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霊界物語
山河草木(第61~72巻、入蒙記)
第63巻(寅の巻)
序歌
総説
第1篇 妙法山月
第1章 玉の露
第2章 妙法山
第3章 伊猛彦
第4章 山上訓
第5章 宿縁
第6章 テルの里
第2篇 日天子山
第7章 湖上の影
第8章 怪物
第9章 超死線
第3篇 幽迷怪道
第10章 鷺と鴉
第11章 怪道
第12章 五託宣
第13章 蚊燻
第14章 嬉し涙
第4篇 四鳥の別
第15章 波の上
第16章 諒解
第17章 峠の涙
第18章 夜の旅
第5篇 神検霊査
第19章 仕込杖
第20章 道の苦
第21章 神判
第22章 蚯蚓の声
余白歌
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霊界物語
>
山河草木(第61~72巻、入蒙記)
>
第63巻(寅の巻)
> 第3篇 幽迷怪道 > 第11章 怪道
<<< 鷺と鴉
(B)
(N)
五託宣 >>>
第一一章
怪道
(
くわいだう
)
〔一六一八〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第63巻 山河草木 寅の巻
篇:
第3篇 幽迷怪道
よみ(新仮名遣い):
ゆうめいかいどう
章:
第11章 怪道
よみ(新仮名遣い):
かいどう
通し章番号:
1618
口述日:
1923(大正12)年05月24日(旧04月9日)
口述場所:
教主殿
筆録者:
加藤明子
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1926(大正15)年2月3日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
カークス、ベースの二人は、にわかにあたりの光景が一変した大原野の真ん中を、とぼとぼと何者かに押されるように進んでいく。冬の景色と見えて、松葉は風に揺られ桜の梢は木枯らしにふるえている。
二人は、宣伝使たちと一緒にスーラヤ山の岩窟に入ったはずが、見慣れない原野を歩いていることをいぶかしんだ。二人は述懐を歌いながらともかく先に進んで歩いていく。
二人は濁流みなぎる河辺についた。二人はどうやらここが現界ではないと思い始めた。行く手を阻まれて座り込み、地獄へ暴れこんで王国でも建てようかなどというのんきなほら話に花を咲かせている。
傍らの茅の中に藁小屋があり、黒いやせこけた怪しい婆が現れた。婆は伊太彦宣伝使一行がすでに河を渡って向こう側に行ったという。
遅れてはたいへんと二人は河を渡ろうとした。婆はベースの胸ぐらをつかんで、肝玉を引き抜いて食ってやるとすごんだ。カークスは婆の足をつかんだが、突けども押せどもビクとも動かない。
二人は進退窮まってしまった。するとはるか後ろの方から宣伝歌が聞こえてきた。はっと我に返ると、今まで婆と見えていたのは巨岩であった。河と見えたのは薄原であった。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2022-04-23 16:16:09
OBC :
rm6311
愛善世界社版:
150頁
八幡書店版:
第11輯 315頁
修補版:
校定版:
153頁
普及版:
64頁
初版:
ページ備考:
001
カークス、
002
ベースの
両人
(
りやうにん
)
は、
003
俄
(
にはか
)
に
四辺
(
あたり
)
の
光景
(
くわうけい
)
一変
(
いつぺん
)
した
大原野
(
だいげんや
)
の
真中
(
まんなか
)
を
無言
(
むごん
)
の
儘
(
まま
)
トボトボと、
004
何者
(
なにもの
)
にか
押
(
お
)
さるるやうに
進
(
すす
)
んで
往
(
ゆ
)
く。
005
頭
(
あたま
)
の
禿
(
は
)
げた
饅頭形
(
まんぢうがた
)
の
小
(
ちひ
)
さい
丘
(
をか
)
の
麓
(
ふもと
)
を
辿
(
たど
)
つて
往
(
ゆ
)
くと
006
其所
(
そこ
)
には、
0061
松
(
まつ
)
と
桜
(
さくら
)
の
樹
(
き
)
が
一株
(
ひとかぶ
)
のやうになつて
睦
(
むつ
)
まじげに
立
(
た
)
つてゐる。
007
冬
(
ふゆ
)
の
景色
(
けしき
)
と
見
(
み
)
えて
008
尖
(
とが
)
つた
松葉
(
まつば
)
が
風
(
かぜ
)
に
揺
(
ゆ
)
られて
009
パラパラと
両人
(
りやうにん
)
が
頭上
(
づじやう
)
にふつて
来
(
く
)
る。
010
桜
(
さくら
)
はもはや
真裸
(
まつぱだか
)
となつて
凩
(
こがらし
)
に
梢
(
こずゑ
)
が
慄
(
ふる
)
うて
居
(
ゐ
)
た。
011
カークス『オイ、
012
ベース、
013
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
はスーラヤの
死線
(
しせん
)
を
越
(
こ
)
えて、
014
伊太彦
(
いたひこ
)
司
(
つかさ
)
と
共
(
とも
)
に
竜王
(
りうわう
)
の
岩窟
(
がんくつ
)
に
確
(
たしか
)
に
這入
(
はい
)
つた
積
(
つも
)
りで
居
(
ゐ
)
るのに、
015
何時
(
いつ
)
の
間
(
ま
)
にか、
016
かふ
云
(
い
)
ふ
所
(
ところ
)
へ
来
(
き
)
てゐるのは
不思議
(
ふしぎ
)
ぢやないか。
017
さうして
俺
(
おれ
)
の
立
(
た
)
つた
時
(
とき
)
はまだ
夏
(
なつ
)
の
終
(
をは
)
