霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一七章 新(あたら)しき女(をんな)〔八八三〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第31巻 海洋万里 午の巻 篇:第3篇 千里万行 よみ(新仮名遣い):せんりばんこう
章:第17章 新しき女 よみ(新仮名遣い):あたらしきおんな 通し章番号:883
口述日:1922(大正11)年08月20日(旧06月28日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年9月15日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]:
恋のとりことなった秋山別とモリスは、紅井姫とエリナ姫(実は旭明神と月日明神)に伴われて酷熱の太陽の下、大山脈のふもとを東南さして進んで行き、アマゾン河の支流である、シーズン河という大河の河堤にやってきた。
秋山別が紅井姫だと思っていた女は、河のほとりまで来ると、急に言動を変え、理詰めで秋山別を男として先見の明が無い古い人間だと非難を始めた。秋山別が何を言っても秋山別のこれまでの行動を非難し、秋山別が怒り出すと、河に飛び込んで消えてしまった。
秋山別は呆然としながらも、紅井姫の舌鋒や行動に辟易し、エリナを女房にしようとすればよかったなどと不謹慎なことを考えている。
そこへ、モリスとエリナが仲よさそうにやってきた。秋山別が、紅井姫が突然ハイカラな理屈を振りかざし出して、ついには河に身を投げてしまったと説明した。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2022-04-11 19:36:50 文字数:4474 OBC :rm3117
愛善世界社版:201頁 八幡書店版:第6輯 116頁 修補版: 校定版:206頁 普及版:65頁 初版: ページ備考:
001恋(こひ)の暗路(やみぢ)にふみ迷(まよ)ひ
002ブラジル山(やま)の谷底(たにそこ)迄(まで)
003情欲(じやうよく)の鬼(おに)に魅(み)せられて
004モリス、秋山別(あきやまわけ)の両人(りやうにん)は
005百津(ゆつ)常磐木(かつらぎ)の山桃(やまもも)の
006大木(たいぼく)の株(かぶ)に憩(いこ)ひつつ
007悲(かな)しき恋(こひ)の叫(さけ)び声(ごゑ)
008山(やま)は裂(さ)け海(うみ)はあせなむ世(よ)ありとも
009いかで忘(わす)れむ紅井姫(くれなゐひめ)
010エリナの後(あと)をどこ迄(まで)も
011捜(さが)さにやおかぬと雄健(をたけ)びし
012俄(にはか)に化(ばけ)た木(き)の上(うへ)の
013天狗(てんぐ)相手(あひて)に大問答(だいもんだう)
014烏鷺(うろ)闘(たたか)はす最中(さいちう)に
015夢(ゆめ)にも忘(わす)れぬ恋人(こひびと)が
016不思議(ふしぎ)や爰(ここ)に現(あら)はれて
017恨(うらみ)の数々(かずかず)並(なら)べ立(た)て
018お前(まへ)は情(つれ)ない男(をとこ)ぞや
019かよわき女(をんな)の身(み)を以(もつ)て
020虎(とら)狼(おほかみ)や獅子(しし)熊(くま)の
021伊猛(いたけ)り叫(さけ)ぶ山野原(やまのはら)
022慕(した)うて尋(たづ)ね来(き)た者(もの)を
023今迄(いままで)何処(どこ)にうろうろと
024主(ぬし)なき花(はな)を手折(たお)りつつ
025妾(わらは)二人(ふたり)を振(ふ)り棄(す)てて
026こンな所迄(とこまで)来(く)ると云(い)ふ
027情(つれ)ない事(こと)がありませうか
028男心(をとこごころ)と秋山別(あきやまわけ)の
029空恐(そらおそ)ろしい早変(はやがは)り
030やいのやいのと取(と)りついて
