霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一一章 怪(あや)しの女(をんな)〔五三七〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第13巻 如意宝珠 子の巻 篇:第3篇 探険奇聞 よみ(新仮名遣い):たんけんきぶん
章:第11章 怪しの女 よみ(新仮名遣い):あやしのおんな 通し章番号:537
口述日:1922(大正11)年03月17日(旧02月19日) 口述場所: 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1922(大正11)年10月30日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
天津祝詞を唱え終わって、一同は怪しい声がする方へと進んできた。道は狭くなってくる。すると傍らの岸壁に小窓が開いており、そこからたいへんな美人がちらりと顔をのぞかせた。一同は妖怪変化かと警戒しながら、先を争って窓から中を覗き込む。
美人はまたしても窓から顔をのぞかせ、三五教の宣伝歌を歌い始めた。鷹彦は、これは三五教の宣伝使が閉じ込められているのかもしれない、と言った。
岩彦は入口がないかと辺りを探し、妙な石が落ちているのを見つけた。石を押しのけると、仕掛けが出てきたので引っ張ると、石戸がめくれて開いた。
一同は中に入り、石段を登っていくと、二坪ばかりの平面な部屋に、先ほどの美人が座っていた。岩彦はてっきり妖怪変化かと思い、女を怒鳴りつけるが、女は平然としている。
女は一同の名前を知っており、また昨日からここで皆が来るのを待っていたのだ、という。鷹彦は名前を尋ねるが、女は三五教の宣伝使であれば、自分を知っているはずだ、と答える。
そこへ外から宣伝歌が聞こえてきた。そして小窓から中を覗き込んだのは、日の出別宣伝使であった。岩彦はにわかに元気付いて、女に対して正体をあらわせ、と毒づく。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2020-11-26 17:12:32 文字数:4528 OBC :rm1311
愛善世界社版:132頁 八幡書店版:第3輯 79頁 修補版: 校定版:132頁 普及版:56頁 初版: ページ備考:
001 一同(いちどう)は天津(あまつ)祝詞(のりと)を奏上(そうじやう)し終(をは)つて、002怪(あや)しき声(こゑ)する方(はう)に向(むか)つて強行(きやうかう)的(てき)前進(ぜんしん)を続(つづ)けた。003道(みち)はおひおひ狭(せま)くなつて来(き)た。
004岩彦(いはひこ)『ヤア狭(せま)いぞ、005まるで羊腸(やうちやう)の小径(こみち)だ、006気(き)をつけよ』
007梅彦(うめひこ)『窈窕(ようてう)嬋研(せんけん)たる美人(びじん)の嬌音(けうおん)が聞(きこ)えて居(ゐ)るぢやないか、008中々(なかなか)もつて前途(ぜんと)有望(いうばう)だ』
009音彦(おとひこ)『何(なん)だ、010気楽(きらく)さうに魔窟(まくつ)の探険(たんけん)に来(き)てゐながら窈窕(ようてう)の美人(びじん)もあつたものかい。011何処(どこ)までも貴様(きさま)はウラル式(しき)を発揮(はつき)する男(をとこ)だな』
012梅彦(うめひこ)『三歳児(みつご)の魂(たましひ)百(ひやく)まで通(とほ)せだ、013雀(すずめ)百(ひやく)まで踊(をど)りを忘(わす)れぬ。014况(いは)んや青春(せいしゆん)の血(ち)に燃(も)ゆる梅彦(うめひこ)に於(おい)てをやだ』