りぢやつたが
018
いつの
間
(
ま
)
にかう
冬
(
ふゆ
)
が
来
(
き
)
たのだらう。
019
合点
(
がつてん
)
の
行
(
ゆ
)
かぬ
事
(
こと
)
だなア』
020
ベース『ウン、
021
さうだなア、
022
何
(
なん
)
とも
合点
(
がつてん
)
の
行
(
い
)
かぬ
事
(
こと
)
だ。
023
大方
(
おほかた
)
夢
(
ゆめ
)
を
見
(
み
)
て
居
(
ゐ
)
たのだらう。
024
矢張
(
やつぱり
)
スダルマ
山
(
さん
)
の
山腹
(
さんぷく
)
で
樵夫
(
きこり
)
をやつて
居
(
ゐ
)
た
時
(
とき
)
に、
025
グツスリと
眠
(
ねむ
)
つて
仕舞
(
しま
)
ひ、
026
其
(
その
)
間
(
あひだ
)
に
冬
(
ふゆ
)
が
来
(
き
)
たのかも
知
(
し
)
れないよ』
027
カークス『それだと
云
(
い
)
つて
028
伊太彦
(
いたひこ
)
と
云
(
い
)
ふ
綺麗
(
きれい
)
な
神司
(
かむつかさ
)
とテルの
里
(
さと
)
へいつて、
029
ルーブヤさまの
館
(
やかた
)
に
宿
(
とま
)
り
込
(
こ
)
み
結構
(
けつこう
)
な
御
(
ご
)
馳走
(
ちそう
)
に
預
(
あづ
)
かり、
030
それから
船
(
ふね
)
に
乗
(
の
)
り、
031
スーラヤ
山
(
さん
)
の
死線
(
しせん
)
を
越
(
こ
)
えた
事
(
こと
)
は
確
(
たしか
)
に
記憶
(
きおく
)
に
残
(
のこ
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
032
大方
(
おほかた
)
今
(
いま
)
が
夢
(
ゆめ
)
かも
知
(
し
)
れないよ。
033
夢
(
ゆめ
)
と
云
(
い
)
ふ
奴
(
やつ
)
は
僅
(
わづ
)
か
五分
(
ごふん
)
か
六分
(
ろつぷん
)
かの
間
(
あひだ
)
に
生
(
うま
)
れて
死
(
し
)
ぬ
迄
(
まで
)
の
事
(
こと
)
を
見
(
み
)
るものだ、
034
夢
(
ゆめ
)
は
想念
(
さうねん
)
の
延長
(
えんちやう
)
だから、
035
かうして
居
(
ゐ
)
るのが
夢
(
ゆめ
)
かも
知
(
し
)
れない。
036
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても
夢
(
ゆめ
)
の
浮世
(
うきよ
)
と
云
(
い
)
ふからなア』
037
ベース『
何
(
なん
)
と
言
(
い
)
つても
此処
(
ここ
)
は
見馴
(
みなれ
)
ない
所
(
ところ
)
だ。
038
いつの
間
(
ま
)
にスーラヤ
山
(
さん
)
から
此処
(
ここ
)
へ
来
(
き
)
たのだらう。
039
さうして
四辺
(
あたり
)
の
景色
(
けしき
)
は
冬
(
ふゆ
)
の
景
(
けい
)
ぢや。
040
パインの
老木
(
らうぼく
)
の
間
(
あひだ
)
から
針
(
はり
)
のやうな
枯松葉
(
かれまつば
)
が
降
(
ふ
)
つて
来
(
く
)
る。
041
桜
(
さくら
)
は
真
(
ま
)
つ
裸
(
ぱだか
)
になつて
慄
(
ふる
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
042
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
も
行
(
ゆ
)
く
所
(
ところ
)
迄
(
まで
)
行
(
ゆ
)
かうよ。
043
又
(
また
)
好
(
い
)
い
事
(
こと
)
があるかも
知
(
し
)
れないよ。
044
ベース『
思
(
おも
)
ひきやスーラヤ
山
(
さん
)
の
岩窟
(
がんくつ
)
に
045
進
(
すす
)
みし
吾
(
われ
)
の
斯
(
かく
)
あらむとは。
046
夢
(
ゆめ
)
ならば
一
(
いち
)
時
(
じ
)
も
早
(
はや
)
く
覚
(
さ
)
めよかし
047
心
(
こころ
)
の
空
(
そら
)
の
雲
(
くも
)
を
晴
(
は
)
らして』
048
カークス『
大空
(
おほぞら
)
は
皆
(
みな
)
黒雲
(
くろくも
)
に
包
(
つつ
)
まれて
049
行手
(
ゆくて
)
も
知
(
し
)
らぬ
吾
(
われ
)
ぞ
悲
(
かな
)
しき。
050
ウラル
彦
(
ひこ
)
神
(
かみ
)
の
命
(
みこと
)
の
戒
(
いまし
)
めに
051
遇
(
あ
)
ひて
迷
(
まよ
)
ふか
吾
(
われ
)
ら
二人
(
ふたり
)
は』
052
ベース『ウラル
彦
(
ひこ
)
神
(
かみ
)
の
教
(
をしへ
)
も
三五
(
あななひ
)
の
053
道
(
みち
)
も
御神
(
みかみ
)
の
作
(
つく
)
らしし
教
(
のり
)
。
054
吾
(
われ
)
は
今
(
いま
)
途方
(
とはう
)
に
暮
(
く
)
れて
冬
(
ふゆ
)
の
野
(
の
)
の
055
いとも
淋
(
さび
)
しき
旅
(
たび
)
に
立
(
た
)
つかな。
056
伊太彦
(
いたひこ
)
やブラヷーダ
姫
(
ひめ
)
は
今
(
いま
)
いづく
057
アスマガルダの
影
(
かげ
)
さへ
見
(
み
)
えず』
058
カークス『
村肝
(
むらきも
)
の
心
(
こころ
)
の
暗
(
やみ
)
に
包