031若(わか)い男女(だんぢよ)の囁(ささや)きも
032二人(ふたり)は遂(つひ)に解(わ)け合(あ)うて
033お前(まへ)の優(やさ)しい心根(こころね)を
034モチいと早(はや)く知(し)つたなら
035こンな苦労(くらう)はせまいもの
036恋(こひ)に上下(じやうげ)の隔(へだ)てない
037さあさあお出(い)でと手(て)を執(と)つて
038怪(あや)しき女(をんな)と白雲(しらくも)の
039山(やま)かき分(わ)けて進(すす)み行(ゆ)く
040恋(こひ)の擒(とりこ)となり果(は)てし
041二人(ふたり)の男(をとこ)の身(み)の上(うへ)ぞ
042憐(あはれ)なりける次第(しだい)なり
043あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
044神(かみ)の御幸(みさち)を蒙(かうむ)りて
045体主(たいしゆ)霊従(れいじゆう)の情動(じやうだう)に
046経験(けいけん)深(ふか)き瑞月(ずゐげつ)や(瑞月(ずゐげつ))
047浄写(じやうしや)菩薩(ぼさつ)の両人(りやうにん)が
048狩野(かの)の流(なが)れの波(なみ)高(たか)く(波子)
049杉(すぎ)の林(はやし)を村肝(むらきも)の
050心(こころ)静(しづ)かに眺(なが)めつつ(林静)
051安楽(あんらく)椅子(いす)に横(よこ)たはり
052遠慮(ゑんりよ)会釈(ゑしやく)も荒川(あらかは)の
053飛沫(ひばつ)の音(おと)もサワサワと
054あたりの人(ひと)を敷島(しきしま)の
055淡(あは)き煙(けぶり)に巻乍(まきなが)ら
056国依別(くによりわけ)の一行(いつかう)が
057四(よ)人(にん)の男女(だんぢよ)のローマンス
058いと永々(ながなが)と述(の)べたつる
059此(この)物語(ものがたり)新(あたら)しき
060歴史(れきし)の様(やう)に聞(きこ)ゆれど
061百(ひやく)年(ねん)千(せん)年(ねん)五千(ごせん)年(ねん)
062万年筆(まんねんひつ)の其(その)昔(むかし)
063昔(むかし)の昔(むかし)の其(その)昔(むかし)
064殆(ほとん)ど三十万(さんじふまん)年(ねん)の
065古(ふる)き神代(かみよ)の事(こと)ぞかし
066二人(ふたり)に憑(つ)いた副(ふく)守護神(しゆごじん)が
067肉体(にくたい)かつて経験(けいけん)を
068喋(しやべ)つて書(か)くと思(おも)ふたら
069非常(ひじやう)に大(おほ)きな間違(まちがひ)ぢや
070あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
071神(かみ)の心(こころ)に見直(みなほ)して
072すべてを善意(ぜんい)に解釈(かいしやく)し
073此(この)物語(ものがたり)聞(き)いてたべ
074夢(ゆめ)か現(うつつ)か誠(まこと)か嘘(うそ)か
075判断(はんだん)つかぬも無理(むり)はない
076今(いま)の世人(よびと)の心(こころ)では
077神代(かみよ)の人(ひと)は押(お)し並(な)べて
078皆(みな)正直(しやうぢき)な堅造(かたざう)で
079情欲(じやうよく)などに心(こころ)をば
080奪(うば)はれ苦(くる)しむ人(ひと)なしと
081誤解(ごかい)してゐる眼(まなこ)より
082此(この)物語(ものがたり)読(よ)むならば
083合点(がてん)の行(ゆ)かぬ事(こと)であろ
084過去(くわこ)と現在(げんざい)未来(みらい)迄(まで)
085一貫(いつくわん)したる神界(しんかい)の
086真理(しんり)に変(かは)りはなきものぞ
087暫(しばら)くうぶの心(こころ)もて
088只(ただ)一片(いつぺん)の神(かみ)の代(よ)の
089恋物語(こひものがたり)とけなさずに
090心(こころ)をひそめて読(よ)むならば