015岩彦(いはひこ)『アハヽヽヽ、016それにしても最前(さいぜん)の怪(あや)しき声(こゑ)は何(なん)だつたらう。017僕(ぼく)甚(はなは)だ以(もつ)て諒解(りやうかい)に苦(くる)しまざるを得(え)ないわ』
018亀彦(かめひこ)『あれは魔神(まがみ)の囁(ささや)きだよ。019天津(あまつ)祝詞(のりと)の言霊(ことたま)に旗(はた)を捲(ま)き矛(ほこ)を戢(をさ)めて予定(よてい)の退却(たいきやく)と出掛(でかけ)たのだよ。020オイオイ段々(だんだん)狭(せま)くなつて頭(あたま)がつかへるぢやないか』
021鷹彦(たかひこ)『フルのケ原(はら)の真(ま)ん中(なか)に
022聳(そそ)り立(た)ちたる巌(いは)の山(やま)
023醜(しこ)の巌窟(いはや)の六(む)つの穴(あな)
024探険(たんけん)せむと来(き)て見(み)れば
025六道(ろくだう)の辻(つじ)か知(し)らねども
026此処(ここ)に一行(いつかう)廻(めぐ)り会(あ)ひ
027力限(ちからかぎ)りに岩壁(がんぺき)を
028押(お)した途端(とたん)に亀彦(かめひこ)が
029思(おも)ひ掛(がけ)無(な)き陥穽(おとしあな)
030呻(うな)りをたてて直線(ちよくせん)に
031ザンブと許(ばか)り墜落(つゐらく)し
032泣(な)かぬ許(ばか)りに声(こゑ)たてて
033慈悲(じひ)ぢや情(なさけ)ぢや宣伝使(せんでんし)
034何卒(どうぞ)生命(いのち)をお助(たす)けと
035吠面(ほえづら)かわく可笑(をか)しさに
036吾(われ)等(ら)五(ご)人(にん)は逸早(いちはや)く
037井戸端(ゐどばた)会議(くわいぎ)を開会(かいくわい)し
038多数決(たすうけつ)にて亀彦(かめひこ)を
039救(すく)ふは全然(ぜんぜん)不可能(ふかのう)と
040決定(けつてい)したる時(とき)も時(とき)
041なまくら海鼠(なまこ)の亀彦(かめひこ)が
042吠(ほ)えて居(ゐ)るかと思(おも)ひきや
043素知(そし)らぬ顔(かほ)にてムクムクと
044階段(かいだん)上(のぼ)り吾前(わがまへ)に
045現(あら)はれ来(きた)る可笑(をか)しさよ
046シヅの巌窟(いはや)の魔窟原(まくつはら)
047醜(しこ)の魔神(まがみ)を言向(ことむ)けて
048世人(よびと)の害(がい)を除(のぞ)かむと
049語(かた)らふ折(をり)しも何処(どこ)となく
050呂律(ろれつ)も合(あ)はぬ言霊(ことたま)の
051ど拍子(へうし)ぬけたる呻(うな)り声(ごゑ)
052これはてつきり曲神(まがかみ)の
053悪戯事(いたづらごと)と推断(すゐだん)し
054天津(あまつ)祝詞(のりと)を唱(とな)ふれば
055流石(さすが)に猛(たけ)き曲津見(まがつみ)も
056煙(けむり)の如(ごと)く消(き)え失(う)せて
057跡(あと)しら雪(ゆき)と解(と)けて行(ゆ)く
058此処(ここ)に一行(いつかう)六(ろく)人(にん)は
059足(あし)を早(はや)めて前進(ぜんしん)し
060ヤツト極(きま)つた羊腸(やうちやう)の
061小径(こみち)の岩穴(がんけつ)辿(たど)りつつ
062行(ゆ)けども行(ゆ)けども限(かぎ)りなく
063逸(はや)る心(こころ)の細道(ほそみち)を
064長蛇(ちやうだ)の陣(ぢん)を布(し)きつつも
