霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第二二章 高砂(たかさご)上陸(じやうりく)〔八二二〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第28巻 海洋万里 卯の巻 篇:第4篇 南米探険 よみ(新仮名遣い):なんべいたんけん
章:第22章 高砂上陸 よみ(新仮名遣い):たかさごじょうりく 通し章番号:822
口述日:1922(大正11)年08月10日(旧06月18日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年8月10日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]:
高姫が甲板に来ると、常彦と春彦が手をつないで、歌い踊っている。二人は高姫に勘当されたお祝いに踊っているのだ、と高姫に答える。調子に乗っていると、春彦は足を踏み外して海に落ちてしまった。
常彦は声を限りに助けを求めると、船客の一人が綱に板切れをつけて放り投げ、春彦を助け上げた。常彦がよく見れば、それは国依別であった。国依別は高姫に悟られないようにと、常彦に釘を刺し、姿を隠した。
高姫は、自分に懸っている日の出神が春彦を助けたのだ、と意気を上げている。常彦はそんなはずはないと高姫に反論したが、高姫は怒って常彦の胸倉をとり、喉を締め付けた。常彦は悲鳴を上げる。
春彦は高姫の足をさらえた。今度は高姫が海中に落ちてしまった。常彦と春彦は、高姫に綱を投げて助け上げたが、高姫は日の出神に感謝する。高姫の傲慢な物言いに二人はあきれてしまうが、高姫がまた胸倉を取ったことで、また険悪になってしまう。
船が陸に着いた。高姫は面を膨らして一番に飛び出して行った。常彦と春彦もそっと後を追った。
船長のタルチールは息子に船を与えて船長とすると、言依別命と国依別と一緒に宣伝歌を歌いながら高砂島に進み入った。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2021-12-15 18:48:57 文字数:3958 OBC :rm2822
愛善世界社版:274頁 八幡書店版:第5輯 451頁 修補版: 校定版:284頁 普及版:123頁 初版: ページ備考:
001 高姫(たかひめ)は大勢(おほぜい)の船客(せんきやく)の中(なか)に只(ただ)一人(ひとり)、002面(つら)をふくらして坐(すわ)つて居(ゐ)たが、003余(あま)り気分(きぶん)がすぐれぬので、004再(ふたた)び見晴(みは)らしよき甲板(かんばん)に姿(すがた)を現(あら)はした。005そこには常彦(つねひこ)、006春彦(はるひこ)の両人(りやうにん)が切(しき)りに手(て)をつないで、007歌(うた)を歌(うた)ひ踊(をど)り狂(くる)うて居(ゐ)る。
008 高姫(たかひめ)は目(め)に角(かど)を立(た)て、009大(おほ)きな声(こゑ)で、
010高姫『コレ常公(つねこう)、011春公(はるこう)、012千騎(せんき)一騎(いつき)の此(この)場合(ばあひ)、013何(なに)を気楽(きらく)さうにグヅグヅ踊(をど)つて居(ゐ)るのだい。014チト確(しつか)りしなさらぬかい』
015常彦(つねひこ)『ハーイ、016何分(なにぶん)五六七(みろく)の世(よ)の末(すゑ)迄(まで)勘当(かんどう)を受(う)けたり、017勘当(かんどう)をした祝(いはひ)に、018空散財(からさんざい)をやつて居(を)りますのだ。019お前(まへ)さまもそこで一組(ひとくみ)、020品(しな)よう踊(をど)つて御覧(ごらん)なさい。021随分(ずゐぶん)見晴(みは)らしのよい此(この)甲板(かんばん)の上(うへ)で、022ソヨソヨ風(かぜ)を受(う)け乍(なが)ら踊(をど)つてゐるのは素的(すてき)滅法界(めつぽふかい)面白(おもしろ)いものですよ。023アハヽヽヽ』
