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霊界物語
如意宝珠(第13~24巻)
第13巻(子の巻)
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凡例
総説
第1篇 勝利光栄
第1章 言霊開
第2章 波斯の海
第3章 波の音
第4章 夢の幕
第5章 同志打
第6章 逆転
第2篇 洗礼旅行
第7章 布留野原
第8章 醜の窟
第9章 火の鼠
第3篇 探険奇聞
第10章 巌窟
第11章 怪しの女
第12章 陥穽
第13章 上天丸
第4篇 奇窟怪巌
第14章 蛙船
第15章 蓮花開
第16章 玉遊
第17章 臥竜姫
第18章 石門開
第19章 馳走の幕
第20章 宣替
第21章 本霊
第5篇 膝栗毛
第22章 高加索詣
第23章 和解
第24章 大活躍
信天翁(三)
余白歌
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第13巻(子の巻)
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<<< 巌窟
(B)
(N)
陥穽 >>>
第一一章
怪
(
あや
)
しの
女
(
をんな
)
〔五三七〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第13巻 如意宝珠 子の巻
篇:
第3篇 探険奇聞
よみ(新仮名遣い):
たんけんきぶん
章:
第11章 怪しの女
よみ(新仮名遣い):
あやしのおんな
通し章番号:
537
口述日:
1922(大正11)年03月17日(旧02月19日)
口述場所:
筆録者:
北村隆光
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1922(大正11)年10月30日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
天津祝詞を唱え終わって、一同は怪しい声がする方へと進んできた。道は狭くなってくる。すると傍らの岸壁に小窓が開いており、そこからたいへんな美人がちらりと顔をのぞかせた。一同は妖怪変化かと警戒しながら、先を争って窓から中を覗き込む。
美人はまたしても窓から顔をのぞかせ、三五教の宣伝歌を歌い始めた。鷹彦は、これは三五教の宣伝使が閉じ込められているのかもしれない、と言った。
岩彦は入口がないかと辺りを探し、妙な石が落ちているのを見つけた。石を押しのけると、仕掛けが出てきたので引っ張ると、石戸がめくれて開いた。
一同は中に入り、石段を登っていくと、二坪ばかりの平面な部屋に、先ほどの美人が座っていた。岩彦はてっきり妖怪変化かと思い、女を怒鳴りつけるが、女は平然としている。
女は一同の名前を知っており、また昨日からここで皆が来るのを待っていたのだ、という。鷹彦は名前を尋ねるが、女は三五教の宣伝使であれば、自分を知っているはずだ、と答える。
そこへ外から宣伝歌が聞こえてきた。そして小窓から中を覗き込んだのは、日の出別宣伝使であった。岩彦はにわかに元気付いて、女に対して正体をあらわせ、と毒づく。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2020-11-26 17:12:32
OBC :
rm1311
愛善世界社版:
132頁
八幡書店版:
第3輯 79頁
修補版:
校定版:
132頁
普及版:
56頁
初版:
ページ備考:
001
一同
(
いちどう
)
は
天津
(
あまつ
)
祝詞
(
のりと
)
を
奏上
(
そうじやう
)
し
終
(
をは
)
つて、
002
怪
(
あや
)
しき
声
(
こゑ
)
する
方
(
はう
)
に
向
(
むか
)
つて
強行
(
きやうかう
)
的
(
てき
)
前進
(
ぜんしん
)
を
続
(
つづ
)
けた。
003
道
(
みち
)
はおひおひ
狭
(
せま
)
くなつて
来
(
き
)
た。
004
岩彦
(
いはひこ
)
『ヤア
狭
(
せま
)
いぞ、
005
まるで
羊腸
(
やうちやう
)
の
小径
(
こみち
)
だ、
006
気
(
き
)
をつけよ』
007
梅彦
(
うめひこ
)
『
窈窕
(
ようてう
)
嬋研
(
せんけん
)
たる
美人
(
びじん
)
の
嬌音
(
けうおん
)
が
聞
(
きこ
)
えて
居
(
ゐ
)
るぢやないか、
008
中々
(
なかなか
)
もつて
前途
(
ぜんと
)
有望
(
いうばう
)
だ』
009
音彦
(
おとひこ
)
『
何
(
なん
)
だ、
010
気楽
(
きらく
)
さうに
魔窟
(
まくつ
)
の
探険
(
たんけん
)
に
来
(
き
)
てゐながら
窈窕
(
ようてう
)
の
美人
(
びじん
)
もあつたものかい。
011
何処
(
どこ
)
までも
貴様
(
きさま
)
はウラル
式
(
しき
)
を
発揮
(
はつき
)
する
男
(
をとこ
)
だな』
012
梅彦
(
うめひこ
)
『
三歳児
(
みつご
)
の
魂
(
たましひ
)
百
(
ひやく
)
まで
通
(
とほ
)
せだ、
013
雀
(
すずめ
)
百
(
ひやく
)
まで
踊
(
をど
)
りを
忘
(
わす
)
れぬ。
014
况
(
いは
)
んや
青春
(
せいしゆん
)
の
血
(
ち
)
に
燃
(
も
)
ゆる
梅彦
(
うめひこ
)
に
於
(
おい
)
