(しんゆ)に『(うしとら)金神(こんじん)(てん)()先祖(せんぞ)(さま)五六七(みろく)大神(おほかみ)(さま)()命令(めいれい)()けて、三千(さんぜん)世界(せかい)身魂(みたま)立替(たてかへ)立直(たてなを)しを(いた)すぞよ。それに(つい)ては、(てん)神様(かみさま)()()りて御手伝(おてつだい)(あそ)ばすぞよ』とあり、((てん)神様(かみさま)()()りて御手伝(おてつだい)(あそ)ばすぞよ)との神示(しんじ)注意(ちうい)すべきである。(この)(あひだ)神界(しんかい)()経綸(けいりん)(わか)らなければ、皇道(かうどう)大本(おほもと)真相(しんさう)(わか)らぬ。真相(しんさう)(わか)らぬから何時(いつ)までも体主(たいしゆ)霊従(れいじう)(あやま)つた宣伝(せんでん)続行(ぞつかう)して益々(ますます)天地(てんち)大神(おほかみ)()経綸(けいりん)(さまた)ぐる(こと)になるのである。神諭(しんゆ)にも『途中(とちう)鼻高(はなだか)(われ)はヱライと慢心(まんしん)いたして、(かみ)尻敷(しりしき)にいたして()るぞよ』とあるが、(これ)(わか)つた(ひと)が、一日(いちにち)(はや)()()()しい。()(たま)一致(いつち)して神業(しんげふ)完成(かんせい)するのは、三代(さんだい)御用(ごよう)()(こと)も、以上(いじやう)消息(せうそく)(わか)つて()ない(あひだ)は、実現(じつげん)するもので()いのである。
 神諭(しんゆ)にも『()大本(おほもと)男子(なんし)女子(によし)との筆先(ふでさき)と、言葉(ことば)とで(ひら)経綸(しぐみ)であるから、(ほか)(おしへ)(もち)()(ひら)ひたら大変(たいへん)間違(まちが)ひが出来(でき)()て、(かみ)経綸(しぐみ)邪魔(じやま)になるから、役員(やくゐん)御方(おんかた)心得(こころえ)(くだ)されよ。慢神(まんしん)(いた)して()()したら、(かみ)真似(まね)(いた)して筆先(ふでさき)人民(じんみん)()したら、何辺(なんべん)でも後戻(あともど)りを(いた)すぞよ。(いま)初発(かかり)であるから、()(やう)(いた)して、御用(ごよう)()いて(もら)はねばならぬなれど、五六七(みろく)(さま)がお(いで)ましになりたら、男子(なんし)女子(によし)(ほか)筆先(ふでさき)()されんぞよ』云々(うんぬん)所々(ところどころ)(しめ)されてある。()筆先(ふでさき)()神意(しんい)新聞紙(しんぶんし)(こと)では()い。(えう)するに役員(やくゐん)さん(たち)発行(はつかう)されつつある単行本(たんかうぼん)(うち)でも、教義的(けうぎてき)意味(いみ)(ふく)んだものを()されたのである。何程(なにほど)人間(にんげん)智慧(ちゑ)学文(がくもん)(ちから)でも、深玄(しんげん)微妙(びめう)なる神様(かみさま)大御心(おほみこころ)(わか)るもので()い。(ゆゑ)大本(おほもと)歴史(れきし)(かん)する著述(ちよじゆつ)差支(さしつか)えないが、(いやし)教義(けうぎ)(かん)する著書(ちよしよ)は、神諭(しんゆ)(わか)つた役員(やくゐん)信者(しんじや)から根本的(こんぽんてき)改変(かいへん)して(もら)はぬと、何時(いつ)(まで)神様(かみさま)公然(あつぱれ)(あら)はれ(たま)(こと)出来(でき)ぬので()ります。
 今迄(いままで)著書(ちよしよ)(いへど)も、全部(ぜんぶ)(あやま)つて()るのでは()い。(ただ)教義的(けうぎてき)意味(いみ)ある箇所(かしよ)(かぎ)つて人意(じんい)混同(こんがう)して()るだけである。(しか)(なが)ら、仮令(たとへ)(いち)小部分(せうぶぶん)でも間違(まちが)つて()つては(じつ)大変(たいへん)である。王仁(わたし)学者(がくしや)意味(いみ)尊重(そんちよう)して、今日(こんにち)(まで)隠忍(いんにん)して和光(わかう)同塵(どうじん)(さく)()して()たのであるが、最早(もはや)今日(こんにち)()つては信者(しんじや)(おほ)く、(また)神霊界(しんれいかい)読者(どくしや)()(つき)増加(ぞうか)し、天下(てんか)注意(ちうい)()()うに()つて()たから、黙視(もくし)するに(しの)びず、(なみだ)()んで()稿(かう)()いたので()る。何程(なにほど)立派(りつぱ)(かみ)(かか)つて、(しよ)(あら)はしたり、(くち)()いても根本(こんぽん)経綸(けいりん)(わか)つた(かみ)はない。(みな)近頃(ちかごろ)(あら)はれる(かみ)託宣(たくせん)予言(よげん)全部(ぜんぶ)守護神(しゆごじん)大本(おほもと)神諭(しんゆ)(さぐ)り、()たり八合(はちがう)(こと)()つて()るもの(ばか)りである。今後(こんご)()()所々(ところどころ)(にせ)予言者(よげんしや)(にせ)救主(すくひぬし)出現(しゆつげん)して、世人(せじん)(まよ)はせ、世人(せじん)をして()本末(ほんまつ)軽重(けいちよう)(あやま)らしむる(こと)()()るから、読者(どくしや)深甚(しんじん)なる注意(ちうい)(のぞ)次第(しだい)であります。
一 霊山修行
 高熊山(たかくまやま)上古(じやうこ)高御座(たかみくら)(やま)(しよう)し、(のち)高座(たかくら)()ひ、(つい)高倉(たかくら)(しよ)し、(つゐ)転訛(てんか)して高熊山(たかくまやま)()つたので()る。丹波(たんば)穴太(あなを)山奥(やまおく)にある高台(たかだい)で、上古(じやうこ)には開化(かいくわ)天皇(てんのう)(まつ)りたる延喜式(えんぎしき)(ない)小幡(をばた)神社(じんじや)()つた(ところ)である。武烈(ぶれつ)天皇(てんのう)継嗣(けいし)(さだ)めむと()(たま)ふた(とき)穴生(あなふ)皇子(わうじ)はこの山中(さんちう)(かく)れたまひ、高倉山(たかくらやま)一生(いつしやう)(おく)らせ(たま)ふたと()古老(こらう)伝説(でんせつ)(のこ)つて()霊山(れいだん)である。天皇(てんのう)()うしても皇子(わうじ)行衛(ゆくへ)(わか)らぬので()むを()皇族(かうぞく)(えい)(さが)()して継体(けいたい)天皇(てんのう)御位(みくらゐ)(ゆづ)(たま)ふたので()ります。(また)()高熊山(たかくまやま)には古来(こらい)(ひとつ)(なぞ)(のこ)つて()る。
朝日(あさひ)()る、夕日(ゆふひ)(かがや)く、高倉(たかくら)の、()()躑躅(つつじ)()(もと)に、黄金(こがね)(にはとり)小判(こばん)(せん)(れう)()けおいた』
 (むかし)から時々(ときどき)()()れぬ(とり)()いて、里人(さとびと)()げたと()(こと)である。王仁(わたし)登山(とざん)する(ごと)に、三葉(みつば)躑躅(つつじ)(かぶ)()いかと(さが)して()たが、何時(いつ)見当(みあた)らなかつた。(さく)(ねん)(はる)信者(しんじや)(とも)登山(とざん)して休息(きうそく)して()ると、王仁(わたし)脚下(あしもと)に、その()()躑躅(つつじ)()えて()るのを見出(みいだ)し、(はじ)めて()(うた)(なぞ)()けたのであります。
 朝日(あさひ)()ると()意義(いぎ)は、天津(あまつ)日継(ひつぎ)天皇(てんわう)御稜威(みいづ)旭日(きよくじつ)東天(とうてん)(いきほひ)(もつ)て、八紘(はつかう)(かがや)(わた)り、夕日(ゆふひ)(かが)やくてふ、西洋(せいやう)諸国(しよこく)までも皇徳(かうとく)光被(くわうひ)(たま)黄金(わうごん)時代(じだい)()(こと)であつて、()霊山(れいだん)神威(しんゐ)霊徳(れいとく)()()かれた神界(しんかい)(なぞ)である。
 ()()躑躅(つつじ)とは、三の御霊(みたま)瑞霊(ずゐれい)()である。ツツジの言霊(ことたま)は、万世(ばんせい)一系(いつけい)天壌(てんじやう)無窮(むきう)皇運(かううん)扶翼(ふよく)(まつ)神人(しんじん)()である。小判(こばん)(せん)(りやう)()けおいた、大判(おほばん)(かみ)意味(いみ)し、小判(こばん)(しも)にして、確固(かくこ)不動(ふどう)権力(けんりよく)(ばん)()ふのである。(すなは)小判(こばん)小幡(こばん)ともなり、神教顕現地(こばん)ともなるのである。穴太(あなを)産土(うぶすな)小幡(をばた)神社(じんじや)鎮座(ちんざ)ありしも、()祭神(さいじん)開化(かいくわ)天皇(てんのう)であつたのも、(ふか)神策(しんさく)()りませる(こと)と、恐察(けうさつ)()るのである。(これ)(おも)へばアア明治(めいぢ)卅一(ねん)如月(きさらぎ)九日(ここのか)富士(ふじ)浅間(せんげん)神社(じんじや)祭神(さいじん)木花(このはな)咲耶姫(さくやひめの)(みこと)神使(しんし)芙蓉(ふよう)仙人(せんにん)(みちび)かれて当山(たうざん)王仁(わたし)(いつ)週間(しうかん)神示(しんじ)修行(しうぎやう)(めい)ぜられたのも、(けつ)して偶然(ぐうぜん)では()いのであります。
 神示(しんじ)随々(まにまに)高熊山(たかくまやま)出修(しゆつしう)したる王仁(わたし)霊力(れいりよく)発達(はつたつ)程度(ていど)は、非常(ひじやう)迅速(じんそく)であつた。汽車(きしや)よりも飛行機(ひかうき)よりも、電光(でんくわう)石火(せきくわ)よりも迅速(じんそく)霊的(れいてき)研究(けんきう)進歩(しんぽ)したのである。(たと)えば幼稚園(えうちえん)生徒(せいと)大学(だいがく)卒業(そつげふ)して、博士(はかせ)地位(ちゐ)(すす)んだ()うな進歩(しんぽ)であつた。過去(くわこ)現在(げんざい)未来(みらい)透徹(とうてつ)し、神界(しんかい)秘奥(ひおう)窺知(きうち)()ると(とも)に、現界(げんかい)出来事(できごと)なぞは数百(すうひやく)(ねん)数千(すうせん)(ねん)(のち)まで知悉(ちしつ)()られたのである。(しか)(なが)ら、(すべ)一切(いつさい)神秘(しんぴ)(ぞく)今日(こんにち)(これ)詳細(しやうさい)発表(はつぺう)する(こと)出来(でき)ないのを遺憾(ゐかん)とする次第(しだい)である。