024春彦(はるひこ)『高姫(たかひめ)さま、025そんな六(むつ)かしい顔(かほ)をせずに、026長(なが)い海(うみ)の上(うへ)の道中(だうちう)だ。027チツとは気楽(きらく)になりなさい。028苦(くるし)んでくらすのも、029喜(よろこ)んでくらすのも、030泣(な)くのも怒(おこ)るのもヤツパリ一(いち)日(にち)だよ。031ヤア面白(おもしろ)い面白(おもしろ)い、032ヤア常彦(つねひこ)、033サア踊(をど)つたり踊(をど)つたり』
034と又(また)もや無茶(むちや)苦茶(くちや)に、035妙(めう)な手(て)つきし乍(なが)ら、036ステテコ踊(をどり)を始(はじ)め出(だ)した。037高姫(たかひめ)は目(め)に角(かど)を立(た)て足(あし)ふみならし、
038高姫『コレ常公(つねこう)、039春公(はるこう)、040誰(たれ)が勘当(かんどう)すると云(い)ひました。041決(けつ)して高姫(たかひめ)は申(まを)しませぬよ。042あれはお前(まへ)に憑依(ひようい)してゐた副(ふく)守護神(しゆごじん)が、043妾(わたし)の口(くち)を借(か)つてあんな事(こと)を云(い)つたのだ。044海洋(かいやう)万里(ばんり)の航海(かうかい)に杖柱(つゑはしら)と頼(たの)むお前(まへ)達(たち)を勘当(かんどう)して如何(どう)なるものか。045よう考(かんが)へて御覧(ごらん)なさい』
046春彦(はるひこ)『何(なん)と云(い)つても、047こつちは荒男(あらをとこ)の二人(ふたり)連(づれ)、048お前(まへ)さまは何程(なんぼ)強(つよ)相(さう)な事(こと)を云(い)つても、049大体(だいたい)が女(をんな)だから、050心(こころ)淋(さび)しくなつて来(き)たので、051又(また)そんな事(こと)を云(い)つて旧交(きうかう)を温(あたた)めようとするのだらう。052其(その)手(て)には吾々(われわれ)だつて、053さう何遍(なんべん)も乗(の)りませぬよ、054御(お)生憎(あひにく)さま、
055今(いま)は他人(たにん)ぢやホツチツチ
056一家(いつけ)になつたらかもてんか
057ウントコドツコイ高姫(たかひめ)さま
058ヤツトコドツコイ常彦(つねひこ)さま
059ゴテゴテ云(い)ふと鬼(おに)の蕨(わらび)がお見舞(みまひ)申(まを)す
060頭(あたま)のてつぺを春彦(はるひこ)さま
061アヽドツコイドツコイドツコイシヨ』
062と調子(てうし)に乗(の)つて踊(をど)り狂(くる)ひ、063春彦(はるひこ)は甲板(でつき)をふみはづし、064逆(さか)まく波(なみ)にザンブと許(ばか)り落込(おちこ)んで了(しま)つた。065常彦(つねひこ)は甲板(でつき)の上(うへ)を右(みぎ)に左(ひだり)に真青(まつさを)な顔(かほ)をして、066キリキリと狂(くる)ひ廻(まは)つた。067高姫(たかひめ)は、
068高姫『コレ常彦(つねひこ)、069何程(なにほど)キリキリ舞(まひ)を致(いた)しても、070此(この)荒波(あらなみ)に落(お)ち込(こ)んだが最後(さいご)、071到底(たうてい)命(いのち)は助(たす)かりませぬ。072諦(あきら)めなさいよ。073それだから、074余(あま)り慢心(まんしん)をいたすと、075先(さき)になりてからジリジリもだえを致(いた)し、076キリキリ舞(ま)ひをして騒(さわ)いでも後(あと)の祭(まつ)り、077そこになりてから何程(なにほど)神(かみ)を祈(いの)りたとて、078神(かみ)はモウ知(し)らぬぞよとお筆(ふで)に書(か)いてありませうがなア。079これを見(み)て御(ご)改心(かいしん)なされ。080日(ひ)の出神(でのかみ)の生宮(いきみや)に腮(あご)をはづきなさるから、081こんな目(め)に会(あ)うのですよ、082サアこれから私(わたし)に絶対(ぜつたい)服従(ふくじゆう)をなさるか。083お気(き)に入(い)らねば又(また)春彦(はるひこ)の様(やう)に神(かみ)様(さま)に取(と)つて放(はう)られますよ』