091苦集(くしふ)滅道(めつだう)の真諦(しんたい)を
092確(たし)かに悟(さと)り村肝(むらきも)の
093心(こころ)の暗(やみ)の明(あか)りとも
094塩(しほ)ともなりて諸々(もろもろ)の
095罪(つみ)や穢(けが)れを清(きよ)め得(う)る
096清涼剤(せいりやうざい)と信(しん)じつつ
097あらあら茲(ここ)に述(の)べておく
098あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
099御霊(みたま)幸(さち)はひましませよ。
100 恋(こひ)の擒(とりこ)となつた両人(りやうにん)は、101怪(あや)しき女(をんな)に伴(ともな)はれ、102茨(いばら)を分(わ)け、103萱草(かやくさ)の間(あひだ)を潜(くぐ)り、104蜈蚣(むかで)、105大蜥蜴(おほとかげ)の群(むれ)に驚(をどろ)かされ、106蜂(はち)には刺(さ)され、107虻(あぶ)には咬(か)まれ、108蚋(ぶと)には悩(なや)まされ、109酷熱(こくねつ)の太陽(たいやう)に曝(さら)され乍(なが)ら、110果(は)てしも知(し)らぬ大山脈(だいさんみやく)の麓(ふもと)を東南(とうなん)指(さ)して、111当途(あてど)もなく進(すす)み行(ゆ)く。
112 アマゾン河(がは)の支流(しりう)なる、113可(か)なり広(ひろ)き深(ふか)き、114シーズン河(がは)と云(い)ふ河堤(かはづつみ)に、115四(よ)人(にん)の男女(だんぢよ)は、116漸(やうや)くにして辿(たど)り着(つ)きぬ。
117紅井姫『秋山別(あきやまわけ)さま、118あなたは妾(わらは)を何処迄(どこまで)つれて往(い)つて下(くだ)さいますの』
119秋山別『あなたこそ、120私(わたし)を何処迄(どこまで)伴(つ)れて行(い)つて下(くだ)さるのですか。121迷(まよ)ひ迷(まよ)うた恋(こひ)の暗路(やみぢ)、122行手(ゆくて)が知(し)れる様(やう)なことなれば、123決(けつ)して恋(こひ)とは申(まを)しませぬワ。124姫(ひめ)様(さま)が後(うしろ)を向(む)いては、125手招(てまね)きし、126早(はや)く来(こ)い来(こ)いと、127恋(こひ)の手招(てまね)き遊(あそ)ばしたのを楽(たのし)みに、128何(なん)の事(こと)はなく、129見失(みうしな)つては大変(たいへん)と、130敏心(とごころ)の勇(いさ)み心(ごころ)を振起(ふりおこ)し、131生命(いのち)を的(まと)に従(つ)いて来(き)ました』
132紅井姫『あなたが妾(わたし)を妻(つま)にしてやらうとの御(ご)熱心(ねつしん)には妾(わらは)も感謝(かんしや)に堪(た)へませぬが、133男(をとこ)として否(いな)人間(にんげん)として、134災(わざはひ)多(おほ)き現世(うつしよ)に、135独立(どくりつ)独歩(どくぽ)相当(さうたう)の生活(せいくわつ)を営(いとな)まむとするならば自分(じぶん)の行(ゆ)くべき所(ところ)、136又(また)進(すす)むべき方針(はうしん)がつかなくてはならぬぢやありませぬか。137只(ただ)女(をんな)の美貌(びぼう)に恋着(れんちやく)して、138自分(じぶん)の身(み)を忘(わす)れ、139恋(こひ)の荒野(あらの)に彷徨(さまよ)ひ、140一寸先(いつすんさき)の目当(めあて)も付(つ)かぬ様(やう)な男子(だんし)は妾(わたし)は厭(いや)ですよ。141女(をんな)としては男(をとこ)らしい男(をとこ)、142気(き)の利(き)いた前途(さき)の見(み)える人(ひと)ならば、143どンなヒヨツトコでも、144跛足(びつこ)でも目(め)つかちでも、145鼻曲(はなまが)りでも、146菊目面(あばたづら)でも構(かま)ひませぬ。147甲斐性(かひしやう)のある男(をとこ)を、148女(をんな)は好(すき)ます。