霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一〇章 巌窟(がんくつ)〔五三六〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第13巻 如意宝珠 子の巻 篇:第3篇 探険奇聞 よみ(新仮名遣い):たんけんきぶん
章:第10章 巌窟 よみ(新仮名遣い):がんくつ 通し章番号:536
口述日:1922(大正11)年03月17日(旧02月19日) 口述場所: 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1922(大正11)年10月30日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]:
一同は矢を探して原野に出たが、広い野原に萱の矢一本を探すことに文句を言うものもあった。鷹彦は戒めていたが、火が燃え広がってくるのが見えた。一同は邪神の計略にかかったかと疑った。
近づいてくる火に、一同はひとところに固まって地団駄を踏んでいる。すると一同の足元が抜けて、土中に陥った。火はその上を咆哮しながら燃え進んでいってしまった。
岩彦は、赤い鼠とは原野に放たれた火のことだ、と悟った。九分九厘かなわぬというところで、神様が助けてくれる実地を身をもって知ったのであった。
すると、鼠が鳴く声が聞こえてくるので、一同は声の方に向かっていくと、緋色の毛をした鼠が、萱の矢をくわえて現れ、そして姿を消した。一同は足踏みをするとたんに、さらに深い穴に落ち込んだ。見ると、六個の岩窟が開いていた。
六人はめいめい、一個ずつの岩窟に進み入っていった。しかし進んで行くと、六個の穴の先は広い場所で一同はまたひとところに集まった。そこは大きな岩戸が行方を閉ざしていた。
亀彦が岩戸を思い切り押すと、暖簾に腕押しで、勢い余って向こう側に落ち込んだ。そして、落とし穴の井戸に落ち込んでしまった。亀彦は助けを求めている。
一同は亀彦を助けるかどうか会議をする、といってじらし、おかしな問答をして亀彦をなぶっている。しかし井戸にも石段が刻んであって、亀彦は苦もなく井戸から上がってくる。
馬鹿な一幕に一同は笑い合っていると、突然異声怪音が耳を打ち、一行の体は麻痺してきた。これはたいへんだと、皆声を揃えて天津祝詞を奏上する。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2020-12-04 12:39:30 文字数:3690 OBC :rm1310
愛善世界社版:121頁 八幡書店版:第3輯 75頁 修補版: 校定版:121頁 普及版:51頁 初版: ページ備考:
001 日(ひ)の出別(でわけ)の射放(いはな)ちたる矢(や)を拾(ひろ)ふべく、002鷹彦(たかひこ)、003岩彦(いはひこ)一行(いつかう)は、004先(さき)を争(あらそ)うて我一(われいち)に功名(こうみやう)せむと、005萱野(かやの)を分(わ)けて進(すす)み行(ゆ)く。
006岩彦(いはひこ)『この萱野原(かやのはら)へ萱製(かやせい)の矢(や)をたつた一本(いつぽん)位(ぐらゐ)射放(いはな)つて、007それを拾(ひろ)つて来(こ)いと云(い)うたつて、008天然坊(てんねんばう)の星(ほし)あたり、009何(どれ)だけ探(さが)しても無(な)ければもう駄目(だめ)だ。010失望(しつばう)落胆(らくたん)の淵(ふち)に沈(しづ)むとは、011コンナことを云(い)ふのだらうかい』
012亀彦(かめひこ)『際限(さいげん)もなきこの萱野原(かやのはら)を、013僅(わづか)に一本(いつぽん)の萱製(かやせい)の矢(や)を探(さが)すと云(い)つたつて、014到底(たうてい)不可能(ふかのう)的(てき)大事業(だいじげふ)だ、015竿竹(さをだけ)をもつて空(そら)の星(ほし)をがらつよりも頼(たよ)りない話(はなし)ぢやないか』