 (ゆゑ)王仁(わたし)前後(ぜんご)一週間(いつしうかん)()ける修行(しうげふ)()りて肉体(にくたい)霊魂(れいこん)(じやう)()たる神徳(しんとく)結果(けつか)発表(はつぺう)する(こと)にのみ、(とど)めて()かうと(おも)ふ。
二 業の意義
 霊界(れいかい)(げふ)()へば世間(せけん)一般(いつぱん)深山(しんざん)幽谷(ゆうこく)(はい)つて、出世間(しゆつせけん)(てき)難行(なんぎやう)苦行(くぎやう)(こと)とのみ(かんが)えて()(ひと)(おほ)(やう)である。跣足(はだし)裸体(はだか)になつて、山神(さんじん)(やしろ)立籠(たてこも)断食(だんじき)()し、断湯(だんたう)をなし、火食(くわしよく)()めて神仏(しんぶつ)祈願(きぐわん)()らし、(めう)動作(どうさ)()し、異行(いかう)(あへ)てする(こと)(もつ)徹底(てつてい)(てき)修行(しうげう)完了(かんれう)した()うに(おも)ひほこる人々(ひとびと)(おほ)いのである。
 (すべ)(げふ)(ぎやう)である以上(いじやう)顕幽(けんゆう)一致(いつち)身魂(しんこん)一本(いつぽん)真理(しんり)()り、顕界(けんかい)(おい)可及(かきふ)(てき)大活動(だいくわつどう)()(もつ)天地(てんち)経綸(けいりん)奉仕(ほうし)するのが第一(だいいち)(ぎやう)である。例之(たとへ)一ケ(げつ)でも人界(じんかい)事業(じげふ)(はい)して山林(さんりん)隠遁(いんとん)し、怪行(かいかう)異業(ゐげふ)熱中(ねつちゆう)するは一ケ月間(げつかん)社会(しやかい)損害(そんがい)であつて、所謂(いはゆる)神界(しんかい)怠業者(たいげふしや)(また)罷業者(ひげふしや)である。(すべ)神界(しんかい)(げふ)()ふものは現界(げんかい)(おい)生成(せいせい)化育(かいく)進取(しんしゆ)発展(はつてん)事業(じげふ)(つく)すを(もつ)第一(だいいち)要件(えうけん)とせねばならぬ。
 今日(こんにち)大本(おほもと)()一部(いちぶ)人士(じんし)(やう)何事(なにごと)惟神(かんながら)々々(かんながら)()つて(なん)()け、(やす)きに()かむとするは神界(しんかい)より御覧(ごらん)()ると(じつ)不都合(ふつがふ)不届(ふとどき)至極(しごく)(やつ)()はねばならぬのである。(すこ)しも責任(せきにん)観念(かんねん)()ふものが()いのみか、(つく)すべきを(つく)さずして神業(しんげふ)妨害(ばうがい)(ばか)()(なが)ら、(かへ)つて神界(しんかい)(たい)して不足(ふそく)(ばか)()つて()る。(これ)大本(おほもと)内部(ないぶ)黄泉(よもつ)醜人(しこびと)である。神諭(しんゆ)に、『綾部(あやべ)大本(おほもと)へは世界(せかい)落武者(おちむしや)()()るから用心(ようじん)をせよ』と()(こと)(しめ)されてある。神界(しんかい)(げふ)()ふものはそんな軽々(かるがる)しき容易(ようい)なものでは()い。
 
 王仁(わたし)(まへ)()べた(やう)山林(さんりん)分入(わけい)りて修行(しうぎやう)する(こと)批難(ひなん)して()きながら、肝心(かんじん)()本尊(ほんぞん)は一週間(しうかん)高熊山(たかくまやま)(ぎやう)をしたのは、自家(じか)撞着(どうちやく)(はなは)だしいでは()いかとの、反問(はんもん)()るであらうが、(しか)王仁(わたし)はそれ(まで)に二十七年間(ねんかん)俗界(そくかい)での修行(しうぎやう)遂行(すゐかう)した。()卒業式(そつげふしき)とも()ふべきものであつて、生存中(せいぞんちう)(ただ)(かい)のみ空前(くうぜん)絶後(ぜつご)実修(じつしう)であつたのである。
 ()には釈迦(しやか)でさへ檀特山(だんとくざん)(おい)(すう)年間(ねんかん)難行(なんぎやう)苦行(くげふ)をやつて仏教(ぶつけう)(ひら)ひたではないか、それに(わづ)か一週間(しうかん)(ぐらゐ)(げふ)で、三世(さんぜ)達観(たつかん)する(こと)()()うになつたとは(あま)りの大言(だいげん)では()るまいかと、疑問(ぎもん)(いだ)人々(ひとびと)もあるであらうが、釈迦(しやか)印度国(いんどこく)浄飯王(じやうぼんわう)太子(たいし)(うま)れて社会(しやかい)(あら)風波(かぜなみ)()ふた(こと)()()ンさんであつたから、(すう)年間(ねんかん)種々(しゆじゆ)苦難(くなん)(あぢ)はつたのである。王仁(わたし)(これ)(はん)幼少(えうしやう)より極貧(ごくひん)家庭(かてい)(うま)れて、社会(しやかい)所在(あらゆる)辛酸(しんさん)()(つく)して()たために、高熊山(たかくまやま)(のぼ)(まで)顕界(けんかい)修行(しうげふ)()え、(また)幾分(いくぶん)かは幽界(ゆうかい)消息(しやうそく)にも(つう)じて居つたからである。それ(ゆゑ)(わづ)か一週間(しうかん)(ぐらゐ)修行(しうげふ)(こう)(あら)はしたのである。
三 現界の苦行
 高熊山(たかくまやま)修行(しうげふ)は一時間(じかん)神界(しんかい)修行(しうげふ)()せられると、現界(げんかい)は二時間(じかん)比例(ひれい)修行(しうぎやう)()せられたのである。(しか)し二時間(じかん)現界(げんかい)修行(しうげう)より、一時間(じかん)神界(しんかい)修行(しうげう)(はう)(すう)(ばい)(くる)しかつたのである。現界(げんかい)修行(しうげう)()つては(さむ)いのに襦袢(じゆばん)(まい)()つて、前后(ぜんご)週間(しうかん)(みづ)(ぱい)()まず一(しよく)もせず(いは)(うえ)静座(せいざ)して無言(むごん)()つた(こと)である。()(あひだ)には降雨(かうう)もあり、寒風(かんぷう)()()たり、夜中(やちう)になつても狐狸(こり)(こゑ)()かず、(むし)()()く、時々(ときどき)(やま)(くづ)れむ(ばか)りの怪音(かいおん)や、()んとも()へぬ(いや)らしい()()震慄(しんりつ)底本では「森立」。する怪声(くわいせい)耳朶(じだ)()つのである。(さび)しいとも(おそ)ろしいとも()んとも形容(けいよう)出来(でき)光景(かうけい)である。たとへ(きつね)でも、(たぬき)でも、()(ろう)でも(かま)はぬ(せい)ある動物(どうぶつ)()()()きた(こゑ)()かして()しい。()姿(すがた)なりと、生物(せいぶつ)であつたら()たいものだと憧憬(あこが)れる()うに()つた。アヽ生物(せいぶつ)(ぐらゐ)(ひと)(ちから)()るものは()いと(おも)つて()ると、(かたはら)小篠(をざさ)(なか)からザアザアと足音(あしおと)をさして(くろ)(かげ)動物(だうぶつ)自分(じぶん)静座(せいざ)する、一(しやく)(ほど)(まへ)までやつて()た。夜眼(よめ)には(たし)かにそれと(わか)(かね)るが(たしか)(おほ)きな(くま)であつた。
 ()(やま)(ぬし)巨大(きよだい)(くま)であると()(こと)(つね)古老(ころう)から()かされて()つた。そして夜中(やちう)(ひと)見付(みつ)けたらその巨熊(おほぐま)八裂(やつざき)にして(まつ)(えだ)()けておくと()(こと)()いて()つたので王仁(わたし)今夜(こんや)こそ()巨熊(おほぐま)引裂(ひきさか)れて()ぬのかも()れないと()瞬間(しゆんかん)(おも)つた。
 (まま)何事(なにごと)随神(かんながら)一任(いちにん)するに()かずと(こころ)臍下(さいか)丹田(たんでん)落付(おちつ)けた。サアそうなると(おそ)ろしいと(おも)つた巨熊(おほぐま)姿(すがた)大変(たいへん)(ちから)となり、()呻声(うなりごゑ)(こひ)しくて(たま)らぬ(やう)()り、世界(せかい)一切(いつさい)生物(せいぶつ)仁慈(じんじ)(かみ)生魂(いくみたま)宿(やど)(たま)ふと()(こと)(かん)じられた。
 (かか)猛獣(まうじう)でさえも(さび)しい(とき)には(ちから)()るものを(いは)んや万物(ばんぶつ)霊長(れいちやう)たる(ひと)(おい)ておやだ。アヽ世界(せかい)人々(ひとびと)(にく)んだり、(おこ)らしたり、(あなど)つたり、(くる)しめたり、(ひと)()んとも(おも)はず、日々(にちにち)(くら)して()自分(じぶん)(なん)とした勿体(もつたい)ない罰当(ばちあた)りで()つたのか、仮之(たとへ)仇敵(きうてき)悪人(あくにん)(いへど)(みな)(かみ)(さま)聖霊(せいれい)宿(やど)つて()る。(ひと)(かみ)である。()(ひと)(ばか)りでは()い、一切(いつさい)動物(だうぶつ)植物(しよくぶつ)(みな)我々(われわれ)(ため)には、必要(ひつえう)なる(ちから)であり、(たの)みの(つえ)である。
 (ひと)(どう)しても一人(ひとり)()()(こと)出来(でき)ぬものだ。社会(しやかい)御恩(ごおん)()(こと)(わす)れては(ひと)(みち)()たぬ。(ひと)()ちつ()たれつ相互(さうご)(たす)()ふて()くべき(もの)である。(ひと)()()けば(おに)でも(じや)でも(かま)はぬ、大切(たいせつ)()なくては()らぬ。それに(ひと)(すこ)しの感情(かんじやう)利害(りがい)打算(ださん)から(たがひ)(にく)(ねた)(あらそ)ふとは、()んたる矛盾(むじゆん)であろう。不真面目(ふまじめ)()ろう。人間(にんげん)(かみ)(さま)である。人間(にんげん)をおいて(ちから)()つて()れる(かみ)(さま)何処(どこ)()るで()ろう()