149女(をんな)は男(をとこ)に一生(いつしやう)其(その)身(み)を任(まか)す者(もの)ですから、150女(をんな)の禍福(くわふく)は夫(をつと)の強弱(きやうじやく)、151正邪(せいじや)勝劣(しようれつ)、152賢愚(けんぐ)等(とう)にあります。153折角(せつかく)ここまで、154お前(まへ)を伴(つ)れて来(き)て、155試(ため)して見(み)たが、156何(なん)とマア、157お前(まへ)さまは、158交尾期(さかり)の来(き)た、159犬猫(いぬねこ)の様(やう)なものだワ。160エヽ汚(けが)らはしい、161何卒(どうぞ)只今(ただいま)限(かぎ)り、162こンな見(み)つともない腰抜(こしぬけ)身魂(みたま)を、163妾(わたし)の前(まへ)に曝(さら)して下(くだ)さるな。164エヽ好(す)かンたらしい腰抜(こしぬけ)男(をとこ)だなア』
165と云(い)ひ乍(なが)ら、166秋山別(あきやまわけ)の頭(あたま)を、167白(しろ)い細(ほそ)い手(て)にてピシヤピシヤと打叩(うちたた)けば、168秋山別(あきやまわけ)は、
169秋山別『イヤ何(なん)とお前(まへ)にそれ丈(だけ)の考(かんが)へがあるとは、170今(いま)の今迄(いままで)知(し)らなかつたよ。171深窓(しんそう)に育(そだ)つたお嬢(ぢやう)さまだから、172何一(なにひと)つ知(し)りはしよまい、173是(これ)から此(この)秋山別(あきやまわけ)が、174いろいろと世間学(せけんがく)を仕込(しこ)ンで、175立派(りつぱ)な賢母(けんぼ)良妻(りやうさい)に作(つく)り上(あ)げ、176円満(ゑんまん)なホームを作(つく)り、177世界(せかい)の花(はな)と謳(うた)はれて、178幾久(いくひさ)しく、179末永(すえなが)う、180偕老(かいらう)同穴(どうけつ)の契(ちぎり)を結(むす)ばうと思(おも)つて居(ゐ)たのだ。181イヤもう今(いま)の言葉(ことば)を聞(き)いて、182ズーンと感心(かんしん)した。183実(じつ)の所(ところ)は是(こ)れから、184大方針(だいはうしん)を立(た)てて、185夫婦(ふうふ)の水火(いき)を合(あは)せ、186神(かみ)の生宮(いきみや)として、187大神業(だいしんげう)に奉仕(ほうし)すると云(い)ふ大抱負(だいはうふ)を持(も)つて居(ゐ)る秋山別(あきやまわけ)だから、188姫(ひめ)さま、189必(かなら)ず必(かなら)ず取越(とりこし)苦労(くらう)はして下(くだ)さるな。190何(なに)も彼(か)も、191此(この)秋山別(あきやまわけ)が方寸(はうすん)に止(とど)めてあるから……』
192 紅井姫(くれなゐひめ)はツンとして、
193紅井姫『男(をとこ)と云(い)ふ者(もの)は凡(すべ)て一生(いつしやう)の方針(はうしん)を立(た)てて、194是(これ)なれば妻子(さいし)を大丈夫(だいぢやうぶ)に養(やしな)つて行(ゆ)く事(こと)が出来(でき)ると云(い)ふ様(やう)になつてから、195女房(にようばう)を持(も)つべきものぢやありませぬか。196それに何(なん)ぞや、197是(これ)から方針(はうしん)をきめると云(い)ふ様(やう)な薄野呂(うすのろ)男(をとこ)に、198何程(なにほど)女(をんな)が沢山(たくさん)ある世(よ)の中(なか)でも、199一人(ひとり)だつて相手(あひて)になる者(もの)が御座(ござ)いますかい。200いい加減(かげん)に馬鹿(ばか)を尽(つく)しておきなさいよ。201妾(わたし)は只今(ただいま)限(かぎ)り御免(ごめん)を蒙(かうむ)りませう。202其(その)代(かは)りお前(まへ)さまが一人前(いちにんまへ)の立派(りつぱ)な男(をとこ)にお成(な)りになつた暁(あかつき)は、203何程(なんぼ)お前(まへ)が妾(わらは)を嫌(きら)つても、204今度(こんど)は私(わたし)の方(はう)から放(はな)しませぬから、205そこまで御(ご)出世(しゆつせ)をして下(くだ)さい。206今(いま)から女(をんな)に心(こころ)を取(と)られる様(やう)な腰抜(こしぬけ)野郎(やらう)だつたら、207駄目(だめ)ですよ。208第一(だいいち)あなたの身(み)が立(た)たず妾(わたし)も約(つま)りませぬから、209どうぞ悪(わる)く思(おも)はずに諦(あきら)めて下(くだ)さい』