065いよいよ此処(ここ)に喇叭口(ラツパぐち)
066開(ひら)いて嬉(うれ)し広庭(ひろには)に
067来(きた)りて見(み)ればあら不思議(ふしぎ)
068春(はる)の弥生(やよい)の鶯(うぐひす)か
069秋野(あきの)にすだく鈴虫(すずむし)か
070それより清(きよ)き宣伝歌(せんでんか)
071何処(いづく)ともなく聞(きこ)え来(く)る
072アヽ訝(いぶか)しや訝(いぶか)しや
073神(かみ)が表(おもて)に現(あら)はれて
074善(ぜん)と悪(あく)とを立(た)て別(わ)ける
075此(この)世(よ)を造(つく)りし神直日(かむなほひ)
076心(こころ)も広(ひろ)き巌窟(がんくつ)の
077魔神(まがみ)の征服(せいふく)面白(おもしろ)し
078アヽ面白(おもしろ)し面白(おもしろ)し
079進(すす)めよ進(すす)めいざ進(すす)め
080如何(いか)なる悪魔(あくま)の来(きた)るとも
081大和心(やまとごころ)を振(ふ)り起(おこ)し
082厳(いづ)の雄健(をたけ)び踏(ふ)み健(たけ)び
083厳(いづ)の嘖譲(ころび)を起(おこ)しつつ
084一歩(いつぽ)も退(しりぞ)くこと勿(なか)れ
085進(すす)めや進(すす)め巌(いは)の道(みち)』
086と歌(うた)ふ折(をり)しも傍(かたはら)の岩壁(がんぺき)より雪(ゆき)を欺(あざむ)く婉麗(ゑんれい)なる美人(びじん)の顔(かほ)、087チラリと此方(こなた)を覗(のぞ)き居(ゐ)る。
088 梅彦(うめひこ)は敏(さと)くも此(この)顔(かほ)を見(み)て、
089梅彦『ヤア大変(たいへん)だ、090出(で)たぞ出(で)たぞ。091ドツコイシヨ』
092と言(い)ひながら尻餅(しりもち)を搗(つ)く。
093梅彦『ヤアヤア、094待(ま)つた待(ま)つた。095出(で)た出(で)た』
096鷹彦(たかひこ)『出(で)たとは何(なん)だ。097別(べつ)に何(なん)にも居(ゐ)ないぢやないか』
098梅彦(うめひこ)『居(ゐ)ないの、099居(ゐ)るのつて、100意外(いぐわい)の奴(やつ)が居(ゐ)るのだもの』
101鷹彦(たかひこ)『何(なに)が居(ゐ)るのだい』
102 梅彦(うめひこ)は傍(かたはら)の岩穴(いはあな)を指(ゆび)さし、
103梅彦『マアマア、104あれを見(み)い』
105鷹彦(たかひこ)『なんだ梅公(うめこう)、106コンナ処(ところ)に腰(こし)を下(おろ)して、107早(はや)く立(た)たぬかい』
108梅彦(うめひこ)『イヤあまり日(ひ)は永(なが)し、109綺麓(きれい)な花盛(はなざか)りだから一寸(ちよつと)ここで腰(こし)打(う)ち掛(か)けて花(はな)の見物(けんぶつ)だ。110貴様(きさま)等(ら)が仕様(しやう)も無(な)い窈窕(ようてう)嬋研(せんけん)たる美人(びじん)だなぞと言(い)ふものだから、111お化(ば)けの奴(やつ)、112御(ご)註文(ちゆうもん)通(どほ)り別嬪(べつぴん)になつて化(ば)けて出(で)よつたのだよ』
113岩彦(いはひこ)『アハヽヽヽ、114此奴(こいつ)チツト逆上(ぎやくじやう)して居(ゐ)るな。115何(な)にも居(ゐ)はせないぢやないか。116歩(ある)きもつて夢(ゆめ)を見(み)る奴(やつ)が何処(どこ)にあるかい』
117梅彦(うめひこ)『夢(ゆめ)ぢや無(な)いぞ、118現(うつつ)ぢや無(な)いぞ、119幻(まぼろし)ぢや無(な)いぞ。120ゆめゆめ疑(うたが)ふな』