016鷹彦(たかひこ)『また弱音(よわね)を吹(ふ)きよる。017これが身魂(みたま)の審(あらた)めだ。018何(なん)でも構(かま)はない、019日(ひ)の出別(でわけ)の宣伝使(せんでんし)のおつしやる通(とほ)り、020唯々(ゐゐ)諾々(だくだく)として遵奉(じゆんぽう)するのだよ』
021駒彦(こまひこ)『あまり無理(むり)ぢやないか』
022鷹彦(たかひこ)『親(おや)と主人(しゆじん)と師匠(ししやう)は無理(むり)を云(い)ふものだと思(おも)うて居(を)れば好(よ)いのだ。023滅多(めつた)に吾々(われわれ)を親(おや)や師匠(ししやう)が窮地(きうち)に陥没(かんぼつ)さして、024痛快(つうくわい)を叫(さけ)ぶと云(い)ふやうな事(こと)はなさる気遣(きづか)ひがない。025何処(どこ)までも徹頭(てつとう)徹尾(てつび)命(めい)のまにまに矢探(やさが)しをするのだよ』
026駒彦(こまひこ)『ヤヤコシイ、027矢探(やさが)しだナ。028矢(や)矢(や)暫(しばら)く思案(しあん)に暮(く)れにけりの為体(ていたらく)だ。029オイオイ大変(たいへん)だ、030火(ひ)が燃(も)えて来(く)るぞ。031これだけ生(は)へ茂(しげ)つた野原(のはら)に火(ひ)をつけられ、032吾々(われわれ)は耐(たま)つたものぢやないワ、033本当(ほんたう)に日(ひ)の出別(でわけ)の宣伝使(せんでんし)は無茶(むちや)ぢやないか、034矢張(やつぱ)り彼奴(あいつ)は怪(あや)しいと思(おも)つて居(ゐ)たよ』
035鷹彦(たかひこ)『吾々(われわれ)を奈落(ならく)の底(そこ)に陥穽(かんせい)すると云(い)ふ悪神(あくがみ)の企(たく)みに乗(の)つたのだ。036エヽもう自棄糞(やけくそ)だ、037焼(や)け死(じに)する処(ところ)まで荒(あ)れて、038荒(あ)れて、039暴(あば)れ廻(まは)してやらうかい』
040 斯(か)くいふ折(をり)しも、041火(ひ)は四方(しはう)八方(はつぱう)より燃(も)え猛(たけ)り、042黒煙(こくえん)濛々(もうもう)として一同(いちどう)を包(つつ)んで了(しま)つた。043梅公(うめこう)、044音公(おとこう)両人(りやうにん)は、
045梅彦、音彦『暑(あつ)いワイ、046煙(けむ)たいワイ、047苦(くる)しい。048如何(どう)しよう』
049鷹彦(たかひこ)『また弱音(よわね)を吹(ふ)くな、050心頭(しんとう)を滅(めつ)すれば火(ひ)もまた涼(すず)しと云(い)ふ事(こと)があるわ。051斯(か)ういふ時(とき)に、052火(ひ)に対(たい)する水(みづ)だ。053乾(かわ)く事(こと)なく尽(つく)る事(こと)なき神(かみ)の尊(たふと)き水(みづ)をもつて、054猛火(まうくわ)を消(け)すのだ。055これが吾々(われわれ)の身魂(みたま)の試錬(しれん)だよ』
056 かく言(い)ふ折(をり)しも火(ひ)は足許(あしもと)へ燃(も)えて来(き)た。057進退(しんたい)谷(きは)まつた一同(いちどう)は一処(ひとところ)に集(あつ)まり互(たがひ)に抱(だ)きついて地団駄(ぢだんだ)踏(ふ)んで居(ゐ)る。058忽(たちま)ち地(ち)はバサリと陥落(かんらく)し、059土中(どちう)に一行(いつかう)は陥(おちい)つた。060火(ひ)はその上(うへ)を何(なに)の容赦(ようしや)もなく咆哮(ほうこう)しながら燃(も)え過(す)ぎにけり。
061岩彦(いはひこ)『アヽこれで分(わか)つた。062九分(くぶ)九厘(くりん)叶(かな)はぬと云(い)ふ処(ところ)で神(かみ)様(さま)が助(たす)けてやると仰有(おつしや)るのは茲(ここ)の事(こと)だ。063火鼠(ひねずみ)を現(あら)はして教(をし)へてやるなぞと、064本当(ほんたう)の赤(あか)い鼠(ねずみ)が出(で)るのかと思(おも)つて居(ゐ)たれば途方(とはう)途徹(とてつ)もない大(おほ)きな火鼠(ひねずみ)だつた。065火(ひ)の通(とほ)つた跡(あと)は焼(や)け殻(がら)が皆(みな)黒(くろ)くなつて、066炭(すみ)になりよる。067それで火鼠(ひねずみ)と仰有(おつしや)つたのだな』