210秋山別『コレコレ姫(ひめ)さま、211一応(いちおう)其(その)お言葉(ことば)は無理(むり)とは思(おも)ひませぬが、212そりや又(また)余(あんま)り薄情(はくじやう)ぢやありませぬか。213貴女(あなた)を慕(した)うてこンな山奥(やまおく)迄(まで)ついて来(き)た男(をとこ)を、214今更(いまさら)、215一度(いちど)の枕(まくら)も交(かは)さず、216愛想(あいさう)づかしとは、217余(あま)りで御座(ござ)います。218斯(こ)うなつた以上(いじやう)は、219私(わたし)も男(をとこ)の意地(いぢ)、220生命(いのち)にかけても、221やり遂(と)げねば置(お)きませぬ。222サア姫(ひめ)さま、223私(わたし)の恋(こひ)は命懸(いのちが)けだ。224返答(へんたふ)なさいませ。225御(ご)返答(へんたふ)次第(しだい)に依(よ)つては、226此(この)儘(まま)ではおきませぬぞ』
227紅井姫『ホヽヽヽヽ、228あのマア腰抜(こしぬけ)男(をとこ)わいのう。229多寡(たくわ)の知(し)れた女(をんな)一人(ひとり)を捉(とら)まへて、230脅(おど)し文句(もんく)を並(なら)べしやます、231其(その)卑怯(ひけふ)さ。232何程(なにほど)脅喝(けふかつ)なされても、233そンな事(こと)にビリつく様(やう)な女(をんな)では御座(ござ)いませぬわいなア。234ヘンお前(まへ)さまの様(やう)な未練(みれん)男(をとこ)に添(そ)う位(くらゐ)なら、235一層(いつそう)此(この)シーズン河(がは)へ身(み)を投(な)げて死(し)ンだが得策(まし)で御座(ござ)ンすぞえ』
236秋山別『死(し)ぬ死(し)ぬ云(い)ふ奴(やつ)に死(し)ンだ例(ため)しなしだ。237そンな事(こと)を云(い)つて、238姫(ひめ)さまは反対(はんたい)に此(この)秋山別(あきやまわけ)を脅喝(けふかつ)するのですなア。239油断(ゆだん)のならぬは女(をんな)だ。240何時(いつ)の間(ま)にこンなお転婆(てんば)にお成(な)りなさつたのかなア』
241紅井姫『ホヽヽヽヽ、242婦人(ふじん)開放(かいはう)に目覚(めざ)めた新(あたら)しい女(をんな)ですよ。243是(これ)でも女子(ぢよし)大学(だいがく)の優等(いうとう)卒業生(そつげふせい)ですから、244男(をとこ)の五(ご)人(にん)や十(じふ)人(にん)、245喰(く)はへてふる位(くらゐ)は朝飯前(あさめしまへ)の仕事(しごと)、246今迄(いままで)深窓(しんそう)に育(そだ)つた未通娘(おぼこむすめ)の紅井姫(くれなゐひめ)だと思(おも)つてゐたのが、247お前(まへ)さまの不覚(ふかく)だ。248オイ君(きみ)、249チトしつかりせないと、250婦人(ふじん)同盟会(どうめいくわい)を組織(そしき)し、251男子(だんし)放逐論(はうちくろん)を主唱(しゆしやう)し、252女尊(ぢよそん)男卑(だんぴ)の社会(しやくわい)にして了(しま)ひますよ。253オツと、254君(きみ)も僕(ぼく)のハズバンドに成(な)りたいと思(おも)ふなら、255それ丈(だけ)の資格(しかく)を具備(ぐび)して来(こ)なくては駄目(だめ)だよ。256僕(ぼく)はもう、257是(これ)から帰(かへ)るから、258君(きみ)はここでゆつくりと思案(しあん)し玉(たま)へ』