121音彦(おとひこ)『ヤア此奴(こいつ)変(へん)だぞ。122オイ梅公(うめこう)、123貴様(きさま)はバのケぢやないか。124フルのケ原(はら)の妖怪(えうくわい)そつくりのロジックを使(つか)ひよつて』
125梅彦(うめひこ)『ヤア決(けつ)して決(けつ)して、126妖怪(えうくわい)どころか、127マアその岩(いは)の穴(あな)を覗(のぞ)いて見(み)よ。128あの美(うつく)しい声(こゑ)の出所(でどころ)はその穴(あな)の中(なか)だよ』
129 駒公(こまこう)は岩(いは)に掻(か)きつき背伸(せの)びをし乍(なが)ら、130梅彦(うめひこ)の指(ゆび)さした岩壁(がんぺき)の穴(あな)を一寸(ちよつと)覗(のぞ)き『ヤア』と言(い)つたきりズルズルドスン、
131駒彦『アイタヽ、132イヤもう如何(どう)にも斯(か)うにも奇(き)つ怪(くわい)奇(き)つ怪(くわい)、133奇妙(きめう)きてれつ、134古今(ここん)独歩(どつぽ)、135珍無類(ちんむるゐ)金覆輪(きんぷくりん)の覆輪(ぷくりん)々々(ぷくりん)だ』
136岩彦(いはひこ)『何(なん)だ、137二人(ふたり)共(とも)あの穴(あな)を覗(のぞ)いては怪(け)つ体(たい)な事(こと)を言(い)ひよる。138どら俺(おれ)が一(ひと)つ厳重(げんぢゆう)に臨検(りんけん)してやらう』
139と言(い)ひ乍(なが)ら又(また)もや岩壁(がんぺき)に駆(か)け上(のぼ)り、140一寸(ちよつと)中(なか)を覗(のぞ)いて見(み)て、
141岩彦『ヤア居(ゐ)る居(ゐ)る、142素敵(すてき)滅法界(めつぽふかい)な魔性(ましやう)の女(をんな)だ』
143鷹彦(たかひこ)『ドレドレ、144俺(おれ)が一(ひと)つ魔性(ましやう)の女(をんな)の首実検(くびじつけん)と出掛(でかけ)てやらう』
145岩彦(いはひこ)『ヤア、146待(ま)つた待(ま)つた、147梅公(うめこう)に駒公(こまこう)の奴(やつ)、148腰(こし)を抜(ぬ)かしよつた様(やう)な美人(びじん)だ。149成功(せいこう)したのはこの岩(いは)サン計(ばか)りだ。150先取権(せんしゆけん)は俺(おれ)にある。151見(み)るなら見(み)せてやらぬ事(こと)は無(な)いが、152何程(いくら)コンミツシヨンを出(だ)すか』
153鷹彦(たかひこ)『アハヽヽヽ、154貴様(きさま)たちは化物(ばけもの)であらうが何(なん)であらうが、155女(をんな)でさへあれば良(よ)いのだな』
156岩彦(いはひこ)『天地(てんち)開闢(かいびやく)の初(はじ)めより女(をんな)ならでは夜(よ)の明(あ)けぬ国(くに)だ。157これや又(また)何(なん)とした有難(ありがた)い事(こと)だらう、158これだから旅(たび)は良(よ)いもの辛(つら)いものと言(い)ふのだい』
159鷹彦(たかひこ)『ともかく見(み)る丈(だ)け位(ぐらゐ)は無料(むれう)でもよからう。160別(べつ)に俺(おれ)の慧眼(けいがん)で一瞥(いちべつ)したと言(い)つたとて、161それがために痩(やせ)るものでもあるまい。162また春(はる)の氷(こほり)の様(やう)に溶(と)けもせまいから』
163音彦(おとひこ)『鷹彦(たかひこ)サン、164亀公(かめこう)と三角(さんかく)同盟(どうめい)を結(むす)んで此奴(こいつ)等(ら)の堅塁(けんるゐ)を粉砕(ふんさい)し、165一(ひと)つ其(その)美人(びじん)を占領(せんりやう)したら如何(どう)ですか』