(
つつ
)
まれて
059
今
(
いま
)
八衢
(
やちまた
)
に
迷
(
まよ
)
ふなるらむ。
060
天地
(
あめつち
)
の
皇
(
すめ
)
大神
(
おほかみ
)
よ
憐
(
あは
)
れみて
061
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
二人
(
ふたり
)
の
行方
(
ゆくて
)
を
照
(
て
)
らしませ。
062
月
(
つき
)
も
日
(
ひ
)
も
星
(
ほし
)
かげもなき
冬
(
ふゆ
)
の
野
(
の
)
を
063
彷徨
(
さまよ
)
ふ
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
が
心
(
こころ
)
淋
(
さび
)
しさ。
064
如何
(
いか
)
にせば
常世
(
とこよ
)
の
春
(
はる
)
の
花
(
はな
)
匂
(
にほ
)
ふ
065
吾
(
わが
)
故郷
(
ふるさと
)
に
帰
(
かへ
)
りゆくらむ』
066
ベース『
日
(
ひ
)
も
月
(
つき
)
も
西
(
にし
)
に
傾
(
かたむ
)
く
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
に
067
吾
(
われ
)
は
淋
(
さび
)
しき
荒野
(
あらの
)
に
迷
(
まよ
)
ふ。
068
西
(
にし
)
きた
か
東
(
ひがし
)
へ
来
(
き
)
たか
知
(
し
)
らねども
069
みなみ
の
罪
(
つみ
)
と
諦
(
あきら
)
めゆかむ。
070
西
(
にし
)
東
(
ひがし
)
南
(
みなみ
)
も
北
(
きた
)
もわきまへぬ
071
今
(
いま
)
幼児
(
をさなご
)
となりにけるかな』
072
カークス『エヽ
仕方
(
しかた
)
がない。
073
犬
(
いぬ
)
も
歩
(
ある
)
けば
棒
(
ぼう
)
に
当
(
あた
)
るとやら
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
がある。
074
さア
075
これから
膝栗毛
(
ひざくりげ
)
の
続
(
つづ
)
くだけ
此
(
この
)
道
(
みち
)
を
進
(
すす
)
んで
見
(
み
)
よう』
076
茲
(
ここ
)
に
二人
(
ふたり
)
は
凩
(
こがらし
)
吹
(
ふ
)
き
荒
(
すさ
)
ぶ
野路
(
のぢ
)
の
淋
(
さび
)
しみを
消
(
け
)
さむが
為
(
ため
)
に
出放題
(
ではうだい
)
の
歌
(
うた
)
を
謡
(
うた
)
つて
077
足
(
あし
)
に
任
(
まか
)
せトボトボと
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く
事
(
こと
)
となつた。
078
カークス『あゝ
訝
(
いぶ
)
かしや
訝
(
いぶ
)
かしや
079
茲
(
ここ
)
は
冥途
(
めいど
)
か
八衢
(
やちまた
)
か
080
但
(
ただ
)
しは
浮世
(
うきよ
)
の
真中
(
まんなか
)
か
081
四辺
(
あたり
)
の
景色
(
けしき
)
を
眺
(
なが
)
むれば
082
山野
(
やまの
)
の
草木
(
くさき
)
は
枯
(
かれ
)
果
(
は
)
てて
083
露
(
つゆ
)
もやどらぬ
淋
(
さび
)
しさよ
084
パインの
木蔭
(
こかげ
)
に
立
(
た
)
ち
寄
(
よ
)
つて
085
息
(
いき
)
休
(
やす
)
めむと
打
(
う
)
ち
仰
(
あふ
)
ぎ
086
見
(
み
)
れば
枯葉
(
かれは
)
はバタバタと
087
針
(
はり
)
の
如
(
ごと
)
くに
下
(
くだ
)
り
来
(
き
)
て
088
薄
(
うす
)
き
衣
(
ころも
)
を
刺
(
さ
)
し
通
(
とほ
)
し
089
桜
(
さくら
)
の
梢
(
こずゑ
)
はブルブルと
090
冷
(
つめた
)
き
風
(
かぜ
)
に
慄
(
ふる
)
ひ
居
(
ゐ
)
る
091
合点
(
がてん
)
の
行
(
い
)
かぬ
此
(
この
)
旅路
(
たびぢ
)
092
夢
(
ゆめ
)
か
現
(
うつつ
)
か
幻
(
まぼろし
)
か
093
三五教
(
あななひけう
)
の
伊太彦
(
いたひこ
)
と
094
スダルマ
山
(
さん
)
の
間道
(
かんだう
)
を
095
漸
(
やうや
)
く
渡
(
わた
)
りてテルの
里
(
さと
)
096
ルーブヤ
館
(
やかた
)
に
立
(
た
)
ちよりて
097
天女
(
てんによ
)
のやうなブラヷーダ
098
姫
(
ひめ
)
の
命
(
みこと
)
にもてなされ
099
それより
船
(
ふね
)
に
身
(
み
)
を
任
(
まか
)
せ
100
一行
(
いつかう
)
五
(
ご
)
人
(
にん
)
スーラヤの
101
山
(
やま
)
に
鎮
(
しづ
)
まるウバナンダ
102
ナーガラシャーの
宝玉
(
はうぎよく
)
を
103
神
(
かみ
)
の
御
(
おん
)
為
(
ため
)
世
(
よ
)
の
為
(
ため
)
に
104
受
(
う
)
け
取
(
と
)
り
珍
(
うづ
)
の
聖場
(
せいぢやう
)
へ
105
献
(
たてまつ
)
らむと
思
(
おも
)
ひしは
106
夢
(
ゆめ
)
でありしかこれは
又
(
また
)
107
合点
(
がてん
)
の
行
(
ゆ
)
かぬ
事
(
こと
)
計
(
ばか