てをやだ』
015
岩彦
(
いはひこ
)
『アハヽヽヽ、
016
それにしても
最前
(
さいぜん
)
の
怪
(
あや
)
しき
声
(
こゑ
)
は
何
(
なん
)
だつたらう。
017
僕
(
ぼく
)
甚
(
はなは
)
だ
以
(
もつ
)
て
諒解
(
りやうかい
)
に
苦
(
くる
)
しまざるを
得
(
え
)
ないわ』
018
亀彦
(
かめひこ
)
『あれは
魔神
(
まがみ
)
の
囁
(
ささや
)
きだよ。
019
天津
(
あまつ
)
祝詞
(
のりと
)
の
言霊
(
ことたま
)
に
旗
(
はた
)
を
捲
(
ま
)
き
矛
(
ほこ
)
を
戢
(
をさ
)
めて
予定
(
よてい
)
の
退却
(
たいきやく
)
と
出掛
(
でかけ
)
たのだよ。
020
オイオイ
段々
(
だんだん
)
狭
(
せま
)
くなつて
頭
(
あたま
)
がつかへるぢやないか』
021
鷹彦
(
たかひこ
)
『フルのケ
原
(
はら
)
の
真
(
ま
)
ん
中
(
なか
)
に
022
聳
(
そそ
)
り
立
(
た
)
ちたる
巌
(
いは
)
の
山
(
やま
)
023
醜
(
しこ
)
の
巌窟
(
いはや
)
の
六
(
む
)
つの
穴
(
あな
)
024
探険
(
たんけん
)
せむと
来
(
き
)
て
見
(
み
)
れば
025
六道
(
ろくだう
)
の
辻
(
つじ
)
か
知
(
し
)
らねども
026
此処
(
ここ
)
に
一行
(
いつかう
)
廻
(
めぐ
)
り
会
(
あ
)
ひ
027
力限
(
ちからかぎ
)
りに
岩壁
(
がんぺき
)
を
028
押
(
お
)
した
途端
(
とたん
)
に
亀彦
(
かめひこ
)
が
029
思
(
おも
)
ひ
掛
(
がけ
)
無
(
な
)
き
陥穽
(
おとしあな
)
030
呻
(
うな
)
りをたてて
直線
(
ちよくせん
)
に
031
ザンブと
許
(
ばか
)
り
墜落
(
つゐらく
)
し
032
泣
(
な
)
かぬ
許
(
ばか
)
りに
声
(
こゑ
)
たてて
033
慈悲
(
じひ
)
ぢや
情
(
なさけ
)
ぢや
宣伝使
(
せんでんし
)
034
何卒
(
どうぞ
)
生命
(
いのち
)
をお
助
(
たす
)
けと
035
吠面
(
ほえづら
)
かわく
可笑
(
をか
)
しさに
036
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
五
(
ご
)
人
(
にん
)
は
逸早
(
いちはや
)
く
037
井戸端
(
ゐどばた
)
会議
(
くわいぎ
)
を
開会
(
かいくわい
)
し
038
多数決
(
たすうけつ
)
にて
亀彦
(
かめひこ
)
を
039
救
(
すく
)
ふは
全然
(
ぜんぜん
)
不可能
(
ふかのう
)
と
040
決定
(
けつてい
)
したる
時
(
とき
)
も
時
(
とき
)
041
なまくら
海鼠
(
なまこ
)
の
亀彦
(
かめひこ
)
が
042
吠
(
ほ
)
えて
居
(
ゐ
)
るかと
思
(
おも
)
ひきや
043
素知
(
そし
)
らぬ
顔
(
かほ
)
にてムクムクと
044
階段
(
かいだん
)
上
(
のぼ
)
り
吾前
(
わがまへ
)
に
045
現
(
あら
)
はれ
来
(
きた
)
る
可笑
(
をか
)
しさよ
046
シヅの
巌窟
(
いはや
)
の
魔窟原
(
まくつはら
)
047
醜
(
しこ
)
の
魔神
(
まがみ
)
を
言向
(
ことむ
)
けて
048
世人
(
よびと
)
の
害
(
がい
)
を
除
(
のぞ
)
かむと
049
語
(
かた
)
らふ
折
(
をり
)
しも
何処
(
どこ
)
となく
050
呂律
(
ろれつ
)
も
合
(
あ
)
はぬ
言霊
(
ことたま
)
の
051
ど
拍子
(
へうし
)
ぬけたる
呻
(
うな
)
り
声
(
ごゑ
)
052
これは
てつきり
曲神
(
まがかみ
)
の
053
悪戯事
(
いたづらごと
)
と
推断
(
すゐだん
)
し
054
天津
(
あまつ
)
祝詞
(
のりと
)
を
唱
(
とな
)
ふれば
055
流石
(
さすが
)
に
猛
(
たけ
)
き
曲津見
(
まがつみ
)
も
056
煙
(
けむり
)
の
如
(
ごと
)
く
消
(
き
)
え
失
(
う
)
せて
057
跡
(
あと
)
しら
雪
(
ゆき
)
と
解
(
と
)
けて
行
(
ゆ
)
く
058
此処
(
ここ
)
に
一行
(
いつかう
)
六
(
ろく
)
人
(
にん
)
は
059
足
(
あし
)
を
早
(
はや
)
めて
前進
(
ぜんしん
)
し
060
ヤツト
極
(
きま
)
つた
羊腸
(
やうちやう
)
の
061
小径
(
こみち
)
の
岩穴
(
がんけつ
)
辿
(
たど
)
りつつ
062
行
(
ゆ
)
けども
行
(
ゆ
)
けども
限
(
かぎ
)
りなく
063
逸
(
はや
)
る
心
(
こころ
)
の
細道
(
ほそみち
)
を
064
長蛇
(
ちやうだ
)
の
陣
(
ぢん
)
を
布
(
し
)
きつつも
065
いよいよ
此処
(
ここ
)
に
喇叭口
(
ラツパぐち
)
066
開
(
ひら
)
いて
嬉
(
うれ
)
し
広庭
(
ひろには
)
に
067
来
(
きた
)
りて
見
(
み
)
ればあら