166岩彦(いはひこ)『占領(せんりやう)しようと言(い)つたつて岩(いは)の中(なか)に居(ゐ)る岩姫(いはひめ)だ。167如何(どう)する事(こと)も出来(でき)やしない』
168 この時(とき)又(また)もや美人(びじん)は巌(いは)の口(くち)に麗(うるは)しき面貌(めんばう)を現(あら)はし、169ニタリと笑(わら)ひ乍(なが)ら、
170女『神(かみ)が表(おもて)に現(あら)はれて
171善(ぜん)と悪(あく)とを立(た)て別(わ)ける
172この世(よ)を造(つく)りし神直日(かむなほひ)
173心(こころ)も広(ひろ)き大直日(おほなほひ)
174只(ただ)何事(なにごと)も人(ひと)の世(よ)は
175直日(なほひ)に見直(みなほ)し宣(の)り直(なほ)せ』
176岩彦(いはひこ)『ヤアこの化物(ばけもの)、177洒落(しやれ)てやがる。178三五教(あななひけう)の宣伝歌(せんでんか)を歌(うた)つてるぢやないか。179チツト合点(がてん)がゆかぬぢやないか』
180 鷹彦(たかひこ)諸手(もろて)を組(く)んで稍(やや)そり返(かへ)り乍(なが)ら、
181鷹彦(たかひこ)『ウーン、182ウン、183オイ一同(いちどう)の宣伝使(せんでんし)、184これや何(なん)でも三五教(あななひけう)の女(をんな)宣伝使(せんでんし)に相違(さうゐ)ないぞ』
185岩彦(いはひこ)『入口(いりぐち)も無(な)いのに、186コンナ細(ほそ)い穴(あな)から化物(ばけもの)ぢや無(な)ければ、187出入(しゆつにふ)する事(こと)が出来(でき)ぬぢやないか。188これやこれやてつきりバの字(じ)にケの字(じ)ぢや』
189 鷹彦(たかひこ)首(くび)を振(ふ)りながら、
190鷹彦(たかひこ)『イヤイヤ、191待(ま)て待(ま)て。192沈思(ちんし)黙考(もくかう)する丈(だ)けの余地(よち)は十分(じふぶん)にある。193何(なん)でも豪胆(がうたん)な宣伝使(せんでんし)が吾々(われわれ)の如(ごと)く探険(たんけん)にやつて来(き)て魔神(まがみ)の計略(けいりやく)にかかり、194岩(いは)の中(なか)に閉(と)ぢ込(こ)められて居(ゐ)るのかも知(し)れない。195一(ひと)つ力限(ちからかぎ)りこの洞(ほら)の岩壁(がんぺき)を押(お)して見(み)ようか、196何処(どこ)かに隠(かく)し戸(ど)があるに違(ちが)ひないぞ』
197音彦(おとひこ)『あまり力(ちから)入(い)れて押(お)すと、198また亀公(かめこう)の様(やう)に空中(くうちう)滑走(くわつそう)をやつて井戸(ゐど)の底(そこ)に着水(ちやくすゐ)するかも知(し)れない。199やあわりと押(お)したがよからう』
200岩彦(いはひこ)『何(なに)、201躊躇(ちうちよ)逡巡(しゆんじゆん)する必要(ひつえう)があるか』
202と言(い)ひ乍(なが)ら、203あたりの岩壁(がんぺき)を金剛力(こんがうりき)を出(だ)してウンウンと押(お)して見(み)て、
204岩彦『アヽ、205如何(どう)しても入口(いりぐち)がハツキリせぬわ、206これや何(なん)でも仕掛(しかけ)があるに違(ちが)ひない。207ヤア此処(ここ)に妙(めう)な石(いし)が落(お)ちて居(ゐ)る、208之(これ)が仕掛(しかけ)かも知(し)れぬぞ』