)
り
108
夢
(
ゆめ
)
の
中
(
なか
)
なる
貴人
(
あでびと
)
は
109
今
(
いま
)
はいづくに
在
(
ましま
)
すか
110
尋
(
たづ
)
ぬるよしも
泣
(
な
)
く
計
(
ばか
)
り
111
霜
(
しも
)
の
剣
(
つるぎ
)
や
露
(
つゆ
)
の
玉
(
たま
)
112
吾
(
わが
)
身
(
み
)
にひしひし
迫
(
せま
)
り
来
(
く
)
る
113
これぞ
全
(
まつた
)
く
今
(
いま
)
迄
(
まで
)
の
114
犯
(
をか
)
せし
罪
(
つみ
)
の
報
(
むく
)
いにか
115
唯
(
ただ
)
しは
前世
(
ぜんせ
)
の
因縁
(
いんねん
)
か
116
実
(
げ
)
に
怖
(
おそ
)
ろしき
今日
(
けふ
)
の
空
(
そら
)
117
進
(
すす
)
みかねたる
膝栗毛
(
ひざくりげ
)
118
あて
所
(
ど
)
もなしに
彷徨
(
さまよ
)
ひて
119
地獄
(
ぢごく
)
の
里
(
さと
)
に
進
(
すす
)
むのか
120
但
(
ただ
)
しは
常世
(
とこよ
)
の
花
(
はな
)
匂
(
にほ
)
ふ
121
天国
(
てんごく
)
浄土
(
じやうど
)
に
上
(
のぼ
)
るのか
122
神
(
かみ
)
ならぬ
身
(
み
)
の
吾々
(
われわれ
)
は
123
如何
(
いか
)
に
詮術
(
せんすべ
)
泣
(
な
)
く
涙
(
なみだ
)
124
暗路
(
やみぢ
)
に
迷
(
まよ
)
ふ
苦
(
くる
)
しさよ
125
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
126
神
(
かみ
)
の
光
(
ひかり
)
の
一時
(
ひととき
)
も
127
早
(
はや
)
く
吾
(
わが
)
身
(
み
)
を
照
(
て
)
らせかし』
128
ベース『
旭
(
あさひ
)
は
照
(
て
)
らず
月
(
つき
)
は
出
(
で
)
ず
129
星
(
ほし
)
の
影
(
かげ
)
さへ
見
(
み
)
えぬ
空
(
そら
)
130
亡者
(
まうじや
)
の
如
(
ごと
)
く
吾々
(
われわれ
)
は
131
見
(
み
)
なれぬ
道
(
みち
)
を
辿
(
たど
)
りつつ
132
あてどもなしに
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く
133
吾
(
わが
)
行
(
ゆ
)
く
先
(
さき
)
は
天国
(
てんごく
)
か
134
但
(
ただ
)
しは
聖地
(
せいち
)
のエルサレム
135
黄金山
(
わうごんざん
)
か
八衢
(
やちまた
)
か
136
深
(
ふか
)
き
濃霧
(
のうむ
)
に
包
(
つつ
)
まれて
137
大海原
(
おほうなばら
)
を
行
(
ゆ
)
く
船
(
ふね
)
の
138
あてども
知
(
し
)
らぬ
心地
(
ここち
)
なり
139
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
140
天地
(
てんち
)
に
神
(
かみ
)
のましまさば
141
二人
(
ふたり
)
の
今
(
いま
)
の
身
(
み
)
の
上
(
うへ
)
を
142
憐
(
あはれ
)
みたまひて
現界
(
げんかい
)
か
143
はた
霊界
(
れいかい
)
か
天国
(
てんごく
)
か
144
但
(
ただ
)
しは
地獄
(
ぢごく
)
か
八衢
(
やちまた
)
か
145
いと
明
(
あきら
)
けく
知
(
し
)
らしませ
146
人
(
ひと
)
は
神
(
かみ
)
の
子
(
こ
)
神
(
かみ
)
の
宮
(
みや
)
147
なりとの
教
(
をしへ
)
は
聞
(
き
)
きつれど
148
かくも
迷
(
まよ
)
ひし
吾
(
わが
)
霊
(
たま
)
は
149
常夜
(
とこよ
)
の
暗
(
やみ
)
の
如
(
ごと
)
くなり
150
月日
(
つきひ
)
の
光
(
ひかり
)
も
左程
(
さほど
)
には
151
尊
(
たふと
)
く
清
(
きよ
)
く
思
(
おも
)
はざりし
152
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
も
今
(
いま
)
は
漸
(
やうや
)
くに
153
いづの
御光
(
みひかり
)
瑞御霊
(
みづみたま
)
154
月
(
つき
)
の
光
(
ひかり
)
の
尊
(
たふと
)
さを
155
正
(
まさ
)
しく
悟
(
さと
)
り
初
(
そめ
)
てけり
156
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
157
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
を
作
(
つく
)
りし
皇神
(
すめかみ
)
よ
158
一
(
いち
)
時
(
じ
)
も
早
(
はや
)
く
吾
(
わが
)
胸
(
むね
)
の
159
醜
(
しこ
)
の
横雲
(
よこぐも
)
打
(
う
)
ち
払
(
はら
)
ひ
160
完全
(
うまら
)
に
委曲
(
つばら
)
に
行方
(
ゆくへ
)
をば
161
照
(
て
)
らさせたまへ
惟神
(
かむながら
)
162
神
(
かみ
)
の
御前
(
みまへ
)
に
願
(
ね
)
ぎまつる』
163
斯
(
か
)
く
謡
(
うた
)
ひつつ