 神界(しんかい)には(かみ)(さま)第一(だいいち)(ちから)()り、便(たよ)りであるが、現界(げんかい)では人間(にんげん)(さま)こそ(われ)()(たす)くる(まこと)()きたる(たふと)(かみ)(さま)であると(こころ)(そこ)から(かんが)へて()ると、人間(にんげん)(さま)(たふと)難有(ありがた)「難有」は底本通り。以下同じ。(おも)はれて争論(そうろん)なぞは到底(たうてい)出来(でき)るもので()い。出来(でき)(こと)なら人間(にんげん)(さま)第一(だいいち)禽獣(きんじう)虫魚(ちうぎよ)(いへ)ども、粗末(そまつ)取扱(とりあつか)(こと)天地(てんち)神明(しんめい)(たい)して(おそ)れありと()(こと)悟了(ごれう)したのである。
 (これ)王仁(わたし)万有(ばんゆう)(たい)する慈悲心(じひしん)発芽(はつが)であつて、(すゑ)仁愛(みろく)大神業(だいしんげふ)奉仕(ほうし)するの基礎(きそ)(てき)実習(じつしふ)()つたのであります。
四 現実的苦行
 (つぎ)王仁(わたし)第一(だいいち)難有(ありがた)(かん)じたのは(みづ)であつた。一週間(しうかん)()ふものは(みづ)一滴(いつてき)(くち)()れる(こと)出来(でき)ず、咽喉(のど)時々(じじ)刻々(こくこく)(かは)いて()()んとも()へぬ苦痛(くつう)である。たとへ泥水(どろみづ)でも()水気(みづけ)()るものが()しい。()()でも()んで()たら少々(せうせう)(ぐらゐ)(みづ)(ふく)んで()るで()ろうがそれも一週間(しうかん)神界(しんかい)から飲食(いんしよく)一切(いつさい)禁止(きんし)されて()るので、手近(てぢか)()()()(まい)(くち)()れると()(わけ)には()かぬのである。()(うえ)日々(じじ)刻々(こくこく)空腹(くうふく)気力(きりよく)(おと)ろへ、お(つち)一片(いつぺん)(くち)にする(こと)出来(でき)ぬ。(ひざ)崎嶇(きく)たる巌上(がんじやう)静座(せいざ)せる(こと)とて、(これ)(くら)(いた)くて(くる)しい(こと)()い。寒風(かんぷう)肌身(はだみ)()(やう)である。
 王仁(わたし)不図(ふと)(そら)()途端(とたん)(まつ)(つゆ)がポトポトと雨後(うご)(かぜ)()られて、王仁(わたし)唇辺(くちびる)()ちかかつた。何心(なにごころ)なく(これ)(くち)にした。(ただ)一滴(いつてき)松葉(まつば)(つゆ)のその(あぢ)は、甘露(かんろ)とも(なん)とも(たと)へられぬ美味(おいしさ)であつた。
 (これ)(かんが)へて()ても、結構(けつこう)(みづ)()にかけて()(わか)して(ぬる)いの(あつ)いのと小言(こごと)()つて()(くら)勿体(もつたい)ない(こと)()い。
 草木(くさき)()一枚(いちまい)でも(かみ)(さま)()(ゆる)しが()ければ(いただ)(こと)出来(でき)ず、衣服(ゐふく)何程(なにほど)()つて()つても(かみ)(さま)()(ゆる)しなき以上(いじやう)()(こと)出来(でき)ず、(あだか)餓鬼道(がきだう)修業(しうげふ)であつた。()()(かげ)()つて(みづ)(おん)()り、衣食住(いしよくじう)大恩(だいおん)()り、贅沢(ぜいたく)なぞは(ゆめ)にも(おも)わぬ(やう)に、()んな苦難(くなん)()ふも(おどろ)かず、(かな)しまず、如何(いか)なる反対(はんたい)嘲笑(てうせう)熱罵(ねつば)(ただ)勿体(もつたい)ない難有(ありがた)難有(ありがた)いで平気(へいき)で、社会(しやかい)泰然(たいぜん)自若(じじやく)感謝(かんしや)のみの生活(せいくわつ)(たの)しむ(こと)出来(でき)()うに()つたのも(まつた)修行(しうぎやう)()利益(かげ)である。
 それに(つい)今一(いまひと)衣食住(いしよくじう)よりも人間(にんげん)()つて(たふ)とく難有(ありがた)いものは空気(くうき)である。飲食物(いんしよくぶつ)十日(とうか)二十日(はつか)(くらゐ)(はい)した(ところ)で、()(やう)(こと)滅多(めつた)()いが、空気(くうき)(ただ)の二三分間(ぷんかん)でも呼吸(こきう)せなかつたならば(ただ)ちに()んで(しま)ふより(みち)()い。王仁(わたし)がこの修行中(しうげふちう)にも空気(くうき)呼吸(こきふ)する(こと)だけは(ゆる)されたのであつた、(ひと)衣食住(いしよくぢう)の、大恩(だいおん)()ると同時(どうじ)に、空気(くうき)御恩(ごおん)感謝(かんしや)せなくては()らぬのである。(しか)以上(いじやう)()べたる(ところ)は、王仁(わたし)高熊山(たかくまやま)()ける修行(しうげふ)現界(げんかい)(てき)(すなは)肉体(にくたい)(じやう)()ける神示(しんじ)修行(しうぎやう)であります。霊界(れいかい)()ける神示(しんじ)修行(しうげふ)到底(たうてい)前述(ぜんじゆつ)(ごと)(かる)容易(ようい)なものでは()かつた。(いく)(ばい)とも(いく)(ばい)とも()れぬ大苦難(だいくなん)(てき)修練(しうれん)であつた。
五 霊界の修行
 霊界(れいかい)には神界(しんかい)幽界(ゆうかい)二大(にだい)境域(けふゐき)があつて、神界(しんかい)(ただ)しき神々(かみがみ)(ただ)しき人々(ひとびと)霊魂(れいこん)安住所(あんぢうしよ)である。幽界(ゆうかい)邪神(じやしん)(あつ)まる(ところ)であり、悪罪者(あくざいしや)霊魂(れいこん)()()(ところ)である。そして神界(しんかい)至善(しぜん)至美(しび)至明(しめい)至楽(しらく)神境(しんけふ)(てん)神界(しんかい)()神界(しんかい)(わか)れて()り、(てん)神界(しんかい)にも()神界(しんかい)にも各自(かくじ)三段(さんだん)区劃(くくわく)(さだ)まつて()り、(ぜう)(ちう)()三段(さんだん)御魂(みたま)()()れに(しづ)まる楽園(らくえん)である。幽界(ゆうかい)にも()(くに)(そこ)(くに)(わか)各自(かくじ)三段(さんだん)区劃(くくわく)され、(つみ)軽重(けいちよう)大小(だいせう)()りて、()()れに(おと)されて()く、至悪(しあく)至醜(ししう)至寒(しかん)至苦(しく)刑域(けいゐき)である。(いま)王仁(わたし)(ここ)神界(しんかい)()(ゆる)しを()神幽(しんゆう)両界(れうかい)大要(たいえう)表示(へうじ)して()やう。
神幽両界の大要
[#図 神幽両界の大要]
 霊界(れいかい)大要(たいえう)大畧(たいりやく)前記(ぜんき)(とほ)りであるが王仁(わたし)芙蓉(ふよう)仙人(せんにん)先導(せんだう)にて幽界(ゆうかい)探険(たんけん)()(のぼ)(こと)()つた。勿論(もちろん)()高熊山(たかくまやま)端座(たんざ)して(ただ)霊魂(れいこん)のみが()つたのである。
 ()(こと)(すう)百千()空中(くうちう)飛行船(ひかうせん)以上(いじやう)大速力(だいそくりよく)で、(あし)()()かず(ほと)んど十分(じつぷん)(ばか)進行(しんかう)(つづ)けたと(おも)ふとそこにて芙蓉(ふよう)仙人(せんにん)立留(たちど)まつて王仁(わたし)(かへり)()()(これ)からが幽界(ゆうかい)関門(かんもん)であると()つて大変(たいへん)(おお)きな(かは)(ほとり)()つた。一寸(ちよつと)()(ところ)では非常(ひぜう)(ふか)いやうで()るが(わた)つて()ると(あま)(ふか)くは()いが不思議(ふしぎ)にも王仁(わたし)()()紺衣(こんい)(みづ)(あら)はれたのか(たちま)純白(じゆんぱく)(へん)じたのである。(べつ)衣服(いふく)一端(いつたん)をも(みづ)(ひた)したとも(おも)はぬに肩先(かたさき)まで全部(ぜんぶ)清白(せいはく)になつたのである。
 芙蓉(ふよう)仙人(せんにん)(とも)()()らぬ()大河(おほかは)対岸(たいがん)(わた)()り、水瀬(みなせ)(なが)めると不思議(ふしぎ)にも(みづ)(なが)れと(おも)つたのは(あやま)りで、大蛇(だいじや)(むれ)(いく)(まん)とも(かぎ)()(ほど)(あつ)まつて各自(かくじ)(あたま)(もた)火焔(かえん)(した)()ひて()るのには(おどろ)かされたのである。
 それから次々(つぎつぎ)(わた)()たる数多(あまた)旅人(たびびと)らしきものが(いづ)れも(みな)大河(おほかは)(おも)つたと()えて王仁(わたし)(わた)つたやうに各自(かくじ)(すそ)()()げて()るのである。そして不思議(ふしぎ)(こと)には各自(かくじ)衣服(いふく)種々(しゆじゆ)(いろ)変化(へんくわ)する(こと)であつた。(あるひ)(くろ)(あるひ)黄色(きいろ)茶褐色(ちやかつしよく)(その)()雑多(ざつた)(いろ)忽然(こつぜん)として(かは)つて()るのを、何処(どこ)もなく五六(にん)(こわ)(かほ)をした(をとこ)一々(いちいち)姓名(せいめい)()()めて一人(ひとり)々々(ひとり)切符(きつぷ)(やう)なものをその衣服(いふく)()けて()る。そして(はや)()てよと(うなが)す。