068鷹彦(たかひこ)『ホー中々(なかなか)貴様(きさま)は悟(さと)りがよいワイ。069何(なん)だ未(ま)だブクブクするぢやないか。070地獄(ぢごく)の底(そこ)まで陥没(かんぼつ)しても困(こま)る、071好加減(いいかげん)に止(や)めて貰(もら)はぬと、072過(す)ぎたるは猶(なほ)及(およ)ばざるが如(ごと)しだ』
073 何処(いづく)ともなく、074『ククヽヽヽ』
075一同(いちどう)『ヤア、076あれは鼠(ねずみ)の鳴(な)き声(ごゑ)ぢやないか。077彼方(あつち)の方(はう)に往(い)つて見(み)ようぢやないか』
078と声(こゑ)を尋(たづ)ねて一同(いちどう)は進(すす)んで行(ゆ)く。079果(はた)して毛(け)の緋色(ひいろ)を帯(お)びた古鼠(ふるねずみ)が萱(かや)の矢(や)を喰(く)はへてこの処(ところ)に現(あら)はれ、
080古鼠『内(うち)はホラホラ、081外(と)はスブスブ』
082と鳴(な)いたきり姿(すがた)を消(け)して了(しま)つた。083一同(いちどう)はドンと足踏(あしふみ)する途端(とたん)、084ズドンと音(おと)がして深(ふか)い穴(あな)に落(お)ち込(こ)んだ。085見(み)れば其処(そこ)には六個(ろくこ)の巌窟(がんくつ)が開(あ)いて居(ゐ)る。
086鷹彦(たかひこ)『ヤア此処(ここ)だ此処(ここ)だ、087日(ひ)の出別(でわけの)命(みこと)もなかなか偉(えら)いワイ、088矢(や)の落(お)ちた処(ところ)が矢張(やつぱり)この巌窟(いはや)の入(い)り口(ぐち)だつた。089悪魔(あくま)と云(い)ふものは、090本当(ほんたう)に注意(ちうい)周到(しうたう)なものだ、091コンナ処(ところ)に入口(いりぐち)を拵(こしら)へておけば誰(たれ)も気(き)の付(つ)く筈(はず)はない、092至(いた)れり尽(つく)せりだ。093サアこれから約束(やくそく)の通(とほ)り各自(めいめい)分担(ぶんたん)して探険(たんけん)に出(で)かけるのだ』
094 六(ろく)人(にん)は各(おのおの)一個(いつこ)の穴(あな)に姿(すがた)を隠(かく)した。095比較(ひかく)的(てき)高(たか)く横巾(よこはば)の広(ひろ)い巌穴(いはあな)である。096どうしたものかこの巌窟(がんくつ)の中(なか)は地中(ちちう)にも拘(かか)はらず非常(ひじやう)に明(あかる)い。097六(ろく)人(にん)は各(おのおの)一(ひと)つの穴(あな)を目蒐(めが)けて進(すす)み行(ゆ)く。
 
098 日(ひ)の出別(でわけ)の火鼠(ひねずみ)荒野(あらの)に現(あら)はれて  迷(まよ)へる人(ひと)の心(こころ)を照(てら)せり
 
099 時々(ときどき)穴(あな)と穴(あな)との巌壁(がんぺき)に風通(かざとほ)しが開(あ)けてある。100六(ろく)人(にん)は六個(ろくこ)の穴(あな)を二三町(にさんちやう)進(すす)むと其処(そこ)に非常(ひじやう)に広(ひろ)い場所(ばしよ)がある。101之(これ)より先(さき)は堅固(けんご)なる巌(いは)の戸(と)が鎖(とざ)されて進(すす)む事(こと)が出来(でき)ない。102六(ろく)人(にん)は期(き)せずして一処(ひとところ)に集(あつ)まり、
103鷹彦(たかひこ)『ヤア皆(みな)の連中(れんちう)、104如何(どう)だつた。105別(べつ)に変(かは)つた事(こと)は無(な)かつたか』
106亀彦(かめひこ)『あつた、107あつた、108大(おほい)にあつた』
109鷹彦(たかひこ)『何(なに)があつたのだ』