漸
(
やうや
)
くにして
濁流
(
だくりう
)
漲
(
みなぎ
)
る
河辺
(
かはべ
)
に
着
(
つ
)
いた。
164
カークス『オイ、
165
此処
(
ここ
)
には
雨
(
あめ
)
も
降
(
ふ
)
らぬのに
大変
(
たいへん
)
な
濁流
(
だくりう
)
が
流
(
なが
)
れて
居
(
ゐ
)
るぢやないか。
166
斯
(
こ
)
んな
大
(
おほ
)
きな
川
(
かは
)
を
渡
(
わた
)
らうものなら、
167
夫
(
それ
)
こそ
命
(
いのち
)
の
安売
(
やすうり
)
だ。
168
もう
仕方
(
しかた
)
がない。
169
二十
(
にじつ
)
世紀
(
せいき
)
ぢやないが、
170
何
(
なに
)
も
彼
(
か
)
も
行
(
ゆ
)
きつまりだ、
171
後
(
あと
)
へ
引
(
ひ
)
きかへさうか』
172
ベース『
引
(
ひ
)
きかへさうと
思
(
おも
)
つても、
173
何者
(
なにもの
)
か
後
(
うしろ
)
から
押
(
お
)
して
来
(
く
)
るのだから
仕方
(
しかた
)
が
無
(
な
)
いぢやないか。
174
「
慢心
(
まんしん
)
致
(
いた
)
すと
神
(
かみ
)
の
試
(
ためし
)
に
遇
(
あ
)
ふて
行
(
ゆき
)
も
帰
(
かへ
)
りもならないやうになる」と
三五教
(
あななひけう
)
の
教典
(
けうてん
)
に
示
(
しめ
)
されて
居
(
ゐ
)
るが
175
矢張
(
やつぱ
)
り
吾々
(
われわれ
)
は、
1751
ソーシャリズムとか
自由
(
じいう
)
平等
(
べうどう
)
主義
(
しゆぎ
)
だとか
云
(
い
)
つて
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
を
軽
(
かろ
)
んじて
来
(
き
)
た
結果
(
けつくわ
)
176
こんな
羽目
(
はめ
)
に
陥
(
おちい
)
つたのだ。
177
どうしても
是
(
これ
)
は
現界
(
げんかい
)
とは
思
(
おも
)
はれないな。
178
竜神
(
りうじん
)
の
岩窟
(
がんくつ
)
で
命
(
いのち
)
を
取
(
と
)
られ
此処
(
ここ
)
へ
来
(
き
)
たのだ。
179
もう
斯
(
か
)
うなれば
覚悟
(
かくご
)
をするより
仕方
(
しかた
)
が
無
(
な
)
いぞ』
180
カークス『さうだ。
181
どう
考
(
かんが
)
へて
見
(
み
)
ても
現界
(
げんかい
)
のやうぢやない。
182
お
前
(
まへ
)
の
云
(
い
)
ふ
通
(
とほ
)
り、
183
これから
駒
(
こま
)
の
頭
(
かしら
)
を
立
(
た
)
て
直
(
なほ
)
し、
184
弱
(
よわ
)
くてはいけないから、
185
仮令
(
たとへ
)
地獄
(
ぢごく
)
へ
行
(
ゆ
)
かうとも
大
(
おほ
)
いに
馬力
(
ばりき
)
を
出
(
だ
)
してメートルをあげ、
186
地獄
(
ぢごく
)
の
鬼
(
おに
)
を
脅迫
(
けふはく
)
し、
187
舌
(
した
)
を
捲
(
ま
)
かせ、
188
共和国
(
きようわこく
)
でも
建設
(
けんせつ
)
しようぢやないか。
189
兎
(
と
)
に
角
(
かく
)
今日
(
こんにち
)
の
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
は
弱
(
よわ
)
くては
立
(
た
)
てぬのだからなア』
190
ベース『さうだと
云
(
い
)
つて、
191
吾々
(
われわれ
)
両人
(
りやうにん
)
の
小勢
(
こぜい
)
では
地獄
(
ぢごく
)
を
征服
(
せいふく
)
する
訳
(
わけ
)
にも
行
(
ゆ
)
くまい。
192
閻魔
(
えんま
)
大王
(
たいわう
)
とか
云
(
い
)
ふやつが
居
(
ゐ
)
て
193
帖面
(
ちやうめん
)
を
繰
(
く
)
つて
吾々
(
われわれ
)
の
罪状
(
ざいじやう
)
を
一々
(
いちいち
)
読
(
よ
)
み
上
(
あ
)
げ
194
焦熱
(
せうねつ
)
地獄
(
ぢごく
)
へでも
落
(
おと
)
さうと
云
(
い
)
つたらどうする。
195
どうせ
天国
(
てんごく
)
へ
行
(
ゆ
)
かれる
様
(
やう
)
な
行
(
おこな
)
ひはして
来
(
き
)
て
居
(
ゐ
)
ないからなア』
196
カークス『
何
(
なに
)
心配
(
しんぱい
)
するな
地獄
(
ぢごく
)
と
云
(
い
)
ふ
所
(
ところ
)
は
強
(
つよ
)
い
者
(
もの
)
勝
(
がち
)
の
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
だ。
197
小
(
ちひ
)
さい
悪人
(
あくにん
)
は
厳
(
きび
)
しい
刑罰
(
けいばつ
)
を
受
(
う
)
けるなり、
198
大
(
だい
)
なる
悪人
(
あくにん
)
は
地獄
(
ぢごく
)
の
王者
(
わうじや
)
となつて
大勢
(
おほぜい
)
の
亡者
(
まうじや
)
を
腮
(
あご
)
で
使
(
つか
)
ひ、
199
愉快
(
ゆくわい
)
な
生活
(
せいくわつ
)
を
送
(
おく
)
らうと
儘
(
まま
)
だよ。
200
閻魔
(
えんま
)
などはあるものぢやない。
201
霊界
(
れいかい
)
も
現界
(
げんかい
)
も