不思議
(
ふしぎ
)
068
春
(
はる
)
の
弥生
(
やよい
)
の
鶯
(
うぐひす
)
か
069
秋野
(
あきの
)
にすだく
鈴虫
(
すずむし
)
か
070
それより
清
(
きよ
)
き
宣伝歌
(
せんでんか
)
071
何処
(
いづく
)
ともなく
聞
(
きこ
)
え
来
(
く
)
る
072
アヽ
訝
(
いぶか
)
しや
訝
(
いぶか
)
しや
073
神
(
かみ
)
が
表
(
おもて
)
に
現
(
あら
)
はれて
074
善
(
ぜん
)
と
悪
(
あく
)
とを
立
(
た
)
て
別
(
わ
)
ける
075
此
(
この
)
世
(
よ
)
を
造
(
つく
)
りし
神直日
(
かむなほひ
)
076
心
(
こころ
)
も
広
(
ひろ
)
き
巌窟
(
がんくつ
)
の
077
魔神
(
まがみ
)
の
征服
(
せいふく
)
面白
(
おもしろ
)
し
078
アヽ
面白
(
おもしろ
)
し
面白
(
おもしろ
)
し
079
進
(
すす
)
めよ
進
(
すす
)
めいざ
進
(
すす
)
め
080
如何
(
いか
)
なる
悪魔
(
あくま
)
の
来
(
きた
)
るとも
081
大和心
(
やまとごころ
)
を
振
(
ふ
)
り
起
(
おこ
)
し
082
厳
(
いづ
)
の
雄健
(
をたけ
)
び
踏
(
ふ
)
み
健
(
たけ
)
び
083
厳
(
いづ
)
の
嘖譲
(
ころび
)
を
起
(
おこ
)
しつつ
084
一歩
(
いつぽ
)
も
退
(
しりぞ
)
くこと
勿
(
なか
)
れ
085
進
(
すす
)
めや
進
(
すす
)
め
巌
(
いは
)
の
道
(
みち
)
』
086
と
歌
(
うた
)
ふ
折
(
をり
)
しも
傍
(
かたはら
)
の
岩壁
(
がんぺき
)
より
雪
(
ゆき
)
を
欺
(
あざむ
)
く
婉麗
(
ゑんれい
)
なる
美人
(
びじん
)
の
顔
(
かほ
)
、
087
チラリと
此方
(
こなた
)
を
覗
(
のぞ
)
き
居
(
ゐ
)
る。
088
梅彦
(
うめひこ
)
は
敏
(
さと
)
くも
此
(
この
)
顔
(
かほ
)
を
見
(
み
)
て、
089
梅彦
『ヤア
大変
(
たいへん
)
だ、
090
出
(
で
)
たぞ
出
(
で
)
たぞ。
091
ドツコイシヨ』
092
と
言
(
い
)
ひながら
尻餅
(
しりもち
)
を
搗
(
つ
)
く。
093
梅彦
『ヤアヤア、
094
待
(
ま
)
つた
待
(
ま
)
つた。
095
出
(
で
)
た
出
(
で
)
た』
096
鷹彦
(
たかひこ
)
『
出
(
で
)
たとは
何
(
なん
)
だ。
097
別
(
べつ
)
に
何
(
なん
)
にも
居
(
ゐ
)
ないぢやないか』
098
梅彦
(
うめひこ
)
『
居
(
ゐ
)
ないの、
099
居
(
ゐ
)
るのつて、
100
意外
(
いぐわい
)
の
奴
(
やつ
)
が
居
(
ゐ
)
るのだもの』
101
鷹彦
(
たかひこ
)
『
何
(
なに
)
が
居
(
ゐ
)
るのだい』
102
梅彦
(
うめひこ
)
は
傍
(
かたはら
)
の
岩穴
(
いはあな
)
を
指
(
ゆび
)
さし、
103
梅彦
『マアマア、
104
あれを
見
(
み
)
い』
105
鷹彦
(
たかひこ
)
『なんだ
梅公
(
うめこう
)
、
106
コンナ
処
(
ところ
)
に
腰
(
こし
)
を
下
(
おろ
)
して、
107
早
(
はや
)
く
立
(
た
)
たぬかい』
108
梅彦
(
うめひこ
)
『イヤあまり
日
(
ひ
)
は
永
(
なが
)
し、
109
綺麓
(
きれい
)
な
花盛
(
はなざか
)
りだから
一寸
(
ちよつと
)
ここで
腰
(
こし
)
打
(
う
)
ち
掛
(
か
)
けて
花
(
はな
)
の
見物
(
けんぶつ
)
だ。
110
貴様
(
きさま
)
等
(
ら
)
が
仕様
(
しやう
)
も
無
(
な
)
い
窈窕
(
ようてう
)
嬋研
(
せんけん
)
たる
美人
(
びじん
)
だなぞと
言
(
い
)
ふものだから、
111
お
化
(
ば
)
けの
奴
(
やつ
)
、
112
御
(
ご
)
註文
(
ちゆうもん
)
通
(
どほ
)
り
別嬪
(
べつぴん
)
になつて
化
(
ば
)
けて
出
(
で
)
よつたのだよ』
113
岩彦
(
いはひこ
)
『アハヽヽヽ、
114
此奴
(
こいつ
)
チツト
逆上
(
ぎやくじやう
)
して
居
(
ゐ
)
るな。
115
何
(
な
)
にも
居
(
ゐ
)
はせないぢやないか。
116
歩
(
ある
)
きもつて
夢
(
ゆめ
)
を
見
(
み
)
る
奴
(
やつ
)
が
何処
(
どこ
)
にあるかい』
117
梅彦
(
うめひこ
)
『
夢
(
ゆめ
)
ぢや
無
(
な
)
いぞ、
118
現
(
うつつ
)
ぢや
無
(
な
)
いぞ、
119
幻
(
まぼろし
)
ぢや
無
(
な
)
いぞ。
120
ゆめゆめ
疑
(
うたが
)
ふな』
121
音彦
(
おとひこ
)
『ヤア
此奴
(
こいつ
)
変
(
へん
)
だぞ。
122
オイ
梅公
(
うめこう
)
、
123
貴様
(
きさま
)
はバのケぢやないか。
124
フルのケ
原
(
はら
)
の
妖怪
(
えうくわい
)
そつくりのロジックを