 旅人(たびびと)各自(めんめ)前方(ぜんぱう)(むか)つて()(すす)め、一()(ばか)りも(すす)んだと(おも)(ところ)に、(ひと)つの役所(やくしよ)()うなものが()つて()つた。(その)(なか)から四五の番卒(ばんそつ)(あら)はれて()切符(きつぷ)()()り、衣服(いふく)変色(へんしよく)模様(もやう)によつて上衣(うはぎ)を一(まい)()()るもあり、(あるひ)は二(まい)(まい)()()られ下衣(したぎ)(まい)()られるもあり丸裸(まるはだか)()られるのもある。(また)(まい)()()らずに()旅人(たびびと)から()つた衣物(きもの)(あるひ)は一(まい)(あるひ)は二(まい)(さん)(まい)(なか)には七八(まい)()せられて(くる)しさうにして()てゆくものもある。
 一人(ひとり)々々(ひとり)番卒(ばんそつ)()()各自(かくじ)規定(きてい)場所(ばしよ)(おく)られて()くのであつた。
六 八街の光景
 (ここ)黄泉(よみ)八街(やちまた)「八街」は底本通り。()(ところ)であつて(こめ)()(かた)(つぢ)である。()真中(まんなか)(ひと)つの幽界(ゆうかい)政庁(せいちやう)()つて牛頭(ぎうたう)馬頭(ばたう)(こわ)番卒(ばんそつ)猛獣(まうじう)皮衣(ひい)()()けたのも()り、丸裸(まるはだか)猛獣(まうじう)(かは)(まわし)()()み、突棒(つくぼう)手槍(てやり)や、(のこ)や、(おの)鉄棒(てつぼう)に、(なが)火箸(ひばし)なぞを(たづさ)えた(やつ)沢山(たくさん)()()る。王仁(わたし)芙蓉(ふよう)仙人(せんにん)案内(あんない)でズツト(おく)(とほ)ると()(なか)小頭(こがしら)とも()()うな鬼面(おにづら)(をとこ)長剣(ちやうけん)(つえ)()(なが)出迎(でむか)えた。
 そして芙蓉(ふよう)仙人(せんにん)(むか)つて()遠方(ゑんぽう)(ところ)遥々(はるばる)()苦労(くろう)でありました。今日(こんにち)(なん)御用(ごよう)にて()来幽(らいゆう)になりましたかと(こわ)(かほ)似合(にあ)はぬ慇懃(いんぎん)挨拶(あいさつ)である。王仁(わたし)意外(いがい)(かん)()たれて両者(りやうしや)応答(おうたふ)()くのみで()つた。
 そうすると芙蓉(ふよう)仙人(せんにん)から、神界(しんかい)大神(おほかみ)(めい)()大切(たいせつ)なる神人(しんじん)案内(あんない)(まを)して(まゐ)りました。(すなは)()御方(おかた)()りますが、今回(こんかい)(げん)(しん)(ゆう)改革(かいかく)使命(しめい)()び、第一(だいいち)幽界(ゆうかい)視察(しさつ)()ねて修行(しうぎやう)()えたのでありす。()(かた)丹州(たんしう)高倉山(たかくらやま)古来(こらい)()()かれました()()躑躅(つつじ)神霊(しんれい)であります。何卒(なにとぞ)大王(だいわう)(この)(むね)()伝達(でんたつ)を願ふと、言語(げんご)(ちから)()めての依頼(いらい)であつた。
 小頭(こがしら)王仁(わたし)(かる)一礼(いちれい)して(いそ)(おく)()つた。()つこと(やや)少時(しばし)(おく)には何事(なにごと)(おこ)りしかと(おも)はるる(ばか)りの物音(ものおと)(きこ)ゆるので、芙蓉(ふよう)仙人(せんにん)()いて()ると、(いは)神人(しんじん)来幽(らいゆう)()準備(じゆんび)せむが(ため)であると。
 王仁(わたし)(あや)しみて神人(しんじん)とは(だれ)ぞ、(こた)へて(いは)く、(みづ)身魂(みたま)なり、肉体(にくたい)ある(ひと)幽界(ゆうかい)()(とき)何時(いつ)庁内(ちやうない)模様(もやう)を一()変更(へんかう)さるる(さだ)めなり。今日(けふ)()けて神界(しんかい)より(まへ)(もつ)沙汰(さた)()かりし(ゆゑ)(えう)するに幽庁(ゆうちやう)狼狽(ろうばい)(てい)なりと。
 王仁(わたし)()ふて(いは)(みづ)身魂(みたま)とは(たれ)ぞや、(こた)へて(いは)く、(なんぢ)守護神(しゆごじん)なり。(ここ)(おい)(はじ)めて王仁(わたし)は、(わが)本守護神(ほんしゆごうじん)()つたのであつた。
 
 (しづ)かに(へだ)ての()(ひら)いて、(まへ)小頭(こがしら)先導(せんだう)()ち、数名(すうめい)役員(やくゐん)らしきもの()()たり、(かる)二人(ふたり)目礼(もくれい)前後(ぜんご)付添(つきそ)ひて(おく)(おく)へと(みちび)()くのである。上段(じやうだん)()には白髪(はくはつ)異様(いやう)老人(ろうじん)(つくえ)(まへ)()端座(たんざ)して()る。(なん)となく威厳(ゐげん)があり()(やさ)しみがある。そして(きは)めて(うつ)くしい面貌(めんばう)であつた。
 芙蓉(ふよう)仙人(せんにん)(すこ)しく(こし)(かが)(なが)()右前側(うぜんそく)()して何事(なにごと)奏上(そうじやう)する様子(やうす)である。役人(やくにん)綺羅星(きらほし)(ごと)くに中段(ちうだん)()(なら)んで()る。老人(ろうじん)王仁(わたし)()(うる)はしき(かほ)に、一層(いつそう)(うる)はしき(ひか)りを(たた)へ、笑顔(ゑがほ)(つく)(なが)ら、(みづ)身魂(みたま)殿(どの)遠方(ゑんぱう)大儀(たいぎ)なり(はや)(これ)にと、(みづか)左前側(さぜんそく)王仁(わたし)着座(つか)しめられた。芙蓉(ふよう)仙人(せんにん)と三(にん)三角形(さんかくけい)(ぢん)()つた。王仁(わたし)()()老人(ろうじん)(むか)つて低頭(ていとう)平身(へいしん)敬意(けいい)(へう)した。老人(ろうじん)()(おな)じく敬意(けいい)(へう)して頓首(とんしゆ)(たま)()(たま)はく、(われ)()(くに)(そこ)(くに)監督(かんとく)(てん)より(めい)ぜられ、三千有余(いうよ)(ねん)当庁(たうちやう)(しゆ)たり、大王(だいわう)たり。(いま)天運(てんうん)循環(じゆんかん)弥々(いよいよ)()任務(にんむ)一年(いちねん)(あまり)にして(をは)る。()()(なんじ)(とも)神界(しんかい)現界(げんかい)()(あひ)提携(ていけい)して(もつ)宇宙(うちう)改造(かいざう)大神業(だいしんげふ)参加(さんか)せむ。(しか)(なが)(われ)(すで)永年(えいねん)幽界(ゆうかい)主宰(しゆさい)したれば今更(いまさら)幽界(ゆうかい)探究(たんきう)するの(えう)なし。(なんぢ)(いま)(はじ)めての来幽(らいゆう)なれば、現幽(げんゆう)両界(れうかい)(ため)実地(じつち)試練(しれん)さるるの(えう)あり。(しか)らざれば今後(こんご)(おい)現界(げんかい)(すく)()大慈(だいじ)神人(しんじん)たる(こと)()ざる()し。是非(ぜひ)々々(ぜひ)()(くに)(そこ)(くに)探究(たんきう)(うへ)帰現(きげん)されよ。(なんぢ)産土(うぶすな)大神(おほかみ)(まね)(まつ)らむとて、(あま)石笛(いはふえ)()(さは)やかに()()(たま)へば、忽然(こつぜん)として白衣(はくい)神姿(しんし)(くも)()りて(くだ)(たま)ひ、三(にん)(まへ)(あら)はれ丁重(ていてう)なる態度(たいど)(もつ)何事(なにごと)小声(こごゑ)大王(だいわう)()らせ(たま)ひ、次に(ちやう)数多(あまた)列座(れつざ)(むか)ひて(あつ)(れい)()べ、(つぎ)芙蓉(ふよう)仙人(せんにん)(たい)して氏子(うじこ)()世話(せわ)であつたと感謝(かんしや)され、最後(さいご)王仁(わたし)(むか)つて一(かん)(しよ)(さづ)(たま)ひ、頭上(づじやう)より神息(しんそく)()()みたまふや、王仁(わたし)腹部(ふくぶ)(こと)臍下(さいか)丹田(たんでん)は、(にわか)(あたた)かさを(かん)じ、身魂(みたま)全部(ぜんぶ)無限(むげん)無量(むれう)(ちから)()たるを(おぼ)えたのである。
七 幽庁の審判
 (ここ)大王(だいわう)聴許(ちやうきよ)()て、王仁(わたし)産土(うぶすな)大神(おほかみ)芙蓉(ふよう)仙人(せんにん)(とも)審判廷(しんぱんてい)傍聴(ばうちやう)()(こと)()た。(あふ)()(ばか)りの高座(かうざ)には大王(だいわう)出御(しゆつぎよ)あり、二三(じやく)(した)()には形相(げうさう)(すさま)じき冥官(めいかん)(など)列座(れつざ)して()る。最下(さいか)審判廷(しんぱんてい)には数多(あまた)罪人(ざいにん)土下座(どげざ)になつて(かし)こまつて()る。()(わた)せば王仁(わたし)(つづ)ひて大蛇(おろち)(かは)(わた)つて()旅人(たびびと)(はや)(すで)多数(あまた)罪人(ざいにん)(なか)()じり()んで審判(しんぱん)(いひ)(わた)しを()つて()る。日本人(にほんじん)(ばか)りかと(おも)へば支那人(しなじん)朝鮮人(てうせんじん)西洋人(せいやうじん)なぞも沢山(たくさん)()るのを()た。王仁(わたし)()川柳(せんりう)に『唐人(たうじん)()(こみ)にせぬ地獄(ぢごく)()』と()ふのが()る、()れを(おも)()して、この光景(こうけい)(あや)しみ仙人(せんにん)耳語(じご)して()(ゆゑ)(たづ)ねた。()んと(おも)つたか、仙人(せんにん)(かしら)左右(さゆう)()つた()り、一言(ひとこと)(こた)えて()れぬ。王仁(わたし)()ひて(たづ)ねる(こと)(ひか)えたのである。