259秋山別『何(なん)とマア、260呆(あき)れたお嬢(ぢやう)さまだなア。261黙(だま)つて聞(き)いて居(を)れば、262君(きみ)だの僕(ぼく)だのと、263女(をんな)の癖(くせ)に何(なん)と云(い)ふ事(こと)を仰有(おつしや)るのだ。264併(しか)し乍(なが)ら、265さう活溌(くわつぱつ)な女(をんな)と聞(き)けば、266なほなほ恋(こひ)しくなる。267お嬢(ぢやう)さま、268イヤイヤ君(きみ)、269……君(きみ)といつた方(はう)がお気(き)に入(い)るだらう……君(きみ)と僕(ぼく)と二人(ふたり)相(あひ)提携(ていけい)して、270天下(てんか)の経綸(けいりん)を堂々(だうだう)と遂行(すゐかう)したら如何(どう)だね。271随分(ずいぶん)面白(おもしろ)からうよ』
272紅井姫『エー好(す)かンたらしい男(をとこ)だこと、273お前(まへ)さまの方(はう)から吹(ふ)いて来(く)る風(かぜ)も厭(いや)になつた。274こンな時代(じだい)遅(おく)れの男(をとこ)とは思(おも)はなかつたに、275選(よ)りに選(よ)つて、276古(ふる)めかしい頭脳(あたま)の黴(かび)の生(は)えた骨董品(こつとうひん)、277斯(こ)んな品物(しなもの)をウツカリ買(か)ひ込(こ)まうものなら、278それこそ一生(いつしやう)僕(ぼく)の浮(うか)ぶ瀬(せ)がなくなる。279オウさうだ一層(いつそう)の事(こと)、280此(この)シーズン河(がは)へ身(み)を投(な)げて寂滅(じやくめつ)為楽(ゐらく)となり、281浮(う)き上(あが)つて川瀬(かはせ)を流(なが)れたら、282それこそ浮(うか)む瀬(せ)があると云(い)ふものだ。283オイ君(きみ)、284僕(ぼく)は是(これ)からザンブと計(ばか)り、285投身(とうしん)するから、286君(きみ)は娑婆(しやば)に残(のこ)つて、287十分(じふぶん)の馬鹿(ばか)を尽(つく)し、288決(けつ)して僕(ぼく)の後(あと)を尋(たづ)ねて来(き)ちやならないよ。289アリヨース』
290と云(い)ひ乍(なが)ら、291身(み)を躍(をど)らしてザンブと計(ばか)り、292シーズン河(がは)の激流(げきりう)に飛(と)び込(こ)み、293パツと立(た)つ水煙(みづけぶり)と共(とも)に後白波(あとしらなみ)と消(き)えにける。
294 秋山別(あきやまわけ)は水面(すゐめん)を眺(なが)め、295アフンとして、296暫(しば)し思案(しあん)に暮(く)れ居(ゐ)たりしが、
297秋山別『あゝどうしたら良(よ)からうかな。298こンな事(こと)ならヤツパリ、299エリナの方(はう)を情婦(いろ)に持(も)つのだつたに、300モリスの奴(やつ)甘(うま)い事(こと)をしよつたナ。301何時(いつ)の間(ま)にやら、302俺(おれ)達(たち)の目(め)を掠(かす)め、303エリナを伴(つ)れて、304どこかへ伏艇(ふくてい)しよつたと見(み)えるワイ。305潜航(せんかう)水雷艇(すゐらいてい)をどこへ伴(つ)れて行(ゆ)きよつたかなア。306一(ひと)つ俺(おれ)もエリナ丸(まる)に乗(の)り替(か)へねば、307敵艦(てきかん)に向(むか)つて夜襲(やしふ)することが出来(でき)まい。308アーア、309掌中(しやうちう)の玉(たま)を取(と)られたとは此(この)事(こと)だ。310紅井姫(くれなゐひめ)も可哀相(かあいさう)に、311余(あま)り暑(あつ)い所(ところ)を無理(むり)に歩(ある)かしたものだから、312陽気(やうき)のせいで精神(せいしん)逆上(ぎやくじやう)し、313そこへ数十万(すふじふまん)年(ねん)未来(みらい)のハイカラ女(をんな)の悪霊(あくれい)が憑依(ひようい)し、314君(きみ)だの、315僕(ぼく)だのと、316取(とり)とめもない事(こと)を云(い)ひ、317しまひの果(はて)にや、318シーズン河(がは)の投身(とうしん)とお出(で)かけなすつた。319どうも気(き)の毒(どく)なものだ。320あゝ併(しか)し俺(おれ)も斯(こ)うして、321一人(ひとり)こンな所(ところ)に溺死(できし)よけの石地蔵(いしぢざう)の様(やう)に川(かは)を眺(なが)めて立(た)つてゐてもつまらないワ』