使
(
つか
)
ひよつて』
125
梅彦
(
うめひこ
)
『ヤア
決
(
けつ
)
して
決
(
けつ
)
して、
126
妖怪
(
えうくわい
)
どころか、
127
マアその
岩
(
いは
)
の
穴
(
あな
)
を
覗
(
のぞ
)
いて
見
(
み
)
よ。
128
あの
美
(
うつく
)
しい
声
(
こゑ
)
の
出所
(
でどころ
)
はその
穴
(
あな
)
の
中
(
なか
)
だよ』
129
駒公
(
こまこう
)
は
岩
(
いは
)
に
掻
(
か
)
きつき
背伸
(
せの
)
びをし
乍
(
なが
)
ら、
130
梅彦
(
うめひこ
)
の
指
(
ゆび
)
さした
岩壁
(
がんぺき
)
の
穴
(
あな
)
を
一寸
(
ちよつと
)
覗
(
のぞ
)
き『ヤア』と
言
(
い
)
つたきりズルズルドスン、
131
駒彦
『アイタヽ、
132
イヤもう
如何
(
どう
)
にも
斯
(
か
)
うにも
奇
(
き
)
つ
怪
(
くわい
)
奇
(
き
)
つ
怪
(
くわい
)
、
133
奇妙
(
きめう
)
きてれつ
、
134
古今
(
ここん
)
独歩
(
どつぽ
)
、
135
珍無類
(
ちんむるゐ
)
金覆輪
(
きんぷくりん
)
の
覆輪
(
ぷくりん
)
々々
(
ぷくりん
)
だ』
136
岩彦
(
いはひこ
)
『
何
(
なん
)
だ、
137
二人
(
ふたり
)
共
(
とも
)
あの
穴
(
あな
)
を
覗
(
のぞ
)
いては
怪
(
け
)
つ
体
(
たい
)
な
事
(
こと
)
を
言
(
い
)
ひよる。
138
どら
俺
(
おれ
)
が
一
(
ひと
)
つ
厳重
(
げんぢゆう
)
に
臨検
(
りんけん
)
してやらう』
139
と
言
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
又
(
また
)
もや
岩壁
(
がんぺき
)
に
駆
(
か
)
け
上
(
のぼ
)
り、
140
一寸
(
ちよつと
)
中
(
なか
)
を
覗
(
のぞ
)
いて
見
(
み
)
て、
141
岩彦
『ヤア
居
(
ゐ
)
る
居
(
ゐ
)
る、
142
素敵
(
すてき
)
滅法界
(
めつぽふかい
)
な
魔性
(
ましやう
)
の
女
(
をんな
)
だ』
143
鷹彦
(
たかひこ
)
『ドレドレ、
144
俺
(
おれ
)
が
一
(
ひと
)
つ
魔性
(
ましやう
)
の
女
(
をんな
)
の
首実検
(
くびじつけん
)
と
出掛
(
でかけ
)
てやらう』
145
岩彦
(
いはひこ
)
『ヤア、
146
待
(
ま
)
つた
待
(
ま
)
つた、
147
梅公
(
うめこう
)
に
駒公
(
こまこう
)
の
奴
(
やつ
)
、
148
腰
(
こし
)
を
抜
(
ぬ
)
かしよつた
様
(
やう
)
な
美人
(
びじん
)
だ。
149
成功
(
せいこう
)
したのはこの
岩
(
いは
)
サン
計
(
ばか
)
りだ。
150
先取権
(
せんしゆけん
)
は
俺
(
おれ
)
にある。
151
見
(
み
)
るなら
見
(
み
)
せてやらぬ
事
(
こと
)
は
無
(
な
)
いが、
152
何程
(
いくら
)
コンミツシヨンを
出
(
だ
)
すか』
153
鷹彦
(
たかひこ
)
『アハヽヽヽ、
154
貴様
(
きさま
)
たちは
化物
(
ばけもの
)
であらうが
何
(
なん
)
であらうが、
155
女
(
をんな
)
でさへあれば
良
(
よ
)
いのだな』
156
岩彦
(
いはひこ
)
『
天地
(
てんち
)
開闢
(
かいびやく
)
の
初
(
はじ
)
めより
女
(
をんな
)
ならでは
夜
(
よ
)
の
明
(
あ
)
けぬ
国
(
くに
)
だ。
157
これや
又
(
また
)
何
(
なん
)
とした
有難
(
ありがた
)
い
事
(
こと
)
だらう、
158
これだから
旅
(
たび
)
は
良
(
よ
)
いもの
辛
(
つら
)
いものと
言
(
い
)
ふのだい』
159
鷹彦
(
たかひこ
)
『ともかく
見
(
み
)
る
丈
(
だ
)
け
位
(
ぐらゐ
)
は
無料
(
むれう
)
でもよからう。
160
別
(
べつ
)
に
俺
(
おれ
)
の
慧眼
(
けいがん
)
で
一瞥
(
いちべつ
)
したと
言
(
い
)
つたとて、
161
それがために
痩
(
やせ
)
るものでもあるまい。
162
また
春
(
はる
)
の
氷
(
こほり
)
の
様
(
やう
)
に
溶
(
と
)
けもせまいから』
163
音彦
(
おとひこ
)
『
鷹彦
(
たかひこ
)
サン、
164
亀公
(
かめこう
)
と
三角
(
さんかく
)
同盟
(
どうめい
)
を
結
(
むす
)
んで
此奴
(
こいつ
)
等
(
ら
)
の
堅塁
(
けんるゐ
)
を
粉砕
(
ふんさい
)
し、
165
一
(
ひと
)
つ
其
(
その
)
美人
(
びじん
)
を
占領
(
せんりやう
)
したら
如何
(
どう
)
ですか』
166
岩彦
(
いはひこ
)
『
占領
(
せんりやう
)
しようと
言
(
い
)
つたつて
岩
(
いは
)
の
中
(
なか
)
に
居
(
ゐ
)
る
岩姫
(
いはひめ
)
だ。
167
如何
(
どう
)
する
事
(
こと
)
も
出来
(
でき
)
やしない』
168