 不図(ふと)大王(だいわう)容貌(ようばう)()ると、アツト(おどろ)いて(たふ)れむ(ばか)りになつた。そこを産土(うぶすな)大神(おほかみ)仙人(せんにん)とが左右(さゆう)から(ささ)えて(くだ)さつた。()(この)(とき)二柱(ふたはしら)()介抱(かいはう)()かつたら王仁(わたし)気絶(きぜつ)したかも()れぬのである。(いま)(まで)温和(おんわ)優美(ゆうび)にして(をか)()からざる威厳(ゐげん)(そな)え、(うる)はしき無限(むげん)()みを(たた)(たま)ひし、大王(だいわう)形相(げうさう)(たちま)真紅(しんく)(へん)じ、()非常(ひじやう)巨大(きよだい)に、(くち)(みみ)(あたり)まで引裂(ひきさ)け、口内(こうない)より火焔(かえん)(した)()(たま)ふ、冥官(めいかん)()(おな)じく形相(げうさう)(すさ)まじく、(おも)()げて()(あた)はざるの光景(こうけい)にて、審判廷(しんぱんてい)(にわ)かに物凄(ものすご)さを()して()た。
 大王(だいわう)中段(ちうだん)()せる冥官(めいかん)一人(いちにん)手招(てまね)きし(たま)へば、冥官(めいかん)(かし)こまりて御前(ごぜん)()づ。大王(だいわう)冥官(めいかん)に一(かん)書帳(しよてう)(さづ)(たま)へば、冥官(めいかん)(うやうや)しく(おし)(いただ)(もと)()(かへ)りて、一々(いちいち)罪人(ざいにん)姓名(せいめい)()びて判決文(はんけつぶん)朗読(ろうどく)するのである。
 番卒(ばんそつ)順次(じゆんじ)()ばれたる罪人(ざいにん)(ひき)()てて幽廷(いうてい)退(しりぞ)くのである。現界(げんかい)裁判(さいばん)(ごと)予審(よしん)だの控訴(かうそ)だの大審院(だいしんゐん)だのと()()うな設備(せつび)()ければ弁護人(べんごにん)()く、(たん)判決(はんけつ)(いひ)(わた)而己(のみ)(きは)めて簡単(かんたん)である。
 王仁(わたし)仙人(せんにん)(かへり)みて、(なに)(ゆゑ)冥界(めいかい)審判(しんぱん)(かく)(ごと)簡単(かんたん)なりやと(たづ)ると、仙人(せんにん)(こた)えて人間界(にんげんかい)裁判(さいばん)(つね)誤判(ごはん)がある。人間(にんげん)(かたち)()えぬものには一切(いつさい)駄目(だめ)である。(ゆゑ)幾度(いくど)慎重(しんちやう)審査(しんさ)せなくては()らぬが、冥界(めいかい)審判(しんぱん)三世(さんぜ)洞察(どうさつ)自在(じざい)(かみ)審判(しんぱん)なれば、何程(なにほど)簡単(かんたん)()つても毫末(がうまつ)過誤(くわご)()い。(また)(つみ)軽重(けいちやう)大小(だいせう)は、大蛇川(おろちがは)(わた)(とき)着衣(ちやくい)変色(へんしよく)()りて明白(めいはく)(はん)ずるを(もつ)て、(ふたた)審査(しんさ)必要(ひつえう)絶無(ぜつむ)なりと(をし)えられたのである。
 一順(いちじゆん)(いひ)(わた)しが()むと大王(だいわう)()(しづ)かに()ちて(もと)()居間(ゐま)(かへ)られた。王仁(わたし)(また)(ふたた)大王(だいわう)御前(おんまへ)(せう)ぜられ、(おそ)(おそ)(かほ)()げると、コハそも如何(いか)に、今迄(いままで)(おそ)ろしき形相(げうさう)跡形(あとかた)()(かは)らせ(たま)ひて、()(もと)温和(おんわ)にして慈愛(じあい)()める(うる)はしき()面姿(めんし)(かへ)つて()られたのであつた。大本(おほもと)神諭(しんゆ)
出口(でぐち)(なを)因縁(いんねん)ありて(むかし)から鬼神(おにがみ)()はれた、(うしとら)金神(こんじん)(その)(まま)御魂(みたま)であるから、改心(かいしん)出来(でき)(まこと)人民(じんみん)(まへ)(まゐ)りたら結構(けつこう)()ふに()はれぬ(やさ)しい(かみ)であれども、一寸(ちよつと)でも(こころ)身欲(みよく)()りたり、慢神(まんしん)(いた)したり、思惑(おもわく)がありたり、敵対心(てきたいごころ)のある人民(じんみん)(なを)(まへ)()(まゐ)りたら()ぐに相格(さうがう)(かは)りて(おに)大蛇(おろち)(やう)になる(こわ)身魂(みたま)であるぞよ。』
(しめ)されて()るのを、(はじ)めて(はい)した(とき)(どう)しても今度(このたび)冥界(めいかい)(きた)りて大王(だいわう)対面(たいめん)した(とき)光景(かうけい)(おも)()さずには()られなかつたのである。()出口(でぐち)教祖(けうそ)(はじ)めて拝顔(はいがん)した(とき)に、()優美(ゆうび)にして温和(おんわ)()慈愛(じあい)()める()面姿(めんし)()て、大王(だいわう)()(かほ)(おも)()さずには()られ()かつたのである。
 
 大王(だいわう)()より()つて王仁(わたし)()(かた)(にぎ)(なが)ら、両眼(りやうがん)(なみだ)(たた)えて、三葉(みつば)(さま)()苦労(くろう)なれど(これ)から冥界(めいかい)修行(しうげふ)実行(じつかう)(ねが)はねば()らぬ。顕幽(けんゆう)両界(れうかい)救世主(きうせいしゆ)たるものは、救世主(きうせいしゆ)実学(じつがく)(なら)つて()かねば()らぬ。()なりと(しん)(たい)山々(やまやま)なれど()(みづ)修行中(しうげふちう)禁制(きんせい)である。()て一()(はや)実行(じつかう)(かか)られよと御声(みこゑ)さえも湿(しめ)らせ(たま)ふので()つた。(ここ)産土(うぶすな)大神(おほかみ)大王(だいわう)何分(なにぶん)(よろ)しく()(たの)(まを)()げると(おふ)せられた(まま)(あと)をも()かず(ふたた)(たか)(くも)()りて(いづ)れへか(かへ)つて()かれた。
 仙人(せんにん)(また)大王(だいわう)黙礼(もくれい)して王仁(わたし)には(なに)()はず早々(さうさう)退座(たいざ)せられた。(あと)()()こされた王仁(わたし)(すこ)しく狼狽(ろうばい)(てい)()つた。大王(だいわう)()面相(めんさう)俄然(がぜん)一変(いつぺん)して()()(かがみ)(ごと)く、(ひか)(かがや)(くち)(みみ)まで()け、(ふたた)(おもて)()ける(こと)出来(でき)ぬのである。そこへ先程(さきほど)冥官(めいかん)番卒(ばんそつ)引連(ひきつ)()たり、(たちま)王仁(わたし)白衣(はくい)()がせ、灰色(はいいろ)罪人服(ざいにんふく)着替(きがへ)させ、第一(だいいち)(もん)から()()されて(しま)まつた。
 (そと)()()ると一筋(ひとすぢ)(きた)ない(ほそ)道路(だうろ)に、枯草(かれくさ)(ふさ)がりその枯草(かれくさ)(みな)(こほり)(はり)()うに()つて()る。(あと)へも(かへ)れず(すす)(こと)出来(でき)ず、(よこ)()かうと(おも)へば(ふか)(ひろ)(みぞ)()つてあり、()(みぞ)(なか)には(おそ)ろしい(いや)らしい(むし)充満(じうまん)して()る。王仁(わたし)(すす)(かね)思案(しあん)(くk)れて()ると、(そら)真黒(まつくろ)(あや)しい(くも)()(くも)(なか)から(おそろ)しい(かほ)をした(おに)()うな(もの)(にら)()めて()る。(あと)からは(こわ)(かほ)した(なか)()()のついた柿色(かきいろ)法被(はつぴ)()冥卒(めいそつ)穂先(ほさき)十字形(じふじがた)()した鋭利(えいり)(やり)()()さうとする。()むを()(まへ)()げる(やう)にして(すす)むのであつた。
 四五(ちやう)(ばか)()つた(ところ)に、(はし)()(ふか)(ひろ)(かは)()る。何心(なにごころ)なく(のぞ)いて()ると(さき)()つた罪人(ざいにん)()えて、(きた)ない()とも(うみ)とも(わか)らぬ(みづ)()ちて身体中(からだぢう)(ひる)(たか)つて空身(くうしん)()(ところ)まで、()()ふて()る。罪人(ざいにん)(くる)しさうな(かな)しさうな(こゑ)でヒシツテ()る。王仁(わたし)()(みぞ)()えねば()らぬが、(つばさ)()()如何(いか)にして()(ひろ)(ふか)(みぞ)()()えられやうか。(あと)からは(あか)(かほ)した番卒(ばんそつ)が、(おに)相格(さうがう)()つて鋭利(えいり)(やり)(もつ)()()さうとして()ひかけて()る。進退(しんたい)(これ)(きは)まつて、()くにも()けず煩悶(はんもん)して()つたが、(にわか)(おも)()したのは先程(さきほど)産土(うぶすな)大神(おほかみ)から(さず)かつた一(かん)(しよ)である。懐中(くわいちう)より取出(とりだ)(おし)(いただ)(ひら)底本では「被」。いて()ると(かしこ)くも、天照(あまてらす)大神(おほかみ)惟神(かんながら)(たま)(ちはへ)(ませ)筆跡(ふであと)墨色(すみいろ)ともに、(うる)はしく(あざや)かに(したた)めて()る。王仁(わたし)(おも)はず()らず、天照(あまてらす)大神(おほかみ)惟神(かんながら)(たま)(ちはへ)(ませ)(とな)へた途端(とたん)底本では「に」ではなく「は」。()(みぞ)(むか)ふへ(わた)つて()つた。
 番卒(ばんそつ)はスゴスゴと(もと)(みち)(かへ)つて()くので()つた。()一安心(ひとあんしん)して()(すす)めた。(にわ)かに寒気(かんき)酷烈(こくれつ)()りて、手足(てあし)(こご)えて(どう)する(こと)出来(でき)ぬ。かかる(ところ)(あら)はれたのは黄金色(こがねいろ)(ひか)りで()つた。ハツト(おも)つて王仁(わたし)(おどろ)いて()()ると(ひか)りの(たま)脚下(きやくか)二三(じやく)(ところ)忽然(こつぜん)として(あら)はれた。
八 女神の出現