084 常彦(つねひこ)は耳(みみ)にもかけず、085一生(いつしやう)懸命(けんめい)に気(き)をいらち、086声(こゑ)を限(かぎ)りに、
087常彦『助(たす)けてやつてくれーい』
088と叫(さけ)んで居(ゐ)る。089船客(せんきやく)の一人(ひとり)は長(なが)き綱(つな)に板片(いたぎれ)を括(くく)りつけ、090春彦(はるひこ)の波(なみ)に漂(ただよ)ひ居(ゐ)る方(はう)に向(むか)つて、091ハツシと投(な)げた。092春彦(はるひこ)は手早(てばや)く其(その)板(いた)に喰(くら)ひ付(つ)いた。093船客(せんきやく)は力(ちから)限(かぎ)りに其(その)綱(つな)を引寄(ひきよ)せ、094漸(やうや)くにして春彦(はるひこ)を船中(せんちう)に救(すく)ひ上(あ)げた。095常彦(つねひこ)は大(おほい)に喜(よろこ)び、096直(ただち)に甲板(かんばん)を下(くだ)り、097春彦(はるひこ)を救(すく)ひ上(あ)げたる船客(せんきやく)の側(そば)に走(はし)り寄(よ)り、098心(こころ)の底(そこ)より涙(なみだ)を流(なが)して感謝(かんしや)する。099よくよく見(み)れば、100其(その)船客(せんきやく)は国依別(くによりわけ)であつた。
101常彦(つねひこ)『ヤアあなたは国依別(くによりわけ)さま、102よくマア助(たす)けてやつて下(くだ)さいました』
103 国依別(くによりわけ)、104手(て)を振(ふ)り乍(なが)ら、
105国依別『モウチツと小声(こごゑ)で言(い)つて下(くだ)さい。106高姫(たかひめ)さまの耳(みみ)に這入(はい)ると困(こま)るから………サア春彦(はるひこ)をお前(まへ)に任(まか)すから、107介抱(かいほう)して上(あ)げて呉(く)れ。108そして高姫(たかひめ)に国依別(くによりわけ)が此(この)船(ふね)に乗(の)つてゐると云(い)ふ事(こと)は云(い)ふでないぞ』
109常彦(つねひこ)『決(けつ)して決(けつ)して、110これ丈(だけ)御(お)世話(せわ)になつたあなたの御(おん)頼(たの)み、111首(くび)が千切(ちぎ)れても秘密(ひみつ)を守(まも)ります。112サア早(はや)くあなたの居間(ゐま)へ御(お)隠(かく)れ下(くだ)さい。113高姫(たかひめ)が下(お)りて来(き)て見(み)つかると、114又(また)一悶錯(ひともんさく)が起(おこ)りますから………』
115 国依別(くによりわけ)は怱々(さうさう)に姿(すがた)を隠(かく)した。116そこへ高姫(たかひめ)がノソリノソリと現(あら)はれ来(きた)り、117矢庭(やには)に春彦(はるひこ)の横面(よこつら)を三(み)つ四(よ)つ打叩(うちたた)き、
118高姫(たかひめ)『コリヤ春彦(はるひこ)、119しつかりせぬか。120気(き)を確(たし)かに持(も)て、121日(ひ)の出神(でのかみ)の生宮(いきみや)が綱(つな)をかけて助(たす)けてやつたぞよ。122モウ大丈夫(だいぢやうぶ)だ』
123 春彦(はるひこ)は波(なみ)にさらはれ、124半死(はんし)半生(はんしやう)の態(てい)になつてゐたが、125高姫(たかひめ)に擲(なぐ)り付(つ)けられて、126漸(やうや)く気(き)を取直(とりなほ)し、
127春彦(はるひこ)『ヤア高姫(たかひめ)さま、128ヨウマアお助(たす)け下(くだ)さいました。129オウお前(まへ)は常彦(つねひこ)、130エライ御(お)世話(せわ)になりましたなア』
131常彦(つねひこ)『ナアニ、132俺(おれ)が助(たす)けたのぢやない。133あの国(くに)イ……ドツコイ国人(くにびと)が俄(にはか)に綱(つな)を投(な)げて、134お前(まへ)を救(すく)つて下(くだ)さつたのだよ』
135春彦(はるひこ)『其(その)お方(かた)はどこに居(ゐ)られるか、136命(いのち)の親(おや)の恩人(おんじん)、137御(お)礼(れい)を申(まを)さねばならぬから、138一寸(ちよつと)知(し)らして呉(く)れ』