この
時
(
とき
)
又
(
また
)
もや
美人
(
びじん
)
は
巌
(
いは
)
の
口
(
くち
)
に
麗
(
うるは
)
しき
面貌
(
めんばう
)
を
現
(
あら
)
はし、
169
ニタリと
笑
(
わら
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
170
女
『
神
(
かみ
)
が
表
(
おもて
)
に
現
(
あら
)
はれて
171
善
(
ぜん
)
と
悪
(
あく
)
とを
立
(
た
)
て
別
(
わ
)
ける
172
この
世
(
よ
)
を
造
(
つく
)
りし
神直日
(
かむなほひ
)
173
心
(
こころ
)
も
広
(
ひろ
)
き
大直日
(
おほなほひ
)
174
只
(
ただ
)
何事
(
なにごと
)
も
人
(
ひと
)
の
世
(
よ
)
は
175
直日
(
なほひ
)
に
見直
(
みなほ
)
し
宣
(
の
)
り
直
(
なほ
)
せ』
176
岩彦
(
いはひこ
)
『ヤアこの
化物
(
ばけもの
)
、
177
洒落
(
しやれ
)
てやがる。
178
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝歌
(
せんでんか
)
を
歌
(
うた
)
つてるぢやないか。
179
チツト
合点
(
がてん
)
がゆかぬぢやないか』
180
鷹彦
(
たかひこ
)
諸手
(
もろて
)
を
組
(
く
)
んで
稍
(
やや
)
そり
返
(
かへ
)
り
乍
(
なが
)
ら、
181
鷹彦
(
たかひこ
)
『ウーン、
182
ウン、
183
オイ
一同
(
いちどう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
、
184
これや
何
(
なん
)
でも
三五教
(
あななひけう
)
の
女
(
をんな
)
宣伝使
(
せんでんし
)
に
相違
(
さうゐ
)
ないぞ』
185
岩彦
(
いはひこ
)
『
入口
(
いりぐち
)
も
無
(
な
)
いのに、
186
コンナ
細
(
ほそ
)
い
穴
(
あな
)
から
化物
(
ばけもの
)
ぢや
無
(
な
)
ければ、
187
出入
(
しゆつにふ
)
する
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
ぬぢやないか。
188
これやこれや
てつきり
バの
字
(
じ
)
にケの
字
(
じ
)
ぢや』
189
鷹彦
(
たかひこ
)
首
(
くび
)
を
振
(
ふ
)
りながら、
190
鷹彦
(
たかひこ
)
『イヤイヤ、
191
待
(
ま
)
て
待
(
ま
)
て。
192
沈思
(
ちんし
)
黙考
(
もくかう
)
する
丈
(
だ
)
けの
余地
(
よち
)
は
十分
(
じふぶん
)
にある。
193
何
(
なん
)
でも
豪胆
(
がうたん
)
な
宣伝使
(
せんでんし
)
が
吾々
(
われわれ
)
の
如
(
ごと
)
く
探険
(
たんけん
)
にやつて
来
(
き
)
て
魔神
(
まがみ
)
の
計略
(
けいりやく
)
にかかり、
194
岩
(
いは
)
の
中
(
なか
)
に
閉
(
と
)
ぢ
込
(
こ
)
められて
居
(
ゐ
)
るのかも
知
(
し
)
れない。
195
一
(
ひと
)
つ
力限
(
ちからかぎ
)
りこの
洞
(
ほら
)
の
岩壁
(
がんぺき
)
を
押
(
お
)
して
見
(
み
)
ようか、
196
何処
(
どこ
)
かに
隠
(
かく
)
し
戸
(
ど
)
があるに
違
(
ちが
)
ひないぞ』
197
音彦
(
おとひこ
)
『あまり
力
(
ちから
)
入
(
い
)
れて
押
(
お
)
すと、
198
また
亀公
(
かめこう
)
の
様
(
やう
)
に
空中
(
くうちう
)
滑走
(
くわつそう
)
をやつて
井戸
(
ゐど
)
の
底
(
そこ
)
に
着水
(
ちやくすゐ
)
するかも
知
(
し
)
れない。
199
やあわり
と
押
(
お
)
したがよからう』
200
岩彦
(
いはひこ
)
『
何
(
なに
)
、
201
躊躇
(
ちうちよ
)
逡巡
(
しゆんじゆん
)
する
必要
(
ひつえう
)
があるか』
202
と
言
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
203
あたりの
岩壁
(
がんぺき
)
を
金剛力
(
こんがうりき
)
を
出
(
だ
)
してウンウンと
押
(
お
)
して
見
(
み
)
て、
204
岩彦
『アヽ、
205
如何
(
どう
)
しても
入口
(
いりぐち
)
がハツキリせぬわ、
206
これや
何
(
なん
)
でも
仕掛
(
しかけ
)
があるに
違
(
ちが
)
ひない。
207
ヤア
此処
(
ここ
)
に
妙
(
めう
)
な
石
(
いし
)
が
落
(
お
)
ちて
居
(
ゐ
)
る、
208
之
(
これ
)
が
仕掛
(
しかけ
)
かも
知
(
し
)
れぬぞ』
209
と
言
(
い
)
ひつつその
石
(
いし
)
を
片手
(
かたて
)
を
伸
(
の
)
ばしてグイと
取
(
と
)
り
除
(
の
)
けた。
210
忽
(
たちま
)
ち
両手
(
りやうて
)
の
這入
(
はい
)
る
様
(
やう
)
な