 不思議(ふしぎ)()えずして、王仁(わたし)金色(きんしよく)燦爛(さんらん)たる珍玉(ちんぎよく)を、(なん)()く、(ちから)(づよ)(かん)じられて、(なが)めて()つた。次第(しだい)々々(しだい)に、(たま)(おお)きく()ると(とも)に、水晶(すゐしやう)()うに、(すみ)()()して、(たちま)(うる)はしき、女神(めがみ)御姿(みすがた)と、変化(へんか)(たま)ふた。全身(ぜんしん)金色(こんじき)にして、仏祖(ぶつそ)所謂(いはゆる)紫摩(しま)黄金(わうごん)(はだゑ)で、()(うへ)に、玲瓏(れいろう)透明(とうめい)()()して、(しろ)衣裳(いそう)と、(した)()(はかま)穿(うが)(たま)ふ、愛情(あいじやう)(あふ)るる(ばか)りの、女神(めがみ)であつた。女神(めがみ)は、王仁(わたし)()()り、(ゑみ)(ふく)んで、(われ)大便所(かはや)(かみ)なり。(なんぢ)(これ)(ささ)げむと、言下(げんか)()懐中(かいちう)より、八寸(はつすん)(ばか)りの比礼(ひれ)を、王仁(わたし)左手(ゆんで)(にぎ)らせ(たま)ひ、再会(さいかい)(やく)して、()(もと)(ごと)金色(こんじき)(たま)となりて、中空(ちうくう)(まひ)(のぼ)り、電光(でんかう)石火(せつか)(ごと)く、九重(ここのゑ)(くも)(ふか)く、天上(てんじやう)(かへ)らせ(たま)ふたので()る。
 ()当時(たうじ)は、如何なる(かみ)(さま)なるや、(また)王仁(わたし)(たい)して、何故(なにゆゑ)に、(かく)(ごと)珍宝(ちんぽう)を、()かる寂寥(せきれう)境域(きやうゐき)(くだ)りて、(さず)(たま)ひしや、疑問(ぎもん)であつた。(しか)参綾後(さんれうご)(はじ)めて氷解(ひようかい)出来(でき)た。出口(でぐち)教祖(けうそ)()(はなし)に、禁闕要(きんかつかね)(かみ)は、全身(ぜんしん)黄金色(わうごんしよく)()つて、大便所(かはや)に、永年(ながねん)(あひだ)()とされて苦労(くろう)艱難(かんなん)の、修行(しうぎやう)()んだ、大地(だいち)金神(こんじん)(さま)である。その修行(しうぎやう)()んで、今度(こんど)()()て、結構(けつこう)御用(ごよう)を、(あそ)ばす()うに、なりたのであるから、人間(にんげん)大便所(かはや)掃除(さうじ)から、(よろこ)んで(いた)すやうな、精神(せいしん)にならぬと、(まこと)(かみ)御用(ごよう)()きぬ。()れに(いま)人民(じんみん)さんは、(たか)(ところ)(あが)つて、(たか)(やく)をしたがるが、(かみ)御用(ごよう)(いた)すものは、汚穢所(きたないところ)を、(うつく)しくするのを(たのし)んで(いた)すもので()いと、三千(さんぜん)世界(せかい)の、大洗濯(だいせんたく)大掃除(おうさうぢ)御用(ごよう)は、到底(たうてい)(つと)(あが)らんぞよとの()言葉(ことば)(うけたまは)り、()神諭(しんゆ)何処(いづこ)にも(しる)されたるを(はい)して、奇異(きゐ)(かん)()たれ、神界(しんかい)の、深遠(しんえん)微妙(びめう)なる()経綸(けいりん)(おどろ)いたのである。
 女神(めがみ)(わか)れ、(ただ)一人(ひとり)太陽(たいやう)も、(つき)も、(ほし)も、()えぬ、山野(さんや)を、(ふか)(すす)むので()つた。
  (やま)(ふか)()()(われ)()(つき)
    (ほし)さへも()(おほかみ)(こゑ)
 この(うた)()んだのは、(この)(とき)(こと)であつた。(つめ)たい(みち)(かたはら)に、(ぬま)とも、(いけ)とも()れぬ(きた)ない水溜(みづたま)りが()つて、()(みづ)(うつ)くしい三十(さい)(あま)りの、青年(せいねん)(おちい)り、諸々(もろもろ)(むし)(たか)られ、(かほ)(その)(まま)であるが、(くび)から(した)は、全部(ぜんぶ)蚯蚓(みみづ)()つて(しま)ひ、()るまに、(かほ)までが、悉皆(しつかい)数万(すうまん)の、蛆虫(うじむし)()つて(しま)つた。(わたくし)(おも)はず、天照(あまてらす)大神(おほかみ)産土(うぶすなの)大神(おほかみ)惟神(かんながら)(たま)(ちはへ)(ませ)』と二回(にくわい)()(かへ)すと、不思議(ふしぎ)にも、(もと)(うつ)くしい青年(せいねん)()つて、()水溜(みづたま)りから、(はひ)(あが)り、(うれ)(さう)(かほ)底本では「顔」ではなく「願」。して(れい)()べた。
 その青年(せいねん)(かた)(ところ)()ると、大変(たいへん)竜女(りゆうじよ)(をか)した、祖先(そせん)(つみ)()つて、自分(じぶん)()た、(わる)後継者(こうけいしや)となつて、竜女(りゆうじよ)(をか)した。その(つみ)()つて、()()(くる)しみを、()くる(こと)に、()つたので()るが、(いま)王仁(わたし)神文(しんもん)()いて、(たちま)()(とほ)り、(たす)かつたと()つて感謝(かんしや)するのであつた。()(かほ)()本人(ほんにん)肉体(にくたい)は、(いま)()皇道(かうだう)大本(おほもと)(おい)て、重要(じうえう)なる、役員(やくゐん)一人(ひとり)である。
 それから、王仁(わたし)は、天照(あまてらす)大神(おほかみ)()神号(しんがう)を、一心(いつしん)不乱(ふらん)(とな)へつつ、前進(ぜんしん)した。(つき)()く、(からす)()く、(しも)天地(てんち)()ち、(さむ)(きび)しく、(はだえ)()(ごと)く、()(あし)も、(ぼう)()うに()り、(いき)(こご)らんとする(とき)(また)もや、天照(あまてらす)大御神(おほみかみ)惟神(かんながら)(たま)(ちはへ)(ませ)と、口唱(こうしやう)(まつ)つた。不思議(ふしぎ)にも言霊(ことたま)神力(しんりき)(いちじる)しく、(たちま)全身(ぜんしん)に、(だん)(おぼ)え、()(あし)も、()()りし(ごと)くなつた。
 アヽ地獄(ぢごく)(かみ)とは、(この)(こと)であると、感謝(かんしや)(ねん)は、(なみだ)(たき)と、(なが)るる(ばか)りである。四五(しご)(じゆつ)(ちやう)も、辿(たど)()くと、其処(そこ)に、(ひと)つの断崕(だんがい)(つき)(あた)る。(やむ)()ず、()(かへ)さむとすれば、鋭利(えいり)なる(やり)(さき)が、(ちか)五六(ごろく)(すん)(ところ)に、()()る。(この)(うへ)(かみ)(まか)(たてまつ)らむと、決意(けつい)して、(こほり)(あし)をすべらせつ、右手(めて)()れば、(ふか)谷川(たにがは)があつて激潭(げきたん)飛沫(ひまつ)流声(りうせい)(もの)すごき(なか)に、()()れぬ、()(こと)()き、(おそ)ろしき動物(だうぶつ)が、(かは)()ちたる旅人(たびびと)を、(くち)にくわえて、谷川(たにがは)(なが)れに(うか)びたり、(しづ)んだり、旅人(たびびと)は、(たす)けて(たす)けてと、一点張(いつてんばり)(さけ)んで()る。王仁(わたし)は、(ふたた)神号(しんがう)(とな)へてやると、旅人(たびびと)(くは)へて()た、怪物(かいぶつ)姿(すがた)は、(あわ)()えて(しま)つた。
 (たす)かつた旅人(たびびと)()舟木(ふなき)()ふ。(かれ)(よろ)こんで、王仁(わたし)(あと)に、()いて()るのである。王仁(わたし)一人(ひとり)道連(みちづ)れを()て、幾分(いくぶん)か、(こころ)丈夫(じやうぶ)()つて()た。(あや)ふき断崕(だんがい)()ろうじて、五六十(ごろくじゆ)(てう)(ばか)(すす)むと、(みち)()くなつて(しま)ふ。
 薄暗(うすぐら)(みち)を、()二人(ふたり)は、(ここ)停立(ていりつ)して、思案(しあん)()れて()た。そうすると、何処(どこ)とも()く、大声(おほごゑ)で、ソレ(かれ)()二人(ふたり)を、(のが)すなと()ぶ、(にわか)騒々(さうざう)しき物音(ものおと)が、(しき)りに()こえて、(くち)巨大(きよだい)なる怪物(かいぶつ)が、幾百(いくひやく)とも()く、二人(ふたり)(はう)(むか)つて、(おそ)()様子(やうす)である。
 二人(ふたり)進退(しんたい)()(きは)まり、如何(いかん)はせむと、狼狽(らうばい)(てい)であつた。何程(なにほど)神号(しんがう)(とな)えても、(すこ)しも退却(たいきやく)せず、益々(ますます)(せま)つて()る。今迄(いままで)怪物(かいぶつ)(おも)つたのが不思議(ふしぎ)にも()面部(めんぶ)だけは、人間(にんげん)()つて(しま)つた。()(なか)で、巨魁(きよかい)らしき魔物(まもの)は、(たちま)長剣(ちやうけん)(ふる)つて、両人(りやうにん)(せま)()たり(いま)()(ころ)されんとする刹那(せつな)に、白衣(はくい)金膚(きんぷ)女神(めがみ)が、(ふたた)(その)()に、(ひか)りと(とも)(あら)はれた。そして、比礼(ひれ)()らせ(たま)へと()つて、姿(すがた)(たちま)()えて(しま)つた。
 懐中(ふところ)より神器(しんき)比礼(ひれ)()すや(いな)や、上下(じやうげ)左右(さゆう)(はら)つた。怪物(かいぶつ)は、追々(おひおひ)(とほ)退却(たいきやく)する、ヤレ(うれ)しやと(おも)()()く、忽然(こつぜん)として、大蛇(おろち)(あら)はれ、巨口(きよこう)(ひら)いて、両人(りやうにん)()んで(しま)つた。両人(りやうにん)は、大蛇(おろち)(はら)(なか)を、(さぐ)(さぐ)(すす)んで()く。今迄(いままで)(さむ)さに、(こま)つて()肉体(にくたい)は、何処(どこ)とも()く、(あたたか)()に、(よく)した(やう)な、心持(こころも)ちであつた。
 轟然(ごうぜん)たる大音響(だいおんきやう)(とも)幾百千(いくひやくせん)()とも(わか)らぬ、奈落(ならく)(そこ)()()くのであつた、