209と言(い)ひつつその石(いし)を片手(かたて)を伸(の)ばしてグイと取(と)り除(の)けた。210忽(たちま)ち両手(りやうて)の這入(はい)る様(やう)な恰好(かつかう)な穴(あな)があいた。211岩公(いはこう)は両手(りやうて)を引(ひ)つかけた儘(まま)ウンと背伸(せの)びをする途端(とたん)に、212厚(あつ)さ四五寸(しごすん)許(ばか)りの石(いし)の一枚戸(いちまいど)が剥(め)くれて来(き)た。
213岩彦『ヨー、214コンナ事(こと)をやつてゐよる。215何(なん)でも入口(いりぐち)はこの辺(へん)にあるに違(ちが)ひないぞ。216オイ皆(みな)の者(もの)、217サア来(き)た来(き)た』
218と言(い)ひ乍(なが)ら穴(あな)を潜(くぐ)つて一間(いつけん)許(ばか)り前進(ぜんしん)すると又(また)もや岩(いは)の戸(と)にピタリと止(と)まつた。219岩彦(いはひこ)は力限(ちからかぎ)り岩(いは)の戸(と)を向(むか)ふへ押(お)した。220途端(とたん)に岩戸(いはと)は思(おも)ひの外(ほか)軽(かる)く開(ひら)いた。221一同(いちどう)は先(さき)を争(あらそ)うて岩戸(いはと)の中(なか)へ進(すす)み入(い)るのであつた。222岩壁(がんぺき)には足掛(あしかけ)が刻(きざ)まれてある。223それを一歩(ひとあし)々々(ひとあし)登(のぼ)つて行(ゆ)くと二(ふた)坪(つぼ)ばかりの平面(へいめん)な処(ところ)がある。224その中央(ちうあう)に容色(ようしよく)婉麗(ゑんれい)なる以前(いぜん)の美人(びじん)がやや俯向(うつむ)き、225羞(はづか)しげに坐(すわ)つてゐた。226岩彦(いはひこ)は見(み)るより『ヤア』と驚(おどろ)いて倒(たふ)れむとしたが、227『ドツコイ』と気(き)を執(と)り直(なほ)し全身(ぜんしん)に力(ちから)を籠(こ)め乍(なが)ら、228声(こゑ)まで震(ふる)はせ、
229岩彦(いはひこ)『ヤイヤイ、230ヤイ、231一体(いつたい)全体(ぜんたい)貴様(きさま)は何物(なにもの)のお化(ば)けだ。232大蛇(をろち)か、233鬼(おに)か、234狼(おほかみ)か、235古狐(ふるぎつね)か、236古狸(ふるたぬき)か、237もう斯(か)うなつては仏(ほとけ)の椀(わん)ぢや、238かなはぬぞ。239有(あ)り態(てい)に白状(はくじやう)致(いた)せ。240吾々(われわれ)六(ろく)人(にん)の勇士(ゆうし)に包囲(はうゐ)されては、241もはや遁走(とんそう)する事(こと)も出来(でき)まい。242サア尋常(じんじやう)に白旗(はくき)を掲(かか)ぐるか、243開城(かいじやう)するか』
244女(をんな)『ホヽヽ、245之(これ)はしたり俄(にはか)宣伝使(せんでんし)の岩彦(いはひこ)サンとやら、246大変(たいへん)なお元気(げんき)で御座(ござ)いますこと』
247岩彦(いはひこ)『益々(ますます)合点(がてん)のゆかぬ大怪物(だいくわいぶつ)、248コラ、249貴様(きさま)何程(なにほど)うまく化(ば)けてもこの方(はう)の天眼通(てんがんつう)で、250チヤンと調(しら)べてあるのだ。251お気(き)の毒(どく)乍(なが)ら貴様(きさま)の尻(しり)を見(み)い。252大(おほ)きな尻(し)つ尾(ぽ)が見(み)えてるぢや無(な)いか』
253女(をんな)『ホヽヽヽヽ、254何(なん)の尻(し)つ尾(ぽ)が見(み)えて居(を)りますか。255大蛇(をろち)ですか、256狼(おほかみ)ですか、257狐(きつね)か、258獅子(しし)か、259狸(たぬき)か、260猫(ねこ)か、261鼬(いたち)か、262鼠(ねずみ)か、263あてて御覧(ごらん)』