恰好
(
かつかう
)
な
穴
(
あな
)
があいた。
211
岩公
(
いはこう
)
は
両手
(
りやうて
)
を
引
(
ひ
)
つかけた
儘
(
まま
)
ウンと
背伸
(
せの
)
びをする
途端
(
とたん
)
に、
212
厚
(
あつ
)
さ
四五寸
(
しごすん
)
許
(
ばか
)
りの
石
(
いし
)
の
一枚戸
(
いちまいど
)
が
剥
(
め
)
くれて
来
(
き
)
た。
213
岩彦
『ヨー、
214
コンナ
事
(
こと
)
をやつてゐよる。
215
何
(
なん
)
でも
入口
(
いりぐち
)
はこの
辺
(
へん
)
にあるに
違
(
ちが
)
ひないぞ。
216
オイ
皆
(
みな
)
の
者
(
もの
)
、
217
サア
来
(
き
)
た
来
(
き
)
た』
218
と
言
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
穴
(
あな
)
を
潜
(
くぐ
)
つて
一間
(
いつけん
)
許
(
ばか
)
り
前進
(
ぜんしん
)
すると
又
(
また
)
もや
岩
(
いは
)
の
戸
(
と
)
にピタリと
止
(
と
)
まつた。
219
岩彦
(
いはひこ
)
は
力限
(
ちからかぎ
)
り
岩
(
いは
)
の
戸
(
と
)
を
向
(
むか
)
ふへ
押
(
お
)
した。
220
途端
(
とたん
)
に
岩戸
(
いはと
)
は
思
(
おも
)
ひの
外
(
ほか
)
軽
(
かる
)
く
開
(
ひら
)
いた。
221
一同
(
いちどう
)
は
先
(
さき
)
を
争
(
あらそ
)
うて
岩戸
(
いはと
)
の
中
(
なか
)
へ
進
(
すす
)
み
入
(
い
)
るのであつた。
222
岩壁
(
がんぺき
)
には
足掛
(
あしかけ
)
が
刻
(
きざ
)
まれてある。
223
それを
一歩
(
ひとあし
)
々々
(
ひとあし
)
登
(
のぼ
)
つて
行
(
ゆ
)
くと
二
(
ふた
)
坪
(
つぼ
)
ばかりの
平面
(
へいめん
)
な
処
(
ところ
)
がある。
224
その
中央
(
ちうあう
)
に
容色
(
ようしよく
)
婉麗
(
ゑんれい
)
なる
以前
(
いぜん
)
の
美人
(
びじん
)
がやや
俯向
(
うつむ
)
き、
225
羞
(
はづか
)
しげに
坐
(
すわ
)
つてゐた。
226
岩彦
(
いはひこ
)
は
見
(
み
)
るより『ヤア』と
驚
(
おどろ
)
いて
倒
(
たふ
)
れむとしたが、
227
『ドツコイ』と
気
(
き
)
を
執
(
と
)
り
直
(
なほ
)
し
全身
(
ぜんしん
)
に
力
(
ちから
)
を
籠
(
こ
)
め
乍
(
なが
)
ら、
228
声
(
こゑ
)
まで
震
(
ふる
)
はせ、
229
岩彦
(
いはひこ
)
『ヤイヤイ、
230
ヤイ、
231
一体
(
いつたい
)
全体
(
ぜんたい
)
貴様
(
きさま
)
は
何物
(
なにもの
)
のお
化
(
ば
)
けだ。
232
大蛇
(
をろち
)
か、
233
鬼
(
おに
)
か、
234
狼
(
おほかみ
)
か、
235
古狐
(
ふるぎつね
)
か、
236
古狸
(
ふるたぬき
)
か、
237
もう
斯
(
か
)
うなつては
仏
(
ほとけ
)
の
椀
(
わん
)
ぢや、
238
かなはぬぞ。
239
有
(
あ
)
り
態
(
てい
)
に
白状
(
はくじやう
)
致
(
いた
)
せ。
240
吾々
(
われわれ
)
六
(
ろく
)
人
(
にん
)
の
勇士
(
ゆうし
)
に
包囲
(
はうゐ
)
されては、
241
もはや
遁走
(
とんそう
)
する
事
(
こと
)
も
出来
(
でき
)
まい。
242
サア
尋常
(
じんじやう
)
に
白旗
(
はくき
)
を
掲
(
かか
)
ぐるか、
243
開城
(
かいじやう
)
するか』
244
女
(
をんな
)
『ホヽヽ、
245
之
(
これ
)
はしたり
俄
(
にはか
)
宣伝使
(
せんでんし
)
の
岩彦
(
いはひこ
)
サンとやら、
246
大変
(
たいへん
)
なお
元気
(
げんき
)
で
御座
(
ござ
)
いますこと』
247
岩彦
(
いはひこ
)
『
益々
(
ますます
)
合点
(
がてん
)
のゆかぬ
大怪物
(
だいくわいぶつ
)
、
248
コラ、
249
貴様
(
きさま
)
何程
(
なにほど
)
うまく
化
(
ば
)
けてもこの
方
(
はう
)
の
天眼通
(
てんがんつう
)
で、
250
チヤンと
調
(
しら
)
べてあるのだ。
251
お
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
乍
(
なが
)
ら
貴様
(
きさま
)
の
尻
(
しり
)
を
見
(
み
)
い。
252
大
(
おほ
)
きな
尻
(
し
)
つ
尾
(
ぽ
)
が
見
(
み
)
えてるぢや
無
(
な
)
いか』
253
女
(
をんな
)
『ホヽヽヽヽ、
254
何
(
なん
)
の
尻
(
し
)
つ
尾
(
ぽ
)
が
見
(
み
)
えて
居
(
を
)
りますか。
255
大蛇
(
をろち
)
ですか、
256
狼
(
おほかみ
)
ですか、
257
狐
(
きつね
)
か、
258
獅子
(
しし
)
か、
259
狸
(
たぬき
)