110亀彦(かめひこ)『巌壁(がんぺき)の両方(りやうはう)に覗(のぞ)き穴(あな)が沢山(たくさん)あつたのだ』
111鷹彦(たかひこ)『何(なに)を云(い)ふのだ、112大層(たいそう)らしい。113どの窟(あな)にも共通(きようつう)的(てき)に空気穴(くうきあな)が開(あ)いて居(ゐ)るのだよ』
114岩彦(いはひこ)『之(これ)では約(つま)らぬぢやないか、115相手(あひて)なしの戦(たたか)ひは出来(でき)やしない。116何(なん)だ、117醜(しこ)の厳窟(いはや)に化物(ばけもの)が居(を)るナンテ人(ひと)を馬鹿(ばか)にして居(ゐ)る。118それだから世間(せけん)の噂(うはさ)は当(あて)にならぬといふのだ』
119鷹彦(たかひこ)『イヤ、120これからが正念場(しやうねんば)だよ。121ここはホンの序幕(じよまく)だ。122何十(なんじふ)里(り)とも知(し)れぬ程(ほど)あると云(い)ふぢやないか、123どこぞこの岩壁(がんぺき)を力(ちから)一杯(いつぱい)押(お)して見(み)ようか。124何(なん)でも沢山(たくさん)の戸(と)があると云(い)ふ事(こと)だから、125アヽさうだ、126一(ひと)つ押(お)してやらう。127オイ皆(みな)一度(いちど)に総攻撃(そうこうげき)だ』
128と。129力(ちから)一杯(いつぱい)ウンと押(お)した。130亀公(かめこう)の押(お)した岩(いは)は、131暖簾(のれん)を押(お)すやうに手(て)もなく開(あ)いて、132亀(かめ)の勢(いきほひ)あまつて巌穴(いはあな)の中(なか)へ飛(と)び込(こ)んだ途端(とたん)に幾丈(いくぢやう)とも知(し)れぬ陥穽(おとしあな)にザブンと音(おと)を立(た)てて落(お)ち込(こ)んだ。
133亀彦(かめひこ)『ヤヤ大変(たいへん)だ。134皆(みな)の奴(やつ)俺(おれ)を助(たす)けて呉(く)れぬかい』
135 五(ご)人(にん)は穴(あな)の傍(かたはら)を一足(ひとあし)、136一足(ひとあし)、137指(ゆび)に力(ちから)を入(い)れながらソツと向(むか)ふに渡(わた)り、
138一同『アヽ、139思(おも)はぬ不覚(ふかく)を取(と)つた。140これだから気許(きゆる)しは一寸(ちよつと)も出来(でき)ないと云(い)ふのだ』
141鷹彦(たかひこ)『何(なん)とかして亀(かめ)サンを救(すく)うて上(あ)げて遣(や)らねばなるまい』
142 亀(かめ)、143井戸(ゐど)の底(そこ)より、
144亀彦『オイ、145オイ、146何(なん)とかして呉(く)れないか』
147音彦(おとひこ)『お前(まへ)は名(な)から亀(かめ)サン、148水(みづ)の中(なか)は得意(とくい)だらう、149マア悠乎(ゆつくり)と水(みづ)でも呑(の)んで寛(くつろ)ぎたまへ。150突差(とつさ)の場合(ばあひ)よい智慧(ちゑ)も出(で)ないから此(この)井戸(ゐど)の傍(はた)で山(やま)の神(かみ)ぢやないが、151井戸端(ゐどばた)会議(くわいぎ)を開会(かいくわい)してお前(まへ)を助(たす)けるか、152助(たす)けないかといふ決議(けつぎ)をやるのだ。153マアマア、154閉会(へいくわい)になる迄(まで)辛抱(しんばう)して呉(く)れ』
155亀彦(かめひこ)『ソンナ気楽(きらく)な事(こと)を云(い)うて居(を)れるかい、156一(いち)時(じ)も早(はや)く救(すく)ひ上(あ)げて呉(く)れ』
157岩彦(いはひこ)『エヽ、158矢釜敷(やかまし)い云(い)うな、159手(て)の付(つ)けやうが無(な)いぢやないか』
160亀彦(かめひこ)『手(て)のつけやうどころか、161足(あし)も頭(あたま)も体中(からだぢう)、162浸(つ)けて居(ゐ)るぢやないか』
163鷹彦(たかひこ)『サアサア、164臨時(りんじ)議会(ぎくわい)の開会(かいくわい)だ、165これから議長(ぎちやう)の選挙(せんきよ)だ。166院内(いんない)総務(そうむ)は誰(たれ)にしようかな』