264岩彦(いはひこ)『ナヽヽ何(なに)を吐(ほざ)きよるのだ。265図太(づぶと)い化物(ばけもの)奴(め)が。266一体(いつたい)俺(おれ)を誰方(どなた)と思(おも)つてけつかる』
267女(をんな)『ホヽヽヽヽ、268誰方(どなた)でもありませぬ、269此方(こなた)サンぢやと思(おも)ひます。270オヽヽヽ可笑(をか)し、271お元気(げんき)なお身体(からだ)、272お達者(たつしや)相(さう)なお姿(すがた)』
273岩彦(いはひこ)『コラ、274俺(おれ)が尾(を)が見(み)えると言(い)つたらよい気(き)になつて、275お元気(げんき)だの、276お達者(たつしや)だのと人(ひと)の言葉(ことば)の尾(を)につけて横道者(わうだうもの)奴(め)が。277鬼(おに)、278大蛇(をろち)狼(おほかみ)の何奴(どいつ)かのお化(ば)け奴(め)が』
279女(をんな)『ホー之(これ)は鷹彦(たかひこ)サン、280梅彦(うめひこ)サン、281音彦(おとひこ)サン、282亀(かめ)サン、283駒(こま)サン、284昨日(きのふ)から此処(ここ)にお待(ま)ち受(う)けして居(ゐ)ましたよ』
285鷹彦(たかひこ)『ヤア、286さう言(い)ふ貴女(あなた)は何(いづ)れの方(かた)でござるか、287拙者(せつしや)一向(いつかう)一面識(いちめんしき)もござらぬ』
288女(をんな)『オホヽヽヽ、289貴方(あなた)は三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)、290妾(わらは)の姿(すがた)をお覚(おぼ)えぢやありませぬか』
291鷹彦(たかひこ)『ホー一向(いつかう)合点(がてん)の虫(むし)が承諾(しようだく)しませぬワイ。292一体(いつたい)全体(ぜんたい)貴女(あなた)様(さま)は、293何(いづ)れの神(かみ)様(さま)でございますか』
294女(をんな)『鷹(たか)サン、295マアマア気(き)を落(お)ちつけて妾(わらは)の素性(すじやう)を洗(あら)つて御覧(ごらん)、296それが分(わか)らない様(やう)な事(こと)では三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)も駄目(だめ)ですよ。297醜(しこ)の巌窟(いはや)の征服(せいふく)もさつぱり零(ゼロ)ですよ』
298岩彦(いはひこ)『オイオイ梅公(うめこう)、299音(おと)、300亀(かめ)、301駒(こま)、302貴様(きさま)何(なん)だ。303何時(いつ)もベラベラ口車(くちぐるま)を廻転(くわいてん)させる癖(くせ)に今日(けふ)に限(かぎ)つてその沈黙(ちんもく)は何(なん)だい。304まさか汽缶(きくわん)の油(あぶら)がきれたでもあるまいに、305俺(おれ)計(ばか)りに談判(だんぱん)させよつてチツト交渉(かうせふ)したら如何(どう)だい』
306女(をんな)『オホヽヽヽ、307あの岩(いは)サンの気張(きば)り様(やう)、308妾(わらは)はあまり可笑(をか)しくて横腹(よこはら)が痛(いた)みます』
309岩彦(いはひこ)『痛(いた)まうと痛(いた)むまいと俺(おれ)の知(し)つた事(こと)かい。310コンナ魔窟(まくつ)の中(なか)に巣剿(すく)ひよつて吾(われ)等(ら)を誑(たぶ)らかさうと思(おも)つても、311ソンナ者(もの)に瞞著(まんちやく)されるものと選(せん)を異(こと)にするのだ、312あまり巫山戯(ふざけ)るない。313良々(いい)加減(かげん)に正体(しやうたい)を現(あら)はさぬと此(この)岩(いは)サンの鉄拳(てつけん)がお見舞(みま)ひ申(まを)すぞ』