 不図(ふと)()()くと、幾千丈(いくせんじやう)とも()れぬ、(たか)(たき)(した)に、両人(りやうにん)()(よこ)たえて()た、自分(じぶん)周囲(しうゐ)は、(こほり)(はしら)幾万本(いくまんぼん)とも、()れぬ(ほど)()つて()る。両人(りやうにん)は、(この)(たか)瀑布(ばくふ)から、地底(ちてい)急転(きふてん)直落(ちよくらく)した(こと)(さと)つた。一寸(いつすん)でも、一分(いちぶ)でも、身動(みうご)きすると、()()つた、(こほり)(つるぎ)で、()(やぶ)る。()きるにも、()きられず、同伴(どうはん)舟木(ふなき)()ると、(うを)(くし)()したやうに、(なが)(するど)氷剣(ひようけん)に、(どう)(あた)りを(つら)ぬかれ、非常(ひじやう)(くる)しんでゐる。王仁(わたし)は、満身(まんしん)(ちから)を、()めて、アマテラスオホミカミサマと、一言(ひとこと)づつ、(やう)やくにして、(とな)(まつ)つた。神徳(しんとく)(たちま)(あら)はれ、王仁(わたし)も、舟木(ふなき)も、身体(しんたい)自由(じゆう)になつて()た。今迄(いままで)瀑布(ばくふ)は、何処(どこ)ともなく、()()せて、(ただ)茫々(ばうばう)たる(ゆき)原野(げんや)と、()して(しま)つた。
 (ゆき)(なか)に、幾百(いくひやく)(まん)(にん)とも(わか)らぬ(ほど)人間(にんげん)()や、(あし)や、(あたま)一部(いちぶ)()()る。自分(じぶん)(あたま)(うへ)から、(にわか)山岳(さんがく)も、(くづ)るる(ばか)りの、(ひびき)がして、雪塊(ゆきだま)()ちて()て、王仁(わたし)全身(ぜんしん)を、(うづ)めて(しま)ふ。(にわか)に、比礼(ひれ)()ろうとしたが、容易(ようい)()()ふことを()かぬ。丁度(てうど)(てつ)(こし)らえた、()()うに()つた。一生(いつしやう)懸命(けんめい)惟神(かんながら)(たま)(ちはへ)(ませ)を、(これ)一言(ひとこと)づつ(とな)へた。(さいはひ)王仁(わたし)身体(しんたい)は、自由(じゆう)()くやうになつた。(あた)りを()ると、舟木(ふなき)全身(ぜんしん)が、(また)(ゆき)(ぼつ)せられ、頭髪(とうはつ)だけが、(あら)はれて()る。(その)(うへ)比礼(ひれ)(もつ)て、二三回(にさんかい)左右左(さゆうさ)と、()りまはすと、舟木(ふなき)(くる)しそうな(かほ)をして、雪中(せつちう)から、全身(ぜんしん)(あら)はした。沢山(たくさん)人々(ひとびと)身体(しんたい)は、(あるゐ)一部(いちぶ)(あるゐ)全部(ぜんぶ)雪中(せつちう)より(あら)はれた。(てん)一方(いつぱう)より、亦々(またまた)金色(こんじき)(ひかり)(あら)はれて、人々(ひとびと)身辺(しんぺん)()らした。原野(げんや)(ゆき)は、見渡(みわた)(かぎ)り、一度(いちど)にパツト()えて、(みじ)かい雑草(ざつさう)(はら)(かは)つた。
 数多(あまた)人々(ひとびと)は、満面(まんめん)(ゑみ)(ふく)んで、王仁(わたし)(まへ)(ひれ)()し、救主(きうしゆ)出現(しゆつげん)と、一切(いつさい)感謝(かんしや)()(へう)し、今後(こんご)救主(きうしゆ)(とも)に、三千(さんぜん)世界(せかい)神業(しんげふ)に、参加(さんか)せむ(こと)を、希望(きばう)する人々(ひとびと)も、沢山(たくさん)あつた。()(なか)には、実業家(じつげふか)もあれば、教育家(けういくか)もあり、医者(いしや)や、学者(がくしや)も、沢山(たくさん)(まじ)つて()つた。(いま)大本(おほもと)()て、神業(しんげふ)参加(さんか)して、()人々(ひとびと)(かほ)も、(その)(なか)()えて()つた。
 以上(いじやう)は、水獄(すゐごく)(うち)にて第一段(だいいちだん)(ところ)であつた。第二段(だいにだん)第三段(だいさんだん)と、()ると、()んな軽々(かるがる)しき苦痛(くつう)では、()かつたのである。王仁(わたし)は、(いま)この(とき)(こと)(おも)()すと、慄然(りつぜん)として、(はだえ)(あわ)を、(しやう)ずる次第(しだい)である。
九 雑草の原野
 雑草(ざつさう)原野(げんや)状況(じやうきやう)(じつ)殺風景(さつぷうけい)であつた。王仁(わたし)何時(いつ)しか(また)一人(ひとり)()つて()た。(あたま)(うへ)(はう)からザラザラと(あや)しい(おと)がする。何心(なにごころ)なく仰向(あふむ)途端(とたん)両眼(れうがん)(すな)()うなものが(とび)()み、()(ひら)(こと)出来(でき)ず、第一(だいいち)眼球(めだま)()ける()うな(いた)さを(かん)ずると(とも)に、四面(しめん)暗黒(あんこく)になつたと(おも)ふと、何物(なにもの)とも()らず王仁(わたし)左右(さゆう)()()けん(ばか)りに()くものがある。(また)(れう)(あし)左右(さゆう)(ひき)(さか)うとする。()んとも形容(けいよう)出来(でき)(くる)しさである。頭上(づじやう)からは(つめ)たい(つめ)たい(こほり)(やいば)梨割(なしわり)にされる。百雷(ひやくらい)(いち)()(とどろ)(やう)(おと)がして地上(ちじやう)(なみ)()うに上下(じやうげ)左右(さゆう)激動(げきどう)する。(あや)しい、いやらしい、(かな)しい(こゑ)(きこ)える。王仁(わたし)一生(いつしやう)懸命(けんめい)になつて、(れい)の、アマテラスを、()()れに()つと口唱(こうせう)する途端(とたん)に、天地(てんち)開明(かいめい)心地(ここち)して()(いた)みも(なほ)り、(にわ)かに王仁(わたし)女神(めがみ)姿(すがた)()して()た。
 舟木(ふなき)(はる)かの遠方(えんぱう)から比礼(ひれ)()りつつ此方(こちら)(むか)つて(かへ)つて()る。王仁(わたし)(その)姿(すがた)()(とき)(うれ)しさ、()んとも()えぬ心持(こころもち)であつた。二人(ふたり)再会(さいかい)歓喜(かんき)()ち、暫時(ざんじ)休息(きうそく)して()ると、(あと)より(まつ)()()(しるし)()けた悪鬼(わるをに)()()て、(ひか)(すさ)ましき(こほり)(やいば)()つて(かか)る、舟木(ふなき)(ただち)比礼(ひれ)()る。王仁(わたし)神名(かみな)(とな)へる、悪鬼(あくき)は二三の同類(どうるゐ)(とも)足早(あしばや)南方(なんぱう)()して()げて()くのである。
 
 どこからとも()(きた)(きた)へと(よば)はる(こゑ)に、王仁(わたし)機械(きかい)(ごと)身体(からだ)自然(しぜん)(すす)んで()く。そこへ(ひつじさる)()()()いた王冠(わうかん)(いただ)いた女神(めがみ)小松林(こまつばやし)()白髪(しらが)老人(ろうじん)(とも)(あら)はれて一本(いつぽん)(ふと)(なが)(ふで)王仁(わたし)(わた)して姿(すがた)(かく)された。
 ()()不思議(ふしぎ)()(ふで)(つつ)から(すずり)()る、(すみ)()る、半紙(はんし)(やま)(ほど)()()る。そして姿(すがた)(すこ)しも()えぬが、(あたま)(うへ)から(ふで)()てと()(こゑ)がする。二三(にん)童子(どうじ)(あら)はれて(すずり)(みづ)()ぎ、(すみ)()つたまま(これ)姿(すがた)をかくした。
 王仁(わたし)立派(りつぱ)女神(めがみ)姿(すがた)変化(へんか)した(まま)一生(いつしやう)懸命(けんめい)半紙(はんし)(むか)つて(ふで)(はし)らすのであつた。随分(ずゐぶん)(なが)時間(じかん)であつたが、冊数(さつすう)(たし)かに五百六十七(さつ)であつた()うに(おも)ふ、そこへ(にわ)かに何物(なにもの)かの足音(あしおと)(きこ)えたと(おも)()もなく、(まへ)(なか)()(おに)(あら)はれて(やり)(さき)(すう)(さつ)つつ(つき)()し、(をり)からの暴風(ばうふう)()がけて底本では「見かけて」。中空(ちうくう)散乱(さんらん)させて仕舞(しま)ふ、そうすると、(また)もや数十(すうじう)冊分(さつぶん)(おな)容積(ようせき)半紙(はんし)王仁(わたし)(まへ)何処(どこ)からとも()()いて()る。(また)(これ)(ふで)(はし)らさねば()らぬ(やう)()がするので、寒風(かんぷう)()(すさ)野原(げんや)「野原」にルビ「げんや」は底本通り。枯草(かれは)(うへ)(すは)つて、凹凸(おうとつ)(はなは)だしい(いし)(つくゑ)(かみ)()べ、左手(ゆんで)(おさ)えてはセツセと何事(なにごと)かを、()くのであつた。そこで今度(こんど)眼球(めだま)の四ツある怪物(かいぶつ)先導(せんだう)に、だの、だの、だの、だの、だの、だの、だの、だの、だの(しるし)(はい)つた法被(はつぴ)()(おに)かやつて()(のこ)らず(ひつ)さらえ、二三(てう)(さき)(くさ)(なか)()み、(かさ)ねて(これ)()()けて()くのである。
 そこへ西(にし)()(しるし)のついた(いろ)(しろ)(をとこ)()()て、一抱(ひとかか)()()して王仁(わたし)(まへ)()つて()る。(おに)どもは一生(いつしやう)懸命(けんめい)西(にし)(じるし)(おひ)かけて()る。王仁(わたし)比礼(ひれ)()ると、(おどろ)いて(みな)()げて()く、()大変(たいへん)(いきほひ)王仁(わたし)()いたものを(はい)にして()る。(くろ)(けむり)(りう)姿(すがた)()つて天上(てんじやう)(のぼ)つて()く、天上(てんじやう)では電光(でんかう)(やう)(ひか)つて、(かず)(かぎ)りなき(ほし)()して(しま)ふた。()星明(ほしあか)りに西(にし)(じるし)(おとこ)書類(しよるゐ)(かか)えて、(みなみ)(そら)(たか)姿(すがた)(くも)(かく)すのであつた。女神(めがみ)王仁(わたし)姿(すがた)何時(いつ)とは()しに変化(へんか)して(また)(もと)囚徒(しうと)(ころも)(かへ)つて()つた。俄然(がぜん)寒風(かんぷう)()()さみ、()はガチガチと(ふる)うて()た。そして(なん)だか(おそ)ろしいものに(おそ)はれたやうな(さび)しい心持(こころもち)仕出(しだ)した。