同
(
おな
)
じ
事
(
こと
)
だ。
202
現界
(
げんかい
)
の
状態
(
じやうたい
)
を
考
(
かんが
)
へて
見
(
み
)
よ。
203
下
(
した
)
にあつて
乱
(
らん
)
すれば
刑
(
けい
)
せられ、
204
上
(
うへ
)
にあつて
乱
(
らん
)
すれば
衆人
(
しうじん
)
より
尊敬
(
そんけい
)
せらるる
矛盾
(
むじゆん
)
暗黒
(
あんこく
)
の
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
だ
205
吾々
(
われわれ
)
は
弱
(
よわ
)
くてはならない。
206
是
(
これ
)
から
褌
(
ふんどし
)
を
確
(
しつか
)
りと
締
(
し
)
め、
207
捻鉢巻
(
ねぢはちまき
)
をして
細
(
ほそ
)
い
腕
(
うで
)
に
撚
(
より
)
をかけ、
208
此
(
この
)
濁流
(
だくりう
)
を
向
(
むか
)
ふに
渡
(
わた
)
り、
209
地獄
(
ぢごく
)
征服
(
せいふく
)
と
出
(
で
)
かけようぢやないか。
210
人間
(
にんげん
)
の
精霊
(
せいれい
)
と
云
(
い
)
ふものは
211
所主
(
しよしゆ
)
の
愛
(
あい
)
によつて
天国
(
てんごく
)
なり、
2111
又
(
また
)
地獄
(
ぢごく
)
へ
籍
(
せき
)
を
置
(
お
)
いて
居
(
ゐ
)
るのださうだから、
212
何
(
なに
)
地獄
(
ぢごく
)
だつて
構
(
かま
)
ふものか、
213
自分
(
じぶん
)
の
本籍
(
ほんせき
)
に
帰
(
かへ
)
るやうなものだ。
214
片端
(
かたつぱし
)
から
暴威
(
ばうゐ
)
を
揮
(
ふる
)
つて
四辺
(
あたり
)
の
小団体
(
せうだんたい
)
を
征服
(
せいふく
)
し、
215
大同
(
だいどう
)
団結
(
だんけつ
)
を
作
(
つく
)
り、
216
カークス、
217
ベース
王国
(
わうごく
)
を
建
(
た
)
てようぢやないか。
218
何
(
なに
)
、
219
地獄
(
ぢごく
)
位
(
くらゐ
)
に
屁古垂
(
へこた
)
れてたまらうかい。
220
何程
(
なにほど
)
地獄
(
ぢごく
)
が
辛
(
つら
)
いと
云
(
い
)
つても
現界
(
げんかい
)
位
(
くらゐ
)
のものだ。
221
現界
(
げんかい
)
は
所謂
(
いはゆる
)
地獄
(
ぢごく
)
の
映象
(
えいしやう
)
だと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
だから、
222
吾々
(
われわれ
)
は
経験
(
けいけん
)
がつんで
居
(
ゐ
)
る。
223
現界
(
げんかい
)
では
大黒主
(
おほくろぬし
)
と
云
(
い
)
ふ
大将
(
たいしやう
)
が
居
(
ゐ
)
るから
吾々
(
われわれ
)
の
思
(
おも
)
ふやうには
往
(
ゆ
)
かないが、
224
地獄
(
ぢごく
)
では
勝手
(
かつて
)
だ。
225
この
腕
(
うで
)
が
一本
(
いつぽん
)
あればどんな
事
(
こと
)
でも
出来
(
でき
)
るよ』
226
ベース『さうだなア。
227
どうやら
地獄
(
ぢごく
)
の
八丁目
(
はつちやうめ
)
らしい。
228
取
(
と
)
つたか
見
(
み
)
たかだ。
229
此
(
この
)
濁流
(
だくりう
)
を
横
(
よこ
)
ぎり、
230
其
(
その
)
勢
(
いきほひ
)
で
地獄
(
ぢごく
)
に
侵入
(
しんにふ
)
し、
231
一
(
ひと
)
つ
脅喝
(
けふかつ
)
的
(
てき
)
手段
(
しゆだん
)
を
弄
(
ろう
)
して
粟散
(
ぞくさん
)
鬼王
(
きわう
)
を
平
(
たひら
)
げ、
232
天晴
(
あつぱれ
)
地獄界
(
ぢごくかい
)
の
勇者
(
ゆうしや
)
となるも
妙
(
めう
)
だ。
233
ヤア
勇
(
いさ
)
ましくなつて
来
(
き
)
た。
234
毒
(
どく
)
を
喰
(
くら
)
へば
皿
(
さら
)
迄
(
まで
)
だ。
235
どうせ
吾々
(
われわれ
)
は
天国
(
てんごく
)
代物
(
しろもの
)
ぢやないからなア。
236
アハヽヽヽ』
237
斯
(
かく
)
両人
(
りやうにん
)
は
河端
(
かはばた
)
に
佇
(
たたず
)
み
泡沫
(
はうまつ
)
の
如
(
ごと
)
き
望
(
のぞ
)
みを
抱
(
いだ
)
いて
雄健
(
をたけ
)
びして
居
(
ゐ
)
る。
238
傍
(
かたはら
)
の
生
(
は
)
へ
茂
(
しげ
)
つた
茅
(
かや
)
の
中
(
なか
)
の
藁小屋
(
わらごや
)
から
239
黒
(
くろ
)
い
痩
(
やせ
)
こけた
怪
(
あや
)
しい
婆
(
ばば
)
が
破
(
やぶ
)
れた
茣蓙
(
ござ
)
を
肩
(
かた
)
にかけ、
240
ガサリガサリと
萱草
(
かやぐさ
)
を
揺
(
ゆす
)
りながら
二人
(
ふたり
)
の
前
(
まへ
)
に
出
(
で
)
て
241
左
(
ひだり
)
の
手
(
て
)
に
榎
(
えのき
)
の
杖
(
つゑ
)
を
携
(
たづさ
)
へた
儘
(
まま
)
、
242
婆
(
ばば
)
『
誰
(
たれ
)
だ
誰
(
たれ
)
だ、
243
あた
矢釜
(
やかま
)
しい。
244
そんな
大