167亀彦(かめひこ)『アヽ辛気(しんき)臭(くさ)い、168洒落(しやれ)どころぢやないわ、169冷(つめ)たくなつて仕方(しかた)がない、170体(からだ)も何(なに)も氷結(ひようけつ)して了(しま)ふわ』
171岩彦(いはひこ)『氷結(ひようけつ)したつて仕方(しかた)がない、172此方(こちら)は多数決(たすうけつ)だ。173五(ご)人(にん)を両派(りやうは)に分(わ)けて、174三(さん)人(にん)と二人(ふたり)だ。175鷹(たか)サンは議長(ぎちやう)といふ格(かく)だ』
176鷹彦(たかひこ)『エヽ諸君(しよくん)、177遠路(ゑんろ)の処(ところ)よく出席(しゆつせき)下(くだ)さいました。178今回(こんくわい)臨時(りんじ)議会(ぎくわい)を開会(かいくわい)いたしましたに就(つい)ては、179最(もつと)も急(きふ)を要(えう)する事件(じけん)で御座(ござ)いまして、180国家(こくか)危急(ききふ)存亡(そんばう)の場合(ばあひ)、181何卒(なにとぞ)諸君(しよくん)の慎重(しんちよう)なる御(ご)審議(しんぎ)を願(ねが)ひ度(た)いのです。182抑々(そもそも)今回(こんくわい)の議案(ぎあん)提出(ていしゆつ)の要件(えうけん)は、183御存(ごぞん)じの通(とほ)り、184元(もと)ウラル教(けう)のヘボ宣伝使(せんでんし)、185亀公(かめこう)と云(い)ふ男(をとこ)、186醜(しこ)の巌窟(いはや)の探険(たんけん)に出(で)かけ、187実(じつ)に短見(たんけん)浅慮(せんりよ)にも思(おも)はぬ不覚(ふかく)を取(と)り、188深(ふか)く井中(ゐちう)に陥没(かんぼつ)致(いた)し、189生命(いのち)旦夕(たんせき)に迫(せま)る、190と云(い)ふ場合(ばあひ)でございます。191何卒(どうぞ)諸君(しよくん)の箱入(はこいり)の知識(ちしき)を絞(しぼ)り出(だ)されて、192彼(かれ)が救済(きうさい)の策(さく)を講(かう)じ最善(さいぜん)の努力(どりよく)を尽(つく)されむ事(こと)を希望(きばう)いたします』
193四人『ヤア賛成(さんせい)々々(さんせい)』
194と、195四(よ)人(にん)は一度(いちど)に拍手(はくしゆ)をもつて迎(むか)へる。196亀公(かめこう)は井戸(ゐど)の底(そこ)より、
197亀彦(かめひこ)『ヤーイ、198早(はや)く助(たす)けぬかい。199死(し)んでからなら助(たす)けても役(やく)に立(た)たぬぞ』
200鷹彦(たかひこ)『何(なん)だ。201井戸(ゐど)の底(そこ)から矢釜敷(やかましう)云(い)ふな、202議会(ぎくわい)の神聖(しんせい)を汚(けが)すでないか。203如何(どう)でせう、204諸君(しよくん)、205先決(せんけつ)問題(もんだい)として亀公(かめこう)を救済(きうさい)すべきものなりや、206将又(はたまた)このままに見殺(みごろし)にすべきものなりや、207起立(きりつ)をもつてお示(しめ)し下(くだ)さい』
208音彦(おとひこ)『皆(みな)すでに起立(きりつ)して居(ゐ)るぢやありませぬか』
209鷹彦(たかひこ)『ヤア、210これは間違(まちが)つた。211議員(ぎゐん)一同(いちどう)そこにお坐(すわ)り下(くだ)さい。212賛成者(さんせいしや)は起立(きりつ)を願(ねが)ひます。213亀彦(かめひこ)を助(たす)けると云(い)ふお心(こころ)の方(かた)は起立(きりつ)して下(くだ)さい、214救(すく)はないと云(い)ふ御(ご)意見(いけん)の方(かた)はそのまま坐(すわ)つて居(ゐ)てもらひませう。215一(いち)二(に)三(さん)』
216鷹彦(たかひこ)『ヤア起立(きりつ)される方(かた)は駒(こま)サン一人(ひとり)ですか、217これは怪(け)しからぬ。218然(しか)らば議長(ぎちやう)が起立(きりつ)いたしませう』