か、
260
猫
(
ねこ
)
か、
261
鼬
(
いたち
)
か、
262
鼠
(
ねずみ
)
か、
263
あてて
御覧
(
ごらん
)
』
264
岩彦
(
いはひこ
)
『ナヽヽ
何
(
なに
)
を
吐
(
ほざ
)
きよるのだ。
265
図太
(
づぶと
)
い
化物
(
ばけもの
)
奴
(
め
)
が。
266
一体
(
いつたい
)
俺
(
おれ
)
を
誰方
(
どなた
)
と
思
(
おも
)
つてけつかる』
267
女
(
をんな
)
『ホヽヽヽヽ、
268
誰方
(
どなた
)
でもありませぬ、
269
此方
(
こなた
)
サンぢやと
思
(
おも
)
ひます。
270
オヽヽヽ
可笑
(
をか
)
し、
271
お
元気
(
げんき
)
な
お
身体
(
からだ
)
、
272
お
達者
(
たつしや
)
相
(
さう
)
な
お
姿
(
すがた
)
』
273
岩彦
(
いはひこ
)
『コラ、
274
俺
(
おれ
)
が
尾
(
を
)
が
見
(
み
)
えると
言
(
い
)
つたらよい
気
(
き
)
になつて、
275
お
元気
(
げんき
)
だの、
276
お
達者
(
たつしや
)
だのと
人
(
ひと
)
の
言葉
(
ことば
)
の
尾
(
を
)
につけて
横道者
(
わ
うだうもの
)
奴
(
め
)
が。
277
鬼
(
お
に
)
、
278
大蛇
(
を
ろち
)
狼
(
お
ほかみ
)
の
何奴
(
どいつ
)
かの
お
化
(
ば
)
け
奴
(
め
)
が』
279
女
(
をんな
)
『ホー
之
(
これ
)
は
鷹彦
(
たかひこ
)
サン、
280
梅彦
(
うめひこ
)
サン、
281
音彦
(
おとひこ
)
サン、
282
亀
(
かめ
)
サン、
283
駒
(
こま
)
サン、
284
昨日
(
きのふ
)
から
此処
(
ここ
)
にお
待
(
ま
)
ち
受
(
う
)
けして
居
(
ゐ
)
ましたよ』
285
鷹彦
(
たかひこ
)
『ヤア、
286
さう
言
(
い
)
ふ
貴女
(
あなた
)
は
何
(
いづ
)
れの
方
(
かた
)
でござるか、
287
拙者
(
せつしや
)
一向
(
いつかう
)
一面識
(
いちめんしき
)
もござらぬ』
288
女
(
をんな
)
『オホヽヽヽ、
289
貴方
(
あなた
)
は
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
、
290
妾
(
わらは
)
の
姿
(
すがた
)
をお
覚
(
おぼ
)
えぢやありませぬか』
291
鷹彦
(
たかひこ
)
『ホー
一向
(
いつかう
)
合点
(
がてん
)
の
虫
(
むし
)
が
承諾
(
しようだく
)
しませぬワイ。
292
一体
(
いつたい
)
全体
(
ぜんたい
)
貴女
(
あなた
)
様
(
さま
)
は、
293
何
(
いづ
)
れの
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
でございますか』
294
女
(
をんな
)
『
鷹
(
たか
)
サン、
295
マアマア
気
(
き
)
を
落
(
お
)
ちつけて
妾
(
わらは
)
の
素性
(
すじやう
)
を
洗
(
あら
)
つて
御覧
(
ごらん
)
、
296
それが
分
(
わか
)
らない
様
(
やう
)
な
事
(
こと
)
では
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
も
駄目
(
だめ
)
ですよ。
297
醜
(
しこ
)
の
巌窟
(
いはや
)
の
征服
(
せいふく
)
もさつぱり
零
(
ゼロ
)
ですよ』
298
岩彦
(
いはひこ
)
『オイオイ
梅公
(
うめこう
)
、
299
音
(
おと
)
、
300
亀
(
かめ
)
、
301
駒
(
こま
)
、
302
貴様
(
きさま
)
何
(
なん
)
だ。
303
何時
(
いつ
)
もベラベラ
口車
(
くちぐるま
)
を
廻転
(
くわいてん
)
させる
癖
(
くせ
)
に
今日
(
けふ
)
に
限
(
かぎ
)
つてその
沈黙
(
ちんもく
)
は
何
(
なん
)
だい。
304
まさか
汽缶
(
きくわん
)
の
油
(
あぶら
)
がきれたでもあるまいに、
305
俺
(
おれ
)
計
(
ばか
)
りに
談判
(
だんぱん
)
させよつてチツト
交渉
(
かうせふ
)
したら
如何
(
どう
)
だい』
306
女
(
をんな
)
『オホヽヽヽ、
307
あの
岩
(
いは
)
サンの
気張
(
きば
)
り
様
(
やう
)
、
308
妾
(
わらは
)
はあまり
可笑
(
をか
)
しくて
横腹
(
よこはら
)
が
痛
(
いた
)
みます』
309
岩彦
(
いはひこ
)
『
痛
(
いた
)
まうと
痛
(
いた
)
むまいと
俺
(
おれ
)
の
知
(
し
)
つた
事
(
こと
)
かい。
310
コンナ
魔窟
(
まくつ
)
の
中
(
なか
)
に
巣剿
(
すく
)
ひよつて
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
を
誑
(
たぶ
)
らかさうと
思
(
おも
)
つても、
311
ソンナ
者
(
もの
)
に
瞞著
(
まんちやく
)
されるものと
選
(
せん
)
を
異
(
こと
)