(
おほ
)
きな
声
(
こゑ
)
で
喋
(
しやべ
)
り
散
(
ち
)
らすと、
245
俺
(
おれ
)
の
耳
(
みみ
)
が
蛸
(
たこ
)
になるわい。
246
貴様
(
きさま
)
はどこの
兵六玉
(
ひやうろくだま
)
だ。
247
一寸
(
ちよつと
)
こちらへ
来
(
こ
)
い』
248
カークス『ハヽヽヽヽ。
249
何
(
なん
)
とまア
汚
(
きたな
)
い
婆
(
ばば
)
もあつたものぢやないかい。
250
物
(
もの
)
を
言
(
い
)
ふも
汚
(
けが
)
らはしいわい。
251
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても
天下
(
てんか
)
の
豪傑
(
がうけつ
)
兵六玉
(
ひやうろくだま
)
のカークス
王
(
わう
)
様
(
さま
)
だからなア』
252
婆
(
ばば
)
『ヘン、
253
人
(
ひと
)
の
見
(
み
)
ぬ
所
(
ところ
)
でそつと
猫婆
(
ねこばば
)
を
極
(
き
)
め
込
(
こ
)
み、
254
欲
(
よく
)
な
事
(
こと
)
計
(
ばか
)
り
致
(
いた
)
し、
255
何
(
なに
)
も
彼
(
か
)
も
人
(
ひと
)
の
前
(
まへ
)
にカークス
爺
(
おやぢ
)
だらう。
256
も
一匹
(
いつぴき
)
の
奴
(
やつ
)
は
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
ふ
兵六玉
(
ひやうろくだま
)
だい』
257
ベース『
此
(
この
)
方
(
はう
)
は
失敬
(
しつけい
)
ながら
月
(
つき
)
の
国
(
くに
)
にて
名
(
な
)
も
高
(
たか
)
きベース
様
(
さま
)
だよ』
258
婆
(
ばば
)
『
成程
(
なるほど
)
259
どいつも
此奴
(
こいつ
)
も
人気
(
にんき
)
の
悪
(
わる
)
い
面
(
つら
)
つきだなア。
260
ベースをカークスやうな
其
(
その
)
哀
(
あは
)
れつぽいスタイルは
何
(
なん
)
だ。
261
此処
(
ここ
)
は
三途
(
せうづ
)
の
川
(
かは
)
の
渡船場
(
わたしば
)
だ。
262
サアこれから
貴様
(
きさま
)
の
衣類
(
いるい
)
万端
(
ばんたん
)
剥
(
はぎ
)
取
(
と
)
つてやらう。
263
覚悟
(
かくご
)
を
致
(
いた
)
したがよいぞい。
264
今
(
いま
)
の
先
(
さき
)
、
265
伊太彦
(
いたひこ
)
、
266
ブラヷーダの
若夫婦
(
わかふうふ
)
が
嬉
(
うれ
)
しさうに
手
(
て
)
を
引
(
ひ
)
いて
此所
(
ここ
)
を
通
(
とほ
)
りよつた。
267
さうして
馬鹿面
(
ばかづら
)
をした、
268
何
(
なん
)
でも
兄貴
(
あにき
)
と
見
(
み
)
えるが、
269
アスマガルダと
云
(
い
)
ふ
奴
(
やつ
)
が
270
妹
(
いもうと
)
や
妹
(
いもうと
)
の
婿
(
むこ
)
の
僕
(
しもべ
)
となつて
通
(
とほ
)
りよつたぞや』
271
カークス『
何
(
なに
)
、
272
伊太彦
(
いたひこ
)
さまが
此所
(
ここ
)
を
通
(
とほ
)
られたと
云
(
い
)
ふのか。
273
何
(
なん
)
ぞ
立派
(
りつぱ
)
な
玉
(
たま
)
でも
持
(
も
)
つて
居
(
を
)
られただらうなア』
274
婆
(
ばば
)
『
玉
(
たま
)
は
沢山
(
たくさん
)
持
(
も
)
つて
居
(
を
)
つたよ。
275
粟粒
(
あはつぶ
)
のやうな
小
(
ち
)
つぽけな
肝玉
(
きもだま
)
やら
276
縮
(
ちぢ
)
こまつた
睾丸
(
きんたま
)
やら
277
どん
栗
(
ぐり
)
のやうな
目
(
め
)
の
玉
(
たま
)
やらをぶらさげて、
278
悄気
(
しよげ
)
かへつて
此処
(
ここ
)
を
通
(
とほ
)
りよつた。
279
真裸
(
まつぱだか
)
にしてやらうと
思
(
おも
)
つたが
280
貴様
(
きさま
)
等
(
ら
)
とは
余程
(
よほど
)
御霊
(
みたま
)
がよいので、
281
此
(
この
)
婆
(
ばば
)
も
手
(
て
)
をかける
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
ず、
282
此
(
この
)
萱
(
かや
)
の
中
(
なか
)
に
隠
(
かく
)
れてそつと
見
(
み
)
て
居
(
を
)
つたら、
283
綺麗
(
きれい
)
なナイスに
手
(
て
)
を
引
(
ひ
)
かれ、
284
あの
川
(
かは
)
の
真中
(
まんなか
)
を
通
(
とほ
)
りよつた。
285
大方
(
おほかた
)
天国
(
てんごく
)
へ
往
(
ゆ
)
くのだらう。
286
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
貴様
(
きさま
)
達
(
たち
)
は
此
(
この
)
婆
(
ばば
)
の
手
(
て
)
を
経
(
へ
)
て、
287
三途
(
せうづ
)
の
川
(
かは
)
を
渡
(
わた
)
らずに
一途
(
いちづ
)
の
河
(
かは
)
を
渡
(
わた
)
り、
288
直様
(
すぐさま
)
地獄
(
ぢごく
)
へ
突
(
つ
)
き
落
(
おと
)
される