一〇 二段目の水獄
 王仁(わたし)(さむ)さと(さび)しさに(ただ)一人(ひとり)天照(あまてらす)大神(おほかみ)神号(しんがう)(とな)えて()ると、(にわか)全身(ぜんしん)(あたた)かくなり、空中(くうちう)神光(しんかう)(かがや)(わた)()()芙蓉(ふよう)仙人(せんにん)眼前(がんぜん)(あら)はれた。(あま)りの(うれ)しさに近寄(ちかよ)()()かうとすると仙人(せんにん)(つゐ)()(こと)()険悪(けんあく)顔色(かほいろ)をして()けませぬ。大王(だいわう)(めい)なれば三葉(みつば)殿(どの)(われ)近寄(ちかよ)つては今迄(いままで)修行(しうげふ)水泡(すゐほう)()すべし。(これ)にて一段目(いちだんめ)大略(たいりやく)探険(たんけん)されしならん。第二段(だいにだん)門扉(もんぴ)(ひら)(ため)()たれりと()ひも(をは)らぬに、(はや)くもギイーと、(あや)しい(おと)がしたと思ふと、王仁(わたし)(すで)門内(もんない)投込(なげこ)まれて()つた。仙人(せんにん)(かげ)其処(そこ)らに()い。
 ヒヤヒヤとする(こほり)(くら)(みち)(こけ)(まろ)びつ()(そこ)(そこ)へと(すべ)()むのである。暗黒(あんこく)何一(なにひと)()えぬが、前後(ぜんご)左右(さゆう)()んとも()へぬ苦悶(くもん)(こゑ)がする。(はる)前方(まへ)(おも)(ところ)(をんな)(くる)しさうな(さけ)(ごゑ)()こえる。血醒(ちなまぐ)さい臭気(しゆうき)(はな)()いて、(むね)(わる)くて嘔吐(はきけ)(もよ)ほして()る。脚元(あしもと)(すべ)つて(なん)(けん)とも()れぬ(やう)(ふか)地底(ちそこ)急転(きうてん)直落(ちよくらく)した。(こし)(あし)(あたま)(かほ)岩角(いはかど)(うた)れて血塗(ちみどろ)()つて(しま)ふた。神名(しんめい)奉唱(ほうしやう)すると王仁(わたし)四辺(しへん)(すう)(けん)面積(めんせき)(やや)()かく()つて()た。王仁(わたし)身体(しんたい)一面(いちめん)(きづ)()(おほい)(おどろ)惟神(かんながら)(たま)(ちはへ)(ませ)二度(にど)繰返(くりかへ)して、()(いき)()けて全身(ぜんしん)()(さす)つて()た。神徳(しんとく)(たちま)(あら)はれ、(きず)(いた)みも全部(ぜんぶ)恢復(かいふく)して(しま)つた。(ただち)大神(おほかみ)(さま)拍手(はくしゆ)感謝(かんしや)(たてまつ)つた。惟神(かんながら)(たま)(ちはへ)(ませ)言霊(ことたま)四辺(しへん)(とほ)(やみ)()(わた)り、(にわ)かに陽気(やうき)()いて()たのである。
 (ふたた)(うへ)(はう)で、ギイーと(おと)()たと(おも)瞬間(しゆんかん)に、十二三(にん)罪人(つみびと)転落(てんらく)して王仁(わたし)脚下(あしもと)(あら)はれ(たす)けて(たす)けてと(しき)りに合掌(がつしやう)するのである。王仁(わたし)比礼(ひれ)()頭上(づじやう)()がけて底本では「見掛けて」。()つて()ると、(たちま)(おき)()がり救世主(きうせいしゆ)(さま)(さけ)んで一同(いちどう)(こゑ)()はして()()てた。(この)一行(いつかう)(うち)には、宗教家(しうけうか)教育家(けういくか)思想家(しさうか)新聞(しんぶん)雑誌(ざつし)記者(きしや)薬種商(やくしゆしやう)医業者(いげふしや)(まじ)つて()つた。王仁(わたし)姿(すがた)(また)もや崇高(すうかう)にして威厳(ゐげん)ある女神(めがみ)姿(すがた)変化(へんか)した。一行(いつかう)(こほり)(みち)徒歩(とぼ)徒歩(とぼ)王仁(わたし)背後(はいご)から()いて()るのである。
一一 大幣の霊験
 一歩(いつぽ)々々(いつぽ)(から)ふじて前進(ぜんしん)すると広大(かうだい)(いけ)があつて、(いけ)(みづ)全部(ぜんぶ)いやらしい毛虫(けむし)が、ウザウザして()る。(その)(なか)(まじ)つて、(うま)(くび)を四ツ(あは)せた(やう)(かほ)をした蛇体(じやたい)(つの)()えたものが(あか)(した)をペロペロ(はき)()して()る。この(ひろ)(いけ)には(ほそ)(ほそ)(こほり)(はし)一筋(ひとすぢ)(なが)(むか)(がは)(わた)して()(ばか)りである。(あと)から(まつ)(じるし)(なか)(じるし)()(じるし)(おに)十字形(じふじけい)(とが)つた(やり)(もつ)て、()きに()るので、(まへ)(すす)むより、仕方(しやう)()いのである。(じふ)(にん)(じふ)(にん)ながら、この(ほそ)(はし)から、(いけ)(すべ)()ちて、毛虫(けむし)全身(ぜんしん)()され、()れも()れも、()()がつて、(いた)さと(さむ)さに、苦悶(くもん)(こゑ)(むし)()()うに、(うな)つて()状態(じやうたい)は、(ほと)んど瀕死(ひんし)の、病人(びやうにん)同様(どうやう)であつた。(その)(うへ)怪蛇(かいだ)一人(ひとり)々々(ひとり)、カブツとくわえては()()(また)くわえては()()し、(ほね)(にく)(しぼ)つた()うになつて()る。王仁(わたし)(どう)しても(わた)らねばならぬ。仮令(たとへ)自分(じぶん)首尾(しゆび)()(わた)()るも、(つれ)人々(ひとびと)如何(どう)するであろうかと心配(しんぱい)でならぬ。躊躇(ちうちよ)逡巡(しゆんじゆん)(すす)(かね)たる(ところ)三葉(みつば)殿(どの)(あたま)(うへ)から(やさ)しい(をんな)(こゑ)(きこ)えたかと(おも)ふと、一本(いつぽん)大幣(おほぬさ)(まへ)(くだ)つて()た。王仁(わたし)手早(てばや)()()つて、(おも)はず祓戸(はらひどの)大神(おほかみ)(はら)(たま)(きよ)(たま)へと(とな)へた。(ひろ)(いけ)(たちま)平原(へいげん)変化(へんか)し、(おに)怪蛇(かいだ)姿(すがた)()して(しま)つた。数万(すうまん)(にん)老若(ろうにやく)男女(なんによ)幽体(ゆうたい)(たちま)蘇生(そせい)したやうに元気(げんき)(かほ)をして一切(いつさい)救世主(きうせいしゆ)(さけ)んだ。()(こゑ)天地(てんち)(くづ)れん(ばか)りの(いさ)ましさであつた。各自(かくじ)産土(うぶすな)大神(おほかみ)綺羅星(きらぼし)(ごと)くに出現(しゆつげん)されて、自分(じぶん)氏子(うぢこ)々々(うぢこ)引連(ひきつ)れ、(よろこ)(いさ)んで(かへ)つて()かれるのであつた。
 
 王仁(わたし)比礼(ひれ)神器(しんき)舟木(ふなき)(わた)して(こま)つて()つた所へ、禁闕要(きんかつかね)(かみ)より大幣(おほぬさ)(たま)はつたので百万の援軍(えんぐん)()たる心地(ここち)して、()()れぬ平原(へいげん)(ただ)一人(ひとり)(また)もや(すす)んで()くのであつた。
 一つの巨大(きよだい)洋館(ようかん)厳然(げんぜん)として(たか)雲表(うんぺう)(そび)()つて()る。門口(もんぐち)には(いか)めしき冥官(めいかん)(かがみ)(やう)()見張(みは)つて前後(ぜんご)左右(さゆう)(かうべ)(めぐ)らして監視(かんし)して()る。部下(ぶか)冥卒(めいそつ)数限(かずかぎ)りも()各自(かくじ)罪人(ざいにん)酷遇(こくぐう)して()る。その光景(かうけい)筆紙(ひつし)(つく)されない惨酷(ざんこく)さである。王仁(わたし)大幣(おほぬさ)()りながら館内(かんない)()(すす)めた。冥官(めいかん)冥卒(めいそつ)(ただ)(もく)して王仁(わたし)通行(つうかう)するのを()らぬ(ふう)をして()つた。
 キヤツキヤツと(さけ)(こゑ)()(かへ)つて()ると、沢山(たくさん)婦女子(ふじよし)(くち)から()()いたり、(やり)腹部(ふくぶ)(つき)()されたり、沢山(たくさん)赤児(あかご)(むれ)全身(ぜんしん)()()はれたり、毒蛇(どくだ)(くび)()かれたりして悲鳴(ひめい)()げて七転(しちてん)八倒(ばつたう)して()る。冥卒(めいそつ)竹槍(たけやり)()(あたま)()はず(はら)()はず、身体(しんたい)(ところ)かまはず()き刺し、()(たき)(ごと)くに(なが)れて異臭(ゐしう)(はな)ち、惨状(さんじやう)()()てられぬ光景(かうけい)である。王仁(わたし)大幣(おほぬさ)左右左(さゆうさ)に二三(くわい)()(まは)すと、今迄(いままで)(すさ)まじき(まく)()いて婦女子(ふじよし)多勢(おほぜい)王仁(わたし)脚下(あしもと)(なみだ)(なが)して(あつ)まり()たり、(なか)には身体(しんたい)(くち)()けて救世主(きうせいしゆ)(さま)難有(ありがた)難有(ありがた)ふと、異口(いく)同音(どうおん)(うれ)()きに()いて()る。一天(いつてん)(たちま)明光(めいこう)(あら)はれ、各自(かくじ)産土(うぶすな)大神(おほかみ)は、氏子(うじこ)(とも)なひ、合掌(がつしやう)しながら(ひか)りと(とも)何処(どこ)とも()(かへ)つて()かれるのであつた。(てん)一方(いつぱう)歓喜(かんき)()ちた(こゑ)(きこ)えたが、次第(しだい)次第(しだい)(とほ)ざかつて(つゐ)には(かぜ)(おと)のみ(みみ)這入(はい)るのであつた。
(つづく)
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