にするのだ、
312
あまり
巫山戯
(
ふざけ
)
るない。
313
良々
(
いい
)
加減
(
かげん
)
に
正体
(
しやうたい
)
を
現
(
あら
)
はさぬと
此
(
この
)
岩
(
いは
)
サンの
鉄拳
(
てつけん
)
がお
見舞
(
みま
)
ひ
申
(
まを
)
すぞ』
314
女
(
をんな
)
『オホヽヽヽ、
315
貴方
(
あなた
)
がたは
能
(
よ
)
く
能
(
よ
)
く
分
(
わか
)
らぬ
人
(
ひと
)
ですね。
316
二
(
ふた
)
つのお
目
(
め
)
は
銀紙
(
ぎんがみ
)
ですか、
317
節穴
(
ふしあな
)
ですか、
318
不思議
(
ふしぎ
)
な
先
(
さき
)
の
見
(
み
)
えぬお
目
(
め
)
だこと。
319
オホヽヽヽヽヽ』
320
岩彦
(
いはひこ
)
『エーイ、
321
怪
(
け
)
つ
体
(
たい
)
の
悪
(
わる
)
いこのお
化
(
ば
)
け
奴
(
め
)
、
322
優
(
やさ
)
しい
顔
(
かほ
)
をしよつて
失敬
(
しつけい
)
千万
(
せんばん
)
な
事
(
こと
)
を
言
(
い
)
ひよる
太
(
ふと
)
い
奴
(
やつ
)
だ。
323
もう
此
(
この
)
上
(
うへ
)
は
勘忍袋
(
かんにんぶくろ
)
の
緒
(
を
)
が
切
(
き
)
れた。
324
サア
覚悟
(
かくご
)
致
(
いた
)
せ』
325
女
(
をんな
)
『オホヽヽヽ』
326
鷹彦
(
たかひこ
)
『ハテナ、
327
此奴
(
こいつ
)
は
只
(
ただ
)
の
狸
(
たぬき
)
ぢやあるまいな』
328
女
(
をんな
)
『ホヽヽヽ』
329
岩彦
(
いはひこ
)
『
狸
(
たぬき
)
どころか、
330
大化物
(
おほばけもの
)
の
親玉
(
おやだま
)
だ。
331
狸
(
たぬき
)
なら
八畳敷
(
はちでふじき
)
に
居
(
ゐ
)
る
筈
(
はず
)
だ。
332
僅
(
わづ
)
かに
四畳敷
(
しでふじき
)
位
(
ぐらゐ
)
な
巌窟
(
いはや
)
に
棲
(
す
)
んでる
化物
(
ばけもの
)
だから
大方
(
おほかた
)
土蜘蛛
(
つちぐも
)
の
精
(
せい
)
だらう、
333
ヤイ
土蜘蛛
(
つちぐも
)
、
334
俺
(
おれ
)
を
何時
(
いつ
)
までも
甘
(
あま
)
いと
思
(
おも
)
つて
居
(
ゐ
)
るか、
335
甘
(
あま
)
けら
砂糖
(
さたう
)
だと
思
(
おも
)
ひよるのか。
336
何
(
なん
)
だ、
337
甘
(
あま
)
つたるい
声
(
こゑ
)
を
出
(
だ
)
しよつて、
338
弥生
(
やよひ
)
の
鶯
(
うぐひす
)
の
真似
(
まね
)
をして、
339
オホヽヽヽと、
340
それや
一体
(
いつたい
)
なんの
芸当
(
げいたう
)
だい。
341
真実
(
ほんと
)
に
荒男
(
あらをとこ
)
の
六
(
ろく
)
人
(
にん
)
も
向
(
むか
)
ふに
廻
(
まは
)
して
悠々
(
いういう
)
自適
(
じてき
)
、
342
国家
(
こくか
)
の
興亡
(
こうばう
)
吾不関
(
われくわんせず
)
焉
(
えん
)
と
云
(
い
)
ふ
様
(
やう
)
な
落着
(
おちつ
)
き
払
(
はら
)
つたその
腰
(
こし
)
つき、
343
小癪
(
こしやく
)
に
触
(
さわ
)
る
代物
(
しろもの
)
だナア』
344
女
(
をんな
)
『ホヽヽヽヽ』
345
この
時
(
とき
)
又
(
また
)
もや
宣伝歌
(
せんでんか
)
が
聞
(
きこ
)
えて
来
(
き
)
た。
346
宣伝歌
(
せんでんか
)
の
主
(
ぬし
)
は
外
(
そと
)
より
岩穴
(
いはあな
)
を
一寸
(
ちよつと
)
覗
(
のぞ
)
いて
見
(
み
)
て、
347
日の出別
『ヤア
鷹
(
たか
)
サン、
348
岩
(
いは
)
サン、
349
此処
(
ここ
)
に
居
(
を
)
つたのか』
350
岩彦
(
いはひこ
)
『ヤア
貴神
(
あなた
)
は
日
(
ひ
)
の
出別
(
でわけの
)
命
(
みこと
)
様
(
さま
)
、
351
ようマア
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さいました。
352
之
(
これ
)
だから
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
は
九分
(
くぶ
)
九厘
(
くりん
)
まで
行
(
い
)
つたら
助
(
たす
)
けてやらうと
仰
(
おつ
)
しやるのだ。
353
サアもう
大丈夫
(
だいぢやうぶ
)
だ。
354
サアお
化
(
ば
)
け、
355
何
(
なに
)
なつと
吐
(
ほざ
)
け、
356
もう
叶
(
かな
)
はぬぞ』
357
と
俄
(
にはか
)
に
肩
(
かた
)
を
聳
(
そび
)
やかす
其
(
その
)
可笑
(
をか
)
しさ。
358
女
(
をんな
)
『ホヽヽヽヽ』
359
(
大正一一・三・一七
旧二・一九
北村隆光
録)
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