314女(をんな)『オホヽヽヽ、315貴方(あなた)がたは能(よ)く能(よ)く分(わか)らぬ人(ひと)ですね。316二(ふた)つのお目(め)は銀紙(ぎんがみ)ですか、317節穴(ふしあな)ですか、318不思議(ふしぎ)な先(さき)の見(み)えぬお目(め)だこと。319オホヽヽヽヽヽ』
320岩彦(いはひこ)『エーイ、321怪(け)つ体(たい)の悪(わる)いこのお化(ば)け奴(め)、322優(やさ)しい顔(かほ)をしよつて失敬(しつけい)千万(せんばん)な事(こと)を言(い)ひよる太(ふと)い奴(やつ)だ。323もう此(この)上(うへ)は勘忍袋(かんにんぶくろ)の緒(を)が切(き)れた。324サア覚悟(かくご)致(いた)せ』
325女(をんな)『オホヽヽヽ』
326鷹彦(たかひこ)『ハテナ、327此奴(こいつ)は只(ただ)の狸(たぬき)ぢやあるまいな』
328女(をんな)『ホヽヽヽ』
329岩彦(いはひこ)『狸(たぬき)どころか、330大化物(おほばけもの)の親玉(おやだま)だ。331狸(たぬき)なら八畳敷(はちでふじき)に居(ゐ)る筈(はず)だ。332僅(わづ)かに四畳敷(しでふじき)位(ぐらゐ)な巌窟(いはや)に棲(す)んでる化物(ばけもの)だから大方(おほかた)土蜘蛛(つちぐも)の精(せい)だらう、333ヤイ土蜘蛛(つちぐも)、334俺(おれ)を何時(いつ)までも甘(あま)いと思(おも)つて居(ゐ)るか、335甘(あま)けら砂糖(さたう)だと思(おも)ひよるのか。336何(なん)だ、337甘(あま)つたるい声(こゑ)を出(だ)しよつて、338弥生(やよひ)の鶯(うぐひす)の真似(まね)をして、339オホヽヽヽと、340それや一体(いつたい)なんの芸当(げいたう)だい。341真実(ほんと)に荒男(あらをとこ)の六(ろく)人(にん)も向(むか)ふに廻(まは)して悠々(いういう)自適(じてき)、342国家(こくか)の興亡(こうばう)吾不関(われくわんせず)焉(えん)と云(い)ふ様(やう)な落着(おちつ)き払(はら)つたその腰(こし)つき、343小癪(こしやく)に触(さわ)る代物(しろもの)だナア』
344女(をんな)『ホヽヽヽヽ』
345 この時(とき)又(また)もや宣伝歌(せんでんか)が聞(きこ)えて来(き)た。346宣伝歌(せんでんか)の主(ぬし)は外(そと)より岩穴(いはあな)を一寸(ちよつと)覗(のぞ)いて見(み)て、
347日の出別『ヤア鷹(たか)サン、348岩(いは)サン、349此処(ここ)に居(を)つたのか』
350岩彦(いはひこ)『ヤア貴神(あなた)は日(ひ)の出別(でわけの)命(みこと)様(さま)、351ようマア来(き)て下(くだ)さいました。352之(これ)だから神(かみ)様(さま)は九分(くぶ)九厘(くりん)まで行(い)つたら助(たす)けてやらうと仰(おつ)しやるのだ。353サアもう大丈夫(だいぢやうぶ)だ。354サアお化(ば)け、355何(なに)なつと吐(ほざ)け、356もう叶(かな)はぬぞ』
357と俄(にはか)に肩(かた)を聳(そび)やかす其(その)可笑(をか)しさ。
358女(をんな)『ホヽヽヽヽ』
359(大正一一・三・一七 旧二・一九 北村隆光録)
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