322と呟(つぶや)いてゐる。323そこへエリナの手(て)を引(ひ)いて、324モリスはさも嬉(うれ)し相(さう)にニコニコと辿(たど)り来(きた)り、
325モリス『ヤア秋(あき)さま、326お前(まへ)はここに居(を)つたのか。327紅井姫(くれなゐひめ)さまにお前(まへ)はモウ秋(あき)さまだと云(い)つて、328エツパツパを喰(く)はされたのだなア、329アハヽヽヽ』
330エリナ『ホヽヽヽヽ』
331秋山別『エヽ喧(やかま)しワイ、332余(あま)りハイカラ女(をんな)で、333到底(たうてい)家庭(かてい)の主婦(しゆふ)として不適任(ふてきにん)だと思(おも)つたから、334俺(おれ)の方(はう)から秋山風(あきやまかぜ)を吹(ふ)かして、335どうぞ是(これ)からお前(まへ)の様(やう)な女(をんな)は、336俺(おれ)に顔(かほ)を合(あは)して紅井姫(くれなゐひめ)だと云(い)つて、337エツパツパとやつたら、338紅井姫(くれなゐひめ)が云(い)ふのには……君(きみ)それ程(ほど)僕(ぼく)が不信用(ふしんよう)なら、339僕(ぼく)も君(きみ)に対(たい)し、340強(た)つて添(そ)うてくれとは云(い)はないよ、341アリヨースと云(い)つてあつたら生命(いのち)を水(みづ)の中(なか)にザンブと計(ばか)り、342シーズン河(がは)だ、343さすがの俺(おれ)でもチツとは憐(あは)れを催(もよほ)し、344同情(どうじやう)の涙(なみだ)にシーズンで居(を)るのだよ、345あゝゝゝとは云(い)ふものの、346如何(どう)したら姫(ひめ)が帰(かへ)つて来(く)るだらうかな、347思(おも)へば思(おも)へばいぢらしいワイの、348オンオンオン』
349エリナ『君(きみ)は何(なに)かい、350紅井(くれなゐ)氏(し)をどうしたと云(い)ふのだい。351僕(ぼく)に詳細(しやうさい)なる顛末(てんまつ)を差支(さしつかへ)なくば知(し)らして呉(く)れないか。352僕(ぼく)大(おほ)いに期(き)する所(ところ)があるのだからね』
353秋山別『ヤア此奴(こいつ)も又(また)伝染(でんせん)しよつたなア。354オイ、355モリス、356用心(ようじん)せいよ。357又(また)ドンブリコと計画(けいくわく)に取掛(とりかか)られるかも知(し)れないぞ。358こンな所(ところ)で、359舟(ふね)の一艘(いつそう)や二艘(にそう)沈(しづ)めたつて、360閉塞隊(へいそくたい)の御用(ごよう)も勤(つと)まるものでなし、361丸(まる)で淵(ふち)へ塩(しほ)をほり込(こ)むやうな不利益(ふりえき)だから、362シツカリエリナ君(くん)を捉(とら)まへてゐ玉(たま)へ。363僕(ぼく)は経験(けいけん)上(じやう)、364君(きみ)に注意(ちうい)を与(あた)へておくよ』
365モリス『あゝ、366モリスも薩張(さつぱ)り合点(がてん)の行(ゆ)かぬ事(こと)になつて来(き)たワイ』
367と拍手(はくしゆ)し終(をは)つて『惟神(かむながら)霊(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)』を三唱(さんしやう)し、368何事(なにごと)か切(しき)りに暗祈(あんき)黙祷(もくたう)を久(ひさ)しうして居(ゐ)る。
369(大正一一・八・二〇 旧六・二八 松村真澄録)
370(昭和九・一二・一九 王仁校正)
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