139常彦(つねひこ)『其(その)方(かた)はどつかへ姿(すがた)を御(お)隠(かく)しになつた。140キツト神(かみ)様(さま)に違(ちがひ)ない。141神(かみ)様(さま)にお礼(れい)を申(まを)せば良(よ)いのだよ』
142高姫(たかひめ)『春彦(はるひこ)を助(たす)けた方(かた)は、143お姿(すがた)は見(み)えなくなつただらう。144そら其(その)筈(はず)よ。145日(ひ)の出神(でのかみ)様(さま)が人間(にんげん)に姿(すがた)を現(あら)はし、146竜宮(りうぐう)の乙姫(おとひめ)さまが海(うみ)の底(そこ)からお手伝(てつだ)ひ遊(あそ)ばして、147高姫(たかひめ)の家来(けらい)だと思(おも)つて、148春彦(はるひこ)を助(たす)けて下(くだ)さつたのだ。149甲板(かんばん)の上(うへ)から此(この)高姫(たかひめ)はヂツとして調(しら)べて居(を)つた。150それに間違(まちが)ひはあろまいがな。151……常彦(つねひこ)、152それだから、153どこまでも此(この)生宮(いきみや)に従(したが)うて居(を)りさへすれば、154どこへ往(い)つても大安心(だいあんしん)だと、155いつも云(い)うて聞(き)かしてあるぢやないか』
156常彦(つねひこ)『ヘン、157甘(うま)い事(こと)を仰有(おつしや)りますワイ。158春彦(はるひこ)を救(たす)けて呉(く)れたのは日(ひ)の出神(でのかみ)ぢや有(あ)りませぬぞ。159国(くに)……国(くに)……国治立(くにはるたちの)尊(みこと)様(さま)が御(ご)眷属(けんぞく)を使(つか)うて救(たす)けて下(くだ)さつたのだ。160日(ひ)の出神(でのかみ)の生宮(いきみや)は神(かみ)の罰(ばち)が当(あた)つたのだからと云(い)つて、161袖手(しうしゆ)傍観(ばうくわん)の態(てい)を取(と)つてゐ乍(なが)ら、162日(ひ)の出神(でのかみ)さまと竜宮(りうぐう)さまがお助(たす)け遊(あそ)ばしたなどと、163甘(うま)い事(こと)仰有(おつしや)いますワイ。164自分(じぶん)の悪(わる)い事(こと)は皆(みな)人(ひと)にぬりつけ、165人(ひと)の手柄(てがら)は皆(みな)自分(じぶん)の手柄(てがら)にせうと云(い)ふ、166抜目(ぬけめ)のない高姫(たかひめ)さまだから、167恐(おそ)れ入(い)ります。168アハヽヽヽ』
169春彦(はるひこ)『どちらに助(たす)けて貰(もら)うたのか、170テンと訳(わけ)が分(わか)らぬよになつて来(き)た。171兎(と)も角(かく)どちらでもよい、172助(たす)けて呉(く)れた神(かみ)様(さま)に、173これからは絶対(ぜつたい)服従(ふくじゆう)をするのだ』
174高姫(たかひめ)『日(ひ)の出神(でのかみ)に救(すく)はれたのだから、175其(その)生宮(いきみや)たる高姫(たかひめ)にこれからは唯々(ゐゐ)諾々(だくだく)として、176一言(ひとこと)の理屈(りくつ)も言(い)はず、177仮令(たとへ)水火(すゐくわ)の中(なか)をくぐれと云(い)つても、178命(いのち)の恩人(おんじん)の云(い)ふ事(こと)、179神妙(しんめう)に聞(き)きなされよ。180又(また)慢心(まんしん)して一言(ひとこと)でも口答(くちごた)へをするが最後(さいご)、181取(と)つて放(ほ)かされますで……』
182常彦(つねひこ)『アハヽヽヽ、183どこ迄(まで)も高姫(たかひめ)式(しき)だなア。184言依別(ことよりわけ)様(さま)や、185国依別(くによりわけ)さまが愛想(あいさう)をつかして、186聖地(せいち)を脱(ぬ)け出(だ)しなさつたのも無理(むり)はないワい。187本当(ほんたう)に我(が)の強(つよ)い悪垂(あくた)れ婆(ばあ)ぢやなア』
188 高姫(たかひめ)、189常彦(つねひこ)の胸倉(むなぐら)をグツと取(と)り、
190高姫『コラ常(つね)、191云(い)はしておけば際限(さいげん)もない雑言(ざふごん)無礼(ぶれい)、192モウ了見(りやうけん)は致(いた)さぬぞや』