代物
(
しろもの
)
だ。
289
ても
扨
(
さ
)
ても
憐
(
あは
)
れなものぢやわいのう、
290
オンオンオン』
291
ベース『ヤア
此奴
(
こいつ
)
ア、
292
グヅグヅしては
居
(
を
)
られない。
293
此
(
この
)
婆
(
ばば
)
を
突
(
つ
)
つ
倒
(
こ
)
かして
置
(
お
)
いて
此
(
この
)
河
(
かは
)
を
渡
(
わた
)
り、
294
一
(
ひと
)
つ
地獄
(
ぢごく
)
征服
(
せいふく
)
と
出
(
で
)
かけようか、
295
カークス
来
(
きた
)
れ』
296
と
早
(
はや
)
くも
尻
(
しり
)
引
(
ひ
)
き
捲
(
まく
)
り、
297
濁流
(
だくりう
)
目蒐
(
めが
)
けて
渡
(
わた
)
らうとする。
298
婆
(
ばば
)
は
細
(
ほそ
)
い
痩
(
や
)
せこけた
手
(
て
)
を
出
(
だ
)
して、
299
ベースの
胸座
(
むなぐら
)
を
取
(
と
)
り、
300
三
(
み
)
つ
四
(
よ
)
つ
揺
(
ゆ
)
する。
301
ベース『これや
婆
(
ばば
)
、
302
どうするのだい。
303
失敬
(
しつけい
)
な、
304
人
(
ひと
)
の
胸座
(
むなぐら
)
を
取
(
と
)
りやがつて』
305
婆
(
ばば
)
『
取
(
と
)
らいでかい
取
(
と
)
らいでかい、
306
貴様
(
きさま
)
の
肝玉
(
きもだま
)
を
引
(
ひ
)
き
抜
(
ぬ
)
いてやるのだ。
307
こら
其処
(
そこ
)
な
兵六玉
(
ひやうろくだま
)
、
308
貴様
(
きさま
)
も
同様
(
どうやう
)
だから
待
(
ま
)
つて
居
(
を
)
れ。
309
この
婆
(
ばば
)
が
此所
(
ここ
)
で
荒料理
(
あられうり
)
をして
310
骨
(
ほね
)
も
肉
(
にく
)
も
付
(
つ
)
け
焼
(
やき
)
にして
食
(
く
)
つてやるのだ。
311
大分
(
だいぶん
)
腹
(
はら
)
が
減
(
へ
)
つた
所
(
ところ
)
へよい
餌
(
ゑさ
)
が
来
(
き
)
たものだ』
312
カークスは
後
(
うしろ
)
より
婆
(
ばば
)
の
足
(
あし
)
をグツと
掴
(
つか
)
み
力
(
ちから
)
限
(
かぎ
)
り
突
(
つ
)
けども
押
(
お
)
せども、
313
地
(
ち
)
から
生
(
は
)
えた
岩
(
いは
)
のやうにビクとも
動
(
うご
)
かない。
314
カークス『ヤア
何
(
なん
)
と
腰
(
こし
)
の
強
(
つよ
)
い、
315
強太
(
しぶと
)
い
婆
(
ばば
)
だな』
316
婆
(
ばば
)
『
定
(
きま
)
つた
事
(
こと
)
だよ。
317
俺
(
おれ
)
は
地
(
ち
)
の
底
(
そこ
)
から
生
(
は
)
えたお
岩
(
いは
)
と
云
(
い
)
ふ
幽霊婆
(
いうれいばば
)
だ。
318
兵六玉
(
ひやうろくだま
)
の
十匹
(
じつぴき
)
や
二十匹
(
にじつぴき
)
集
(
た
)
かつて
来
(
き
)
た
所
(
ところ
)
で
319
ビクとも
動
(
うご
)
くものかい』
320
ベース『こら
婆
(
ば
)
アさま、
321
放
(
はな
)
さぬかい。
322
俺
(
おれ
)
の
息
(
いき
)
が
切
(
き
)
れるぢやないか』
323
婆
(
ばば
)
『
定
(
き
)
まつた
事
(
こと
)
だい。
324
息
(
いき
)
の
切
(
き
)
れるやうに
掴
(
つか
)
んで
居
(
ゐ
)
るのだ。
325
息
(
いき
)
を
切
(
き
)
らして
軍鶏
(
しやも
)
を
叩
(
たた
)
くやうに
叩
(
たた
)
きつぶし、
326
砂
(
すな
)
にまぶし、
327
肉団子
(
にくだんご
)
をこしらへて
食
(
く
)
つて
仕舞
(
しま
)
ふのだ。
328
こうなつたら
貴様
(
きさま
)
達
(
たち
)
ももう
娑婆
(
しやば
)
の
年貢
(
ねんぐ
)
の
納
(
をさ
)
め
時
(
どき
)
だ。
329
潔
(
いさぎよ
)
う
覚悟
(
かくご
)
をして
居
(
ゐ
)
るがよい』
330
二人
(
ふたり
)
は
進退
(
しんたい
)
谷
(
きは
)
まり、
331
如何
(
いかが
)
はせむかと
案
(
あん
)
じ
煩
(
わづら
)
ふ
折柄
(
をりから
)
、
332
遥
(
はる
)
か
後
(
うしろ
)
の
方
(
はう
)
から、
333
宣伝歌
(
せんでんか
)
が
聞
(
きこ
)
えて
来
(
き
)
た。
334
ハツと
思
(
おも
)
ふ
途端
(
とたん
)
、
335
今
(
いま
)
迄
(
まで
)
婆
(
ばば
)
と
見
(
み
)
えたのは
河
(
かは
)
の
傍
(
かたはら
)
の
巨巌
(
きよがん
)
であつた。
336
川
(
かは
)
と
見
(
み
)
えたのは
果
(
はて
)
しも
知
(
し
)
られぬ
薄原
(
すすきばら
)
で、
337
其
(
その
)
薄
(
すすき
)
の
穂
(
ほ
)
が
風
(
かぜ
)
に
揺
(
ゆ
)
られて
水
(
みづ
)
と
見
(
み
)
えて
居
(
を
)
つたのであつた。
338
(
大正一二・五・二四
旧四・九
於教主殿
加藤明子
録)
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