219岩彦(いはひこ)『議長(ぎちやう)横暴(わうばう)だ。220多数決(たすうけつ)多数決(たすうけつ)。221可(か)とする者(もの)二人(ふたり)、222否(ひ)とする者(もの)三(さん)人(にん)』
223鷹彦(たかひこ)『多数党(たすうたう)横暴(わうばう)極(きは)まる。224議会(ぎくわい)の解散(かいさん)を命(めい)じませうか』
225 亀(かめ)、226井戸(ゐど)の底(そこ)より泣(な)き声(ごゑ)を出(だ)して、
227亀彦『ヤイ、228馬鹿(ばか)にするない、229洒落(しやれ)どころかい。230早(はや)く助(たす)けて呉(く)れないか』
231岩彦(いはひこ)『この井戸(ゐど)の周囲(まはり)は皆(みな)この岩(いは)サンで固(かた)めてあるのだ。232岩(いは)に手(て)をかけ足(あし)をかけ登(のぼ)つて来(く)ればよいのだよ』
233亀彦(かめひこ)『登(のぼ)れと云(い)つたつて、234手(て)も足(あし)も引(ひ)つかかる処(ところ)がないのだよ』
235岩彦(いはひこ)『さうだらう、236手足(てあし)が短(みじか)くて背(せ)の甲羅(かふら)がつかへて登(のぼ)れぬのだらう。237モシモシ亀(かめ)よ亀(かめ)サンよ、238世界(せかい)の中(うち)にお前(まへ)ほど、239体(からだ)の不自由(ふじゆう)なものは無(な)い、240アハヽヽ』
241亀彦(かめひこ)『何(なん)とおつしやる兎(うさぎ)サン』
242鷹彦(たかひこ)『危急(ききふ)存亡(そんばう)の場合(ばあひ)、243命(いのち)の瀬戸際(せとぎは)になつて、244洒落(しやれ)るだけの余裕(よゆう)があるものなら、245サツサと登(のぼ)つて来(こ)い』
246亀彦(かめひこ)『皆(みな)サン大(おほ)きに憚(はばか)りさま。247上(うへ)から暗(くら)くて見(み)よまいが、248立派(りつぱ)な段梯子(だんばしご)が刻(きざ)んであるわ、249アハヽヽヽ』
250と笑(わら)ひながら悠々(いういう)として井戸(ゐど)から登(のぼ)つて来(き)た。
251岩彦(いはひこ)『こいつ一杯(いつぱい)喰(くは)された。252イヤ此方(こちら)が臨時(りんじ)議会(ぎくわい)まで開(ひら)いて大騒動(おほさうどう)をやつて、253沢山(たくさん)の機密費(きみつひ)を使(つか)つたのは、254吾々(われわれ)の方(はう)が陥穽(おとしあな)に放(ほ)り込(こ)まれたやうなものだ。255有(あり)もせぬ脳味噌(なうみそ)から機密費(きみつひ)を絞(しぼ)り出(だ)して馬鹿(ばか)らしい。256この度(たび)の議会(ぎくわい)は歳費(さいひ)五割増(ごわりまし)だ。257アハヽヽヽ』
258 斯(か)く笑(わら)ひさざめく折(をり)しも、259前方(ぜんぱう)に当(あた)つて何(なん)とも形容(けいよう)の出来(でき)ないやうな異声(いせい)怪音(くわいおん)頻(しき)りに一同(いちどう)の耳朶(じだ)を打(う)つ。
260 不思議(ふしぎ)や一行(いつかう)の身体(からだ)はその響(ひびき)と共(とも)に、261電気(でんき)にでも感(かん)じたやうに、262身体(からだ)の各部(かくぶ)に震動(しんどう)を感(かん)じ、263やや痳痺(まひ)気味(ぎみ)になつて来(き)た。
264鷹彦(たかひこ)『ヤア、265此奴(こいつ)は大変(たいへん)だぞ、266オイオイ皆(みな)の者(もの)、267緊褌(きんこん)一番(いちばん)、268大(おほい)に活動(くわつどう)すべき時期(じき)が切迫(せつぱく)した。269何(なに)はともあれ、270神言(かみごと)だ神言(かみごと)だ』
271 一同(いちどう)は声(こゑ)をそろへて、272天津(あまつ)祝詞(のりと)を奏上(そうじやう)する。
273(大正一一・三・一七 旧二・一九 加藤明子録)
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