193と喉(のど)をギユウギユウとしめつける。194数多(あまた)の船客(せんきやく)は総立(さうだち)となつて……乱暴(らんばう)な婆(ばば)アもあるものだ……と呆(あき)れて見(み)てゐる。195常彦(つねひこ)は苦(くる)しき声(こゑ)を絞(しぼ)り乍(なが)ら、
196常彦(つねひこ)『ハヽ春彦(はるひこ)、197タヽヽヽ助(たす)けて呉(く)れ』
198と声(こゑ)もきれぎれに叫(さけ)んだ。199春彦(はるひこ)は矢庭(やには)に高姫(たかひめ)の両足(りやうあし)をさらへた。200高姫(たかひめ)はモンドリ打(う)つて、201海中(かいちう)にザンブと計(ばか)り落(お)ち込(こ)んだ。
202 常彦(つねひこ)は最前(さいぜん)国依別(くによりわけ)が残(のこ)しておいた板片(いたぎれ)に括(くく)つた綱(つな)を高姫(たかひめ)目蒐(めが)けてパツと投(な)げた。203高姫(たかひめ)は手早(てばや)く板子(いたご)にすがりついた。204春彦(はるひこ)、205常彦(つねひこ)は一生(いつしやう)懸命(けんめい)に綱(つな)を手(た)ぐり、206漸(やうや)く救(すく)ひ上(あ)げた。
207高姫(たかひめ)『アヽ日(ひ)の出神(でのかみ)さま、208ようマアお助(たす)け下(くだ)さいました。209有難(ありがた)う御座(ござ)います』
210と手(て)を拍(う)つて拝(をが)んでゐる。
211常彦(つねひこ)『コレコレ高姫(たかひめ)さま、212日(ひ)の出神(でのかみ)ぢやない、213吾々(われわれ)両人(りやうにん)が此(この)綱(つな)を投(な)げて、214お前(まへ)の生命(いのち)を助(たす)けたのだよ』
215高姫(たかひめ)『ソリヤ何(なん)と云(い)ふ大(だい)それたことを云(い)ふのだい。216人間(にんげん)がすると思(おも)うてゐると、217量見(りやうけん)が違(ちが)ひますぞえ。218皆(みな)神(かみ)からさされてをると云(い)ふお筆(ふで)を何(なん)と心得(こころえ)なさる。219日(ひ)の出神(でのかみ)さまが臨時(りんじ)にムサ苦(くる)しいお前(まへ)の肉体(にくたい)を使(つか)うて御用(ごよう)をさして下(くだ)さつたのだ。220其(その)日(ひ)の出神(でのかみ)様(さま)は直(すぐ)に此(この)高姫(たかひめ)の肉体(にくたい)へお鎮(しづ)まり遊(あそ)ばして御座(ござ)るから、221此(この)高姫(たかひめ)の肉(にく)の宮(みや)を拝(をが)みなさい。222アーア神界(しんかい)の事(こと)の分(わか)らぬ宣伝使(せんでんし)は困(こま)つた者(もの)だ。223何(なに)から何(なに)まで実地(じつち)教育(けういく)をしてやらねばならぬとは、224此(こ)の高姫(たかひめ)も骨(ほね)の折(を)れた事(こと)だワイ』
225 常彦(つねひこ)、226春彦(はるひこ)は余(あま)りの事(こと)に呆(あき)れ果(は)て、227両人(りやうにん)口(くち)をポカンと開(あ)けて、
228常彦、春彦『アハー』
229と頤(あご)が外(はづ)れるような欠伸(あくび)をしてゐる。
230高姫(たかひめ)『コレコレそんな大(おほ)きな口(くち)を開(あ)けると、231頤(あご)が外(はづ)れますぞえ。232余(あま)りの大(おほ)きなお仕組(しぐみ)で、233開(あ)いた口(くち)がすぼまらず、234頤(あご)が外(はづ)れたり、235逆様(さかさま)になつて、236そこらあたりをのたくらねばならぬぞよと、237変性(へんじやう)男子(なんし)のお筆(ふで)に立派(りつぱ)に書(か)いてあるだないか、238チト改心(かいしん)なされ。239神(かみ)様(さま)の結構(けつこう)な御用(ごよう)をさせられ乍(なが)ら、240高姫(たかひめ)を助(たす)けてやつたなぞと、241夢(ゆめ)にも慢神心(まんしんごころ)を出(だ)してはなりませぬぞ。242罪(つみ)の重(おも)いお前(まへ)等(ら)二人(ふたり)が沈(しづ)む所(ところ)を、243此(こ)の高姫(たかひめ)の肉体(にくたい)を神(かみ)が使(つか)うてまぢなうて下(くだ)さつたのぢや。244高姫(たかひめ)を助(たす)けたのぢやない。245つまり高姫(たかひめ)の犠牲(ぎせい)的(てき)行動(かうどう)に依(よ)つて、246お前(まへ)達(たち)の海(うみ)におちて死(し)ぬ所(ところ)を助(たす)けて頂(いただ)いたのだ。247あゝ何(なん)と、248神界(しんかい)の御(お)仕組(しぐみ)は人民(じんみん)では見当(けんたう)の取(と)れぬものだワイ。249サア常彦(つねひこ)、250春彦(はるひこ)、251是(こ)れで改心(かいしん)が出来(でき)たでせう。252此(この)上(うへ)は何事(なにごと)も高姫(たかひめ)の云(い)ふ通(とほ)りにするのですよ』
253常彦(つねひこ)『ヘン』
254春彦(はるひこ)『ヒン、255馬鹿(ばか)にしてゐるワイ。256俺(おれ)が両足(りやうあし)をかつさらへて放(ほ)り込(こ)んでやつたのだ。257余(あま)り憎(にく)らしいから……それに神(かみ)がしたのだなどと、258都合(つがふ)の良(よ)い弁解(べんかい)して呉(く)れるワイ。259斯(こ)う云(い)ふ時(とき)には高姫(たかひめ)さまの御(ご)託宣(たくせん)も満更(まんざら)、260無用(むよう)にはならぬ。261ハヽヽヽヽ』
262高姫(たかひめ)『蛙(かへる)は口(くち)から、263とうとう白状(はくじやう)しよつたなア。264お前(まへ)が此(こ)の生宮(いきみや)の足(あし)をさらへて、265海(うみ)へ投(な)げ込(こ)んだのだなア。266まてまて、267懲(こら)しめの為(ため)制敗(せいばい)してやらう』
268と又(また)もや胸倉(むなぐら)をグツと取(と)り、269締(し)めつけようとする。
270常彦(つねひこ)『オイ高姫(たかひめ)さま、271日(ひ)の出神(でのかみ)が憑(うつ)つたぞよ。272お前(まへ)の両足(りやうあし)をさらへて、273海(うみ)の中(なか)へ放(ほ)り込(こ)んでやらうか、274それが厭(いや)なら、275胸倉(むなぐら)を放(はな)してお詫(わび)をしたがよからうぞ』
276 高姫(たかひめ)は此(こ)の言葉(ことば)に驚(おどろ)き、277胸倉(むなぐら)取(と)つた手(て)を放(はな)し、278面(つら)ふくらし乍(なが)ら、279又(また)もや甲板(かんばん)さして上(のぼ)り行(ゆ)く。280船(ふね)は漸(やうや)くにしてテルの港(みなと)に安着(あんちやく)した。281高姫(たかひめ)は衆人(しうじん)を押分(おしわ)け、282厚(あつ)かましく、283いの一番(いちばん)に船(ふね)を飛(と)び出(だ)した。284春彦(はるひこ)、285常彦(つねひこ)は稍(やや)遅(おく)れて上陸(じやうりく)した。286高姫(たかひめ)は一生(いつしやう)懸命(けんめい)にテルの都(みやこ)を指(さ)して走(はし)り行(ゆ)く。287常彦(つねひこ)、288春彦(はるひこ)の両人(りやうにん)は見(み)えつ隠(かく)れつ、289高姫(たかひめ)の後(あと)を追(お)うて行(ゆ)く。
290 船長(せんちやう)のタルチールは副船長(ふくせんちやう)たる吾(わが)子(こ)のテルチルに船(ふね)を与(あた)へ、291且(か)つ之(これ)を船長(せんちやう)となし、292言依別(ことよりわけの)命(みこと)、293国依別(くによりわけ)と共(とも)に宣伝歌(せんでんか)を謡(うた)ひ乍(なが)ら、294高砂島(たかさごじま)の何処(いづこ)ともなく、295進(すす)み入(い)つた。296惟神(かむながら)霊(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)。
297(大正一一・八・一〇 旧六・一八 松村真澄録)
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